No.329642

ひざまくら

ナシカさん

境界線上のホライゾン中心、川上作品オンリーイベント「近しき親交のための同人誌好事会」にて無料頒布したコピ本の、最上義光が里見義康を膝枕する話です。義光いいですねー義光。下の情報が出て不安に駆られてきたのでさっさと公開しちゃいました。

2011-11-05 00:05:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1953   閲覧ユーザー数:1903

 

 最上家旗艦〝山形城〟の屋上。

 その中央にて、最上義光は里見義康を膝枕した状態で座っていた。

「やれやれ、酒に弱いんだのう」

 従士の方が飲んでいた甘酒がいい加減羨ましくなったのか義康も所望してきたので、与えつつ悪戯心で間に酒を混ぜたらすぐに倒れてしまった。

 その後、酔い止めの符を与えてこうして膝枕をしてやっているのだが一向に起きる気配がない。従士は心配そうな顔をしていたが、自分が見ておくので気にしないようにと部屋へ帰らせてある。

 しばらくは黙ってずっと眺めているだけだったが、

「全く、可愛い寝顔をしおって」

 ふと、頭を撫でてみる。ふわふわと感触を返すのは、見た目の割にしっかりと手入れが為されている柔らかな青い髪。一部押し返すような抵抗があるのは、犬耳のような部分だろうか。

 ――いつも思うが、この髪型は里見だからとわざとやってるのかえ?

 その割に犬と呼ぶと嫌がるのだからよくわからない。実はこれは天然で、昔それが原因でいじめられでもしたのだろうか。

 ならばそれはそれで、開き直って〝里見の犬〟とでも大人しく呼ばれていれば通り名として丸く収まるだろうに。

「くはは」

 そう言ってやったらするであろう嫌な顔が頭に浮かび、目の前の安らかな寝顔との違いに軽く笑ってしまう。

 ――まあ、客人であるしあまりからかいすぎるのも良くないかのう。

 起きていたのなら絶対に触らせないであろうなあと思いつつ、再び何度も優しく頭を撫でてやる。

 軽く身じろぎしながらも、少しばかり表情が緩んだのは気のせいだろうか。

「幸せな夢かえ?」

 緩む寝顔を見て、そう独り言のように問うてしまう。それはもはや癖のようなもので、

 ――駒姫に、よくやっていたことだからのう。

 思わず、その頃のことが頭に浮かんでしまう。

 幼かった頃などはせがまれ、そして寝てしまうまで頭を撫で続けてあげたものだ。寝てしまった後も撫で続けていると、こんな風に表情を緩ませていた。

 そして起きると決まって楽しそうな顔をしていて、ああ幸せな夢を見ていたのだなと思ったものである。

 あの子が大きくなってからはさせてくれることはなくなったが、疲れて寝室以外で眠ってしまったときなどこっそりやってあげていて。そのときも変わらず表情を緩ませていて。

 ――我の手にはと幸せな夢を見せる力でもあるのかのう。

 駒姫に関するいらぬ記憶まで呼び覚まさぬうちに、それを消すように自らを茶化して笑う。

 そして、再び膝元へと視線を向け、

「しばし、ゆるりとこのままで。な?」

 寝顔へと呼びかける。

 身の回りが激変し、色々抱え込んだままここへと派遣された身。

 思うこともあろう。

 悩んでいることもあろう。

 だが、寝ているときくらいはせめて幸せでいるといい。

「それが子供の特権、ぞえ」

 と、声に反応したのか義康が少し身じろぎをし、起きてしまったのかと身構えるが、

「んぅ――」

 少々体勢が変わっただけで、どうやら目が覚めたわけではないようだ。むしろこちらの方へとさらに頭を預けるようになり、より無防備さが増した風になっている。

「やれやれ、そんなに我の膝枕が気持ちいいかえ?」

 呆れたように言いながら、しかしそんな様子に笑みを浮かべてしまう。

 と共に、体勢が変わったことによりこちらへと剥き出しにされた喉元を見て悪戯心が湧いてしまい、

「この犬め」

 まるで犬を喜ばすように、喉の下辺りを撫でてやる。

 しかし、当然なのだが義康はあまり良い表情をすることはない。

「ほほほ、さすがにそこまで犬ではないかえ」

 また手を頭へと持っていき、撫でることで緩む義康の表情を見て再び笑い声を漏らす。

 しばらく撫で続けて反応を楽しんでいたが、不意に手を止め大きく欠伸をした。

 ――うむ、少しばかり眠くなってきたのう。

 酒のせいだろうか。しかし、義康を起こすのもその後の反応を考えると億劫であり、

「まあ、こやつより早く目が覚めればいいだけの話。先に起きられてもそれはそれで面白そうだしのう」

 そんなことを呟きながら、動くことなく目を閉じた。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 頭の中からの鈍い痛みを感じつつ、義康は意識を浮上させる。

