真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第9章 前編「第2回三国会議」 情報整理
詠「それではこれより三国会議を始めるわ」
詠の宣言のもと、会議参加者全員が座りながら背筋を伸ばし、軽く礼をかわす。
今回の会議は、現在白帝城にいる軍師たちを中心にして行われる。
武官達は戦後処理で忙しいため、この場にはいない。
詠「まず最初の議題は、どちらにしようかしら?」
今回の会議で話し合われる大きな内容は二つ
一つは突如現れ、白帝城を襲撃した黒い集団について
もう一つは今まで長い時間をかけて行われていた各捜索隊の報告についてである。
雪蓮「捜索隊の報告のほうを最初にしたらいいんじゃない?みんな気になって戦の話なんか耳に入らないわよ」
蓮華「ちょっと!?姉様!?不謹慎ですよ!!まずは国や民に関する重要事項をですね・・・」
雪蓮「なら、蓮華は気にならないって言うの?」
蓮華「そ、それは・・・気には・・・なります・・・」
雪蓮の言葉に蓮華は言葉が詰まってしまう。
普通ならここで個人や身内のことを話し合うよりも、民のことを優先して話し合うべきである。
しかし、そうは言っても彼女達も人間だ。
気になること、思考の邪魔になることが頭の中にあれば重要なことも考えることができないだろう
華琳「先に捜索隊の報告をしましょう。一応、敵も追い払えたわけだし、少しの間は大丈夫でしょう。捜索隊の内容が気にならないといえばウソになるしね」
華琳は蓮華の顔を少し笑みを含めながら見やる。
蓮華「なによ・・・、別に私だけじゃないでしょ!?みんな気になるでしょ!?」
蓮華が顔を真っ赤にしながら、参加者一同の顔を見回していく。
一同は自分の表情から感情を悟られないよう、一斉に顔をそらした。
詠「はいはい、もういいかしら?まずは捜索隊の報告ね。それじゃあ、どの捜索隊から報告してくれる?」
雪蓮「んじゃ、はじめは私達から報告したらいいんじゃないの?亞莎、お願いできる?」
亞莎「はい!!では、僭越ながら報告をさせていただきます」
亞莎はすっと立ち上がって、手元にあった資料を一部手に取った。
それを見習い、他の者も呉の報告書を手に取る。
亞莎「白帝城から建業までの捜索については、残念ながら大きな収穫というものはありません。明命や思春さん達が村へ聞き取りもしてくれたのですが・・・」
蓮華「ええ、特に何も情報がないまま建業に着いちゃったからね」
先ほどまで顔を真っ赤にしていた蓮華も少し落ち着き、真剣な様子で捜索時のことを思い出す。
亞莎「はい、ですが、健業に着いてからいろいろとおかしなことが起こるようになりました。その件に関しましては雪蓮さまが報告してくださりますので、そのことをお願い致します」
雪蓮「はいはい~」
雪蓮は亞莎から話を振られると、手をあげて軽い感じで返事をした。
冥琳「雪蓮、真面目にしろ」
雪蓮「分かってるわよ~。それじゃ、話しますか」
雪蓮は軽い感じで返事をした後、座ったまま森で起こった出来事を話し始める。
すると、先ほどまで軽い感じだったのが一変して真剣な顔つきになった。
雪蓮「蓮華たちの捜索隊が建業に到着した後、会議が始まる前に母様の墓参りをしに行ったの。蓮華と小蓮、あと思春も連れてね」
華琳「母様って先代の・・・」
雪蓮「そう、孫文台のこと。会議の後じゃゆっくりしてられないって思ったから、先に済ませちゃおうと思ってね。それで、母様の墓参りが終わって帰ろうとした時に、賊に襲われたのよ」
詠「なんですって・・・大丈夫だったの?」
雪蓮「その辺は大丈夫。髪留めが撃ち落とされたくらいで、ケガとかしてないから」
華琳「まぁ、あなたに限って賊ごときに不意打ちでやられるなんて思ってないけど・・・」
雪蓮「そう・・・ね・・・」
華琳の言葉に雪蓮はなぜか心の奥が少しだけ痛くなった。
華琳も雪蓮の顔の表情が少しだけ変わったことに気付きはしたが、そのまま話を進めていった。
詠「それで・・・その賊は捕まえたの?」
雪蓮「追いかけたんだけど、最終的には逃げられちゃったわ。賊は全身を黒い布で覆った弓を使う“女”一人だけだったんだけど、相当の手練だったわ。あっ、あと、そいつが残していった矢羽があったわね。冥琳、持ってる?」
