No.331670

キュゥべえの営業日誌 Advanced third

tkさん

『魔法少女まどか☆マギカ』の二次創作。
 そして他作品とのちょっとしたクロスオーバー的な何か第三弾。

*作中で扱いが悪い子がいても、それは書いている人間のちょっと歪んだ愛情表現だったりします。
決して登場人物を貶める意図はありません。特にキュゥべえさんとか。

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2011-11-08 20:29:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:961   閲覧ユーザー数:931

 やあ、僕の名前はキュゥべえ。

 年頃の少女と契約して魔法少女になってもらうのが僕の仕事さ。

 え? それだけ聞くとまるで犯罪者みたいだって? 失礼しちゃうな。これでも真摯な仕事を心がけているんだよ?

 さて、今回も他の候補になりそうな子達を捜してみようと思うんだ。

 君もついてくるかい? 僕は気分転換のつもりだけど君の安全までは保障できないよ?

 …そうか。そこまで言うなら構わないよ。

 

 さて、テンプレとも言える挨拶が終わった所で今回の魔法少女を紹介しよう。

 前回の情報から色々と検証してみたんだけど、美樹さやかだと状況が主にマイナス方向へ進む事がわかった。

 そこで今回はさやかになにかと衝突する事の多い彼女にお願いしてみたよ。

 さあ、僕と一緒に新しい魔法少女を捜しに行く魔法少女を紹介しよう。君も良く知っている子だよ。

 

 

「あー、だっりぃー(ポリポリ」

 

 

 ………開口一番にやる気の無い発言はどうかと思うよ、佐倉杏子。

 あと、そのポッキーを僕にもくれないかな?

「うるせーなー、元々やる気なんてないんだよあたしはさ。それとお前にやる食い物はねー」

 それは残念だ。

 ところで、文句を言いながらも付き合ってくれるのは僕がさやかを通して頼んだからかい?

「ちげーよ。さやかに出来てあたしに出来ない事があるなんて、なんかムカつくだけだ」

 やっぱりさやかが要因じゃないか。

「うるせー! さっさと案内しろ!」

 …やれやれ。

 

 

 

 キュゥべえの営業日誌 Advanced third

 

 

 

 着いたよ。ここは文月学園という教育施設だね。

「…学校か」

 懐かしいかい? 

「別に」

 でもここは君らよりも年齢の高い学生が通う所だね。

「へー。で、そいつらに魔法少女が務まるか?」

 年齢的にはギリギリ許容範囲内だね。回収できるエントロピーの効率を考えると、素質の高い子を狙いたいかな。

「ふーん。で、まずはどっちだ?」

 ちょっと待って…見つけた。あの校庭の隅だ。

「なんか俯いてブツブツ言ってるあいつか?」

 うん、あの年齢に不相応な胸囲の子だ。あのペッタンコは暁美ほむらに勝るとも劣らないね、本当に君より年上なのか疑わしく思えるよ。

「お前いつもそんな調子で勧誘してんのか? そりゃ失敗するって」

 まさか。本人の前で口にするほど僕も愚かじゃないよ。とりあえずもっと近づいてみよう。

 

「えっと、お昼作り過ぎちゃったから… いや、この手は前に使ってアキを勘違いさせたじゃない。もっとうまい理由を考えないと…!」

 

「なにやってんだアレ?」

 二人分のお弁当を持って何やら思考錯誤しているみたいだね。

「んなことは見りゃわかる。だから、どうしてそんな事してんだって話だよ」

 さあ、それは僕にも分からない。君たち人間は往々にして不可思議な行動をとるんだよね。

 君がさやかに好意を持っていても、それを表に出せない事と同じだね。

「な、何言ってんだ! あたしはさやかに好意なんて持ってねぇ!」

 当人以外は周知の事実なのにね。

「と、とにかく! どうやって接触するんだよ!」

 まあ見ていなよ。僕の華麗な営業テクニックを見せてあげるからさ。

 

 すみませーん。ちょっと僕と契約して魔法少女になってくれませんかー。

 

「え? ウチ? というか何これ?」

「…何のキャラだよそれ。マジで帰りてぇ」

 あれ? おかしいな。さやかとまどかに正しいセールスの仕方を教えてもらったハズなんだけど。

「あいつらかよ… 確かに間違っちゃいないけど、お前がやっても似合わねぇよ」

 そうなのかい? 君たちの価値観は本当に難しいね。

「ああ、これ君のペット? 変わった動物ね、それともまさか召喚獣?」

「いや、違うけど関係者っつーか…」

「それ以前に君、ここの生徒じゃないでしょ? どうしたの?」

「あー、えっと…」

 頑張るんだ杏子。ここで君が誤魔化しきれないと、最悪の場合追い出されてしまう。

 なんとしても僕をペット扱いして乗り切るんだ!

