No.310900

【TOX】imprinting【アルエリ】

サカナさん

※ED後(半年経過)
アルエリかわいいかわいい!とモエたぎった結果。
アルエリというか、どちらかというとアル→エリ。でアルヴィンまじろりk(ごふんごふん)
アルヴィン(ヤンデル入ってる)っぽい話にしたかったのですが、アレ……?

2011-10-01 20:59:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:805   閲覧ユーザー数:796

 

【imprinting】

 

 エレンピオスとリーゼ・マクシアを隔てていた「断界殻(シェル)」がなくなり、半年が経った。

 それはつまり、自分が商売を始めてから半年が経ったということでもある。

初めの頃は四苦八苦、手探りだった仕事もどうにか軌道に乗り始め、最近は傭兵稼業と兼業などしなくとも何とか一人で食べていけるぐらいにはなった。

 傭兵稼業――実際はどうであれ――をしている時は、各地を転々とすることが多く特定の場所に留まったり住む事は極稀だったのが、この頃では定期的にカラハ・シャールを訪れることが多くなった。

 もともとイル・ファンとア・ジュールの交易拠点だけあり、両方の国の商品が安く簡単に手に入れることが出来ていたところにエレンピオスという第三の国が加わることになって、以前よりも人の往来の増えたように思う。

 今日も街は、あちらこちらから客を呼び止めようとする店員の声や、行き交う人々が立ち止まり時には値段の交渉を行う雑多な人であふれかえっている。ア・ジュールやイル・ファン、そしてエレンピオスだからといって誰も毛嫌いなどしない。良いものは良い。それに相応の対価を払うという至極当然のことができるこの市場は、まさに今後の世界の理想だろう。そんな中を縫うようにしてアルヴィンは足早に通り過ぎる。

 もちろん仕事で来ているのだから寄るところはいくらでもあったし、途中で顔なじみになった店主が気さくに話しかけてもくれる。けれど一つ手を振るだけで返して、足は止めない。

 真っ直ぐと進む先は、このカラハ・シャールを取りまとめる領主の屋敷。先の戦いで、多くの面倒をかけた相手でもある。けれど目的は領主への挨拶でなければ、ご機嫌お伺いでもない。商売をする上での便宜を図って欲しいという下心もないこともないが――それを考えるのはやはり自分のズルさだろう。

 大通りを抜け、静かな住宅街を抜けたその先。顔なじみの門番に挨拶をして通り抜ける。

 顔馴染みになった門番は止めることなく、むしろ「お久しぶりです」と軽い敬礼すら返してくる。自分が、危険人物であればどうするのだと思わないこともないが、自分を疑う理由などきっとこの門番たちにはない。きっと彼らの中での自分は「世界を統合した英雄の仲間」という位置付けだろうから。

 門を抜けたその先にあるエントランスも、普段であれば主人に害なす者であれば一歩たりとも入れない気丈な執事や侍女たちがいくらでもいるのに「アルヴィン様」なんて様付けで呼ばれて、むずがゆくなる。何度も訪れたし、領主の少女とも知り合いであり、何よりも旅を共にした子がこの場所にいるからと言われても、全幅の信頼を寄せられたような気分にさせられる出迎えはこそばゆい。

 一言、二言、会話を交わしエントランスを通り抜けいつもの簡単な応接室に通される。すぐにお呼びしますので、と笑みを浮かべ一礼をして退出した侍女も、この半年で何度も繰り返さたからだろう慣れてしまっていてどこか気安さすら感じる。それがどこか奇妙でここに来るのは何度目だったかと、ソファーに座って指折り数えてみる。

 

(四回……いや、五回目?最初を入れれば六回か。ほとんど毎月かよ)

 

 こちらと、あちらが初めて世界中の人に知れて半年。

 その間、文字通り「目の回る忙しさ」で世界を駆け、日々を過ごした。そんな中で毎月、定期的ではないとはいえこの家に足繁く通っているという事実が、とても恥ずかしいことのように思えて誤魔化すように、カップに口を付ける。

 この部屋に案内されると同時に出された、カップ。何の疑いも持たずに喉をすべり落ちる暖かいものに、ほっと息を吐く。ここまでずっと移動の連続で歩き詰めだったから、少しぬるい温度がありがたい。流石「領主」の家と言うべき配慮だなと、全く違う事を考えて無理矢理に照れくささを追い出す。

 

(やめ、やめ……)

 

 考えたって、どうしようもないし、会いたいものはしょうがない。

 緩く首を振ると控えめなノックが響く。それに一瞬だけ息をつめていると、こちらの返答を待たずにドアが開かれた。

 

「アルヴィン!」

 

 ぱっと満開の笑みを浮かべた少女が、扉のむこうから現れて、自然を笑みが零れる。一ヶ月――たった一ヶ月会わなかったことがとてつもなく懐かしく思える。

 以前であれば飛びついてきていた少女が、どこかおずおずと抱きついてこないことに首を傾げる。

 

「おお?」

 

 これはもしかしなくても、年相応の恥じらいが出てきたのか、もしくは「令嬢」として扱われる上でのマナーを身に付けたのかどちらかだろうかと推測をする。血の繋がりはないとはいえ仮にも「シャール家」で暮らす少女のことだ。きっと相応の教育を受けている。その影響で今まであったお互いの触れ合いがなるのは寂しい。でもきっとそう言ってしまえば少女が困るだけで、胸の内だけで嘆息する。

