No.332451

異聞~真・恋姫†無双:三六

ですてにさん

前回のあらすじ:桃香と雛里の独白。そして呉の宿将との再会。

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237

戦闘シーンほんまに苦手です。

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2011-11-10 16:33:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6074   閲覧ユーザー数:4514

この作品はキャラ設定等が一刀くんを中心に、わりと崩壊しております。原作重視の方はご注意下さい。

時代背景等も大きな狂いがあったりしますので、

『外史だから』で許容できない方は全力でブラウザバックを連打しましょう。

 

オリキャラも出ますので、そういうのが苦手という方も、さくっとまわれ右。

 

一刀君とその家系が(ある意味で)チートじみてます。

物語の展開が冗長になる傾向もすごく強いです。(人、それをプロット崩壊という)

 

この外史では一刻=二時間、の設定を採用しています。

それでもよろしい方は楽しんで頂けると幸いです。

 

 

子敬さんの屋敷の裏は、ほどよく開けていて、いわゆる誰かが話を盗み聞きしようとしても隠れる場所がなく。

以前の公路さんの元で独立への機会を探っていた頃の、雪蓮や祭さん達と重ねた会合場所に通じるものがあった。

 

不思議と、会合をする時は晴れていることが多くて。

そう、今日も空は晴れていた。城から上がる煙がこの郊外からでもしっかり見通せるほどに。

 

今頃、決起した集団は、甘い汁を吸っていた文官連中をまさしく駆逐している最中。

 

周辺地域で散発した賊の制圧に、七乃さんはあえて兵力の八割方を向けていたという。

士気も錬度も低い軍勢の為、この乱の報を受けたとしても、二日は帰還にかかるように、まさしく『仕向けられている』のだ。

 

殺される連中は正直、同情もしないし、自業自得。

更生できる可能性があるから、殺す必要までは無いなどと、甘い正義感を振りかざすわけもなく。

 

俺は、自分にとって大事な者…最優先は無論、華琳だ…を守る。そうでなくても、守りたい人は多いのだ。

一番俺が変わったのは、そういう取捨選択をやり切ってしまえるようになったところかもしれない。

 

「傍目には確かに孺子に見えるが、今のお主の表情といい、目といい…中身はむしろ…」

 

「老けて見えます?」

 

瞬間、目をカッと見開く祭さんだが、安い挑発には乗らん、と瞳を閉じ嘆息する。

 

「儂を目の前にして、言うものよな。…まぁよい。

正直、余計な茶々が入らぬ時の、お主の雰囲気は儂や徳謀に近いものを感じるのう」

 

「…力が無いんで、せめて人の何倍も考えるようにしてますから。幸い、経験だけはたくさん積む機会があったので、

その結果が、公覆さんや徳謀さんのような歴戦の将の雰囲気に近づけているなら、嬉しい限りですね」

 

「その笑顔に、若い娘はたやすく絡め取られ、お主の本心を見逃すわけじゃな。それも『天の御遣い』としての力かの?」

 

「あ、あはは…そんなつもりは無いんですけど…。ただ、あんまり俺が思いつめた顔してても皆心配させるだけかな~って」

 

「孺子が…しいす…ばかり覚えよって…」

 

呟くように言った事と、風が吹いたせいで、祭さんの言った事は殆ど判らない。

ただ、その声色がどこか寂しげだと、そう思った。

 

「さて。時間も無い、構えてみせい。腰に挿しているソレはお飾りではなかろう?」

 

祭さんは俺の腰に差している模擬刀を指しながら、立ち合いを促してくる。

 

「確か、公覆さんの得物は弓と聞いたんですが」

 

「わしも接近戦用のこの直刀を使う。と、なんじゃ。その剣は修練用ではないか。刃も殺してあるし、そんな細身では何の役に立つ」

 

鞘から抜き放った日本刀を模した『ソレ』に祭さんは不満そうな声を漏らす。そう、この大陸の概念じゃ、すぐに折れてしまうようにしか見えないから。

 

「これでも強度はなかなかのもんなんですよ。明命の愛刀と似たようなもので」

 

「…明命にも真名を許されておるとはの。食えん男じゃ」

 

「いきます」

 

