No.305812

異聞~真・恋姫†無双:二九

ですてにさん

前回のあらすじ:華琳と一刀が北郷家の話をしながら、いちゃらぶした。
ようやく出立したけど、ギョウで早速騒動に巻き込まれそう?

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237
(9/24 更新しました)

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2011-09-23 01:37:44 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8318   閲覧ユーザー数:5448

この作品はキャラ設定等が一刀くんを中心に、わりと崩壊しております。原作重視の方はご注意下さい。

時代背景等も大きな狂いがあったりしますので、『外史だから』で許容できない方は、鈴の音から逃走する感覚で全力で逃げて下さい。

 

オリキャラも出ますので、そういうのが苦手という方も、戦場で発情した自由人から逃げる感覚でまわれ右。

 

一刀君とその家系が(ある意味で)チートじみてます。

物語の展開が冗長になる傾向も強いです。(人、それをプロット崩壊という)

 

この外史では一刻=二時間、の設定を採用しています。

 

それでもよろしい方は楽しんで頂けると幸いです。

 

********

 

袁家の兵士から絶賛逃亡中の二人組を路地に押しこんだ俺は、事態が急を告げていることもあり、短く、要件と敵意が無いことだけを告げる。

 

「表で俺の仲間が時間を刹那稼ぐ間に、君たちに別の姿に見える妖術の一種を使う。

自分たちを害すると思うなら、この短刀ですぐに俺を貫け。いいね?」

 

精一杯笑顔を作ってみたつもりだけど、さすがに引きつっていた感は否めない。

 

『元皓さま』と呼ばれていた、細身の身体ながらそれに似つかわない、険のある顔つきに鋭い眼光を持つ壮年の男性は、

どこか呆気に取られた表情をしながらも、俺から短剣を受け取りながら頷き、

理知的な雰囲気を醸し出している、フードを被った…声色と服装からして女性かな…は、

ぴしっと固まってしまって、口からこぼれる言葉も、『あ、う、う、あ…』などと要領を得ない始末。

…しかし、黒のワンピース姿って、この世界、本当に服装については俺の住む世界と何も変わらないよなぁ。

 

「この状況で笑顔を見せられるのは、なかなかのもんだと思うが。…こりゃ、公与みたいな者には、毒にもなるの。

もしや、笑顔自体が実は妖術の一種か? …まぁよい、若いの、妖術でも何でも構わん。助けるというなら、早くせい。

どうせ儂の体力では逃げられるはずもないしの」

 

「了解しました、では早速。お互いの手首をこの術をこめた紐で結びます」

 

なんか明け透けに失礼なことを言われている気がするが、今は構っていられない。

于吉から預かっているリボンを二人の手首にまとめて縛りつけていく。

 

「華佗、どうだ?」

 

「うむ、普通に老男老女の二人連れに見えるな。氣を瞳に込めれば、元の姿がちらつくが」

 

「俺にもそう見えるってことは大丈夫だな。兵士たちだったら、この人たちを深く知ってることもないだろうから、

元の姿を自然に見抜く可能性も薄いね。さて、あとは適当に俯いていてくれたら、俺が何とかするよ」

 

後ろで、雪蓮があえて空気を読まない発言をして、時間稼ぎをしているようだが、もう限界のようだ。

 

「どうしたの、一体、なんの騒ぎ?」

 

騒動に今さら気付いた振りをしつつ、表通りに出ていく。

雪蓮にその場を退く様に詰め寄っていた兵士たちが、こちらに一気に矛先を変えた。

 

「おい、隠し立てしてもろくなことにならんぞ! 我らが追っていた二人組をそちらに匿ったのだろう!」

 

相も変わらず金ぴかの鎧が光を反射して目に痛い。純金で出来ていたら一着だけでも恐ろしく高く売れる気が…さすがにないかな。

でも、袁家だからなぁ…。

 

「貴様、黙りこくっているということは肯定とみなすぞ! そこをどけ!」

 

「あ、あぁ、申し訳ありません。皆さま方の見事な鎧姿に立ちくらみを起こしておりました。

こちらの路地の影で、老いた両親が少し休憩を取っているものですから、妻も意地になったのでしょう。

親思いの妻ゆえ、どうかご容赦願えませんか」

 

