No.320346

真・恋姫†無双 ~天ハ誰ト在ルベキ~ 第捌話(下) ギシン

桜花さん

久々に作品を投稿したいと思います
自分が投稿していなかった間、コメントを下さった方々ありがとうございます
更新頻度はあれですが、これからも続けていこうと思うので、よろしくお願いします
始めて御覧になった方はコメントを頂けると作者のこれからのモチベーションと作品の向上につながるので、是非是非付けていってください

2011-10-18 18:42:27 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:2915   閲覧ユーザー数:2406

 そんなこんなで、夏侯家に着いたんだけど、凪たちに何か行って来た方が良かったかな?

 子供じゃないんだし、大丈夫か。そんなに長い間いる訳じゃないし。

「そういえば、確かお客さんが来るからあの店までお菓子を買いに来ていたんですよね? 俺がここに居ても大丈夫なんですか?」

 タメ口で良いと言われたけれど、やっぱり年上の人には丁寧な口調になってしまう。元譲さんには使わないけど。

「ふむ、多分大丈夫だと思うぞ。姉者は会ったことはあるらしいが、私は初めて会う方だから確証はないがな」

「えっ!? 本当に俺いちゃっていいのかなぁ・・・・・・」

 妙才さんに会ったことないってことは、普通に考えて彼女に会いに来たってことでしょ?

 そこに見ず知らずの男がいて、初対面の人にそこでも初対面の人が紹介される・・・・・・。

 しかも、「会ったことあるらしい」って。それすら確証ないのかよ。

 だめだ、意味わかんねぇ。とにかく言えるのは、俺、居づらい。

「才能のある者なら、性格や素行が悪くても気にしないという程優秀な者が好きという話だから、評判の良い襄陽の太守である北郷ならば問題はあるまい」

 自分に才能があるかは知らないけれど、褒められて悪い気はしない。

 それに襄陽の評判が良いと言われると仲間の努力が認められてる気がして嬉しくなる。

「それなら良いんですけれどね」

 しかし、不安は残っていて素直に同調することは出来ない。

「そう言うな。むしろ北郷にとっても良い出会いになるかも知れんぞ? 朝廷の方でもそれなりの地位を持たれている方だ。友好関係を築いておいても損にはならんさ」

 朝廷か、一応俺も正式な太守っことになってるし、仲良くしといた方が良いのかもしれない。

 そういえば、賈駆さん大丈夫かなぁ。董卓の行動は本当に演義通りなんだろうか? まだ洛陽に都あるから必ずしも一致しないのかも知れない。ってか、俺のせい? 俺がここに来たから凪たちが華琳に仕えてないし、焔耶も蜀から離れちゃったし、星は華琳についてくし、俺って一体何なんだろう。

「どうした、急に黙り込んで? 朝廷とは折り合いが悪いか?」

 少し深刻な表情で俺を覗き込んでくる。

「いや、何でも無いよ。ただ、うちの仲間たちに何も言わないで来ちゃったから、心配してなきゃ良いと思ってさ」

「なるほど。まぁ、問題あるまい。それともずっと居座るつもりか?」

 どうも妙才さんのペースに呑まれがちだなぁ。

「えっ、まさか。さすがにそれは、ねぇ」

「ふふっ、そこで軽口を返せる様でなくてはこの先気苦労が絶えんぞ?」

「・・・・・・、精進します」

 余裕を持つ程まだこの世界に慣れてないんだよな。でも、今の状況に慣れる頃には周りの状況も変わってくるし、慣れてる場合じゃないもかもしれない。

 確かに、俺の器はまだまだ小さいかもしれない。もっと頑張らなきゃ。

「なんか逆に緊張してきちゃったな。・・・・・・ところで、妙才さんと元譲さんは誰かに仕えていないの? 夏侯家といえば、かなりの名家だし、二人とも武芸にも精通しているようだけど」

 歴史では曹操にはじめの頃から仕えていたけれど、華琳に会った時は一緒にいなかったしまだフリーなのかな?

「そうだな、今のところは誰の配下でもないさ。だが父曰く、親戚に凄い方がいるようでな、その方について行くのも良いかと思っている」

「へぇ」

 そんな凄い人いるのか。ってか、逆に凄い人ばっかりじゃなかろうか。

「だが、実際に会ってみなくては分からんし、彼女の道に賛同できなくては、それがどんな道だろうがついてはいけんさ」

「道、か。なるほどね」

 やっぱりこの時代の人は違う。果たして、俺の時代にどれくらいの人が、これくらいの年で自分の生き方を見つけているんだろう? 俺も目標はあっても、所詮目先のことだけだしなぁ。

「ちなみに今回来る方がその親戚だ」

 はい? 夏侯家が認める凄い人が来る??

「えぇっ!? なんでそんな遠まわしな言い方するのさ」

 何これ。一気に緊張してくるんですけどっ!?

「ふっ、忙しく変わる北郷の顔が面白くてな、つい」

 妙才さんが悪戯な視線を向けてくる。

「まぁ、良いけどね」

 もうなんでもいいや。なる様になるでしょ。

「秋蘭! 腹が減ったぞ!!」

 庭で鍛錬をしていた元譲さんが戻ってきて、開口一番そう言った。

 かなりお腹が空いているらしく、身体を動かしたばかりなのにうずうずしている。

「ふむ、まだ時間もある。北郷も昼はまだだったな?」

「えっ? うん、まだだけど?」

「ならば先に昼食をとってしまうか。早速準備をするとしよう」

「妙才さんが作るの? なんか申し訳ないな」

 この家の規模なら料理人が居そうなんだけど。作ってもらっちゃって良いのかな?

「構わんさ。私は料理自体が好きだしな。それとも味に不安があるか?」

「不安なんて全然ないけ「なんだとぅ!! 北郷! 貴様、秋蘭の料理が陸に上げられて、三日三晩経った腐った魚をそのまま食べた様な味がしそうだとっ!!」

「いやいやいや、俺、何も言ってないからね!?」

 どんな因縁のつけ方!? もはや芸術の域だよっ!

