No.326806

フォトシール

日本にある「プリクラ」に興味を持ったマスターことジョニー・レイフロ。
いつものように、チェリーことチャールズ・J・クリスフントに話を持ちかけるも、そっけなく拒否されてしまう。
「日本は未曽有の大地震に見舞われ遊んでる場合ではない」
とチェリーに言われたレイフロは
「ならばこの身体を活かして、被災地へボランティアに行こう。

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2011-10-30 22:30:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:378   閲覧ユーザー数:378

 
 

「チェリーっ! プリクラ撮りに日本に行こうぜぇっ!」

 仕事部屋でもある書斎で、自分の仕事をしている時だった。

 バチカンへの報告が済んでいない事象が何件かあり、今日中にそれを終わらせてしまいたいと思っていた。

 そこへきての、彼の突拍子のない発言。

 もう慣れた、とはいえ、彼は本当に急で何も考えず思ったことをすぐ口にして、私を何度も辟易(へきえき)させる。

 時々、本気の嫌がらせなのではないかと思うほどだ。

 今回は……プリクラだって? そんなもの、聞いたこともない。

「チャーリーです。今仕事で忙しいんです。用件なら後にしてもらえますか」

 パソコンのモニターから視線を外すことなく、わざと突き放すように言い返す。

 彼……マスターことジョニー=レイフロには、その位でちょうどいい。

 自分にとって主ではあるが……盲目的に従じてるわけではない。

「なんだよ、なんだよっ! オレより仕事が大事だっていうのかよっ! オレに用事があるのは腹が減ったときだけなのかよっ! オレはいつもいつもチェリーを気づかっているっていうのに……」

 書斎のドアから私の方に近付きつつ、マスターが不満を漏らす。

 この人は……まったく、気が遠くなるほど長い月日を生きているのに、成長と言うモノを知らないのか? まるで子供のように駄々をこねて……。恥ずかしいとは思わないのだろうか……。

「腹が減ってない時でも、45時間前にお相手したでしょう? それでも足りないと言うのですか」

 先程と変わらずパソコンのモニターを見つめ、報告書を仕上げていく。マスターのこの後の行動を思い、念のためファイルを保存する。

 すると、思った通り、マスターはやってくれた。

「うりゃああっ!」

 そうい言いながら、パソコンのコンセントを抜いたのだ。

 電力を失ったパソコンが強制的に終了し、モニターが暗くなる。

 ……やると思った。

 この人は時々こうして、私の仕事の邪魔をしては、自分の欲求をぶつけてくる。

 やはり、先程のファイルを保存しておいて良かった。

「そうまでして私の仕事の邪魔をして、今回は何がしたいんですか?」

 もはや仕事をするのを諦め、椅子から立ち上がってマスターに向き直る。

 その視線に侮蔑がにじむのは仕方ないと思ってほしい。

 数え切れないほど、こうして私の仕事の邪魔をしているのだから。

 私がふぅ……とため息をついて腕組すると、マスターは嬉々とした表情で言い放った。

「インターネットでいろいろ見てたらイイモンが日本にあったんだ! プリクラっていって、簡単に写真が撮れてそれをシールにしてくれる機械らしい! それをやりたい!」

 そ……そんな理由で日本に? たったそれだけの理由で? 

 わざわざ飛行機に乗り、マスターは寝床の棺桶を担ぎ、日本へ行きたいと……本気で言っているのか?

「わざわざそんなことをするためだけに、旅費をかけて飛行機に乗って、日本に行きたいと言うのですかあなたは! まったく……子供みたいなことを……。ただその機械を珍しがっているだけでしょう」

 時々、私はマスターの思考回路がわからなくなる。

 長く生きていると……モノの見え方が変わるのだろうか?

