深い深い暗闇の中……
その者は静かに目覚めようとしていた。
飢えた腹を抑えながら、その者は青い星を見つめ、目を見開いた。
そして、その者はまた目覚めるときまで、自分の空腹を我慢しようと誓った。
第一章『勇気神アラシード』
「うぅん……」
カーテンの隙間からもれる太陽の光に大助はウトウトと寝返りをうち、呟いた。
「もぅ少し……」
「もぅ、起きなよ、大ちゃん!」
ベッドの毛布を奪い取られ、大助は身体を丸め、うなった。
「なんだよ、もう少し寝かせてくれたっていいだろう……クルミ?」
「だめ!」
腰に手を当て、クルミと呼ばれた少女は、奪い取った毛布をたたみ、ベッドの横に置くと、机の上に置いてある丸メガネを大助に渡した。
「はい……メガネ!」
「ありがとう」
スッとメガネをかけると大助はウンッと伸びをした。
「にしても、週の五日が学校なんて……眠くってかなわないな?」
「もぅ、クルミは、大ちゃんよりも早く起きてるの! バカ言ってないで、すぐに食事にくる!」
「わ、わかってるよ……」
クルミの怒声に少しだけ、怯えた顔をし頷き、大助はベッドから飛び降りた。
「いただきます!」
両手を合わせ、テーブルに用意された食事を始めると大助は申し訳なさそうにクルミの顔を見た。
「にしても毎日悪いな、クルミ? 朝食作りに来てもらって……」
「気にしなくっていいよ。クルミが好きでやってるんだもん! 大ちゃんこそ、クルミ以外の女の子に食事を作りに来てもらっちゃダメだからね?」
「安心しろ……お前以外はイザナギさん以外、想像つかないから」
「イザナギちゃんか……?」
う~~んと額に指を乗せ、クルミは考え込むように笑った。
「イザナギちゃんは、厄介者が一人いるから、安心だね?」
「だろう?」
今頃クシャミでもしてるであろう友人の姿を想像し、二人はおかしそうに笑った。
玄関の前で靴を履き終えると、大助は一回、気合を入れるようにガッツポーズをとり、、立ち上がった。
「さて、今日も一日、頑張りますか!」
「じゃあ、行ってきます!」
玄関を出ると真っ白な太陽の光が目に襲いかかり、大助は気持ち良さそうに目を細めた。
「いい天気だ?」
クルミの顔を見て、ふふと笑うと、大助とクルミは並ぶように歩き始め、自分たちの通う、希望高校へと向かった。
しばらくして、遊歩道の曲がり角を曲がると、二人の男女が現れ、クルミは手を上げた。
「イザナギちゃん、吉永くん、おはよう!」
クルリと振り向き、髪の長い豊かな胸を持った少女は柔和な笑顔で手を上げた。
「おはよう、クルミちゃん?」
「おはよう!」
イザナギの返事に気を良くしたのか、クルミは嬉しそうに駆け寄り、肩を並べた。
「か~~……クルミちゃん、今日も綺麗だね? どぅ、今度、俺とデート……ブベッ!?」
少年の顔をレンガの壁に叩きつけ、イザナギは冷たい眼差しで少年を見下した。
「朝から、ナンパしてるんだじゃいの……吉永くん!」
「ひ、酷いよ、イザちゃん……ガクッ」
気絶する吉永の首根っこを掴み、イザナギは呆れた顔で、ため息を吐いた。
「気絶するなら、学校の中でして……まったく、世話が焼ける」
やれやれと首を振るイザナギにクルミと大助は顔を真っ青にして、頷いた。
酷い扱い……
「お、皆の衆、おはようさん!」
ポンッと背中を叩かれ、大助とクルミは、ゆっくり、振り向いた。
「よう、平次、おはよう!」
「おはよう! それよりも、そこの阿呆は、またイザナギはんを怒らせたんか?」
ボロ雑巾以下の扱いを受けている吉永に平次は呆れたように苦笑した。
「その様だ……」
仕方ないという顔で苦笑する大助に、平次も腕を組んで首を横にふった。