「姉者、どちらかと言えば私がけなされている気がするのだが」

 呆れた様な口調で、妙才さんが溜め息をつきながら呟く。

「そうか?」

 全く分かっていない様子の元譲さん。これは一種の才能じゃないだろうか。

 会話があっちこっちに行きすぎて何を話してるか分からなくなってしまった。

「・・・・・・、結局俺は馬鹿にされてたのか?」

「誰だ馬鹿だ!!」

 いきなり怒られた。腹が減って気がたってるって、動物ですか? 

「言ってないって!!」

 どうして良いかさっぱり分からない。誰か助けt「痛っ、痛いって。元譲さん、蹴んないでっ! それ以上はほんとにやばいって、折れちゃうから!!」

 と、とにかく離れないきゃっ。なんで襲われてるか分かんないけど。

「妙才さん、止めてよ!!」

 魂ごと刈り取られそうな蹴りに怯えつつ、助けを求めてみる。

「あぁ、姉者は可愛いなぁ」

 ・・・・・・。どこに可愛い要素があるんだろうか。

「ふぅ、御馳走様」

「だろう。秋蘭の料理の腕を思い知ったか」

 大げさに胸を張る元譲さん。すごく嬉しそうだなぁ。

「はいはい、御見それしました」

 とは言え、作ったのは自分じゃないんだけどね。

「なんだ、その顔は? 私の顔に何かついているか?」

 顔に出てしまったらしい。危ない危ない、機嫌を損ねたら命の危機が。

 そういや、凪とか焔耶とかここんとこ日常で命が危ないことが多い気がする。

 この時代に飛ばされたから、って訳じゃないと思うけどどうなんだろうか。

「いや、何もついてないよ」

「そうか? 変な奴だ」

 怪訝な表情の元譲さん。この辺の素直な感じが可愛い・・・・・・、のかな?

「元譲さんと妙才さんって仲良いよね?」

 なんとなく気まずくなりかけたので、話題を振ってみる。

「何を言っているのだ。姉妹で仲が良いのは当然だろうに」

「そうでもない兄弟は沢山いるよ」

「私に言わせればそんなもの兄弟ではない」

 あれ? すごくまともなこと言ってる。

 って、この考え自体が失礼か。やっぱり、何だかんだで夏侯惇なんだよな。戒めよう、自分を。

「姉がしっかりしていれば、仲違いなぞ起こらないからな」

「あ、姉が、しっかり、ねぇ・・・・・・」

 前言撤回した方が良いのかもしれない。

「北郷! 貴様、今絶対に私を馬鹿にしただろう!!」

「ソ、ソンナコトナイヨ?」

 すみません、してました。

 まずったなぁ。誤魔化しきれないかもしれない。あまりに予想外だったわ。

「そうだぞ、北郷。姉じゃはこうみえてもしっかりしているところもある」

 片付けが終わったらしく、妙才さんがやってきた。いや、来て下さった。

「ほんとに?」

「もちろん。ほら、姉者、杏仁豆腐だ。食後の一時くらい落ち着こうではないか」

「ん、おおっ。そうだな」

 良かった、弱った体に追撃はきつい。

 これで元譲さんの機嫌も治ったみたいだし、ゆっくりできそうだ。

 しかし、この二人は本当に仲が良いなぁ。

 お互いがお互いを分かりあってるっていうか、現実に絆があったら目視出来そうな感じだよな。

 だってほら、元譲さんが妙才さんの杏仁豆腐を食べても何にも言わな・・・・・・。

「姉者よ、今、何をした・・・・・・?」

 あ、あれ? おかしいな。空気が変わったような。

「何とはどういうことだ? 私は何もしていないが?」

 それを感じていないのか元譲さんはのほほんとしている。 

「何も・・・・・・、何もしていないだと!?」

 俺も何もしていない気がするんだけど、流石にそれを信じられない。

「ああ、むしろ秋蘭が残そうとしていたさくらんぼを私が食べてあげた位だ」

 いまだマイペースな元譲さん。この顔くらい平和にこの場が収まれば良いんだけど。

「食べてあげた? ほう、面白いことを言うな。知っているか、姉者。私は好物を最後に食べてその甘美な時間に浸るのが幸せだと言っていた事が無かったか?」

「ん? そんな事をいっていたかもしれんが、忘れた。大体、どうでもいい事私がいちいち覚えておるはずがなかろう」

「どうでもいい事、か。ふふっ、ならば、私の好物がなんであったかなどという、糞の役にも立たんものは当然覚えていようもないだろう?」

 ・・・・・・。う、うそでしょ?

 こんな、こんな「好物を勝手に食べられた」とかいう阿呆くさい理由で喧嘩がはじまるのかよ。

「ねぇ、元譲さん。覚えてるよね? 覚えてるって言って!?」

 っていうか、会話の流れから考えて、当然答えはさくらんぼだからだいじょ・・・・・・。

「ま、まさか、忘れるはずがなかろう」

 ばねぇーーーー!!

 えっ、なんでこの人は汗ダラダラ流してるの? 元譲さんてここまでアホの子なの?