 ……いや、違う。これはマスターの元々持っている性格だろう。

 私も長い時間を過ごしてきたが……自分の在り方が変わることなどない。そして、これからも変える気はない。

「それに、今の日本は大変な時なんですよ。大きな地震があって津波が発生し、多大な被害と尊い命が失われたと聞きます。あなたみたいにおちゃらけて日本に行くような場合じゃないんですよ。インターネットで、その、プルクルだかプラクラだかを見つけたんだったら、今の日本の事情くらいわかるものでしょう!」

 私にとって日本はほとんど馴染みのない国だ。それでも私の耳に大量な情報が届くということは、それだけ日本は甚大な被害を受けているということなのに。

 この人はそういった配慮すらできないというのか!

 まったく嘆かわしい。

「地震があったこと、津波があったことくらい知ってるさ」

 涼しい顔をしてマスターが言う。その、事も無げに言うマスターの姿にカチンときた。

「だったら! なおさらそんなことで日本に行きたいなんて言えないのがわかるでしょう! 今、世界中が日本のためにと動いているんですよ! ボランティアに行きたいと言うならまだしも、機械の物珍しさだけで日本に行きたいなんて! まったく信じられな……」

「そうか、ボランティアだったら行くんだな!」

 私が全てを言いきる前に、私の言葉を遮ってマスターが言った。

 まるで鬼の首をとったかのような表情だ。

 ……っ。だから……言いたいことは違うと言うのに!

「あなた、私の言ってることを聞いてなかったんですか! 今日本は大変なんです! 国単位で動いているんですよ! 私たち二人が行ったところで、たいしたお手伝いができるわけじゃありません。しかもあなた昼間動けないでしょう。人命救助や炊き出しのほとんどは、陽のあるうちに行われます。そんなところにマスターが行ったって、ほとんど役に立たないじゃないですか!」

 ほとんど子供に説教をするかのように、こんこんと私の主張をマスターにぶつける。

 いや、この思考回路は、もう子供としか言いようがない! 私には信じられない!

 するとマスターはにやりとしながら言った。

「なあ、チェリー。日本は確かに今大変なときだ。原発問題で、助けが必要な所に助けが行き届いていないらしいしな。そこをいくとだ。俺たちは放射能を浴びたって死にはしないし、夜目がきくから夜間の人命救助だってできる。さらに、オレは蝙蝠(こうもり)になって小さな隙間をぬって、瓦礫の中を調べることができる。どうだ。立派に日本のためにできることがあるじゃないか! それに観光で日本に行き、日本の良さを知って、それを広めるということだって重要じゃないか? どの国も観光収入は大事だからな」

 ……なんとも最もらしいことを言っているのだ。この人は。

 そうだ。この人は……屁理屈を言わせれば右に出るモノはいないというくらい、屁理屈をこねるのが得意な人だった。私としたことが……忘れていた。

 これだけ喰い下がってくると言うことは……相当行きたいんだろう。

 この人は一度こうと決めたら挺子(てこ)でも動かない人だ。

 ……しかし、マスターの言いなりになるのは耐え難い。

 そう思いあぐねている私に、マスターは最後の切り札をぶつけて来た。

「チェリーが一緒に日本に行ってくれないんだったら、チェリルと行くもん。そんでチェリルと一緒に日本観光してくるもん。その間お前は、オレがいないんだから断食だな。日本は楽しそうだから、どれくらい滞在するかわかんないな~~。京都! 大阪! フジヤ~マ~~! ま、そんなわけだから、その間お前はずっと腹空かせてるはめになるな~~~」

 く……っ……。こと、私の食事のことを出されると反対ができないのをマスターは知っている。

 私がマスターの血しか飲まないことを知っているのだから……。

 結局、最後にはマスターのいいように言いくるめられてしまう自分が悔しい。

 そんな自分をやや呪いながら、私は渋々とマスターに答えた。

「長くても1週間で帰りますよ。まだ仕事が途中ですしあまり長く空けられないので」

その答えを聞いて、マスターが歓喜し、飛び跳ねて喜んだのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

……続きは、ゼヒゼヒご購入ください!!!!!

 
 

 
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