No.320734

外史異聞譚~反董卓連合篇・幕ノ八/汜水関編~

拙作の作風が知りたい方は
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2011-10-19 15:03:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2467   閲覧ユーザー数:1510

≪汜水関/張文遠視点≫

 

間に合わへんかった…

 

ウチらが必死の思いで駆け抜け、開けっ放しやった汜水関の城門をくぐり抜けた時、うちにはそれが判ってしまった

 

とは言うても、斎の声があがったりしとった訳やない

 

むしろ、葬式でもこないにはならんゆうくらい、ひっそりと静まりかえっとる

 

雨の音がむしろ五月蝿いくらいや

 

ウチと同じにそれが判ってしまったんやろな

 

恋もねねも、ただぼーっと戦闘の痕を見つめとった

 

なんちゅうか、戦場の有様はそらあひどいもんで…

 

真弓に追従したのは500くらいやって聞いとったんやけど、ざっと見でその5~6倍は敵の死体が転がっとる

 

あのドアホウ、ホンマに悔しくて悲しくて、そして本気で怒っとったんやなあ…

 

なんか空っぽになってまったみたいで、涙も出てこんわ

 

ウチ、案外薄情もんやったんかも知れんなぁ…

 

 

そないな感じでウチらがぼーっとしてると、敵の方から大柄な人間を抱えたやつを中心に、3人こっちに向かってやってきた

 

武器はもってへんみたいや

いや、それは正確にはちゃう

水色の髪の女が、真弓の金剛爆斧をもっとった

 

ちゅうことは、あれが猛達…?

 

なんでウチ、あれが猛達やってわからへんかったんやろか…

 

「…………………っ!!」

 

「ひ…っ!!」

 

恋が息を呑んで、ねねが悲鳴を押し殺しとる

 

そらあ、間に合わへんかったんや、真弓だって死んどるに決まっとる

 

だってほら、あんなに見る影もないくらいボロボロに……

 

ボロ…ぼ…ろ……?

 

「なんやのこれ…

 なんやのこれ…!?

 なんやのこれ!!」

 

ウチの二の腕を恋が力一杯握り締めとる

ねねもウチの足にしがみついて、悲鳴を押し殺すためにか、ウチに噛み付いとる

 

痛いけど痛ないわ

 

だって、これ見たら誰でもそうなる

 

どない戦したらここまで無残な体になるねん!

 

拷問され続けたって簡単にこんなにならんわ!!

 

変わり果てた真弓を連れてきてくれた人達は、ウチらと目を合わせようとはせんかった

 

ふたりのおかげなんやろな、痛みのせいか、ウチにはまだどこか冷静な部分が残っとったみたいや

 

「なあ…

 こんな事言えた義理ないかも知れんけど、アンタらの名前、聞いてもええかな…?」

 

ウチは変わり果てた真弓の顔を見つめながらぽつんと尋ねた

 

「私………

 劉玄徳といいます

 今回の事は………」

 

「すまん、お悔やみとか、そういうのはええ

 ウチもアンタらの敵やし余裕ないよってな……

 んで劉玄徳さんやったな、このドアホウの最後、どないやったか聞いてもええやろか?」

 

それに答えたのは、劉玄徳ちゅう優しそうな女の子やなくて、真弓を抱えてくれてる綺麗な黒髪の子やった

 

「……私達もまだ落ち着いているとは言い難いので簡潔に話すが………

 華将軍をはじめとする500名は、連合の総大将・袁本初殿の陣に向かって正面から突撃

 全て投降どころか気絶することすらも拒否して討死にされた

 生存者は………

 ひとりもおらぬ」

 

さよか……

このドアホウ、とことんまでやりよったんやな

 

「華将軍に最後に槍をつけたのは私だ

 その最後は勇猛と呼ぶに相応しい立派なものだったが、我らがそれを穢してしまった……」

 

穢した…?

何があったんや…?

