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あたしのルリ姉がこんなに可愛いわけがない その42011-10-19 00:37:37 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:3381 閲覧ユーザー数:2419 |
あたしのルリ姉がこんなに可愛いわけがない その4
前回のあらすじ
8月末に予定されていた松戸への引越しはなくなった。
転入試験まで受けて一生懸命に準備していたルリ姉には悪いけれど、あたしもお母さんもお父さんの話に元々半信半疑だった。
新しい綺麗なお家に未練はあるけれど、これでルリ姉もあたしも高坂くんと長距離恋愛せずに済んだ。
そしてルリ姉は予定が変わったことによりDESTINY RECORDを破り捨て新たにTRUE RECORDの制作に取り掛かり始めた。
まだ高坂くんの恋人になってもいないのに気の早いことだ。
それにしても、高坂くんは何でまだルリ姉に告白の返事をしないのかな?
あたしが高坂くんと知り合った翌日。
もうちょっと漫画っぽく言えば、あたしが運命の王子様にして将来の旦那さんである高坂くんに初めて出会った翌日。
ルリ姉は朝からだれていた。
「さすがに徹夜明けは辛いわね」
「未来日記書くのに徹夜したなんて知られたらみんな引くよ」
ちゃぶ台に突っ伏しているルリ姉の目は死んだ魚のよう。
高坂くんに見られたら一発で「さようなら」されそうな乙女にあるまじき表情。
しかも、徹夜した理由が高坂くんとの妄想日記の執筆という世間様にはとても言えない理由。
ルリ姉はステキな所も沢山あるけれど、やっぱり基本的にアウトな所が多い人なのだ。
「フッ。俗世が何と思おうが構わないわ。これで私はあの浅ましい雄を一生隷属できる神聖にして崇高なる予言を手に入れたのだから」
ルリ姉はちゃぶ台から顔も上げずに邪気眼電波なことをのたまってくれた。
あたしは毎度のことだから慣れているけれど、世間さまがこれを聞かされるととても痛いんだろうなあと思う。
「で、その神聖にして崇高なる予言にはどうすれば高坂くんと恋人になれると出ているの?」
結局、ルリ姉は結論をどう出したのだろう?
「……TRUE RECORDは先輩と恋人同士になった所から予言が始まっているのよ。だからどうやって恋人同士になるかなんて些細なことは載ってないわよ」
「怖いほど役に立たない予言だね」
どうせそんなことじゃないかと思ったけれど。
明確なビジョンがあるのならそもそも妄想日記なんか書かないだろうし。
「じゃあ、ルリ姉はどうやって高坂くんの恋人になるつもりなの?」
「……知らないわよ」
気のない返事。
というか、一晩考えて結局答えが出なかった恋する少女の哀愁を感じさせる返事。
「じゃあ、あたしが高坂くん取っちゃうよ」
「……勝手にすれば」
「重症だね」
ルリ姉にはあたしに反論する気力さえも残っていないらしい。
「ねえ、ルリ姉?」
死んだ魚の目を続けるルリ姉に尋ねる。
あたしにはどうしても確かめておかなければならないことがあった。
「ルリ姉は、高坂くんが告白の返事を保留しているのは何でだと思う?」
ルリ姉の体がピクッと震えた。
「…………知らないわよ」
ルリ姉の返答にはだいぶ間が合った。
「本当に?」
「………………私が邪気眼厨二オタクだからじゃないの」
今度の返答は更に時間が掛かった。
それに目が泳いでいる。
「さっきから嘘ついてるよね、ルリ姉?」
ルリ姉は明らかに嘘をついている。
何かを知っていて隠している。
「何が嘘なのよ?」
ルリ姉は顔を上げた。
目に強い意志を灯らせている。
秘密を守ろうとする強い拒絶の意志だけど。
でも、だったらここは名探偵日向がルリ姉の秘密を解き明かしてみせようと思う。
「考えてみたんだけど、ルリ姉が高坂くんと初めて会った時って邪気眼厨二全開だったんでしょ?」
「普段通りに振舞っていただけよ」
ルリ姉は否定しなかった。
つまり、ルリ姉全開だったわけだ。
「普通の人なら笑顔でさようならして二度と会わないルリ姉とわざわざ交流を始めたんだから、高坂くんは邪気眼厨二を理由に嫌ったりはしないよ」
「……そうかもしれないわね。何か、物言いに納得できない部分があるけれど」
