暗殺者ゴラ
C1 モーテルにて
C2 牢獄にて
C3 貴族派密談
C4 実行
C5 逃亡の果て1
C6 逃亡の果て2
C7 逮捕
C8 処刑
C1 モーテルにて
仄かな囁き、甘い喘ぎ…。
ベッドの上で抱き合う男女。
大音響と振動、粉塵によりそれは中断される。
コンクリートの瓦礫を下に壁に現れた大穴につきだされた拳。
その先には淡い白と青の織りなす点滅に顔を照らされたロズマール王国ヴェイ級人型機構機甲師団団長であり、リザードマンハーフのゴラの横顔がある。
悲鳴をあげる男女。
ゴラ『ロズマール国王!!』
ゴラの頬には一筋の煌めきが伸びている。
間隙少ない軍靴の音が近づいてくる。
ロズマール共和国警官隊が勢いよくドアを開ける。
毛布に包まり互いに抱き合って怯える男女。
中に入った隊員が壁に開いた穴から号泣するゴラを覗きこむ。
隊員は尻もちをついてゴラを指さし、叫ぶ。
ロズマール共和国警官隊員『こ、こいつは指名手配中の国王軍残党のゴラだ!!』
通路の隊長、部下に手で指示を出す。
軍靴の音が短いスパンで鳴り響き、壁の穴のゴラを警官隊数人が円状に取り囲む。
そして、彼らはゴラに飛びかかると素早く手錠をかけ連行する。
隊長『…まさかこんな大物が捕まるとはな。』
警官隊長は腕組みをしながら、ゴラをまじまじと見つめる。
隊長『ゴラ!国家反逆罪及び…まあ、それに……覗きと器物破損の罪だな…で連行する!!さっさと歩け!!』
ゴラはうなだれながら、警官隊員達に引っ張られてその場を去る。
顔を見合わせる男女。
サイレンの音。
黒色の窓は赤色に染まり、それは遠ざかっていく。
C1 モーテルにて END
C2 牢獄にて
小鳥のさえずり。
通路を歩く看守。
警棒を手にあてる一定の間隔を保った音と、靴音が牢獄内に響く。
囚人『おい、随分と不機嫌そうな顔じゃねえか。』
音止む。
看守『ヘンッ、週末はパレードのお祭り騒ぎがあるってのに…俺はここでむさくるしいお前ら相手だ…。』
囚人『パレード?誰のパレードだ!』
看守『暴君を討ち取ったゼオン・ゼンゼノスのパレードだ。』
囚人『ホウッ、結構華やかなんだろうな。』
看守『恐らくな。…いい女がいるかもしれないのに。』
囚人『俺が一緒に行ってやろうか?』
看守『調子に乗るなよ。』
会話が終わり、牢獄内に響く音が再開する。
看守がゴラの牢屋までくる。
警棒が地面に当たり、音を響かせて転がる。
鉄格子の隙間から伸ばされた舌が彼の首に巻きつけられて鉄格子に張り付けられる。
次に鉄格子の隙間から出された手が抵抗する看守の頭を掴み、首を回転させる。
血飛沫が赤色の弧を描く。
勢いよく引きちぎられた看守の頭部は、天井に当たり、地面に落ちて、2、3回バウンドし、通路の奥に転がる。
看守の胴体は首の断面から鮮血を噴き出して地面に勢いよく倒れ込み、看守を殺した手は2、3秒静止してから引っ込む。
その後すぐに鉄格子の隙間から出された舌が看守の死体から鍵を奪う。
鍵を開ける音がしばらく鳴り、牢屋から返り血を浴びたゴラが現れ、他の囚人のざわめきが巻き起こる通路を駆け抜けて脱獄する。
C2 牢獄にて END
C3 貴族派密談
ロズマール共和国首都ロズマリー、ハビタ大聖堂地下には王党派の重鎮ゴーリキ、パリオンを含む大人数の貴族議員が集まっている。
貴族A『遅い!』
貴族B『まだ、あの男は来ないのか!!』
貴族C『いつまで我々を待たせるつもりだ?』
ホビットのトルバドルが壇上に上がる。
トルバドル『…も、もう少しお待ちを。主はそのうち来ると思うので…』
ゴーリキが壇上に駆け上がり、トルバドルの胸座を掴み、押し倒す。
ゴーリキ『その内だと!我々を3時間も待たしておいて…。よもや、貴様の主は共和派に我々を売り渡すつもりではあるまいな!』
トルバドル『ひっ、そ、そんなこと滅相もございません!!』
