No.333652

天馬†行空 三話目 道中、旅の空

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説です。
 処女作です。のんびり投稿していきたいと思います。

※主人公は一刀ですが、オリキャラが多めに出ます。
 また、ストーリー展開も独自のものとなっております。

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2011-11-12 23:39:57 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7204   閲覧ユーザー数:5600

 

 

 カタコト、カタコト。

 

 なだらかな街道に規則的に響く車輪の音を聞きながら、趙雲は馬を挟んで隣を歩く大男、次いで馬車の後ろを歩く細身の少年に目をやる。

 一方は巨木がごとき体躯(たいく)で悪鬼も()くやといった(いか)つい形相、もう一方は取り立てて特徴は無い。二人ともよく日に焼けた肌の色をしている(少年のほうはそれほどでもないが)ぐらいしか共通した点が無く、あまりにもちぐはぐな印象を受ける二人組である。

 

 大男のほうは賊除けとしてはこれ以上無いと思える風貌(ふうぼう)だ。赤銅色の盛り上がった筋肉質の体は七尺(約二メートル)はあろうかという巨体、二の腕も丸太を髣髴(ほうふつ)とさせる太さである。そんな体躯の大男が身の丈ほどの鉄槌を片手にのしのしと歩いているのだ。この光景を見ればそこいらの賊では近づこうとも思わないだろう。

 

 少年の方は頼りなさ気に見えるが、商隊の人間と時折話しながら歩いていており、彼らの緊張感を適度にほぐしているようだ。

 出発してから既に八十里(約四十キロメートル、一里が五百メートル)ほど歩いているが僅かに汗をかいているだけなのを見ると見掛けほど華奢(きゃしゃ)ではないことが分かる。

 こちらは腰に木剣を下げていた。なぜそんな粗末なものを? と(いぶか)しく思ったが、注意して見てみると少年が一歩く毎に木剣の位置が少しずつ落ちているのに気付く。木製の剣は多少の重さはあるがあそこまでは重くはない。おそらく中に鉄の棒かなにかを仕込んでいるな、と見当を付ける。

 

 出発前の会話からこの二人は知り合い同士であることは分かっていたが、こうして見ると、どうもこのような旅をするときには各自の役割を分担しているように思えた。

 藩臨は馬よりも常に前を歩き、北郷は馬車のやや後ろに位置している。

 

(ふむ、この様子なら私も余計な気を回さずに済みそうだな)

 

 前後から襲撃があることも考慮に入れているのだろう、加えて二人だけでもさほど気負っているようには見えない。

 

(もっと)も、今は私もいるのだが)

 

 少なくとも有事の際に足を引っ張り合うようなことは無さそうだ、僅かに肩の力を抜き彼女は伸びをしながら空を仰ぐ。

 

 

 

 

(それにしても……これは)

 

 踏みしめる街道は平坦に(なら)され、石も(まば)らな極めて綺麗に整地されている道に趙雲は感心していた。

 生国(しょうこく)の冀州を出て幾年、様々な場所を旅してきたがここまで道が整備されているのは都、洛陽の近辺だけであったからだ。

 殆どの県は今の王朝を(あらわ)すかのように汚職官吏(おしょくかんり)に溢れており、民から財を(しぼ)り取ることにかまけて任地の治政などおざなりである。

 彼らにとっては地方での仕事などは中央に贈る賄賂(わいろ)を貯めるだけのものであり、民の生活などは眼中に無いのだろう(勿論、それに当てはまらない県もあったが余りにも少数であった)。

 自然、民は役人に頼らず自分たちで結束する。先ず生きること、つまり食べていくことを第一とする民には道の整備などに割く労力も時間も人手も無かった。

 更に役人の汚職が行き過ぎると困窮(こんきゅう)した民が暴徒と化して官舎(かんしゃ)を襲うようになり、県に県令が不在となる事態もある。

 そういった事柄をそれなりに見てきていた趙雲は交州に入る前に荊州で、交州は漢人と南の蛮人達が入り乱れて暮らす野蛮な地であるとの噂を聞いていた。

 どうやら交州は今まで以上に乱れた土地のようだ、そう目星をつけていざ領内に入る際には戦に臨む心構えでいたことを思い出す。

 

(それがどうだ、噂と実情に天と地ほども差があったではないか)

 

 交趾に入ってすぐに驚かされたのがこの綺麗な街道だ。

 そして交趾の街並みとその賑わいにまた驚かされた。確かにあの噂にあったように漢人ではない者達の姿も見かけた。

 だが、街の治安は乱れるどころかその逆であった。賑わいと混雑はあるものの、一定の領分といってもよいものか……確信はないが、街に暮らす各々(おのおの)が騒ぎになるかならないかの線引きを心得ているように見えたのだ。

