~医務室~
エドが目を覚ますと、船の中の医務室のベッドで眠っていた。
瞼を開けたと同時に、目の前の悲しそうな顔がみるみる笑顔になった
『やった…!やっぱり生きてた……!!』
カノンノが、目に涙を浮かべてエドの顔を見ていた。
一体何があったのだろう?エドは疑問を感じ、頭を掻いた。
そしてエドの所まで、一人の少女が歩いてきた。
『あ……。ロックス』
エドが名前を呼んだと同時に、ロックスは凛とした表情でエドを見つめていた。
そして、口を開いた。
『エドワード君。まずは先に謝っておきましょう。』
『うん……?』
謝る?
ロックスが謝る必要など、どこにも無い気がするが…。
そう思ったエドは疑問を感じた。
すると同時に、ロックスは腰からフライパンを取り出し、エドの頭めがけて一発叩きつけた。
『ロックス!?』
カノンノが驚いた表情でロックスの方へと向いた。
エドの頭の中が衝撃でグワングワンと動いている。
さらに、口の中に血の味が響き渡った。
『お嬢様や皆様方に心配を掛けた罰です。』
エドの頭がグルグル回っている間に、焦点がロックスの方に持ち直そうとした。
『てめっ……!!』
エドが仕返しをしようと立ち上がろうとした瞬間、ロックスは笑顔になった。
その笑顔を見て、エドは動きを止め、ロックスの方を見つめた
『ご苦労様です。』
その言葉で、エドは完全に殴る気が失せてしまった。
『それにしても兄さん、本当にヒヤヒヤしたよ。丸一日寝てたんだから。』
アルがそう言って、エドは返事をした
『ああ。迷惑掛けたなアル……。ん?ちょっと待て。今さっき何て言った?』
アルの言葉に、エドは耳を疑った。
『何って……丸一日寝てたんだよ。』
『!?』
エドは、その一日中ベッドの上で過ごしていたという無駄な時間を過ごした事に、
自分に相当な怒りを感じ、同時に呆れを感じた。
大きく溜息を吐いた後、再びベッドに横になった
『………はぁぁ…。昨日は丸一日……怠けてたってのかよ…。』
『一日ぐらい良いじゃないの。エドは毎日、よく働いてるんだから。』
カノンノが、微笑を掛けてエドに言葉を掛けた。
『はぁぁ……』
また溜息を吐いた後、寝返りを打って完全に怠けたポーズを取った。
完全に脱力を表しているその姿に、アルは呆れ、見舞いに来たほとんどの者が苦笑いをした。
だが、途中である事に気付き、エドは起き上がった。
『……おいアル。クラトスはどうした?』
真理の扉の向こうを見て、左腕を失った今、あいつは今どこで何をしているのだろうか。
創世を伝えし者と呼ばれていながらも、真理には勝てなかったが、
エドがその質問をすると、アルは少しだけ暗い表情をした。
そして静かに指を別のベッドの方へと指した。
そこでは、左腕を失くした剣士の姿があった。
ただ、残った方の腕を見て何かを考えている。
一体何を考えているのだろうか。真理の扉の向こうで見た事、この世界の”真理”を求めているのだろうか。
『………兄さん。クラトスさん……”見た”んだよね?』
アルがそう言った瞬間、エドは何も言えない表情になっていた。
そうだ、確かにクラトスは”見た”のだ。
だが、それを見たからと言って理解が出来た物か。
エドでさえ、見たからと言ってほとんど何も理解が出来ていない。
この世界の事は愚か、自分達の世界の事も分かっていないのだ。
『………イアハートは?』
エドがまた質問をすると、今度はカノンノが首を振った。
『まだ……帰ってきてないのか?』
また質問をすると、隣のベッドから声が響いた。
『イアハートは……昨日から姿が見えないから。今捜索願いを依頼したよ。だから……何の心配も無い。』
その声は、パスカの者だった。
身体の疲労が酷かった彼女は、未だ体力が回復をしていない。
”パスカ”の世界の重要人物である彼女は、居てもらえるだけで世界を左右する為、別に動かなくても良いのだが。
『……死んでたらどうすんだよ』
『兄さん!』
エドの不謹慎な言葉に、アルは文句を言った。
だが、パスカは笑顔でエドの質問に答えた
『大丈夫……大丈夫だよ。あの子は死なない。絶対に……死なないから』
最初に聞いた声よりは強くなったが、
