午前11時を少し回った頃、篠塚裕子は保健室のデスクでノックの音を聞いた。「どうぞー」振り返りもせず返事をしたものの、それっきり反応が返ってこない。いぶかしんで後ろを向くと、血の気の引いた顔の女子生徒が戸口の柱にもたれかかっているのが見えた。
声が届かなかったのか、入ってくる様子がないのでもう一度「どうぞ」と声をかけつつ女子生徒の方へと歩み寄ると、ようやく彼女が「失礼します」と顔を上げる。ぎりぎり聞き取れるくらいの小さな声だった。
3年生の、名前はなんと言ったか。眼鏡をかけた小柄な体躯。生徒数の少ない田舎の中学校とはいえ、縁の薄い生徒では名前を失念することもある。保健室の常連になるなど本来あまり好ましい状態でもないから、それはそれで悪いことではないけれど――そんなことを考えながら中へと促す。
「顔色悪いね。どした?」
「はい、あの、ちょっと気分が悪くて……少し休ませてもらっていいですか」
声と手が震えている。掴んでみると、冷たかった。
「うん。空いてるベッド使いなさい」頷く。ちょっとという感じではないが、それは口にしないでおく。「クラスと名前は?」
「3年1組の、日野沙織です」
「3の1、ひのさおり、ね……」メモ紙に書き付け、手近なベッドに座らせる。「先生はしばらくここにいるから、落ち着いたら呼んで。それまで横になってなさい」
「はい……」消え入るような声でそう言うと、日野はのろのろと制服に手をかけた。
篠塚はベッドの周りにカーテンを引いてからデスクに戻る。衣擦れの音がしばらく続き、やがて止む。
急な貧血か何かだろうか。この年頃の女子ともなれば無理なダイエットなどで体を壊す子も珍しくない。3年1組の担任への連絡先を探しながら、篠塚は体調不良の原因に考えを巡らせる。もしくは3年生だから受験勉強に根を詰めすぎて睡眠時間を削っていたか。
と、なにか刺激のある臭いが鼻先をかすめ、篠塚は顔を上げた。思わず眉間にしわが寄る。酸っぱいような粘つくような埃っぽいような、吐き気を催す類の――腐敗臭。
席を立ち、廊下に出てみる。臭いはしない。外に出てみても同様だった。辺りに充満しているのではないらしい。どこからか流れてきたということだ。
調理実習なんてあっただろうか? 給食は調理センターから運んでもらっているし、校内で動物を飼っているわけでもないから、何かが腐る臭いがするとしたら調理実習で出た生ゴミくらいしか思いつかなかった。
保険室内へと戻る。
臭いは消えていた。
篠塚はしばらく顔をしかめてその場を睨んでいたが、嘆息して席へと戻った。3年1組の担任に連絡を取るべく内線電話に手をかける。今は日野のことを伝えておくのが先だろう。不審な臭いはその後でいい。
呼び出し音が鳴る。窓の外へ目をやると、鉛色に澱んだ空の下で校庭のポプラが風で煽られているのが見えた。
午後の授業もそろそろ終わろうかという頃になって、ようやく日野が起きる気配がした。
「昼休みにクラスの子が様子見に来てたけど、まだ具合悪そうだからって戻ってもらったよ」ベッドの隣に椅子を運んで腰掛ける篠塚。「授業中に居眠りしてて、うなされてるもんだから起こしてみたら顔真っ青だってんでここ来るよう言われたんだってね。寝不足?」
「はい、その……すいません」日野は眼鏡を手に俯いている。顔色は幾分良くなってはいるが、目の下には隈が浮かんでいた。疲弊している。
「いやいや、責めてるんじゃないよ」安心させるように表情を緩める。「普段あまり眠れてないんなら、それを何とかした方がいいと思うからね。話、聞いてもいい?」
日野はしばらくの間、俯いたまま眼鏡をもてあそんでいた。篠塚は反応を待つ。話したがらないのであれば、無理に聞き出すようなことはできない。
外で風が甲高く鳴いた。
ポプラが枝をざわつかせる。
日野が身じろぎし、ベッドがきしむ音。