これで外堀は一つ埋めた。
「それに昨日見た感じだと、ルリ姉と高坂くんは凄く仲が良かったし息もぴったりだった。2人はもう恋人同士だって言っても誰も疑わないと思うよ」
仲良しな友達同士が延長でカップルになった。そんな感じの2人。
「そ、そうかしら」
ルリ姉は照れた。
「だから高坂くんがルリ姉を嫌いだってことはないと思う。ううん、好きなんだと思う」
「そう言われると少しホッとするわ」
ルリ姉は安堵の息を吐いた。
でも、あたしが言いたいのはルリ姉を安堵させる言葉じゃない。疑問を投げかける言葉の方。
「ルリ姉は高坂くんが好きで、高坂くんもルリ姉が好き。なのに2人は付き合ってない。だからおかしいんだよ」
ルリ姉の瞳をジッと覗き込む。
ルリ姉は気まずそうにあたしから視線をそらした。
「もしかして高坂くんには既に付き合っている彼女がいる、とか?」
ルリ姉が望んでいるものが略奪愛や不倫の場合、高坂くんが返事を保留するのも頷ける。
その場合、高坂くんがイエスと言ってしまうとその先に待っているのは“すく~るでいず”みたいな展開に違いない。
高坂くんの生首抱いて“ないすぼーと”しているルリ姉をあたしは見たくない。
「先輩にもう彼女がいるのなら告白したりなんかしないわよ」
ルリ姉はムッとした表情で答えた。
「そうだよね。ルリ姉が自分から修羅場を掻い潜りたい訳もないしね」
人間関係全般が苦手なルリ姉が自分から修羅場に飛び込んでいくのは想像し難い。
と、なると次に思い浮かぶ可能性は──
「じゃあ、高坂くんには親が決めた婚約者が存在するとか?」
漫画みたいな設定を口にしてみる。
「確かめたことはないけれど、そんな漫画みたいな話は聞いたことがないわね」
婚約者の件も消えた。
となると、残された可能性は──
「高坂くんにはルリ姉の他にも気になる女の子がいるか、逆に他の女の子にも言い寄られている最中か。そういう話になるよね」
ルリ姉と同等の位置に付けている他の女の子の存在。
「そんなこと、知らないわよっ!」
ルリ姉は途端にすごく不機嫌になった。
声が乱暴になり甲高くなっている。
どうやらビンゴで間違いなかった。
「つまりルリ姉には恋のライバルがいる。そのライバルの存在のせいで高坂くんはルリ姉に返事できないでいる、と」
「……うるさいわね」
ルリ姉はあたしの推理を否定しなかった。
「で、どんな人なの? ルリ姉の恋のライバルって?」
興味がすごくある。
あたしにとっても恋のライバルになる人なんだし。
「……知らないわよ」
けれど、ルリ姉はムスッとした表情で顔を背けて答えてくれない。
「綺麗な黒髪の素直になれないお嬢さまとか? 小動物系のメガネっ子とか? スーパーモデル顔負けのナイスボディーを誇るお姉さん系とか?」
「知らないって言っているでしょ!」
ルリ姉は本気で怒ってしまった。
「私は昼食の買い物に行って来るわ。日向も下らない詮索はもうやめなさい」
ルリ姉はジャージ姿のまま買い物袋を手に取った。
「え~、だってあたしの恋のライバルでもあるんだよ。気になるに決まってるじゃん」
「知ってもどうにもならないことは知らなくて良いのよ」
ルリ姉はその言葉だけ残して買い物に出掛けてしまった。
「そんな風に言われたら、なお更気になるに決まってんじゃん」
立ち去ってしまったルリ姉に向かってあたしはひとり愚痴った。
「こうなったら、ルリ姉の恋のライバルについてあたしが調べるしかないよね」
ルリ姉のあのあからさまな拒絶の態度。
あれはもうあたしに真相を究明せよと前フリしているとしか思えない。
夏休みでちょうど退屈していたことだし、面白い謎解きになるんじゃないかと思う。
「とはいえ、ルリ姉の交友って謎に満ちているんだよね」
ルリ姉は邪気眼厨二な発言を繰り返しているので基本的に“ぼっち”キャラ。
クラスや学校に友達はほとんどいない。
代わりに高坂くんやビッチさんのようにネットを通じて知り合ったオタク友達は何人かいるらしい。
けれど、ルリ姉はそのオタク友達たちをあたしや珠希に紹介しないのでどんな人がいるのかわからない。
「名探偵日向の推理はいきなり行き詰まっちゃったなぁ」
ルリ姉のネット接続履歴でも調べれば何かわかるかもしれない。
けれどルリ姉はあたしたちが、特に珠希が勝手にネットに接続して害悪を受けないようにノートパソコンにパスワードを設定している。