「懲りん男やな……?」
「そこが、吉永くんのいいところだよ?」
「クルミはんは優しいな?」
そういい、平次は豪快に笑った。
しばらく、五人で歩いていると大助たちは学校の近道である、センター街の遊歩道を歩いていた。
その頃には吉永もだいぶ体力を取り戻したのか、足をふらふらさせながらも、目の前のゲームセンターを指差した。
「そういや? もぅそろそろ、ゲームセンターに新しい筐体が入いるらしいぜ?」
「吉永……ゲームセンターの出入りは校則で禁止されとるはずやが……」
「もぅ、平ちゃんは相変わらずお硬いんだから。今の高校生、ゲームセンターの一つや二つ行けなかったら時代に乗り遅れるぜ?」
「結構や!」
ふんっと鼻を鳴らす平次に吉永もムッときたのか、大助に助けを求めた。
「大助……お前からも、この堅物になにか言ってやってくれ!」
吉永の同意を求める声に大助も少し考えるように黙り込んだ。
「そのゲームセンターだったら潰れたぞ、たった今……」
「はぁ……潰れたって、なぜ?」
「ゲームセンターが砂に埋もれてる……」
「え……?」
ゲームセンターのドアから溢れ出す大量の砂の波に大助は困った顔で肩をすくめた。
「どぅする……この道じゃなきゃ、学校に遅刻するぞ?」
「大ちゃん、なに、落ち着いてるの!?」
ガシッと両肩をつかまれ、クルミは慌てた顔で走り出した。
「砂がこっちに向かってるよ……早く逃げなきゃ!」
「たかが砂だろう?」
「粒が小さいな……さしずめ、都会のアリ地獄か?」
「二人とも!」
ギロッと睨まれ、大助と平次は直立不動で歩き出そうとした。
だが……
「みんな、砂の中心に女の子が倒れてる!?」
「なに!?」
イザナギの頭を台にし、吉永は血相を変えて砂浜の中心を見つめた。
「なんだ、子供じゃないか……」
「そんな事、言ってる場合じゃないでしょう!」
ガッと怒鳴られ、吉永は気を取り直し、砂漠に駆け出した。
「それもそうだ……大助、平次! 助けに行くぞ!」
「仕方ない!」
「任せい!」
腕まくりをし、三人は砂漠の真ん中に飛び込もうとした。
しかし……
「うわっ! この砂浜、埋まるで!?」
アリ地獄のように沈む足を抜き、平次は慌てたように靴に入った砂を吐き出した。
「想像以上に、砂の粒子が細かいらしいな……?」
さらさらの砂を手に掴み、分析する吉永にクルミも慌てた声で叫んだ。
「だとしたら、早く女の子を早く助けないと、沈んじゃうよ!」
「……」
クルミの涙を見て、大助は意を決したように吉永の肩に手を置いた。
「吉永……いろいろと迷惑をかけえるぞ!」
「え……迷惑って……ぶべっ!?」
吉永の顔を踏み台にジャンプすると吉永は大声で叫んだ。
「人をなんだと思ってるんだ!?」
「すまん……謝罪は後でする!」
砂浜に綺麗に着地すると、大助は急いで女の子の身体を抱き寄せた。
「おい、大丈夫か……しっかりしろ!」
「う、うぅん……」
ゆっくりと目を開ける少女に大助はホッとした顔で、砂浜の上を立ち上がった。
「さて……問題はどうやって、帰るからだな?」
完全に気を取り戻したのか、少女は呆れた顔で目を細めた。
「お兄ちゃん、帰る方法を考えてなかったの?」
「こう見えて、成績はハシから数えたほうが早い!」
「下から?」
「まぁな……ゲッ!?」
沈みかける自分の足を見て、大助は顔を真っ青にして少女にいった。
「君……名前は?」
「私……?」
自分を指差し、少女は不思議そうに答えた。
「渚だよ? それがどうかしたの?」
「舌噛むなよ?」
「え……?」
「吉永、渚を受け止めろ!」
大助の手から、渚の身体が投げ飛ばされた。
