No.311484

『舞い踊る季節の中で』 第119話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 麗羽が配下の者に命じて、負傷兵を連れて大きな部隊が己が本拠地に戻らせた事を知った華琳は、戦の質がこれまでと大きく変わる事を予見し動き出す。 そんな動きに魏の三羽鴉は………。

拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。

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2011-10-02 16:47:41 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:14452   閲覧ユーザー数:8769

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√ 第百十九話

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   ~ 心に中に舞う想いの先は何処に ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、太鼓、

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

 

最近の悩み:

 

 七乃が冥琳に呼ばれたので、彼女が席を外している間、美羽と春霞の勉強を見ていたのだが、二人とも競い合える相手が居るおかげか、勉強そのものは悲鳴をあげながらも真剣に聞いてくれる。

 そんな一生懸命で可愛い二人のために少し早めに切り上げて、美羽でも手伝えそうな簡単な御菓子作りをする事にしたのだが。

 

カチャカチャ

 

 と器と箸が材料を掻き回せる音を、美羽が必死に鳴らしながら、春霞が隣で材料を同じように掻き混ぜながら、其処まで勢いよく掻き混ぜなくてもと宥めている姿は実に微笑ましい。

 周りにいる厨士や厨房に用があって来た女官達もそんな二人を、温かい目で見守っていてくれる。

 そんな訳で、二人のそんな様子を見守るように自分の作業をしながら、ぼうっとそんな光景を眺めていたら、美羽の勢いある掻き混ぜ方に、器から飛び出した数滴が飛出し春霞の顔に付着する。

 もっとも材料は卵と牛乳と蜂蜜なので何の害もないのだが、あまり気持ち良いものでもないのも事実。

 

「もう、だから言ったじゃない」

「うぅ、ごめんなのじゃ」

「空気を含ますために勢いよくと言われたけど、モノには限度があるの」

「妾は美味しく作ろうと思っただけなのじゃ」

 

 実際は逆なのだが、年下の妹を見るように嗜める春霞と美羽の関係に、俺は小さく笑みを浮かべながら、春霞の顔に付いた材料を指で拭き取り、そのまま口に放り込む。

 これが小麦とかなら人によってはお腹を壊す事もあるけど、あったとしてもこの程度でお腹を壊すほど俺のお腹はヤワには出来ていない。

 

「……ぁっ…ぁっ」

 

 だけど何故か春霞が顔を真っ赤にして固まっているのに気が付き、声を掛けようとした所に、冥琳の用が終わったのか先程から厨房の外で美羽達を見守っていた七乃が、

 

「うわぁ、ご主人様幾らなんでもそれは」

「は? いや意味が分からないんだけど」

「女の子の顔に、しかも唇に付いたものを、そのまま指で梳くって口に含むだなんて、流石御主人様と言うかなんと言うか、………もしかして御主人様って幼女趣味でしたか?」

「ぶっ! な、なんでそうなるんだよっ! 人聞き悪い事を言うのは止めてくれ」

 

 あまりと言えばあまりの発言に俺は声を荒げるが、とうの七乃は唇に指を当てながらどこか悪戯っぽい貌で、

「だって大きな声では言えませんが、私以外で御主人様の周りにいる方は、ほら」

「いや、だからそれは誤解だし、彼女達に失礼だろうっ。 って言うか、頼むから周りの皆も頷かないでくれっ!」

 

 何故か七乃の言葉に納得顔をする周りの人間に、誤解だと言う事を強く言うのだが、何故か『はいはい分かってますそう言う事にしておきますよー』なんて顔で返されてしまう。

 その場はそれで収まったのだが、数日後、何故か新たに俺が幼女趣味だと言う噂が蔓延しその噂を知った俺は、ショックのあまりに机に突っ伏してしまう。

 一応その噂は、冥琳達の計らいで直ぐに鎮静はしたが、代わりに女なら節操なしに手を出すと言う噂が広まっていた。

 俺はただ単に、当たり前の行動をしただけなのになんでだ?

 

 

 

凪(楽進)視点:

 

 

「各自油の管理は厳重に行う様に。不手際で敵ではなく此方側で火が回った日には末代まで笑われるぞっ」

 

 原武の砦にまで後退せざる得なくなった私達の軍だが、この後退は前もって予定された事ゆえに特に混乱などによる士気の低下もなく、私は兵士達に指示を飛ばしながら城壁の上を固い革靴の脚音を立てながら歩む。

 其処では城壁の上も下も関係なく、慌ただしく準備する兵士達が駆け回ってはいるが、袁紹軍の大軍と渡り合ってきた以上此方も無傷ではなく。

 彼方此方に負傷している兵士を見かけるも、その眼に宿る光はまだまだ戦える意志と余裕がある事が分かる。

 むろん、こうして動ける者だけではなく多くの兵士がその命を落とし。 更には戦うどころか通常生活すら困難になってしまった者達も多くいる。 それは華々しく勝利しようが戦にはどうしてもついて回る影。

 だけど華琳様の唱える未来に皆信じて必死に我等と共に戦っているし、華琳様もそうして犠牲になってしまった者達の為にも、民が安心して暮らせる国を必ず作ると仰っている。

 自分にも他人にも厳しく、理と法によって民を導き、自らの発言を示したからこそ、その言葉に重みがあり。民自身もそれを信じてくれていると言うのもあるが、何より今現在兵士を安心させているのが、戦の規模の割にそう言った負傷兵が少ない事にある。

 此方の戦い方と言うのもあるが、稟様が呉より持ち帰られた本に載っていた、応急措置により治療の存在が大きい。 もっとも戦中に出来る事などたかが知れているが、それでもその効果の程は目の前にある兵士達の心の余裕からも伝わってくる。

 

とんかん

とんかん

 

 そうこうしていると、やがて目の前に巨大な破壊槌を荷車にぶら下げたような物体が映り、その足元で多くの工兵が作業をしているのが見える。

 そしてその作業を真桜が、

 

「おらおら、其処はもっとキチッと固定せんと直ぐに分解してしまうでっ。

 手を抜いたら抜いただけ仲間の命が失うって事分かっとんのか。まぁそん時は真っ先にウチが、アンタのそのしょうもない命を潰したるさかい安心せい」

「し、締め直しますっ」

「ああっ! 力を入れれば良いってもんやないっ!

