三国同盟後(平和)の世界設定で、本ssは始まります。
「蜀の軍師、諸葛孔明様は、嘗ての名軍師、張良をはるかに凌駕する才知を誇り、しかも、人としても優れているという、まさに完璧なお方です!」
どんな時でも、そんな言葉から話を始める娘(こ)が居る。
それは、その言葉から察せられるとおり、諸葛亮(朱里)を心から、一切の嘘偽り無く、尊敬しているが故であろう。そして、また、真に尊敬する相手であれば、憚ることなく大声で褒め称える事が出来る所から、この娘(こ)本人にも性格に嘘偽り(陰)はないであろう。
そういう意味においては、この娘は実に「良い娘」なのである。
ただ、先ほどの言葉は続きがある。
そして、それが実に「悪い」。
「そして、私は、その孔明様の、一番弟子の馬謖なのです!!」
この娘は、そういいながら。
自分は「偉い」との感じで、腰に手を当て、他者を見下ろさんとばかりに顔もそらして、踏ん反り返ってしまうのだ。
もちろん、この娘自身は、別に自分が偉いとは思っておらず。
ただただ、朱里の一番弟子である事の「喜び」を、動作に、口にしているだけなのだが(ある意味、彼女の「アイデンティティ」の発露でもある)。
とはいえ、そんな真意は、この娘との付き合いが深い人(この娘が露骨な事知る)しか理解できず。
彼女と関わりの薄い人からすれば。この娘のその発言、態度は、極めて簡潔に表現すると『虎の皮を被る・・』であり(この場合の虎は朱里=蜀の最高幹部)。彼女は、その台詞を口にする度に、周囲から顰蹙を買っている。
「だから、軍略の全ては、私に任せたらいいんです!」
とはいえ、この娘は、その事に気付いているのか、居ないのか。
そんな事を口走りながら、自身の洗濯板の胸を「ドン」と叩く。もちろん、周囲の反応は薄い。いやっ、歴戦の将軍達の中には、『戦場をまともに知らぬ文屋がなにを!』との感じで、露骨に軽蔑の目をしている者が居る。
ただ、将軍達の、その態度も最もで(裏づけがある物で)。
つい数日前も、この娘は『一番弟子の、私に任せなさい!』等と、言いながら。俺達を窮地に追い込みかけた(包囲、孤立化させられる恐れがあるのに、敵より高い地点からの攻撃が戦術の基本と言いはり、全軍を「山」に向わそうとした。もちろん、この娘、「馬謖」の口から「山」とい言葉が出た時点で、俺は無理矢理に止めたが)。
「北郷将軍!で す か らー、今日こそは「私の」指示どおりに従っていただきます!!よろしいですね!!」
止められた事が悔しかったのか。
この娘はやけに「私」の部分を誇張しながら、俺にそう言って来た。
てか、君は指示通り動けっていうけど。
俺、一応、君の上司なんだけどなー。
「「・・」
嗚呼、将軍達の目つきが余計厳しくなった。
軍隊は、上下社会だからなー。上司の俺に対する、この娘の態度も将軍達には不快なんだろう。
「(北郷将軍、あの文屋(馬謖)注意してくれ。さもないと、我らが拳で馬謖を正す)」
・・言葉には発してないけど。
確実にそういう目を俺に向けてるよ、将軍達。特に、王平将軍なんで頭に血管が浮かんでるもん。
「北郷将軍は、孔明様の夫の癖に、軍略は全然駄目ですからねー。その事をさっさと御自覚なさって、指揮権を全面的に私に譲られるが、愚人が唯一救いですよ」
愚人って。
俺の事?だよね・・。
「「「「・・・(怒)」」」」
てか、うわぁー。
再びの上司への暴言で、王平将軍達は当然として。
義勇軍時代から、俺と苦労を分かち合ってきた将軍達も怖い目し始めたよ。
比較的、温厚で人のいい将軍達ばかりなのに・・。
こ、この娘。
たった、数日でよく、これだけの人間に嫌われる事ができるな。
うん、俺の中で、この娘のあだ名『人間湯沸し沸騰機』に決まり。
「なーに、ドーンと任せなさてください。孔明様の寵愛を奪う憎い敵とはいえ、貴方が死ねば孔明様が悲しみます。この馬謖、孔明様の一番弟子として、不快ですけど、貴方の身に危険が迫らぬよう、敵を鎧袖一触にしてみませますよ!」
いや、ま、まあ、でも・・。
やっぱり。芯はいい娘なんだろうなー。
俺を「守る」と言ってくれる、その瞳は真っ直ぐよどみなく俺を見詰ている。
真っ直ぐ過ぎて、こちらが照れてしまいそうなぐらいに。
・・なんだか、その発言で、将軍達に目も若干穏やかになったかな。
王平将軍の血管も、浮かんでないようだ・・。
「だから、北郷将軍は、後ろで茶でも飲んでいてください。前線に居ると邪魔ですから」
あっ、血管復活。
しかも、将軍達の目も、再び険しくなったし。
いやっ、王平将軍以外の血管もちらほら見えているし、さっきより状況悪い。
「どうしました、北郷将軍?急に汗を流して」
こ、この娘だけ、気付いてないけど。
凄いよ、今、この場の空気。
下手すりゃ、鉄拳制裁の嵐になるよ。「嵐の前の静けさ」て、言葉、そのままだよ。
てか、逆に、なぜこの空気を気付けないんだ、この娘は。
俺なんて、この娘のご指摘どおり、冷や汗で一杯なのに。
「もしや、私の軍略の才能に恐れて汗を・・」
なにをどうやったら、そういう考えに結びつくんだろう、この娘は・・。
ほら、周りを見てみなよ、皆、君を睨んでるよ。
後頭部に死線(視線)感じないかい?
