No.310061

僕と美波とウェディング喫茶『人生の墓場』

気が付けば”にっ”も終わっていますね。
オールキャラ出演ということで肝試しを最後に持ってきたのはわかるのですが……やっぱ常夏コンビに時間割くよりはオリジナルエピソードがむしろ欲しかったかなと思う今日この頃。
聖帝(メインヒロイン)美波は勘違いしてこそ華だなあと思う今日この頃

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

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2011-09-30 12:21:30 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4822   閲覧ユーザー数:3828

僕と美波とウェディング喫茶『人生の墓場』

 

 今年も学園祭の季節がやって来た。

 2年生2度目の清涼祭。

 何で同じ学年で学園祭が2度目なんだとか気にしちゃいけない。

 とにかく僕は2年生になって2回目の清涼祭を迎えることになった。

 

 僕の所属するFクラスは今年の出し物で何をするかHRの時間を使って話し合っている。

 みんな去年の経験の蓄積があるから今年の出し物の候補は更に一捻りが加えられている。

 時は人を変えるのだ。学年は変わってないけれど。

「それじゃあこの3つの候補の中から今年の出し物を決めるわよぉ」

 今年も清涼祭の実行委員になった美波がみんなに声を掛ける。

 いよいよ、今年の出し物が決まる瞬間が来た。

 ちなみに3つの候補は──

 

1、ウェディング喫茶 人生の墓場

2、FFF団総決起集会 リア充のいない蒼き清浄なる世界の為に

3、アキちゃん香美ちゃん限界ぎりぎり撮影会 ポスト秀吉は私たち(はぁと)

 

 去年よりも悪化していた。

 みんな、この1年間でダメな方へダメな方へ進化を遂げてしまっている。

 Fクラスの面々はその能力を遺憾なく発揮しすぎだってのっ!

「3番は候補から消そうよぉ~~っ!」

「…………絶対反対」

 僕とムッツリーニは選択肢の内の1つに激しく反発して叫ぶ。

 僕たちの女装撮影会、しかも半脱ぎなんて絶対に嫌だっ!

「うるさいぞ明久、ムッツリーニ。せっかく姫路がクラスの為に出してくれたアイディアに個人的な事情だけでイチャモンつけんな」

「個人的な事情も何も、僕たち2人だけが当事者じゃないかぁっ!」

 雄二に寝転がった姿勢で激しく抗議する。

 ちなみに僕と香美ちゃん、じゃなくてムッツリーニは縄でグルグルに縛られて身動きが取れない。

 姫路さんが僕らの撮影会を提案した瞬間にFFF団と雄二の手によって縛られていた。

 まさか僕たちが天井から逃げようとするのを雄二が予期していたとは思わなかった。

 

「ごめんなさい。私が変な提案をしてしまったばかりに明久くんたちにご迷惑を掛けてしまって」

 騒動の火種となった姫路さんが泣きそうな瞳で僕の所へ謝りに来る。

「いや、まあ、別にこれぐらいはいつものことだし」

 縛られて床に転がされるぐらいはリップサービスではなく本当に日常茶飯事。

 それが、Fクラス。

 去年の学園祭の頃はもう少しだけまともな集団だった筈なのになあ。

「だけど、あの撮影会の提案を取り下げてくれると嬉しいんだけど」

 発案者である姫路さんが取り下げればみんな諦めるはず。

 でも、姫路さんは静かに、だけどはっきりと首を横に振った。

「女の子の格好をした明久くんを私が見たいからダメです」

 姫路さんの瞳はとても澄んでいた。迷いがどこにも見当たらない。見当たってくれない。

 姫路さんは胸にそっと手を置きながら懐かしむように話を続けた。

「以前の私は引っ込み思案で言いたいこともろくに言えませんでした。明久くんたちにはお姫さまみたいに大切に扱ってもらいましたけれど一線を画されちゃったみたいで寂しかったんです」

 そういえば以前、姫路さん本人から似た話を聞いた覚えがある。大切に扱われること自体が距離を置かれているみたいで悲しいって。

「だから、私は生まれ変わらなきゃって思ったんです。お姫様じゃなくて明久くんと同等の位置に立てる普通の女の子にならなきゃって!」

「姫路さん……っ」

 姫路さんの語りは熱かった。

これも1年生の時には考えられなかったこと。Fクラスは姫路さんも大きく変えたのだ。

 本人の望む積極的な女の子になれたのだから良かったと思う。

「だから私は今度の文化祭で明久くんの女装姿を写真に撮ってインターネット上で全世界に向かって10ヶの言語で発信したいんですっ! アキちゃんフィーバーを全世界に巻き起こしたいんですっ!」

