2月17日朝、僕は10時ちょうどに目を覚ました。マスターがそろそろ起きだす時間だからだ。僕は服を着替えて、マスターの部屋に向かった。だって、今日は特別な日。本当は14日にも少し期待していたのだが、マスターは自分に全く関係のない愛の祭典のせいでものすごく機嫌が悪くて、それどころじゃなかった。多分マスターは僕の誕生日を17日だと思っているのだ。あの人、くりぷとん信者だから…。
マスターの部屋に入って、マスターを揺り起こす。
「マスター、朝ですよー。起きてください!!」
マスターはうううっとうなって、布団に潜った。
「うるさい!!」
マスターはどうやら昨日も夜更かししたらしい。
「マスター、もういい加減起きましょーよー」
僕の大切な日なのに…。マスターはゆっくりと起き上がって、ぼーっと宙を眺めていたが、しばらくすると、はっと僕の顔を見上げた。
「あ、カイト!!!」
「な、なんですか?」
そう言いながら、僕は期待に胸をふくらませる。マスターはきっと、おめでとうって言ってくれるに違いない!!
「昨日、コナン録っとくの忘れた!!! なんで言ってくれなかったのー!!?」
あぎゃーっと叫ぶマスターを僕は呆然と見ていた。
どうやら、マスターは僕の誕生日に全く興味がないらしい。マスターは起きるとさっそくPCを起動して、ニコニコを見ている。びっくりするくらいいつも通りだ。
僕はちょっぴり拗ねてみて、畳のイグサをいじって掻きだしたりしてアピールしているのだが、マスターは全然僕の方を見ようとさえしない。
ピロピロっと僕の携帯が鳴った。
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From:がっくん
Title:お誕生日おめでとうヽ(゚∀゚)ノ
カイくん、お誕生日おめでとうでご
ざる!!いつも仲良くしてくれてあ
りがとう!カイくんにとってステキな
一年になるように祈っています。
誕生日楽しんでるでござるか?♪o(^o^o)
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楽しんでないよ……。
僕はぽちぽちとメールを返した。僕はまだ携帯に慣れてなくて、メールを打つのが遅い。
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To:がっくん
Title:ありがとう!
がっくん、どうもありがとう! とっても
うれしいです!! ところで今の僕は
ブルー。マスターは僕の誕生日に興味
がありませんorz
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やっとメールを打ち終わって、ほっと息をついたら、間髪いれずにメールが返ってきた。
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From:がっくん
Title: Re:ありがとう!
そうでござるか…。マスターには発売日=
誕生日という感覚がないのかもしれないで
ござる(´・ω・`)
もしもお暇なら、拙者とお出かけしないか?
拙者、カイくんのお誕生日をちゃんとお祝い
したいでござるよ!(≧∇≦)キャー♪
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がっくん…。なんて優しいんだろう!! 僕は少し泣きそうになった。
「マスター、ちょっと出かけてきていいですか??」
ニコニコばっかり見てるマスターといるより、がっくんと遊びに行ったほうが、絶対楽しいに違いない。
「ええええぇ! なんでえ?」
マスターは不満そうに声を上げた。
「がっくんに遊びに行こうって誘われたんです」
「ダメ!!」
マスターは即座に却下した。
「な…なんでですか!?」
「ともかくダメ!」
納得いかない……。けれど、マスターにそう言われては、僕は逆らえない。
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To:がっくん
Title: Re: Re:ありがとう!
お出かけ、ダメって言われた…。
がっくん、ありがとう&ごめんなさ
いでござる。
また今度遊んでね☆
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送信してからがっくんの口癖が移っていたことに気づいたが、もう遅い。ちょっと恥ずかしい。
マスターは僕が出かけるのを諦めたのを見ると満足したらしく、またPCに向かった。なんだか、とっても腹が立つ。僕はまたイグサを掻き出す作業に戻った。
すると、玄関のチャイムが鳴った。
「お!?」
マスターはぱっと顔を上げた。
「アマゾンが来た!! カイト、受け取ってきて!!」
自分で行けばいいじゃん、と心の中で思ったが、口には出さずに不機嫌なまま玄関に向かった。
「マスター、結構重い!! なんですか、これ~!?」
またなんかよく分らないものを買って……。
「ふふふ…。気になるか、カイト。開けてみればいいよ!」
別に気にならないけど……。なぜかマスターは開けて欲しそうにしているので、やたらと大きなダンボールの箱を開けた。
「? なんですか、これ??」
なんか、炊飯器みたいな形をした電化製品が出てきた。真ん中の棒からプロペラみたいなのが生えている。
「カイト、コレ見たことないの? これはね、アイスクリーマーだよ!」
「あ、あいすくりーまー?」
よく分らない。よく分らないがなにやらトキメク響きだ。
「つまり、アイスクリームを作れる機械だよ!」
「作れる!!?」
アイスクリームをお家で作れる??
「そうだぞー、結構高いんだぞー。カイトのために買ってあげたんだよ! お誕生日だし!!」
……あれ?
「マスター、僕の誕生日、知ってたんですか?」
「え? そりゃ、知ってるけど…」
「だ、だってマスター、おめでとうとか何も言ってくれないし、普段どおりだし」
マスターは僕のその言葉に首をかしげた。
「誕生日なんて、こんなもんじゃね?」
マスターは淡白な家庭に育ったのかもしれない。それとも僕が期待しすぎなんだろうか?
「誕生日おめでとう! カイト!!」
ちゃんとおめでとうって言ってくれた…! 僕はとってもうれしくて、さっきまでの不機嫌なんか飛んでいってしまった。
「ほら、これ使ってみようよ~~ww なんかねー、色んな味のアイスが作れるんだよー。とりあえずベタにチョコアイスとか作ってみない? ね? 作ろうよ!!」
マスターが目を輝かせて言った。マスターもしかして自分が欲しかったんじゃ……。これはもしかすると、早いうちに所有権を主張しておかないといつの間にかマスターの所有物化してしまう流れでは…!!? ダメだ! このアイスクリーマーは死守しなければ!
「マスターは、これ、使っちゃダメです!!」
僕はマスターからアイスクリーマーを剥ぎとると、ダダッと自分の部屋に逃げ込んだ。
「こぉら~~!! カイトー!! アイス食わせろ!!」
マスターがドアを連打して叫んでいるが、僕は気にしない。そっとアイスクリーマーを覗きこんで、ここにいっぱいのアイスが詰まっているのを想像してみた。なんてすごいんだろう!!
「ありがとう、マスター」
声に出してお礼を言ってみたけれど、多分マスターには聞こえなかっただろう。アイスクリーマーの隠し場所を見つけたら、ちゃんとお礼を言いにいこう。
……聞く耳持たないかもしれないけれど。
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昔、カイトのお誕生日に書きました。誕生日に淡白なマスターと期待するカイト。がっくんいい味でてると思います。