No.327181

外史異聞譚~反董卓連合篇・幕ノ二十七/洛陽編~

拙作の作風が知りたい方は
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2011-10-31 15:44:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3721   閲覧ユーザー数:1901

≪洛陽宮中・天譴軍陣内/劉玄徳視点≫

 

複数の来客があるという事で、私達は結構待たされる事になった

 

急に押しかけた訳だし、門前払いされなかっただけでもありがたいと言うべきだと思う

 

お茶菓子も用意してくれて、不都合がないようにと使用人の人もつけてくれている

 

孟起さんはちょっと気が急いてるみたいだけど、先日とは違ってかなり落ち着いてはいるので大丈夫そうだ

鈴々ちゃんと一緒で、じっとしているのが苦手みたい

 

「こういうのって苦手なんだよなあ…」

 

とか呟きながらそわそわしてる

 

地味に愛紗ちゃんもこういうのは苦手なんだけど、愛紗ちゃんの場合は自称で岩のような信念があるので、表向きは落ち着いてるんだよね

これが“可愛いもの”だったら多分負けてると思うんだけど

 

かく言う私も実はそわそわしっぱなしで、何度か愛紗ちゃんに嗜められてたりする

 

でも、なんていうか、仕方ないと思うんだよね

 

相手は陛下に並ぶようなお偉いさんな訳だし、ここで心証を害したらやっぱり後に響くかなとか、考えちゃうもん

朱里ちゃんが言うには

 

「今更会談でどうこうしたところで処遇が変わるような事は、余程の非礼が無い限りはありえないはずですよ」

 

という事なので、ドジを踏まないようにしないといけないよね

 

 

そんな訳でようやくお呼びがかかって、案内されて行ったんだけど、詮議のときのような張り詰めた感じは全然なくってほっとした部分はあると思う

これはちょっと慣れると見て取れるんだろうけど、席次も決まっている感じがあまりしない

私達よりなんというか、いい加減…

違うなあ、上下の差がないような気がする

 

愛紗ちゃんや孟起さんは、逆にそれが馬鹿にされていると感じたみたいで、少し顔に出ちゃってるけど、それを気にした様子もないのが以外だった

 

ふたりとも真面目なので、やっぱりそう感じるのかなあ

 

とりあえず、時候の挨拶と急な訪問をお詫びして、快諾が得られたところでお話しに入る事にする

 

それで、そこはどうしてもせっかちになりがちな孟起さんと最初に打ち合わせていた通り、涼州の事については伯瞻ちゃんを朱里ちゃんが補佐する形でお話しさせてください、という旨を伝えてみたところ、これにも快諾を得られて少しびっくりした

普通なら、どうして無縁の私達が出てくるのか、という話になりそうなものなんだけれど、どうも天譴軍の人達の表情を見る限り、その部分はどうでもいいと思っているみたい

眼中にないって言うのかな?

会話をする気がないのじゃなくて、会話にならないだろうと思っているような、そんな感じがする

 

「で、では、お話をさせていただきたく思いまひゅ!」

 

あ…

朱里ちゃんまた噛んじゃった

 

「その前に聞きたいんだけど」

「お話しするのはいいんだけど」

『煙に巻かれるのは嫌だから、話の目的は聞いてもいいかな?』

 

左側の席でぴったり寄り添う感じのふたりからの言葉に、朱里ちゃんがすっと視線を落とす

……出鼻をくじかれちゃったかも

 

「はい、私達は別にお話ししたい事もあるのですが、まずは涼州に対する誤解を解いていただく努力はさせていただいて、その上でお力添えを願えればと思います」

 

朱里ちゃんの言葉を聞いた瞬間、一気に場の空気が弛緩した

 

それはみんなも感じたみたいで、私も含めてきょとんとしてる

 

朱里ちゃんの言葉に答えたのは、同門だっていう徐元直さんだ

 

「孔明、同門の誼で忠告するけど、それって不可能だよ」

 

え?

 

同じく同門だという向巨達さんも頷いている

 

「こう言うと酷いと思えるかも知れないけど、涼州の処遇に関しては口添えどころか僅かの擁護もできないよ、孔明ちゃん…」

 

これって話をしてくれる気がないということ?