やはり、今でも声が弱弱しい。
聞けば聞くほど、どこか不安定になってしまう。
『ああそう……だったら別に良いんだけどよ……』
パスカには、聞きたいことが沢山あったのだが、
今は何もいわない事にした。
扉が開かれ、また誰かが見舞いに来た。
その瞬間、エドは嫌な顔をした
『エドちゃーん!身体は大丈夫う?』
ハロルドが、何食わぬ笑顔でエドの元へと歩き出したのだ。
恐らく、何の反省も無いかのような笑顔にエドはうんざりした
『帰れ』
『そんな事言わずに。折角、新しく開発したオリジナル風邪薬作ってきたんだから。』
『帰れ……。いえお願いします。帰って下さい。金払うから』
エドが真剣な顔でハロルドに面向かって挨拶した。
その様子を見たハロルドも、再び真剣な表情になった
『まぁまぁ、冗談はさておきにして。今はエドちゃんに話があるのよ』
ハロルドがそう言った瞬間、今度はカノンノが問いかけてきた
『でも、今回はハロルドさんのせいでエドが死に掛けたんだよね?……余り良い話には思えないよ』
『まぁ、余り良い話では無いけど。さすがに死にはしない話よ』
ハロルドがそう言うと、次に本題に入った。
『クラトスもここに居るし、まず情報をまとめましょう。』
そして、つらつらとクラトスが言った、パスカの世界の終わりの現状、それをまとめあげた。
『まず、世界樹が人間を全滅させた。ヴェラトローパで空から逃げても無駄だった。全てが…掻き消された。』
『ここまで聞いても、やっぱり信じられないよ』
カノンノが、悲しそうな顔でその話を聞いた。
『でもよ……だったらディセンダーの意味はなんなんだ?ゲーデはともかく、本来のディセンダーは世界を助ける為に居るんだろ?だったら……どうして人間の肩入れをする?』
『それが分かったら苦労しないわ』
そう言った刹那、すぐにハロルドは後ろに振り向いてベッドの上に居るクラトスに言葉を掛けた
『アンタなら知っているんでしょう?情報をくれても良いんじゃない?』
『…………』
言いたくないのか、言えないのか
クラトスは、ただ黙っているだけだった。
『ちょっと待って…。』
カノンノが、思い出すように言葉を加えた。
『パスカの状況って……クラトスさんじゃなくても、パスカに聞けば分かるんじゃないの?』
カノンンがそう言った瞬間、パスカは驚いた表情をして、布団の中へと潜った。
そしてガタガタと震えだした。
その行動で、大体の事は察し出来た。
『………パスカ?』
信じたくは無いが、パスカの世界で何かがあったのだ。
そしてクラトスが言いたくない、ディセンダーの本当の姿
パスカのこの怯え方で、エドはある程度の事が察知できた
『………敵だ』
エドの言葉に、全員が耳を傾けた。
『………世界樹が人間を殺すようなら、世界樹から産まれるディセンダーだって敵のはずだ。恐らく、ディセンダーは人を……』
『待って!』
エドの言葉を止めたのは、以外にもパスカだった。
布団にくるまりながらも、反論をしようと震えていた。
『………ディセンダーは……敵じゃ……無い…よ。だって……』
ギコチナイ返事だったが、その奥に何か確信のある何があった。
そして、その奥にあった言葉を、パスカは発した
『だって…。私達の世界はそのディセンダーによって、何度も救われたんだよ!?』
『だったらどうして”パスカ”は滅んだ』
『だとしても……だとしてもディセンダーは人間の味方だよ!だって…人間を襲う魔物だって…一緒に倒して…』
『逆に考えろ、何故”世界”を救うはずのディセンダーが魔物を殺すのか。良く考えれば、魔物だって生き物のはずだ。それを殺し、食べる人間の方が世界は悪魔に見えるはず。なのに何故世界を救うディセンダーは人間の味方をするのか』
エドの言葉は、言えばキリの無い理論に聞こえた。
そこまで考えれば、人間は何も出来なくなる。
だが、全体的に見ればそうだ。世界から見れば人間は敵なのではないだろうか
いや、そんなはずが無い。
『そんなはずは…無い』
『そうだ。魔物を殺す事、生きるために食う事は人間の正義だ。星晶を狩る事は悪だとしても、生き物を殺し食べる事は正義になっている。つまり、人間を守る為に殺し、人間を殺す”奴ら”は』