氣はあえて纏わずに、自身の体捌きのみで、振り下ろし、薙ぎ、突きの攻撃動作を最短距離で繰り返す。

もちろん、というのも悔しい思いもあるけど、有効打は一つたりとて無い。

ちなみに全ての斬撃が、避けられるか、もしくは剣で弾かれたり、受け止められたりしている。

慌てた顔を見えたのも、最初の二合程度で、後は余裕を持って対応されている。

 

二十合も打ち込んだ頃、俺は一旦弾かれた斬撃の勢いそのままに後方に距離を取った。

 

「むー。本気を出さぬか」

 

攻撃をせずにわざと受けてばかりの、祭さんはなぜかすごく不満げで。いや、口から出る言葉も不満そのものなんだけど。

 

「手を抜いたってことは絶対ないんですが」

 

「それぐらいわかるわい。体捌きも無駄も無いし、良く修練しておるのは判る。

しかし、これでは兵士相手には圧勝できても、将相手には太刀打ちできまい」

 

「…そうですよ。だからといって、修練を止めるわけではないですし」

 

この大陸の武将、特に女性とはそもそも素養が違い過ぎるのだ。

ただ、それを判って努力を続けるのか、すっぱり諦めるか、他の分野で勝負するのかは本人の自由なわけで。

 

「が、お主は氣を使えるのじゃろうが」

 

「あー」

 

そうだよなぁ。ただ、どうも俺の氣は量は多けれど、変わり種のようだから、出さずにいたんだけど。

 

「あー、じゃないわい」

 

ただ、祭さんは呉の中でも氣の扱いに特別長けてる人だ。説明するより、見てもらったら納得してくれるかも。

 

「あの、その辺りの説明をしたいんですけど、多分、公覆さんの場合、見てもらうのが早いと思うので。

今からしばらく、仮想敵と打ち合いますから、氣を使った俺の動きを見て欲しいんです」

 

「…ほぅ。仮想敵か。良い、やってみせい」

 

まず、氣を淡く身体全体に漂わせ、続いて、道場で爺ちゃんを相手取るイメージを取る。

この外史に降りる前には、十本に一本取れれば恩の字だった。

 

(いくよ、爺ちゃん)

 

俺は、全力で、目の前で意地悪そうに笑う爺ちゃんに振りかぶった。

 

 

…なるほどの、最初に氣を使わん理由はこれじゃったか。

 

あれだけの氣の総量があり、かつ、しかりと氣脈も開かれているのに関わらず、

『天の御遣い』の動きは、あまりにバランスが取れておらん。

 

ん? バランスとは何じゃ。自然に思考に浮かんでしもうた。

 

さて、攻め手と守り手になった時の動きがあまりに釣り合いが取れておらん、ということじゃが。

 

攻める時は、正直、氣を使っていない時の動きと大差が無い。

本来は、氣で身体の動きを促進するんじゃが、攻撃時のみ、氣の流れが澱むように見える。

 

対して、守りの局面になった時。これは、儂も安易には崩せんというのが、すぐに判る。

 

おそらく、剣豪と呼ばれるような者どもの太刀筋を数え切れないほどに受け続け、しかも生き延び続けなければ、

ここまで無駄のない、出来うる限りの最小の動きでかわす、流すことが出来るようになるか。

ともあれ、流れるような動きはどこか舞いにも似て、孺子が剣を手にしておらねば、

ここが戦いの場というのも捨て置けるような錯覚に駆られる。

 

お、想像上の相手が変わったの。先程までは技と速さに秀でた者が相手じゃったが、

今度は一撃必殺を旨とする、剛の者と相対しておるの。

 

先程から、攻撃を受けるという行為が最小限なのは、この大陸の猛者の攻撃の苛烈さを想定してのことじゃ。

地面が砕かれる程の一撃を踏まえた動き…一体、どんな者を相手取っておるのやら。

 

しかも、その動きを、あの大量の氣が補助する…さらに、無駄のない動きで、氣もそれほど使うこともなく…わけじゃから、

おそらく、一対一の局面で防御に徹し切れば、下手をすると、こちらが息切れして、まともな攻撃が出来なくなって負ける、という、

なんともやるせない結果が待っておるかもしれぬ。

 