 

呆然とする私達に、溜息をついて天の御使いさんが説明をはじめてくれる

 

「問題となっているのは涼州諸侯が相国や俺達、そして陛下に対して執った態度そのものなんだ

 そこにどういう意図があったかとか、それを論じる機会はとうの昔に過ぎ去っている

 事情の斟酌をして欲しいという意味での会話ならする価値すらないよ」

 

えっと…

つまりどういう事?

 

悩む私と違い、朱里ちゃんは顎に指を当てて頷くと、確認を取る

 

「私の話し方がまずかったですね

 つまりは、処遇そのものではなく、その後の扱いについてお話しをさせていただきたいのです」

 

それなら理解できる、と頷く御使いさん達と対照的に、慌てる孟起さん達

でも、さすがにここで声を出すのはまずいと思ったのか、ぐっと言葉を飲み込んでくれている

 

「とは言っても、涼州の事情を知らないと思われるのも癪なんでね

 俺達が知っている限りの事は話そうか

 足りない部分は補足してもらうって事で構わないかな?」

 

やってみろよ、と小声で呟く孟起さんと頷く朱里ちゃん伯瞻ちゃんを見て、御使いさんは話しはじめる

 

涼州は現在、五胡の襲撃に備えて基本的には動けないこと

諸侯が相国や陛下に与しなかった理由は天譴軍の存在にあること

涼州諸侯筆頭の馬一族当主・寿成が体調を崩していて涼州を動けないこと

諸侯連合に与した理由はあくまで陛下の安否を確認するためだったこと

 

補足する部分は何もないのでみんな黙っていると、御使いさんは断言した

 

「だからこそ、涼州に手心を加えるような真似は俺達にはできないんだけどね」

 

この言葉に何かを言おうとする孟起さんと伯瞻ちゃんを制して、朱里ちゃんが尋ねる

 

「それは、涼州諸侯の忠義が疑われている、という事ですよね?」

 

「有体に言えばそうなる

 君達が陛下の立場だったらどうかな?

 『見事な忠義である、よくぞやってくれた』

 なんて言えると思うかい?」

 

この言葉には私も含めてみんな沈黙するしかない

 

「これでまだ、袁紹の唱えた正義を信じて集ったというのなら、こちらとしても譲歩のしようはあった

 それは後日下達される処遇で判ると思う

 涼州は陛下への忠を謳うなら、その方向を間違えたんだよ」

 

御使いさんは言葉を続ける

 

「そもそも、俺達が信用ならないというのなら、それまでに俺達がなにをしてきたか、涼州は確認をしたことがあるかい?

 俺達は宦官官吏の謀略に巻き込まれた陛下と相国に手を差し伸べ、それが善政であるように導き、共に歩こうと言っただけだ

 五胡とも協調を計り、被害をなくそうと努め、その為に相国には便宜を計ってもらったりもしている」

 

そして視線で問いかけてくる

これで尚、天譴軍を認めなかった涼州諸侯に与する理由がひとつでもあるのか、と

 

漢室への忠義を謳うのなら何を置いても洛陽に参じるべきだった

天の御使いが認められないのなら、遠回りに言うのではなく袁紹のように軍を起す覚悟で弾劾すべきだった

どちらも執れないのであれば、益州の劉焉のように徹底した中立をするべきだった

 

結果として本初さんの権勢に阿る形になった以上、何を主張しても信じられるものではない

 

そう視線で伝えてくる御使いさんに、ふたりは唇を噛み締めて俯いている

 

「つまり、処遇については俺達から言える事はなにもないし、その後については涼州諸侯の態度次第だ

 俺達から譲歩できる材料はなにもないよ」

 

私は疑問に思ったことを聞いてみる

 

「それって、涼州の人達が天譴軍を認めるかどうかって事ですよね?」

 

「そういう事になるかな

 ただし、これは明確な事実としてだけど、俺は“天の御使い”として陛下に直接物事を言える立場にある

 その事実を飲み込めるかどうかだと思うけどね」

 

一見上からものを言っているように見えるんだけど、その視線は対等にものを言っている人のそれだ

 

俺達を見下していたのはお前らだ、とその視線は言っている

目線を合わせてからものを言え、というのは正しい

 