「……あの」口を開いた。「変な話になっちゃうんですけど、笑わないで聞いてもらえますか」
「いいよ。話してみて」ゆっくりと頷いて見せる。
幾ばくかの逡巡。
「夢……見るんです、最近、毎晩」
「夢? どんな?」促す。
「溺れる夢、です」目を伏せる。「最初、真っ暗な水辺に立っていて。足首辺りまで水に浸かっているんですけど、急にその足、両足を何かにガッて強く掴まれて、深い方にどんどん引きずられていって……そのうち頭も水に入っちゃって、息できない、苦しい、誰か助けて、もう駄目……ってところで、いつも目が覚めるんです」
「それが、毎晩?」
「はい」声は暗い。「一晩に何回も見ることもあって……だからもう、全然眠れてなくて」
「ってことは、ここに来る前に教室でうなされてたっていうのも?」
「……だと思います。よく覚えてないんですけど」
「そう」気の毒な話だ。「それじゃ、気も休まらないね」
篠塚の言葉に、日野は頷いた。
普通、夢の内容は現実の出来事に起因する。何か不安や気がかりなことでもあるのだろうか――。
少しの間をおいて、尋ねてみる。
「その夢、いつ頃から見るようになったか覚えてる?」
日野は横に視線をずらし、
「だいたい……一週間くらい前から」
「わりと最近なんだね」
「はい」頷く。
「んー……」ということは、原因も最近の出来事なのだろうか。「じゃあ、最近何か気になることってあった?」
「分かりません……」また俯いてしまう。「この一週間くらいの間、変なことばっかりで」
篠塚は眉根を寄せた。「沢山あったの?」
頷く日野。
「そう……」どうしたものだろうか。「聞いても大丈夫かな。話せることだけでいいから」
反応は、すぐには返ってこなかった。誰だって不快な体験をわざわざ反芻したくはないだろう。
日野の様子を窺う。
体調が良くない分を差し引いても、ちょっと健康的とは言い難い体つきだ――体操着から伸びた腕や首を見て篠塚は思う。栄養が足りている感じではない。普段からあまり食べていないのかもしれない。
その細い腕に、わずかな力がこもる。
「ゴロウが――」言いかけて、顔を上げた。「あ、うち、犬を飼ってて、名前がゴロウって言うんですけど。ゴロウの様子もここしばらく変で……散歩に行くのを嫌がったり、小屋の奥にうずくまってずっと唸ったりしてて」
唐突な話に一瞬戸惑ってから、飼い犬のことが気がかりらしいと納得する。
「今もそんな感じなの?」話を促す。
「……死んだんです。昨日」
「死んだ?」思わず聞き返してしまう。
「はい……」抑揚のない声で続ける。「その、どうして急に、とか、死んだゴロウの様子も酷くて……泡吹いて、暴れた跡もあって、すごく苦しかったみたいで……」徐々に声が湿っていく。「なんでこんな、って、わけわかんなくて……うっ」
「ああ、ごめん! もういいよ、もういい」
肩を震わせる日野を制止して、篠塚はその背中に手を回した。体重を預けてくる日野の背中をさすってやる。背骨の感触が、嫌にはっきりと指に残る。
この子の心を無用にかき乱すようなことは避けなければいけない。落ち着いた頃合いを見計らって、篠塚は話を再開する。
「何か変なものでも口にしたとかかな」日野の語った犬の様子を想像してみる。食べてしまったのか、あるいは食べさせられたのか。
「……ゴロウのご飯にも、一回、変なことがあって」胸元から、くぐもった声。
「どんなこと?」
日野が顔を上げる。
「あの、私、料理を考えるの好きで。その料理で使った野菜の余った切れ端なんかをゴロウに食べてもらうことがあるんですけど」目元をごしごしと拭い、眼鏡をかける。「この間――えっと、一昨日の前だから……三日前の夜、そうやって出た野菜の残りをゴロウのご飯皿に入れておいたんです。それが、次の朝になるとどろどろに腐ってて」
「それは、元から腐りかけてたってわけではないんだよね?」
「はい。もちろん」