この世界の常識ともいえる、親への孝行を前面に出して見せながら、その兵士長と思える男性に布袋を握らせる。

うん、いわゆる袖の下とか言われるものだ。

捜索部隊が30人ぐらいのようだけど、一晩どんちゃん騒ぎしてもお釣りが来るぐらいの通貨を入れてある。

こういうのは、雪蓮とか華琳とかが恐ろしく嫌うんだけど、身体的弱者である俺は、使えるものは何でも使えってもんである。

俺の行為に、雪蓮の眉が吊りあがったのが見えるけど、目配せをしながら、半ば強引に彼女を俺の後ろへと移動させる。

 

「奥さんなんだから、軽率な行動は控えてくれよ、な?」

 

「なっ、それ、ひきょ…うーっ、わかったわよ!」

 

顔を真っ赤にして渋々納得する雪蓮。目の前の兵士たちにすれば、惚気の会話と殆ど変らない。今はそう聞こえることがむしろ好都合なんだけどね。

 

「ふむ、ま、まぁ、話は判った。しかし、我らも役目があるからな。路地を改めさせてもらうぞ」

 

「それはもちろん御随意に。御義父様、御義母様、兵士の方が路地を点検なさるそうですから、少し端に寄って下さいな。

兄さん(=華佗)も邪魔にならないようにこっちに来てくれ」

 

偽装した二人組はそっと路地の隅へ移動する。兵士たちも顔を一瞥するが、やはり老男老女にしか見えないようで、

そのまま路地の奥まで点検し、機嫌良さそうにその場を立ち去って行った。

さっさと叱られてどこで一杯やるか、みたいなことを言いながらだから、見逃したってことで報告しちゃうんだろう。

 

「はい、お疲れさんでした。華佗は悪いけど、華琳たちに合流して、この件を報告してくれ」

 

「うむ、任された。ついでに俺も薬草の類を見てきても構わないか?」

 

「うん。合流場所は、この近くの、あの一番大きな酒家で。二階の大部屋を借り切っておくから、そこまで来てもらうように伝えてくれ」

 

華佗が露天の方角に去っていくのを見ながら、頬を膨らませたままの雪蓮の手を取り、ゆっくりと声をかける。

 

「ごめんね、雪蓮が一番嫌いな方法とわかっていたけど、騒ぎにしたくなかったからさ」

 

「…演技だったら、あっさり私を妻に出来ちゃうんだ、一刀は」

 

…あれ、お怒りの理由が全然違う? あ、そうか! 演技とはいえ、勝手に奥さん扱いされたらそりゃ怒るよな!

 

「え、あ、あ、ごめん! 本当に嫌な思いさせたよな! 雪蓮の気持ちも考えず…」

 

「…どこまで鈍感なのよっ! 一刀の馬鹿ぁ!」

 

雪蓮の叫びと共に、見事なアッパーカットが俺の顎にクリティカルヒット!

薄れゆく意識の中で、俺は雪蓮の呟きを聞いたけど、停止しつつある脳では意味を理解出来なかった…。

 

「本気で、妻にしてほしいって言えば、すごく躊躇う癖に…! ちっとは女心を考えたらいいのよ、ほんと…」

 

 

気を失ったのはつかの間、すぐに雪蓮に叩き起こされた俺は、予定通り酒家の二階の大部屋を借り切る。

幽州組を合わせた全員が入ると流石にちょっと狭い規模だけど、俺たちは良くも悪くも目を引きやすい一行だから、

史実でもよく逃亡者の隠れ家的役割を果たす、こういう場所というのはやっぱり便利だ。

 

そこまでは、逃亡していた二人組にはリボンを結んだまま移動してもらう。

歩きにくいだろうけど、顔が割れる危険性を思えば、あっさり納得してもらえた。

 

「よし、部屋に入ったことだし、これで大丈夫ですよ」

 

リボンを解いて、自由の身になった二人に声をかけ、俺は椅子に深く腰掛ける。

二人はまだ直立したままだし、短剣は結果的にまだ預けた状況の為、『敵意はありません』ということを態度で改めて示す意味合いだ。

まぁ、二人の雰囲気から刺されることは無いだろう、という推察もある。

刃物の前に平気で無防備でいられるほど、俺は肝が太くもないわけで。

 

…まぁ、雪蓮がいざとなれば飛び込んでくれるという信頼もある。

呆れ顔をしているから、俺の意図なんてとっくに彼女にはお見通しなんだろう。

 

「ね、こんな相手の状況や雰囲気を見て、大胆な行動に出られるわりに、本当に肝心な所で鈍感なワケ。正直参っちゃうわよ」

 

あれ? 貴女は何を言い出すのですか雪蓮さん?