 

黒髪の子は悔しそうに話してくれてる

 

「将軍の勇猛さに恐怖で耐えられなくなった兵達が、一斉に矢を射掛けてしまったのだ……

 私はその時の一撃を止めることができず……」

 

なんや、別にこの子のせいやあらへんやん

この猪が本気で暴れよったら、そらあおっかないに決まっとる

そかそか、それでこんな姿になりよったんやな

 

ホンマ、このドアホウは最後までウチらに迷惑かけよる

 

この姿になった自分を、ウチはどやってみんなに見せたらええねん…

 

 

ウチらが話してるうちにやっと落ち着いたらしい恋が、猛達の身体を大事そうに受け取ってくれる

 

ウチは戦場を見渡して、玄徳って子にお願いをすることにした

 

「なあ、厚かましい話やねんけど、ひとつ頼みたい事があるねん…」

 

「な、なんでしょうか……」

 

「こないな事、頼めた義理とちゃうねんけど…

 このドアホウの部下、できればきちんと弔ってやってくれへんか?」

 

ウチのそんな筋違いな頼みに、玄徳ちゅう子はすぐに頷いてくれた

 

「こういうと信じてもらえないかも知れませんけど、劉玄徳の名と靖王伝家にかけて、必ず」

 

ホンマ、見た目通りに優しい子やなぁ

 

すると、水色の髪の子が、金剛爆斧を差し出しながら話しかけてくる

 

「私の気のせいかも知れぬが、遺言がある。聞かれるか?」

 

ウチらは一斉に頷く

すると、何か苦いものを思い出したような顔をしてから、その子はぽつんと呟いた

 

「多分お主達の事だろう、名を呟いて

 『自分を許すな』

 と…」

 

あんの…

ドアホウがぁ…

最後の最後まで、アホで猪で、優しいままやったんやないか…

 

見てみい、恋もねねも泣いてボロボロやないけ

 

「遺言まで聞かせてもろておおきに……

 最後に、猛達に槍つけたっていう、アンタの名前、聞いてもええか?」

 

黒髪の子はしっかりと頷いて答える

 

「我が名は関雲長

 華将軍の敵だ、覚えておかれよ」

 

その名前にウチは目が開くのを感じた

そうかぁ…なんで気付かなかったんやろなぁ

噂通りの綺麗な黒髪やないけ…

 

「ほうか…

 アンタがあの“美髪公”やったんか

 気づかなんですまんかったわ

 ウチ、あんたの事憧れとったねん

 強ぅて綺麗な、最強の武神がおるてな」

 

どうも褒められなれとらんようで、関雲長は顔を真赤にして照れとる

 

「あ、いや、別に、そんなことは…」

 

想像しとったよりずっとええわ

こうして見ただけで判る

武神の名に恥じないだけの実力と、本物だけが持つ雰囲気ちゅうか、そういうものが感じられる

まあ、それでも恋には及ばんやろうけど、目の前の武神が持つ強さはそういうのとはちゃう

ウチが追い求め理想としてきた、そんな強さを感じるんや

ウチの憧れは、やっぱ間違ってなかった

 

「まさかこんな所で会えるなんて夢にも思ってへんかったわ

 憧れて想像して、いつか存分にこの飛龍偃月刀で武を競いたい、そう思っとったんよ」

 

ウチの言葉にもじもじと照れる武神はなんや可愛くて、なんというか惚れ直した気分になる

でもなあ……

 

「この飛龍偃月刀も、自分を目標にして同じ誂にしとったんよ

 でも、それも今日で終わりや」

 

ウチは恋とねねに、そして目の前の三人に仕種で下がるように伝える

 

全員訝しげな顔をしながらも、それでもウチの真剣さが伝わったのか、ゆっくりと下がって間を開けてくれた

 

そしてウチは飛龍偃月刀を逆さに構えると、それを力一杯地面に叩きつけて一発でへし折ってみせた

 

「ホント残念やわ…

 いっぺん自分とコイツで勝負してみたかった

 でもな…」

 

ホンマ、色々と上手くいかんちゅうか、ウチもアホやな

残念で仕方ないけど、しゃあないわな

真弓の金剛爆斧が余計な横槍で届かなかったちゅうんやから、誰かが代わりにやってやらなあかんもんな

 

「ウチの武器は今日からこの金剛爆斧やねん

 ウチの名は張文遠

 金剛爆斧の張文遠や」

 

関雲長はそんなウチの一方的な挑戦に、真剣な顔で応えてくれた

 

「うむ

 神速と名高き張文遠の名と顔は、この青龍偃月刀とその飛龍偃月刀にかけて決して忘れまいぞ

 そしてその金剛爆斧もな」

 