「まあ、その気持はわかります」
「ぜ、全然、感じてないんだね」
「はっ?急になんですか?」
「い、いやっ、なんでも」
しゅ、朱里、ごめん。
俺、この娘、「教育」できる自信が全然ない。
馬謖
この娘は、朱里の一番弟子を名乗るだけあって。秀才であり、古今の戦略戦術を学び、その理論は優れている。しかし、それは、あくまで学問上のことであり、現実では計画倒れになる事が多い。だが、その点は経験が補うべき所であり。実際、今も、経験を積むため、俺の副官として蜀を騒がす盗賊団征伐に向っているのだが。
ただ、先ほどからの発言、行動で分るように、この娘は「性格」に重度の問題がある。
「自意識過剰」、「KY(場の空気を察せられない)」、「コミュニケーション能力欠如」、などなど、他にも細かい問題はあるが、以上の3点が主要な問題である。
まあ、要するに。
「人付き合いが壊滅的に下手」
なのである、この娘は。
そのため、この娘の師匠である朱里からも前々から『人として鍛えてやって欲しい』と言われているのだが・・。
俺も、この数日間で、さじを投げたいぐらい、彼女の壊滅的な、人との接し方に悩まされている。
とはいえ、重大な欠陥はあるが、あくまで、この娘は蜀の次代を担う能力があるはずなので、俺達が気付いたこの平和(三国同盟)な、社会を引き継いで貰う為にも、頑張って、育てないと行けない。
それに、彼女の最期を知る、俺からすれば、今の彼女は、俺の世界通りの結末を迎えかねない危うさ(人の意見を聞かず、自滅しかねない)もある。問題は多い娘だが、俺の中では、この娘の朱里へのひた向きな態度で「いい娘」という思いも高まってきており、余計、さじを投げる、見捨てる事は出来ない。
だから・・。
「蛇に睨まれる蛙の如く。愚人である北郷殿が、天下の才人である孔明様の、一番弟子である私を恐れるのは必然な事です。でも、私は蛙相手にもやさしいですから、そんなに恐れる必要は無いんですよ」
「「「「「「「・・・(憎)」」」」」」
そういいながら、「大丈夫」だと云わんばかりに、「バシバシ」と、俺の方を叩くこの娘の壊滅的な「人との付き合い方」と。
将軍達の、「怒り」から、「憎悪」に切り替わった、この空気の狭間を我慢しなければならない。
そう・・我慢しなければならない。
「さーて、では、早速ですが今日は、敵を打つため山に昇り」
「「「「「「「・・・(憎!!)」」」」」
・・俺、我慢できるかな?
後日談
数日後の、蜀軍本陣。
「相変わらず、私の軍略を取り入れない凡愚な北郷将軍に対して、偉大なる孔明様から援軍が派遣される事となりました」
「は、はぁ・・、そうなの」
もはや、この程度(凡愚とか愚人)は聞きなれたので。
俺は、要点以外、聞き流しながら受け答えをしていた。
「この竹巻に援軍を率いる将官の名前が書かれています」
「えーと、なになに・・」
1 姜維
2 李厳
3 楊儀
4 法正
「なんだかずいぶん変な援軍だな(文官が異様に多い)
「確かに、孔明様の弟子の詐称する姜維と、孔明様のコバンザメの楊儀と・・。孔明様にしては、邪魔にしかならない援軍を送ってきましたね」
「じゃ、邪魔って、い、いやっ・俺は・そんな事(ん・・?竹巻の端のほうに小さく何かが書いている)」
『極秘任務』
上記の4名の教育係に任命する。
2は、いい加減な所を直して欲しい。
3は、心が狭い所を直して欲しい。
4は、性格に問題がありすぎるので直して欲しい。
1は、馬謖+2、3、4は、さすがに可哀想なので、まとも(姜維)なのを副官に一人つけます。でも、1も、ちょっと生真面目すぎる嫌いが。まあ、比較すれば、他の3人よりましです。
『ということで。各々、才能は素晴らしいので・・性格だけどうにかしてください。御主人様』
あなたの、朱里より・・。
「・・・」
「どうなさいました、北郷将軍、鳩が豆鉄砲を押付けられたみたいな顔して?」
以降。
北郷には「北郷再生工場」との、不本意なあだ名をつけられる事となった。
あとがき。
今回は、シンプルに書いてみました。
ネタは、あのボヤキ監督から、思い立ちました(笑)。
※『TINAMI』さんと『小説家になろう』さんで、同時掲載作品です。
具合を確かめる為です。
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馬謖を恋姫風に・・ssです。
馬謖が残念すぎるので、ファンの方はご注意を。