「キャァァァァァァァァァッ!」
物凄い悲鳴をあげ、投げ飛ばさてくる渚を受け止め、吉永は呆れかえった目でいった。
「無茶をする……」
腕の中で目を回す渚を見て吉永は少しホッとした顔で、ため息をはいた。
どぅやら、怪我は負ってないようだな。
額に溜まった嫌な汗を拭い、吉永は渚を抱えたまま立ち上がった。
「大ちゃんは、どうやって戻るの!?」
「あっ……」
吉永は呆気に取られた顔で大助を見た。
「くっ……この砂、しつこいな? もう動くことが出来ない!」
沈みかける身体を見て大助は、諦めたように首をたれた。
「クルミの作った弁当食えそうにないな?」
「大ちゃん、諦めちゃダメだよ! クルミも今そっちに……」
「来るなバカ!」
ビクッと身体を固めクルミは大助を見た。
「来るな……」
自分の身体が胸まで砂に埋もれるの確認すると、大助は優しく微笑んだ。
「クルミ……幸せになれよ?」
砂に埋もれながら、大助は必死にクルミに笑いかけた。
「お前の幸せが……俺の幸わ」
大助の身体は完璧に砂浜の中へと飲み込まれると、クルミは信じられない顔で震えた。
「大ちゃん……嘘だよね? 嘘だって言ってよ!」
今にも駆け出そうとするクルミの身体を押さえつけ、平次は大声で叫んだ。
「なにしとるんや……死ぬ気か!?」
「ま、まだ間に合うよ! クルミが助けにいけば……」
「素人のワイ等じゃ、これ以上は無理や! 大助はんの親友として、これ以上はできん!」
平次の腕を乱暴に払いのけ、クルミは怒りをぶつけるように叫んだ。
「大ちゃんの親友なら、なんでほっかとくの! 大ちゃんが死んじゃったら……」
ポロポロと涙を流すクルミに平次はなにも言わず、目を瞑った。
「クルミちゃん……」
そっと、目を回してる渚をイザナギに預け、吉永もクルミを慰めようと肩を掴もうとした。
その時、溢れ出す砂浜に異変が起こった。
「砂浜の砂が一点に集まりだしとる……!?」
ゲームセンターからあふれ出す砂浜が渦を巻くように集まりだし、一体のゴーレムが現れた。
「クルミはん、逃げるで!」
顔を真っ青にして手を引っ張る平次にクルミは戸惑うように叫んだ。
「で、でも……大ちゃんが……大ちゃんがいない!」
砂浜に埋もれたはずのの大助の姿がコンクリの大地に無く、平次は嫌な顔でうつむいた。
大助はんの姿がここにないということは、あのゴーレムの中に食われたということか。
逃げ出そうとする平次たちにゴーレムは物凄い奇声を上げ、腕を振り上げた。
ブンッ……
「あぶないっ!?」
ガッ……
「平次くん!?」
投げ飛ばされた砂の固まりを受け、平次は息苦しそうに膝を突いた。
「しっかりして! 大ちゃんだけじゃなく、平次くんまでいなくなったら、クルミ……」
「ア、アホ抜かせ。希望高校生徒会長……平次さまが、そう簡単にくたばってたまるかい」
グッと力いっぱい強がり、平次は真っ青な顔でクルミの手を引いた。
「それよりも、早ぅ、逃げるで?」
「う、うん……」
最後まで大助の姿を探し、クルミは平次に引っ張られるまま走り出した。
「ここは……いったい?」
気づいたら、大助は虹色に輝く不思議な世界にいた。
「俺は確か砂浜に埋もれて……」
不思議そうに辺りを見回し、大助は悟ったように地面の無い地面に腰を着いた。
「そっか……俺は死んだのか? クルミをおいたまま、死んじまったのか……」
乾いた笑みを浮かべ、大助は不意に拳を虹色の大地に打ちつけた。
「クソッ……なにがクルミの幸せが俺の幸せだ! クルミと一緒にいるのが俺の幸せだろう!?」
なんども……
なんども拳を虹色の大地に叩きつけ、大助は次第に涙を流し始めた。
「クソクソ……」