「人任せかよ! 使えねーなオイ!」

「あ、分かった。お弁当を届けに来たんでしょ? お兄さん? お姉さん?」

「いや、あたしは…」

「ウチも妹に届けてもらう事があるんだけど、クラスメイトの男の子に懐いちゃって帰すのが大変なんだ」

「………あんた、妹がいるのか」

「そうだけど? 君もお姉さんにお届け物?」

「…そんなとこ。行くぞキュゥべえ」

 え? 僕はこれからこの子に営業…

「この人には必要ねーよ。じゃ、妹さんと仲良くな」

「ううん、引き止めてごめんね」

 いや、だから営業…分かった、諦めるよ。だから耳を引っ張るのは止めてくれないかな?

 

 

 やれやれ。せっかくの契約の機会を失ったじゃないか。姉妹という相手の境遇に自分を重ねたのかい?

「うるせーよ。別に、次を捜せばいいだろ」

 そうだね。ここで君と喧嘩をするのは時間の浪費だ。前向きに行こうか。

 

 

 

 

 次の候補を見つけたよ。この教室だね。

「おー、こりゃまた…」

 足の折れたちゃぶ台と腐った畳、綿の殆ど入っていない座布団。これはひどい設備だね。

「何言ってんだよ。凄く住みやすそうじゃんか」

 えっ?

「畳で寝れるなんて最高のぜいたくなんだぞ」

 …やめるんだ、杏子。

「お、座布団だってまだ新しい。へへへ、ガラスだって少し欠けてるけどちゃんとあるし」

 杏子、その、周囲の視線がだね。

「ちゃぶ台で飯が食える日が来るなんて… なあ、一つくらい持っていってもいいよな?」

 杏子、落ち着いて周囲の生温かい視線に気づくんだ。お願いだから。

『………』

「………あー、やっちまった」

 やっちゃったね。衆目で騒ぐだけでも困るのに、君の奇行のせいで怪しさ爆発だよ。

「し、仕方ねーだろ」

 見なよ、営業するつもりだった子だって完全に引いて―

 

「お姉さんと一緒に行きましょう! 大丈夫です! ちゃんとお昼も食べさせてあげます!」

 

 ―あれ?

「え? あんた、おごってくれんの?」

「ええ、もちろんです! こんな可哀想な子を見捨ててのんびりお昼なんて食べれませんっ!」

「同情されんのは嫌だけど、飯をおごってくれるならいっか。行こうぜキュゥべえー」

 …まあいいか。

 奇しくも獲物…もとい魔法少女の候補に接触できたわけだし。

「…あの、明久君、申し訳ありませんけどお昼のお弁当は…」

「うん、いいよ。僕は大丈夫だからその子にちゃんと食べさせてあげてよ(ニコッ)」

「はいっ!」

 

「明久、お前はあんな年下の子に姫路の弁当を押しつける気か!? 貴様悪魔か!?」 

「雄二が僕と生死を共有する事を拒んだからこうなったんだ! 霧島さんの豪華手作り弁当を口にする貴様に僕を非難する権利は無い!」

「バカ! 俺が姫路の弁当に手を出したら、それこそ翔子に殺されるだろうが! つーかいい加減に姫路の想いに気付けこの鈍感野郎が!」

 

 

 教室の隅から不吉な単語が聞こえたけど気のせいだよね、うん。

 

 

 

 ~べえさん屋上にて説明中~

 

 

 

「魔法少女、ですかぁ…」

 そうだよ。魔女退治は大変だけどそれに見合った見返りもあるハズだ。

「あたしはお勧めしないけどなー」

 杏子、君は自分の役割を忘れていないかい?