 街並みもまた想像していたものとはまるで違い、中原の都市の規模に勝るとも劣らぬもので、民の家屋はもちろん、多くの商家が(のき)を連ね鍛冶屋や酒家(しゅか)は人で溢れていた。

 なにより、民の顔に笑顔があり、生気に満ち(あふ)れていた。畑仕事や商い、鍛冶などの区別はあるがその誰もが自分の生業(なりわい)に熱意をもって取り組んでいた。

 ここに至って、趙雲は噂のあまりの信憑性(しんぴょうせい)の無さに怒りすら通り越して呆れ、思考が硬直し定かならぬ風聞(ふうぶん)を真と思い込んでいた自らの短慮(たんりょ)を恥じた。

 

(ふふ、やはりまだまだ研鑽(けんさん)を積まねばならんな。未熟未熟)

 

 あの時、旅の中で見聞きした陰鬱(いんうつ)な空気に()てられていた心に、清々しい風が吹いたように感じられた。

 もう少しばかりあの街に(とど)まりたいという気持ちはあった、だがそれ以上に言いようの無い感動に湧き立つこの心のままに、今は止まらず動いていたいと思う気持ちが強い。

 

 空を仰ぐ趙雲の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし驚いたな。まさかここであの趙雲に会うとは思わなかった。

 確か趙雲は公孫賛(こうそんさん)、次に劉備に仕えたんだよな。あ、いや、公孫賛の前には袁紹だったか。

 どの道、黄巾の乱がまだ起こっていない時期とはいえ、よもやこんな最南端の地に来ていたとは。

 あ~、でも考えてみれば放浪していた頃のことが書かれていた桃園の三兄弟とかとは違って、趙雲は仕官する前は何をしていたのかは知らなかった。

 

 ……駄目だな、どうも俺が知る『三国志』を意識してしまう。そもそも同じ様な世界だけど違うのにな。

 

 地面を見ながら思考に耽っていた俺は、視界の(はし)に見えていた車輪がいつの間にか消えていたのに気付いて足を速める。

 着物の帯に下げていた木刀がずれており、直しながら辺りを見回して異常の無いことを確認して……っと。

 

 ――おっと、袖が(ほつ)れてるな。また後で直しとかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 普段の格好は着物で、フランチェスカの制服は着ないようにしている。

 初対面の時に徳枢にマントを借りたけれど、やっぱりあの格好(こちらの服装にも時々時代にそぐわない物が見かけられるんだけど)は珍しいようだ。

 まあ、ポリエステルなんてのはこの時代ではまず確実に存在して無いだろうし当然なんだけれども。

 一度だけ威彦さんに見せた時にも「その服では例え都であっても人目を集めますね」と言われ、また「そう言えば中原では妙な卜占(ぼくせん)が広まり始めているそうです、北郷君は知っていますか?」と(あわ)せて尋ねられた。

 俺の制服と大陸中央あたりでの占いになんの関連があるのかその時はさっぱり分からなかったのだが、威彦さんは時折こういった婉曲的(えんきょくてき)な問い掛けをすることがある。そのような問いの答えは本を読んでみたり、或いは人づてを辿(たど)ってみれば答えが解る場合が殆どで、今回のこれも中原のほうから来た商人さん達からそれらしい噂をいくつか聞くことが出来た。

 まとめると「光り輝く白き衣を(まと)った天の御遣(みつか)いが現れ、乱れた世を平穏に導く」と言ったニュアンスの噂だ。

 どうも管路(かんろ)という名の占い師が噂の発端だとかで、どこかで聞いたことのある人物の名と、これまたどこかで見たことのある特徴的な『御遣い』の服装についての噂に唖然(あぜん)としたのは記憶に新しい。

 とどのつまり、何も知らずに制服のままで過ごしていたら良くも悪くも……いや、恐らくは悪い方のトラブルに巻き込まれる元になっていた筈だ。

 

 それは何故か?

 

 ……この国で皇帝は『天』の仲介者(ちゅうかいしゃ)とされており――ここで言う『天』とは一番偉い神様である『帝』を指す――『帝』から地上を任されて支配している存在になる。

 勿論『天』は『帝』が座している世界も指しているのだろうがどちらの意味であれ一介(いっかい)の占い師が軽々と口に出せる言葉でもないだろう。

 

 ここまで知った俺が当然のごとく制服を荷物の奥に仕舞いこんだのは言うまでもない。

 返す返すも徳枢の気配りと威彦さんがくれたさりげないヒントに感謝するばかりである。

 その後、制服を仕舞ったと威彦さんに話した時に「そうですね、今はその服を纏わないほうが賢明でしょう」と言われた。

 

 ……しかし何で威彦さんは『御遣い』の事には触れてこないのだろうか? あの感じだと俺が『そう』ではないか、と察している様な気がするんだけれど。

 

 

 

 

「殿? ……北郷殿?」

 

 え? ……あっ!?