トルバドルは両手を顔の高さまで上げ、首を横に振る。
石畳を踏みつけ、歩む音。
ゴーリキ、その他貴族たちは一斉に後ろを振り向く。
石段の上に現れる茶色フードの男。
茶色フードの男『遅くなくなりまして申し訳ない。』
ゴーリキ『フンッ、ようやくお出ましか。』
ゴーリキはトルバドルを投げ捨て、剣を抜いて茶色フードの男に駆け寄り、首元に剣を置いて静止させる。
ゴーリキ『随分と待たせてくれたものだな!!返答次第では…切り捨てる!』
茶色フードの男は微動だにせず、ゆっくりと言葉を発する。
茶色フードの男『実行役に相応しい男を見つけてきましたが、何分指名手配中故、警備の眼を盗むのに時間がかかってしまいましてな。』
ゴーリキ『で、その男はどこにいる?』
茶色フードの男『私の後ろにいますが。』
ゴーリキの茶色フードの男の後ろを見た眼は丸く見開かれた。
ゴーリキ『なっ!この男は元国王軍のゴラではないか!貴様、よりによって獣人!しかも誅された暴君、イレジスト先王直属の部下!』
茶色フードの男『はい。ですが、この男はあなた方が持て余すヴェイ級人型機構を最も上手く使えますよ。』
ゴラ『少しよろしいか』
ゴラは茶色フードの男の横から手を伸ばし、ゴーリキの剣を握り、へし折る。
滴り落ちるゴラの血が石畳に無数の染みを残す。
ゴラ『暴君とは我が主君に対する侮辱!』
ゴラは唖然とするゴーリキを睨みつける。
茶色フードの男はゆっくりとゴラの方を向き、その握りしめられた拳に手を置いて下げさせ、そして、ゴラに向かって頷く。
唾を飲み込む音。目を閉じ、口を閉ざすゴラ。
そして、瞼をあげ、ゴラは頭を上げ、周りの貴族を見回し、叫ぶ。
ゴラ『我が望みはイレジスト・ロズマール28世の仇!ゼオン・ゼンゼノスの首だ!!』
暫しの沈黙。
パリオンが立ち上がり、ゆっくりと拍手をする。
パリオン『よい回答だ。度胸良し。では、実行してもらうとしよう。』
ゴーリキは石段を駆け降り、パリオンの傍らまで来る。
ゴーリキ『俺の高価な剣が折られたのだぞ!!』
パリオン『所詮、獣人程度におられる剣。安ものでも掴まされたのだろう。』
ゴーリキは閉口し、うつむく。
パリオンは茶色フードの男を見上げる。
パリオン『手筈はそちらに任せるという約束だが、詳細はこちらに直に伝わるようになっているのだろうな。』
茶色フードの男『無論。』
パリオン『分かった。もう下がらせてよいぞ。この小男とともにな。』
ゴラは貴族たちを見、すぐに茶色フードの男を見つめる。
茶色フードの男『手筈は後程伝える故、控室に。』
トルバドル、ゴラの傍らまで駆け寄ってくる。
ゴラは頷き、背を向けて去る。
ゴーリキは茶色フードの男の方を向く。
ゴーリキ『して、アンセフィムの動向はどうだ。』
茶色フードの男『今、アンセフィム様に接近するのは非常に危険なことだと思いますが。』
貴族D『まあ、国王や指導者なんぞ誰でもいいのだがな。我らの権利さえ守ることができれば。』
貴族E『ともかく、あの蝙蝠をなんとかせねば平民出身の共和派、ましてや亜人や獣どもが我らを追い落としかねん。』
パリオン『その為のゼオン暗殺計画であろう。これを突破口にして、我ら貴族寄りの指導者に挿げ替えなければならん!』
壁を殴る音がハビタ大聖堂地下に木霊した。
C3 貴族派密談 END
C4 実行
オデオン山脈にて、待機するゴラの自機であるヴェイ級人型機構の両肩の砲塔は前方の人が賑わうレール市街道に向けられる。
コックピットのゴラは椅子に座り、街道に目を配らせる。土煙を巻き上げながら、多数の戦車と人型機構に囲まれた列の真ん中にゼオンの乗るパレード車。
ゼオンの前に運転手、横には巨乳の狼獣人のイシュトリッタールがいる。ゴラは進路上の十字路に標準を合わせ、引き金を引く。
ゼオンを載せたパレード車は急に止まり、ゼオンを振り落す。イシュトリイタールがパレード車から飛び降りゼオンを起こし、運転手に向かって口を動かしている。