氣は体力面を補うものであるし、さらに、あの男は基礎訓練を重視しておると、明命の部隊の者からの情報もある。

地道な体力づくりというのは、生まれ持った能力だけでは、決して手の届かぬもの。

無論、武才ある者が努力すれば、才無き者を超えていくが、普通はそこまでの長期戦になることは稀じゃからな。

一撃の重さや早さ、鋭さに磨きをかけることはあろうと、なかなか継戦持久力を磨こうとする者はおらん。

 

…儂も、その辺りは最近怠けておったからのう。いい機会かもしれぬ。

師匠としてはまだまだ負け…ん? また妙な思考が混じったのう。

 

明命とかじゃと、あ奴から手を差し出されて、終わりにしようなどと言われる、情けない構図が目に浮かぶわ。

長期戦に不安を残す思春辺りも、あの速度についてこられると危ういところがあるの。

 

しかし、勿体無いと言わざるを得んの。

あれだけの膨大な氣の器質が、人を傷つけることに全く向かない、ときておる。

なんという歪んだ能力を与えられた孺子であることか…!

 

じゃが、守りだけに特化して見れば、いずれ、この大陸でも五本の指に入る極みに達するかもしれぬ。

が、本人はその領域が見え隠れしていることなど思いもしておらん。奴の瞳を見ればすぐに知れること。

ゆえに、慢心せずに心身一体の防御術を、ひたすら磨き続ける。そして、体力と氣の総量の高さがその強みを最大に生かせる…か。

くくく、策殿や冥琳が見染めたのが判るわい。

それに、北郷…か。なんとも、この既視感、傍にいられる安心感、悦びの感情が溢れるのがどういうことか。

いい歳をしたこの儂がのう…。

 

勘、などというのは、本来、策殿が語るべきものじゃが。

身も蓋も無い言い方をすれば、年甲斐も無く、下腹部の儂の女そのものが疼きよるのだ。

『懐かしい』あの男を早く迎え入れたい、と。…しかし、懐かしいとはどういうことじゃ。

まぁよい。本能がそう言っておるのじゃから、詮無きことよの。

 

さて、その前に、少し鍛えてやるとしよう。

 

 

「やめっ!」

 

祭さんの声で、羅刹のごとき打ち込みを続けていた春蘭の姿が霧散する。

 

『大人しくこの七星餓狼の血肉となれ、北郷ぉおおお!!!!!』って、

なんで想像上なのに、あの声がハッキリ聞こえる感覚に襲われるのか。

 

まぁ、そうでないとシャドーの相手としては意味が無いだろうし、

あれだけ襲われ続けると、太刀筋の脳内再生も寸分の狂いが無いというか…。

 

爺ちゃんに徹底的に扱かれた一年のお陰で、無駄な動きは極力省けるようになったけど、

あの殺気と超ド級の一撃に身をさらし続けると、流石に体力の消費が早い。

気脈の活性化を兼ねた修練だから、日に日に少しずつ動ける時間が長くなってはいるんだけどね。

 

なんかその辺は愛紗も褒めてくれてた。練習の積み重ねが、俺らしい形で結実しつつある、と。

えらく嬉しそうだったな、自分のことのように誇らしげにしてくれたのが、何とも照れくさかった。

 

「ほう、それほど息も乱れておらぬな。感心な事じゃ」

 

「せめて体力だけでも、って思ってるんで。…公覆さんから見て、どうです? 俺の氣の流れって」

 

「既に自覚しとるのじゃろうが、お主の気質は守り特化じゃ。攻め手の時だけ、あんな風に気脈が淀むなんぞ初めて見たわい。

実際、守りの時は、しっかり身体の動きを氣が加速させておったからの。脈が開いていないというのもあり得ん話じゃ」

 

「こういうのって、性格もあるんでしょうか」

 

「儂の知る限りは無いのう。通常は、氣は攻防一体を全て補うもの。多少は本人の性質によるところもあるじゃろうが、

こんな極端なことは無いわい。…お主の膨大の氣の対価、とでも言うべきなのかもしれんが」

 

それよりもな、と祭さんは、少し無理やりに話を切り、次の瞬間、本来の得物─『多幻双弓』を構えていた。

一射で二矢を放つように造られたその名弓。

 

「動くなよ。しかとその目に速さを刻め」

 