『男が涙を流すとは情けないな?』
上空から聞こえる男の声に大助はギョッとした顔で、首を上げた。
「ロ、ロボット……?」
目の前に立つ、巨大な白いロボットに大助は驚きを隠せず、身を固めた。
『おいおい……命の恩人に、その顔はないだろう?』
「命の恩人?」
パッパッと自分の身体をまさぐると……
「足がある!」
『今更、気づいたのか?』
呆れたように笑い声を出すロボットに大助は慌てて立ち上がった。
「君は誰だ!?」
『私か?』
ロボットは静かに自分の名前を答えた。
『私の名前はアラシード……勇気神アラシードだ!』
「アラシード……?」
目をパチクリさせる大助に、アラシードと名乗ったロボットは静かに答えた。
『君達の言葉を借りれば、神に近い存在だ……』
「神に近い存在……ロボットなのに?」
『私の本体は無に近い……この姿は人が思い描くヒーローの姿を具現化したものだ』
「ヒーローの具現化?」
微妙に、個人を限定された具現化だな……
大助は相当な好きものなマニアの顔を思い浮かべ、心の中で冷や汗をかいた。
『なにか言いたそうだな……命の恩人に?』
「いえ、まったく!」
ぶるぶると首を振ると、大助は気を取り直し、アラシードを見た。
「助けてくれて、ありがとう! それで早速で悪いけど、俺を帰してくれないか?」
『それは出来ない……』
「なぜ……?」
大助の言葉にアラシードは手の平に光を集め、虹色の空へと撃ち放った。
「うわっ!?」
いきなり、真っ白に輝く世界に大助はあまりの眩しさに目を瞑ってしまった。
光がやみ、視力が戻ると、大助はようやく目を開き、驚愕した。
「な、なんだここは……う、宇宙?」
突如、現れた真っ暗な世界に大助はパニックしたように騒ぎ出した。
『これを見てほしい……』
「な、なんだよ?」
怪訝そうに大助はアラシードの目線の先を見た。
「なんだ……あの黒い黒点は?」
太陽の後ろ側にあると思われる黒い物体に大助は目をそっと細めた。
『光の波動……破滅の光だ』
「破滅の……光?」
『遥か何千年もの昔、君たちの世界を支配していた神……我々とは別種の本物の神は、己が醜さを隠すために、その強大な悪の力を宇宙へと放り投げた』
「じ、自分の悪を宇宙へ……?」
『不思議なことはない……神の美は絶対の価値。神の妬みを買い花にされた人間も存在する』
「あれは……神様みたいなものなのか?」
『邪神と言ったほうがいいだろう? 神たちはこの悪の塊を人間に処理させようとした。しかし、人々はそれを拒み、滅ぼされようとした』
「だが、俺たちは生きている?」
コクリッと頷き、アラシードは続けた。
『神に抵抗する力、それは自分たちで神を作ることであった……それが、私だ』
「……」
『強大な神も、人の強い想いには勝てず、逆に滅ぼされるかたちとなった。しかし、一度生まれた邪神の固まりは我々の力だけでは滅ぼすことができなかった』
「なぜ滅ぼせなかったんだ?」
『眠りについた邪心の卵は限りなく無に近かった……剣で空気を切れないように、我らの力でも邪心の卵は滅ぼせなかった……』
「それと、俺がここから帰れないとのどう関係があるんだ?」
ようやく本題に戻れると、大助は心の中でホッとし、アラシードを見つめた。
『私が本来の力を使うには心強き人間の力を借りねばならない……』
「……心強き人間の力?」
大助は一瞬、自分を指差し、驚いた。
『少女を助けるために危険を顧みず死地に飛び込んだ君の勇気に私は感動した。君の身体を貸してほしい』
「ちょっと待ってくれよ!」
腕を広げ、大助はうろたえるように叫んだ。
「邪心を倒す倒さないは別に、俺が君に身体を貸してなんの得があるんだ?」