 うわ、また考え事に没頭していて遅れていたみたいだ。

 顔を上げるとお互いに五歩くらい離れた所から子龍さんの赤い瞳が訝し気に俺に注がれていた。

 

「すみません、ぼうっとしてしまって」

 

「その割には深刻そうな顔をしておられた様ですが」

 

「いえ、こちらの方は久しぶりだったんだけ……ですが、思ったよりも長閑(のどか)だなあと」

 

 流石にさっきまで考えていた内容は話せないので適当に誤魔化そう。

 

「ふむ……そうですな、ああして藩臨殿が先頭を歩いているとはいえ」

 

 子龍さんはそこで一旦言葉を止めると馬車よりも幾分(いくぶん)前を歩いているおやっさんに視線を向けた。

 

「確かに長閑ですな。ですが北郷殿、私が交趾に来る時も領内の近くは穏やかなものでしたが」

 

「……子龍さんは荊南(けいなん)からこちらへ?」

 

「そうですが?」

 

「雲南の方面へはまだ街道が直りきっていないんですよ。ここはまだ大丈夫ですけどもう少し……そうですね、二十里もすれば道が悪くなりますよ」

 

「成る程」

 

 道が変わってもう四十里も歩けば村があるらしい、おそらく今日はそこで泊まりだろうな。

 

 

 

 

「ところで北郷殿、一つよろしいか?」

 

「はい、なんですか?」

 

「そう、『それ』ですよ」

 

 ? えっと、どれ?

 

「その口調ですよ、先程も言い直されたようですし。これからはお互い口調は崩しませぬか? 私からそうしたとは言えどうにも堅苦しくて」

 

 何のことか分からずに目を白黒させていた俺に、少しだけ申し訳なさそうに言う子龍さん。

 あ~、さっき素の口調が出かかったのをしっかり聞かれてたか。

 ……でもそう言って貰えるとありがたいな。

 

「そう言って貰えると助かり……じゃなくて助かるよ。まだこういった喋り方にはあんまり慣れて無くて」

 

 頭を掻きながら答える俺に子龍さ……子龍は「私もそうですよ」と笑いながら相槌(あいづち)を打った。

 

 ――この後お互いにいろいろと話をして分かったんだけど、子龍は故郷の常山(じょうざん)を出てから各地を巡る見聞の旅の途中なんだそうだ。

 どこに行ったのか聞いてみると大きな都市では、洛陽、許昌(きょしょう)、襄陽などの名前が挙がった。

 その途中で他にも色々な街や村に立ち寄っていたようで、面白い話が聞けるかな? と思ったのだがそういった話は二割ぐらいで、愚痴(ぐち)が八割。

 聞いていて分かったのが役人の腐敗の酷さやそれに伴う賊の横行、それらに影響され無気力になっていく民とその生活の様子などの暗い話だった。

 子龍は旅を重ねるうちに余りにもそういった事象を見るに至って、()瀬無(せな)さや怒りをかなり溜め込んでいたようだ。

 愚痴る子龍の雰囲気が怖くなってきたので、「交趾はどうだった?」と話を振ってみると一転してかなりのベタ褒め。

 違う世界とは言え自分が住んでいる所が褒められるのは悪い気がしなかったので、上機嫌に話を終えた後に「交趾について詳しく聞かせてくれ」とせがむ子龍に思いつくまま話をした。

 

 

 

 

 そんなやり取りがあってから三日後、雲南の領内にもうすぐ差し掛かる頃にお客さんがやって来た。

 おとなしく有り金置いていきなへっへっへ、といかにもな台詞を吐きながら道を塞ぐ様に現れた三人の男達。

 当然ながら交渉(と言うほどのものではないが)は決裂し、おやっさん程ではないもののそれなりに大きな(と言うより太った)男が、大型の(なた)のような剣を抜いたのが戦闘の合図となった。

 

 豚が鳴く様な雄叫びを上げながら斬りかかる男に、おやっさんはハンマーを右手一本で振るい迎え撃つ。一呼吸の後、があんっ、と金属が打ち合う甲高い音が辺りに響く。

 

「ぅええぇ!?」

 

 男が上げる戸惑(とまど)うような色を含む声がして一拍の後、ぎぃぃぃん、と澄んだ音が響き、果たして男の剣は半ばから見事に折れていた。

 

「っしゃらあああああああああッ!!」

 

 そこへすかさずおやっさんの追撃! (左腕でのボディブロー)

 