 ……訂正。Fクラスの毒素は確実に姫路さんの脳を蝕んでいたようだ。

 以前のまともな姫路さんならそんな血迷った発想はしないし、ましてや実行に移そうとしたりしない。

 畜生、Fクラスめ。姫路さんをこんな危ない子に変えやがってぇっ!

 

「それじゃあアキも納得したみたいだから、そろそろ多数決に移るわよ」

 最初からFクラスに溶け込んでいたとしか思えない美波が非情な宣告を下す。

こうなったら僕とムッツリーニの撮影会が選ばれる結果だけは何としてでも阻止しないといけない。

 でもまさか、女装撮影会が一番人気なんてことはないよね?

「じゃあ一番人気がありそうなのから聞いていくわよ。3番のアキちゃん香美ちゃん撮影会が良いと思う人?」

 クラスの至る所から一斉に手が上がっていく。

「46人が挙手っと」

 美波が3番の下に46票と大きく文字を書いた。

 ……F組で挙手していないのは僕とムッツリーニ、そして実行委員の雄二と美波だけだった。

 

「秀吉まで賛成するなんて酷いよぉっ!」

 秀吉の方を振り返って抗議する。

 大切な人に裏切られた思いだった。秀吉なら僕たちの辛さと悲しみをわかってくれると思ったのに。

「すまぬ。じゃが、たまにもワシも撮られる側ではなく撮る側に回ってみたかったのじゃ」

 秀吉は頭を掻きながら弁明した。

「じゃあ、圧倒的多数を得たということで、今年のF組の出し物はアキと土屋の女装半脱ぎ撮影大会で決まりね」

「ちょっと待ったぁああああああああぁっ!」

 できる限り大きな声を出して美波の進行を止める。

「何よ、アキ? アンタと土屋が他に投票した所で結果は変わらないわよ」

「ああ、そんなことはわかってる」

 確かに美波の言う通りだ。僕とムッツリーニが他の選択肢を選んだ所で46対2。

 結果は変わらない。

「じゃあ、何を待てって言うのよ?」

「それはね……」

 けれど、これは単純な多数決じゃない。

 出し物の最終決定権は美波が握っているからだ。

 美波さえ説き伏せてしまえばこの圧倒的不利な状況だって覆すことは可能。

 そして僕の逆転勝ちを呼び込む一言、それはこれだっ!

 

「僕は学園祭で美波のウエディングドレス姿がどうしても見たいんだぁ~っ!」

 

 美波は僕によく男扱いされていることを気にしている。

 だから女の子として扱っている所を示せばきっと心が動くはず。

 

「……そう、なんだ」

 

 美波はフラフラとおぼつかない足取りで黒板を振り返る。

 そして──

 

 1、ウェディング喫茶 人生の墓場  1おく万票

 

 この瞬間、今年の僕らの出し物が決まった。

 

 

 

「俺としてはなかなか笑えて良かったんだが、お前はあんなことを言ってしまって大丈夫なのか?」

 ようやく縄から解放された僕に雄二が近付いて来て話し掛ける。

「大丈夫って何が?」

 雄二が顔を教室後方へと向ける。

「…………私もう笑えません。生きていく気力がどこにも湧き出ません。…………ナイスボート」

 そこには凄く落ち込んだ表情で体育座りをして何かをブツブツと呟き続ける姫路さんの姿があった。

「えぇえええぇっ!? 姫路さん、僕の撮影会がなくなったことがそんなにショックだったの?」

 姫路さんはそんなに僕の女装写真を全世界にウェブ発信したかったのだろうか?