 ちょうどいい加減ってもんがあるんや。 ほれ、こうや。

 この手に加わる感触から相手の声を聞き取るんや、この感じよう覚えとき」

 

 その作業を見守りながら、真桜の持つ技術を伝えるために工兵の手を取りながら、その手本を工兵に味あわせる。

 ……まぁ工兵自身、真桜の触れる感触にそれ所ではない気がするが、アレはアレで忘れないだろうし、真桜が気にしていないのなら私が口出すべき事ではない。

 そもそも、真桜の場合。

 

「うん凪、見回りか? いやぁ。教える上で仕方ないとはいえ。 ああも初心な反応されると、からかい甲斐があるで~」

「…だと思いました。 あまり兵士をからかって痛い目を見ても知りませによ」

「うひひっ、分かってるって、そんな心配しなくても、めったにせえへん。 こういうのは、たまーーーに在るから心に響くんや、安売りなんかウチはせえへんで。

 それにそんな度胸があいつらにあるもんかい。 もっとも、あったらあったで逆に此の螺旋槍をアイツらの穴に突っ込んでヒィヒィ言わせたるけどな」

「………はぁ」

 

 真桜の冗談染みた下品な言葉に溜息を吐きながらも、真桜ならば例え兵士達がトチ狂ったとしても安心できる。 もしそうなった場合まず間違いなく真桜は今言った冗談を実行する。 それはそれで自業自得とは言え哀れなので、真桜にそれとなく注意をしながら、真桜が陣頭指揮を執りながら作らせているモノに目をやる。

 

「此れが城壁の上から上ってくる兵士に向かって槌木を落とすと言う訳か」

「そやで~。 しかも鎖がついとるさかい、こっちの絡繰で巻き上げて何度でも使用可能。 縄じゃなく鎖やから叩き斬られる心配も少ないしな」

「しかも壁面沿いに移動可能と言う訳か」

「もっと褒めて誉めて~。 と言いたいけど、急ごしらやから不満な点が多いいんやけどな」

「何処か欠陥があるのか?」

「ウチの作品にそんなもんがあるかいっ! 幾ら凪でも今のは流せえへんで」

「ああ、すまなかった」

 

 真桜の勢いに押される様につい謝ってしまうが、脳裏には嘗て真桜が完璧だと胸を張って豪語したものの、壊れたり、何故か爆発したり、大騒動の原因になったりとした作品が、両手両足の指を使っても数えきれないほど浮かんでは消えて行く。

 そして、そのたびに。

 

『あぁぁ、ウチの可愛い作品が……』

『やっぱり材料をケチったんが……せやけどウチの小遣いではあれが限界やったんや……』

『ウチは負けん。 こんな失敗の十や百くらいではウチは挫けえへんでぇ』

 

 と、不屈の炎を燃やしている。

 その辺りの気合と根性だけは私も見習いたいし尊敬もしているが、……どこか方向性が間違っている気が最近してきた。

 それはさておき、とりあえずの私の謝罪に気を許しながらも目の前にある兵器の説明を、理解できない必要のない部分まで説明してくる真桜の話を聞き流しながら周りを見渡していると。

 

「ん、沙和に用なんか?」

「ああ、用と言うほど物ではないがな」

 

 物資の搬入を担当していた筈の沙和だが、先程から姿も見えず。声も聞こえ無くなっているため気になったのだが、それを察して真桜が沙和の居場所を教えてくれる。

 そして教えられた場所に行ってみると。

 

「うそおぉぉ。こんな大事なことを見逃していただなんて、沙和ショックなのぉ~」

 

 そんな沙和の何時もの悲鳴声が聞こえてくる。

 何か運び込んだ物資に不手際が?

 そう思って沙和の声の聞こえる場所にまで足を速めてみると。

 

「あっ、凪ちゃん見て見て。 今月から出た【袁々】なんだけど。 沙和、項を二枚めくってて、読者様抽選贈呈記事を見逃していたのぉぉーーー! うぅぅ、しょっく……」

 

 空の荷車に腰掛けながら、手に書物を持って涙目にそんなどうでも良い事を私に語ってくる。

 皆が必死になって、袁紹軍を迎え撃つために準備をしていると言うのに、のんびりとくだらない書物に読み耽っていたと言うのかっ。

 

「沙和っ!」

「ひゃっ!ど、どうしたの凪ちゃん。そんなに目くじら立てて?」

「どうしたのじゃないっ! 荷物の搬入の指揮はどうしたっ!」

「そんなのとっくに終わったよ。 へへっ、褒めて褒めて」

 

 私の言葉に、沙和は本を持った片手を腰に当てながら、私に向かって二本の指を突き刺しながら自慢げに言ってくる。

 

「終わったなら終わったで、やるべき事はいくらでも在るはずっ! なのにお前は・」

「うぅぅ、そんな事分かってるもん。 だからあのヘナチョコ達には、近くの河原から投石用の石を運ばせてるのなの」

 

 沙和が頬を膨らましながら、指差す先には兵士達が荷車に積んだ人の頭ほどの大きさの石を次々と積み上げている姿が目に映る。

 近くと言ってもあれだけの石が取れる河原は、此処から数里の距離はあったはず。 だが……、

 

「だとは言え、兵に命じておきながら、自分は呑気にくだらない書物を読み耽っていては兵達の士気に」

「構わないわ」

「そう、構わない。 って違うっ! 誰だっ。人の会話に入り込む…の……は」

 

 割り込まれた声に拳に"氣"を貯めながら振り向くと、その先には映るのは、金髪の髪を左右に揺らす女性。

 つまり、我等が主である華琳様の姿に、私の荒げた声はだんだんと小さくなり。

 

「す、すみません。 とんだ失礼をいたしました」

 

 驚きながらも己が主にするべきではない行動に、私はその場で臣下の礼を取りながらも首を垂れるが。

 

「構わないわ。 貴女の言う事ももっともだもの。 声も掛けずに口を挟んだ私の無礼を許してちょうだい」

「あっ、いえ、そんな恐れ多い」

 

 私の様な末端の将にまで寛大な心を見せてくださる華琳様に、私は先程とは別の意味で自然と頭が垂れる。

 

「凪、貴女や春蘭のように、兵士先頭に立って、その力を鼓舞して見せるのも確かに将としての姿でしょう。

 でも沙和のように指示だけをし、その監視をしながら寛いでみせるのも将たる者の務めよ」

「そのような物なのでしょうか?」

「ええ。兵と同じ事をしたければ兵士であればいいわ。 将は兵の上に立つ者であって、同じ視線で居てはいけないの。 これは分かるわね?」

「兵を守り、導くものであるからと言う事でしょうか」

「ええ、それと。 時には死を命ずるからよ。 将とは兵にとって絶対者でなければいけないの」

 

 その話は分かる。 黄巾党との戦いにおいて私達がまだ義勇軍だった頃。家族を守るために集まって来た人達を不安や混乱から守るためには、誰かが自分達がついて行っても大丈夫だと言う事を見せてあげるが必要が在った。

 それは私の"氣"弾だったり、真桜の螺旋槍だったり、沙和の剣舞の様に鮮やかさだったり。 ……そして、多くの者を救うためには、数人の志願者に自殺行為に近い囮をさせる事も必要だった。

 理不尽な命令であろうと、理不尽な世の中である以上仕方なき事。 せめて理不尽な命令を納得させるのに必要なのが使命感や誇り。そしてそれを受け入れやすくするための絶対と言える上下関係。

 

「将が気を抜けば兵の気も抜けると言うけど、そればかりでは駄目。 ああして将が余裕を見せて見せる事も時には必要なのよ。 私としては、結果が出れば多少の過程は問わないわ。

 それにしても、秋蘭と稟が呉から持ち帰った情報の中に在ったあんな新兵訓練方法が沙和に合うとは、流石に私も思わなかったけどね」

「確かに、……あれだけ苦労していたのが嘘のようです」

 

