No.305756 僕と美波と本当の気持ちと行動2011-09-23 00:19:47 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:10196 閲覧ユーザー数:3513 |
僕と美波と本当の気持ちと行動
「あ、あのさあ……アキ?」
Dクラス戦が休戦協定で終わりを告げた翌日の放課後、僕は美波に屋上に呼び出された。
美波の声はすごく緊張していた。
「なっ、何、美波?」
聞き返す僕の声もすごく緊張している。
昨日の今日だけに凄く気まずい。
『よっ。なんて暗い顔してるのよ、アキ』
『へっ? 美波?』
『何よ?』
『いや、あの、その。昨日はごめん』
『何ぃ? アンタまた何か謝らなきゃいけないことしたわけ?』
『いやぁ、そうじゃなくて……』
『また問題起こしたらただじゃおかないからね』
『うん?』
『バ~カ』
今朝の様子を見る限り美波はそんな怒っていないようにも思える。
けれど、昨日の美波がすごく怒っていたことは確かだった。
清水さんだって僕の美波への態度に怒り心頭だった。
それに僕はまだ美波にきちんと謝っていない。
だからまだ僕と美波の1件は終わりを告げてはいない。
それだけは確かなことだった。
「あのさ、美波」
「ストップ」
美波は僕の言葉を手を突き出しながら遮った。
「えっ? あの……」
僕には美波の行動の意図がよくわからない。
「アキはさ、ウチに謝って元の関係に戻ろうとしているでしょ?」
「まあ、そうだけど」
美波は突き出した手を横に2度振った。
「その謝罪、必要ないから」
「それは、どういうこと?」
謝罪されても許せないぐらい怒っているということ?
「アキのことだからどうせまた変な勘違いするだろうから先に言っておくわ。ウチはアキに謝られて今回の件がなかったことにされちゃうのが嫌なの」
「えっと、それは水に流せないほどに怒って……」
「そうじゃないのよ!」
美波は顔を真っ赤にしながら僕の言葉を否定した。
「ウチは元の友達に戻るのが嫌なのっ!」
「それはどういう意味?」
美波は顔を更に赤く染めながら俯いて指をモジモジと絡め始めた。
「……葉月に昨日、言われたのよ」
「葉月ちゃんに何を?」
美波が顔を上げて僕の顔をジッと見る。
「気持ちはきちんと言葉にしないと伝わらないって。態度だけじゃダメだって」
「言葉に、ねえ」
葉月ちゃんのアドバイスは、僕がきちんと言葉にして謝らないといけないという意味に繋がると思う。
美波を深く傷つけてしまった事件をなかったことになんかできない。
「あのさ、美波……」
「だからストップ!」
僕が喋ろうとした所でまた遮られてしまった。
「ウチが聞きたいのはそんな言葉じゃないの。別の言葉なの!」
「別の言葉?」
美波が聞きたい言葉って何だろう?
「う、ウチが聞きたい言葉はね……」
美波はまたモジモジし始めた。
「ウチが勇気を出す為にどうしても必要な言葉なの」
「あ、うん」
頷いてみるものの美波が何を聞きたいのかよくわからない。
「……昨日、美春に言った言葉。もう1度ちゃんとウチに言って」
「昨日清水さんに言った言葉って?」
昨日はDクラスとの召喚戦争に関連して清水さんとたくさん話した。
その中のどの話だろう?