誰かが薬品か何かを混ぜたのだろうか。
「そのときにはもうゴロウの様子はおかしかった?」尋ねる。
日野は頷いて答えた。「そのご飯皿を置いたときに呼びかけたんですけど、出てきませんでしたから」
もっと前からゴロウは何かに脅かされていたということだ。
「うーん」唸る篠塚。「ゴロウの様子がそんな風になったのがいつからかは分かる?」
「えっと……」口元に手をやって考え込む。「一昨日、3日前、その前、その前……その前、は散歩に行ったから……あ」
「ん?」何か思い出したようだ。
「最後にゴロウと散歩に出たのが6日前で」日野の目が篠塚の方を向く。「いつも夕方、海岸の道を通ってるんですけど。その時に浜で変なものを見て……それからかも」
「変なもの」
「はい」頷く。「暗くてよく判らなかったんですけど……浜辺に何か、大きなものが打ち上げられてて。人より少し大きいくらいの、たぶん何かの死体だったんだと思います。動かなかったし、魚が腐ったみたいな臭いがしてて。ゴロウは怯えて近付くのを嫌がったから、私一人で近くまで見に行ったんですけど、途中で気持ち悪くなってすぐ戻りました。様子がおかしくなったのはその後からだと思います」
「そう、か……」篠塚は視線を宙へと投げる。
想像よりもずっと最近の話だ。得体の知れない悪意にさらされ続けたことが心労になって悪夢として表れているのではないか、という見立てで話を聞いていたが、どうやら違うらしい。
「夢を見るようになったのも、ちょうどその辺りだったよね」あまり意味のない、場つなぎのような言葉を投げる。
「……その日の夜からです」
「それより前には、特に気になる出来事とかはなかった?」
「はい」
はっきりとした声だった。
視線の先で蛍光灯がかすかに明滅し、じりじり音を立てている。
「うーん。私が思うに」視線を日野へと戻す。「その何かよく判らないものを見たっていうことが、思ったよりも日野さんの中でショッキングな出来事だったのかもしれないな。嫌な印象だけが心のどこかに残ってて、それが夢になって出てくるのを何度か見るうちに、よけいに嫌な気持ちが強められて頻繁に見るようになってるのかもしれない」
「じゃあゴロウはどうして死ななきゃいけなかったんですか」日野が不満げな声を上げる。
「多分、浜での出来事とゴロウのことは直接関係ない。間の悪い偶然と思うしかないかな」答える。「悪意のある誰かがゴロウのエサに毒物を混ぜて死なせた、それが偶然浜での出来事のタイミングに重なった。って考えるのが現実的だと思う」
「誰がそんなこと……」
「それは分からない。心当たりはない?」
聞き返すと、日野は「分かりません」とだけ小さく呟いた。
沈黙が降りる。
浜で何かを見たことがその後のゴロウの死の原因であると思いこんでいるのだろう――篠塚は思う。夢で繰り返しその光景を思い出すことで悪い印象が強化されて、全く別の問題なのにタイミングが重なったゴロウの死をも浜での出来事に起因するように錯覚しているのかもしれない。
混乱している状態では仕方ないだろうが、落ち着いた頃に改めて事実の見直しをさせた方がいいだろう。
そのために今すべきことは――。
ふと喉の渇きを感じ、篠塚は立ち上がった。「お茶飲む? 喉乾いたでしょう」声をかけてみるが、日野は首を横に振った。
結構喋っていると思うのだけど――デスク脇のポットから急須に湯を注ぐ。
空は相変わらず重そうな雲で覆われている。降ってくるような気配はないものの、空気が湿り澱んでくるような錯覚にとらわれる。風に煽られて揺れるポプラの枝も、なにかぬるぬると緩慢に見えた。
湯呑みに茶を淹れ、日野の元へ戻る。
「さし当たり、今は」椅子に腰を下ろし、「しっかり休んで、しっかり栄養とりなさい。まずは体調を整えること。それ以外のことは後からでも遅くないから」
日野の表情は晴れない。
