No.337658

ノラゲキ!

むさしさん

まどかを救う為の第一歩その為には・・・まどかが魔法少女になる原因を取り除かなくては・・・魔法少女暁美ほむらは鹿目まどかを救う為、黒猫エイミーの保護に奔走します。「魔法少女まどか☆マギカ」を元にした二次創作小説になります。軽い気持ちで読んでいってください。この短編は11月27日に開催される「一人ぼっちは、寂しいもんな2」にて頒布する本に収録予定です。そちらで頒布する本にはもう一編短編を収録する予定です。こちらを読んで気に入って頂けたら、当日は杏さや04「四薔薇会」までお越しください。無料でコピー誌を頒布いたしております。

2011-11-21 21:52:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:610   閲覧ユーザー数:602

 

「繰り返す・・・私は何度でも繰り返す・・・」

 

「同じ時間を何度も巡り、たった一つの出口を探す」

 

「貴方を絶望の運命から救い出す道を」

 

 まどかを救う為の第一歩。それはまどかを魔法少女にさせないこと。まどかを魔法少女にさせない為に陽になり影となり動くこと。それが暁美ほむらの第一目標だ。

 ほむらがただの少女であった頃、即ち時間遡行を始める以前の本来あった世界での鹿目まどかは一匹の黒猫の命を救うためにキュゥべぇと契約を交わし魔法少女となった。ほむらの時間遡行は単純な時間の巻き戻しではなく、微小な差異のある平行世界への移動である。であるにしても、鹿目まどか瀕死の黒猫に目にした時、その命を投げ出す事は大いに有り得る可能性だ。

 それ故に暁美ほむらは時間遡行を繰り返す度に、黒猫……まどかが付けた名前に倣うのならばエイミー。エイミーの保護は優先事項の高い行動として位置付けられている。

 繰り返しの回数の浅い内はエイミーは元来の人懐っこさも手伝ってか、素直にほむらの手の中に入ってきてくれていた。時間遡行を繰り返し、荒んだほむらの心を慰める一服の清涼剤として作用してくれていたのだ。孤独なほむらの胸の裡を聞いてくれる唯一の存在なのだ。時間遡行の直後というのは得てして、気持ちが沈みこんでいる物だ。今度こそはと臨み、考えられる限りの方策を採り、それでも尚敗れて戻ってくるのだ。ほむらの気持ちの沈み様を想像に余りあるだろう。そんなほむらの気持ちを知ってか知らずかエイミーはほむらを慰めるかのように現れてくれた。

 エイミーが縄張りとしている区画は表通りから外れている為に人や車の往来がそれほど無い。それ故に猫には住みやすい環境といえた。唯一の危険といえば抜け道代わりに進入してくる車両と悪戯好きの小学生男子くらいだ。ほむらがエイミーの居る区画に足を踏み込むと、エイミーは友達を迎え入れるかのように顔を出した。

「こんばんわ」

 エイミーはにゃーと一声答えるように鳴いた。

「良い子ね……さぁおいで」

 エイミーに語りかけるほむらの声は優しさに溢れていた。まどかとの思い出が残るエイミーはほむらにとって特別な一匹と言える。ほむらは新聞の折込チラシを器用に折りたたむと即席の餌皿を作り上げ、そこに持参したペットフードを盛り付けた。子猫用のペットフードが放つ魚の臭いがエイミーの鼻腔をくすぐる。エイミーは瞳を輝かせて餌皿に貪りついた。

 ほむらはがっついて餌に貪りつくエイミーを見守りつつ食事が終わるのをじっと待った。食事が終わったエイミーは満足したかのように舌なめずりして口の周りの食べかすを処理すると、前足を揃えてほむらの前に座りにゃーと一声鳴いた。ごちそうさまでしたと取るか、おかわりくださいと取るかは判断に困るところだ。その後にねだる様に鳴き続けたり、身体を摺り寄せるような行動が無く、毛づくろいを始めたあたりやはり満足したと見て良いのだろう。

 毛づくろいを終えて、寛ぐように伏せ寝の体勢を取るエイミーの背をほむらは優しく撫でた。エイミーは抵抗することなくほむらの手を受け入れる。ほむらは油断しきったエイミーの前足の根元に手を差し込んで抱え上げ、顔を近づけて問いかける。