「ウチの……み……りょく……に関する話」
「えっ? 何て言ったの?」
美波の声は小さ過ぎてよく聞こえなかった。
すると今度はヤケになったように大きな声で美波は叫んだ。
「だから、アキがウチのことを本当はどう思っているのか美春に話した言葉をもう1度ウチに言って欲しいのよっ!」
「えぇ~~っ!?」
心の底から驚いた。
いや、だってあれは僕の人生史上で最も恥ずかしい言葉。
雄二たちに聞かれただけでも死にたくなったのに、それを美波本人に聞かせるだなんて……。
「あの、どうしても言わないとダメ?」
あの台詞をリピートするのはどんな拷問よりも辛い。
「ダメ。言ってくれなきゃウチはアキのことを一生許さない。毎日不幸の手紙も書く。アキちゃんの写真を添付して玲さんに送りつけるわ」
ダメだ。美波のお願いを拒否することは僕にはできない。
「お願い、アキ。昨日のあの言葉をウチにちゃんと聞かせて」
「ああ。わかったよ」
真剣な表情で見つめてくる美波を見て僕の腹も決まった。
「じゃあ、言うよ」
「うん」
大きく息を吸って新鮮な空気を肺に送り込む。
空気と共に覚悟も体の中に注入完了。
そして、僕は昨日のあの言葉を繰り返した。
「僕にとって美波は、ありのままの自分で話が出来て、一緒に遊んでると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草が可愛い……とっても魅力的な、そう、とっても魅力的な女の子だよ」
言い終わった僕はすごくドキドキしていた。
頬が紅潮して、心臓がバクバクと大きな音を奏でて夢心地みたいな気分。
でも、ドキドキしているのは僕だけじゃなかった。
「あれっ? おかしいよ。涙が、涙が止まらない、よ……」
美波は僕の言葉を聞いて涙を流していた。
「あの、美波……」
「だ、大丈夫だから。ちょっと嬉しすぎて涙が止まらないだけだから」
美波はまた右手で僕が近寄ろうとするのを制した。
でも、美波が僕の言葉で嬉し涙を流してくれるなんて思いもしなかった。
すごく、すごく嬉しくなって来た。
僕の胸もさっきよりもまた一段と熱くなっていく。
なんか今の美波を見ていると凄くクラクラする。
一昨日の朝、美波にキスされた後と同じような状態。
いや、あの時よりも頭に熱が上っている気がする。
あの朝は美波の行動に驚きの連続だった。
でも、今は違う。
僕は自分で起こした行動で美波にクラクラしていた。
これって、もしかして……
いや、もしかしなくてもっ!
僕はようやくあのキス以降ずっと目を背けて来た想いの正体に気がついた。
「アキに勇気をもらったから、今度はウチの番、よね」
美波が左手で涙を拭いながら僕を見る。
「あの、1度しか言わないからよく聞いてねっ!」
美波は大声で叫ぶ。
「はっ、恥ずかしいから1回しか言わないんだからねっ!」
「わ、わかったよ。よく聞くから」
恥ずかしがる美波を見て僕の胸もどうしようもないほどに高まっていく。
口の中がカラカラに乾いていく。
でも、それが嫌じゃない。
高揚する体が、緊張する体がちっとも苦痛じゃない。
僕の意識は美波の口に、その可愛らしい唇に集中していた。
美波は先ほどの僕と同じように大きく深呼吸をしてみせた。
そして、彼女は言った。
「ウチはっ! ずっと前からアキのことが好きだったの。だから……今度こそ本当にウチと付き合ってくださいっ!」
美波の告白を聞いて天地がひっくり返るような衝撃を受けた。
キスされた時も前後不覚に陥ったけど、今回はあの時の衝撃の比じゃない。
言葉がこんなにも人間の心を揺り動かすなんて初めて知った。
美波の言葉の力が僕の心を、そして体を揺り動かしていく。
僕はうつむかずにいられなかった。
じゃないと、泣いている所を美波に見られてしまうから。
そして臆病な僕はどうしても確かめずにいられなかった。
「その言葉は美波の本当の気持ちとして受け取って良い、んだよね?」
美波にキスされた日のあの昼、僕は美波の気持ちを掴み切れなかった。
どんな気持ちでキスしたのか、深く考えようとしなかった。考えたくなかった。
美波の気持ちを受け取る覚悟に欠けていた。
だから僕は美波の行為を冗談の方へ、勘違いの方へと流してしまった。
そして僕の臆病さは美波を大きく傷つけた。
僕は今でも臆病なまま。
でも、臆病なだけじゃいけないことは昨日身をもって痛感した。
臆病者だって勇気を出さなきゃいけない時がある。
それが、今なんだ!
「も、勿論本当の気持ちに決まってるじゃない! 去年、自分のことを“ウチ”って呼ぶようになった時からずっとずっとアキのことが好きだったんだからっ! ……えっ?」
僕は美波のことを抱き締めていた。
精一杯の勇気を振り絞った僕の行動。
「あ、あの……アキ?」
「美波の気持ち、十分に伝わったから」
美波を更に強く強く抱き締める。
美波の意外と華奢な体を抱き締めていると胸の奥底から幸せが込み上げて来る。
ずっとこのままでいたい。そんな想いに溢れて来る。
でも、葉月ちゃんの言う通りなんだと思う。
想いはきちんと言葉にしないといけない。
そうじゃないと、思わせぶりな態度でまた美波を傷つけてしまうかもしれない。
だから僕は自分の為にも美波の為にも想いを伝えなくちゃいけない。
「美波、よく聞いて欲しい」
「う、うん……」
ほんの20cm離れた所に美波の顔がある。
キスした時、僕と美波の顔の距離はもっと近かった。0cmの距離だった。
でも、僕と美波の心は離れた所にあった。
それが美波を傷つける原因となった。
だから同じ失敗は繰り返さない。
もう、美波を泣かせたりなんかしない!
