この作品は恋姫無双の二次小説で袁術ルートです。オリ主やオリキャラ、原作キャラの性格改変やオリジナルの展開などもあります。
そういうのが許せない、特定のキャラが好きな方はスルーしてください。
第2話『天の御使いと家族』
「知らない天井だ」
お決まりの一言。やはり言っておいて損はないと思う。
「夢じゃないんだよな」
俺は自分がいる部屋を見回して現実を再認識させられた。中国風の内装にシンプルな調度品、見れば見るほどここが現代とは違うことを思い知らされた。ふと扉の向こうに人の気配を感じる。
「霧里殿、失礼します」
紀霊が入ってきた。どうやら謁見の準備ができたらしい。
「これから、袁術殿に会うのかな?」
「はい。袁術様は玉座で待っております」
紀霊について廊下を歩く。さすがに城というだけあって、規模がでかいな。
「なぁ、袁術殿というのはどんな人物なんだ?」
「袁術様は幼くして袁家をお継ぎになった人で、まだ政や軍事を動かせるほどの力はありません。私ともう一人の側近の張勲が支えているのが現状です」
紀霊の「二人で支えている」という言い方に少し違和感を覚えた大地だったが、会ってみれば分かるとその考えを頭の隅に置いておくことにした。
後から考えてみればこの言葉は「汝南袁家には信用できる人間が少ない」ということを言外に教えてくれていたのかも知れない。
紀霊に案内された玉間には、主な文官・武官が集まっていた。大地は玉間の中央で袁術が現れるのを待っていたが、集まった文官や武官は大地を怪しむような眼で見ていた。
(まぁ、急に現れた男が“天の御使いです”なんて、信じられる方がどうかしてるよな)
そんなことを考えていると、袁術が来たことを門の前に立つ兵士が告げる。
入ってきたのは、まだ幼さが残る美しい金髪の少女と紀霊と色違いのバスガイド風の服を着た女性。
「顔を上げるのじゃ」
少女の幼いながらもよく通る声が、玉間に静かに響く。大地は顔を上げ、袁術を見る。
「妾は袁術、字を公路。ここ荊州の太守じゃ」
基礎は身についているように見えるが、少しおぼつかない気もする。多分、隣に立つ張勲とここに来る前に練習したんだろう。
「私はお嬢様の側近で張勲、字を守公といいます」
その張勲はと言うと、先ほどから油断なくこちらを観察している。ああいう視線を受けるのは不快極まりないが、仕方のないことだろう。
「して、お主が“天の御使い”なのかや?」
袁術が素直に疑問をぶつける。この場で、曖昧な返答をすればまず俺の首が飛ぶだろう。現に武官連中は自らの得物に手をかけている。
「はい。俺は姓が霧里、名が大地。字と真名は持っていません。さらに、自分はこの時代の者ではありません」
この一言で玉間にざわめきが起きる。文官連中が口々に、奴は妖術師ではないのか、いや人の皮を被った化け物かも知れんぞ、などとこちらにわざと聞こえるように喋りだした。
「静かにしてくださいね、まだお嬢様のお話は続いてるんですよぉ~」
張勲が静かに睨みをきかすと、玉間を静寂が包んだ。張勲って意外と有能なのかも、と大地は評価をプラスへと傾ける。
「七乃~、もうよいじゃろ~?後は任せるのじゃ」
「もう、お嬢様ったら大事なお仕事を丸投げなんて流石です~。そんなことするのは、大陸広しといえどもお嬢様だけですよ。この、泣く子をほっとく無責任大王めぇ~♪」
プラスの評価がすぐにマイナスへと傾く。
「ということで、ここからは私の質問に答えてくださいね」
「分かりました、知っている事は答えましょう」
~ここからは真面目な話です~
「とりあえず、あなたは何故この大陸に来たんだと思いますか?」 「占いのとおりなら大陸を統一するためかと」
「では占い通りにはいかないと?」 「全てが決められた道ではないと考えます」
「では道を外れることも?」 「無いとは言い切れません」
「もう一人の御使いについて知っている事は?」 「残念ながら何も」
「もう一人の御使いと手を結ぶことは?」 「相手と状況次第ですね」
「最後に、お嬢様についてもらえますか?」 「一つお聞きしても?」
「なんでしょう?」 「狐の仮面と猫の皮は友好を結べるか否か」