言うが早いか、放たれる二矢を、俺は食い入るように見つめ、両頬を矢風が擦れる感覚を、必死に取り入れようと努める。

感覚の鋭さを上乗せできる今で無ければ、見えたかどうか、怪しい。

 

「回避行動を一切取らん、というのも問題じゃぞ」

 

呆れ口調で、一旦射線を外した祭さんに、俺も苦笑いで答える。

 

「動くな、と公覆さんは言いましたから。

それに、名手の射撃を真正面から感じられる絶好の機会、逃すなんてとんでもない」

 

最強になる必要は無くても、以前のように、凪たちのように、常に守ってくれる人が傍にいるわけじゃない。

…愛紗といえど、四六時中常に俺の傍についている…なんて、実質不可能だろう。…不可能だよね?

 

まして、風や稟、朱里に雛里のような武人で無い女性たちを守るには、俺とて自衛の為の武は絶対に必要になる。

それに、アイツ=『左慈』に幻滅されるなんて、真っ平ごめんだ。

 

…華琳は下手すると、四六時中離れないだろうし、絶望的な状況であっても、俺を守ろうとするだろう。

だけど、庇われるだけじゃなくて、お互いに背中を預けられる関係に心身共になりたいし、

その位置にたどり着くために、俺は爺ちゃんのしごきに血反吐を『文字通り』吐く毎日すら許容してきたんだ。

 

…くそぅ、思い出すだけで涙が出そうになる。俺はマゾじゃないってのに…。

 

ともかく、大陸に名だたる名手の射撃をシャドーに取り入れられるチャンス、逃してなるものか、ってことなのだ。

 

「良かろう。では、致命傷は避けるようにするが、矢が無くなるまで続けざまに放つ。

全て捌ききるか、もしくはこの二十歩程の距離、寄せ切って儂の動きを封じてみせい」

 

「お願いします」

 

「…良い目じゃ。では、構えい」

 

ほんの少しの間、本当に嬉しそうに…何が嬉しいのか良く判らなかったけど…微笑んだ祭さんは、瞑目し、ゆったりと弦を弾き始める。

対する俺も『フーッ』と息を吐き、身体の緊張を和らげるように、わざと弛緩するように努めた。

 

「行くぞっ!」

 

目をカッと見開いた祭さんは、叫び声と共に、絞り切った弦を…解放した。

 

「くっ!」

 

先程より速度を増した矢をはたき落とす間もなく、剣の平でなんとか受ける。

…受けたものの、あまりの衝撃の強さに手に痺れが走り、取りこぼさないのがやっとだ。

模擬刀といえ、しっかりと鍛えられた一振りだから、折れずに済んだんだ…。

 

「何を立ち止まっておる! 身体にでかい穴を開けたいのか!」

 

祭さんの言う通り、集中っ・・・っ!

二矢、四矢・・・! 頬を掠め、浅い傷が開こうとも、避けろ避けろ避けろ!

多少痺れがあろうが、流すのには使える! 振るえ振るえ振るえ!

 

「やるもんじゃのう! 改め・・・て、はっ! 感心したぞい!」

 

「致命傷どころか射線に入っ・・・つ、あぶねっ!・・・たら、額を撃ち抜かれるからねっ!」

 

どこか手加減だよっ、全部祭さんの矢は一撃必殺の頭部狙い。一矢でも直撃したら、死ぬっ!

 

「模擬戦といえ・・・どっ! 緊張感が無ければ、意味がっ! 無いからのう!」

 

一言の中で二射、放つ矢の間の感覚はどんどん短くなっていく。

問いかけに応える余裕などない、受け流す、避ける、避ける、流す!

息が多少荒くなっても、氣が補助してくれている、動け動け動けっ!

 

「楽しい、楽しいのうっ! 男でこれほど楽しませてくれる者は、本当に久し振りじゃっ!」

 

近づ・・・けるか、んなもん!

速射の技量が高過ぎて、この距離を詰められる隙なんて…いや、盾を作ればっ!

