No.320443 人類には早すぎたあの人が恋姫入り 八話2011-10-18 22:06:07 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:5171 閲覧ユーザー数:4261 |
一刀SIDE
ちゅん、ちゅん
「………」
……眠い。
まだ寝て…一刻ぐらいしか経ってない。もっと寝たい。
……何故眠れないんだ。そもそも何で起きたんだ?
「……典韋?」
そう、典韋だ。
いつもならこの時間だと典韋が起こして来るはずだった。
俺がどんなに遅く寝ても、この時間だと必ずあのこが起こしに来る。
なのに……何故今日はその気配が無いんだ?
「っは……」
重い体を起こして門を開くと外から冷たい風が体を刺す。
「っっ……典韋?」
周りを見ても、典韋が来る様子がない。
最近、賊の多発で、魏の将たちはあっちこっちに出立していた。
軍師の荀彧と俺を除けば、他の者たちは城に居る時間より外に居る時間が長いぐらいだった。
俺の世話役だった典韋もたまたま妙才と共に出ていた。
一昨日にも近くに賊が現れてそれの退治に向かって昨日の夜ぐらいに帰ってきた。
帰ってきて俺のところ顔を出している時に少し疲れ気味だったが…まさか……
「あ、兄様」
「…典韋、来たか……!」
やっと現れたかと思って振り向いたたら、典韋の姿は明らかにおかしかった。
「兄様、起こしてもないのに、先に起きました?」
「……典韋」
「はい…?」
「とりあえず俺の部屋で寝てろ」
「ふえ?」
「良いから休め」
「ふわっ、ちょっと、兄様!?」
俺は典韋を抱き上げて無理矢理俺の部屋の、俺がさっきまで寝ていた布団に寝かせた。
「兄様、私大丈夫でs…」
「……いつも俺に健康的な生活しろと言う奴がそれか」
「あぅ……」
「……寝てろ。俺は孟徳に話がある」
黙って見ていたが、もう悠長にしてられない。
華琳SIDE
「典韋が倒れた」
「……!」
朝の御前会議の準備していた私の部屋に突然一刀が入ってきた。
彼のところから来ることは初めてだったから少し驚いたけれど、それよりも驚いたのは、典韋が倒れたという言い出す彼の声の荒さだった。
「…流琉は大丈夫なの?」
「さっき顔を見たら顔色が真っ青だった。これ以上の働きは、彼女の上司として黙って居られない」
「一刀、あなた怒ってるの?」
「…………」
彼はこんなに感情を制御できない姿なんて初めてみたわ。
春蘭に対して呆れたり、静かに怒ってるのは見たことあるけど、こんなにありのままに怒りを吐き出すなんて……
「流琉のことはごめんなさい。私が彼女に無理をさせていたのかもしれない。だけど、将自分の体は誰よりも自分が一番大事にするべきよ。自分の体の状態を考えないで無理をしたのは彼女自身よ」
「……そう、孟徳はそういう人間だったな。忘れてた」
「………」
明らかに侮辱された気がしたけど、黙って彼の話を聞いた。
「もう良い。黙って膠着状態が解けるまで待つつもりだったが、既に将兵とも限界だ。この黄巾党との戦い、早急に終わらせる」
彼はそう言って外へ向かった。
黄巾党…確か報告によれば最近現れる賊たちは皆して黄色い布を巻いてあったという。
やっぱり、彼はこうなることを事前に知っていたのかしら。
「一刀、ちょっと待ちなさい」
「何だ、孟徳」
「昨日また賊…あなたがいう黄巾党の群れが現れたという報告が届いたわ。他の娘たちも疲れているし、元なら私が桂花を連れて出るつもりだったけど、あなたが代わりに言って頂戴」
「……」
「自分の目で状況を見た方が、情報収集にも容易なのではないかしら」
一刀は少し黙ってまた口を開けた。
「……出立の準備はいつ整える?」
「昼過ぎよ。副将には桂花行かせるわ」
「荀彧には他にやらせたいことがある。助っ人なら許楮を頼もう」
「季衣も最近無理をしているわ。休ませてあげたいの」
「……許楮には俺が言う。孟徳は典韋のための医員を手配してもらおう」
「…ええ、分かったわ」
一刀は敢えて許楮を副将にすると言って外に向かった。
……一刀、あなたは私がそんな鬼に見えるの?