運転手はゼオンの方向を向き、頭に手を乗せ、頭を何回も下げている。
ゴラの眼は大きく見開かれ、額から汗が流れる。
道路に当たった砲弾の爆風により、吹き飛ばされる車両、人多数。逃げ惑う人々により、ゼオンの姿は隠される。
人が打ちつけられた民家の壁は血で染まり、少数の四肢のもげ、程良く焦げた死体が散乱する。
吹き飛ばされた車両、人型機構により倒壊する建物の下敷きになった臓器が飛び出た死体多数。
パレードの護衛官ベンゾウリックスがゴーリキに駆け寄り、ゴーリキはゴラの方向を指さす。
ゴラは舌打ちし、自機の操縦桿を握り、前進するが、たちまちの内に50騎近いヴェルクーク級人型機構に囲まれる。
先頭のヴェルクーク級人型機構が一太刀あびせるが、剣はゴラ機の装甲に当たり折れる。
ヴェルクーク級人型機構がうろたえている隙にゴラは自機の腰部の収納スペースからグラディウスを取りだすと、それをヴェルクーク級人型機構のコックピットに突き刺す。
あふれ出す血がヴェルクーク級人型機構の外装を赤に染める。
ゴラは他のヴェルクーク級人型機構の剣をナイフで捌き、一騎一騎始末していく。
倒れたヴェルクーク級人型機構のコックピットからパイロットが脱出するが、味方のヴェルクーク級人型機構や木々の下敷きになり、圧死するもの多数。
そして、瓦礫の山と倒された木々、血だまり、そして、数騎のヴェルクーク級人型機構が残る。
土煙が巻き起こり、イシュトリッタールの駆るジープを傍らにベンゾウリックス、ゴーリキ率いる約100騎のヴェルクーク級人型機構の増援が現れる。
ベンゾウリックスの号令で、弓を射かけるヴェルクーク級人型機構。しかし、ゴラ機の装甲に全て跳ね返され、逆にゴラ機の主砲を受け、10騎程スクラップとなる。
ゴラは雄叫びを上げ、目の前のヴェルクーク級人型機構群に飛びかかっていく。
ゴーリキ機は後方に下がる。ベンゾウリックス機は剣を抜き前進する。
ゴラ機は前方に躍り出て、グラディウスを振り回し、奮戦する。
瓦礫と化したヴェルクーク級人型機構と何度も踏みにじられミンチとなったパイロット、そしてそれに加わる者達。
増援のヴェルクーク級人型機構を半分程度倒した後、ゴラは燃料メーターを見て舌打ちする。
ゴラ機から鈍い動きで振り下ろされたグラディウスをベンゾウリックス機の剣が弾く。
ゴラはコックピットから飛び出し、ベンゾウリックス機が上段から振り下ろした一太刀を自身のナイフで斬り払い、コックピットに戻る。
そして、ゴラ機はベンゾウリックス機にグラディウスで一太刀浴びせ、頭部からコックピット辺りまで斬りつけるがコックピットから出たベンゾウリックスに剣で振り払われ、脱出される。
ゴラはコックピットから飛び降りる。
イシュトリッタールはハンドガンの銃口をゴラに向けるが、ゴラ機は爆散し、横転したジープから投げ出される。
イシュトリッタール『…なんと凄まじい兵器だ!!これが…ヴェイ級…』
ゴラはイシュトリッタールのかすれた呟きを背に山中を駆けていく。
C4 実行 END
C5 逃亡の果て1
オデオン山の麓。
獣人の女の子が泣きじゃくり、獣人の男の子がなだめている。
ゴラ『やかましい!!』
大声と共に森の中からゴラが現れる。獣人の男の子は顔を引きつらせる。
獣人の男の子『ひぃ!ご、ごめんなさい!すぐに行きますから!!』
獣人の男の子は獣人の女の子の方を引っ張るが彼女は泣きじゃくり、動こうとはしない。
獣人の男の子『お、おい…頼むよ。ねぇ…』
ゴラは眉を顰め、眼を潤ませた獣人の男の子の顔を見る。
ゴラ『…何があった?』
獣人の男の子『えっ、あの…その遊んでたら転んじゃって…その。』
ゴラは獣人の女の子の傍まで行く。
ゴラ『ええい、…泣くな。たかが擦り傷ではないか。』
ゴラはしゃがみ、獣人の女の子の膝にある血を吐きだしている傷に手をかざす。