「原因はそこじゃねえよ。その分だとお前、自分の言葉の意味に全く気付いてないだろ」

「言葉の意味って?」

 雄二は口では返答せず姫路さんとは反対側、扉の付近へと首を向けてみせた。

「もぉ~アキったら♪ 大勢の前であんなにも大胆なこと言うんだから~♪ ほんと、デリカシーの欠片もないのよね~♪」

「島田よ、嬉しいのはわかるがそんなに強く首元を引っ張られると死ぬ。死んでしまうのじゃあ」

 そこには秀吉の首根っこを掴んでブンブン振り回し、イヤンイヤンと首を横に振る美波の姿があった。

「美波に一体何が起きたんだっ!?」

「あの変貌は明らかにお前のせいだろうがっ!」

 雄二は僕のせいだと指摘する。

 けれど、美波をちょっと女の子扱いしてあげただけでそんな大したことは言ってないと思うのだけど?

「あっ、アキ~~♪」

 美波が嬉しそうに僕に手を振ってくる。

 今の美波は普段と違いすぎて何か怖い。

「あ、ああ」

 けれど、怒らせては厄介なのでここは美波に合わせて手を振り返す。

 すると今度は左手の薬指を強調するように突き出してきた。

 ニコニコしながら左手の薬指の根本を右手の親指と人差し指で摘んでいる。

 一体、何の合図だろう?

 

「フッ。めでたいな、明久」

「何がめでたいんだよ?」

「これでお前も俺と同じ穴のムジナって訳だ。高校生にして妻帯者という不幸は俺だけじゃなくなった」

「どういうこと?」

 雄二の言っていることがまるで理解できない。

「ウェディング喫茶の店名が何となっているのかその目でよく確かめてみろ」

 雄二の言葉に従って黒板をよく見直してみる。

「店名って……確か、人生の墓場。えっ? まさかっ!?」

 確かに今、僕の背中をすごい寒気が走り抜けた。

 その悪寒の正体に気付きたくはない。

 気付きたくはないんだけど──

「あっ、アキ~っ♪ 婚約指輪は安物でも構わないからね~。アキの経済事情はよく知っているし。それと、今日の帰りはウチの家に寄っていってね。両親に挨拶して欲しいの♪」

「いや、ほら、僕たちまだ高校生だし。そんな慌てなくても良いんじゃないかなって……」

「ウチの両親に2人の婚約を認めてもらいましょう♪ 正式な結婚式は高校を出てからで良いけれど、今回の清涼祭はその予行演習ってことで♪ きゃっ、恥ずかしい~♪」

「あの、美波さん……?」

 美波の言動の一つ一つが僕を墓場へと追いやろうとしている。雄二と同じ地位に僕を追い込もうとしている。

 即ち、結婚という名の人生の墓場に。

僕は知らない内に墓地に送られそうになっていた。生き埋めだよ、これじゃあ。

「何で? 僕は雄二と違ってプロポーズなんかしてないのにっ!?」

 僕は美波にプロポーズしていない。

 それに仮に何かの言葉の綾で美波が僕にプロポーズされたのだと勘違いしてもだ。それで美波がプロポーズを受けるとは到底思えない。

 僕と美波はそんな関係じゃないはず。

 何で、こうなったんだ?

 誰か教えてよ、ねえ!

 

「お~い、島田。今年の出し物はもう決まったか?」

 鉄人が教室に入ってきた。

 鉄人ならこの浮かれた美波の雰囲気を引き締めて正気に返らせてくれるかも。

「はい、ついさっき多数決の末に民主的に決まりました。それから西村先生、ウチのことはこれから島田じゃなくて吉井って呼んでもらえますか? 近い将来にそう苗字が変わるので」

「ああ、わかった。これからは吉井夫、吉井妻と呼ぶことにしよう」

「ありがとうございます♪」

 絶対、何もかもがおかしいよ!

 何で鉄人までそんなに物分りが良いんだっ!?

 いや、前から女の子には意外と甘い先生だけど。

 

「ねえ、何がどうしてこうなったの? 僕には全然わけがわからないよ! 雄二は知ってるんでしょ? 教えてよ! ねえ、教えてよっ!」

 雄二のネクタイを引っ張りながら詰め寄る。

 雄二はこの事態を招いた原因を知っているに違いない。

「実はな、明久」

「うん」

 雄二が真剣な表情を僕に向ける。

 これはこの結婚騒動には重大な秘密が隠されているのかもしれない。

 ネクタイを引っ張る手を止めて真剣に話に聞き入る。

「島田家にはファーストキスを捧げた男の元に嫁がなくてはいけないという厳格な家訓があってだな。美波はそのしきたりを守るべくお前と結婚する道を選んだんだ」

 雄二の言葉に美波とキスした時のことを思い出す。

 あの時美波はファーストキスだって言っていた。

 じゃあ、まさか!?

