No.337728

真・恋姫無双~君を忘れない~ 六十七話

マスターさん

第六十七話の投稿です。
南蛮での戦に勝利することが出来た一刀たち。祝融の美以たちへの想いを聞きながら、彼女に罰を下さないといけなくなったのだが、彼はどのような結論を出すのか……。
今回でやっとのことで南蛮編は集結です。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2011-11-21 23:57:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7388   閲覧ユーザー数:5574

一刀視点

 

 南蛮での戦は終結した。祝融が俺たちに全面的に降伏することを宣言し、南蛮の地は益州の一部として扱うことになったのだが、基本的には祝融たちに自治権を与えると共に、南蛮の発展を目指すために、積極的に俺たちに協力することを約束してくれた。

 

 南蛮の地における生産量を後日詳しく測定し、人口や部族数なども加味した上で、的確な量を税として俺たちに献上するということに決まり、速やかに永安に戻りその準備をしようと思ったのだけど、桔梗さんの提案で、益州と南蛮の友好関係を築くために、ここで祝宴を開くことになった。

 

 勿論、桔梗さんのことだから、民族が違う俺たちにとって、直接盃を交わし合って触れ合うことが、理解し合うためには一番てっとり早い方法だとは主張していたが、本音はきっと南蛮にある普段飲めないような珍しい酒が目当てだったのだろう。

 

 だがしかし、桔梗さんの言うことにも一理あったので、永安にいる詠に伝令を出して、南蛮への調査団の組織を依頼した上で、益州全土で南蛮への差別の撤廃の風潮を、長期的な観点から民に流すように伝えた。

 

「はぁっ!? そんなことを気軽く言わないでよっ! どれだけそれが難しいか分かってんのっ!?」

 

 と詠の罵声を聞くことになるのは、容易に想像できるのだけれど――実際のところ、それを実現するには相当骨が折れることも分かっているし、詠たち文官にはまたしても迷惑をかけると思ったが、それでも益州と南蛮との関係を考えたら、それは必要だと思う。

 

 永安に帰ってから待っているであろう詠の延々と続く説教のことを思うと、非常に憂鬱な気持ちになるのだけれど、とりあえず俺も南蛮の民と触れ合うために宴を楽しもうと決めたのだ。

 

 美以たちの――これは孟獲の真名であり、降伏の際に預けられたのだが、彼女たちの案内の許、大勢の人間が騒げるような広場に行き、そこで皆が好きなように酒を飲んでいた。

 

 やはり今まで戦っていた相手なのだから、最初はお互いが警戒し合っていたが、将たちが自ら南蛮の人間に酒を注いだり、また、南蛮の地酒が、アルコール度数が強く、すぐに酔いが回ったことが功を奏し、いつの間にか肩を回して歌い合い笑い合うなど、仲良く騒いでいる。

 

 俺もそんな輪の中に最初は入っていたのだけれど、祝融の瞳術が影響しているのか、少しばかり疲れてしまって、一度避難した。すると、ここぞとばかりに桜が俺の膝の上に陣取り、ゆったりと酒を飲み始めた。

 

「ここ、いいかい?」

 

「え? あぁ、大丈夫だよ」

 

 さらに俺の横に祝融が座った。

 

 祝融は確かに悪い人間ではないと思う。南蛮のため――美以たちのために戦おうとしていたのだから、俺はそれを責めたくはなかったが、彼女はそれでもかつて桜を劉焉の操り人形にした張本人である。そんな彼女を俺が許したということに、桜がどのように感じているのか気になり、そっと桜の顔色を窺ってみた。

 

「ふん、そんなに心配せずとも、余は気にしておらぬわ」

 

「……ばれた?」

 

「当たり前じゃ。余を誰だと思っている。お前様の正妻じゃぞ。お前様が何を思っておるかなんて、顔を見ればすぐに分かるのじゃ」

 

「そうか」

 

 思わず苦笑しながら、肩を竦めながら、今度は祝融の方を見た。彼女は酒が強いのか、それともあまり飲んでいないのか、顔色は普段と変わらず、俺と桜を交互に見つめていると、ふっと軽く嘆息した。

 