次の言葉は、聴きたくないと感じながらもパスカは耳を開いた。
聞く体制になってしまっていたが、顔が引きつっていた。
信じたくない。そんな事
思いたくない、自分が……そんな…
カノンノも、再び泣きそうな顔になる。
ディセンダー。仮にも目の前に居るパスカはディセンダーなのだ。
なのに、この理論を語るエドは、やはり聞かなければならない事だからなのだろう。
パスカもカノンノも、観念して聞く体制になっていた。きっとそれが解決する為の”鍵”だから
『ディセンダーは、人間は勿論の事、生き物の事なんかどうでも良いんだ。主に世界樹の事しか考えていない。無論、人間につくのは”それ”がやり易いからだ』
『でも、人間を守ったり殺したりする理由は?』
アルがそう質問すると、エドは俯いて首を横に振った。
『それは……分からない』
そう言った瞬間、パスカもカノンノも、少しだけ柔らかい表情になった
『だが、世界樹が望んでいることだとクラトスは言った。つまり相当性質の悪い理由だろうな』
その言葉で、また突き放されたような感覚に陥った。
エドの言った言葉、おそらくその事が世界に知り渡れば、全ては大混乱に陥り
このギルドは命を狙われる可能性がある。
そして、この話の可能性を、エドが寝ている間にハロルドが話したはずだ。
『なるほどね……。今までは世界樹は私たちの味方としか捕らえていなかったから……。ここまでの事は考えていなかったわ』
ハロルドがそう言うと、明るい顔でエドのベッドから離れるように目的の場所へと向かった。
『それじゃぁ、エドちゃんのその可能性をアンジュに伝えてくるわ。少なくとも、解決策には近づけられるはずだからね』
そう言った刹那、扉は閉められた。
ハロルドが去った後、エドは安心した表情になる。
と同時に、不安の表情に変わった。
『エド……。この話が…本当だったら………』
『だったら…じゃねえよ。少なくとも俺は、今までの情報を集めたら自分のこの可能性が高いと考えている。』
そう言って、エドはベッドから降りようとした。
『兄さん駄目だよ。まだもう少し休んでないと』
『丸一日寝てたんだ。これ以上休む必要はない』
そう言って、ベッドの近くに掛けてあった赤いコートに身を纏い、エドは歩き出した
『待ってエド!』
後ろから、カノンノの声が響いた。
エドが振り向くと、深い不安が表されている表情をし、俯きながらもエドの方を見ようとしている。
そんな不安定な表情のまま、エドに言葉を掛けた。
『………私たちがやろうとしている、この”今”は……。何も間違っていないんだよね…?』
その質問をされたエドは、まるでその質問が子供の戯言のような扱いで返事をした
『その”今”に満足しているんじゃ、このギルドはお終いだろうな』
そう言って、出口の方へと向かった。
~リメインズ本部~
『お帰り。どうだった私の元弟子は』
イズミは、シングとコハクに微笑を掛けて接した。
『……………』
だが、コハクはただ黙っているだけだった
『ん?何だ。アイツに何かあったのか?』
『あっ……いや…。その……やっぱりイズミさんの弟子だなぁ~…とは思いましたね。』
シングがそう伝えた瞬間、イズミは不機嫌そうな表情になった。
その鬼のような表情を見た周りの者は、驚きの余りに小さな悲鳴を漏らした。
目の前にその表情があるシングは、その場で固まってしまった。
『えっ?ど…どうしてそんなに怒ってるんですか?そりゃ…やっぱりイズミさんの体術とか魔術の方が上…という気はするけど…』
『あいつらは、もう既に私の使う錬金術とは比べても分からぬ強さになっている。』
そしてプイとシングから顔を逸らした。
『それより気に入らないのは』
さらに鬼のような表情になり、シングの方へと振り向いた。
『何故、私があんな出来の悪い、律儀の無い、血の気の多い奴と比べられなきゃならんのだ!』
どうやら、あまり弟子の話はしない方が良いのかもしれない。
そう悟ったシングは、他の話題を探し始めたが、コハクは違った。
コハクは、あくまでその”弟子”について話を続けた