 今回は僕の営業を手伝ってくれるという話だったんだけど。

「さてね。そんな何も困って無い温室育ちに首をつっこまれても足手まといだと思うだけさ」

 君の持論を基準にしてしまうと、僕の契約できる子はほんどいないよ。

「あの、私、ちゃんと頑張りますから! ですから契約させてください!」

「やれやれ、そんなにしてまで叶えたいもんがあるのか?」

「…はい、どうしても振り向いてもらいたい人がいるんです」

 やっぱりこの年頃の子ってそういう願いが多いね。だからこそこっちもやりがいがあるんだけど。

「………そんなのやめろよ。あたしの知り合いで、その手の願い事のせいで酷い目に遭った奴がいるんだ」

 それはさやかの事かい? 彼女の失恋と魔法少女の契約は直接的な繋がりは無かったと思うけど?

「本気で言ってんのかてめぇ…!!」

「あ、あの、喧嘩はやめて―」

 

 ぐぅるるるる

 

「………やめた。喧嘩する気も沸かねー」

 僕はそもそも喧嘩なんてしたくないけどね。確かにもういい時間だからお昼にしようか。契約はそれからでも遅くない。

「クスっ。それじゃあお弁当を出しますね」

「でも、いいのか? 今の話しぶりだとあんた、それをあげる人がいたんじゃないのか?」

「いいんです、また別の機会がありますから。それよりも今は新しいお友達と仲良くしたいです」

「…友達か。お、美味そう」

 綺麗な盛り付けだ。これは食欲をそそるね。

「それじゃあ、召し上がれ」

「んじゃ、いただきます」

 僕もいただこう。君たち人間のエントロピー活用法は本当に千差万別で飽きないね。

 

 

 

 30分後。

 

 ………生きてるかい、杏子。

「………何とかな。どういうことだオイ、魔法少女じゃなかったら死んでるぞ…」

 とりあえず彼女は僕らが死んだものと思って立ち去ったみたいだ。

 もっとも、僕の方は本当に死んで今は別の体なわけだけど。

「…あのおめでたい性格からして、眠ったぐらいにしか思ってないんじゃねーかな」

 まさか。あんな明らかな毒物を食べさせておいて、それはないだろう。

 きっと彼女は僕の真意に気付いていたんだ。死に至るまでの苦痛を内蔵から与え続けるなんて、恐ろしい制裁方法だ。

「あたしは違うと思うけどな。まあ、どっちにしろあれは食べ物じゃねぇ。そんなの、あたしが許さねぇ」

 同感だよ。体は動く様になったかい?

「いや、駄目だ。まだ手足がしびれて動けない」

 そうか。ならしばらくこのまま回復を待つしかないね。放課後以降は彼女を避けて行動しよう。

「せっかく契約できそうな相手なのにか?」

 言っただろ。彼女は僕の真意に気付いて毒物を食べさせた。契約なんかしてくれないよ。

 よしんばアレが純粋な好意だったとしても、契約したら僕は当分の間を彼女の作った食事で過ごす事になる。

「あー成程、そりゃ無理か」

 そうさ。あんな食事を毎日出されたら体のスペアが足りなくなってしまうよ。

 

 

 

 

 実はさっきの教室に素質のある子がもう二人いたんだ。

「へー。どいつだったんだ?」

 えーと、いたいた。あの子だよ。

「おお!? お主ら無事であったか! てっきり天に召されたと思っておったぞ!」

「やっぱ毒物認定だったのかよ!? てめぇらそれでも人間か!?」

「す、すまぬ。じゃがワシらも自分の命が惜しかったのじゃ…」

 杏子の憤りはもっともだけど、その件は置いておこう。今は君に話があるんだ、木下秀吉。

「うむ? ワシにか?」

 うん、どうか僕と契約してほしいんだ。

「契約? 詳しい話を聞かぬ限りは頷けぬのう」

「………いや待て。その前におかしいだろ」

 何がだい、杏子。

 

「こいつ男じゃねーか!」←ボーイッシュ少女

「うむ?」←ガーリッシュ少年(?)

 

「お前が契約すんのは魔法『少女』だろーが! 前提からして間違ってんだろ!」

「少女じゃと? 確かに良く間違われるのじゃが、ワシは男じゃぞ」

 ところが違うんだ。このパンフレットを読んでほしい。

「この学校のパンフ? これがどうし…なんだとオイ」

 見つけたかい? そう、この学校の更衣室は男子と女子、そして―

「秀吉専用ってなんだよ!?」

「ち、違うのじゃ! あれは共に着替える男子から落ち着かないという要望があってじゃな…!」

 さらに男湯、女湯ならぬ『秀吉湯』なんて物まである。

 どうだい杏子。これでも第三の性別『秀吉』というものを否定するのかい?