「うちに来て……くれる?」

 猫に人の言葉は通じない。だが、意思や気持ちは通じる。これは一種の儀式の様なもの。エイミーを保護する為の儀式。

 エイミーは理解しているのかしていないのか、やっぱりにゃーと一声嬉しそうに鳴いて答える。

 ほむらは小さく頷くと、左手をエイミーの身体を反転させて、右手を後ろ足の下に滑り込ませてしっかりと抱きしめる。

 エイミーの小さな身体から伝わる暖かな体温が確かな実感を伴ってほむらに感じさせる。

「さぁ行きましょう・・・」

 エイミーを柔らかく抱き上げるとほむらは自宅へと戻った。

 

 

 と・・・言うのがほむらの周回が浅い時期のエイミー保護の流れである。が・・・このような幸福な流れはそう長くは続かなかった。

 

 

 澱んだ瞳でエイミーの居る区画に足を踏み入れる。これまでの経験則でエイミーが日向ぼっこしている場所や、爪とぎをする板塀など、良く出没するポイントは熟知している。にも関わらずエイミーの姿が無い。何かを嗅ぎつけて姿をくらましているのは間違いない。周回を重ねたとは言え、退院して間もない身体だ。消毒液の臭いはすれど、硝煙とガンオイルの臭いなど一切感じられないはずである。ほむらは疑うように肩口に鼻を近づけるとスンスンと自身の体臭を確認してみる。無臭だ。そうであるのならば、何故エイミーは姿を現さないのだろうか。

 周回を重ねたほむらの身体に漲る緊張感は小動物を怯えさせるには十分であった。ほむらの身体から溢れ出る殺気を動物特有の第六感で感じ取り、姿を隠しているのだ。

「そう・・・なら仕方ないわね」

 ほむらの左手中指に嵌められた指輪が瞬くと即座にその姿を魔法少女服に変貌させる。同時に左腕に盾を現出させる。

「別に隠れていても構わないわ。こちらから見つければ良いだけの話よ」

 時を止め、通りに面する塀の上にひょいと身体を躍らせる。魔法少女となり向上させた身体能力を持ってすれば、己の身の丈を越える高さの塀だろうと一跳びで乗り越える事が出来る。高所より周囲を見渡しエイミーの姿を探す。時間停止に必要な魔力量を考えて僅かに苛つく心を抑えながら懸命にエイミーの姿を探す。

 姿を隠した猫を探すのは難しい。身体一つ入れる狭所を見つければ、そこに身体を滑り込ませてしまうからだ。高所から探しても見つからず、草むらや民家の庭の僅かな隙間なども丹念に探さなければいけない。

 五軒目の民家の庭に放置された空ダンボールの中にすっぽりと納まるように鎮座するエイミーを見つけたのは大分時が過ぎてからだった。

「やっと見つけたわ……」

 精一杯の笑みを浮かべて首を掴むと、エイミーの時間が動き始める。周囲の時間が止まっている異常な空間に怯えているのか、殺気を全身に漲らせている人物に身体を拘束されている事に恐怖を感じているのかは分らないが、エイミーは首を掴まれたまま激しく身体を動かして抵抗する。ほむらは瞳に悲しい色を浮かべるも、左手の盾から猫用のキャリーカートを取り出すとその中にエイミーを放り込む。

 ほむらの自宅に連れ帰ったエイミーが必死の抵抗を続け、激しく暴れ周りほむらが用意した対ワルプルギス用の資料を台無しにしたのは言うまでもないだろう。

 

 

 これを踏まえて、暁美ほむらは新たなエイミー保護の対策を講じる……

 

 

「ちょっと…・・・さやかちゃーん。立入禁止って書いてあるよ?危ないよー」

「大丈夫だって。まどかだって黒猫ちゃんと会いたいでしょー?あたしが連れてきてあげるって」

 さやかの足が空き地に踏み入れた時、僅かに太腿に触れる感触があった。その瞬間であった。耳をつんざく轟音とともにさやかの身体が爆ぜる。

「ぎゃああああああ」

「きゃぁーーーさやかちゃーーーん」

 爆発物の直撃を食らってズタボロのさやかが緩い放物線を描いてまどかの後方まで弾き飛ばされる。

 敷設されたクレイモア対人地雷は腿の位置に張られた極細のピアノ線に圧力が掛かると作動する仕掛けになっていた。C4火薬の爆発力により射出された直径5cm大の無数のゴム弾はその材質故に肉を貫くには至らないが、その威力は骨を砕き、人をボロ屑の様にして吹き飛ばすには十分の衝撃がある。言うなれば死ぬ方がよっぽどマシな結果を生むのだ。