 孫呉で一部の兵士の間で噂になっていた兵を徹底的に罵倒する訓練方法。

 最初は何の冗談かと思っていましたが、秋蘭様が試しに春蘭様に新兵相手にさせた所。

 春蘭様が言葉に合わせてそれなりに本気で"氣"を飛ばしてしまったため、多くの新兵が"氣"当たりをし気絶してしまったばかりか、何人かは精神が病んでしまった。

 熟練した兵達ですら春蘭様の本気の"氣"当たりには、その突撃の足を緩めてしまうと言うのに、新兵であのように罵倒交じりに"氣"を叩きつけられては無理もなきこと。

 流石に例が悪すぎたのと、あまりにも下品なため、ただの噂に過ぎないと思ってお蔵入りしたのを、新兵訓練に悩んだ沙和がそれを掘り起こしてきたと言う次第だ。

 

「武やその他の技術に関しては、私と真桜の育てた部隊には遠く及びませんが」

「命令に対する忠実さは抜きんでているのよね」

「はい」

 

 武力や体力そして気合いに対しては私の隊が。

 全体の力をあげつつも、工作などと言った事のが得意な真桜の部隊。

 そして、只管に命令通りに忠実に動く沙和の隊。

 

「新兵の訓練と言う意味では、均一な能力を育て上げるべきでしょうけど。 此れは此れで面白いわ。

 多くの兵種や、得意とする分野を持つ部隊は、一見扱いづらいでしょうけど。扱いきって見せればそれは逆に強みになる」

「流石華琳様、話が分かるのなの~」

「もっとも、これで結果が出ていなかったら、職務怠慢で首を刎ねてた所だけど、今の所その心配は杞憂だったようね」

 

 そして華琳様の言葉に、安堵の息を吐きながらも、やりすぎない程度ならば公認のサボりの権利を得た沙和は、自分達の部下の働きぶりを視界の端に入れながらも、再び手に持つ本に目をやる。

 まったく……この図太さだけは、可愛らしい外見からは想像もつかないと、沙和とは反対に溜息が出てしまう。

 

「それにしても沙和。 変わった書物を手にしているわね」

「そうなの~。 それに変わっているのは見た目だけでなく載っている内容も変わっているの」

 

 そうして沙和が言うには、今は流行の服や御菓子だけではなく、手軽に出来る御洒落や美容に対しての情報が沢山載っているらしい。

 

「手持ちの着飽きた服も、こういった飾り布を付けたり別の物に変えるだけで、全然別物に見えるようになるの」

 

 そういって、沙和は自分の襟元についていた飾り布を簡単に外すと、同じように差し込み部分の付いた別の意匠の飾り布を刺し込み実践して見せる。

 

「へぇ。確かにそれなら手軽に市位の民も、服に気を使えるわね」

「たしかに、其れなら服の組み合わせ次第で、持っている以上の服を持っているように見える」

「それに、今回特に一番の情報は、この美容液と言う物なんだよ」

 

 そう言って、沙和は腰に下げた鞄から人差し指くらいの小さな素地焼きの壺を取り出すと、それを私や華琳様に見せ。

 

「これこれ、これを毎晩顔に塗るだけで、肌がとっても綺麗になるの♪」

 

 そう言ってここ最近は、それを寝る前に塗るを日課にしている事を嬉しそうに話してくれるが、正直見た目的にはそう変わったように見えない。

 華琳様もその辺りを一瞬眉を顰めたが、其処は流石華琳様。

 

「連日、汗や砂埃にまみれていたにしては肌に潤いがあるわね」

「へへーん、流石華琳様お目が高いのなの~。

 こうしてほっぺに触ってみると、していない時と比べて全然触り心地が違うのなの」

「そういうものなのか?」

「そうだよ。凪ちゃんもしてみると良いよ」

 

 そう言って手に持つそれを私に手渡してくれるが、あいにく私は……その傷だらけ故にこういった物は不似合だし、こう言った物は高価なものと相場が決まっている。 それ故に返そうとしたところ。

 

「ん~、凪ちゃんの言いたい事は分かるけど。そんなの凪ちゃんが言う程誰も気にしていないって、それに凪ちゃんせっかく綺麗な肌をしているんだから、磨かないと勿体無いもん。 それに、これは私の手作りだからお金も殆ど掛かってないから気にしないで受け取って欲しいのなの」

「沙和の言うとおりね。 凪。女を磨くのは女として生まれてきた者の義務よ」

 

 そして沙和の話に華琳様が沙和の持つ本にますます興味が持たれたのか、私にそう言った後で沙和に本を借りて軽く目を通して行く。

 

「紙も見た事もない素材で、明るい色合いで人目を惹きつけ、項数そのものは少なくても、中身がこれだけ充実しているとなると確かに読み甲斐はあるわね」

「そうなの、そして今回の目玉がさっき気が付いたんだけど、この読者三名様限りの贈呈品の記事なの。

 さっきの化粧水は、誰でも簡単に作れるものなんだけど、こっちは厳選した材料で作った別の化粧水が送られてくるの」

「へぇ。それは凄いわね。 そしてそのためには、幾つかの問いに答えた手紙を書いて送る必要があるって訳ね。 ………なるほど、面白い手法ね」

 

 沙和の書物に軽く目を通した結果、久しぶりに薄く笑みを浮かべる華琳様に、私は先日から疑問に思っていた事をぶつけてみる。

 

「華琳様、何故に急遽予定を変えて此処まで砦の守りを強めたのでしょうか? 袁紹軍の数が大きく減った事と関係するとは思うのですが」

 

 袁紹軍の動向を偵察している細作より、袁紹軍が二つに分かれ。その一つが多くの怪我人を含む部隊で、自分の領地に向かっていると言う報告を聞いた時には、こっちの思惑に感づき戦の役に立たない怪我人に物資の無駄遣いや士気の低下を防ぐために送り返したとだと思ったのですが、それも予測されてい事態の一つ。 だけど報告に在った数はそれを遥かに大きく上回っていた。

 その報告に華琳様や凛様達の反応はそれ以上に険しい顔付をされ、すぐさまに新の指示を下されその一つが、時間が許す限り各砦の防衛能力を上げる事。

 そんな場面を脳裏に一瞬浮かべながら私は、何処か郷愁染みた眼差しを彼方へと一瞬向ける華琳様の口が開かれるのをじっと待っていると。

 

「単純な事よ。これから当初に想定していた以上に厳しい戦いになると判断しただけ」

「い、今までより更にですか?」

「ええ」

 

 自分の発した疑問は、心の中で何処か答えの分かっていた問い。

 その事を恐らく見抜かれていたであろう華琳様は、あっさりと私にその現実を突きつける。

 今迄でさえ予定通りとはいえ、けっして楽な戦では無かった。むしろ神経の削り取られる戦いの連続だったと言える。

 突撃と離脱に偏った戦闘は、一見派手で敵に多くの損害を与えているように見えてはいても。その実、今回の様に敵兵に止めを刺しきれない戦い方は、何時反撃を喰らうか分からない状態。 そしてその生き残った敵将兵達に次の機会に此方の命が刈り取られるかもしれないと言う恐怖と疲労が纏わりついて来てしまう。