『イズミさん!どうしてあの兄弟を弟子にして……私たちが駄目なんですか!?』
その言葉を聴いた瞬間、イズミは次にコハクの方を睨みつけた
『たわけ!貴様らに錬金術、体術を教わるには100年早いわ!!』
『100年後のその時に、老化が進んでいるのに身体が動かせるようになっているわけがありません!』
『屁理屈言うな!!』
また喧嘩が始まった。
コハクは気付いていないようだが、これは立派な喧嘩のように思える。
いつもは喧嘩を止める役に回っているのだが、ある一点の目的を見た時、周りが見えなくなっている。
それを見たシングは、コハクを宥めるように抑えようとした
『こ……コハク。イズミさんにそんな言葉……』
『シングは関係無いでしょ!』
コハクのその言い分に、シングは黙り込んでしまった。
そして、ある者も討論を始めた。
『そ……そうだよイズミさん。いくらなんでも、俺達を甘く見すぎてるんじゃないの?』
『だったら一斉にでも掛かってくるが良い。私はいつだって受けてたつぞ』
イズミのその一言で、全員が一気に大人しくなった。
全員は知っているからだ。イズミが行った依頼の先で、イズミの強さを
その強さに逆らおうとする者は、ほとんど居なかった
『ふん。甘く見て当然だ』
その言葉を言い終える前に、一人の少女がイズミに襲い掛かった。
『!』
コハクが飛び蹴りを行ったと同時に、イズミは片腕で受け止めた。
と同時に、片手で足を押し返し、コハクは回転した。
コハクは着地したと同時に、もう一つの脚でまわし蹴りをし、イズミに襲い掛かった。
イズミは深く屈み、その足が通り過ぎるのを待った。
通り過ぎた瞬間、イズミは足払いをし、コハクのバランスを崩した。
バランスを崩したコハクは、そのまま地に落ちるように全身を落とした。
倒れまいと手を地に着いた瞬間、再び立ち上がろうと腕に力を込めた。
腕で支え、脚を伸ばしながら回転すると、徐々に立ち上がる姿勢になった。
だが、立ち上がりが完了した瞬間、イズミはコハクの手を握り、後ろに回して抑え付けた。
『ぐっ!!』
最後にコハクは地に伏せて、脚もイズミの一つの腕で封印される。
この間、5秒だった。
『すげぇ……』
シングが感心して見ていると、イズミがコハクに向かい言葉を送った
『私が弟子にする者は、”弟子にする必要のある者”だけだ。少なくともこのギルドにはそのような者は居ない。諦めろ』
『!……私とエドと、どう違うと言うんですか』
コハクがその言葉を発した瞬間、イズミは腕を開放して、コハクを自由にさせた。
コハクが立ち上がった瞬間、イズミは腕を振り上げた。
『キャン!』
と同時に、イズミは腕を大きく振り下ろし、コハクの頭に大きなダメージを負わせた。
『おい!てめぇ俺の妹を…』
ヒスイが立ち上がった瞬間、イズミは鋭い眼光で睨みつけた。
その眼光に怯み、ヒスイはそのまま動けなくなっていた。
『別に殺すわけじゃないんだ。お兄さんが動く必要は無いんじゃないのかい?』
『………っ!』
その発言に、ヒスイは不愉快にさせながらも納得してしまった。
イズミは仲間なのだ。ここで動いても悪いのは一方的に俺だろう。と
そう悟ったヒスイは、そのまま大人しくなった。
そして、イズミはコハクの方を睨み、また言葉を連ねた
『何も違わない。お前は元弟子のように頑固で、勝手で、馬鹿だ』
『なっ……!てめ!!』
”馬鹿”という言葉でまたヒスイは動き出したが、
イズミのまた鋭い眼光で睨みつけられ、大人しくなった。
『お前は元弟子と変わらない。だから何も教える事は無い。』
『言っている意味が分かりません!』
コハクがそう言った瞬間、天井から放たれる、アナウンスが部屋に響いた
≪イズミさん。イズミさん。指名任務の依頼です。今すぐに大ホールへとお向かい下さい≫
そのアナウンスを聞いたイズミは、溜息を吐きながら部屋から出ようとした
『はぁ…。また指名任務か……ここ最近、特に多くなったな』
『待ってください!』
コハクに呼び止められても、イズミは止まらずに歩き続けた。
歩き続けながら、独り言のようにイズミは言葉を発した。
『私の弟子になれない奴の方が、よっぽど誇らしい事と思え。』