「眠るのとか……怖いです。またあの夢を見るんじゃないかって」
「あまり続くようなら、それはもう、お医者さんに相談した方がいいかもしれないね」湯呑みに口を付ける。「心療内科。ゆっくり眠れるようになる薬くらいは出してくれると思うよ」
「ゴロウのことは……」
「警察かな。普通の死に方じゃないのは確かだから」
「警察……」
「うん」頷く。「被害届出して。あと、頼めば近所のパトロールを強化するくらいはしてくれるはず」
「…………」
黙り込んでしまった。医者だの警察だのと聞いて、ことが大きくなっているように感じられているのかもしれない。
「気になること、沢山あると思うけどね」諭すように。「日野さんが全部、一人でそれらを引き受けることはないんだよ。こういうときのための医者や警察なんだから、遠慮しないでどんどん頼っていいの」
返事はない。
「……気、進まない?」
小さく頷く日野。
「うち、あんまりそういう余裕ないですから」
「うーん……そう」多分そんなことはないしそういう問題でもないのだが、本人が望まないのでは仕方がない。
何かこの子の不安を軽減させる方法は――篠塚は考える。結局のところ夢の件も飼い犬の件も、不安になるのはその原因や正体がはっきりしないからだ。なら、それらを突き止めるのに繋がることをすればいい。浜辺に行って打ち上げられていたものを確認するとか、家の周りを不審者がうろついていないか監視するとか。
それで原因がはっきりすれば儲けものだし、そうでなくても事態と向き合ううちに不安感が薄らいでくることもあるだろう。
「ビデオカメラ、ってお家にある?」篠塚は尋ねた。
「ありません」首を振る日野。
「そう。日野さんのお家の前を一晩だけ撮影して、怪しい人が映ってないか確かめてみるのはどうかって思ったんだけど。そういうの持ってる友達とかは?」
「あ……、はい、何人かいます」
日野の目に少し力が戻った。脈ありだ。
「借りて撮影させてもらえるよう、頼める?」
「……はい」
頷いた。
「よし」立ち上がる。「じゃあ先生の方からもお願いしたいから、後で――」時計を見る。あと数分で6時間目が終わるところだった。「放課後だね。頼めそうな友達を連れて来て」
「分かりました」
ぐいっと一息に湯呑みをあおる。
「それじゃ、着替えて教室に戻りなさい。もう立てるよね?」
日野が頷くのを見て、篠塚はベッドのカーテンを閉めた。
そうして放課後。
日野が連れて来た友人に事のあらましを説明し、二人を送り出した後の保健室で、篠塚は異変があることに気付いた。
いつの間にかまた腐敗臭が漂っている。昼前に嗅いだときよりも濃い。どうも臭いの元はそれほど遠くないところにあるらしい。
臭気に耐えながら辺りを探ると、程なくそれが見つかった。先ほどまで日野が使っていたベッド、そのちょうど脚があった辺りの毛布がじっとりと濡れている。臭いはそこから立ち上っていた。
さっきまでこんなものあっただろうか――篠塚は昼から今までを思い返してみたが、それらしい出来事には思い当たらなかった。ここを使っていた日野にしても、こんなものがあったら何か言ってくるはずだ。
とにかく確認をしなくてはならない。
意を決し、毛布を剥ぐ。
黄色みがかったゲル状の何かが現れ、ぐぢゃりと音を立てて震えた。てらてらと光るのを捉えると同時に目に痛みが走り――遅れて、鼻と喉が膨大な量の刺激を受け取る。臭いは感じず、ただひりひりとした感触だけがあった。
思わず顔を背け、鼻と口を覆って後ずさる篠塚。激烈な刺激の奔流に飲まれ、思考が止まる。
なんだこれは。
なんだこれは。
なんだこれは――
頭の中で誰かががなり立ててくる。篠塚はただ意味も分からず、それを聞いていることしかできなかった。
数日後、日野にビデオカメラを貸した友人が保健室を訪れた。
撮影したテープを篠塚に渡し、さしたる言葉を交わすこともなく部屋を後にする。