 それ故にその恐怖から逃れるために兵士達は更なる突撃を繰り返すと言う悪循環を生み、一歩間違えれば敵陣深くに突撃しすぎて自滅しかねない諸刃の剣。

 華琳様はそれよりさらに厳しくなると判断され、その上で勝つ事に何の疑問を持たれていない。

 それくらい華琳様の目には、何の揺らぎも感じる事が出来ない。

 

 ………違う。

 この方は、負けるなんて事を考えていないのではなく。勝つための手段しか考えられていないだけ。

 いいえ、勝つと言う事ですら、この方にとって過程の一つでしかない。

 民を守り、大陸に平穏を齎すため。 ただその為だけに邁進し続けているだけに過ぎない。

 だからこそ、今回のような敵を殺す事より戦闘不能にする事を重視すると言う、一見すれば愚かで名を汚しかねない事も、将兵により厳しい戦を強いいる事になろうとも、大陸の平定と言う未来に向かって突き進んでいるだけ。 奸雄と言われようと、多くの将兵の屍を築こうと、全てを飲み込んだ上で一歩一歩をしっかりと歩み続けているだけなのだと、私は華琳様の瞳と躰に纏う覇気から今一度思い知らされる。

 その事実に自然と臣下の礼を取る私に、今度は華琳様が私に問いかけてくる。

 

「貴女達は麗羽、……袁紹についてどう思っているのかしら?」

「ん~、馬鹿なの」

「こ、こら沙和」

「ふふっ、構わないわ。 凪、貴女はどう思うの?」

「は、はぁ。私の耳にする風評は沙和の言うとおり。 尊大な態度と根拠の無い無意味な自信を高笑いと共に響き渡らせる運だけの人物と。 そして先の反董卓連合の時や今回の戦い方からして、噂を否定する物が何もありません」

 

 軽薄そうな外見と言動と裏腹に、意外に物事を冷静に見ている沙和の意見を肯定するかのように私なりの考えを聞いた華琳様は、少しだけ面白げに微笑みながら此方の答えが予想した通りである事に満足したように、

 

「ええ、そう見えるわね。

 でも麗羽とは結構腐れ縁で学生時代に同じ私塾で学んだ同士なの」

「なるほど、それで真名を呼び合っているのなの」

「華琳様の学生時代。さぞ優秀であられたのでしょうね」

 

 華琳様の言葉に私も沙和も、脳裏にそんな時代の華琳様を浮かべてしまう。

 もしかしたら華琳様の聡明さに師である方も、華琳様の歩まれる未来に夢を見られたのかもしれない。

 

「ふふっ残念ね。あまり良い生徒じゃなかったわ。 少なくてもあの老人達中では厄介者だったでしょうね」

「ふえ?」

「え?」

「優秀な師が多いと噂されていたので期待して行ったのだけど、新しい答えや解釈には目を向け無い所か認めようともせずに、ただ只管に既存の答えや考え方のみを反復して覚えさせるだけの頭の固い老人達の集団だったわ」

 

 学問の事は分からないが、武術では伝承された技というのは、只管に反復させる事で技とその技に隠された多くの意味を己の体に覚えさせる。だから一見すれば華琳様のおっしゃられる老人達の考えは間違えではないように思える。

 だけど武術は絶えず変化し進化して行く生き物の様なもの。 研鑽されてゆく中で、体格や相手に合わせて新たな技や武器が生まれて行く。 共に大切でありどちらかだけでは駄目なのだ。 華琳様がおっしゃられているのはおそらくそう言う事なのであろう。

 それでも、華琳様が其処で学ばれ続けたのは、それでもそれなりに得る者があると判断されたからなのだと思う。 少なくとも既存の答えや考え方を教えると言う事においては、噂通り優秀な師の揃った私塾だったのだろう。

 

「その中で最も優秀で、あの老人達に気にいられていたのが麗羽。彼女よ」

「意外なの~」

「ええ、こう言っては何ですが、とてもそうは見えません」

「むろん袁家と言う名もあるでしょうけど、彼女はあの頭の固い老人達の求める答えを出し続けた。 それが一番の理由でしょうね。

 そして、その私塾時代の結果と扱いやすそうに見える人格でもって麗羽は袁家の跡継ぎに選ばれ、今なお袁家の老人達と言う愚物達に気にいられている。 生まれ持った強運と言うのもあるでしょうけど、つまりはそう言う事よ」

 

ごくり。

 

 華琳様が通われたような私塾で優秀な結果を出し続けた人物が、本当に噂通りの『何も考えていない馬鹿』と言えるのか?

 そんな訳がない。 確かに知識を貯め込むだけで何の役にも立たないと言う人物はいる。 だけどそんな人物が私塾でも袁家の中に置いてでも老人達に気にいられる結果を出し続けるものだろうか?

 それこそ否っ。 例え強運の持ち主であろうとも、それだけで乗り切れるほど世の中は甘くない事は、物を知らぬ幼子であろうとも分かる事。

 つまり華琳様は、華琳様の認めるだけの能力を持たれる袁紹が本気になった。そう仰られているのだ。

 何の足枷もなく、今まで封印していた自分の才能を振るうだけの下地が整うのだと。

 理解した事実に、渇いた喉を誤魔化すかのように唾を嚥下してしまう。

 そんな私に華琳様は、厳しい目を我等に向け。

 

「麗羽は本気で袁家を抑えに行ったわ。

 此方の策を逆に利用した上で、一番あり得ないと思っている時期に、油断しきっている愚物達の頸を取りにいく。この意味する事は此方にとっても大きな意味を持つ事になる。

 麗羽の手の者が袁家の老人達を抑えて此方に戻ってくるまでの間に、どれだけ敵を減らし時間を稼ぐかが勝敗の鍵を握っているわ。 これからの貴女達の働きが魏の将来を決める。そう思いなさい」

「はっ」

「はいなの」

 

 私達に期待しているわと言う言葉を残してこの場を立ち去る華琳様の背を見送った後、私は自分の部隊に向けて足を進める。

 袁紹軍がこの砦に辿り着くまで残る時間は少ないとはいえ、やれる事はまだあるはず。 体と心を休ませる事も大切だが、今はまだほんの少しだけ余裕があるのもまた事実。

 そんな私の背に、沙和の元気な声が聞こえてくる。

 

「何時まで掛かってるのなのっ!

 お前らは早いだけが取り柄の早漏野郎じゃないのかっ!

 ダラダラと長いだけの役に立たない蛆蟲なら、それならの腰振るだけしか能の無い犬の方がよっぽどマシなのっ!

 お前らは蛆蟲なの!? それともサカった犬なのっ!? どっちなのっ!」

「「「さ、さー、忠実なる犬であります」」」

「返事が小さいのなのっ! そんな小さな声しか出せないようなら、隣の奴にモノを突っ込んでもらって喉の奥まで広げてもらうのなのっ!」

「「「さーっ、我等は犬ですっ!」」」

「よしなのっ! ならば、今の倍の岩を運んでくるのなのっ!