「でも、美波は今日の今日までそんなことを全然言っていなかったのに……」

 キスをしてからこの1年間、美波がそんな家訓を臭わせたことはなかった。

「大方昨日にでもなって両親にキスの件がばれたのだろう。だから今日、島田は明久と結婚することを決意したと」

「そ、そうだったのか……」

 世の中にはほのぼのした家庭も多い一方、厳格な家庭も多い。

 僕の家みたいに父さんの人権が一切認められていない家もある。

 美波も家のことで苦労しているんだなあ。

 それはわかる。でも、でもだ。

「だけど1度キスをしたから結婚なんておかしいよ。そんなの時代錯誤な考えだよ!」

「確かに21世紀の社会にはそぐわない考え方だ。だが、お前らが結婚しなければ島田はこの学校を辞めることに、いや、日本にすらいられなくなる」

「何だってぇ~~っ!?」

 驚いた。

 いや、本当に驚いた。

 1年前の学園祭の時、姫路さんが転校させられるかもって話が出て僕たちは慌てた。けど、今度は美波がそんな大変な状況に陥っていたなんて。

「嫁がずに済ませる方法はただ一つ。誰も知り合いのいない土地で別人として暮らすしかないっ! あいつは島田美波という人間を捨て去るしかないんだ!」

「そ、そんなあ……」

 ガックリと膝をついてうな垂れる。

 

「友を捨て、家族を捨て、名を捨て、住み慣れた環境を捨てる。島田にそんな辛い生活をさせるつもりなのか、明久?」

「そんなわけがないじゃないか! 美波は僕にとって大切な人なんだからっ!」

 美波は雄二や秀吉、ムッツリーニや姫路さんと同等に大切な友達なんだ。

「もぉ~♪ アキったら~、そんなに大声でウチのことが大切な人だなんて言っちゃってぇ~♪ ほんと、正直者で恥ずかしいんだから~♪」

 美波がやったらニコニコしながら近付いて僕の手を握った。

 今はこんなにも楽しいそうにしているけれど、外国に飛ばされそうな現状は不安で仕方ないに違いない。

 ここは、僕が力になってあげなくっちゃ。

「大丈夫だから。美波にはずっと僕がついているから」

 美波の手を強く握り返す。

「もぉ~♪ 今日のアキは積極的すぎ~♪ FFF団のみんなに狙われちゃうわよ~♪ 邪魔されないように先手を打って全滅させたけど~♪」

 気味が悪いほどデレデレ状態の美波。

 その後ろには屍が累々。

 でも、これは押し寄せる不安の裏返しに違いない。

「美波に辛い思いはさせない。僕がずっと守るから」

「うん。ウチのことを一生大事にしてね、アキ♪」

 美波の生活と幸せは僕が守らなきゃ。

 

「…………早く家に帰って包丁をよく研いでおかないといけませんよね。じゃないと、明久くんが苦しい思いをしちゃいますから」

 フラフラとした足取りで姫路さんが教室を出て行く。

「あっ、姫路さん。ちょっと待って」

「か~な~し~みの~向こう~へと~辿り~つけ~る~なら~ 僕~は~もう~要ら~ないよ~ぬくもりも~明日~も~」

 姫路さんは僕の呼びかけに答えることなく沈んだ声で歌いながら行ってしまった。

 ウェディング喫茶に決まってから姫路さんの様子が本当におかしい。

 姫路さんも後で元気付けてあげないといけないよね。

 

 こうして僕は美波の幸せを守る為に彼女の婚約者として振舞うことを決意した。

 そして、落ち込んでしまっている姫路さんを元気付けることも同時に心に誓った。

 やっぱり女の子にはいつも笑顔でいて欲しいからね。

 

「よし、今日は美波の家に寄って美波とご両親を安心させ、それから美波と2人で姫路さんを学校の屋上に呼び出して元気付けることにしよう」

 

 美波と姫路さんの心からの笑顔が見たい。

 僕は心の底からそう強く願った。

「うん。2人で幸せになろうね、アキ♪」

 美波の満面の笑みを見て、僕は自分の考えが間違っていないことを確信したのだった。

 

 

 バカとテストと召喚獣 HAPPY END

 

 

 

 


 
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