「いいのかい? あたしはあんたの宿敵のはずだろう? この男はあたしを許すと言ったが、あんたがあたしを殺したいと思うのなら、あたしはそれを受け入れるよ」

 

「だから、気にしておらぬと言っておるじゃろうが。そんなに死にたいと言うのなら、考えてやらんでも――痛っ! お、お前様っ! 何をするのじゃっ!」

 

「全く、子供がそんな物騒なことを言っちゃ駄目だろ。お父さんは悲しいぞ」

 

「じゃから、子供でもないし、余はお前様の妻じゃと……。まぁ良いわ。とにかく、余は旦那様が許すと言ったのならば、同じように許すのじゃ。それに、余は最初からお主のことなどそこまで憎んでおらんかったぞ」

 

「そうなのかい?」

 

「そうじゃ。確かに余を術に嵌めたのはお主じゃが、術に嵌まったのは余の弱さ故じゃ。我が旦那様のように心が強くあれば、そんなことにもならんかったからの。余が憎むのは、常に余の弱さだけじゃ」

 

「そうかい。それは幼いのに、気丈なことだね」

 

 そう言って、胸を撫で下ろしたような表情を浮かべて桜の頭を撫でる祝融に対して、余は子供ではない、と抗議していたが、祝融の手が心地良いのか、顔を赤らめながらもそれを享受している。

 

「だが、余としてはお前様の方が気になるのじゃ。確かお前様は余を泣かせた祝融を許さないと言っていたが、どうして急に許す気になったんじゃ?」

 

「それはあたしも気になるね。あのとき、あたしは死を覚悟していた。しかし、あんたはそんなあたしを殺さずに、生かした。あたしたちへの差別もあるのだろうが、それ以外にも何か理由はあるのかい?」

 

「あぁ、そのことか。それはね――」

 

 俺は目を細めて、少し離れた場所で蜀の将たちに囲まれて、存分に可愛がられている四人の少女たちを見遣った。桜同様に、口ではいろいろと文句を言っているが、ぎゅっと抱き締められると、ふにゃっと表情を崩している。

 

「幼い娘を守ろうとする人間に、悪い奴はいないからだよ」

 

 

「あははははっ!」

 

 俺の理由を聞いて、祝融は腹を抱えて大笑いした。膝をばんばんと叩きながら、しばらく笑い続けると、瞳から滲み出る涙を指で掬いながら、息苦しそうに喘ぎ、何か口にしようとするが、笑いを堪えきれないといった様子で、噴き出していた。

 

「そ、そんなに笑わなくても……」

 

「それは仕方ないだろう。余など笑うを通り越して呆れ果てたわい」

 

「そんなに変な理由かな?」

 

「変じゃ」

 

「変だ」

 

 二人で見事にはもって言われてしまった。俺としては、この理論は間違いないんだけどな。実際にところ、俺だって桜や璃々ちゃんを守るためなら、何だってするだろうし、もしかしたら、悪事にだって手を染めるかもしれない。

 

「だが、いいのかい? そんなことであたしを許してしまって。仮にあたしはあんたに叛旗を翻した南蛮族を指揮した女だよ。何か罰を与えるべきだと思う」

 

「だけど――」

 

「これはあたしの願望ではなく、対外的に考えて得た、客観的な意見だよ。あんたたちは構わないかもしれないけど、あんたたちの国の民や官吏たちは納得しないだろう」

 

 祝融は俺の発言を遮って付け加えた。その表情は真面目なものであった。確かに俺自身は、最初からこの国の人間でも、この時代の人間でもないから、部族への差別に自然と批判的な立場にあったが、他の人間はそうじゃない。

 

 南蛮族の反乱に対して、仮にその原因が俺たち大陸側の人間にあっても、何の罰も与えないのでは、彼女たちへの厚遇とも捉えられかねない。

 

 そうなれば、俺が理想とする南蛮との国交も築き上げることは不可能になる。誰もが納得した上で、これを行わないと意味がない。最悪の場合、国内で分裂状態に陥ってしまうかもしれない。

 

「それはそうだけど」

 

「あたしはさっきも言ったけど、構わないよ。あんたがあたしにどんな罰を与えようとも、それを喜んで受け入れるさ」

 

「……分かった。じゃあ、その胸を寄こせ」

 