あたしじゃパソコンを立ち上げることが出来ない。なので情報は得られない。
捜査が暗礁に乗り上げそうになったその時だった。
「あっ、ルリ姉。携帯忘れて出掛けてる」
天の恵みか、あたしはルリ姉が携帯をちゃぶ台の上に忘れていっているのをみつけた。
「これさえあれば、ルリ姉の交友関係がわかるっ!」
ちょっとだけ悪いなあ、とは思った。
実の姉とはいえプライバシーは守らないといけない。
でも、溢れ出す好奇心には勝てなかった。
携帯を手に持って、早速登録情報をチェックしてみる。
「少ない。少なすぎるよ、ルリ姉」
ルリ姉の登録件数は8件しかなかった。
私はその登録件数の少なさを見て涙を流さずにいられなかった。
ここまで“ぼっち”だとはさすがのあたしも思わなかった。
「って、泣いてないで登録情報をチェックしなきゃ」
携帯の8件の登録情報を確かめてみる。
その内、自宅の番号が1つ。お父さんとお母さんの携帯の番号が1つずつ。
8件の内、3件が家族絡み。
更にもう1件はバイト先の本屋の電話番号。
それ以外は4件しかない。
その4件とは、高坂くんの番号、ビッチさんの番号、そして知らない名前の番号が2つ。
「沙織・バジーナ? オタク友達、なのかな?」
バジーナと登録名に書いてある以上、まっとうな知り合いとは思えない。
ビッチさんと同じオタク友達と見るべきだと思う。
ビッチさんも『ビッチ・桐乃』で登録されているし。
「で、最後の1人は……赤城瀬菜さん。ゲーム研究会のお友達みたいだね」
『赤城瀬菜 ゲーム研』と登録されているので間違いないと思う。
以前ルリ姉の口から苛立った調子で赤城瀬菜という名前を聞いたこともあるし。
「となると、ルリ姉のライバルはこの沙織・バジーナさんか、赤城瀬菜さんか。それともここには出ていない誰かなのか。う~ん」
推理するにはどうにも決め手に欠ける。
ルリ姉のオタク友達なら高坂くんとも交流があってもおかしくない。
その意味で沙織・バジーナさんはルリ姉の恋のライバル候補から外せない。
それからルリ姉と高坂くんは共にゲーム研究会の部員。
高坂くんは当然赤城瀬菜さんとも接しているはず。
だからこっちも恋のライバル候補から外せない。
それにルリ姉のことだから、怒って恋敵の登録を消してしまっている可能性も十分考えられる。
それ以前にルリ姉はライバルの電話番号さえゲットしていない可能性も考えられる。
ルリ姉は自分から交流半径を広げようとはしないからその可能性も十分。
要するにルリ姉の恋のライバルに関しては様々な推測を立てることができて、なお且つそのどれもが十分な説得力を持っている。
結論──
「全然わからないよ」
携帯の情報だけではルリ姉の恋のライバルを探し当てることはできなかった。
「でも、この中に答えがあるのかもしれない。それに、高坂くんの番号もゲットぉ~♪」
わたしは自分の部屋からノートを持って来ると4人分の名前と電話番号を書き写した。
それから携帯を元の位置に戻すと何食わぬ顔でテレビを見ながらルリ姉の帰りを待った。
夜を迎えた。
お父さんとお母さんはまだ仕事から戻らず、ルリ姉は珠希をお風呂に入れている。
「結局、ルリ姉の恋のライバルに関する情報を得られなかったなぁ」
ルリ姉の帰宅後、それとなく探りを何度か入れてみた。
けれど全部空振り。
ルリ姉は恋のライバルに関する一切の情報を隠していた。
このことに1つ大きな疑問があった。
「何でルリ姉は恋敵の情報をあたしに秘密にするんだろう?」
ルリ姉は嫌いな人間に対して嫌いと口にすることに躊躇いがない。
そのルリ姉が自分にとって敵である筈の存在をあたしから必死に隠している。まるで庇うように。
何かがおかしな話だった。
でも何がおかしいのかあたしにはそのパズルのピースを埋められない。
真相に辿り着くためにまだ幾つかのピースを集めなきゃいけない。
「ビッチさんに尋ねてみようかな?」
あたし1人で真相を追うには限界だった。
でも、尋ねようにもルリ姉とあたしの共通の知り合いはほとんどいなかった。
高坂くんを除くとビッチさんしかいなかった。
幸いにしてあたしはビッチさんの携帯の番号をゲットしている。
連絡を取ることは可能だった。
「……よし。掛けちゃおう」