 クレイモア地雷の直撃を食らっても一命を取り留めたのは、魔法少女の成せる業だろう。

「良く見ておくことね。これが魔法少女という愚か者の末路よ。」

 ボロ雑巾のようになって倒れ伏す美樹さやかに駆け寄るまどか。その背後にいつの間にか暁美ほむらは忍び寄っていた。

「ほむらちゃん・・・」

 エイミー保護の為のクレイモア敷設と立入禁止の立て札。それに加えて暗示の魔法結界よって人間の意識にエイミーがいる区画へ人が侵入する事を防いでいる。それでも、このような事が起きてしまう。魔法少女が結界や魔法に対する耐性があると言っても、文字が読めれば立て札を見て引き返せば良いものを。まどかの前では内心の苛立ちを見せないように振舞おうとしても、知らずに奥歯をギリと噛み締めてしまう。

「アホーー」

 ハリセンならぬ多節棍の柄がほむらの後頭部をはたく。怒りでわなわなと拳を握り締める佐倉杏子がほむらの背後に仁王立っていた。爆発音を聞いて駆けつけてみれば、この様だ。

 佐倉杏子は住居を持たない。それ故にお外で暮らすタイプのライフスタイルを取る事も稀にある。本来杏子が縄張りとしている風見野市は元より見滝原市の野良猫スポットも熟知していると言っても過言ではない。ホームレスが己の境遇と相照らし合い野良猫に過剰な愛情を注ぐ事は良くある事だ。今その過剰な愛情がほむらの後頭部に炸裂したのは自分の縄張りを荒らされた二重の意味を込めての事だろう。

「おまえか!この辺に地雷原を設置した馬鹿は!」

 赤い魔法少女が怒りで頬を紅潮させて問い詰める。

「これが結局は一番効率の良い方法なのよ。車両と人の往来を強制的に排除してしまえば概ね安全でしょう」

 後頭部をさすりながら黒い魔法少女は冷静に受け答える。

「意味わかんねぇ」

「たまに美樹さやかのように文字が読めない人が巻き添えを食らうけど、これも必要最小限の犠牲よ」

 全身の骨を砕かれて手足を縮ませて失神している美樹さやかにちらりと視線を送る。

「ひどいよ……ほむらちゃん……」

 目を潤ませて見詰めてくるまどかからほむらは一瞬目を逸らす。まどかは人を嫌う事が出来ない心の優しい娘だ。それはほむらが一番良く知っている。だからこのような時まどかは非道を行うほむらを詰るよりも、ただただ目の前の不条理に悲しんでしまうのだ。

「悲しまないで、まどか。」

 これも全ては貴女を守る為なのよ。その言葉を寸での所で飲み込んだ。まどかは優しい子だ。きっと自分が迷惑をかけていると感じれば、思い悩むだろう。結果としてそれが魔法少女になるという選択をすることも有り得る。自分の役目はまどかを守ること。例え自分が悪役となろうともだ。

「良いからてめーは地雷原撤去しろ。これじゃおちおち散歩も出来ないだろうが。」

「安心して。猫程度の重量なら作動しないように調整してあるわ。これなら猫だけを守って邪魔な人間だけを排除できるということ」

 あくまでもほむらの優先順位はまどか、エイミー、(越えられない壁)それ以外の順だ。

「そんなに猫が大事ならお前が飼えば良いだろうがっ!」

 杏子からのまったくもって正論の詰問に、ほむらは俯いて目を逸らす。それが出来ればやっている。回を重ねるごとにエイミーがあたしを嫌うのだから仕方ないじゃない。そういって叫び散らしたい衝動を抑える。

「ねぇ・・・ほむらちゃん。エイミーはほむらちゃんを嫌っている訳じゃないよ。きっとほむらちゃんの事が少しだけ怖くなっちゃっただけだよ。ほむらちゃんが心を開いて手を差し伸べればきっとエイミーだって答えてくれるよ」