『あの砂漠化現象は邪神の復活の前触れだ』
「え!?」
『今、君の大切なものは、破滅の光によって生み出されれた、宇宙獣に襲われている』
「ク、クルミが!?」
『大切な人を守るには私と君が一つになるしかない……力を貸してほしい』
「……」
アラシードの願いに大助は頭が割れそうになった。
要約すれば、正義の味方になれということだ……
そんな物、なる気はなかったが、クルミは守りたい。
でも、正義のために戦う勇気なんかあるわけない……
「ああ!」
混乱する頭を狂ったように振り、大助はヤケクソ気味に叫んだ。
「クルミを助ける力を俺に貸してくれ、アラシード!」
「心得た!」
アラシードの身体が大助の身体に吸収され、世界が真っ白に光り輝いた。
「はぁはぁ……いい加減きつくなってきたな?」
吉永は息苦しくなる肺に喝をいれ、なんとか走り去ろうとした。
「キャッ!」
だが、不意にクルミの足がもつれ、吉永と平次は同時に立ち止まり、叫んだ。
「クルミちゃん!」
「クルミはん!?」
駆け寄ろうとまた足に力を入れる二人だが、不意にガクッと足が大地についた。
「クッ……止まったから足に疲労が来た」
吉永はイザナギに向かって叫んだ。
「イザナギ! クルミちゃんを連れて、早く逃げろ!」
「え……でも!?」
「ここは俺と平次でなんとか時間を稼ぐ。そのあいだに逃げろ!」
「で、でも……」
「イザナギはん、ワイらに構う事はない! 早ぅ逃げて!」
「……」
戸惑うイザナギにクルミは心の中で助けを求めた。
大ちゃん……助けて……怖いよ……
ぶるぶる震えるクルミにゴーレムは彼女の前に立ち、その重い拳を振り上げた。
「クルミちゃん!?」
「クルミはん!」
「クルミちゃん!?」
大ちゃん……
クルミの頭の中にたくさんの大助の顔が思い浮かばれ、涙が溢れた。
「させるか!」
ドゴンッ!
「グォォォォォォォォ!?」
クルミを襲おうとしていたゴーレムの腕が突如、弾け飛び、平次は驚いた声をあげた。
「あれはパトカー!?」
ゴーレムの腕を跳ね飛ばしたパトカーに平次は首を左右に振り、警察官を探した。
「警察が助けに来てくれたんか!?」
「おい、空からもなにか来るぞ!」
「ジェット機!?」
ゴーレムに向かって襲い来るジェット機に平次は冷や汗をかいた。
「なんだか、学生が作った怪獣映画みたいやな?」
襲いてくるジェット機を破壊しようとゴーレムを残った左腕を振り上げた。
その瞬間、大地を走っていたパトカーが上空にいるジェット機に向かって飛び上がり、ロボットの下半身へと変形した。
「勇気合体!」
光に包まれたパトカーとジェット機の光が爆発するように弾け飛び、ゴーレムの身体を吹き飛ばした。
「勇気神アラシード!」
「アラ……シード?」
光の中から現れた巨大なロボットにクルミは言葉を失ったように目を瞬かせた。
アラシードは優しくクルミの顔を見て、頷いた。
「お前は私が守る……だから、安心しろ!」
「……ッ!?」
アラシードの声にクルミの目が大きく見開かれた。
「だい……ちゃん?」
満足そうに頷くと、アラシードは上空にいるゴーレムに向かって飛び上がった。
「勇気剣!」
右手に巨大な両刃の剣が現れ、握り締めると、アラシードはゴーレムに向かって振り上げた。
「必殺!」
チャキンッとゴーレムの身体が縦一文字に切り裂かれた。
「大光断!」
真っ二つに引き裂かれ、ゴーレムの身体から強い光が溢れ出し……
「グォォォォォォォォォォッ!?」
光と共にゴーレムの身体が大爆発した。
「……」
砂のついた剣を払うように振り、アラシードは静かにクルミを見た。