「え?」

 

「聞こえなかったのか? そこにぶら下げたでかい胸だ。俺はずっとそれを揉んで、吸って、捏ねくり回したいと思っていたんだ。それを俺に堪能させろ」

 

「そ、そんな……。だけど、あたしに二言はないよ。あんたがそれを望むなら、あたしは……」

 

「げっへっへっへ、それじゃ存分に――あ痛っ!」

 

「こら、向日葵っ! 人の声音を真似して、何をとんでもないことを言ってんだっ!」

 

「だってだって、お兄様。私が桔梗様にお仕置きされているときに、お兄様は私を助けてくれなかったじゃないですか。それに桜はあの後、お兄様と良い雰囲気になっていたのに、私はそれから出番なしですよっ! せっかく颯爽と登場したというのに、あんまりじゃないですかっ!」

 

 いや、そんなことを俺に言われてもな。あんなにはっちゃけた後に戦闘シーンでも活躍するとか、そっちの方が贅沢というものだろうが。それに誰もいなかったはずの、俺の天幕の中でのことを、どうしてお前が知っているんだよ。

 

「ま、まぁ、それは置いておいて、お前そんなに声帯模写が上手かったのか?」

 

「ふっふっふっふ。これが向日葵の真の力ですよ、お兄様。これで何度翠様を騙したことか。例えば、『桜、どうしてくれるんだよ? 俺はもうお前のその幼い身体にしか興奮しなくなっちまったよ。ほら、もうこんなに……』どうです? 似てるでしょ?」

 

「す、すげぇ」

 

 そっくりってレベルじゃねーぞ。完全に俺の声と同じじゃないか。録音した自分の声を聞いているとしか思えないし、ものすごく気持ち悪いな。

 

「お……」

 

「ん? どうした、桜?」

 

「お前様ぁぁぁぁっ! 余も既に準備は万全じゃ――ぶぎゃっ!」

 

「落ち着けっ! 今のは俺じゃないっ!」

 

 俺に飛びかかろうとする桜の頭を、俺の胸に押し付けて落ち着かせる。

 

「うぅ……。しかし、そっくりじゃの」

 

「あぁっ! 桜、どうしてお前はそんなに可愛いんだ。その平坦な胸、華奢な身体、あどけない表情、全てが俺を誘っているようだ。もう……、俺の御遣い様も我慢の限界だぁっ!」

 

「お前様ぁぁぁぁっ!」

 

「やめんかいっ!」

 

 全く、どうしてこう俺をロリコン扱いしようとするんだ。誤解を招かないように言っておくが、俺は決して幼い少女だけが好みではないんだ。

 

「それにしても、似ておるの。ふむ……、向日葵よ、少々頼みごとがあるんじゃが、しばらく面を貸してくれんかの?」

 

「……何やら面白そうな匂いがしますね。いいでしょう。お話を伺わせて頂きます」

 

 にやにやと不穏な表情を浮かべながら、桜と向日葵の幼女二人組は暗闇の中へと消えていった。あの幼い顔に、俺の背筋を凍りつかせるような表情が浮かばせるとは、本当に末恐ろしい幼女だな。

 

「本当にあんたらは楽しい連中だね」

 

 そんなやりとりを祝融はきょとんとしながら見つめて、呆れたようにそう言った。せっかく真面目に人が益州の将来について考えていたというのに、あの幼女たちはいつもシリアスな雰囲気をぶち壊すのだから、困ったものだ。

 

 

「酔いも回ってきただろう? 少しそこら辺を歩かないかい?」

 

 祝融の提案で、俺たちは宴会場となっている広場を後にして、二人で散歩と洒落こむことにした。宴会場を出ようとしたとき、ふと気になって、孟獲たちは何をしているんだろうと、気になってそっと周囲を見回してみた。

 

「にゃぁ……、みぃは死んでもいいのにゃ」

 

 美以は相変わらず紫苑さんと桔梗さんの胸がお気に入りのようで、二人の胸を――合計四つの巨乳を枕代わりにしながらご満悦の様子だ。二人は諦めたように、美以の為すがままにしている。

 