日野が失踪したことは篠塚もすでに聞いていた。
保健室を訪れた翌日の朝にはもう自宅からいなくなっていたという。彼女の部屋には、あの腐敗臭を放つ液体が散乱していたそうだ。
液体は廊下から玄関へ、そして外へと点々と続いていて、捜索は容易なように思われた。が――
それは海岸の方へと向かい、浜辺で途切れていた、と聞いた。
視聴覚室のビデオデッキでテープを再生すると、画面には暗がりに門と犬小屋らしきものを捉えた映像が現れた。アングルとズームの調節の後、日野の声が入る。
「えー……今、10月13日、午後10時過ぎです」保健室に訪れた日付だ。「これより家の周りに不審者が現れないかどうか監視する撮影を始めたいと思います。……できればなにも起こりませんように」足音が遠ざかり、以降は沈黙が訪れる。
篠塚は早送りを押した。
門の向こうを時折人影や車が通り過ぎるが、不審なものは映っていない。一時間ほど進んだところで人通りも途絶え、向かいの家の明かりも消えて街灯が道を照らすだけの映像になった。
早送りを続ける。特に変わったものは映り込んでこないまま、二時間、三時間と過ぎていく。
そうして映像が終わった。
「…………?」
このテープの間にはなにも起こらなかったという事だろうか……そう考えてから、篠塚はすぐにそれが誤りだと気付いた。早送りの間に見落としたに違いないとテープを巻き戻しにかかる。
録画されたテープは一本しかなかった。
ビデオカメラを操作していたのは日野だ。
撮影の途中でテープが切れ、交換しなければならなくなるのを知らないはずがない。
テープが一本しかないのは、このテープが使われている間に日野の身に何か起こったからではないのか?
最初まで巻き戻されたテープが再び再生される。日野の声がだだっ広い視聴覚室に響く。篠塚は、今度は早送りすることなく画面を凝視し続けた。
最初はその音をノイズか何かだと思った。
あるいはどこか外から聞こえてきたのか、とも。
目の焦点が画面に合う。疲労で意識が散漫になっていたらしい。深呼吸をして、画面に集中する。
映像に変化はない――と言うより、暗がりが多くて変化を捉えられる部分が少ない。早送りで気付けないのも無理はなかった。
何かが地面をこする音がしている。不規則に。ずるっ、ずるうっ――と、徐々に大きくなっていく。カメラの方に近付いてきているようだ。
どっ――と、中身の詰まった重いものが落ちる音。直後、小さな叫び声があがる。
日野の声だ。
篠塚は耳をテレビのスピーカーに押し当てた。
「痛っ……ひっ」ひきつった叫び。「なに、何これ……夢? また――」声が少しずつ遠ざかる。「痛い……違、これ夢じゃ……だ、誰かっ」震えて叫びにならない声。「助けて、誰かあ……嫌、誰か、誰かたす――ぇぐぶっ」
くぐもったうめきを最後に日野の声がしなくなり、地面を不規則にこする音も遠ざかっていく。
やがて静寂が戻り、しばらくしてビデオデッキが再生を止めた。
篠塚の頭には数日前の日野の話が浮かんでいる。
どろどろに腐った犬の餌、悶え苦しんで死んだ犬。
悪夢。
浜辺で見た何かの死体。
死体。
「そうだ。死体……確認しないと」
篠塚はふらりと立ち上がり、そのまま視聴覚室を後にした。
窓の外は闇。
人の絶えた視聴覚室で、サンドノイズがいつまでも鳴り続けている。
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ザ・インタビューズにて頂いたお題に基づいて書いた小説です。
『とりあえず、お題。 「人」 眼鏡をかけた女子。黒髪。受験生。ちいさい。家は貧しい(心は錦的なアレ) 得意技は創作料理(上手い下手は問わず) 「場所」 地方の学校。 「もの」 何らかの電子機器。ガジェット。 「その他」 伝奇もの。でなくても陰鬱な。名状しがたい感じで。 さあ!』
とのこと。