ゴラが目を閉じ、呪文を唱えるとその掌が白く輝き、その光が当たった部分の傷は治っていく。
泣き声は止み、覆い隠す拳は下げられ、泣き跡の残る顔を露わにする獣人の女の子。
獣人の男の子は獣人の女の子の膝とゴラを交互に何度も見、最後にゴラの方を向く。
獣人の男の子『凄いや、蛇の叔父さん!それってまほ~って言うんでしょ。』
ゴラ『ああ、ただの単純な治癒魔法だ。』
獣人の子供達はゴラを見上げている。
ゴラ『何だ!?…治ったんぞ。分かったらさっさと行け!俺はそれから…二度とここには来るな!今度来たら喰らってしまうからな!』
ゴラは下を伸ばし、口を大きく開け、凄まじい形相となる。そして、悲鳴をあげて駆けていく獣人の子供たちに背を向け、森の中へと入っていく。
C5 逃亡の果て1 END
C6 逃亡の果て2
オデオン山の麓。
森林に向かって呼びかける獣人の子供達。
獣人の男の子『蛇のおじさ~ん。』
森の暗闇からゴラが現れる。
ゴラに駆け寄る獣人の子供達。
ゴラ『まったく五月蠅い奴らだ!二度とここには来るなと言ったはずだが…』
獣人の女の子は手を胸に当て、ゴラを見る。
獣人の女の子『ごめんなさい。でも、その…昨日のお礼がしたくて。』
ゴラ『…なんだ。そんなことで…』
獣人の男の子はゴラを見上げる。
獣人の男の子『蛇のおじさん。おじさんはいい人なんでしょ。』
ゴラを見つめる獣人の子供達の瞳から眼をそらし、掌を広げ、それを見つめる。
ゴラ『…俺はいい人なんかじゃないさ。』
獣人の女の子は一歩踏み出す。
獣人の女の子『そんなことないよ。おじさんは怪我をした私を直してくれた。ありがとう。』
獣人の男の子『昨日はありがとう。おじさん。』
ゴラは頬を赤くし、そっぽを向く。
獣人の男の子『そうだ。おじさんをあそこに連れて行ってあげようよ。』
獣人の女の子『うん。』
獣人の子供達はゴラを引っ張っていく。
しばらくして、木々の隙間より、花畑で囲まれた開けた平地が見える。
ゴラ『…美しい…な。』
森林の闇より抜け出たゴラは呟く。
獣人の子供達は花畑に駆けて入っていく。
獣人の男の子『おじさんもはやくはやく!』
ゴラ『あ…ああ。』
ゴラはゆっくりと子供たちの方へ歩いて行く。
そして、花畑の中央に座り、オデオン山の麓の村を見渡す。
獣人の女の子はゴラに花で作った冠を渡す。
ゴラは獣人の女の子の方を見る。
ゴラ『…気持はありがたいんだが…。』
獣人の男の子はゴラに花で作った冠をゴラにかぶせる。
獣人の男の子『そんなことないよ。ガギグルス様みたいでカッコイイ。僕、戴冠式を見に行ったんだ。』
ゴラ『共和国指導者の…か。』
獣人の男の子。『うん!』
獣人の男の子は大きく頷く。
獣人の女の子『あ、きれいな蝶々さん!』
獣人の男の子は獣人の女の子の方を向く。
獣人の男の子『あっ、本当だ。』
獣人の男の子と女の子は蝶々を追いかける。それを笑顔で見つめるゴラ。
夕日が橙色に周辺を染める。
獣人の子供達夕日の方を見る。
そして、ゴラの方を向く。
獣人の男の子『あ、もうこんな時間か…早く帰らないと怒られちゃう。』
ゴラと獣人の子供達は来た道を戻る。
森林から抜け出る三人。
遠くに現れる街道を歩くロズマール共和国治安部隊員多数。
ゴラ『あれは…。』
獣人の子供男『…軍人さんか~。最近多いんだよね。と~さん、か~さんはゼオン様の命をねらったきぞく派狩りって言っていたけど…。』
ゴラの動きが止まる。
獣人の女の子『どうしたの?蛇のおじさん…』
獣人の男の子『ねえってば…』
ゴラは眼を閉じ、暫くして再び開け、獣人の子供達の顔をまじまじと見る。
獣人の子供達はゴラの顔を見る。
獣人の女の子『どうしたの?蛇のおじさん。』
ゴラ『おじさんは…』
ゴラは髪を掻き毟る。
ゴラ『おじさんはお前達を見て、久しぶりに故郷に帰りたくなってな。』
ゴラは獣人の男の子に数字の書かれた紙切れを渡す。