 何故か身体の中に熱を感じ、その感覚に表情を少し歪めてしまう。

 風邪のようなそうではないような、この身体の芯が蒸し暑い感覚はつい最近感じた気がするのだが、どうも思い出せない。

 ここはどこか。自分は何故今横になっているのか。

 考えることが辛いながらも頭に浮かべつつ、とりあえず現状を把握しなければと目を開いてみる。

 すると当然ながら眩しさが瞳へと入ってきて、目を細めてしまう。

 そんな細まった視界の中で見えるのは、その眩しさを背負うようにした影で。

 ――以前もこんなことがあったな……。

 そのシルエットから察するに、膝枕をされているようだ。目の前にある陰りつまり胸はやはり自分より大きく、しかし記憶にあるものとはどちらも違っていて、

「義光……か」

 さすがに想定外の膝枕の経験も二度目となれば、驚くことなく相手を確認する余裕も出てくる。

 あの狐がわざわざ自分などに膝枕しているのだから、きっとこちらをニヤニヤとした顔で眺めているのだろう。

 それにこの熱の感覚は酒から来ていることも思い出した。甘酒しかもらった覚えはなかったが、義光のことだからこっそり本物の酒も寄越してきていたに違いない。

 ならばとりあえず一言言ってやらねばと義光の顔をしっかり見やって口を開こうとしたが、

「――――」

「寝ている、のか?」

 その目は閉じられ、少し開いた口からは規則正しい寝息が聞こえてきている。

 ――まさか、向こうの無防備な様子が見られるとは。

 思っていたのと違う状況に戸惑いつつ、本当に寝ているのかどうかしばらく眺めて確かめてしまう。

 しかし一向に動きを見せる気配はなく、どうやら本当に寝ているとしか判断できないようで。

 ――ど、どうすればいいんだ!?

 逆に混乱してしまう。

 もちろん目が覚めてしまった以上は膝枕から抜け出して起きるのが普通なのだが、もし動いて起こしてしまったらと思うと少し躊躇われてしまうのだ。

 別段気遣うほど仲の良くない相手なのだからとも考えてしまうが、身体に貼られている符の感覚から酔い止めなどの看病をしてくれたことが読み取れて、

 ――仕込んでおきながらそんなことをされると、強く出られぬではないか……。

 だから動けない。

「全く――」

 いつもは人をからかい、余裕な表情でこちらを見ている側だというのに、これでは調子が狂ってしまう。

 結局は動かないことを選択し、頭の下にある柔らかさに身を委ねるようにしながら、

「でもまあ、義光も寂しさなんかを感じているのかもしれないな」

 かつては駒姫にこうしていた時期もあったのだろう。膝枕など、してあげるのは普通ならば恋人か自らの子くらいだ。

 しかし、それを少なくとも愛娘に行うことは永遠に失われて。

 表向きには出さないようにしながらも、喪失感や寂しさといったものは確実にあったに違いない。

 だから、ちょうど同じくらいの年頃の自分に同じように膝枕をすることによって、その寂しさを紛らわせようと考えたのではないか。

 そう思うのは、考えすぎだろうか。

 ――同情しすぎかもしれないな。

 自分も姉を失い、その後初めて膝枕をされたときは姉のことが思い起こされてしまったようで恥ずかしい思いをした。

 しかし、それで思い起こされたのは事実であり、寂しさのようなものが紛れたかと聞かれれば否定することは出来ない。あのまどろみの中で、確かに自分は相手を姉だと認識していたのだ。

 だからこそ、いくらからかわれようと策を仕込まれようとこんな気持ちになってしまうのかもしれない。

 ――現にこうしていると私も少し懐かしい気持ちになってしまうのだしな……。

 まるで傷を舐め合うようだ、と少し自嘲気味に笑ってしまう。

 失われたものを埋め合う行為。

 ギブアンドテイクの相互関係。

 もちろん、これはただの自分の思い込みなのかもしれない。ただ単に、こちらの寝顔を見飽きて眠ってしまった場面に出くわしただけなのかもしれない。

 それでも、

 ――まあ、しばらくはこのままでもいいだろう。

 思いつつ、目を閉じる。

 別に害があったとしても、寝顔を見られるくらいのことなのだ。もう既に見られているであろう身としては、これ以上どれだけ見られても問題はない。

 その柔らかさに委ねるように。

 その温かさに委ねるように。

 義康は再び眠りへと落ちていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 義康が深い眠りへと落ち、再び場が静寂に支配された頃、

「――いらぬ気遣いをしおって」

 ぱちりと目を開け、義光がそう苦笑しながら顔を上げる。

 その表情には寝起きの色などは全く見られない。

「こうしておれば驚く顔や面白い反応が見られるかと思ったんだがのう。面白くないやつめ」

 そう言い、わざとがしがしと頭を強く撫で回してやる。

 しかし熟睡状態へと入った義康は起きることはなく、その刺激に顔をしかめただけだった。

「だがまあ、こうしているのも悪くはない、かえ」

 そう言い、再び優しく頭を撫でる。

 それは義光が飽き、いい加減起きるぞえと膝を抜くまで続けられた。

 もちろん、その後頭を強打した義康と言い争いが繰り広げられたのは言うまでもない。

 

 
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