「ぶうっふっ!」

 

 剣が折られ、そちらに意識が行っている男の脇腹に容赦なく突き刺さる丸太のような(かいな)、まるで破城槌(はじょうつい)の如き一撃。

 ……うわあ、飛ぶ飛ぶ。

 

「デッ、デクーッ!? くっ、こ、このクソがーっ!!」

 吹き飛んだデクと呼ばれた男の姿に逆上したリーダー格のちょび髭の男は、おやっさんではなく(くみ)(やす)い相手と思ったか、子龍に斬りかかる。

 

「ふっ!」

 

 刹那、どずっ、と鈍い音。

 

「ご、おっ!?」

 

 ……殆ど動きが見えなかったけど、槍の石突(いしづき)の部分がちょび髭の鳩尾に叩き込まれてる。短い(うめ)きを上げて男は前のめりに崩れ落ちた。

 えらく痙攣(けいれん)しているが、あの一撃を受けてリバースしていないだけちょび髭は凄いと思う。

 

「ア、アニキー!? ……はっ!」

 

 アニキと呼ばれたちょび髭男が動くのに合わせて横から馬車のほうにこっそりと回り込もうとしていた小柄な男は、瞬く間に起きた出来事に驚きの声を上げる。

 その直後、何かに気付いたみたいだけど……残念!

 

「はあっ!!」

 

 小男が振り向こうとした先には既に木刀を振り下ろしている俺がいる!

 デクって男が動いた辺りからちらちらと馬車のほうを見ていたから警戒していたけど、やっぱりこう動いてきた!!

 

 がつっ!

 

「ぎゃひぃっ!!」

 

 武器を持っていた腕の肩口に袈裟懸(けさが)けに振り下ろした一撃は、狙い(あやま)たず鈍く重い手応えを俺の手に伝えてきた。

 弾かれる様に転倒した小男。ごづん、とエライ音がしたから後頭部を地面にぶつけたようだ。見ると白目を剥いている。

 

「警戒ッ!!!」

 

 俺が小男の気絶を確認するや否や、おやっさんの声が響く。

 

「「応ッ!」」

 

 重なる子龍と俺の声。

 武器を構え、目を皿のようにして辺りを見回す。

 ……三分はそうしていただろうか。張り詰めた空気の中、風の音と馬の小さな(いなな)きのみしか聞こえないのを確認すると(ようや)く一息ついた。

 

 

 

 

 

 

 

「この者達はいかがされる?」

 

 腕を組みながら気絶した三人組に目を向け、子龍はおやっさんに尋ねる。

 

「ふん縛って捨てておきゃあ良い。わざわざ街道をこいつらの血で汚すこともねえだろう。オウ、北坊」

 

「了解です、おやっさん」

 

 馬車に置かせてもらっていたロープを取りに行って、と。

 

 

 

 

 

 ……途中で誰かが目を覚ますこともなく、街道の脇に大中小の蓑虫(みのむし)が出来上がったのはそれから間も無くの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 はい、お待たせしました。天馬†行空、三話目です、今回は雲南までの移動シーンですね。

 星と一刀について書いてみました。 

 

 前回のコメントでも予想されている方が居られましたが、星はまだ稟と風に会う前です。

 基本的に原作のキャラクターはゲーム中の初期勢力につけようかな? と思っているので、ここでも後に彼女達と会う流れになるでしょう。

 

 一刀と『天の御遣い』ですが、作中で書いたとおり一刀は自重しています。

 フランチェスカの制服の出番は……現段階では未定としておきましょうか。

 

 

 幾つかの都市についての大まかな補足

 

 洛陽……十常侍と劉宏により乱れています。

 陳留……華琳が政務に関わり始めました。徐々に治安が回復しています。

 渤海(ぼっかい)……麗羽が治めています。商業と軍事に力が入っているようです。

 寿春(じゅしゅん)……美羽が治めています。嗜好品を扱う商人との取引が盛んです。雪蓮は客将なので政務には関われません。

 北平……白蓮が治めています。一人で大変そうです。 北平にはいませんが、桃香はまだ愛紗達と出会ったばかりです。 

 

 さて、次回は漸く舞台が移ります。

 益州の南、雲南で一刀達が目にするのは…… 

 

 補足の追加

 上記の補足内に説明が不足していた部分がありましたので追記します。

 ・原作キャラクターは初期勢力につく→黄巾の乱が本格化した辺りでの各キャラクターの初期配置のことです。よって風や稟は在野となります。当然、その後の変動はあります。

 

 原作と異なっている部分について

 ・寿春を美羽が治めている→原作では荊州に城を構えていますが、この作品では荊州を劉表が治めているため変更されています。

 

 

 

 

 

 


 
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