「そんなこと・・・所詮は人と獣は相容れぬものよ」

 真っ直ぐ見詰めてくるまどかの瞳を直視できない。まるで穢れた部分が一箇所もないかのような澄んだ瞳だ。その瞳を見ると自分の穢れた心が一層際立ってしまうような気持ちだ。

「そんなことない。そんなことないよ。好きだって気持ちは絶対通じるよ!」

 気づくとまどかはほむらの手を取って、顔をぶんぶんと振って説得していた。何とかしてほむらの凶行を止めたい。猫が好きという気持ちは同じなんだ。きっと話せば解ってくれる。そう思い込むこと・・・そう思い込めることがまどかの強さだろう。

 そんなまどかの思いに呼応したのか、ひょっこりとエイミーが姿を現す。

「ほら・・・見てほむらちゃん。エイミーだってきっとそう思ってるよ」

 ほむらがエイミーの方に見やるとエイミーは耳を前面に傾け、髭を引くつかせて様子を伺っている。こちらに関心を示しているが、近づいても安全なのか迷っているという面持ちだ。

「エイミー・・・」

 ほむらは地面に跪くと、掌を返してエイミーを手招く。

 一般的に猫は男性よりも女性を好むと言われている。これは男性の声質が低く猫が喧嘩の際に威嚇として出す音と似ている事によるものと猫自身の経験則によるものだ。必ずしも男性の方が猫に乱暴するという訳ではないが、基本的に男性の方が力が強く猫に触る際に知らず力が入っている事が往々にしてある。他にも親猫が子猫に危険を教えて教育するというケースが有る。エイミーの場合これらのどれにも当てはまらず、ただひたすらにほむらが発する緊張感に怯えていただけの事だ。ほむらの側から心を開き柔らかな気持ちで接すれば自ずと道が開けるのだ。

 エイミーはおずおずと近づいていくと、すんすんと鼻を鳴らしてほむらの手に顔を近づける。舌をペロリと出すとほむらの掌を味見するように舐めた。ざらりとした猫の舌特有の感覚がほむらの掌に伝わる。テイスティングの結果は合格のようだ。エイミーの緑がかった黄色い瞳が僅かに開き甘えるような表情を見せる。ほむらが手を差し入れると抵抗を示さずに腕の中に納まってくれた。

 

 

 心を開くにしても、強い自分を演じ続けてきた結果として本当の自分をまどかたちにまで晒すのには抵抗がある。それならばと、ほむらは左腕に盾を顕現させ、自らの能力を発現させた。

 止まった時の世界。この中でエイミーと二人きりならばどんな自分を晒したとしてもエイミーと二人きりの問題だ。さぁ思う存分エイミーを愛でよう!

「ああっ・・・エイミーっ エイミー可愛いっ!ぷにぷにふさふさしてるっ!可愛いっ可愛いっ!ほんほんほんっ」

 ゴロゴロゴローっとエイミーを抱きしめたままゴロゴロと転がる。今まで自分が失っていた癒しがここにある。その幸せを噛締めるように何度も何度も抱きしめてエイミーの柔らかい身体に顔をうずめてモフモフとその毛並みの感触を味わう。肉球の感触を思う様プニる。

 ひとしきりゴロゴロと転がって、ふと周りを見渡すと・・・

「あんた、何やってるの?」

 無表情の冷めた瞳でこちらを見る佐倉杏子の顔があった。

 さっきまで苦悶の表情で虫の息だった美樹さやかもニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてこちらを見ている。

「へぇーほむらにも可愛い所あるんだー」

 あまりにもエイミーを愛でるのに集中し過ぎた為にいつの間にか時間停止の能力が解けてしまったようだ。

 でも・・・まどかはまどかだけはこんな人たちと違って微笑ましく見てくれてるに違いない。と、まどかの方を振り向くと・・・

 鹿目まどかは噴出しそうな顔を必死に抑えている。目に涙を浮かべて必死に我慢している。

 胸の中のエイミーが苦しそうに暴れると、後ろ足で蹴って手の中から逃れると、杏子もさやかもまどかまでも堰を切ったように一斉に笑い始める。笑いが収まる前にほむらは左腕の盾に手をかけていた。

 

 もうこの時間軸には居られない・・・次はエイミーを保護するにしても自分の本性を見せないように気をつけようと固く誓うほむらであった。

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択