獣人の男の子『これは?…電話番号?』
ゴラ『そこが…本来叔父さんの帰るべき所だ。』
獣人の男の子は紙切れとゴラを交互に2、3回見る。
獣人の男の子『え、…で、でもこれは…』
ゴラは膝に手を置き、視線を下げて獣人の男の子を見る。
ゴラ『本来は自分でやるべきことなんだが…俺は家出同然で故郷を出てきてしまって…その手前なかなかできないんだ。その番号にかけて俺を見かけたと言えばいい。』
ゴラは視線を上に上げた後、下げ、獣人の男の子の顔を見る。
ゴラ『そういえば、まだ名乗っていなかったな。俺の名はゴラと言う。』
獣人の男の子『あ、僕はアニャン。』
獣人の女の子『私はルイシィ。』
獣人の男の子は笑顔でゴラの方を見る。
獣人の男の子『へへ、おじさんもなかなかかわいいところあるじゃない。そういうことなら…』
ゴラは立ち上がり、苦笑いを浮かべる。
ゴラ『はは、ああ、すまないな。』
獣人の男の子『じゃあね、蛇のおじさん。』
獣人の女の子『またね。蛇のおじさん。』
獣人の男の子『絶対、電話はしておくからね!』
ゴラは手を振りながら駆けていく子供たちが眼に映らなくなるまで眺める。
C6 逃亡の果て2 END
C7 逮捕
騒音。
ゴラは生い茂った木の葉の隙間から、オデオン山の麓を見る。
森林の周りをロズマール共和国治安部隊が取り囲む。
後方に現れた護送車のドアが開き、ロズマール共和国元老院議員ヴォルフガング・オーイーが出てくる。
ヴォルフガング・オーイーは運転手の方を向く。
ヴォルフガング・オーイー『後方の戸を開けておくように。』
運転手は頷き、護送車の後方の戸が全開になる。
ヴォルフガング・オーイーはオデオン山の方を向き、右手の白手袋で覆われた拳を背中につけ、背筋を伸ばして辺りを見回す。近寄るロズマール共和国治安維持部隊隊長。
ヴォルフガング・オーイー『私一人でもよかったのだがな。』
ロズマール共和国治安維持部隊隊長『何をおっしゃいます。相手はたかが一人とはいえ凶悪犯。オーイー様に何かあれば…』
ヴォルフガング・オーイー『お気づかい感謝する。』
ロズマール共和国治安維持部隊隊長『しかしながら、これだけの手勢ならばオーイー様が出てくる必要も無かったでしょうに。』
ヴォルフガング・オーイー『そうとも言えぬ。パリオン率いる貴族派の情報が直ちにほしいのでな。』
ロズマール共和国治安維持部隊隊長『あ…そ、そうですね。そういえば…』
ヴォルフガング・オーイーは口の前に人差し指を立てる。
ゴラは両手を上げ、オデオン山から出てくる。
ロズマール共和国治安維持部隊が円状にゴラを包囲する。
ゴラ『俺の負けだ。抵抗する意思は無い。』
ゴラは、武装したロズマール共和国治安維持部隊が取り囲む中、まっすぐ護送車に向かう。そして、全開になっている後方のドアから護送車に乗込む。
護送車の後方のドアが閉まる。
しばらくして、助手席側のドアが開き、ヴォルフガング・オーイーが座り込む。
ヴォルフガング・オーイー『さ、出してくれ。コキュートス魔獄までな。』
運転手『は、はい。』
護送車は唸りを上げ、動き出す。
仄暗い窓に映る一軒家。
ゴラの眼に映えるロズマール共和国治安部隊から小切手をもらい狂喜乱舞する獣人の子供の両親。その方を向き、唖然とする子供たち。
ゴラは鉄格子に手をかけるが、それは蒼く光り、のけぞってしまう。
ヴォルフガング・オーイー『そこは特殊な作りになっているのでな。脱獄や自爆等は考えないことだ。』
ゴラはうつむく。
着信音が鳴り、ヴォルフガング・オーイーはひじ掛けのボタンを押す。
ロズマール共和国魔術技術長官リシュー・シィンがホログラムに映し出される。
ヴォルフガング・オーイー『ほう。リシューか。パリオンはなかなかの策士。率いる貴族派もなかなかの鋼将と聞く。そちらは攻めあぐねておるのではないのかな。ちょうどこちらは一仕事終わったところでな。私が直接行くとしよう。』