「ですから、貧乳はですね、この世のありとあらゆる理がですね……。ちょっと、聞いているんですか? もう一度最初から説明しますね……」

 

「朱里は怖いのにゃー」

 

「こーめーはしつこいにゃのにゃー」

 

「……ふぁぁ」

 

「いや、そうじゃなくてですね。私はですね、皆さんに貧乳の価値をですね……」

 

 どうやら朱里がミケとトラとシャムに、如何に貧乳が優れているかということを洗脳――いや、教育しているようだが、三人は耳にタコといった感じで、シャムに関しては半分寝ていた。

 

「本当に楽しそうで良かったよ」

 

 祝融がそんな四人を見ながら、嬉しそうに柔和な微笑みを浮かべた。本当に心から四人のことを大切に想っているんだろう。そうでなくては、他人のためにこんなに出来る人なんているわけが――いや、もしかしたら。

 

「祝融、一つ尋ねてもいいか?」

 

 宴会場を後にして、密林が茂るところを歩きながら、俺は思い切って自分が抱いていた疑問を彼女にぶつけることにした。

 

「何だい?」

 

「お前は美以の母親なんじゃ――」

 

「違うよ。あたしは先代の大王からあの娘たちを頼まれただけさ。そうじゃなくちゃ、あそこまであの娘たちに肩入れなんかしないよ」

 

「そうなのか……?」

 

 祝融が美以たちを見つめる視線を俺はどこかで見たことがある気がしたのだ。それを先ほど思い出した。それは紫苑さんが璃々ちゃんを優しそうに見つめているときと類似していたのだ。母親が子供を慈しむような感情を、俺は祝融の瞳から感じ取ったのだ。

 

「それにね――」

 

 祝融は何だか深い悲しみを背負ったかのような、何とも言えない寂しそうな笑みを浮かべながら言った。

 

「あの娘の母親は酷い女だったよ。生まれたばかりあの娘たちを置いて、たった一人で成都に行ってしまって、ずっと長い間あの娘たちを放っておいたんだ。そんなやつは母親なんかじゃないよ」

 

「え? それって――」

 

「さ、その話は終わりだよ。あんたの言うことを一つ聞いたんだ。今度はあたしがあんたに一つ頼みごとをしてもいいかい?」

 

「う、うん」

 

「大王を――美以たちをお前たちと一緒に益州に連れて行ってくれないか?」

 

「俺は構わないが、お前はいいのか? あそこまで四人を守るって言っていたのに」

 

「いいんだよ。あんたたちと一緒にいても、あの娘の安全は守られるだろう?」

 

「それは勿論、保障するけど」

 

「美以には、いずれ自分の手でこの南蛮を治めて欲しいんだ。そのためには、お前たちと行動を共にした方が、よっぽど視野が広がって、為政者としての姿勢も学べるだろう。だから、お前からよく学んで欲しんだ」

 

 祝融はまっすぐ俺の瞳を見ながらそう言った。切れ長の緑色の瞳は、初めて出会ったときのように好戦的な色は湛えておらず、悲しみに満ちていた。

 

 祝融が成都からここに戻ってきてから、まだそれほど時間も経っているわけではない。ずっと美以たち会いたいと思っていただろうし、少しでも長く側にいたいと思っているに違いない。

 

 そんな美以たち別れるんだ――いずれ美以たちがここに戻ってきて、自分で統治するといっても、それは当分先の話だろう。まだ美以たちではここを治めることは出来ないだろう。また長い間離ればなれになってしまうんだ、寂しくないはずがない。

 

 だけど、祝融は美以たちのことを一番に想っているからこそ、こんなことを俺にお願いしているんだ。それが美以たちにとって――彼女たちの将来を考えて、自分に気持ちを噛み殺しているんだ。

 

「……分かった。美以たちは俺が祝融の代わりに守るよ。それだけは約束する」

 

「ありがとう」

 

 風が南蛮の色とりどりの毒々しい花々を凪いだ。昼間はあれだけ日差しが強く、多湿で蒸し熱いというのに、夜は予想以上に過ごしやすかった。だけど、その風の囁く音が、祝融の悲しみを現しているようで、何だかとても寂しい気がした。

 