そこで張勲は気づかされた。この男は私と似ていると。
「猫さん次第です♪」 「では、猫と狐の共演といったところでしょうか」
「それじゃあ、あとはよろしくお願いしますね。猫さん♪」
そういって呆気にとられている臣下を残し、ご機嫌な張勲は袁術と共に玉間から出て行った。
「本日の朝議はこれまで!各自仕事に戻られよ」
袁術たちが出て行ってからすぐに紀霊の解散の合図で、呆けていた臣下たちも次々と玉間を後にし、残ったのは紀霊と大地。
「大地殿、張勲が部屋で待っているので一緒に来てもらえますか?」
多分、事前に張勲と打ち合わせしていたのだろう。
話はまだ終わっていなかったようだ。さっきの張勲との問答には一つのメッセージが隠されていた。
これから聞かされるのは裏の事情と考えて間違いない。何故張勲は袁家にではなくお嬢様につくかと聞いたのか、多分そのあたりのことだろう。
八恵がある部屋の前に立ち止まる。
「七乃連れてきましたよ」
「はいは~い。今着替え中なのでちょっと待っててもらえます?あっ、覗かないでくださいね♪」
「へぇ、ぜひ見てみたいですね」
「ちょっ、霧里殿!?」
「目、見えなくなっちゃいますよ~」
「七乃まで何をっ!?」
「着替え中の女性が俺の目を見えなくすることができるんですか?是非とも体験してみたいものです」
「私もやり方は知ってるんですけど、やったことが無いので実験してみていいですか?」
「なら物は試しと言いますし、3、2、1、ドーン」
大地が扉を開けると、そこには着替え中の七乃…………ではなく、椅子に座って微笑んでいる七乃がいた。大地は何事もなかったように七乃の正面へと座りいい笑顔を浮かべている。
「紀霊さん、どうしました?」
「八恵ちゃん何やってるんですか?」
八恵は吃驚していた。かつてこれほどまで七乃と完璧な掛け合いをできた者がいただろうか?……答えは否。
基本的に七乃の喋り方は、人を小馬鹿にしたように聞こえるため、普通の人は逆上するか、落ち込むかの二通りなのだ。それをここまで見事に会話として成立させ、尚且つ全てを冗談と理解している。まるで…
「“長年連れ添った夫婦のようです”か?」
「八恵ちゃん、顔に出てますよぉ~」
分かりました。私ではこの二人に勝てないんでしょうね。そんな諦めにも似た表情で七乃と大地の間にある椅子に座る八恵。
「それでは真面目な話でもしましょうか」
「その前にちょっといいかな張勲さん、紀霊さん。この世界には真名っていうものがあるんだよね?それについてなんだけど」
「霧里殿は真名がないのでは?」
「そうなんだ、俺には真名が無い。そこで俺は親からもらった大地という名前を真名として扱いたいと思う。そしてあなた達に真名を預けたいと考えているんだけど、どうかな?」
「分かりました、真名をお預かりいたします。」
「私も預からせてもらいますね」
「じゃあ改めて。姓は霧里、真名は大地だ。好きに呼んでくれて構わない」
「私は紀霊、字を翼安、真名は八恵と申します。八恵と呼んでください」
「私は張勲、字は守公、真名は七乃ですけど、まだ呼ばないでくださいね。預けるだけですから」
七乃が急に変なことを言い出した。真名は預けるがまだ呼ぶなという。こんな事は普通ありえないが、七乃のことだから何か理由があるのだろう。
「どういうことかな?」
「あなたの覚悟が見たいんです。今度、荊州の盗賊の一斉討伐を袁家と孫家でやる予定なので、その時に一緒に来てください。そこで見極めたいと思います」
「七乃、一斉討伐に大地殿を連れて行けば大地殿の存在が明るみに出てしまうではないですか!?」
七乃はやれやれといった様子で私を見るが、私は何もおかしいことは言っていない……はずだ。
「八恵ちゃん、私は何も霧里さんを将として連れていくとは言ってませんよぉ~。一兵士として戦場に立ってもらうつもりなんですから」
なんてことだ、仮にも天の御使いを一般兵扱いとは。これに口を出そうとしたのだが…
「あぁ、その方がいいと思うし俺もまだ表舞台に立つつもりはないから」
大地殿が了承したことで私の口は一言も発することができない。なんというか、さっきから私の扱いがハムと同等な気がする。(あれ?ハムとは一体?)