見れば他のふたりも真剣に頷いてくれよる

あのドアホウは最後の最後で、武人としては恵まれた最後だったのかも知れんなあ

 

ま、名残惜しいし本当はここで決着をつけるべきなんやろうけど、お互いそうもいかん

ウチは踵を帰して恋とねねに声をかける

 

「ほんじゃウチらは帰らせてもらうわ

 奉先、公台、いくで?」

 

ふたりは頷いて馬に乗る

ウチも馬に乗って、そのまま何も話さんと洛陽に向けて駆け出した

 

向こうもそれが判ってたのか、特に咎められるようなこともなかった

 

 

そしてしばらく馬を走らせてから

 

泣き止んだふたりにウチは頼み事をする

 

「なあ……

 頼み事しても、ええやろか?」

 

「………………(コクン)」

 

「なにかありましたのですか?」

 

やっぱウチ、もう限界みたいや

 

「今から雨が止むまで泣くけど、みんなに内緒にしとってくれへん?」

 

「ねねが泣いた事を内緒にするのが条件ですな」

 

「……………恋も」

 

ああ、ええよええよ、みんなで泣いて内緒にしとこ

 

ウチ、そう言ったつもりやってんけど

 

つもりやってんけど………

 

「う…

 う…

 うわああああああああああああああああああああああっ!!」

 

あのドアホウのせいや!

 

最後まで迷惑かけくさって、なにが真弓や!

 

いくらなんでも真名の通りに生きて死ぬ事ないやないけ!!

 

お前なんてなぁ、お前なんてなぁ………

 

「うわああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

お前みたいなドアホウの事なんか、死んでも許さへん!

 

絶対に許してたまるかい!!

 

 

ウチらはこうして、洛陽に着くまで泣き続ける事になった

≪汜水関/曹孟徳視点≫

 

悔しいけれどこれは完敗、というところね

 

私は恐らく、華将軍を止めにきたであろう敵の将軍達の相手を、槍をつける事になった劉備達に任せる事にして、傍らにいる春蘭と秋蘭に告げる

 

「あなた達、悪いのだけれど撤収準備をしておいてちょうだい

 撤退後の指揮は荀彧に一任、あの三人も使っていいから」

 

私の言葉に秋蘭が眉を顰める

 

「撤退、でございますか?」

 

私は雨の中去っていく敵の将軍達を見つめながら頷く

 

「この賭けはもう終わったわ

 これ以上軍を率いても傷が広がるだけ

 ならば引くのが道理でしょう?」

 

春蘭がぼそりと呟く

 

「確かにもう戦にはならぬでしょうな…」

 

あら、野生の感とでもいうのかしらね、よく判ってるじゃない

もしこれで戦になったとしても、恐らく我々は士気は保てない

 

これが計算づくだったのか華将軍の独断だったのか、それはもうどちらでもいい問題だ

問題となるのは、たった500の兵に本初が全軍を叩きつけ、あげく一騎討ちの最中に射殺してしまったということ

 

これで士気が保てるのだとしたら、私はそれができる人物に跪いて教えを請うてもいいわ

 

だって絶対に無理だもの

 

私は軽く溜息をついて、愛する二人の従姉妹に声をかける

 

「さて…

 本初のところにいくとするわよ」

 

 

予想通り、連合軍本陣では麗羽が喚き散らしていた

 

まあ、私が総指揮官だったらここまでではないでしょうが怒鳴り散らしていたと思うから、少しは同情するけどね

もっとも、私と麗羽ではその理由も違うでしょうけれど

 

「本初、少し落ち着きなさいな」

 

「孟徳さん!?

 これが落ち着いていられますというの!

 わたくし達がこんな…」

 

「いいから少し落ち着きなさい

 とりあえず、敵将と兵の埋葬に関しては劉備達が動いてくれているわ

 あとで労ってあげることね」

 

麗羽は右手を口元に添えて指を噛んでいる

これは状況がままならなくなったときに麗羽が見せる癖だ

本当は頭を掻き毟りたい心境なんでしょうけど、自慢の髪を掻き毟るなんて考えたくもないんでしょうね

 

「………どなたか劉備さんのところに兵をまわしていただけますかしら?

