「おいこら、トカゲ」
「なんだよ、猿」
「お前も叩っ頃したら、金とかアイテムとか出てくるんか?」
「ンなモン、出ぇへんわい! 物騒なやっちゃなぁ」
「シケたモンスターやなぁ、お前も。どばーっと、金貨100枚ぐらい出してみぃ」
「なんでぶっ頃された挙句に、金品まで渡さなあかんねん。やってられへんわ」
「でも、普通のゲームいうたら、そんなモンやん?」
「漫然と遊んでへんと、そこに疑問を持てや」
「モンスター叩っ頃して銭集めんと、装備やアイテムも買われへんやないけ」
「さぁ、そこや。何で、モンスターを倒したら、人間の世界で通用する貨幣が出てくるんや?」
「何でて、そらぁ、お前らモンスターが人間から巻き上げとったんやろ」
「ちゅうコトは、お前ら自称勇者は、盗品をネコババして自分で使ぉたりしてるワケか?」
「嫌味な言い方するやっちゃなぁ。そしたら、モンスターが自分らで金貨作っとったとせぇや」
「つまり、人間界で使う貨幣は、みなモンスターが作りよるワケか?」
「みなとは言わいでも、人間が作った貨幣も、モンスターの貨幣も、
あらかた、おんなじモンかもしれへんやないけ」
「それは甘い。デドコロの違う貨幣を、おんなじ按配に扱おうと思うたら、
材質や寸法、刻印とかをきっちり揃えとかなあかん。ゼニカネちゅうのは、そういうモンや」
「面倒くさいなぁ。もちっと大雑把でもええんとちゃうん」
「そうはいかん。それにやな、お前らがダンジョンからカネ持ち帰って使うたんびに、
人間の世界での、貨幣の価値が目減りすんのや」
「なんでやねん。世間にカネが増えるんやから、みんなが裕福になって目出度いやないけ。
それが、なんで価値の目減りみたいな話が出てくんねん」
「カネでも何でも、数が増えたらそのモノの希少価値は減るんや。
お前らがダンジョンから金貨を持ち帰ったら、世間の金貨の数が増えるから、その分価値が目減りする」
「難儀やなぁ。そんくらい誤差の範囲でええやん?」
「あかんあかん。その上、貨幣価値の低下を放置しとったら、インフレが起こるんやで」
「なんでや」
「お前がパン屋で、パン一斤を金貨一枚で売っとったとせぇや。
ところが、世間に金貨が増えまくって、道端に落ちとっても子供も拾わんようになったとしてみ?
金貨が少々あっても、材料の小麦粉やバターなんかも仕入れられへん。
そうなったら、パンの値段を上げるとか、もっと違う通貨で払ぉてもらうとかせなあかん」
「ふんふん」
「そうやって、連鎖反応的にモノの値段が上がっていくのがインフレや。
第一次大戦後のドイツとか、最近のジンバブエの状況なんかがそうやな」
「めっちゃ怖いがな。その、インフレを防ぐにはどうしたらええねん?」
「世界中の経済学者が、かれこれ何十年も知恵をしぼっとるけど、これや! いうような決め手は出とらん。
やが、小さいコトやけど、お前にも出来るインフレ防止策が、無いこともない」
「な、なんやねん、それは!」
「ダンジョンで、モンスター倒した後に出てくるカネを、拾わずにシカトすんのや」
「無茶言うなや! アイテムや装備も買われへんがな」
「でも、拾うてしまうと、インフレが来よるで?」
「むむぅ、そう言われると、困ってまうなぁ …… 」
「難儀なのは事実やが、世界経済を守るためや。自称勇者のお前やったら、出来んコトやない」
「カネやのうて、アイテムや装備やったら拾うてもええのんか?」
「アイテムや装備なら、経済的にはカネと交換する意味合いしかないからな。
ま、拾ぉて自分で使うぶんぐらいにはええやろ」
「カネの場合は、そうはいかんと」
「金額さえ折り合えば、世間のあらゆる売りモンと交換可能やからな。経済へのインパクトが違う」
「ぬぬぅ …… 苦しいが、インフレも嫌やしなぁ」
「ま、これも経済の安定化、ひいては、世界平和のタメ。
あえて、苦しい道を選ぶのも、人々の平和な暮らしを護るためじゃ」
「おぉ! やってやるぜ!! ダンジョンで金貨拾わずに、このミッションをクリアしてみせる!!!」
「その意気や良し。ゆくのじゃ、勇者よ!」
「うぉぉぉーーーー!!!」
終
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ちょっと関西弁が入ったハイファンタジー超短編。
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