昼過ぎの台所は、賑やかで明るい声に溢れていた。
「桐、それ何の形なの?」
「ビスケットー!」
えへへ、と満面の笑みで手に持ったものを薄蛍に見せる桐。釣られて薄蛍も笑ってしまう。
「今作ってるのビスケットじゃないのよ」
「賑やかだな」
台所から聞こえる声が気になって、のぞき込んできたのは利剱だった。
「あー利剱だー」
わーいと声を上げて、利剱に桐と桜は駆け寄る。
「こら、桐、桜!」
「構わないが」
「でもズボンが……」
利剱のスボンには、可愛らしい白い手形がうっすらとついている。
「今、パンを作っていたので」
「ああ、その粉か」
台所にある台の上は、見事に粉まみれで様々な形のパンが並んでいた。
「遊び感覚で作れると聞いたので作っていたのですが」
「りけんー、泥遊びしてたのー」
「そうか。楽しかったか?」
『うんっ!』
利剱の問いかけに、二人は満面の笑みで答えた。妖人であっても、幼子なのだと実感できる。無邪気で無垢だ。
「利剱様、お着替えは……それともお風呂にしますか?」
「もう沸いているのか」
「はい。桐と桜が粉まみれになると思いましたので、今日は早めに準備をしたんです」
「では俺も入るとするか」
「りけんも一緒に入るのー?」
きゃーと嬉しそうに騒ぎ始める桐と桜に、薄蛍は慌てた。
「利剱様」
「俺も汚れたことだしな」
言われて、利剱を見渡すと、小麦粉の粉はズボン以外の場所にも付着していて、利剱の顔を触ったのか、肌にも粉がついていた。
「ただまだ時間が時間だ。櫛松さんに伝言は頼めるか?」
「あ、はいっ。お着替えは」
「風呂上がりのいつもの服で頼む」
「わかりました」
賑やかにしゃべる桐と桜を連れて、利剱は台所を去っていった。一人残されて、薄蛍は簡単に台所を片づけ終えて、櫛松の元へと走るのだった。
誰もいなくなった台所に、ふふふと笑いながら足を踏み入れたのは鬼灯と雪洞だった。
「磨きがかかってますわね、雪洞」
「そうね、仲がよくてまるで新婚さんですわね、鬼灯」
「そうだね」
突然背後から聞こえた声に、二人は驚いて振り返ると、そこには櫛松の姿があった。
「さきほど薄蛍が櫛松のところに行ったはずですのに」
「あァそこで会ったよ」
慌てながらも嬉しそうに走っていく薄蛍。
いつかは巣立っていくとはわかっていても。
娘が成長していくかのように感じてしまう櫛松だった。
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おとめ妖怪ざくろ、利剱×薄蛍。この二人の夫婦っぷりに惚れた……! 初書きでございます。(2010/11up)