 それが出来た班から飯をくれてやるのなの。 飯に有り付きたかったらとっとと動くのなのっ。最後の班の奴まで飯が残ってると思うななのっ!」

「「「さー、いえっすさーーーっ!!」」」

 

 鞭と飴。 使っている言葉はともかく、沙和は我ら三人の中で最も兵士達をよく見ているのかもしれんな。

 そうでなければ、あそこまで兵士達が動くとは思えない。

 私も負けていられない。

 沙和にも、真桜にも、そして他の将の方々にもな。

 

「お前ら、今日最後の仕事だ。 動けるなっ」

「「「応っ!」」」

 

 

 

 

 

愛紗(関羽)視点:

 

 

「はぁ………」

 

 陽が遠くの山にその姿を完全に隠し始め。今日も一日歩きづめだった民や鍛錬の終えた兵達は、その疲れを少しでも癒せるように思い思いの場所に陣を張り。満腹には遠くても、それでも身体の温まる食事を今日も取れた事に感謝しながらその後片付けに追われている。

 そんな光景を遠目に眺めながら、つい溜息が出てしまう。

 

「そんな溜息をついては、幸せが逃げてしまうぞ」

「言いたい事は分かるが、溜息の一つも出たくもなる」

 

 短い時間ながらも兵の鍛錬を終え、その後野暮用もあって民の様子を見まわって来たところに後ろから近づいてきた星の声に、重い気分を吐き出すように息を大きく吐きながらも、星を相手に毒づいてしまう。

 そう。何の意味もない事。 星に当たった所で事態が好転するわけがないと分かりつつも、こうして星に自分をぶつける事が出来るようになったのは私の甘えなのか? それとも自分が弱くなってしまった証なのかは分からない。

 ただ、それでも以前よりは全体が上手く行くようになってきたのならば、それは一つの強さなのかもしれないと自分を誤魔化しつつも。

 

「何だ。昨日も北郷殿に謝れなかったのか?」

「うっ……」

 

 私を今悩ませている極個人的な悩み。

 それは先日、北郷殿の心根を知りながらも、北郷殿について回っている女性に関するあまりにも酷い内容の噂と、北郷殿の所から夜遅くに涙で泣き腫らした目で帰って来た朱里と雛里の姿に、私は北郷殿が噂通りの人物だと勘違いしてしまい。 我等のために骨を折ってくださっている人物に対して、あまりにも御門違いな怒りを向けてしまった事。

 せめて、一言謝罪せねばと思っていたのだが、実際謝ると言っても北郷殿に実害があったわけでもなく。その場に北郷殿達が居合わせた訳でもないため不快な思いをさせた訳ではない。 言わば北郷殿達の預かり知らぬ処で、私が勝手に騒いだ挙句に己の器の小ささを思い知らされ自己嫌悪をしたと言うだけに過ぎない。

 そう言う訳で、公の場で私に謝られた所で北郷殿も困る様な内容な上、例えそうしたとしても、それでは桃香様に恥を掻かせてしまう事になるだけでなく、国として謝罪をしなくてはならなくなってしまう。

 そんな事をする余裕が我等にある訳もなく。また北郷殿もそのような事を望むような方ではないと言うのは、冷静に考えれば十分に分かりきった事。

 ならば、個人的な時間を作って謝罪をすれば良いだけの事なのだが………、

 

「して、昨日はどんな理由だったかのぉ? たしか女を口説いている最中だったと記憶していたが」

「ぐっ、分かってて言うな。 子供相手に遊ばれていただけだなのは知っておろう。 ただ、たまたま童女が多かっただけの事。 幾らその手の噂もあったとは言え、流石にあんな幼子相手にそれは失礼であろう」

「確か一昨日は、年若い女性達に言い寄られている最中だったか?」

「言い寄られていたのではなく、舞いに覚えのある者達が北郷殿に舞の事で訪ねていただけに過ぎない……たぶん」

「その前は・」

「星よ。もしかして私をからかっていないか?」

「それは酷い誤解と言うものだ。 私は親友である愛紗がまた噂に踊らされ、目が曇っていないかを確認しただけの事」

「取ってつけたような良い訳を言うな。まったく」

 

 せめて、口元の笑みを隠すくらいの事をして言えと言いたいが、星の場合人をからかうためならば、それくらい平気でしかねない。 まだそれと分かるように態と見せている方がまだマシと思いつつも、星の皮肉めいたからかいの言葉に含んだ意味を、きちんと誤解無く受け取る。

 

『 時間が経てば経つだけ謝りづらくなるぞ 』

 

 それは分かっている。

 分かってはいるのだがだが………。 そのなんだ。悉く上手く事が運ばない。

 朱里と雛里の件で勘違いした日の後。 民に混じっていた北郷殿達を見つけ、私も民に混じる事で北郷殿に声を掛け、何とか時間を取る機会を得ようとしたのだが。

 

「ほら、こうすれば女性でもコシのある麺が出来る」

「竹のしなりと反動を利用するのかぁ」

「確かにこれなら力はそうは要らないわね」

「二人でやれば、生地を折る手間も僅かで済むし」

「青竹なら何処でも手に入るしね」

 

 年若い者から妙齢の者も含めた女性に囲まれた北郷殿は、岩の前に持ってきた荷台に青竹を引っかけ、その太い竹のシナリと反動と己の体重を利用して、何度も高く飛び跳ねていた。

 麺に強いコシを生むのは触感を楽しむと言う意味もあるが、実際には歯応えのある食べ物を作る事によって限りある食料で満腹感を得やすくすると言うのが主目的であり、台所を預かる者達にとって少ない材料で美味しく満腹感を得させる料理を作る事はとても大切な事なのだろう。

 男の彼に料理の心得があるかどうかは分からないが、料理の得意な朱里達も麺作りだけは苦労していた事を考えると、有効な手段なのかもしれない。 なによりこの方法は、

 

「なんか面白そうな事をやってる」

「ねぇねぇそれ何の遊び」

 

 一見遊びと思えるだけあって、青竹を利用して軽快に飛び跳ねる北郷殿を見て、幼子達が集まってくる。

 

「一応、これでも調理だよ。 君達だとまだ躰が小さすぎて出来ないから、もう少し大きくなったらお母さん達を手伝ってあげてね」

 

 飛び跳ねながら、微妙に麺を打つ位置を変えながら、子供達に申し訳なさそうに謝る彼。 その一つを見ても彼の心根が分かると言うもの。

 たとえ相手が子供であろうと、子供だからと無視したり馬鹿にしたりせずに、真摯に正面から相手をする。

 この調理法にしても同じこと。コシの強い麺を打つだけならば、他にも方法はあるはず。 今のように大人数分を作るのならば交代で打つなり、男手を使うなり幾らでもある。

 だけど彼は多少の手間をかけてもこう言う調理法を考えたのは、おそらく不安の付きまとう今の民の生活に、少しでも明るい材料となる物を与えたいと言う、彼の優しさから来るものと言う事は今更疑うべき様な物ではない。

 

「それなら、私でもできそうだな」

「えっ、愛紗」

 

 私の言葉に動きを止めて驚く彼。

 いくら私が料理などした事が無いと言っても、彼がしたような事なら出来ないものではない。

 それに私ならば幼子達と違って、竹をしならせるだけの体重もある。

 何よりこれを切っ掛けに彼に謝罪する機会を作りたいと思う私は、彼が止めるのも効かずに竹に片足と手を掛けて人の背より遥かに高く飛び跳ねてみせる。

 二~三度己の力ではなく竹と体重を利用して跳ねると、それなりにコツを掴めた私は少しずつ位置を変えて麺生地を伸ばしながら打って行く。

 

