鉄の音が響く
すでに体の自由はきかない
放り出された手足はもはや所有物ではなく
流れる血は熱を失い
脳は痛みを拒み、思考を止め
ただ増える鉄の音を数える
怒声と罵声と笑い声が鉄の音を数えるのに耳障りだと感じ、まだ生きている事を実感するが其処に希望など無く
彼は鉄の音を数える
「市場の残骸」
今日も市場は溢れんばかりの人と熱気で盛り上がっていて、人種は多種に渡り人間と亜人の差別もこの国ではあまり見られない。
流通王都カルティア。海で囲まれた世界唯一の中立地帯であり一大貿易国家である。
この世界は大きく分けて西と東で永きに渡り対立を深めているが境界線の中心に位置するカルティアに限り東西で協定が結ばれている。
小さい騒ぎなど日常茶飯事ではあるが、それでも規律は守られているため、戦いを好まぬ人々はカルティアを好んで生業の基点とし生活している。
東西の物流も行われており、表面上は友好の証として大いに活躍している国である。
カルティアの薄暗い路地で少女と青年が座っている
栗毛のショートカットで小奇麗な服を着ている少女が口を開いた
「おなか減ったね」
そう栗毛の少女が呟く
「ごめん、お金無い」
答える青年は灰色がかった髪によれた服を着ていた
「そうさね、まず会話を成立させる努力をしてほしいな」
少女は青年を睨むわけでもなくただ目線を映した、青年は下を向きながら「ふっ」と言い笑う
「無いから僕はお腹を満たす事は出来ない、働かざる者食うべからずって言うんだよ」
「あんたは働いてるし食ってもいいんだよ。まぁほぼ日雇いなわけだけど」
「女性が雇用主ってなんかね、ヒモみたいじゃないかな?別に用心棒してるって言ったって酒飲んで騒ぎがあるのを待つだけじゃないか」
マリと呼ばれた少女は溜息を漏らしお金を彼の前に置く
「いいから受け取りなさいよ。正当報酬だって言ってるじゃない」
少年はマリの顔を見ると直ぐに「わかった」と言い懐にお金を仕舞う。ずいぶんと折れるのが早いが何時もの事なのでマリも「んっ」といってそれを見届けた後に今日はどの店に行こうか等と考えはじめる。
「何食べたい?」
「マリの好きなように」
「毎回それねしかし。君は食べたい物がないのかしら?」
「じゃあ……パン」
それはどこの飯屋でもでるわっと心で舌打ちをするとマリは直ぐに町の飯屋を考え出す、しかしすでに空腹なので取り合えず一番近い酒場にする事にした。
「ほら、いくよ」
「うん、付いて行くよ」
マリは青年のこの喋り方が苦手だ。全ての決定を私に任せて文句の一つも出てこない。かと言ってそれに甘えて我が侭や意地の悪い事をするほどマリは子供ではないが、やはり釈然としない。
「まぁいいけどさ」
「でしょ」
マリの言葉を理解しきれてしない青年は再び相槌を打つ
「その汚い服を変えるつもりはあるの?」
「今すぐにでも」
お金は無いけどと付け加えられた。一応汚い服と言う認識はあるのだかいまいち彼は服に頓着が無いように感じられる。着れればいいじゃんみたいな。
あたしが買ってあげようかなと考えたが買い与えると癖になりそうなのでやめて置いた。
ちなみに彼は本当は月給制なのだが、この男は見事に金銭感覚が麻痺していて初めての給料を2週間で使ってしまったりと何かと心配なので毎日少しずつ給料を渡す事にしている。
この二人の関係は特に艶やかな関係と言うわけではなく、昔馴染みと言った訳でもなければ恋人でもない。
今から3ヵ月ほど前に誘拐され、連れて行かれたテントにたまたま通りかかった青年がマリを助けた後に危ないからと言って町まで一緒に帰ってきた時にボディーガードとして契約したのが始まりだった。
はじめの方は青年は「結構安全な町でボディーガードなんてねぇ」「それに女の子にお給料もらうなんてなあ」と断り続けたが、マリはその青年を逃すまいと必死に説得し今に至った。ちなみに給料はちょっと安いが宿付き(マリと全共同)であり、労働時間はマリが活動中護衛で行動を共にすることが職務なのでキツイ仕事ではあるが其処はお互いの了承しあっている。