朱里ちゃんと視線を合わせると微かに首を横に振っている

これは孟起さんや伯瞻ちゃんだけで答えられる問題ではないし、漢室が涼州の忠義を疑うなら一戦も辞さずというのが涼州の出した答えだったからだ

寿成さんは沙汰によっては歩み寄るべきだと言ったのだそうだけど、涼州は元々気性の荒い土地柄で五胡との混血も多く、中央から蛮族に近い扱いを受ける事に不満をもっている諸侯も結構いるのだそうだ

 

「いくら母樣が涼州で名望があるっていっても、今はそういった不満を完全に抑え込める程ではないんだよ」

 

涼州からの早馬が来た時に、悔しそうにそう呟いた孟起さんの言葉が蘇ってくる

 

 

この話はこれまで、という感じで御使いさんが暢気にといえるくらい重くなった空気を無視して私達に話しかけてきた

 

「それで、劉玄徳の話っていうのは何かな?

 処遇がどうこうという話ならここで終わりなんだけど」

≪洛陽宮中・天譴軍陣内/関雲長視点≫

 

錦馬超には申し訳なく思うが、我々にできる事はここまでが限界だろう

 

桃香さまにはいくつかお考えがあるようだが、どうせ桃香さまの事だし、また無茶な事を考えておられるに決まっている

少しは心配する身にもなって欲しいと思う反面、そうでなくてはお仕えする価値もない、と考えている自分がいるのも確かな事だ

 

私にできる事は、桃香さまの理想や考えた事を、私に可能な範囲で手助けする事

ただそれだけだ

 

御使いとやらが私達に話を振ってきた事で、場の空気が少し変わる

 

いうなれば、それは期待、だろうか

 

無駄な時間を過ごさせてくれるなよ、と天譴軍を名乗る連中の視線が訴えている

 

桃香さまは多分、錦馬超の事も諦めてはいないだろうが、それでも一度話題を変える必要はある

 

私は朱里が頷くのを確認し、予定通りの言葉を紡ぎ出す

 

「我々からお願いしたいのは、状況が落ち着きましたなら、漢中を訪問させていただきたいという事です」

 

私の言葉に面白そうに答えたのは、高忠英という片眼鏡の人物だ

 

「訪問、ときたか

 具体的には何がしたいのかね?」

 

事前に朱里と雛里より

「これに関しては腹芸は必要ないので愛紗さんが説明してください」

と言われている

 

これにはいささか思うところがないでもないのだが、下手に言葉遊びをするより真面目で実直な私が向いている、と言われているのだ

なんとなく納得がいかぬのだが、確かに私は腹芸などは苦手なので渋々頷いたという次第だ

 

「はあ…

 ここ数年での漢中の豊かさは聞き及んでおりますので、我々も参考にできる部分があれば学びたいと思いまして」

 

天譴軍の全員が、これに興味津々といった顔になる

私はそんなに意外な事をいったのであろうか…?

 

「学ぶ、ときましたか…

 果たして可能なんですかねえ

 くきゃきゃきゃきゃ!」

 

むう、反乱の時も思ったが、やはり気に障る御仁だ…

 

「その気があれば不可能ではないと思いますが…」

 

そう答えたのは任伯達殿、だったか

 

「そうですねー

 漢中という実例があるので無理ではないと思いますが、どうなんでしょう?」

 

令則殿が困ったように考え込んでいる

 

見れば全員が「他で可能なのかどうか」について考えているようで、私は困惑せざるを得ない

見れば朱里も桃香さまも困惑しているようだ

 

「はわわ…

 あの、お聞きしてもいいでしゅか?」

 

いや、ここで緊張して噛んでどうする、朱里

 

朱里の噛み癖を知っているのだろう、向巨達殿がその質問に答えてくれる

 

「あうあう…

 慌てなくてもいいよ、孔明ちゃん?」

 

ふと思ったのだが、朱里といい雛里といい巨達殿といい、水鏡塾の出身者の噛み癖や口癖などがどうにも小動物を思い起こさせるのは私の気のせいなのだろうか…

 

………いかんいかん!

ここで見蕩れてどうする関雲長!!