「あたしのことは気にしなくていい。それに話の途中だったけど、あたしへの罰も考えておくんだよ。それが益州を治める者の義務というものだろう?」

 

「ああ」

 

「分かっているならいいんだ。あたしはもう充分に、あの娘たちの側にいることが出来た。それに先代大王との約束も果たせそうだしね。もう満足しているんだ」

 

 最後にもう一度だけ悲しそうな笑みを浮かべると、祝融は踵を返した。後ろ手で手を振りながら、別れを告げた。その背中には俺たちに敗北したとき同様に、死を悟ったような覚悟が見えた。

 

 

 翌朝、俺たちは南蛮を去るべく出発の準備を整えると、祝融たちを呼び出した。そこで、俺は彼女に対する罰を言わなければならないのだ。あの後、朱里と紫苑さん、桔梗さんに祝融との会話を話して、罰を与えるべきかを話し合った。

 

「確かに罰は与えた方が他の者たちへの示すになるとは思うの」

 

「そうですね。温情を与えるにしては、何もしないというのはあまりにも度が過ぎていると思います」

 

 桔梗さんと朱里はそれに同意した。確かに祝融に罰を与えるというのは正当性のある話だ。反乱を犯した者は打ち首にしたって当たり前の話であるし、仮にそれを免れてもそれ相応の罰は与えられる。

 

「だけど、御主人様は彼女を許して差し上げたいと思っているのですよね?」

 

「はい。朱里、何か良い考えはないかな?」

 

「そうですね……」

 

 朱里は腕を組んで考え込んだ。彼女たちに危害を加えることなく、そして、この場にいない誰もが納得できるような罰なんて、そうあるわけではない――いや、そんなものがあるわけないんだ。

 

「あっ! それならばこんなのはどうでしょう?」

 

 朱里は何か妙案を思いついたようで、俺たちにそれを説明してくれた。

 

 そんなわけで、俺たちは南蛮軍全員が見守る中、祝融に対していた。

 

 彼女は神妙な面持ちで俺たちの前に胡坐を掻いている。どんな罰をも受け入れると言っていたけれど、それは本当のようだ。もしも、俺が処刑と言い渡せば、謹んで死を迎えるといった表情だ。

 

「祝融、南蛮において反乱を起こした罪を言い渡す」

 

「はっ」

 

「天御遣いに刃向かった罪、南蛮王孟獲の身を人質として俺たちが預かることにする。もしも、再び俺たちに反意を抱くようであれば、その身の安全は保証しない。以上を祝融に対する罪とする」

 

「な……? それは昨日あたしが――」

 

「これは決定事項であり、どんなに抗ったところで無駄だ。これからは心を入れ替えて、南蛮を発展させるように努めるように」

 

 それが朱里の提案した罰であった。

 

 祝融が俺たちに美以を任せたことは、俺とそれを話した朱里たちしか知らない。従って、それを逆手に取ったものだ。南蛮王自らが人質として俺たちの許に拘留されるとなれば、誰もが納得してくれるだろう。

 

 勿論、拘留といっても形だけのものに過ぎず、祝融との約束通り美以たちは俺が責任をもって守るし、南蛮を自分たちで治められるように勉強もさせるつもりだ。俺達には詠をはじめとした優秀な講師陣が揃っているのだから。

 

 まあこんなことを考えついた朱里には頭が上がらないな。さすがは策士と言われるだけはある。そんなことを思いつつ彼女をの方を見ると、えへんと胸を張っていた。

 

「祝融、何か申したいことはあるか?」

 

「……いいえ。この祝融、大王のためにも一層力を入れて、御遣い様のために南蛮を栄えさせてみせます」

 

「よし」

 

 こうして俺たちは祝融に罪を与えたことになり、そして、祝融の望みも叶えたことになった。俺は頭を垂れている祝融に近づくと、そっと、これで何の問題もないな、と声をかけた。

 

「あぁ。ありがとう。あんたたちが益州を治めていることに感謝する」

 

 祝融は涙ながらにそう言った。

 

 俺たちは南蛮を発った。ようやくこれで後顧の憂いを断つことが出来ただろう。南蛮との国交も以前にもまして盛んになるだろうし、落ち着いたら南蛮兵たちを対曹操さんに向けて援軍として送ると約束してくれた。