 

「なんというか…朴念仁、としか表現しようが無いのは、この短時間でも良く判るのう」

 

彼女の言葉に、あの鋭い眼光の壮年の男性…ビックリしたのはスキンヘッドだったってことだ…が、やや相好を崩しつつ、そんな風にため息をつけば。

 

「不思議な方ですね。見ず知らずの私達を迷わず助け、こちらの感情を見据える洞察力がありながら、

寄せられる好意には無頓着とあっては、傍に沿う女人としては溜まったものではありませんから」

 

フードを外した彼女…黒色の髪にレイヤーボブの髪型、細縁眼鏡をかけて黒ワンピースの真面目な委員長タイプに見える女性が、

腕組みをしながら、丁寧な口調で同じようにため息をついた。

 

腕組みされると強調されるから嫌でも見ちゃうな…愛紗ほどではないけど、華琳よりはやや大きい、形のいい一級品だ。

何がとは言わないよ、色々首が危ないからさ…。

 

「えーと、何故俺が責められる流れになっているのでしょうか?」

 

「自分の胸に聞いてみたら?…ま、一刀のことだから判らないでしょうけど」

 

何この仕打ち。さっぱり原因が判らないし。なんで鈍感とか朴念仁って言われてるんだよ。

ちゃんと華琳の好意には気付くし、俺だって女心を察しないことなんてないんだぞ。

…俺、泣いてもいいよな?

 

「なんというか、落差が激しい青年じゃの。さっきの兵士たちへの饒舌が幻想のように思えてくるわ。さて、先にこれは返すぞい」

 

ひょいっと投げられた短刀を受け取りつつ、俺はさめざめと涙を流し…ては無いけど、項垂れて落ち込んでいた。

目の前の二人の警戒心がある程度解けたのはすごくありがたいんだけど、なんかさ…俺の尊厳ってなんだろうね…。

 

「ほら、一刀。自己紹介もまともにしてないんだから、さくっと終わらせましょ。

華琳たちが来るまでにある程度話つけておかないと、また混乱の坩堝にハマると思うけど?」

 

そうだね…雪蓮の言う通りだよね…。

よし、北郷一刀。心の涙を拭え。男には傷ついても前に進まねばならぬ時があるのだ…!

 

椅子からすっくと立ち上がり、俺は二人の前で外套を取り、いわゆる御使いの服を表に出し、拳包礼を取る。

この服装を見せて居ずまいを正した俺に、二人とも驚きを見せつつも、すぐに姿勢を正す辺り、おそらく著名な武将たちなのだろう。

 

以前の外史で出会っていなかっただけで、呉に今回、魯粛や程普がいるように、袁紹のお膝元であるなら───。

 

「失礼致しました。私は姓を北郷、名を一刀、と申します。字はございませんので、北郷でも、一刀でも、発音しやすい呼び方でお呼び頂ければと思います」

 

「こちらこそ申し遅れた。儂は…姓を田、名を豊。字を元皓と申す。見ず知らずの我らを助けて頂き、誠に感謝致す」

 

「私は、姓が沮、名を授。字を公与と申します。北郷さま、この度の助力に深く感謝致しております。

私達二人はあのままなら遅からず兵士たちに捕まる羽目になっておりました」

 

やはり、袁家の田豊・沮授だったか…!

この両名の謀は、劉邦に仕えた張良・陳平に匹敵すると言われる、この三国でも屈指の軍師だ。

…たぶん、史実と同様、袁紹さんの下で収まる器量じゃなかったんだろうなぁ…。

 

特に元皓さんは、この外史でも顔つきにも表れているけど、

剛直な性格で歯に衣着せぬ厳しい発言が多く、そのせいで袁紹に疎まれた、とある。

優れた先見性のある進言が出来る人なんだけど、まぁ、回りくどい言い方が苦手な人ってこと。

 

「助けられて何よりです。ま、あの袁家の太守さんですから、政策とかの進言が雄々しく勇ましく華麗に…って基準から漏れて、

追われる立場になったってところですよね?」

 

安易に予想がついてしまうのがどうにも。思わず苦笑いも出てしまうってものだ。

 

「恥ずかしながら、そなたの仰る通りでな…流石に牢にぶち込まれるのはごめんだと、

最後に散々、お花畑な残念なお頭を指摘してやって、こうして逃げてきたというわけじゃ。

ただ、公与はそれを止めようとして巻き込まれ…いかん、また中てられとるな」

 

話を振られた公与さんは顔を真っ赤にして、視線が宙を彷徨っている状態で。さっきまでの逃亡の反動で、疲れが表に出てるのか…?