「威勢は良いな。では、何であったかな?」

 俺が答えを言おうとする前に妙才さんがたたみ掛ける。

「うむ、、、えっと、 あの、、そうだ、豚の丸焦げだ」

 意味わかんねぇよ。何だよ丸焦げって。そんなん食う奴何処にいるんだよ。っていうか、丸焼きにしろなんでそんなもん選んだのか皆目見当がつかんわ。

「何処の世に消し炭を好んで食べる女がいるというのだ!!」

 当然の結果、この答えは火に油を注ぐ様なものになった、のだが、

「いやぁ、始めて聞いたときは私も驚いた。まさか、秋蘭が炭を食べるとは思わなかったからな」

 なんでこの人気付いてないんだろう。

 苦し紛れに百人中百人に聞いても当たらない解答をして、それを押し通せる勇気が凄いよ。

「まだ言うか・・・・・・。」

 楽しげな元譲さんとは対照的に、どんどん静かになっていく妙才さん。

「元譲さん、謝った方が良いって。今日初めて会ったけど、妙才さんっていつもは怒らない人でしょ? それがあんなに怒ってるだから、こっちが折れるべきだって」

 とりあえず、この場を収めるために二人に話しかける。

「何を言うか、北郷! 向こうが勝手に怒っているのに何故こっちが詫びを入れねばならんのだ。第一、謝る理由もないし、謝るべきこともしていない!!」

 なんか、俺が怒られた。こっちにも油を注いでしまったのかもしれない。

 元譲さんの説得は無理そうだな。

「妙才さんももう許してあげてよ。元譲さんだって悪気があってやったんじゃないんだし」

 ならば、妙才さんに賭けるしかない。

 まぁ、もともとこっちへの交渉が本命だしね。

「そうだそうだ!!」

 いらん茶々をいれないでくれ。

「では北郷、悪気がなければ何をしても許されるのか? お前の部下が目の前で害されても、そんなことを言えるのか!?」

 すごんでこっちを見てくる。

 なんか論理が飛躍しすぎてないか?

「いや、それは無理だけどさ。それとこれとは違わないかな? とにかく落ち着いてよ」

「五月蝿い。今の私にとっては同じことだ」

「そ、そうですか」

 無理っ、こっちの方が無理っぽい。

「ええぃ、秋蘭! いい加減にしないか!!」

「それは姉者の方ではないのか?」

 あぁ、終わったかも・・・・・・。

「ちょっと厠に行ってくる」

 考えをまとめるため、危険を避けるため、俺はこの場を逃げ出した。

 二人とも気付くはずもないけれど。

「はぁ、なんか今日は良くないことに巻き込まれる日なのか・・・・・・」

 ドンッ

 考え事をしながら歩いていたら、何かにぶつかってしまった。

「あっ、すいません! 大丈夫ですか?」

 あれっ、この人どっかで見たことある様な気がする。

「大丈夫よ、そちらこそ、って一刀じゃない!? なんでこんなところに居るのよ?」

 そう、背があまり大きくなくて、金髪の、巻き髪ドリル(小)といえば

「か、華琳!? いや、なんでって言われても困るんだけどさ。強いて言うなら成り行きかな」

「何よそれ」

 ジト目で睨まれた。実際、俺が何なんだと言いたいよ。

「まぁ、いろいろあってね。華琳こそ何でここに?」

「私? 私は招待されてきたのよ」

「もしかして妙才さんと元譲さんの親戚って・・・・・・」

「あら、よく知ってるわね」

 なるほど、確かにすごい人だ。

「今日は春蘭の妹を紹介してもらえるという話できたのだけれど、何処に居るのかしら?」

「ん、妙才さんとはまだ面識はないの?」

「えぇ、だから今日彼女に会いがてら話をしに来たのだけれど、人を呼んでも誰も出てこなかったのよね」

 この屋敷の中は非常事態だからなぁ。それどころじゃないわけだ。

「あぁ、今は何というか、二人に会うには不味い状況だよ」

「何よそれ、どういうこと? もう少し、的を射た説明をしてもらいないかしら」

「なんて言えば良いんだろう、う~ん、絶賛喧嘩中?」

 的確に内容を伝えるとしたら、喧嘩中としか言えない訳で。

「はぁ、訳が分からないわ」

 ま、こんな説明したら、そりゃ華琳に呆れられるよな。俺も半分呆れてここまで逃げてきたんだけどさ。

「兎に角ここにいても埒があかないわ。とにかく二人のところに連れて行ってもらえない?」

「今逃げ出して来たところなんだけどなぁ・・・・・・。分かった、じゃあ行こうか」

 俺の逃亡作戦は十分とたたず終了することとなった。

「何よこれ。ちょっと、一刀、どういうこと!?」

「だから俺に言われても困るって」

 華琳か叫ぶのも無理はない。俺が何も知らずに来ても同じことを言うだろう。

 戻ってきた部屋はもはや俺が出た時とは全く違う部屋になっていた。

 大剣を構えて殺気を放っている元譲さん。

 恐らく、それを振り回したのだろう。部屋のあちこちに裂傷が見受けられる。

 相対する妙才さんも負けず劣らずの氣を纏っている。

 その手に持っている弓から放たれたと思われる矢が壁に突き刺さっていた。

「妹として姉者を立ててきたが、それが甘えにつながってしまうとは我ながら反省した。これからは厳しく接するべきだな」

「なんだとぅ! 私がしっかりしていたから今まで上手くいっていたのではないか!!」

 恐ろしく殺伐とした状況の中、交わされる言葉は反対に幼稚なものだった。

「ねぇ、一刀。一つ聞きたいのだけれど、この喧嘩の原因って何?」

「聞いても怒らない?」

「なんで貴方を怒らなきゃいけないのよ。いいから早く、答えなさい!!」

 イライラが頂点に達したのか、華琳の段々と言葉がきつくなってきた。

「はぁ・・・・・・、元譲さんが妙才さんの分のさくらんぼを食べたから」

「はい?」

 華琳の口の端がひくひくしている。

 あぁ、もうどうにでもなれ。

「だから、元譲さんが妙才さんの分のさくらんぼを食べたから!」

 思わずこちらも声を荒げてしまう。

「さくらんぼ? さくらんぼってあの食べ物のさくらんぼでしょ!? それを食べた食べないでどうして殺し合いにまで発展してるのよ!!」

 俺の考えていたこととほとんど同じことを言われてしまった。

 だよねっ! 俺の思考回路は普通なんだよねっ!

「知らないよっ! だから言いたくなかったんだよ!」

「あぁ、もう・・・・・・。頭が痛いわ」

「「はぁ・・・・・・」」

 誰か助けてください。

 俺たちが到着してから五分程経った頃、

「あっ、華琳様!」

 視界の端にでもようやく映ったのであろうか、元譲さんが声をかけてきた。

 当然、戦闘態勢は崩していないが。

「ようやく気付いてもらえて光栄だわ。でも、この歓迎はずいぶん御挨拶ね」

 それを特に気に留める様子もなく、華琳は不満を述べる。

「すみません。で、でもこれは全て秋ら「初めてお目にかかります、曹操殿。私、姓を夏侯、名を淵、字を妙才と申します。以後お見知りおきを」

 元譲さんに割り込んで妙才さんが会話に入ってきた。

「え、えぇ、よろしく」

(ちょっと、春蘭の妹っていつもこんな感じなの?)