「確かに、これは爽快だな。

 こんな楽しい調理方法があると言うのは天の国と言うのは変わっている」

「いや、そのっ。 愛紗、そろそろ止めた方が」

「ん? 何でだ? ああ、そうか。生地を畳み直さねばいかぬのか」

 

 彼の声に私は、飛び跳ねるのを止めて地面にしっかり足を付けるのだが、はて、何か様子がおかしい。

 周りには何故か先程より人が集まってきており。 更に集まってきているのは主に男性で、その男性達を一生懸命に追い払っている女性達がいる。

 そんな民の様子に眉を顰める私に彼は言い難そうに。

 

「え~~と、その愛紗。怒らないで聞いて欲しいんだけど。 その格好だと、その何と言うか見えちゃうから止めた方が……」

 

 そう言って彼が一瞬視線を向けた先には、私の腰巻が肌蹴ているのが見える。

 その事実に、周りが何を騒ぎ、北郷殿が目を逸らしている理由に気が付き私は反射的に布の端を引っ張り肌蹴ていた以上に其処を隠す。

 

「………み、み、み、見えましたか?」

「し、しろ。 ち、違うっ。 見てないし見えてないっ」

 

 両手と首を必死に振りながら言う彼の姿に。 一瞬だけその時の様子を思い浮かべたのか、幸せそうな顔をした彼の表情に。 ああ、彼はこの手の事に嘘はつけない性格なのだと。 私が懸念していた事は的外れの邪推でしかなかったのだと理解するも、それで下着を見られた羞恥心が無くなる訳もなく。 ましてや私は高く飛び跳ねていた訳で、……近くに居た彼は私の下着を下から見えたのだと心の中に沁みて行くに比例して、

私の顔と頭の中が、まるで茹で上がるかのように熱くなるのが分かる。

 

「こ、こ、こっ、この慮外者ぉーーーーーーっ!」

 

 羞恥心で真っ赤になった私は、下着を見られてしまった勢いもあって、その場で北郷殿を説教してしまう。

 天幕に戻ってから落ち着いて考えてみれば北郷殿には何の非もなく。どちらかと言えば勢い余った私の行動が引き起こした事態だった事に気が付き、謝罪しに行って更に謝罪すべき事を増やしてどうすると、自分の器の小ささに落ち込む事となった。

 とまぁ、此処までの事は流石にそうは無いが、その後も何とか暇を作っては彼に謝罪しようとするのだが、そう言う雰囲気に慣れなかったり。 何故か謝罪する所か此方の神経を逆撫でするような事態にばかり出会ってしまう。

 幸いな事に朱然などの彼の周りにいる護衛の者には、私がしようとしている事に気が付いているらしく、必要以上警戒されるような事は無く、むしろ溜息を吐きながらも此方を同情するするような目で見守ってくれている。 もっともそれ以上でもそれ以下でもなく、手を貸してくれるような事はない。

 彼女達からにしたら私に対して其処までする義理は無いため、黙っていてくれる事に感謝こそすれ、恨めしく思う気持ちはさらさらない。

 そしてそれは北郷殿に対してもそうなのだが……、流石にこうも連続しては恨めしく思ってしまうのは仕方ない事ではないだろうかと思えてきてしまう。

 だいたい北郷殿も北郷殿だ。 どう考えても私の方にこそ非があると言うのに、私の態度に怒るどころか。私の理不尽とも言えるお説教を黙って受けるなど変わっているにも程がある。

 もっと毅然としていてくだされば、私も素直に頭を下げれるというのに……。

 

ぶるぶるっ

 

 頭の中に浮かんだ言葉を、私は頭を振って力いっぱいに否定する。

 なにを情けない事を考えているのだ私はっ! 謝罪すると決めた私が謝罪する相手が情けない所ばかり見せていようがいまいが、私が積み重ねてきた無礼な行いが変わるものではない。

 ……それに北郷殿が私の理不尽な説教を黙って聞くのは、北郷殿自身多少なりとも自分自身に悪い所があると認めているからと言うのもあるが、おそらく北郷殿はああ言った事では怒らない。

 私が謝罪したところで、謝罪を受け入れるどころか、気を使わせたと逆に謝ってきかねない心根の持ち主。

 短い間ではあるが言葉を交わし、そして我が全身全霊を賭けた武をぶつけた相手。

 それゆえに多少なりとも北郷殿の本質が見えている。

 

 北郷殿は自分の事では決して怒らないだろう。

 

 そのくせ関係ない人間の事で怒るのだ。

 自分の家族や仲間が傷つく事に自分を燃やす程の怒りを表すのだ。

 それは孫呉独立の時や曹操の軍勢を追い払った時に聞いた風評からも分かる事。

 だが何よりそれを実感したのが、明命殿をはじめとする彼の周りにいる者達の存在。

 北郷殿を害意ある者から守るだけではなく、その心をも守ろうとしているのが良く分かる。

 

 そう言う意味では、彼は桃香様に似られている。

 民を心より愛している所も。

 皆に愛され、民に愛されている所も。

 自分の信じる道を真っ直ぐに歩み続ける所も。

 見ていてどこか危なっかしい所があるところも。

 本当に……よく似られている。

 

「まったく、何を女々しくウジウジと悩んでいるのだ。

 お主はお主らしく、何も考えずにまっすぐぶつかって行けばよいだけではないか」

 

 心の中で少しずつ自分を奮い立たせている所に、横を歩いていた星からそんな暴言が飛んでくる。

 言いたい事は分かる。分かるのだが……。

 

「人を考えなしに突っ走る猪の様に言うのは止めてもらおう」

「ほほう。私は一言もお主を猪とは言っておらぬのだが。 そうかそうか、愛紗は心の中で自分の事をその様に思っておったのか。 くくくくっ、ふむ、覚えておこう」

 

 片手を口元に寄せながら人をからかう様な仕草と、挑発染みた楽しげな瞳と笑みの裏にある意味は私を想って事は事実であろう。

 だが私の反応を楽しんでいる事も嘘偽りのない事実である事も真実。

 そして、幾ら私でも黙っていられるほど私は甘くもお人好しでもない。

 

「私は此れでも桃香様の無茶や、鈴々の暴走を冷静に抑えてきた自負はある。

 その私にそのような暴言、喧嘩を売っていると捉えられても文句は言えぬぞ」

「義兄妹とは言え。桃香様と鈴々はお主の兄妹。 故に似た所があってもおかしくは無かろう?

