No.304732

School days

ないるさん

井沢君が、修哲小から南葛中に編入した、中学1年の春のお話。

2011-09-21 14:13:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2716   閲覧ユーザー数:952

School Days

 

 

 

天才は、偏ってるって言うけど、偏り過ぎてて、当人は生きにくいのかもしれないな――――。

 

 

 

 

「あ…、俺だけ違うクラス。」

井沢は、掲示板に貼り出されたクラス発表を見て、思わず呟いた。

 

中学1年の春、修哲小からここ南葛中に編入した井沢・滝・来生・高杉達。

ドイツへサッカー留学した若林からの助言、

『全国小学生選抜大会で得点王になった、大空翼と一緒のチームの方が、個々のレベルアップに繋がるだろう。』

を受けて、四人仲良く南葛中に編入してきたのだ。

 

が、何とその四人中、井沢だけが1人別のクラスになってしまった。

 

「おい~、ちょっとオレさみしいんだけど!」

「何、弱きになってるんだよ、天下の井沢君が。」

「そうだよ、何ぶってるんだよ!」

「いやいやいや、ここはもう修哲じゃないんだから!」

 

 

昔からライバル関係の修哲と南葛。その為、修哲小から南葛中に編入する者など、ほとんど皆無の為、井沢達にとっては完全にアウェイ状態である。

 

 

「それにオレ、実は結構人見知りするんだぜ。」

「知ってる知ってる。まぁ、最初だけだろお前が猫被ってるのなんて。」

「そうそう、その内、影でクラス牛耳ってんだろ。」

「影で牛耳るって、どんだけオレ黒いんだよ!?」

 

来生・滝に散々弄られた後、ようやく高杉がフォローを入れてくれた。

 

「あ、でも井沢、翼と石崎と一緒のクラスじゃないか。良かったじゃん!」

「…、あ、ほんとだ。」

 

南葛SCでチームメイトとなった石崎と翼。苦しい戦いを共に戦った仲間として、この2人に対しては既に仲間意識があり、

井沢としては、その2人の名前を聞いて幾分心が晴れた。

と、同時にあくまでサッカーをしている彼等の事しか知らなかったので、普段の生活での彼等がどんな風なのか、疑問が湧いた。

 

 

こうして井沢は、不安と好奇心を抱いて南葛中学に入学したのだった――――。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

「おう、翼。今日の朝、玄関で会った子覚えてるか?俺、スゲー好みでさ。」

「ごめん、石崎君。俺全然見てなかったよ。」

「なんでぇ~、相変わらずサッカー以外の事に興味持たねぇなぁ。んじゃ、今日の数学の宿題やってきたか?オレ、すっかり忘れてて、答え映させてくれよ。」

「ごめん、石崎君。オレも昨日はロベルトがくれたノートをずっと読んでて、すっかり忘れてたよ。」

「なんでぇ~、またロベルトノートかよ。まったくサッカーサッカーだなぁ。はぁ、また俺達、廊下に立たされる運命かぁ。」

 

 

(…会話のキャッチボールが成り立ってないんですけど、君達。)

 

 

石崎と翼の会話が否が応でも入ってくる。井沢はつい心の中で突っ込んでしまった。

何せクラスの席順は、あいうえお順で、井沢・石崎・大空、と見事に南葛SCのメンバーが並んでいるのだ。

 

「ということで、井沢~。今日も答え映させてくれるよな?」

 

それを見越してだろう、決まってこちらに話を振ってくる。

 

「…。」

 

「いいとも~!…て答えが帰って来ねぇけど?井沢先生~?お眠ですか~?」

 

「お前、いい加減にしろよ!?入学して一ヶ月、宿題やってきた試しが無ぇじゃん!

 それでよく今まで生きて来れたもんだなぁ?」

 

「やべ~、井沢先生、今日は、ご機嫌斜めだぜ。翼、お前からもお願いしねぇと。」

「うん、ごめん井沢君。悪いんだけど石崎君に宿題映させてやってくれないかな?俺はいいから。」

「俺はいいって…、それじゃお前だけ怒られるんだぞ?翼。」

「俺はいいんだよ、サッカーが出来ればそれでいいんだ。」

「翼、お前って奴は…。ううっ」

 

石崎は、泣く真似をしながら、うらめしそうに井沢を見る。

 

「…なんで、オレが悪い様な展開になるんだ…。」

 

こうして、2人の小芝居にまんまとはめられた井沢は、今日も自分のノートを広げてしまったのだった。

 

 

 

 

翼と石崎と一緒のクラスになって一ヶ月―――――。

 

 

彼等の事がだいぶ分かってきた。

 

 

石崎に対しては、大方予想通り。

 

勉強は出来ないがクラスのムードメーカー的な存在。しょっちゅう先生には怒られるものの、持ち前のガッツと猿知恵で

ピンチを潜り抜けていく頼もしい奴だ。

 

こいつは何処でも生きていけるだろうな。

 

井沢は内心、石崎に対して尊敬の念を抱くようになっていた。

 

 

 

一方の翼―――――。

 

 

正直、石崎とはまったくの逆。

 

 

こいつは大丈夫なんだろうか?

 

 

 

と、彼の将来が心配になってしまった。

 

 

サッカーにおいては、無敵状態な彼だが、サッカー以外の事となるとまるで駄目。

というか、基本サッカー以外の事に関してまったく興味を示さないのだ。

 

先程の石崎との会話もそうだった。

 

これで、コミュニケーションを取れなんて、無理がある。

 

しかし、幸いサッカー王国静岡の南葛市は、大変サッカーが盛んな地域なので、サッカーの話題で盛り上がる事が多く、現在はこのクラスに馴染んでいた。

 

 

 

(オレって翼に甘いのかな…。)

 

 

ノートを書き写す翼の頭を見ながら、溜息をついた。

 

 

(でも、オレがノート見せなかったら、それはそれで構わないんだろうな…。)

 

 

 

 

井沢の頭の中に、入学して1番最初の授業での事件が蘇る――――。

 

 

 

教師に問題を当てられた翼は、教師の話を聞いていなかった。

どうして聞いてなかったのか?と聞かれた翼はこう答えた。

 

「サッカーの勉強をしていたからです。」

 

と。

 

そしてロベルトノートを高々と掲げ、教師を絶句させたのだった。

(教師だけでなく、井沢も開いた口が塞がらなかった。)

 

 

その後、翼はその教師に職員室に呼ばれ、

サッカー以外の事もちゃんとやらないと、世の中生きて行けないぞ、と論されていた。

 

が、イマイチ理解されなかったようで、その教師は最終的に同じサッカー部の自分たちに、翼の面倒を見てやってくれ、

と頭を下げてきたのだった。

 

 

 

 

 

そんな事もあり、井沢は翼の事が放って置けなかった。

正直、ノートを写させたのも、翼の為だ。

 

 

これも長男として生まれた性か。

 

 

井沢は、ダメだと思いながらも、ついつい手助けしてしまう自分に溜息をついた。

 

 

(これ、オレの性格分かっててやってたら、相当やり手だな。)

 

 

目の前の翼のつむじを、グリグリと指で押してやった。

 

 

「翼、お前明日は便秘決定だな。」

「え~、ヒドイよ井沢君。」

 

 

 

修哲小から編入して一ヶ月。

井沢は、すっかり南葛中に溶け込んでいた――――。

 

 

 

********

 

 

修哲から南葛に移った井沢君が、南葛に馴染むまでのお話です。

面倒見が良い井沢君が好きです(^^)

 

つづく と思います。

 

 


 
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