季衣SIDE
「え!?流琉が倒れたの!?」
「…そうだ」
お兄ちゃんはそう淡々と述べた。
確か昨日見た時にちょっと疲れてるとは思ってたけど、まさか……
「それで、彼女の代わりに俺が討伐に出かける。許楮には副将として付いてきてもらおう」
「え?お兄ちゃんが…?」
ボク、お兄ちゃんが戦に出るのって、最初に会った以来見たことないんだけど…
こう言ったら悪いけど、お兄ちゃんってあんま強そうじゃないし……
「……相手が元譲ではないと従えないのか?」
「え?あ、いや、そういうんじゃないけど……」
「じゃあこうしよう。俺が副将で、許楮が大将ということにしよう」
「ふえ!?」
ボクが大将?
「そ、そんなことして大丈夫なの?」
「肩書きだけのものだ。責任ならどうせ俺が取る。君がボクが信用できないと言うのなら無理言って従えとは言わん。だが、今回の戦には元譲や妙才でなく君に出てもらおう」
「……お兄ちゃん、どうしてそこまでするの?」
「何をだ?」
「お兄ちゃんって内政専門だし、お兄ちゃんが今まで一度も戦場で指揮してるの見たことないよ。なのに流琉のお代わり役割で出るって言ってるんだよね。それに、ボクが初めてこの軍に入る時でも華琳さまと真正面で反対していたし…お兄ちゃんって一体どうしてボクと流琉にここまでするの??」
春蘭さまや秋蘭さまも、このお兄ちゃんに対しては『好きではないけど逆らえない』という感じで接していたし、あのうるさい桂花さまでも、お兄ちゃんの前では静かになる。まるで皆、お兄ちゃんのことを怖がっているように……
「…………俺も昔はお前たちのような子供だった」
「ふえ?うわああ、何すんだよ」
お兄ちゃんは私の頭をぐしゃぐしゃにした。そのせいで巻いていた髪が解かれちゃった。
「出立は昼過ぎてからだ。遅れるな」
「…んも……」
やっぱわかんないよ、あのお兄ちゃん。
流琉SIDE
人って、自分の意志で動いているつもりだと考えていても、実は自分のことをちゃんと理解していない時が多いのと思います。
例えば、人って最初自分が病気だということに良く気づかないようなものなのです。
そして、誰かに顔色が悪いとか、休みなさいと言われてやっと、自分の調子が正常ではないということに気づくのです。
今の私がそうです。
「朝兄様に言われるまではまだピンピンしていた気がするのですが……」
今じゃ自分の部屋の布団で大人しく休んでろという『上司命令』を下された始末です。
いつもなら私がだらしない兄様の生活に対して色々と言う側なはずなのに、こうして自分の体の異常に気づかずにいたなんて、無念です。
「典韋、俺だ。入るぞ」
「あ、兄様」
そんなことを考えていたら、出かけていた兄様が戻って来ました
「兄様、それって…?」
「……」
いつものように目の下には大きなクマができていて、立ってる姿勢はおかしいですが、いつもと違うことがあったとしたら、いつもはポケットに入ってるはずの両手は、代わりにお粥を持ってるということでした。
「ちょっと作って来た。後で食べろ」
「……兄様って料理できたんですか?」
「出来ないとは言った覚えはない」
兄様はそう言いながらお粥の皿を布団の近くの円卓に置いて、自分はそこにあった椅子を私の近くまで持ってきて座りました。いつものように両脚まで席にあげて、どこかへでも倒れそうな座り方です。
「お前の代わりに賊の討伐に出ることになった」
「兄様が…討伐にですか?」
兄様って戦いなんて出来なかったんじゃ……
「誰か一緒に行くのですか?」
「許楮がな」
「季衣が……」
それなら、多分大丈夫でしょう。
「ごめんなさい、私が倒れたせいで兄様にまで戦場に出るようにさせちゃって……」
「………」
兄様は何も言わないまま私を見ていました。
「典韋、ここに居るのはどうなんだ?」
「どう……とは?」
「村に帰りたいとは思わないか?」
「……へ?」
私は兄様がどういうつもりでそんなことを言うのかよくわかりませんでした。
「今村に戻ったら、賊とは言え人を殺すなんて辛いこともしなくても良いし、危険な目に会わずとも済む。君と許楮の住む村は既に孟徳の支配下にあるし、何が起きてもこっちから直ぐにでも助けに行ける。君に無理をしてまでこれからも戦争をしろとは言わない」
もしかして、兄様はここに居るのをやめなさいって言ってるのですか?