 

私が気を引き締め直す間に、朱里が先を促された問いを口にする

 

「えっと

 その…

 そういうのは機密ではないんですか?」

 

「まあ、機密といえばその通りなんだけどね

 知ったからといって簡単に真似できるものとそうでないものがあって、ボクらのやってる事は後者なんだよね」

 

仲業殿の答えに全員が頷いている

元直殿がそれを継ぐ形でさらりと聞き捨てならない事を口にした

 

「曹孟徳なら逆に即座にやってのけるだろうけど、劉玄徳殿だとどうかな?」

 

桃香さまを軽視しての言葉なら許し難いところだが、どうもそういう雰囲気ではない

どちらかというと、孟徳殿との個性というか、そういうものを指摘されたような気がする

 

「えっと、それって私には無理って事ですか?」

 

桃香さまの疑問に、元直殿が頷く

 

「まあ、これは玄徳殿のせいではないし、多分孔明や士元がそこらは上手にやるとは思うけどね」

 

どうにも要領を得ない

一体何が言いたいのだろうか

 

「まあ、訪問したいっていうなら断る理由はないんでないかね?

 ちょっと見たところで理解できるとも思えんけどさ」

 

忠英殿の言葉に皆が頷いている

 

「そういう事で、訪問自体は時節を選んでもらえれば歓迎しますよ、劉玄徳殿」

 

御使い殿があっさりと了承を示す

この場合の“時節”とは、きちんと事前に訪問時期と期間と人数を指定してこい、という意味だ

 

この言葉に桃香さまが喜色を示す

 

「ありがとうございます!

 必ず勉強させてもらいに行きますね!

 それでなんですけど…」

 

『?』

 

私達も含めて全員が首を傾げる中で、桃香さまが言う

 

「それって、涼州の人達も一緒でもいいんですよね?」

 

なるほど、いかにも桃香さまらしい

桃香さま自身はお気付きではないだろうが、ごく自然に先の交渉の糸口を作ってしまわれている

御使い殿達もそれに気付いたのだろう、苦笑している者が大半だ

当の桃香さまと錦馬超だけがそれに気づかないでいるのが面白いと言える

 

「なるほど…

 それは断る訳にもいかないよな」

 

笑いながらそう呟いたのは張公祺殿、だったな確か

 

御使い殿も苦笑しながら頷いている

 

「涼州の方々にもその意思があるのなら、お断りはできないね

 その時は遠慮なくどうぞ」

 

錦馬超がこれを材料に諸侯をどう説得するかはまた別の問題だが、少なくとも糸口を残す事はできたという事だ

 

この後、後日改めて会食を、とのお誘いを受け、我々は大いに面目を施した形で会談を終えた

 

機嫌良く帰路につく桃香さまと、天譴軍の陣容と思考法に触れる事ができた事で後の方策が組めるようになったと喜ぶ朱里、とりあえず最悪の事態は避けられるようだと安堵している錦馬超とその従妹を見ながら私は誇らしげに胸を張る

 

 

これあるかな、我らが桃香さま、と

≪洛陽宮中・天譴軍陣内/孫伯符視点≫

 

まあ、仕方ないんだけどさ…

 

私達は相当に待たされた

 

身分的に袁術ちゃんの食客で南東の田舎豪族という立場に見られている以上、仕方がない事なんだけどね

 

これで酒でもあればまだよかったんだけど、さすがにこちらから訪問して酔って会談という訳にもいかない

子供じゃないんだから茶菓子ってのも味気ないんだけど、こういう時はほんと、立場の弱さが恨めしいわよね

 

しかも、冥琳も蓮華もここぞとばかりに読書に没頭しちゃって誰も構ってくれない

 

祭も一緒に連れてくればよかったわよ…

 

ご丁寧に使用人をつけてくれちゃってるから、暇だとぼやくわけにもいかなくて、私は久々に退屈極まりない時間を、庭を見つめる事で過ごしていた

 

そんな状態からようやく開放されてご対面と相成った訳だけれど、私の第一印象は待たされた事を抜きにしても最悪といえた

 

一言でいうなら、飲み仲間になってくれそうなのがいそうにないのよ

 

漢中は珍しい酒を醸すようになったと聞いていたのに期待はずれもいいところ

 

昼間から飲んでいたらお説教されそうな感じがもう最悪よね

 

