No.330614

僕は天使と出会う プロローグ

やる夫は天使と出会うのリメイク版

第一章
http://www.tinami.com/view/366303

2011-11-06 17:33:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:695   閲覧ユーザー数:691

 夕焼けに染まる階段を僕は上る。放課後で教室にも廊下にも誰も残っていないせいか、辺りを静寂が支配している。僕の耳に入るのは階段を上る、自分の足音だけだ。

 しばらく階段を上っていると、「立入禁止」とやたら達筆に書かれた看板が、目立たない場所に置かれていた。なんでこんな目立たない場所に置いてあるんだろう。こういう注意書きは普通目立つ場所に置くべきだろうに。こんな目立たない場所に置かれても、気付かないまま屋上に上ってしまうだろう。しょうがない、もう少し目立つ場所に移しておいてあげよう。

 そこでふと気付いた。こんな看板があるくらいなんだから、普通に考えれば屋上の鍵は閉まっているだろう。そうなるとこれからの計画に支障が出てしまうのではないだろうか。

 計画を変更しようかどうしようかと悩んでいるうちに、屋上へとつながっている扉のある踊り場まで来てしまった。一応、念のためにドアのカギを確認してみる。

 良く見るとこの扉、内側からかけるタイプの鍵だ。つまり、誰でも屋上に出ることが可能だということだ。しかし、立入禁止にするくらいなんだから、鍵をつけ替えるとかなんとかしないのだろうか。

 ともかく、僕の心配は杞憂だったと安心したところで、僕はドアノブを回し、扉を開いた。

 

 扉を開くと、そこには一面真っ赤な空が僕を待っていた。周りには高い建物はなく、その雲ひとつない真っ赤な空は鮮やかに僕を包み込む。今の僕の心に余裕を持てていたのならば、いつまでも見ていたいと思うほどの鮮やかな光景だ。

 風も少し強めだがこのくらいだったらすごく気持ちいい。少し肌寒い空気が、僕の心をより落ち着かせる。

 っと、こんなにのんびりしている場合じゃない。僕にはやらないといけないことがあるんだった。

 やるべきことを思い出したところで、一歩一歩、ゆっくりとだけども確実に前進し、やがて屋上の縁に立った。

 そこから見える下の世界はとても怖くて、足がすくんでしまう。けれども、そんなことは関係ない。

 

 だって今から僕は――自殺するのだから。

 

 震える足を鎮めるため、僕は深呼吸を繰り返す。吸って、はいて、すって、はいて……。しばらくするとこんな風に深呼吸をしていると僕の足の震えは止まった。

 でも今度は足が動かなかった。あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず。

 こんなことになるのは僕に覚悟が足りないからだ。まったく……こんな世界生きていても碌なことがないというのに。

 僕は眼を閉じて覚悟を決める。

 一度大きく息を吸って、そしてゆっくりとはいて、目をゆっくりと開ける。

「I can fly.」

 そう呟いて、屋上の縁から一歩を踏み出した。

 

 自由落下している間、スローモーションの世界に僕は紛れ込んでいた。所謂これが走馬灯と言うやつなのだろうか。

 地面が近づくまでに、僕の頭をよぎったのは、僕の両親の顔だった。

 ああ、そうか……未練があるとしたら、両親に謝ることができなかったことだろう。

「父さん……母さん……先立つ不孝をお許しください」

 そう心の中で謝った。

 

 ふと僕は屋上の方に目を向けると、そこには白い翼を広げた、綺麗な天使がそこにいた。

 ああ、こんな綺麗な天使が僕を迎えに来てくれるなんて、僕は報われたのだと、そう思った。

 

「駄目――!!」

 

 そして世界は暗転した。

 


 
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