No.321485

brotherly

威風さん

幻想水滸伝。
結構前に書いたものですが、個人的にも気に入ってるものです。
坊ちゃんとテッドの関わりみたいなものです。

2011-10-21 00:18:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:570   閲覧ユーザー数:565

 
 

「父さん、弟か妹が欲しい」

そうティルが言うと、テオは顔を引きつらせた。

グレミオもクレオもパーンも、幼い主を驚いた表情で見つめる。

「お土産でいいから」

 

 

その夜――ティルが寝てから家族会議?らしからぬ物が開かれた。

内容は勿論、昼間の要望について。

普段、遠方に出かけているテオが帰った為、ティルが我儘を言っただけだ。

だが、内容が内容なだけに、どうしようかと思った訳である。

出来れば叶えてやりたいのだが、とテオが妙に渋い顔をしながら呻った。

「兄弟……が欲しがるのも判らん訳では無いが……」

ティルの母、つまりテオの妻は既に死別している。

そのため、欲しいと言われても出来ないものは出来ない。

其処まで考えて、テオはハッと顔を上げた。

まさかソニアとの噂を聞いたのだろうか。

いや、まだ噂になるほど話した訳ではないが……。

そもそも彼女も、グレッグミンスターに殆ど帰ってこない。

それならば何が理由で――

「あの、テオ様?」

思いに耽っているテオにグレミオが声を掛ける。

それにハッと顔を上げて、何でもないと苦笑した。

はー、と自然に溜息が漏れる。

四人は揃って、何かを考えるように首を傾げた。

「ぼっちゃんは……寂しいのかしら」

クレオがポツリと呟く。

それに他の三人は驚いた風に視線を向けた。

「流石に、慣れたと思う」

テオが居なくて寂しい、と思うなら。

そう思ってパーンは首を振った。

ティル自身も、既に泣きわめく子供では無い。

父親が居なくても、代りに居るグレミオで十分代りになっている。

「……そう思うと、不甲斐ない父親だな……」

はあ、とテオが溜息を付く。

仕方が無い事だといえ、ティルがどう思っているのかと気になる所だった。

「いえいえ、ぼっちゃんはテオ様を尊敬してますから。その点は大丈夫ですよ」

ニコリとグレミオがテオに微笑む。

その笑みは取り繕うものでもなく、それが真実だと物語っている。

「でも、クレオさんの意見は正しいかもしれませんね」

「意見って……寂しいという事か?」

クレオが聞き返して、軽く眉を顰める。

それにグレミオは頷いた。

「世話役として言える事では、ぼっちゃん、最近よそよそしいんです」

何、と皆の視線がグレミオに集まる。

「もしかして、反抗期かもしれませんね」

「……それで纏めるのか」

期待した自分が馬鹿だったという風に、クレオが顔を伏せた。

同じようにパーンも呆れた風に溜息を付く。

期待した反応と違うので、グレミオが困った風に眉を顰めた。

「えっ、違いますか?」

「反抗期……か」

そうなんだろうか、とテオも首を傾げた。

 

 

 

 

 

眠っている自分を見下ろして、何だか不思議だな、と思ってみる。

今、目を覚ましたらどんな顔して僕を見るのだろうか。

驚くのだろうか。

夢だよって言えば、素直に信じるのだろうか。

この頃は確か……其処まで素直でも無かったから、前者だろう。

 

 

ビッキーに再会して、とある物事に気が付いた。

それをルックに問い詰めてみると、嫌な顔をしながらも教えてくれた。

瞬きの紋章はテレポートの術が使える。

それが更に、過去や未来にも行ける……時があるらしい。

大概が失敗する大技だ、と彼は言った。

飛び越えてきたビッキーは、失敗で来たと言えばそうだった。

過去に……テレポートをしてみよう、と何気なく思った。

未来には、興味がない。

先に知っても面白くない、という所がある。

それに――昔の自分を他人の目で見てみたかった。

 

 

昼間は、グレミオに悪戯をして家から逃げるように飛び出していた。

何て危ない事をしているんだろう、と見ていてハラハラした。

せめてパーンでも護衛を付けないと危険だと思った。

テッドにも言われていたけれど、幼い頃の僕は歩く身代金。

誘拐すれば金に有り付けそうな気がする。

と言っても、天下のマクドール家に喧嘩を売るようなものだけれど。

あれ……そういえば、テッドは?