 それに北郷のに未だ謝れない原因を考えれば、そう的外れな事とは思えぬがな」

 

 私と星の放つ剣呑な空気に、周りにいた兵士達はモノ言わずに、視線を交わして私達からそっと喰い掛けの椀など、思い思いの手荷物を持って遠く離れて行く。

 その気配を意識の片隅で感じながら、私は目の前で口元の端を更にあげて笑みを深める星を睨みつけ。

 

「盗賊相手に防戦一方など性に合わぬと言って、考えなしに単騎で敵陣に突っ込んだお主に言われたくはないな。 あの時私が後から駆け付けねば、今頃お主の首はあの荒野の地面の下に埋もれていたであろう」

「それはあるまい。 幾ら数が多かろうと盗賊如きに後れを取る私ではない」

「ほほう。では、その倒した盗賊達の屍の山に動きを封じかけられていたのは、どこの誰だったかな?」

「あそこからが私の見せ場だったのを、誰かさんに邪魔をされた事は確かだった記憶があるが、終わってしまった事を責めるほど私は小人でもないが、それではお主の言を認めるようで面白くないのも事実。なら互いの言を証明する手は一つしかあるまい」

「私もちょうどそれを考えていた所だ」

 

 それっきり黙り込む私と星。

 だが言葉を交わしていない訳では無い。

 ましてや本気で相手の言葉に怒っている訳でもない。

 言葉を交わすのは口だけではない。

 相手を射る様に見る目で……。

 互いの身体から発する気迫で……。

 なにより、

 

ぎんっっ!!

 

 まるで大きな爆発のような音が一つ弾ける。

 それは互いの愛槍である青龍偃月刀と龍牙がぶつかり合う音。

 一息に七撃が放たれた結果。

 互い一撃の威力と反動を利用して連撃の速度を速めた結果が、まるで巨大に一撃がぶつかったかのように聞こえただけに過ぎない。

 巻き込まれないように遠くに離れた兵士達の殆どは、その音と一緒で一撃にしか見えなかったかもしれない。

「はぁぁぁぁーーーーーーっ」

「でぇぇぇぇーーーーーいっ」

 

 そしてその応酬ですら、まるで始まりの合図かのように、私と星は更に氣を高めて激しく打ち合う。

 突き、受け、弾き、叩きつける。

 舞い上がる土埃を互いの獲物が切り裂いて、己が全力を只管にぶつけ合う。

 実力の近く互いにある程度以上の高みにある物だけが行える死闘と紙一重の本気の仕合。

 今持てる力と技、そして気迫と己が意志全て相手にぶつける。

 互いに不器用な所があるのは承知。

 だからこそ故に己が武で語るのだ。

 互いに心を通わすのだ。

 

 勝とうが負けようが、全力でぶつかりあえるからこそ分かる物と言う物がある。

 そう。……分かったモノがある。

 この手に握る槍の重さの本当の意味は何なのか。

 桃香様の目指す夢と民への想いだけではない。

 私のちっぽけな自尊心と欺瞞だけではない。

 幼少の頃、武と共にこの手に握った正義を目指す心。

 それは何のためなのか?

 

 むろん、守るべき民の笑顔の為。

 

 一緒に居たいと思う心。

 一緒に歩み続けたいと思う心。

 ただ共に在りつづけたいと思う小さな子供の想い。

 始まりの想いで、今の私を形作る最奥にある大切な想い。

 それを彼は想い出させてくれた。

 我が槍の本当の意味に気付かせてくれた。

 

「でぇやぁっーーーーー!」

「はぁっーーーーっ!」

 

 我が槍が背負っているのは桃香様の想い。

 ついて来てくれる多くの将兵の命。

 そして民の生活と悲しみ。

 そう思い今まで歩んできた。

 

 だが、それではいけないのだ。

 背負うのではなく、共にあるのだ。

 私の守りたいと思う想いも。

 桃香様の望む未来と民への自愛も。

 私達を信じてついて来てくれている将兵の気持ちも。

 官の横暴や盗賊に怯える必要のない、平穏な暮らしを桃香様となら作って行けると信じている民の想いも。

 皆この槍と共にあるのだ。

 そしてそれは私だけではないのだと、今なら分かる。

 目の前で我が槍と打ち合っている者も、力強いその一人だと信じられる。

 

 どがっ!!

 

 互いの渾身の一撃がぶつかり合う音が周りに響くと同時に、その衝撃を受けきれなかった私と星は、砂煙をあげて地面に靴で二筋の跡を刻みながら、痺れた手と腕を無視して気迫でもって武器を握り直す。

 再び矛をぶつけ合う為ではなく、矛を収めるために。

 何も言わずとも、目で語りかける事もなく、私と星は同時にそれをやって見せる。

 やがて互いに獲物を肩に掛け、緊張を緩めて笑みを交わし合う。

 先程の様な周りの兵達が逃げ出すような剣呑な笑みではなく、互いに呆れたような笑みを。

 星は相変わらず何処か人を喰ったような笑みを交えて。

 私はこの手と心に掴み直したものの大切さ自覚するように、不敵な笑みをあげてみせる。

 そして……。

 

「まったく、北郷殿に技に頼りすぎる所があると言われておきながらも、出したした答えが此れとはな」

 

 そう、あれだけ北郷殿に技を躱され、逸らされながらも星が出した答えは、より一層に技に磨きをかける事。

 

「なに、素直に負けを認めるには、私は些か捻くれているようでな。 ならこれであの御仁を超えてみるのも一興と考えたまでだ」

 

 皮肉染みた笑みを浮かべながらも、その瞳には武人として真摯な光を灯して言う星。そんな彼女を相変わらず不器用な性格だと内心苦笑しながらも、その技と言う概念自体が大きく変わりつつある星の変わりつつある技に感心する。

 こと武に関してはその性格とは裏腹に何処までも真っ直ぐな星に敬意を払い、私は私で出した答えを実行するために矛を完全に収め彼の地に足を向ける。

 

「行くのか?」

「ああ、些か余分な事に意識を取られ過ぎていたようだ。

 私は私だ。それを些か見失っていたようだ」

 

 星の言葉を背に受けながらも、私はそう答える。

 愚直であろうと、馬鹿正直であろうと、そう決めた以上は、そう行動するだけの話だ。

 私の行動は相手にとって迷惑なだけかもしれない。

 またとんでもない事態に遭遇するかもしれない。

 それでも、こんどこそ伝えよう。

 我等は孫呉と、…彼と暫し同じ道を歩むのだ。

 なら、彼を誤解してはならない。

 そうしなければ、私は進めないだろう。

 

 桃香様が指示してくれた道を……。

 彼が教えてくれた歩き方を……。

 

 

 

星(趙雲)視点:

 

 

 彼のいるであろう場所に愛紗が歩いて行くのを見届けてから、私は槍を肩に自らの天幕に向かう。

 愛紗の内に溜まっていた物を吐き出させるためも兼ねての本組手だったか、手に残る撃ち在った時に生じた強い痺れが今は嬉しく感じる。

 愛紗の一撃一撃が前と比べ重く鋭くなった。

 私の小手先の技の変化と違って技そのものは変わってはいない。

 力と速度自身もこの短期間でそう変わるものでもない。

 故に変わったのは愛紗自身。

 その槍と技に載せるべき想いが変わったのだ。

 その手に持つ槍の保つ重さの本当の意味を、愛紗は見つけたのだろう。

 

「まったく、世話を焼かすのは軍務だけにしてほしいものだ」

 