(いや、そんなことはないと思う。さっきまでは人あたり良くて、場の空気を読める人だったし)

「せっかくお越しいただいたというのに何のおもてなしも出来ないどころか、お見苦しいところをお見せしてしまって申し訳ありません」

 妙才さんは目を伏せ、非礼を詫びている。

 こちらも当然、弓の弦は張り詰めたままだ。

「それは本当に残念ね。どうしてこんな状況になったのかしら?」

 もはや子供の喧嘩をあやす母親の様にも見える。

 はたから見れば、どう見ても華琳の方が子供だけど。

「そ、それは秋蘭が突ぜ「言い訳になりますが、ご容赦を。実は我が家に賊が入りこみまして」

「「賊??」」

 華琳と顔を見合わせる。

(賊が侵入してきたの?)

(俺は会ってない。どういうことなんだ?)

 賊になんて襲われた記憶ないんだけど。

「はい。私と北郷殿が食事をしていたところ、突然賊がやってきまして、我が物顔で食べ始めましてな。その様な粗暴な輩には力で教え込むしかないと思った所存ですが、なかなか手強く曹操殿の到着までに片づけられませんでした」

「へ、へぇ、そうなの・・・・・・」

(貴方話と全然違うのだけれど、どうなってるの、これ?) 

(多分、元譲さんのことを賊に見立てて話してるんじゃないかな? よく分からないけど)

(やっぱりそうなのね。原因を考えたらほんとに阿呆らしくなってきたわ)

「しかし、ご安心なされよ。今すぐにその賊を討ち取る故、少々お待ちいただきたい」

 元譲さんに向き直り、構える矢に力がこもっていく。

「何を言うか、秋蘭!! お前がいきなり怒り始めたのではないか!!」

 叫んだ瞬間、

「賊ごときが私の真名を呼ぶな! 万死に値する!」

 妙才さんの怒号が響き渡った。

 あれ。これって相当やばいんじゃないか?

(なぁ、どうする? って、何その表情。何するつもりなんだよ)

(あら? 別に何でも無いわよ。ふふふ・・・・・・)

 華琳特有の悪戯な微笑みを見た瞬間、俺は今より厄介なことに巻き込まれることを確信した。

「夏侯妙才、待ちなさい」

 威風堂々といった風情で歩み寄る。

「なんでしょうか?」

「確かにその賊のしたことは悪でしょう。しかし、本当に貴女に非は無かったのか」

 何を言ってるんだ?

 まぁ、最初の妙才さんの話の時点でいまいち会話についていけてないんだけど。

「と言われると?」

「賊に家まで踏み込まれ、食事をされるまで貴女は手を打たなかったのでしょう? 一刀という客人を招いておきながら、これは失態とは言わないのかしら?」

 さっき俺に見せた笑みを妙才さんにぶつける。

 あれ、絶対性格悪い人がやる笑顔だよな。金縛りになった様な気分になるから嫌なんだよ。

「たっ、確かにそうかもしれません。ですがっ!」

 動揺しつつ、反論しようとする妙才さん。

「えぇ、言いたいことはもちろん分かるわ。そこで一つ提案があるわ」

「なんでしょう?」

 あぁ、きっと俺も巻き込まれるているんだろうな、この提案に。

「ひとまずは私がこの戦いを預かります。そして後日再戦しなさい」

「華琳様? それに何の意味があるのですか?」

 今まで黙っていた元譲さんが口を開いた。

 黙っていたというより、会話の意味が分かっていなかったという方が正しいような気がするけど。

「そして、・・・・・・そうね。私はその賊を擁護したのだから、春蘭につきましょう。一刀、貴方はそちらにつきなさい」

 華琳は元譲さんを無視して、言葉を続ける、って

「俺もこれに巻き込まれるのかよ!!」

 分かっていながらも非難の声を上げておく。

 人の掌で踊らさせているのは好きじゃないし。

「止めきれなかった貴方にも責任の一端はあるじゃない。その戦いで勝った者の言うことを聞く、ということでどうかしら?」

「北郷」

 申し訳なさそうな顔でこっちを見る妙才さん。

 勿論、俺の心は決まっている。

「しょうがないさ。俺は構わないよ」

「すまない、恩に着る。良いでしょう、その条件飲ませていただきます」

「では、一時解散。勝負は明日とするわよ」

 華琳の明日の再戦までは顔を合わせるな、というお達しによって寝る場所も華琳と元譲さん、俺と妙才さんと分けられることになった。

 男女を同じ部屋に寝かせて良いものだろうか、と考えていたが、

「北郷に押し倒されるほど、やわではないさ。それに北郷にそんな度胸も解消もあるまいよ」

 と言われてしまった。

 むむむ、複雑な心境だなぁ。

「北郷、すまんな。こんなことに巻き込んでしまって」

「・・・・・・、良いって。全然気にしてないから」

 ぼーっとしてたら、反応が遅れてしまった。

 しかし、妙才さんの顔は晴れない。こういうこと引きずる様な人じゃないと思ったんだけど。

「なぁ、一つ聞いて良いか」

「なんでも」

 明日は一緒に戦うんだから、信頼を深めておきたいし、特に隠すことも無い。

「曹孟徳という人物を北郷はどう見ている?」

 華琳についてどう見ている、ねぇ。

「彼女本人にも言ったことあるけど、一言で言うなら、治世の能臣、乱世の奸雄かな」

 実際は俺がこれ考えた訳じゃないんだけどね。

「ほう」

 そう呟いて、続きを促された。

「彼女の名は将来、絶対世間に知れ渡るよ。それだけの実力を持ってる。そして、時代は彼女の追い風になっているし、支える人も豊富に集まるはず。今は弱くてもこのまま終わる人じゃない」