30秒ほど考えた後、やっぱり掛けてみることにした。
このままモヤモヤが続いていたんじゃ心の健康にも悪い。
あたしは家の受話器を取り、ビッチさんの番号に早速電話してみた。
1分近く呼び出し音が鳴ってようやくビッチさんは出た。
「誰?」
冷ややかな声。
間違い電話かイタズラ電話だと考えているのかもしれない。
「あの、日向です。ルリ姉の妹の五更日向です」
あたしは慌てて自分の名前を名乗った。
「ひっ、ひっ、日向ちゃ~~~~ん♪」
今度は鼓膜を破ってしまいそうな大きな喜びの声が聞こえてきた。
「どうして? どうしてアタシに電話掛けて来たの? どうやってアタシの番号知ったの? アタシへの愛の力?」
昨日も思ったけど、ビッチさんもルリ姉クラスにどこかがおかしい。
「いえ、ルリ姉のメモがあったから……」
ルリ姉の携帯を盗み見たとはさすがに言えない。
「日向ちゃんのアタシへの愛情はたっぷりわかったわ。で、珠希ちゃんは? 珠希ちゃんは今何をしているの?」
何でこの人はこんなにテンション高いんだろう?
「珠希ならお風呂に入っていますよ」
「珠希ちゃんが……お風呂っ!? グハッ!」
水道が突然噴出したような凄い音がした。
一体、何が起きたのだろう?
「あの、大丈夫ですか? 何か凄い音がしたみたいだけど」
「大丈夫。ちょっと致死量ギリギリ限界まで鼻血拭いただけだから」
世間一般では致死量ギリギリ限界の鼻血を大丈夫とは言わない。
「それでっ? 珠希ちゃんは一体どうやってお風呂に入っているのぉ~っ?」
オペラ歌手みたいな高いトーンで尋ねて来るビッチさん。
「どうやってって言われても、ルリ姉が珠希をお風呂に入れてあげているだけですよ?」
珠希はまだ幼いのでシャンプーなんかはルリ姉がやってあげている。
「あの犯罪者黒猫めぇっ! アタシの珠希ちゃんとお風呂に入るなんざ100万年早いってのぉっ!」
絶叫するビッチさん。
何を言いたいのかよくわからない。
ただ一つわかることは、ビッチさんはやっぱりアウトな人だってこと。
「こうなったらあの犯罪者猫に対抗するにはアタシが日向ちゃんと一緒に入浴するしかないわっ!」
「お断りします」
サラッと拒否する。
ビッチさんと一緒にお風呂なんかに入った日には……あたしはもうお嫁にいけなくなってしまうに違いない。間違いなく。
「チェッ! 日向ちゃんにアタシの子供を産んで欲しかったのに」
「あたしは一生涯ビッチさんと一緒にお風呂に入ることはないと思います」
珠希にもビッチさんには近寄らないように厳しく指導しないと。
「それで、日向ちゃんの用件って一体何?」
「えっと、それは……」
ルリ姉に黙って喋って良いものなのか一瞬迷う。
けれど、ルリ姉のライバルについてあたしはどうしても知りたかった。
だから思い切って喋ってみることにした。
「実は、ルリ姉の恋のライバルについてビッチさんは何か知ってないかと思って」
「……黒いのの恋のライバル」
ビッチさんの声のトーンが下がった。
「黒いのの恋のライバルってどういうこと?」
ビッチさんの声は気のせいか怒っているように聞こえる。
何かがビッチさんの心の琴線に触れたらしい。
でも、ここで尻込みしているわけにはいかなかった。
「えーとですね、実は何日か前にルリ姉が高坂くんに愛の告白をしたんです」
「嘘ぉおおおおおおおおぉっ!?」
本当に鼓膜が破れるんじゃないかと思うぐらいに大きな声が受話器越しに届いた。
「チッ! アイツら、それで最近アタシにこそこそしていたのね。それで?」
ビッチさんの声は明らかに苛立っている。
ビッチさんはルリ姉の告白を知らなかったみたい。
もしかしてあたしはまずい情報を流してしまったのかもしれない。
でも、今更話をやめるわけにもいかなかった。
「だけど高坂くんはずっとルリ姉への告白の返事を保留しているんです」
「ふ~ん」
「それで、高坂くんが返事を保留している背景にはルリ姉の恋のライバルがいるみたいなんです。だけど、その人に関する情報が全然なくて。ビッチさん、何か知っていますか?」
「…………っ」
喋れば喋るほどあたしは地雷を踏んでいる感覚になっていく。
何でそう思うのかよくわからない。けれど、電話越しに伝わってくる重い空気が、沈黙があたしを息苦しくさせる。
何で、こんなに嫌な感触に全身を締め付けられるの?