(大陸某所でくしゃみをした女性については、作者の都合によりスルーします)
「さて、八恵が落ち込んだとこでそっちの話について聞きたいんだけど?」
大地は容赦なく八恵に追い打ちを掛け、話を続ける。
「重要な話は終わりましたよ♪ここからは簡単な話で、今日一日お嬢様と遊んでほしいんですよ」
「…………なんで?」
大地は心底分からない、という表情で七乃を見つめるが答えは単純。
「私はまだやらなきゃいけないことがありますし、八恵ちゃんも軍のお仕事があってお嬢様と一緒に居られないんですよねぇ。なので、霧里さんにお嬢様のお世話をしてほしいんですよ。」
「まぁいいけど、子供は好きな方だし」
そういうことなら、と大地は引き受けた。
「お嬢様は中庭の方に居るので、場所はそこら辺に居る人に聞いてくださいね~。そうそう、お嬢様が可愛いからって襲っちゃだめですよ~」
「そんなことしないし、袁術はどっちかっていうと妹っぽい感じだと思うんだよね。こう、なんていうか庇護欲をかきたてられるタイプだろ」
「「たいぷ?」」
ここで改めて自分のいる世界が過去ということを再認識させられた大地。言葉が通じているので横文字も大丈夫かも、と考えていたのだ。
「そうだった、今は漢の時代だもんな。えっとタイプっていうのは型とか種類って意味だ」
「天の世界って言葉も違うんですか?」
「まぁ、いろんな言語が混ざってるからな。その話はまた今度でいいか?袁術の所に行かなきゃいけないんだろ、俺は」
「そうですね、今日のところはこのくらいにしておきましょうか。八恵ちゃんもそろそろ行った方がいいんじゃないですか?」
「ええ、私も兵の調練があるので失礼しますね」
大地と八恵は自分の仕事を片づけるため七乃の部屋を出て行った。
「猫は猫でも化け猫の類ですね、あれは。でも……フフフ」
大地は拍子抜けしていた。てっきり、玉間でのことについて言われると思っていたのにふたを開けてみたら袁術の世話係を頼まれたのだ。何か裏があるのか、それとも何もないのか?大地には分からなかった。
八恵がふと大地の変化について指摘した。真名を預けてから大地の口調が柔らかくなった気がしていたのだ。
「ところで、大地殿の口調が急に変わったのはどうしてなのですか?」
そういえば言ってなかったか、と大地は自分の変な習慣について説明し始めた。もともと霧里という家系は忍びの末裔で、代々要人警護や国家機密を任務としてきた。政府のお偉方などの護衛では、言葉づかいやマナーも厳しいものがあるらしく徹底的に扱かれたのだが家族には素で接していた。そんな特殊な環境で育ったため、いつの間にか他人には猫を被るのが癖になってしまい、素を出すのは家族・親戚・親友の前だけという面倒くさい習慣が身についてしまったのだ。
「てことで、俺は八恵と張勲、そして袁術をこの世界での家族として接すると決めたってことだ。」
ちょっとはにかんだような笑顔で恥ずかしそうに宣言する大地。知らない世界に放り出され過去の人物と遭遇したというのに、彼は順応しているように見せていた。その強がりともいえる仮面を外せる場所を得たのだ。張り詰めていた糸が緩んだ瞬間だった。
不覚にも八重は大地の笑顔に心奪われていた。外見は髪をオールバックにして強面を装ってはいるが、その実人の温かさを求める子供のように見えたのだ。
「……………」
「八恵?おーい、八恵」
返事が無い八重を心配したのか大地が八恵の顔を覗き込む。
「はっ、はいっ。ナンデスカ?」
何故カタコトなのか気になったが、“つっこむな”というアラームが頭に響く。
「えっと、もしかして迷惑だった?」
「いえっ!迷惑とかじゃなくて、なんていうか、あの、その……。そう、ちょっと吃驚したんですよ。私たちみたいなのが大地殿の家族だなんて、いいのかなって」
「いいに決まってるだろ。袁術とはこれから話すとして、実際いい家族ができると思うぞ」
大地はそう言うと、八恵に中庭の場所を聞いて去ってしまった。
「いい家族、か。楽しそうですね、うふふ」
ご機嫌な八恵の調練は、いつもよりハードなものだった。
「疲れたけど楽しかったな。」
俺にあてがわれた部屋の寝台に横になりながら今日の美羽との一日を振り返っていた。
あの後、俺は袁術のもとへ行き真名を託した。真名の話をすると袁術に、“美羽”と呼んでほしいと言われ、それからいろんな話をした。天の世界のお菓子や料理、生活習慣など美羽の疑問に俺は分かる範囲で答えた。美羽は好奇心旺盛で、いろんなことに疑問を持ち質問してくれたので俺としても結構楽しかったのだ。
多分美羽は世の中を知る機会を与えられなかったのだろう。これからは俺の勉強にでも付き合ってもらおうかな、なんて考えてみる。
黄巾の乱が来るまでのこの2年で、どれだけのことができるかは分からないが美羽たちのために出来る限りのことはしてみよう。
俺は美羽たちを守りぬく、と決意を新たに眠りにつくのだった。
あとがき
詰め込みすぎた、と反省してます。
もう少しすっきりとまとめたいです、ハイ。
誤字・脱字・アドバイスなどあれば誠心誠意対応します。
ということでアンケートに移ります。
一刀君をどこに落とすかなのですが、まだ迷っております。黄巾が活発化する半年ほど前に落ちることを予定しています。
1、魏
2、呉
3、蜀
4、その他(董卓、馬騰などの一勢力)
どこに落ちても大丈夫なようにはしておきたいと思います。ちなみに内政特化型で武力は蒲公英並です。
ご協力お待ちしています。
でわでわしつれいします。
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アンケートを取りたいと思い、用意しましたので答えていただければ幸いです
では稚拙な文章ですが、どうぞ