店に着くと「水とパンだけ先に出して」と席を探す間に注文し、マリは奥のほうの席をえらんだ。これは青年の中では何時もの事であり、水とパンを先に注文、奥の席と言うのが彼女の癖のようなものである。合理的だなぁと関心すると同時に奥に席が無い場合は物凄く不機嫌になるので恐ろしい物でもある。
「なににしようかしらね」
「僕はキャベツスープ」
キャベツスープとはお湯にキャベツを入れ塩、胡椒で味付けしたこの世界で馴染みの食べ物で基本的に他の具は入っていないのでとても安いので低賃金の労働者の友である。
「安いからってキャベツスープばっかり頼んでないで偶には他のを頼みなさいよ」
「今日は服買うからそれでいいんだ」
パンと合うから十分だと言って彼はもうメニューに目もくれていない
「キャベツスープ何日目?」
「ここ最近それとパン以外を口にした覚えは森でひろった木の実くらいかな」
他の奢ってあげようか?いらない。などとありふれた話をしながら昼食をとり終えた所で店をでた。
「今日も繁盛するといいな」
「マリのお客さんいい人ばかりだから好きだ。」
「君のお客さんでもある」
マリは父親が始めた小洒落た酒屋のオーナーだ。訳あってマリの父は居ないので今はマリがオーナーとして働いている。
カルティアの町では女性が飲食店で働く事は珍しいことでもあり、それなりに整った顔立ちのマリが看板として店を構えている事もあって連日連夜大盛況と言うわけにはいかないが、従業員(オーナーとウェイトレスと用心棒)を食べさせる事ができる位の人気はあった。
「僕は……別に好かれてるわけじゃないよ」
「そうかい?草食系っていうんだろ、あんたみたいのをさ。最近じゃ弱々しいのがお好みの女の子が増えてるらしいじゃないか。」
しかも腕もたつだろっと褒めちぎってみるが特にその事に興味が無いのか彼は新しい服を買うための算段を立てていた。
「うーん。同じのでいいか。」
「まぁ小奇麗にね。今日は店代は無料でいいから良い服かいなよ。」
無料はなぁ……と愚痴りながら彼らは分かれた
店の準備しなきゃとマリは働く気持ちへと自分を高めていく。
「(そういえば、彼の違う服を見るのは初めてだな)」
とすこしの楽しみもあり彼女は帰路へついた。
バーレイク、それが彼女の店の名前だった。
『Welcome to the barlaque』と書かれた店構えの奥に薄暗い店内に広めのバーカウンターとテーブルが4セットほどの大きさの店である。
基本的につまみ以外の食事は出さず、酒で客を回す為に(煽るために)バーカウンターでマリが会話しながら酒を飲ませると言うシステムである。
目当てのマリとの会話を楽しみつつ酒を飲ませる。要はマリも商品として出しているわけで、客同士のトラブルもある意味バーレイクの楽しみの一つである。
最近では青年目当ての客もいる為(少数だが)満卓になるのも珍しくはなくなった。
「あ、店長おかえりなさい。一人なんですか?」
声をかけてきたのは開店時からいるウェイトレスで名前はリンと言い亜人の女の子である。
「ただいま。あのこは服買いに行ったから後でくるわ。それより店の準備全部してくれたんだ」
「はい、暇でしたのでやっちゃいました」
「うら若き乙女がこんな所で油売ってないでデートの一つでもしてくればいいのに」
「いいんです。私このお店好きですし。」
マリはこのよく働くリンの事をとても好いていた。性格はよく仕事もするし残業早出もお手の物。アタシが男だったらほっとか無いだろうなぁと考えているがリン本人にそんな気がないんだからしょうがない。青春のやり場をバーレイクに決めたのならばこちらも雇用主として精一杯の歓迎をしたいとマリも考えている。
「じゃあアイツ来たら店あけましょうか」
「はい」
と満面の笑顔で答えるリンをみると今日も頑張ろうと思うマリであった。
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登場人物が右往左往する小説です
大体酒場経営の話と主人公とお話になるとおもいます