自分の体の調子も分からずに、人に迷惑をかけるぐらいだったら、最初から居ない方が良いって…?
「兄様、私が無理をして倒れちゃったのはごめんなさい。でも、私は沢山の人たちを助けたいです。まだ幼いですけど、私と季衣にはそれほどの力があります」
「……解っている。君と許楮の力は孟徳にとって心強いものとなるだろう」
「なら……」
「典韋、俺がお前ぐらいだった頃、俺は大学……国の才のある若者たちが集まる施設に居た」
兄様は突然、自分のことを話し始めました。
「普通二十代以上の者たちが集まるその場で、当時の俺は明らかに幼い者で、それはとても異例な状況だった。それは、俺は他の人たちとは違う才能を持っていることに気づいた親や周りの人たちが、俺の才能をもっと『有用』に使うためと俺の意志とは関係なくそういった施設に入れさせたんだ。もちろん、当時世間のことは知らず、ただ知識的な高みを欲しがっていた俺は、そういった状況が俺にとって悪くないと思った」
そこまで言って、兄様は一度目を閉じました。
「だけど、俺は俺自身が思っている以上にまだまだ子供だった」
「……?」
「確かに天性的に才能もあって意欲もあった俺だったが、俺の体はまだまだ大人になってない未熟な体だった。その体で大人たちが勉強を追いつくには、体は持たなくなってきた。結果的に、ある限度を越えた時、俺の体は悲鳴を上げた。俺は41度8分という高熱を出し倒れて、そのまま病院に送られた。一週間ぐらい生と死の境を渡り合っていた俺は奇跡的に生きたが、長い高熱が続いたせいか、俺の頭は以前のような才能を失っていた。俺の年頃よりすこし増しなぐらいの知的能力ぐらいしか出せなくなって俺は、当然のように例の施設から追い出された。そして、更に、俺の親からも見捨てられ、挙句には戦争などで親を失った子供たちを養ってくれる施設に入ることになった」
「……そんなのって……」
おかしいです……死ぬかもしれなかった息子が生きて帰ってきたののに、それを天才じゃなくなったからって、見捨てて、父も母もあるのに他の誰かも知れない人に任されることなんて……。
私のご両親は盗賊が村に現れた際、まだ喋りも出来ない私を守るために二人とも命を落としました。
その後私は、季衣を育ててくれていたおばさんのところで季衣と一緒に育って来ました。
兄様の話は分かります。確かに兄様のお父さんはお母さんも、幼い時の兄様に期待しているものがあったでしょう。でも、その才を失ったからと言って……
「俺を同情して欲しいとこの話をしたわけではない」
「あ………ごめんなさい」
「……幼い頃から人並み以上の才を持つと大人たちから期待される。それは、決して悪いこととは言えないだろう。でも、そんな大人たちがお前たちに期待しているものは大人と同じぐらい、いや、それ以上のものだ。それは時には君のような幼い体と心ではまだ耐え切れないものである時だってある。子供はそんな大人の期待にただ応えようと頑張るが、それが己を怪我することになることは、俺が見るからには明らかだ」
「………」
「お前をここに連れてきた俺がこう言うのも図々しい話だが、これからも孟徳や俺はお前に普通の子供になら耐え切れない、大人としての対応を押し付けることになる。俺の親は俺の才をもっと大きく使うためと言っていたが、実はそうじゃない。実った木の実は、それが早く実ったら早く収穫して、遅く実ったら遅く収穫するだけだ。早く実ったとしてそれがもっと大きくなるまで待つってことはない。幼い時にその才を開花させたなら、幼い時に売りつけてしまう。それがこの世界だ」
兄様……