 

「あー、自己紹介していない状況で割り込んで申し訳ないけど、その娘、男性にあんまり免疫が無いの?」

 

一人、何か合点のいった様子の雪蓮が、元皓さんに質問を投げかけている。

でも、雪蓮の聞き方だと…あ、男性が苦手ってことか。

 

「うむ…あの阿呆が『下賤な男性なんぞ傍に近づけたくもないですわ!』…などと、内政官やら将軍格やらは古参の儂以外、完全に女性で固めていたからのう…」

 

「だったら、これは凶器になるわよねー。あー、また競争相手増えるのかしら…。あ、遅れてごめんなさい。

私は、孫策。孫伯符よ。今はあくまで、一刀の旅の同行者だから、そこんところ宜しくね♪」

 

「!…江東の虎の御息女か…。ふむ、これは面白いことよな。さて、公与、見惚れることは後にせぬか」

 

軽く肘鉄を入れられた公与さんが『はひっ!?』と声をあげて、我を取り戻す。顔はまだ赤いけど、瞳の力は戻ったから大丈夫…なのかな。

しかし、見惚れるとか、凶器とか、一体何の話をしてるんだ…?

 

「本当に大丈夫ですか? お疲れなら少し休んでからでも…」

 

微笑みながら出来る限り優しい声色を出すように努める。身体がしんどいなら休んでる間に華琳たちに説明すればいいことだ。

元皓さんは問題無く動けるようだしな。

 

「は、はいっ、だ、だ、だ、だ、大丈夫ですよ!……くっ、くうっ…こ、これは反則ですっ…!

私があまり異性に慣れていないとはいえ、この方の笑顔は本当に…あり得ないです…脳裏に焼き付いて離れないではないですか…!

それとも、これが御遣いさまの力なの…?」

 

威勢良く返事があったものの、大丈夫です、という言葉の後は、何やらごにょごにょ言っていて、全く聞き取れない。

それに、また顔の赤みが増してしまっていて、本当に卒倒してしまいそうな心配すらしてしまう。

 

「駄目じゃな、これは」

 

「はいはい~、私が代わるわね~。あ、私は孫策~。孫伯符よ、宜しく♪ あ、声あげちゃ駄目よ?」

 

雪蓮の軽いノリの自己紹介。だが、袁術の客将の立場である雪蓮が[業]にいるという事実に、

冷静さを失っている公与さんが思わず声を出しそうになるのを、彼女は口元に指を立てて、機先を制してみせる。

 

「ごめんね、驚かせてばかりで~。ただね、この後、私の友人たちがたくさん帰ってくるから、この程度でビックリされてちゃ困るのよね~。

まぁ、一刀自体が一番の規格外だから、それに惹かれた乙女達だって思ってくれればいいんだけど」

 

「し、失礼致しました、取り乱してしまって…。しかし、他にも驚くべき方がいらっしゃると…?」

 

「この時点で著名な子といえば、陳留の太守の曹操に、水鏡塾から輩出された伏龍に鳳雛。私の親友の周家の跡取り…ってとこかしら。

他に前途有望な将官、武官、文官がたくさん。皆、才気煥発だから、すぐに判るわよ~」

 

「なっ、なんということ…。その、すぐに国家の中枢に座れるような才を持つ者達が、この酒家に勢ぞろいするというのですか…っ!」

 

「うんうん。隠そうにも隠しきれない、駄々漏れになってるというか~。

それも全部、一刀の為に命をかけられる娘たちよ。ま、一刀は乱世に名を上げる戦い方はしないつもりのようだけどね~。

乱世を操る黒幕っ!…みたいな感じなんだって。私は面白くないんだけどな~」

 

「えっ…全員、御遣い様の寵愛を受けている、と? それに乱世、って今は漢王朝がありますのに」

 

口を挟まないものの、元皓さんも何やら愉快そうに表情を緩めている。というか、あの笑いは、華琳の意地悪い笑みに通じるものが…。

…あれ? 公与さんの呼び方も変わった気が…。って、おーい、話がまたおかしな方向に…。

 