 なんの躊躇いも戸惑いもなく、自分へと駆けてくれる少女がもういない。

 それだけでまるで自分が置いていかれたような錯覚に陥るけれど、少女が少しずつ成長しているという現実だから、受け入れてあげないといけない。

 飛びついてしまいたい。どうしようとどこか迷っている少女に、少し残念に思いながらからかいの言葉を口に乗せる。

 

「どうした?『アルヴィン大好き!』って抱きついてくれていいんだぜ?」

 両手を広げておどけたように言うと、一瞬で少女の頬に朱が上る。

「そっそんなこと、今まで言ったことありません!」

「あれー?そうだっけ?」

「ないです!やっぱりアルヴィンは嘘吐きです!」

 

 顔を真っ赤に染めながら、嘘吐き、と両手を握りしめ訴える少女に笑う。

 自分に飛びついて抱きつき、再会を喜ぶなんて行動をしないなんて、少しは大人になったのかなんて心配をしてみても――普通であれば喜ぶことなのに少女の成長が自分は寂しい――やっぱり少女は少女で内心だけで安堵の息を吐く。

 

「はは。そうそう嘘、嘘。元気にしてたか?」

「元気、です。アルヴィンは?」

「あー、まあ元気だな。うん」

 

 嘘付きです、と顔を染めたまま唇を尖らせ不機嫌そうにしてみても、自分の体を心配するエリーゼが嬉しくて頭を撫でる。

 以前より、少し近くなった頭の位置。そう言えば、視線も近くなったようなそんな気がする、と思うとそれだけ心臓が跳ねる。そんなことを知ってか、知らずか、エリーゼは嫌だとも言わずに撫でられるがままになっているから、慌てて手を離し誤魔化すように顎を撫でる。

 

「そう、ですか?」

「忙しいけどな。元気は元気だ」

「……それなら、いいです」

 

 不安げにこちらを伺うエリーゼに笑う。忙しいのも本当だし、元気なのも本当だ。

 体調も崩していないし、それよりなによりエリーゼに会えるだけで嬉しい、と思ってしまう。どうしようもないほど、自分はこの子どもといっても差し支えない少女に入れ込んでいるらしい。バカな、という否定は何度もした。その度に「エリーゼが好きなのだ」というどうしようもない結論が出されて、観念した。

 エリーゼだから触れたいと思うし、口付けたいし、今すぐではなくてもいいからあわよくばその先にだって進みたいと思っている。

 今まで人と接した機会が少ないせいか、十二歳という年齢よりも幾分幼い、けれどそれでもとても強いエリーゼが、いつかこの気持ちを受け入れてくれたなら、そうしたい。

 願望に似た願い。

 いっそ、今からエリーゼが自分以外を見られないように浸食してしまえばいいのではないかと思う。エリーゼは対人経験が少ない。つまりは社会経験がほぼないに等しい。「人」として生きていく上で、必要なことをそれほど知らない。

 普通なら、知っていることを知らない。知らない、ということはつまり「普通じゃないこと」が「普通」になりえるのだ。

 それは十四も離れた自分との「恋」が普通だと思い込ませるのも、ただ純粋な「親愛」を「恋愛」と思い違えさせることだって、可能なのだ。

 そんなふうに思い込ませてがんじがらめにしてしまいたい、と思ってしまう。

 

(ダメな大人だ)

 

 きっとエリーゼには自分ではない、もっと相応しい男が現れるに違いない。それが自分にはとても許容できない。エリーゼの未来まで奪ってしまいたいと。

 互いに、会えなかった日々を楽しく会話しながらもそんなことを傲慢にも考える。

 してはいけない、でも、今ならばできてしまう。

 エリーゼの未来を自分で埋め尽くしたいという欲求が生まれる。抗いがたい甘美な未来。

 笑うエリーゼは、きっと向かいあって座った一周り以上年の差のある男が、こんなひどいことを考えているなんてわからない。ただ本当に純粋な気持ちで、日々の色々な事を話してくれている。

 

「そうそう、やっぱエリーゼ、ワイバーンって子供しか食べないらしいぜ?」

「そっ!そんなはずはありません!」

「へー、本当?」

「だ、だってドロッセルが……」

 

 そう言っていたもの、と小さくなる声に口元を歪める。

 いつだったか、からかい交じりにワイバーンは子どもしか食べない、と脅したことがある。それを一度は嘘だと払拭したのに、また自分は嘘を重ねる。

 エリーゼのこころに生まれた、「本当だろうか」という疑問。今のエリーゼは「アルヴィンとドロッセルどちらが正しいのだろう」で占められているのだろう。どこか不安そうに視線を上げたり、下げたりを繰り返している。

 あれだけ裏切り、嘘を吐き、傷つけたのにそれでもエリーゼは自分を疑わない。

 疑わないとは違うかもしれない。でもエリーゼはことあるごとに「アルヴィンは嘘つきです」と、言うのにそれでも真実こころの底では疑っていないのだ。

 それが、いとおしい。

 いとおしく、くるおしい。

 こうやって自分の言葉を、信じてくれるエリーゼのままでいて欲しい。子どもに子どもらしさを求めるように、エリーゼはいつまでも自分の知るエリーゼであって欲しい。

 無理な願いだ、と胸が痛む。

 頻繁に来ているといったとしても、せいぜい一ヶ月に一度程度しか来られない自分が、エリーゼに与えられる影響はほんの少しだ。きっとそのうち、エリーゼはエリーゼの世界を持つ。今はまだエリーゼの世界に自分はいられるけれど、それでもいつかそう遠くない未来に自分はエリーゼの世界から消えるのだろう、と思う。会う事も叶わなくなるかもしれない。

 そんな未来を想像して自分は怯えている。だから、こんなにもどうしようもない嘘ばかり吐くのだ。

 

 
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