No.317767

その、希望への路は - after

立早 文さん

aria の二次。アイのシングル昇格試験顛末。 「その、希望への路は」上下巻の事後譚。 一応、本編を読んでいなくても、何があったかという想像ぐらいはできるハズ。 純正やおい注意。 きゃっきゃうふふ話耐性のある人のみ推奨。 現時点で、字数は約 3,000 字です。 読み取り速度を 500 字 / 分 とすると、読了には約 6 分を要します。 40 字 40 行で版組みすると、概算で約 2 頁(見開き換算で 1 面)になります。

2011-10-13 20:14:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:959   閲覧ユーザー数:944

「ふぃー、お疲れー」

「今日は本当にご苦労様」

「お疲れ様でした!」

 

 八人のウンディーネたちが、口々にねぎらいの言葉を交わす。

 彼女らは、アイのシングル昇格試験を終え、三隻のゴンドラに乗って、希望の丘から下ってきたのだ。

 

「このままお開きにしちゃうのも、なんだか、名残惜しいねぇ」

「アリアカンパニーで、お祝いのお茶会といきましょうか」

「わーひ! 賛成!!」

 

「じゃあ、私、お茶の準備しますね」

 そう言って、厨房に向かおうとしたアイを灯里が押し止める。

「アイちゃんは主役なんだから。準備は私がやるから、藍華ちゃんたちと、お話しながら待ってて」

「え? で、でも …… 」

 戸惑うアイに、アリシアが笑いかける。

「あらあら。今日は灯里ちゃんはね、アイちゃんを応援してあげたくて、手伝ってあげたくて、うずうずしてたの。だから、お茶の用意ぐらいさせてあげてね」

 そう言いながら、アリシアも楽しげな笑みを浮かべながら厨房に行ってしまう。

「そういうアリシアも、試験の間じゅう、ずっとアイちゃんに声を掛けてあげたそうだったけどねぇ」

 ほっほっほっ と上品に笑いながら、グランマまで厨房に行ってしまった。

「はい、アイちゃんもどうぞ」

 うろたえている隙に、アテナが人数分のクッションを配置してしまう。恐縮しながら、アイは用意された席についた。

 

「え! あの時のプリマって、アリスさんだったんですか!」

 発電機を運んだ日のことを話していて、アイが驚いた声を上げる。

「あー、でっかい印象薄いんですかねー、私」

 気付いてもらえなかった事で、寂しそうに笑うアリスに、アイが手を振って否定した。

「違いますよぉ。アリスさんって、普段はすっごい かわいい じゃないですか!」

 アイの断定に、アリスはむせた。社内でも、畏敬の念をもって見られることの多いアリスは、ここ最近、面と向かって「かわいい」といわれたことが無い。アリスだって、人から「かわいい」と言われたらうれしい。自分から見て、とてもかわいいアイから、そう言われたら、非常にうれしい。うれしいんだけれど、言われ慣れていない言葉を投げかけられた衝撃に、アリスは打ちのめされていた。

「でも、あの日のプリマさんは、そういう感じじゃなかったから …… 」

 

「アイちゃんは、仕事で漕いでいる時のアリスちゃんを知らないから」

 語尾を濁したアイに、言葉をかけるアテナを見て、アリスは思った。ああ、こういう時に助け舟を出してくれるのはアテナさんだ、と。

「仕事してるときのアリスちゃんはね、普段と違って かっこいい のよ」

 助け舟だと思ったものは、追い討ちだった。

「えー、かっこいいって感じじゃなかったですよぉ」

 アイが反論する。そうです。でっかい違うのです。言ってやってください、アイちゃん。

「もっと、こう、気高い、とか、高貴な、みたいな?」

 断じて、私のことを話しているとは思えないのですが。いったい、あなた方は誰の話をしているのですか? 息も絶え絶えに、内心で助けを求めるアリスをよそに、アイとアテナはあーでもない、こうでもないと言い合った末に、合意に達した。

「つまり、ゴンドラ漕いでいる時のアリスさんは、凛々しいんです」

「うん。そうね。凛々しいというのが、一番しっくりくるわね」

 