そして長い沈黙の果てにビッチさんが出した答え。
それは──
「……ごめん、日向ちゃん。アタシはこの件で力になれないわ」
妙にサバサバした口調での拒絶の言葉だった。
「そう、ですか」
長い沈黙の果ての返答だったので断られる予感はしていた。
それにビッチさんから感じる言いようのない威圧感が問題への介入を拒絶しているように思えていた。
「黒いのの恋のライバルってのが誰なのだかアタシにはわからない。アイツ、あんな平凡な顔して能力も人並みしかないのに女の子からの人気だけは結構あんのよね。ギャルゲーの主人公みたいにさ。メガネ地味子は完璧に惚れてるし、本人は否定しているけどあやせも絶対怪しいし」
「メガネ地味子? あやせ?」
また、知らない名前が出て来た。
「そんな訳で京介と黒いのが誰を意識しているのかアタシには見当がつかないのよ。だから日向ちゃんの力にはなれない」
ビッチさんの声はとても冷ややかで、でも怒りに満ちているようにあたしには思えた。
一体、何がビッチさんをそんなに怒らせているのだろう?
「あのっ、ビッチさん!」
もう1度改めてルリ姉の恋のライバルについて聞こうと思った。
何故ビッチさんが怒っているのかその原因だけでも突き止めないといけないと思った。
けど、その時だった。
「あらっ、日向。貴方、電話しているの?」
ルリ姉と珠希がお風呂から出て来てしまった。
「……ルリ姉がお風呂から出て来たので電話を切ります」
「うん。わかった」
ビッチさんの返答はごく淡白なものだった。
あたしはそれからごく短く「さよなら」とだけ述べて電話を切った。
「誰と電話していたの?」
パジャマに着替えたルリ姉が髪を拭きながら聞いてくる。
「友達」
あたしは短くそう答えた。
嘘は言っていない。
けれど、真実というには言葉足らずの返答。
「何か、顔色が悪いように見えるのだけど?」
「あたしが知らなかった夏休みの宿題を突然知らされちゃって。それで……」
「ああ。そういえば日向は最初から転校しないと考えていたから夏休みの宿題も普通にあるのだったわね」
ルリ姉はそれだけ言うとあたしから興味を失って部屋へと戻っていった。
見えなくなったルリ姉の背中に向かって溜め息を吐く。
「告白の返事を保留する高坂くん。ルリ姉の謎の恋のライバル。急に怒り出したビッチさん。そしてあたしの初恋。小学生が取り組むにはちょっと重過ぎる夏休みの課題だよねぇ」
あたしはどうやら大変な問題に首を突っ込んでしまったらしかった。
しかもあたしが介入したことで事態は大きく動き始めてしまった。それも厄介な方向へ。
そんな気がしてならない。
けれど、もうこの介入をなかったことにはできない。
「あたしはルリ姉たちの為にも最善の道をみつけないといけない、よね」
小学生には重過ぎるけどこの課題に取り組んでいかなくちゃいけない。
そう強く感じ、自覚した。
続く
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