「ちっ! 確かにここまで徹底してると反論できねー!」

「後生じゃから反論してくれ! ワシは正真正銘の男なのじゃ!」 

 ははは、冗談はそれくらいにしてほしいな。

 さあ、木下秀吉。

 

 僕と契約して、魔法『秀吉』になってよ!

 

 

 

 

 

「………思いっきり殴られたな、お前」

 ………そうだね。杏子だけ無事なのは不可解だよ。

「日ごろの行いじゃねーの? それにしても、あそこはふつーグーパンだろ。なんでビンタだったんだ」

 それこそ彼(仮定)が女性的な一面を持っている証拠じゃないかな。

 まあ失敗したものは仕方ない。最期の生贄…もとい候補者の所へ行こう。

「…お前、もしかしてわざと言ってないか?」

 

 

 

 

 

「やめてよムッツリー二! 最近のニーズが偏ってきたからって僕の写真を量産するなんておかしいよ!」

「………おかしくなんかない。明久の女装写真は間違いなく売れる。これもムッツリ商会の発展の為」

「それよりムッツリーニ、俺はいつまでこいつを押さえていればいいんだ?」

「………最後の一枚を撮るまで待て」

「離せ雄二ぃぃぃぃ!」

「悪いな明久、俺も今月は苦しいんだ。ムッツリーニからのバイト代が生命線なんだよ」

 

「…オイ」

 なんだい?

「今度こそどう見ても三人そろって男だろーが! どうやって契約すんだよ!」

 営業対象は真ん中の女装している子だよ。

 彼はなかなかの因果律、つまり素質を持っている。この世界においてのキーパーソンと言っても過言じゃない。

「そんなに大層なものか…? つーかそんな奴がなんで女装してんだ…?」

 それは僕にも分からない。

 でもその方がエントロピー回収の効率はいいし、僕には好都合さ。

「もう勝手にしろ… おーい、あんたら―」

「………っ! 雄二、後!」

「バーカ、そんな明らさまな誘導に………ウソ、だろ…!」

「………! 馬鹿な…!」

「あん?」

 どうしたんだろうね? 僕と杏子を見て固まってしまったみたいだけど。

 

「で、でたあぁぁぁぁぁーーーー! お化けぇーーーー!?」

「明久ぁ! てめぇがあんな事するから化けて出やがったじゃねぇか!」

「………南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…!」

 

 ああ、なるほど。彼らは僕たちが姫路瑞希の料理で死んだと思っていたんだね。

「主犯は明久だ! 呪い殺すなら明久だけにしてくれ!」

「何を言うんだ雄二! 二人で仲良く罪を分かち合おうじゃないか! 僕が3で雄二が7でいいよね!?」

「ふざけんなこの野郎! さっさと取り憑かれて来い!」

「………俺は無関係…! だからこの二人だけを取り殺すべき…!」

「…キュゥべえ、営業の前にこいつらいっぺん殴っていいか?」

 いいんじゃないかな。どちらにしろ一度落ち着かせる必要があるみたいだしね。

 

 

 ~杏子ちゃん変身&お仕置き中、そしてべえさん説明中~

 

 

『すみませんでした!』

「わかりゃーいいんだ。二度とあんな食い物を冒涜する料理なんか他人に食わせんな」

 まさか魔法少女に変身してまで制裁するなんて、杏子がここまで怒るのも珍しいね。

 でも直接食べさせられた本人には言わないのかい?

「あのお人好しには悪意が無いからな。あたしが怒ってんのはそれを見過ごしてるこいつらだ」

「そんな事言われても、姫路さんを傷つけたくないし…」

「これでも被害は最小に食い止めているんだがな…」

「言い訳すんな!(ダンッ」

『はいっ!』

「………明久も雄二も、女子に甘い」

 将来、女性の尻にひかれる事は間違い無いだろうね。それで、君は杏子を下から見上げて何をしてるんだい?