 

 永安への帰途、美以たちは初めて南蛮から外へ出るようで、密林地帯を抜けてからは物珍しそうに周囲をきょろきょろと見回しては驚嘆の声を発していた。

 

 美以は馬に乗る俺の胸にしがみ付いて、トラとミケは俺の首と腰に抱きついて、シャムはというと俺の膝の上で丸まって、くぅくぅと可愛く寝息を立てている。一頭の馬に五人で乗るという危険極まりない行為をしているのだが、四人は降りようとしてくれない。

 

「兄、永安はおいしいものがいっぱいあるのにゃ? みぃはそれを全部食べてもいいのにゃ?」

 

「ああ。いいよ。その代わり、しっかり勉強もするんだぞ」

 

「分かっているのにゃ。みぃは大王だから、しっかりべんきょーするのにゃ」

 

「本当に分かっているのやら」

 

 すっかり俺たちとも馴染んだ美以たちには、きちんと祝融の気持ちを伝えてある。別れるとき、寂しそうに何度も祝融と抱き合っていたが、別に今生の別れというわけではない。視察と銘打って、これからも何度か美以たち南蛮を訪れることも出来る。

 

「むぅ……。あそこは余の特等席だというのに」

 

「またしても、私と被る人材が現れましたか。これは早々に手を打たなければなりませんね」

 

 俺の後ろでは悔しそうに唇を噛み締めている桜と向日葵が一緒に馬に乗っている。この二人と美以たちを近づけたら、きっと碌なことにならないだろうから、気をつけないといけないな。

 

 とりあえず、俺たちは南蛮の地を制圧することが出来た――犠牲は出してしまったが、かなり理想的な形で決着をつけることが出来ただろう。

 

 これからは本格的に曹操さんとも争うことになるだろうし、俺も気を引き締めて行かなくてはいけないな。そう思いながら、俺たちは家に帰るのだった。

 

あとがき

 

 第六十七話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、これにて南蛮編は完結となります。荊州激闘編に比べれば、少し短いものではありましたが、作者的にはとても長く感じました。

 

 あれに比べると支援数も少なく、作者としても読者の皆様に満足して頂いているのか非常に不安で、投稿は早く出来ましたが、意外にも難産でした。

 

 言い訳したいことは山ほどあるのですが、そんなことしても仕方ないので、それは置いておいて、とりあえずはこれでお終いにします。

 

 今回の話ですが、南蛮編はコミカルな描写に始まったので、最後も多少はコミカルに締めてみました。ここで分かった事実、向日葵はコミカル要因として非常に重宝出来る存在だと分かりました。

 

 番外編では、翡翠さんとの約束を守るために寡兵で曹操軍に向かうという勇敢な彼女でしたが、どうも本編ではこんな役ばかりになってしまいますね。

 

 まぁいずれ西涼勢が活躍するときには、向日葵にも西涼を代表する幼女として、その力を如何なく発揮してもらうことにしましょう。

 

 さてさて、前回あとがきにて述べた祝融に対する罪ですが、このような形で収めさせて頂きました。大王である美以自体が人質となるならば、実際の当時の罪として適格かどうかは分かりませんが、この外史ではOKとさせて頂きます。

 

 そして、二話くらい前に質問した幼女好きに悪人はいない理論は、一刀くんが祝融を許す理由として使い、誤解がないように幼女を守る人間に悪人はいないと変更してお届けしました。

 

 そんなわけで、一刀くんたちは無事に永安へと帰還することになりました。

 

 しかし、一刀くんを囲う幼女ハーレムは、桜と美羽に美以と愉快な猫娘たちも加わることになり、実に羨ましいことになりました。

 

 さてさてさて、次回からは少しばかり息抜きに日常編でも書こうかなと思っております。以前要望のあった麗羽様をはじめとした将たちとの拠点も書かなくてはいけないのが、イチャラブ話に定評のない作者にとっては、非常に苦しいことではありますが。

 

 それからは雪蓮たちとのお話。それが書けなくて時間稼ぎのために順番を入れ替えて、先に南蛮編を書いたというのに、全くそれを忘れていたという罠。

 

 では、今回はここらで筆を置かせて頂きます。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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