自分の気持ちから逃げることも、嘘をつくこともしないっ!
「僕も……美波のことが好き、だよ」
想いを口にした瞬間、僕の中で何かが変わった気がした。
何が、と言われても上手く説明することはできない。
でも、確かに僕は美波に告白する前と後で変わったんだ。
「その言葉……嘘じゃない、わよね?」
美波が言葉の真偽を尋ね返して来る。
虚ろな表情。半分泣きそうな表情にも見える。
けれど、その瞳の奥には眩しい光が宿っているように思えた。
「僕は美波に酷いことをして傷付けたばかりだからね。信じてくれなくても仕方がない。でも、僕もやっと気が付いたんだ。美波のことが女の子としてずっと前から大好きなんだって」
僕は大バカ者だ。
自分の気持ちにも気付かなかった。
気付こうとしなかった。
恋愛感情って、漫画やゲームにあるようなイベントや心理の変化を通じて起きるものだと思い込んでいた。
でも、そうじゃなかった。
僕はずっと前から普段の、ありのままの美波のことが大好きだったんだ。
今回の、そして今日の件はそれを僕に教えてくれただけだった。
「う、嬉しいよぉ」
「な、泣かないでよ」
涙を零し始めた美波を見て焦る。
やっぱり女の子の涙だけはどうしても慣れない。
美波は僕の制服に顔を埋めて涙を拭いた。
それから顔を上げて僕の瞳を懇願するように見つめた。
「それじゃあ……ウチと付き合ってくれるの?」
「僕の方からお願いするよ。僕の彼女になって欲しい」
美波の顔が急速に赤くなっていく。
多分、僕の顔もそうに違いない。
美波は恥ずかしさを隠そうとするかのように横を向いて僕から視線をそらす。
「う、ウチはアキの変なメールで騙された経験があるんだから、言葉だけじゃ信用しないんだからね!」
「じゃあ、どうすれば?」
葉月ちゃんは言葉が必要だと言っていたのに対して美波は言葉だけじゃダメだと言う。
じゃあ、一体どうすれば良いんだろう?
「こ、行動で示してよ。…………アキからウチにキスして。そうしたら信じる。……一生アキについて行く」
「えぇ~~っ!?」
清水さんへの台詞のリピートを上回る無理難題が来ちゃった。
しかもさり気なく信じるの後にすっごい一言が発せられたような?
ど、どうしよう?
「して、くれないの? やっぱりウチじゃ、ダメなの?」
瞳を潤ませる美波。そんな彼女を見て可愛いと思った。
途端、心臓が急に爆ぜ始めた。
心臓を鎮めようと首を曲げて前屈みの姿勢を取る。
すると、ほんの5cmの距離まで美波の顔が近付いていた。
「アキ……っ」
美波は僕の首の後ろに手を回して目を閉じた。
それは説明するまでもなく僕のキスを受け入れる姿勢だった。
そんな美波の姿勢を見て僕は最高潮に緊張してしまった。
そして気が付いた。
美波が僕にファーストキスを捧げてくれた時もこんな風に緊張したんじゃないかって。
それでも美波はキスしてくれた。
それは僕のことを好きだから。こんな僕を好きでいてくれるから。
美波はその気持ちを行動で示してくれたんだ。
美波の勇気を思うと体中に張り詰めていた緊張がすぅ~っと抜け落ちた。
「大好きだよ、美波」
「うん。ウチも」
僕と美波の距離がゼロになる。
顔だけでなく心の距離もゼロになるキス。
体が熱くなるだけじゃない。
心も一緒に温かくなれるキス。
僕はようやく美波と仲直り、ううん、新しい関係を築くことができた。
こうして僕と美波の新しい日常、恋人同士の日常は始まりを告げたのだった。
了
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美波さんでもう1本。
多くは語らず。
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