「………っ! スカートなんて覗いていない!」

「っ! て、てめぇ! 離れやがれー!(ブンブン」

「………魔法少女か。明久の次の衣装の参考にする(ヒョイヒョイ」

「駄目だムッツリーニ! それは秀吉にさせるんだ!」

「………それも捨てがたい」

 やれやれ。君たちの知能が著しく低い事は理解したよ。

「いや、俺も含まれるのは少し心外なんだが…」

「往生際が悪いよ雄二。素直に相手の評価を受け入れなよ」

「うるせぇ馬鹿のナンバーワン!」

 それで、吉井明久。僕と契約してくれる気になったかい?

「契約? ごめん、お仕置きの最中だったせいかよく聞いてなかったよ」

 そうか。一応杏子が一通りお仕置きをした後に説明したハズなんだけど、それなら仕方ない。

 簡単に言うと、なんでも願いが一つ叶うという事だよ。

「本当!?」

「いや待て、他にも色々と物騒な事を言っていた気がするんだが?」

「雄二は疑い深いなあ。相手の厚意はきちんと受け取ろうよ」

「会ったばかりの俺達に厚意を見せる方がおかしいだろうが!」

 とはいえ、願い事がエントロピーを凌駕しないと成立しないけどね。

「…えんとろぴー?」

 ………要するに願い事が大き過ぎると叶えられないという事さ。めったにない事だけどね。

「ふむ、なるほど」

「おい明久。悪い事は言わんから止めとけ。どう見たって怪し過ぎる」

 確かに不審だろうね。でも、僕はそれを含めても益がある条件を提示しているつもりだよ。

「そうだよね。これって千偶一在のチャンスなんじゃないかな?」

「後悔してもしらねぇぞ…」

「ははは、雄二は心配性だなぁ。まさか魂を抜かれてゾンビにされるわけじゃあるまいし」

 ………君は鈍いのか鋭いのか分からないね、吉井明久。

「え?」

 いや、なんでもないよ。

「おー、頑張って営業してんなー」

 杏子、君も頑張ってムッツリの化身を撃退したみたいだね。

「いや、逃げられた。しかも何枚か写真を撮って行きやがった。あいつ本当に堅気かよ?」

 一応普通の人間のハズだよ。

 もっとも、ここは少々不可解な結界が張られているのは確かだから、その影響かもね。

「マジかよ。おっかねぇ所だな」

「…うん、願い事を決めたよ」

 そうか。じゃあ吉井明久、君の魂を賭けるに値するものはなんだい?

「周りから見ればささやかな事かもしれないけど、僕には切実な願い事だよ。これが叶えば別の自分になれる気がするんだ」

 ささやかでもかまわないさ。他でもない君自身の願いなんだから。

 さあ、君の願い事を―

 

 

 

「―僕を、バカじゃなくしてほしい」

 

 

 

 

 

 

「それで、どうなったの?」

 ………今回も駄目だったよ。

「…そう。残念だったわね」

 珍しく慰めてくれるんだね、ほむら。

「ええ。本気で落ち込んでいる相手を責めるほど堕ちていないわ。今までのお前はまるで堪えてない感じだったから、それに相応しい反応をしていただけよ」

 …そうか。確かに、今回は少し落ち込んでいるかな。

「それにしても、賢くなりたいなんて割と簡単そうに思うのだけど」

 僕もそう思っていたよ。

 でも、吉井明久という人間は存在の根底に『バカ』があるんだ。

 それを変える事は世界の因果律への反逆に等しい。それを覆す程の素質が彼には無かった。それだけの話さ。

「世界が決めたバカって事ね。その彼も大変そうだわ」

 同感だよ。

 彼は生涯バカが直らない。直るとしたらそれは世界が改変された時ぐらいだろうね。

「それは幸せなのかしら?」

 どうだろう、少なくとも不幸には見えなかった。

 彼には慕ってくれる友人がいて、好意を寄せる異性もいた。それだけは事実だ。

「そう。じゃあ彼は幸せだわ」

 そうなのかい?

「ええ、きっとね」

 

 さて、これを見ている君はどうだった?

 少しでも楽しめたなら僕も行動した甲斐があったというものだ。

 それじゃあ、また次の機会があれば会うとしよう。その時は別の魔法少女に手伝ってもらおうと思う。

 

「あなた、このタイミングはいつもそっちを向くわね。誰に対して喋っているの」

 企業秘密というやつにしておくよ。

 

 

 

   ~了~  

  


 
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