 

「そんなやみくもに投げる小石程度で止まると思うてかっ!」

 

地面の土を引っ掴んで、そのまま祭さんに向かって投げつけながら、回避行動を続ける。

土の中に混じった石つぶてが、祭さんの視界をほんの少し阻害しながらも、射撃は止まることはなく。

だけど、速度は、落ちた。俺が避けながら、少しずつ学ランを脱ぐ手間を作れるぐらいには。

 

「む、小手先の細工は止めたようじゃな。何を企んでおるかと思えば…なるほどの。

まさか、天の御遣いの証明を、迷わず使うとは」

 

広げた学ランに思い切り氣を込め、耐久度を増した即興の盾。

凪などが得意とする硬気功からヒントを得たもの。武器に纏えるから、衣類でも行けるよね、という考え。

 

ポリエステルの強度で矢を防げるわけもなく、実質込められるだけの氣を流し続けている。

射撃に合わせて、瞬間だけ氣を込めるなんて技量はまだ無いし、

出来うるとしても、俺と元々相性のいい、桃香の『靖王伝家』か、爺ちゃんから貰ってから使い続けて、手に馴染んでいるこの模擬刀だけ。

 

ちなみにこの刀だけは、氣を薄く流してさえおけば、一気に総量を増やすことが出来る程度に馴染んでいるので、

もうちょっと応用が利くのかもしれないけど。

 

…って、あれ。祭さん、撃つのを止めて躊躇してる?

 

「この氣の盾がどれほどの強度か試してみたいが、一張羅をボロボロにするのも雅が無いしのう…う~む」

 

複雑な表情だ。うずうずしてるのに、躊躇いもあって。やんちゃなお嬢さんが悪戯するかしないか悩んでるみたいで、なんだか可愛らしいな、と思った。

 

「なっ! と、突然、可愛らしいなどと口説いてくるとは、相変わらずじゃのう…年甲斐も無く、照れてしまうではないか」

 

頬を染めた祭さんも可愛いなぁ…って、あれ、声に出てた?

 

「思いっきり出とるわい。それもお嬢さんとか、頬を染めたくだりも全部。

まったく、規格外の氣といい、突飛な利用方法といい…息をするように口説く誑かしぶりといい、相変わらず飽きない男よの、北郷」

 

「さ、い…さん」

 

「お~、軽く小突いても、まるで金属のような音が返ってくるの。さて、そろそろ、そのダダ漏れになっておるのを止めい」

 

軽い足取りであっという間に近づいてきて、興味深そうに急造の盾を叩く祭さんを見ながら、俺は茫然としてしまっていた。

だって、今の口ぶりじゃ、思い出してるとしか、思えない。

 

「おーい、呆けておらんで止めんか。お主の規格外の総量といえ、枯渇しかねんぞ。…って、聞こえておらんな」

 

いや、聞こえてはいるんだけど、現実感が急にどこかに行ってしまって。祭さんの声が遠くから反響しているように聞こえて、良く聞き取れない。

というか、何を言えばいい。何が聞きたい。何から話そう。まとまらない思考が頭の中でとぐろを巻く。

 

「しょうがない男じゃ。先ほどまであれ程凛々しい顔つきをしておったというに…」

 

ぽふん。ぽよん。ふよんふよん。

 

「帰ってきたのじゃな。儂すらただの女に変えてしまう、愛しいお前さまが」

 

あーすげーあったかい。柔らかい。なのに、俺の頭を乗せても弾き返してくるほどの弾力があるって一体これは何だ。

この匂いもすごく懐かしいものだし、まるで祭さんに抱き締め…。

 

「祭さんに、抱き締められてる? 俺?」

 

「そうじゃよ。お、やっと止まったのう。枯渇してぶっ倒れる前で良かったわい」

 

声がハッキリ聞こえる。どこか芝居かかった話し方の祭さんの声。安心感を与えてくれる、この人の声が。

 

「この倦怠感って、氣の使い過ぎ?」

 

今言う必要が無いことを聞いている俺は、よほど頭が動いていないんだろう。

 

「うむ。あれだけ際限なく流し続けておったからのう。緊張感も切れたから、余計じゃろ」

 

「…頭回らない。言いたいこと、たくさんあるはずなのに」

 

「少し休め。お主を『思い出した』儂が守ってやる。一人前の男になった、北郷をな」

 

身体も重たいし、頭の中もぐるんぐるん回っている俺は、素直に頷いた。

自分の師匠的な立場の人に認めてもらえた、その喜びに心振るわせながら。

 


 
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