まあ、それは私の好みの問題だから別にいいんだけど

 

 

一応礼儀として双方型通りの挨拶をして、どうでもいい話をしてってのは置いておくとして、ようやく本題に入れる状態になったので、私はいきなり切り込む事にする

 

どうも、これは勘なんだけど、この連中には腹芸は使わない方がいいような気がするのよね

 

特にあの御使いってやつの目を見てそう感じる

 

見た目は若い癖に、妙に老成したというか深い井戸を覗きこんでいるような、そんな錯覚に捕われる

 

冥琳なら問題ないとは思うし私も平気だけど、多分蓮華には荷が重い

 

なので私は冥琳に目配せをする

 

(直接切り込むわよ?)

 

(私達で相手をしないのか?)

 

そう尋ねてくる冥琳だけに判るように私は蓮華を示す

 

(……やり口がますます文台樣に似てきたな)

 

(あんな鬼婆と一緒にしないでよね)

 

蓮華に同情の視線を向けることで私の意図を了承した冥琳に感謝しつつ、私は会談の目的を告げる

 

「言葉を飾っても仕方ないんで簡単に言っちゃうけど、私達の独立を支援して欲しいのよね」

 

「姉樣!」

 

溜息をつきながら額に手を当てる冥琳と、私を睨みつけて叫ぶ蓮華を無視して私は続ける

 

「このままじゃ私達、結局袁術ちゃんのところから出られない訳じゃない?

 だったら見込みのある方から恩を買う方がマシなのよね」

 

「くきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!

 これはまた、見事にぶっちゃけましたね

 これも貴女の策ですか、周公謹?」

 

この子、魯子敬って言ったかしら

確かに耳障りというか、普通だったら蹴飛ばしてるわね、この笑い方

 

冥琳も冥琳で、いかにも心外だって顔してる

 

「冗談ではない

 このような無茶を何故私がやらねばならんのだ」

 

酷っ!

切り込むって言ったじゃない、なによそれ

 

「ああ、なるほど

 これが噂に聞く孫家の血筋ってやつですか

 はじめて見ましたがこれは豪快です

 くきゃきゃきゃきゃ」

 

あ、ちょっとムカッ!

私なんか母樣に比べれば遥かにマシだっての!

 

………あれ?

 

なんか周囲の視線がひとつ残らず冥琳と子敬ちゃんに同意してるんだけど

 

「姉樣ぁ……」

 

人生に疲れたような愛妹の視線がなんか痛い

 

私達の様子に笑いを堪えきれないように天の御使いとやらが喋る

 

「いや、これは予想以上だ……

 それで、もし支援するとして、俺達は何を提供すればいいのかな?」

 

『おいおい…』

 

呆れたような周囲の声を他所に、御使いくんは笑いを堪えきれないようだ

 

ここまで来たら遠慮する理由もないので、私は堂々と要求する

 

「軍資金と糧食と、できれば武具も欲しいわね」

 

「ここまで来ると見事ですな…」

 

そう呟いたのは張将軍だっけ?

笑われようが呆れられようが、貰えればこっちの勝ち

いくらでも笑ってくれていいわよ

 

「後払いの空手形で渡せる内容ではありませんが、伯符殿は代価をどうお考えなのですか?」

 

あら?

任局長っていったっけ、この子

居たのに気付かなかった…

 

代価という言葉に表情を固くする蓮華を私は視線でけしかける

 

私が言ってもいいんだけど、そこは妹の覚悟を試してみようと思ったから

 

蓮華は心底恨めしげに私を睨んでから、大きく息を吸い込んで叫ぶように言った

 

 

「わ……っ

 私が妻として御使い殿の元に赴く事で信用としていただきたいと存じますっ!!」

 

 

………あれ?

 

なんか、空気が凍っちゃったんだけど、もしかしてまずかった?

 

 

予想外の空気と天譴軍の全員の凍りつき方に、さすがに冷汗が頬を伝うのを自覚する

 

 

「あ、あはははは………

 えっと、とりあえず、なんというか…

 夕餉でもご一緒しましょうか…」

 

 

凍りついたままの天の御使いのお誘いに、さすがの私もこっくりと頷くことしかできなかった


 
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