 俺の知っている三国志の曹操と俺がこの世界で見た華琳のどちらの印象から考えても、これは自信を持って言える。

「北郷をしてそこまで言わせるとは噂に違わず相当の人物のようだな。恐らく今回の提案も・・・・・・」

「俺をしてって、俺はそんな大した人物じゃないさ」

 所詮、一介の高校生に過ぎないのに、そこまで言われると背筋が痒くなる。

「そんなことはない。では、曹操殿の行く道、その先の世をどう見る」

「・・・・・・、華琳の道ね。これは俺の主観だから、本当はどうかは分からないよ? 理想にはすがらないけど、理想は捨てない。自分の進んだ道は反省はするけど後悔はしない。間違えたなら、それを踏まえて、より高みを目指す。そうやって自分の美学、考えを貫いていくんだと思う。その先にあるのは統治された平和な世か、志半ばの死じゃないかな」

「ほう、案外にきついことを言うのだな。北郷の口から死という言葉が出るとは思わなかった」

 確かに言われてみれば、そうかもしれない。

 自分でも生き方とか死にまっすぐ向き合ったのは最近だし。考え方が変わってきたのか、この世界に順応したというのか。

「こんなところで思ってもないことを言っても無駄さ。華琳にはそういう壮絶さがあるから。死なないにしても、もう世に名を出ることは無いはずだよ。それに変なことを言ったら、華琳に俺が殺されちゃうよ」

 下手すりゃ、この会話も聞かれてるかもしれないし、本当に下手なことは言えない。いや、ほんとに。

「ならば、北郷の道はどうなんだ?」

「まだ、よく分からないんだ。俺自身の道って何なのかってことはいつも考えてるんだけどね。でも、俺の周りにはもうしっかりと道を持っている人もいるし、こんな俺に自分の道を重ねてくれている人もいる。俺はそういう人たちの支えになりたいし、その期待にも応えたい。今はいろんなことに触れて自分の道を見つけたいと思ってるよ。今のままじゃ、世の中をどうにかしようとしてる人たちにいつまで経っても追いつけないからね」

 道なんて今の俺にはまだ分からないから、とにかく正直に俺の気持ちを言った。

「なるほど。・・・・・・ふむ」

 さっきからずっと考えて混んでいたみたいだけど、なんかふっきれたみたいだ。良かった良かった。

「明日のことなんだけど、どうしようか?」

「そうだな・・・・・・」

 作戦会議をしつつ、互いのことを話しながら夜は更けていった。

 そして、当日の朝。

 厠から出たところを、華琳に呼び止められた。

 自分であのルール作っといて、そりゃないだろ。

「華琳、どういうことなんだよ。ってか、何がしたいんだ?」

「大丈夫よ、妹の方には会っていないしね。一刀、私が何をしに来たか知ってる?」

 俺の質問は見事に躱され、逆に質問で返された。

「いや、知らないけど」

 不満を露わにしつつも、とりあえず華琳の話を聞くことにする。

「私は夏侯家の二人を登用しに来たの。春蘭はもう承諾しているけどね」

「うん、それで?」

 まぁ、それは想定の範囲内だった。というか、それくらいしか俺の頭では想像が出来なかった。

「評判は既に聞いていてどの程度の能力があるかは分かっているから、私の中でどこを担ってもらうかは考えているわ。でも、実際に戦いを見てみなくては分からないこともある。いつどう動くか? 予想外の事態には? 見たいことは沢山あるわ」

「なるほどそういうことか」

 つまり、人づてでは分かりにくいことを自分の眼で確認したいという訳ですか。

「だから、ある意味ではこれは好都合なわけ」

「じゃあ、俺は全力で勝ちにいけば良いんだろ?」

「えぇ、手を抜いた勝負ほど退屈なことは無いわ。必死に挑んできなさい」

 なんか、俺を格下に見られている気がするけど、まぁいいや。

 俺はやれることをやるだけだ。

「じゃあ、はじめるわよ」

「あぁ、始めよう」

 華琳の言葉に俺が応じる。

「勝敗はお互いの守る旗を先にとった者の勝ち、とは言っても結局二対二なのだから、相手方を倒さなくてはならないけど」

「だね。今までの流れからしても、姑息な方法で取っても何の意味もなさそうだし。思う存分やってよ」

 勝敗条件の確認をするが、もはやあまり意味はない。

「言われずともな」

「華琳様! 早くはじめてください!!」

 二人はもう抑えが効かない状態になっている。

「分かってるわ、春蘭」

「妙才さんも準備良いかな?」

「うむ」

「では、」

「「はじめっ!!」」

「意外だったな、華琳が完全にこの戦いを丸投げするなんて」

 戦いが始まった瞬間、華琳に引っ張られて二人の戦っている脇に座らせられてしまった。

「あら、そうかしら? もともと戦うつもりなんてなかったから絶も持ってきてなかったし、こんな戦いもそうそう見られるものじゃないじゃない」

 確かに、始まるときから武器を持っていなかったから変だと思ったんだよね。

「そうだけどさ。俺の中ではもうちょっと何かあると思ってたんだけど」

「というか、喧嘩如きに頭を使うのも変でしょ? 原因も主張もはっきりしているのだから、出来ることなんて発散の場を用意するくらいよ。特に春蘭がらみなら、変なことすると余計に事情が複雑になりそうだし」