 口に出でしまった言葉とは裏腹に、きっと口元は笑みを浮かべているかもしれない。

 正直、北郷殿に対して支離滅裂な愛紗をもう少し見ていたかったが、そろそろ時期的にもそう言う訳にもいかなくなってきた。

 そもそも本来の愛紗であれば、幾ら潔癖な所があるとはいえ、あそこまで北郷殿の行いや噂に過剰反応する事は無い。

 それをあそこまで過剰反応するのは、愛紗自身が無意識に『そうであってほしい』と思っている想いの裏返しに他ならない。

 だいたい兵との調練では、腰布が捲れる事など多々ある事。

 現に今の打ち合いでも、数度捲れあがったと言う物。

 それを今更北郷殿にだけ下着を見られたとか、初心な小娘みたいに北郷殿に当たるのは、北郷殿を男としてみている証。

 自分が勝手に作り上げた理想を勝手に押し付け、その理想と現実の齟齬に裏切られたと感じるから怒りを感じたりする。

 

 もっとも人間多かれ少なかれそう言う所は在ったりするのだが、愛紗は些か自分を一人の人間だと言う事を忘れている節が……いいや、きっと自ら型に填めこんでいるのだろう。

 だから、ああいう愛紗本来の性格が表に出でいるのが、楽しくもあり嬉しくもあった。

 己の心が何に戸惑っているかすらも分からずに、あたふたと戸惑っている愛紗は間違いなく、一人の女として輝いていた。

 だからこそ其処に何の含みを持っていないと分かるからこそ、北郷殿の周りにいる者達も黙って見ていたのだろうな。

 ほんの一時の事だと………。

 同盟を組んでいるとはいえ、所詮は互いに国の重責を担う者同士……。

 

『なっ、なっ、なっ、何をやっているのですかーーーーーっ!』

 

 ……思考を遠くから聞こえてくる愛紗の声に中断される。

 

『ま、待ってくれ、誤解だ』

『あわわ。愛紗さん。おっ、落ち着いてくだしゃい。 杖の使い方を相談に乗ってもらっていただけで』

 

 続いて北郷殿の声に混ざって、雛里の声が聞こえる所を見ると、大方雛里が杖を振り回していて、その勢いに転びそうになった所を北郷殿が抱き支えた所に鉢合わせたと言った所であろう。

 せっかくの力添えも、あの間の悪さの前には、何の意味も無さ無かったかと嘆くよりも前に、愛紗と北郷殿のどちらが運が悪いのだろうかと、つい真剣に考えてしまう。

 

「ふぅ……。まったく、これではどちらが姉貴分だが分からぬと言うもの」

 

 溜息を吐きながら、脚を自分の天幕から声のする方へと変える。

 相手にあれだけ素直に行動出来る事が、どれだけ恵まれた事か分かっていない愛紗を、ほんの少しだけ背中を押すために。

 あの堅物の石頭では気が付く事は無かろうが、せめてほんの僅かの間だけでも夢を見させてやりたいと仏心が出てしまう。

 まったく、気に入った男がいてみれば既に相手が居るばかりか、互いに責任のある立場と言うのは、本当に儘ならぬな。

 

「せめて、後でこの事を酒の肴に愛紗をチクチク虐めてやらねば割が合わぬな」

 

 

 

明命(周泰)視点:

 

 

「ねぇ、本当に必要な工事なのかな? それよりも潅漑工事をもっとやった方が」

「何を仰います劉璋様、道を整備すればそれだけ人も行き交い。商人達を通して国が潤うと言う物です」

「いやいや張松殿、それならば河川や港を整備し、船を行き交いやすくする方が優先すべきですぞ。 船の方が馬車よりも多くの物が運べる上に早いのですからな」

「法正殿、それは貴殿の息の掛かった者達が、船を多く有しているからではではないですかな?」

 

 忍び込んだ建物の屋根裏において、そんな醜い言い争いの声が聞こえてきます。

 今聞こえてきた声以外にも、自分の推し進めたい政策を述べて、限りある予算を奪い取らんとする争い。

 これが本当に民のためになる政策であれば、醜いとは思いません。

 自分に力を貸す者達に益のある政策を推し進めるのも悪いとは言いません。

 癒着だの不正だの横領だの言う事は出来ますが、人を動かすにはお金が要ります。

 そう言った欲が世の中を動かすのもまた事実。

 極論で言ってしまえば政策と商いとの差は、其処に公益があるかどうかです。 民が幸せになれるかどうかと言う事なんです。

 ですが、声をあげている者達は己が自尊心と誇りを守るために自分の考える政策を推し進めているだけに過ぎません。

 真に民の事を想い、今この国の現状を憂いている者の声は……。

 

「ね、ねぇ。言い争いは良くないよ。 も、もっと落ち着いて話し合おう」

 

 国を形作るだけの血は有してはいても、臣下を纏めるだけの力は無く、その声は届いていません。

 そして、力なき劉璋に忠誠を誓いし者も、相手を黙らせる事は出来ても、所詮は武官でしかない身。

 専門外の政治的な話となれば口を噤むざる終えず。その主も結局は力が無いばかりに、言いくるめられてしまう。 自分なりに必死に考えた政策を、否定されるばかりか見向きもされずに。

 それは当然の事。 妥協点も出さずに己が意見を通そうとしても通るべきものではありません。

 ただ、それを教えてくれる者が周りにいない事が、彼女をより一層蚊帳の外へと押し出す事になっているのだと思います。

 やがて陽も落ち、薄墨を流したような空が天を覆いきってから、私はそれに溶け込むかのように屋敷……いいえ城を抜け出します。

 

「………はぁ」

 

 気が重くなります。

 此処の所、一刀さんの頼みもあって、この国の事を直接調べ直しました。

 大まかな所は、配下の報告通りでしたが、幾つか新たな事実も知る事が出来ました。

 一つは、ここ最近西京より流れてきた名のある一族がこの国に流れつき、守護の任についた事。

 一つは、劉璋が噂とは違い、実際は領民の事を想っている事。 ただ、その力の無さと周りの者達の権力争いのおかげで、その地に住む民にとって噂とさして変わらぬ状態だと言う事。

 最初のはともかく、劉璋の事を一刀さんに報告するのは気が重くなります。

 せめて悪人であればやりやすいのですが、善人であり心優しき領主として、幾つかの臣に慕われているとなると、私はともかく劉備や一刀さんにとってはやりづらい相手である事に違いはありません。

 

「一刀さんの変な病気がまたでなければいいのですが………はぁ…」

 

 それに心配事はそれだけではありません。

 一刀さんの変な病気と言えば、また誰彼かまわずに相手に優しくして、相手に勘違いさせてやしないか心配です。

 一応配下の者に一刀さんの事を頼んではありますし、一刀さんを信じてはいるのですが、何故か妙な胸騒ぎがしてたまりません。

 まだ下調べに不安はありますが、時間が無い事も事実。

 なにより、一刀さんを不安から少しでも守ってあげたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

~あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 『 舞い踊る季節の中で 』第百十九話

 ~ 心に中に舞う想いの先は何処に ~ を此処にお送りしました。

 

 皆様お久しぶりです。

 いろいろあって久しぶりの更新となりましたが、何とかこうして帰ってくる事が出来ました。

 さて、官渡の戦いも中盤に入りましたが、益州攻略もついにその本編に入り始めました。

 前置き長いよと思う方もいますが、まぁその辺りは御勘弁ください。

 

 頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程をお願いいたします。

 


 
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