「誤解を生んで加速させる言い方をしないでくれよ、雪蓮。…ま、暗躍するって点は否定しないんだけどさ。

公与さん、もう漢王朝はもたない。既に各地の太守や州牧が力を持ち始めている現状、いずれ次の王朝を作る戦乱の世が来る。

…口にするのが憚られるだけで、貴女たちほどの頭脳があれば、予想は付いているはずだ。

俺はね、これから乱れるであろうこの大陸の戦乱を、少しでも早く収められるように、あらゆる手を使って、動く。

 

ま、もう気付かれてるんだけど、この服の風評やあの噂だって最大限に活用するし、必要があれば、一時的に表に出ることも厭わない。

幸い、今回は旅の行商人って立場もあるから、経済面から糧食の問題だって手をつける。

全部が全部うまくいくわけは無いけどさ。失われる命を出来る限り抑え、戦乱を収束に導くのが仕事だと思ってる」

 

 

それは、本当に心地よい風のようで。

 

通念という概念に凝り固まっていた私を、あの蕩ける笑顔で解かし、

真っすぐな意思を込めた瞳と、心が弾むような、いつまでも聴いていたくなる優しげな声色で。

 

天の御遣いとして、事も無げに、知識人であれば感じている漢王朝の終焉を予言し、未来への展望を語る。

傍目はただの一人の青年に見えるのに、こうして相対していれば、古の始皇帝や劉邦を思われる王としての威光を感じます。

 

孫伯符殿の言を聞いても、才ある多くの女性達がこの方に『文字通り』心も身体も捧げているのでしょう。

 

確かに、私は今高揚していて、冷静な判断を欠いているのかもしれません。

それでも、一人の将として、一人の女として。両方を迷いなく賭けていいと思える方に出会える僥倖など、見誤ることなどありませんから。

 

元皓さまを庇う勢いで、城を飛び出してきてしまいましたが…。

ふふ、私はとうとう全てを投げ打って仕えるべき主君に巡り合うことが出来たのですね。

 

「貴方様は、本当に天の御遣いなのですね。

本来は王朝への不遜な物言いであるはずの発言が、貴方様の口を借りれば、下手な固定概念を崩して下さり、

現実を見据えれば、至極当然のことで、その為に尽力するのが能ある者の務めだと、自然に納得することが出来ます」

 

「あー、そんな言い方は勘弁してほしいな、公与さん。『御遣い』もそうだけど、そういう呼び方は、どうにもむず痒いし、慣れたくないんだ」

 

「くすっ…本当に凛々しいことを仰ると思えば、わかりました。それでは呼び方は改めますね」

 

「うん。そして、これはお願いだ。公与さん、そして、元皓さん」

 

私の『王』が、私を、そして、元皓さまを順番に見つめ、私達の手を取り、両掌に包み込まれます。

 

「天の世界で、古の張良・陳平に匹敵すると言い伝えられるお二人の力を、俺に預けてもらえませんか?

乱世を収める為に、どうかその頼れる知略を俺に、いや俺の仲間たちへでも構わない。

どうか授けていただきたいんです」

 

真剣な表情に思わず見惚れてしまった私より先に、まずは元皓さまがお答えになられます。

 

「既に行く所も無い身じゃ。この偏屈者を使うと言うならば、使いこなしてみせい、小僧」

 

主君に対して不遜な物言いと取れる、元皓さまの発言に対して、あの反則でしかない満面の笑みを見せながら、

我が王は、喜びの意を示されました。

 

「ありがとうございます、元皓さん! 雪蓮、雪蓮! 我が陳平を得たりだ!」

 

「ほんとーに、嬉しそうにしちゃってまぁ…」

 

「…まったく、調子が狂う若造じゃわい」

 

我が師と言える元皓さまの仕官を心から喜んで下さるお姿が、また愛らしい…。

変に気取ることも嫌う、多くの女性がこの方を慕うのも判ります。

その中の蝶の一人でもいい。私が全てを捧げるはこの御方のみ。そう決めてしまいました。

 

さ、見惚れるのは、今は我慢ですよ、愛理(あいり)。気を強く持ち、我が王に向き合うのです。

私は静かに跪き、御手を拝借し、額に当てさせて頂いて、臣従の意を示します。

 

「御遣い様…いえ、私の王よ。この沮公与、真名を愛理…貴方様にこの真名を預け、身命を賭して貴方様にお仕えすることを誓います」

 

私の行為に今度は王があたふたして、顔を真っ赤にして慌てておられます。

こんな可愛い一面を次々に見せられると、ますます抗えなくなってしまいそうですね───。


 
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