 正論すぎる。

 どうやら、昨日の作戦会議は無駄になりそうだ。ごめん、妙才さん。

「確かに。納得です」

「まぁ、歓迎の内容があれだった、っていうのも少しあるけど」

 こ、こいつは・・・・・・。

「案外根に持つんだ、華琳て」

「相手にとっても存在を忘れ去られるよりましじゃないかしら?」

「・・・・・・、やっぱり華琳とはやり合いたくないと改めて思ったよ」

 全然華琳には勝てる気がしない。

 何事も穏便に、平和が一番だよね。

「あら? 私は貴方と戦ってみたいのだけれど」

 挑発するような眼差しで、こっちを見てくる。

 うん、取り合わないようにしよう。ってか、返す言葉が思いつかない。

「勘弁して下さい。ところで、董卓って知ってる?」

「えぇ、何度か会ったことあるわ。それが?」

 この前の賈駆さんとの話もあるし、董卓について少し調べておこうか。

 董卓について情報が無さすぎる。観戦中の暇もつぶせるし、一石二鳥だ。

「どんな人か聞いてみたくてさ。確か、結構高い地位の人なんだろ?」

「結構どころか、上に居るのは大将軍の何進と十常侍の張譲くらいでしょうね。と言っても、両方とも私兵がいないし、お互い対立しているから実質的な最高権力者とも言えるわ。」

 やっぱり、朝廷の上の方はギスギスしているのか。

 関わりが一切ない俺にはまともな情報が入ってこなさそうだな。

「どんな人ねぇ・・・・・・。とてもおとなしくて良い娘よ。良いというか良すぎて貧乏籤を引かされる感じね。まぁ、その辺は周りに優秀な参謀がいるみたいだし、上手く躱してるみたいだけれど。あまり表に出ないから、顔を知っているのも私を入れて数人しかいないし、周りには何をしているか考えているか分からないとか言われてるわ」

 俺の世界の董卓とは違うタイプの人間なのかな。

 いやしかし、中身では酒池肉林が~、とか考えていたりするかもしれない。

「なるほどね。ありがとう、参考になったよ」

 戻ったら、風あたりに相談してみようか。

「それにしても良い着眼点ね」

「えっ?」

 華琳が空に手をかざした。

「私もこの先は董卓が鍵になって来ると思っているわ。動くにしろ動かないにしろ、否が応にも彼女は時代の流れに巻き込まれることになる」

「やっぱりか」

 それに関しては同意する。

「そしてそこは私の、いえ、名を上げる者にとっての分水嶺となるはずよ。大陸に覇を唱える足掛かりとなるのか、時代の波に呑まれ消えて行くのか」

 かざした手を握り締める。

 その握られた手には何が掴まれているのか。

「一刀も消えない様に頑張りなさいよ」

「肝に銘じておくよ」

 果たして、その時代の波を乗り越えられるのはどれくらいいるのか。

 俺は残っていられるのだろうか。

「ふふっ。・・・・・・、どうやら向こうも決着がつきそうね」

「そうだな。そろそろいこうか」

 そう言って腰を上げる。

「一刀と戦えるのを楽しみにしてるわ」

 うげ。さっきのやつは流せてなかったか。俺は戦いたくないんだけどなぁ、甘すぎるのかね。

 勝負はついた。

 でも、この勝負の結果はあまり思い出したくない。

 という訳で、ざっと振り返ることにする。

「貴様、賊のくせになかなかできる様だな」

「秋蘭こそ私についてこれるとはな」

「賊の分際で私の真名を呼ぶなと言っているっ!」

「つけあがるなぁああ!!」

 と、互いの感情をぶつけ合いながら、大剣を振り回し、弓を撃ちあっている。

 そして、距離をとる二人。

「この一撃で決める!」

 元譲さんが告げる。

「よかろう、受けて立つ」

 妙才さんも応じ、二人がぶつかる。

 そして、次の瞬間には二人とも倒れていた。

 華琳曰く、なんかすごい応酬があったみたいだが、素人に毛が生えた程度の俺にはさっぱりだった。

 地面に倒れてうめく二人に、急いで駆け寄ろうとするが、

「あのくらいなら大丈夫よ。すぐには立てないかもしれないけど、特に重症ではないわ」

 と一蹴されてしまった。

 それでも、二人に近づくと、良い太刀筋だったな、とか五本目の矢は見切れなかった、だの言ってたのでホッとするとともに、もう仲直り出来るんじゃないかと嬉しくなった。

「なぁ、かり・・・・・・、って、あれ? いない」

 後ろにいたはずなんだけど、何処に行ったんだ?

 周囲を見渡そうとすると、

「はい、取った」

 と気分良さげな声を上げながら、旗を持った華琳がそこにいた。

「で、この戦いは私たちの負けか。すまんな北郷」

妙才さんは申し訳なさそうに眼を伏せた。

「いや、どっちかというと俺のずぼらさが敗因だよ。こっちこそごめん」

 実際問題、俺は何もしていない。それどころか、ある意味敗因と言ってもいいのではないだろうか。

「それで、何が望みだ。土下座か? 辱めか?」

 覚悟を決めた顔で、元譲さんに向き直る。

 俺も覚悟しないとな。生きて帰れればいいけど。

「」

 なかなか元譲さんは要求をしてこない。

 何にするかを悩んでるようにも見えないし、華琳が何か吹き込んだ、みたいなことも無いみたいだし、どうしたんだろう。

「じらすな。早く言え」

 間に耐えかねたのか、妙才さんがせかす。

「・・・・・・。その、すまん、秋蘭」

 たっぷりと間が空いた後、か細い声で元譲さんが謝った。

 謝った? 

 自分で言っておいて何だが、いまいち理解できなかった。あんなに強硬だった元譲さんが? 