 劉備さん達だけにやらせる訳にはいきませんものね」

 

少しは冷静さが戻ってきたみたいね

多分、私が今ここで思っている事をいったらまた騒ぐでしょうけど

遠慮はしないけどね

 

「悪いんだけれど、私は軍を引かせてもらうわね

 洛陽までは同行するけど」

 

ああ、あの表情はまたこちらの言葉を理解していないってことね

頭は悪くないはずなのに、どうして麗羽はこう…

 

「だから、私は軍を引いて戻るといってるのよ

 ただし参加した責任はあるから、洛陽までは一緒に行く

 そう言ってるの」

 

私の言葉に何かを言おうとした麗羽だけれど、それと同時に天幕が開いて誰かが入ってきた

確か、北平の公孫伯珪、だったわよね…?

 

「すまん本初、ちょっと話が…

 って、取り込み中だったか」

 

バツが悪そうな顔をする彼女に、私は軽く首を横に振って答える

 

「構わないわ

 多分同じ要件だったでしょうし」

 

彼女は「そうか」と呟いて麗羽に向き直る

 

「悪いが、私はここで軍を引かせてもらう

 言いたい事はあるだろうが、これ以上は無理だ

 すまんな」

 

驚愕を顕にする麗羽から視線を逸らして、彼女は私に目を向ける

私はそれに頷く事で応えた

 

「なるほど…

 曹孟徳も同じ意見ってわけか…」

 

「ええ

 だってこれ以上軍を率いても得るものはなにもないでしょ?」

 

麗羽には悪いとは全く私は思っていないけれど、現状ではこれが最善の手だ

檄文を信じたから軍を起こした

華将軍の死に様に感じるものがあったから軍を引いた

ことの次第を確かめるために洛陽には行く

洛陽にいかなければ何を言われても反論すらできないしね

 

事はもう、軍を率いてどうこうする、という段階を遥かに超えて政略の領域に一気に飛んでいる

 

ここでどう身を処するかは、諸侯連合に参加した全員にとって、既に目の前にある問題なのだ

 

憤りで何も言えないでいる麗羽を故意に無視して、私は彼女に確認をする

 

「劉備達はどうするか聞いている?」

 

「あー…

 あいつらはそのまま最後までいくそうだ

 ただ、やはり軍は平原に戻すとは言ってる

 そりゃそうだよな…

 あんなものの突撃を最初に受け止めたんだ

 兵が怯えてしまって、なんとかかんとか宥めてようやく作業になってる、てとこだもんな」

 

本当に、先鋒が私達だったらと思うとぞっとしないわ

 

「他の諸侯がどう出るかは知らないけれど、私達は軍を引いて洛陽に向かう

 本初、貴女はどうするの?」

 

「………当然、このまま引く訳には参りませんもの

 わたくし達はこのまま進軍しますわ」

 

そう、軍を引かないということは自分の死刑執行書に自分で署名して、それを洛陽まで届けにいくということね

 

同情はしないわよ、麗羽

 

それが貴女が信じる道なのでしょうから

 

私は後ろに控える従姉妹達に声をかける

 

「夏侯惇、夏侯淵

 撤収の前に貴方達も劉備を手伝ってきてあげてちょうだい

 勇者はたとえ死んでも遇されなければならない

 わかるわよね?」

 

『承知』

 

一礼して足早に天幕を出ていく彼女達を見送って、私は公孫伯珪にも声をかける

 

「当然貴女も来るのでしょう?」

 

「ああ…」

 

同情するような目で麗羽を見ながら歯切れ悪く答える彼女を残し、私も天幕を後にする

 

 

「本当に嫌な雨だこと…」

≪数日後・洛陽/張儁乂視点≫

 

拙者らが見送ったお三方が無事に帰ってき申した

 

汜水関に駐屯していた常備兵3千を引き連れての帰還にござる

 

交代で待つことでその帰還を待っていたのでありますが、その先頭に三騎しか居なかったところを見るとどうやら間に合わなかったようです

 

城門を潜ったところで、拙者は三人に声をかけました

 

「無事…

 とは言えぬようですが、お戻りになられてよかったでござる」

 

三名とも泣き腫らしたのでしょう、正直別人かと思えるくらいに顔が腫れており申す

 