リシュー・シィン『いえ、その必要はございません。先程シーグ城が没落し、パリオンは討ち取られ、他の多数の貴族は投降してきました。』
ヴォルフガング・オーイー『まさか…パリオンどもめ、一日ももたぬとは…』
ヴォルフガング・オーイーは舌打ちし、口髭を触撫でる。
ヴォルフガング・オーイー『流石はガグンと言ったところだ。療養中のゼオンに良い見舞いとなるだろうて。』
リシュー・シイン『事後処理がありますので私はこれにて…』
リシュー・シィンが一礼し、ホログラムが消える。
ヴォルフガング・オーイーはうつむくゴラの方を見る。
ヴォルフガング・オーイー『貴様は運のいい男よの。』
ヴォルフガング・オーイーは再び前を向き、運転手に手で指示を出す。
C7 逮捕 END
C8 処刑
ロズマール共和国首都ロズマリー、民衆が取巻くボーソー処刑場。
地面から首を突き出したゴラ、手前には鋸が置かれている。
その前方にはイシュトリッタールを傍らにして座るゼオン。彼の赤い猫目に映るゴラ。
民衆男A『何と鋸刑とは、元老院議会の提案とはいえ、ゼオン様は酷いことをなさるものよ。』
民衆男B『誰でもあの男の首に鋸をかけろなんて…。』
民衆男C『俺たちの手を血で汚せと言うのか?』
民衆女A『自分がやればいいのに…』
民衆男D『軍人のくせに!』
ゴラは顔を正面に向け、民衆の方に向けられていた瞳はゼオンの方へ向けられる。
ゴラ『フン、機械遊びで人を殺すのは上手いらしいが、生身となると臆するのか?観客にやらせようなどな。』
ゼオン『何!?』
ゼオンは立ち上がるが、イシュトリッタールになだめられ、再び座る。
ゴラ『いざとなると生身の俺を殺せぬのか?んっ、臆病ものが。自分の手を血で汚すことが怖いのか?怖気づいて他人任せか!あゝ、それでよく軍人が務まるものだな!!』
処刑場内に響き渡るゴラの声。
民衆男A『その通りだ!あいつを狙った貴族派を壊滅させたのはガグン様であろう。』
民衆男B『そういえば…確かにそうだな。おいっ、ゼオン!さっさとやれよ。それでも軍人かよ!!』
民衆男C『元傭兵上がりなんだろ!』
民衆女A『さっさと殺ちゃってよ!』
民衆達はゼオンに対して罵声を浴びせ始め、遂には『殺せ!』のコールが沸き起こる。
ゴラは民衆の方を見た後、閉口するゼオンを見る。
ゴラ『フハッ、民衆の期待に答えられぬ勇気しかお持ちでないか…ハハ、この様な情けない男が我が主君を討ち、撃墜王の異名を持つとは到底思えぬな。』
イシュトリッタールはゼオンに耳打ちする。ゼオンはゴラに歩み寄る。
ゼオンが鋸に手を伸ばした瞬間、ゴラは口から盛大な火を吹く。
イシュトリッタール『ゼオン様!!』
イシュトリッタールは叫び、ゼオンを押しのける。
ゼオン『イシュト、大丈夫か!』
ゼオンはイシュトリッタールに駆け寄る。
イシュトリッタール『っ…く、このくらい…ゼオン様…』
ゼオンの目に炭化したイシュトリッタールの腕が映る。
ゼオン『しかし、腕が…』
イシュトリッタール『あなた様のお命に比べれば、このくらい安いもの…っ。』
ゼオン『イシュト!…救護班を!救護班を早く!!』』
抱き合う二人の前では炎に包まれたゴラが狂喜の絶叫をあげている。
ゴラ『ハハハ!勝ったぞ!!ロズマール28世の仇、ゼオン・ゼンゼノスを討ち取ったーーーーーーーっ!ロズマール王国万歳!!ロズマール28世万歳!!!アーハハハハハハハハハ、アーハハハハハハ』
地面から突き出る炎に包まれた彼の頭。
イシュトリッタールは担架に担がれ、それについて行くゼオン。
ゴラの高笑いはしばらくして風と同化していく。
処刑場の周りを取り囲む民衆たちはぽつりぽつりと去る。
C8 処刑 END
END
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