「む?」

 どうやら妙才さんもそうであったようで、旗が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 いつも一緒にいた妙才さんがこの状態ということは、よっぽどすごいことなのだろう。

「ようやく冷静になったのだが、私にも落ち度があったのかもしれない」

 そう言うと、深々と頭を下げた。

「な、なんだと。姉者が誰にも諭されることもなく、自ら謝って来るだと」

 ぶつぶつと呟きながら、未だこの場が理解できていない様子の妙才さん。

 逆に、いつもはどんな感じなんだろうか。

「これからは許可を取ってから食べるようにする。さくらんぼも豚の丸焦げも」

 丸焦げ・・・・・・。

「うむ、これからは気をつけてくれ。こちらこそ癇癪をおこしてしまって済まなかったな、姉者」

「ああ、これからもよろしくな、秋蘭」

 そこら辺はどうでもよかったようで、二人とも握手を交わして、この周りに人がいたらどうなっていたか分からない大喧嘩はひとまずの終結をみた。

「素晴らしき姉妹愛。良かったな、華琳」

 ほっとして華琳に話しかけたのだが、

「えぇ、そうね一刀」

 と、予想外の返答が返ってきた。

 素直すぎてなんか変じゃないか? とは思いつつも、そんなことを言ったらきっと怒られるので胸にしまっておくことにした。

「で、どうするの、元譲さん?」

 一段落ついたところで、要求の内容を聞くことにする。

 まぁ仲直りもしたし、そんなに無茶なことはない、と思いたい。

「あら、勘違いしていないかしら? 聞く相手が違うんじゃなくて?」

 あの嫌な(一番生き生きとしているのも事実なんだけど)笑顔を浮かべながら華琳は言った。

「何言ってんだよ。戦いに負けたんだから、元譲さんの言うことを俺たちが一つ聞く約束だろ?」

 他に誰に聞くというのか。

「貴方こそ何を言っているのかしら。勝利条件を思い出しなさいよ」

「なるほど」

 小さなため息をつきながら、妙才さんは呟く。

「ん? 負けた方が勝った方の言うことを聞くんでしょ」

 あれ、何か違ったかな?

「違うわ。お互いの守る旗を先にとった者の勝ち、でしょう?」

「華琳様、私も同じだと思うのですが」

 うーん、特に違いはないと思うんだけど。違うというか、なんて言うの? ニュアンスの違いみたいな?

「まだ分からんか、北郷」

 えっと、互いの守る旗を先にとっ・・・・・・、あぁ。

「分かった。分かったけどさぁ」

 そりゃ、妙才さんも溜め息つくよ。

「何よ、不満そうな顔しても覆らないわよ」

「まぁ、別に良いんだけどね」

「秋蘭よ、どういうことなのだ?」

 まだ、一人理解出来ていない元譲さん。

 これ、俺だったら説明したくないなぁ。

「つまりな、姉者。旗を取った組の勝ちではなく、旗を取った人が勝ちで、その人の言うことを聞くのだよ。つまり今回の勝者は姉者と曹操殿ではなく、曹操殿のみが勝者な訳だ」

「なるほど、さすが華琳様」

 それを聞いて、満足顔の元譲さん。

「褒めちゃうのよ」

 すげぇ、思わず突っ込んでしまった。

「では、私から良いかしら?」

「構いません」

 どうせ拒否権なんてないしね。

「では、夏侯妙才。なぜ私の配下になれないのか、理由を聞かせてもらおう」

 えーっと? 

「分かっておいででしたか」

 あれ、もう華琳てその話してたっけ?

「ええ。分かってしまった、というのか本音だけれどね」

 華琳が来てから、妙才さんとはずっと俺と一緒にいたはずなんだけど。

「私にもよく分かりません。強いて言うのならば、先を見たくなったのです」

 俺が寝てるときとかに話したのかな?

「先?」

 華琳があえてそんなに時間に話に来るのは変だし。

「はい。曹操殿は既に完成された方であるとお見受けします。それも最高級の水準の」

 いや、今日の朝妙才さんには会っていないって言ってたし、それはないか。

「嬉しいわね」

 そう考えると、いつ話したんだろう。

「御自分でも分かっていらっしゃるでしょうに」

「それで?」

 って、ちょっと待てよ。

「私は多くの時間を姉者と共に過ごしてきました。互いの知らない事などないと思うほどに。しかし、今日の姉者が自ら謝ったように人は成長していきます。そして私は人の成長の楽しさと私が想像しえない進化をする逸材を見つけてしまいました」

 華琳はどうして私の配下にならないのか? って言ったよな!?

「・・・・・・」

「それに私の方が姉者に依存していたのかもしれません。姉離れが必要ですね」

 え、じゃあ、妙才さんは断ったの?

「あら、寂しくなったらいつきても良いのよ?」

 元譲さんは華琳のとこにいるのに断ったのか。

「きっとそれを埋めてくれる程の何かを見せてくれますよ」

 相当華琳変な勧誘をしたのかなぁ。

「そう」

「すみません」

 それとも華琳が苦手なタイプだったのか。

「謝ることないじゃない」

 むしろ相性はいい方だと思うけど。

「姉者をよろしくお願いします。成長したとはいえ、手が掛かりますので」

 それに断ったのに、配下にならない理由を聞けなかったってどんな状況だよ。

「えぇ、良いわ。書簡くらいは送ってあげなさいよ。あの娘が淋しがると手がつけられないし」

「ふふ、分かっています」

 うーん、全然分からん。どういうこっちゃ。二人の会話は全然頭に入ってこなかった。

 華琳はこのまま自分の所領に帰るらしい。それに夏侯姉妹も連れていく予定だったようだ。

 会話の内容を理解できてなくて、華琳が説明した後暴れだした元譲さんを宥めるのに時間がかかってしまったのは御愛嬌かな。

 だけど、秋蘭はこの後どうするんだろう。

「それじゃ、私たちはそろそろ行くわ」

「北郷、私たちも行こうか」

「いや、襄陽までなら俺一人で行けるから、送ってもらわなくても大丈夫だよ?」

 流石に一回来た道位頭に入っている。大きな街道だったし、一人で帰ってもそう危険じゃないだろう。

「「え?」」

 華琳と秋蘭の声が重なる。

「え?」

 お、俺変なこと言った?