そう言って、イズミはそのまま去って行った。
イズミが居なくなったこの部屋に、長い沈黙が続いた。
そしてコハクはガクリと首をうな垂れた。
そのまま、コハクは呟くように言葉を発した
『……そんなの、全く答えになっていないよ……。』
~バンエルティア号~
昨日よりもまた少し痩せた様子になったアンジュは、
医務室から出てきたエドを心配して言葉をかけた
『あらエドワード君。もう身体の方は大丈夫なの?』
『………アンタが今、大丈夫か?』
日に日に身体の肉が無くなっているアンジュの身体を見て、不安を隠し切れないで居た。
恐らく、自分達の見えない所でどこか自暴自棄になっているのではないかと考える程まで、
アンジュの身体は色と肉気が無くなっていた。
『大丈夫よ…。元々、ちょっぴり太ってたから、ダイエットには丁度良いわ。』
それはダイエットとは言わない。栄養が届かずに衰弱しているという。
このままでは確実にアンジュは死んでしまうだろう。
まだ、彼女は拒食症が治っていないようだ。
『……イアハート。本当にどこに行ったのかしらね……』
さらにもう一つ、悩みの種が出来たらしく、益々体調が悪くなっている
イアハートの失踪は、エドも気になっていた。
彼女は一体どこへと消えたのだろうか。元の世界に戻ったのだろうか。
いや、しかしどうやって……。
『そうだ、エドワード君。先ほどの可能性のお話……なんだけどね』
アンジュがそう言って、エドは立ち止まった。
『……世界樹とディセンダーの話か』
『うん。それを追求する為に……ある場所である精霊に出会って欲しいの。』
精霊
その言葉を聞いて、エドは頭を抱えた。
『………また精霊かよ』
『ええ。……ただ、今度は一筋縄では行かない可能性があるわ。』
アンジュの言葉に、エドはゲンナリとした表情になる。
『………まーたどこか、面倒臭い精霊か?』
『ええ。この精霊は……私たち人間に取っては余り良いイメージを持たない精霊だから……ね。』
エドは、フンと鼻を鳴らし、捻くれる様子を見せた。
『光の精霊でさえ、あんなとんでもねぇ野郎なんだ。今更どんな奴に出会おうとも、何も思わねえよ』
『それだけじゃないわ。途中で”暁の従者”に出会う可能性だってある』
暁の従者
その言葉を聴いて、エドは益々疑問が増していった
『………どうしてだ?』
『今から会いに行く精霊は、ディセンダーと人間に取ってはイメージの良い精霊じゃないから、今にも退治しようと動いている人たちが多いのよ。特にディセンダーの狂信者達は……ね。』
エドは、何も知らない暁の従者に逆に哀れみを持ってしまった。
これから、誰これ構わず人間が殺されようとしているのだ。
それを知ってから、ディセンダーという存在がどれ程狂ってるか、エドはもう知っている。
ディセンダーを信じている者達が、今は異様に同情をしている自分が居るのだ。
『……真実を知ってから、これ程間違った真実に縋り付く者を見るのは、かなり耐え難い事なんだな……』
エドがそう、哀れみの表情で俯いたしばらく後、
顔を上げてアンジュに質問をした
『で、一体どんな精霊なんだ?』
エドがそう言うと、アンジュは依頼書を持ち上げた。
その紙に書かれた精霊の名を読み上げ、エドに聞かせた。
光の精霊は、誰からも尊敬される精霊だ。同じ精霊であるセルシウスでさえも彼女の事を信頼していた。
だからか、真実を伝えた時セルシウスは、大きなショックを受けていた。
それ程尊敬され、愛されている精霊。今から会いに行くのはその対極的な精霊だった。
『今から会いに行って欲しい精霊は………ゼルギアス洞窟の最深部に居る”闇の精霊:シャドウ”よ。光で見えにくい場所だから…カンテラを持って行った方が良いかも知れないわ』
闇の精霊
光の対になる精霊である闇。その精霊の名を聞いた時、エドはどこか脳裏に奇妙な感覚が流れた。
『シャドウ……。』
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最近、腰が痛いです。腰の尻の辺り、割れ目の真ん中らへんが痛いです。あ……これ腰じゃねえや