お互いの顔を見てそれに気付いていたのでしょう、張将軍が照れ臭そうに喋ります

 

「いやまあ、その、なんや……

 見なかった事にしといてくれへん?」

 

「それは構いませぬが、どのみちそれは隠し通せぬかと…」

 

苦笑しながら伝える拙者に、三人の顔が更に情けないものになり申した

 

「……………顔洗う」

 

「そうですな

 このままでは誰に顔を見せる事もできぬのです」

 

「なら急ごうか、ほなら後でな」

 

そういってそそくさと去る三名を見送りながら拙者は考えます

 

あれは多少洗った程度でどうにかなるとは拙者には全く思えぬのですが……

 

 

こうして拙者らは、一刀殿に先立ち事の次第を張将軍から聞く事になり申した

 

他に洛陽へと帯同していた関に駐屯していた役人の話と張将軍の話を併せ聞くに、その最後は壮絶なものだったようで、董相国は途中で泣き出してしまいました

 

賈軍師も必死で涙を堪えているようでありますが、あれでは時間の問題でしょう

 

さすがに華将軍の遺体をそのまま洛陽に持ち帰る事は叶わなかったので、とりあえず虎牢関に埋葬し、後日再葬をしよう、という事を告げて張将軍の話は終わりとなり申した

 

洛陽までは遺体がもたぬだろうと判断されたのでしょうが、役人の話を聞くにとても皆に見せられる状態ではなかったのだろうと思われます

 

「それと、天譴軍のみなさん、お礼がまだやったけど、ありがとなあ…」

 

「………………ありがと」

 

「本当に助かったのです

 ご助力にお礼を申し上げますぞ」

 

そう頭を下げるお三方に応えたのは忠英殿です

 

「まあ、一応は同盟相手だしな

 部下に指示して一応回収はさせてもらったし、あとはあまり大声で言ってまわらないでもらえると助かるな」

 

その言葉に頷く張将軍です

 

賈軍師は空気を読んだのでしょう、今ここで尋ねる事はせずに、それについては後で聞く事にしたようです

まあ、さすがに堂々と話されてこちらに聞かれても答えようがありませぬしな

 

しかし、拙者はともかく、仲達殿と元直殿は苦い表情をしておられます

 

このお二方はと子敬殿は最後の最後まで“馬”を提供するのには反対しておりました

 

その理由は拙者にも理解できるものでござったが、結局ここで機密を使ってでも天譴軍と一刀殿の心証を良くすべきだと仲業殿と公祺殿、令則殿が強引に捩じ伏せた形でござる

やはり機密まで渡す必要はなかったのではないか、そう後悔なされているのでありましょう

 

とはいえ、消極的でも認めた以上、それに言い訳をするような方々でもござらぬ故、尚の事その思いは苦いのでしょう

 

そう考えると今回の事はいささか強引に過ぎたか、と思わなくもありません

 

 

ふと、一刀殿の言葉が思い起こされます

 

「みんなで話し合って本当に全員が理解し納得するように、というのは本当に難しい事なんだよ

 だからこそ俺は円卓を選んだんだけどね

 いつかその意味がみんなにも理解してもらえると嬉しいかな」

 

笑いながらそう申されておりましたが、今の仲達殿と元直殿の表情を見て、なんとなく拙者にはその意味が理解できたような気がしております

ふと横を見れば、強硬に協力を主張した令則殿や公祺殿も渋い表情をしております

多分拙者も、そして顔に出てはいない皆も似たような思いをしているのでしょう

 

皆で論議し皆で決める以上、その後に誰かにこういう表情をさせるような事があってはならない

 

多分そういう事なのでござろう

 

数が百も二百もいる訳ではない、一刀殿を含めてたったの13人でござる

 

今にして思えば、やはり一刀殿も外すべきではなかったのでしょうな

 

 

後刻、改めて御前にて会議をという事で解散となった評定を後にしながら、拙者は考えます

 

 

これもまた、一刀殿の思惑の内にある事なのだろうかと

 

なにしろあの御仁は、拙者らにとっては主人としては決して振舞わず、その在り様は老師のような方でござる故な

 

己の未熟不明を自覚し、後日改めてこれらについて皆と話したい

 

拙者はそう考えながら、しばしの休息を求めて場を後にします


 
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