「おおっ! いつもクールな朴念仁の後輩ちゃんが!」

「頭から、のろし を上げているな」

 藍華と晃が、呆れてみている先で、アリスは顔から煙を吹いていた。ぶっ倒れたアリスを、妙に嬉しそうに介抱するアテナを横目で見ながら、晃が言った。

「でも、アイちゃんの昇格試験なら、後ろから追っかけるんじゃなくて、正面からすれ違って、頑張ってね って声かけてあげたかったなぁ」

「何ですか? 頑張って って声かけるって?」

 不思議そうな表情で、アイが尋ねる。

「え? すれ違ったウンディーネから、応援してもらってないのか? シングル昇格試験の風物詩だぞ」

「そういう応援とか、してもらってないですよぉ」

 びっくりした表情で、晃が問い返した。握った両手を、胸の前で上下に振りながら、アイが答える。

 

「あぁ、それは、私とアリシアのせいだねぇ」

 茶器を運んできたグランマが、アイに応えた。

「みんな、私たちが乗ってたから、ゴンドラ協会の公務か何かと勘違いしちゃったのよ、多分。三人乗せでシングル昇格試験を漕ぐ、なんてことも、普通やらないしねぇ」

 カップをみんなに配りながら、グランマはアイに詫びた。残りの茶器を運んできたアリシアも、食器配りを手伝いながら、うなずいて同意を示す。

「違いますよ、それ」

 最後に、ポットやお菓子を載せた、大きなトレイを運んできた灯里が、穏やかに微笑みながら、グランマの言葉を否定した。

「私たちが、昇格試験を受けているペアを見分けるのは、高架水路に怯えた、弱気な漕ぎ方に気付くからです。でも、今日のアイちゃんは違いました。あの時、ゴンドラに私一人しか乗っていなくても、他のみんなはアイちゃんの昇格試験だとは気付かなかったかもしれません」

 アリシアからカップを受け取っていたアイは、灯里の言葉を聞くと、赤面してうつむいた。

 

「アイちゃんの漕ぎって、そんなに凄かったの?」

 そう尋ねる藍華に、灯里は応える。

「うん。狭い高架水路のすれ違いもきれいにこなすし、水上エレベータの中でも、休憩しないで立ち通しだったし」

「えぇっ、マジでっ!?」

 灯里の返事に、藍華が驚く。確かめるようにグランマとアリシアを見ると、二人とも微笑みを浮かべてうなずいて見せた。

「エレベータの中でも休憩なしとか、なんというスパルタ」

 晃が唖然として話す。

「ウチ(姫屋)も、藍華の昇格試験のときに、それぐらい厳しくやるべきだったかもな」

「アイちゃんは特別ですよぉ!」

 あわててとりなす灯里に、アリシアが、笑いながら思い出話を持ち出した。

「そうよね。灯里ちゃんの昇格試験のときなんて、エレベータの中でぐっすり眠っちゃったものね」

「え! あんた、昇格試験の真っ最中に、エレベータの中で眠ってたの?」

 あきれて問いただす藍華に、灯里は悪びれもせず「うん、そうだよ」と応える。

「いくら、抜き打ちの試験だからといって、眠っちゃうなんて …… 」

「そこまでいくと、ある意味大物だな …… 」

 あっけにとられた藍華と晃が、ぼやくように話す。そのやりとりを聞いていたグランマは、おかしそうに笑った。

 

「そろそろ、おいとましましょうか」

「まぁ、もうお開きの時間だねぇ」

 語らいのひと時は、瞬く間に過ぎ去った。楽しげに食器を集めるグランマ、アリシア、灯里と、自分を差し置いて、後片付けを始めてしまう先輩たちに戸惑うアイに別れを告げ、姫屋組とオレンジぷらねっと組は、各々のゴンドラに乗り込んだ。

 

「アテナさん、でっかい心残りな態度を取り続けるのはやめてください」

 帰りのゴンドラの中、名残惜しそうなアテナに、アリスがたしなめた。だいたい、楽しかった過去に囚われてはいけない、って言ってたのは、アテナさんの筈なのに。

「ん~、でもぉ …… 」

 子供のような態度で、後輩のはずのアリスに口答えするアテナは、やがて、名案を思いついたように、ポン と手を打った。

「じゃあ、明日から、アリスちゃんのことを かわいい って呼ぶ! そしたら、普段の生活が、さっきのお茶会の続きみたいだし」

「や、やめてください! かわいい禁止!!」

 照れと羞恥にアリスが叫ぶ。

「それならぁ、凛々しい って呼ぶ」

「凛々しいも禁止ですっ!」

 

~了~


 
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