アラシードが去ると吉永は不思議そうにつぶやいた。
「なんだったんだ、あのロボットは……」
「さぁな……」
平次も首を横に振り、両腕を組んだ。
「敵やないと思いたいんやけど……」
「うぅん……」
胸の中で暴れる少女を見つめ、イザナギは慌てて吉永を呼んだ。
「渚ちゃんが起きたわよ!」
「本当!」
イザナギの言葉に吉永は嬉しそうに笑み漏らすが、すぐに申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ、ごめん……イザちゃんに渚ちゃん任せっきりで?」
「いいよ……クルミちゃんのことで頭がいっぱいだったんでしょう?」
「ごめん……」
シュンとなる吉永に渚の悲鳴が上がった。
「あぁ~~~~!」
完全に目を覚まし、渚は真っ赤な顔で大助を探した。
「あのお兄ちゃんどこ! よくも人を投げ飛ばしてくれたわね!?」
「……」
「……」
「……」
渚の言葉にイザナギも平次も吉永も辛そうな顔でうつむいた。
「大助……」
「大助はん……」
「大助くん……」
全員が陰鬱な雰囲気に立つと、クルミだけがなぜか明るい顔で遠くを見つめていた。
「クルミちゃん……どうしたの?」
ポンッと優しく肩を掴むと……
「あ!」
ドカッ……
「ウゴッ!?」
いきなり手を上げられ、アゴを強打した吉永は猛烈に痛そうにアゴを押さえた。
「クルミちゃん……ひどい」
涙目になる吉永を無視し、クルミは満面の笑顔で目の前の少年の名前を叫んだ。
「大ちゃん、こっちこっち!」
「大助……?」
アゴをスリスリ撫でながら、吉永は泣き出しそうな顔でクルミの見ている方向を見つめた。
「お~~い……みんな、大丈夫か!?」
「だ、大助はん?」
自分たちに向かって駆け寄ってくる大助の姿に平次は驚きのあまり言葉を失った。
「どうした、平次……凄い目になってるぞ?」
「そ、それはこっちのセリフや……」
「お兄ちゃん!」
「うわっ!?」
いきなり抱きつかれ、大助は顔を真っ赤にして呟いた。
「君はあの時の?」
「よくも、人を投げ飛ばしてくれたわね!?」
「あ、あの時は、ああするしかなかったんだよ!」
「そうだよ。あの時は、ああしないと、助からなかったんだよ?」
そういい、クルミは大助の腕に抱きついてきた。
「あ……こらっ!」
いきなりイチャつきあう大助を見て、吉永はからかうように指笛を吹いた。
「ひゅ~~……見せ付けてくれるね……ぶべっ!?」
鉄拳を与え、イザナギもなだめるように渚にささやいた。
「そうよ? ちょっと、乱暴だったけど感謝なしくっちゃ?」
「うぅ~~~!」
未だに嬉しそうに大助に抱きつくクルミを見て、渚は気に入らなさそうに叫んだ。
「こっち!」
「おわっ!?」
フリーになっていた大助の左腕に抱きつかれ、吉永はまたからかうように笑った。
「おいおい……ロリコンに走る気か、大助?」
ドゴンッ!
今度こそ本当に口が訊けないほどにコンクリの壁に身体を叩きつけられ、吉永は痙攣を起こしたように気絶した。
「ちょ、ちょっと、渚ちゃん! 大ちゃんの腕に抱きついていいのはクルミだけだよ!」
「私はお兄ちゃんにお姫さま抱っこされたんだもん! 責任とってもらうんだもん!」
「だ、大ちゃん!?」
「お、俺が悪いのか!?」
ギャーギャーと大声で騒ぐ大助たちに、平次は黄昏るように明後日の方向をむいた。
「完璧に遅刻やな……」
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私が個人的に代表するロボット小説です。
割かし初期に書いたため、今以上に文書が稚拙で幼稚です。
文法を気にしない方だけ読んでください。