「どうしてそうなるのかしらね、秋蘭?」

 やれやれ、といった風情でそう漏らす華琳。

「そうですね、華琳様」

 まったく同じ表情で返す、秋蘭。

「え? だって私たちも行くって言ったから、秋蘭も家を出るんでしょ。だからてっきり俺を送ろうとしてくれるのかと思ったんだけど?」

 違うなら、俺と何処へ行くつもりだったんだろうか。

「襄陽まで行くのは間違って無いんだけど」

 え、合ってる? 襄陽には行くのね。

「だからそこまでしてもらうのは申し訳ない、ってこれ、やっぱり違うの?」

「「違うな(わ)」」

 また声が重なる。

 今の俺には理解できない。

「さっきの話分かった風な顔で聞いてたくせに、肝心な部分が分かってないとは、同情するわ秋蘭。一刀、さっきの話聞いていたかしら?」

 さっきの話ねぇ、ほとんど聞いてなかったんだけど。

 ・・・・・・、姉離れか。

「姉離れしたい?」

「合ってはいる、合ってはいるがな」

 軽く首を振る秋蘭。

 違うのか。それ以外は全く聞いてなかったし、お手上げだ。

「ほんとに肝心なところを聞いてなかったのね。成長を期待する人がいて、私は完成しててつまらないそうよ」

 俺に呆れながら華琳が助け船を出してくれた。

 ほー、そんな人がいるのか、すごいなぁ。

「そんなことは言ってませんよ」

「間違いってわけじゃないでしょ? 私からの小さな仕返しよ。もう鈍感で甲斐性のない貴方でも秋蘭が真名を預けた意味を加味すれば分かるでしょう?」

 期待する人がいて、俺に真名を預けた―――

「もしかして、俺のこと?」

 自信ねぇええ。しかも、これ違ってたら恥ずかし過ぎて死ねる。

「もしかしなくても、貴方のことでしょう」

 頭を押さえる華琳。

 ごめんなさい、鈍感で甲斐性無しで。

 って、甲斐性なしは関係なくね?

「やれやれ、華琳様について行くのが正解だったかもしれん」

「うわわ、待って待って」

 俺かー。成長を期待、嬉しいね。

「まったく。頼むぞ、我が君」

「うん。こっちこそよろしく」

 握手を求めるとしっかりと握り返してくれた。

 心の何かに火がついた気がする。

「何!? 秋蘭は北郷について行くのか!! きっ、貴様秋蘭に何をしたぁああ!!」

「「はぁ・・・・・・」」

「あぁ、姉者は可愛いなぁ」

 その可愛さを理解するには俺には時間がかかりそうだった。 

「あ~、隊長なの~」

 城に着くと、沙和が出迎えてくれた。

 無断で外泊してきちゃったし、やっぱ心配かけてたのかなぁ。

 凪あたりに怒られそうだ。

「沙和、ただいま。心配かけt「隊長、沙和は分かってるの」

「へっ、何が?」

 今回のことは流石に予想出来てるとは思えないんだけど。

「昨日の限定お菓子買えなかったことに責任を感じて、そこの人にも手伝ってもらって皆の分のお菓子を今日買ってきてくれたんでしょ?」

 おぉ、完全に忘れてたな。今の今になるまで。

「いやぁ、その」

 言い訳をしようとすると、

「お~、たいちょ。お疲れさん」 

「そういえばお兄さんを昨日はみかけませんでしたね~。お仕事お疲れさまですよ~」

 真桜と風が寄って来た。

「隊長がみんなにお菓子買ってきてくれたの~」

「ほんまか? いやぁ~、良い上司をもってウチは幸せもんや」

「ほほぅ、流石お兄さん。女心を理解していますね~」

 息つく間の無く、話し続ける娘たち。正に姦しいとはこのこと。

「おい、北郷。どうするんだ」

 秋蘭からの耳打ち。

 とは言っても、俺何も持ってないしなぁ。

 行って帰ってきて、得たものは秋蘭。だめだ、こいつらを説得できる気がしない。

「いやもうこれ、謝るしかないでしょ。ごめん沙和、お菓子は買えなかったんだ。いろいろあって、時間がなくてさ。ほんとにごめん」

 謝っていると、更に後ろから知った声が聞こえた。

「あっ、今日はお館の警邏の当番の日だったのに、何をしてたんだ?」

 そうだ、今日は俺の番だった。だからさっき風たちにお疲れ様、って言われたのか。

「そうです、隊長。まぁ、今日は私が代わりに回ったので問題はありませんでしたが、用が出来たなら言って頂かないと・・・・・・、って、そちら方はどなたですか?」

「凪ち~ゃん。隊長が、隊長がぁ」

 秋蘭を紹介する間もなく、凪に泣きつく沙和。

「隊長がどうしたんだ?」

「昨日の朝からいなくなって、今帰って来たと思ったら、女の人連れて帰って来たの~」

「なっ」

 そんな身も蓋もない言い方したらやばいって。

「お館!!」

 案の定、焔耶が非難の声を上げる。

「ぬ、濡れ衣だよ! ほら、秋蘭、説明してっ」

 凪が静かに氣を溜めはじめている。

 声での注意をすっとばして、いきなり肉体言語で語るのはどうかと思うよ!?

「ふむ」

 あれ、この笑い方どっかで見たことある様な。

「昨日は限定のお菓子をくれて、その後私の家で食事をして、同じ部屋で一泊」

 そうだ。これ、華琳のあのなんかたくらんでる時の笑い方にそっくりだ・・・・・・。

「ちょ、まっt「それで今日は私を含めた三人の女性と戯れたあと、一緒にここまで来た。これでどうだ、北郷?」

 嵌められた―ー!!

「ねぇ! それ絶対良いと思ってないでしょ!? はしょりすぎだし、わざと誤解を生ませる言い方しかしてないよ!」

「しかし、私は嘘は言っていないぞ」

 あぁ、くそっ、良い笑顔してやがる。

「だからこそ性質が悪いんだけどね!! みんなは分かってくれるよね、違うんだっ。俺がもう一回説明し直すから」

 兎に角訂正して、俺の無実・・・・・・、いや情状酌量を勝ちとらなくちゃ。

「ほ~、仕事をさぼって女性と一晩過ごす。そして女の人を侍らかして遊ぶとはお兄さんやりますねぇ~」

「いやそうじゃなくて」

「お菓子、沙和のお菓子。返すの、返すの~!!」

 

 この日、北郷の悲鳴は止むことはなかったという。

 翌日、襄陽に一人の使者が訪れる。

「袁紹様からの書状である。君主殿はおられるかな?」

 漢の地に再び暗雲が立ち込めようとしていた。


 
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