まだ、居ない時期の過去……か。

「あっ」

幼い僕は屋敷を出て直ぐの大通りに出る前に、グレンシールに捕まっていた。

父さんの片腕であるグレンが此処にいるという事は……あっ、アレンもいる。

となると。

「お帰り、父さん」

嬉しそうに笑う僕を、父さんが抱きかかえていた。

……いつの時期なんだろうか。

父さんが帰ってくるのは頻繁じゃなかったから……思い出せば思いつくと思うけれど。

「グレミオに言ってくるね!」

本当に心底嬉しそうに、僕が屋敷に駆けて行った。

さっき、グレミオに怒られて逃げ出してきた事など忘れて。

「おや……何がご用ですか?」

不意に声を掛けられて、反応が遅れた。

見ると、父さんが僕の方を向いている。

屋敷の前に突っ立ってたから――不審に思われたのかもしれない。

実際に、グレンシールとアレンの視線が結構きつい。

「いえ……別に」

念のため、と普段のマントでなくローブを着ていたのは幸いだった。

フードを深めに被り、パッと見では表情まで判らない……と思う。

でも幾ら昔でも僕の顔を見れば、父さんは気付くかもしれない。

「……お子さんに、友達は居ないのですか?」

余り不審がられないように、差し当たりの無さそうな話題を出してみる。

「友達?」

父さんは一瞬考えたようだったけど、軽く首を傾げた。

「そういえば、余り聞いた事なかったな……」

「さっき、一人でお出かけなされたようでしたが」

グレンシールが囁くように言うと、父さんが驚いた表情をした。

それを少し見た後、サッと立ち去る。

こんな風にすると不審に思われただろうけど、余り長居はしたくなかった。

……未来に影響を与えてしまうかも。

その辺は、帰ったらルックにでも聞いてみよう。

 

 

 

 

 

「……………」

不意に、昼間に会った人の台詞を思い出した。

暫く考えてみたが、グレミオの言う通り反抗期とは思いにくい。

第一、反抗期だったら私に要望など言ってこないのだろう。

となると――考えられる限りでは、クレオの言った通り。

「グレミオ」

テオに呼ばれて、グレミオが静かに振り向いた。

「ティルに親しい友人が居るか?」

「えっ……」

待って下さい、と一言置いた後、グレミオは思い出すように俯いた。

それを暫く待つつもりで居たが、彼は直ぐに顔を上げる。

「友達は居る事はいると思うんですけど、親しいと言えるかどうか……」

「…………」

昼間、一人で出かけようとしていた姿が思い浮かぶ。

テオは軽く溜息を付いた。

「ティルは寂しいんだな」

テオ一人で完結してしまった為、他三人が不思議そうに顔を見合わせる。

その反応に苦笑しながら、テオは軽く頷いた。

「兄弟は無理だろうが、ティルの願いは考えておくか……」

心の通える友人を。

年頃になれば、グレミオやクレオでは対応できないこともあるだろう。

他愛のない恋愛話や遊びの事は、同世代の子でなければできないことだ。

 

 

 

 

 

もう一人の自分の、規則正しい寝息を聞いていると何となく眠くなってきた。

時間は――元の時間帯でも、同じように流れているんだろうか。

 

 

そっと顔を覗いてみると、僕の気配を感じたのか少し身動ぎされた。

「……テッドと、父さんを大切にしなよ」

出会いは偶然でも別れは必然。

僕が下手に弄ったから、もしかするとこの僕はテッドに会わないかもしれない。

それは……それで良い事かもしれないけれど……。

テッドにとっては、悲しい事かもしれない。

――それに、僕には変わりようがない。

「…………」

誰かが、一階の廊下を歩いている。

多分、僕の様子を見に来たグレミオだろう。

窓の側にある樹に飛び移り、静かに屋敷から出るなんて事は十分慣れてる。

この頃の僕は小さくて、未だ出来ないだろうけど。

窓を閉めておけば、別段不審がられないだろうし……。

 

 

「テッドは、今、何処に居るんだろうか……」

あの僕は未だ小さかった。

もうちょっと――先の話かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

 
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