「……俺は許楮にも同じ事を言う。でも、多分許楮は俺が言うことを全部は理解してくれないだろう。だから許楮が帰ってきたら、お前が季衣と二人で話し合え。そして、これからどうするか二人で決めろ。帰りたいと思うのだったら、孟徳には俺がなんとでも言う。でも残るのなら、俺が今までのように甘やかすとは思うな」
兄様はそう言って立ち上がりました。そして、そのまま何も言わず部屋を出て門を閉じました。
「……兄様」
私が暫く兄様が出た先を見つめて、兄様が置いていったお粥を自分の元へ持って来ました。
「……美味しい」
ちょうど食べやすいぐらいに冷めていたその粥を食べながら、私はふと、兄様は誰かにお粥を作ってあげたことなんてあっただろうかと思いました。
華琳SIDE
「勝手なことを言ってくれたじゃない」
私は一刀の部屋の門際に立って、門を閉じた前で歩き出す一刀の姿を見ながらそう言った。
「……何をしてでも勝ちたければ、孟徳、女でも老人でも病者でも六歳以上の子供でも徴兵して盾用の軍を作れ。そしたら俺がこれからでも天下をとれるような策を作ってやる」
「そんなこと言ったわけじゃないでしょう?捻るにもほどが……っ!」
言葉を続けようとする彼の顔がすごく近くて私は言葉を止めた。
「……曹孟徳、お前もまた典韋と同じ枠に入るとは思わないか?」
「……なんですって?」
「たとえそれを押し付けた大人はなくとも、もし自分の立つ位置を誤ったのなら、お前はまだ大人とは呼べないのかもしれない」
まるでさっきの流琉に言った話の中に出てきた不憫な少年がこうなったとは思えないほど冷たい瞳で、私を見つめていた。
流琉もこの目を見ていたのかしら……。
「ふん、話にならないわ。私は覇王になることを誓った者。子供扱いなんて不要よ」
私はいつか天下の全てを私のものとする。そんな私を子供扱い出来るものなんて、この世にはない。
「…既に立派な大人だって言いたいのか……子供は皆そう思う。俺もそう思った」
……この男を除いては…
「……あなたが流琉に言った話、それで全部じゃないわよね。何があったの?」
「……有り触れた話だ。聞いて面白い話でもない」
子供の才に期待していた親、そしてその才を開花させるところで失った子供。子供にかかっていた魔法は消えたはずなのに、それでもまだまだ親は子供に大人の責任を持たす。大人の対応を望む。……………そこから子供の地獄は始まるのよ。
「そうね…」
「他に使えそうな者なら俺が探そう。二人が心を決めた場合、そのまま行かせてやってくれ」
「どこまでも決めるのはあの娘たちよ。あなたにもこれ以上彼女を追い詰めないようにお願いするわ」
「…あの二人がお前の期待を損ねるとは微塵も思ってないようだな」
「当然よ。そう思ってたら最初から私の元に入れてもないわ」
私がそう言いながら誇らしげに鼻笑いをすると、彼もまた怖い目つきから、いつもようなちょっと不気味な顔に戻った。
「……孟徳、君との賭けはいつも楽しみだ」
「ええ、ほんと…何賭ける?今度こそ真名で呼んでもらおうかしら」
「……天才の勘は計算にはまらない。油断できないところがある」
「あら、怖いの?私との勝負が」
「……俺が負けたら、桂花にやった宿題の答えを孟徳に教えてあげよう」
「宿題?」
「……そろそろ時間だな。俺は討伐に出る」
彼はそう言いながらまた腰を曲げて異様な歩きをしながら去っていった。
「……この曹孟徳にまだまだ子供…ね……」
人のことなんて言えないくせに…
・・・
・・
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この一刀の裏設定を入れながら、以前一刀が季衣に関して言っていた言葉も意味もここでわかってもらったら幸いです。
……お前はどうして一刀という一刀は全部最悪の過去を持たせるんだ?