冥琳「ああ、これのことだな」
冥琳は黒布の女が残していった矢羽を机の上に置く。
鏃は雪蓮が黒布の女との戦闘が終わった際に、怒りに任せてへし折って森に投げ捨てられたため、残っていなかった。
雪蓮「見て欲しいのはここなんだけど、あいつらの旗の印と同じみたいじゃない?」
雪蓮は矢羽に記された「*」の印を指差す。
詠「確かに・・・同じものね」
雪蓮「でしょ?あの時は分からなかったんだけど、とりあえず白帝城を襲ってきた奴らの仲間に狙われたってことになるのかしら?」
稟「呉の地方にもこの印が・・・」
雪蓮「えっ?稟、どういうこと?」
稟の独り言に雪蓮が反応する。
稟「いえ、それは私達の報告の時にもお話しますので、今は続けてください」
雪蓮「そう?んで、賊を逃がしちゃった後に明命と会って、村が襲われてるって報告を聞いたわけ」
詠「やはり、どの地方でも村の襲撃事件が起こってるのね」
亞莎「村襲撃の報告は雪蓮様たちがお墓参りに行かれて少し経った後に入ったんです。なので、明命に頼んでお三方に報告に行ってもらいました」
亞莎は雪蓮の話を補足する。
雪蓮「明命と城に戻ってから、祭と一緒にその襲撃された村へ行ったんだけど、その途中でも変な奴にあったのよね。カガミっていう女で、自分のこと幻術士って言っていたわ。・・・・・・、何か・・・思い出すだけで腹立ってきた・・・」
雪蓮はそのときの情景を思い出して、少し顔をしかめた。
黒布の女の時も幻術士のときも、自分は何もすることができなかった。
そのときの悔しさがまた蘇ってくる。
華琳「ということは・・・」
華琳はその雪蓮の様子をみて、報告の続きを促した。
しかし、その続きは雪蓮の表情を見れば一目瞭然だった。
雪蓮「また逃げられたわ・・・、というか・・・恥ずかしいんだけど気を失っちゃってね・・・目を覚ましたらもういなかったわ」
華琳「あなたが気を失うなんて・・・やはり“ただもの”じゃないわね。その女」
雪蓮の強さは改めて言う必要はないぐらい、皆理解している。
その雪蓮の気を失わせたのだから、相手の力の程は計り知れない。
雪蓮「別に殴られてとかじゃないんだけど、幻術とやらでね・・・」
稟「その・・・幻術士とはいったい何です?」
雪蓮「私もよくわかんないんだけど、何か夢みたいなのを見せられたわ。私が死んじゃう夢、結構現実味があって気味が悪かった。祭は母様と戦わされたって言ってたっけ」
幻術に関しては雪蓮自身もいまいち分かっていなかった。
いや、いまいちどころかまったくもって分からなかったといってもいい。
見せられた夢も本当にあったことのように感じさせるものだったので、目を覚ました時、今が夢なのか、現実なのか混同してしまったほどだ。
稟「妖術とよく似た物でしょうか?」
雪蓮「そう考えて問題ないんじゃない?そういうことはあなた達に任せるわ」
冥琳「ふむ・・・調べてみる必要があるな」
冥琳は手元の紙を一枚取り出して、雪蓮の言葉を簡単にまとめていった。
詠「それで、村の方はどうだったの?」
女の話に区切りがついたと判断した詠は、次の話へと移した。
雪蓮「ええ、そのカガミって奴に邪魔されて一日休んだ後、村に到着したんだけど、ひどい有様だったわね」
詠「村人は無事だったの?」
雪蓮「それが不思議で全然いなかったのよ。途中で誰にも会ってないし、本当に人っ子一人いない感じ。それと祭が気付いたんだけど、村が荒らされて血痕も残ってるのに死体がなかったのよ」
詠「蜀捜索隊と同じ状況というわけね・・・」
詠は愛紗が持ってきた雛里の報告書を一枚手にとる。
雪蓮「蜀でも似たようなことがあったの?」
詠「ええ、まったく同じ状況よ」
そして、手に取った紙を机越しに雪蓮に手渡した。
詠「まぁ、あとで報告するんだけどね・・・」
雪蓮が一通り見終わった後、隣にいた冥琳にその紙を手渡した。
雪蓮「ほんとにどうなってんのよ・・・。まぁ、とりあえず村はそういう状況だったわ。村の捜索を一日かけて一通り終わった後は建業に戻って、今に至るってところかしら?」
詠「その間に建業では何もなかったの?」
亞莎「はい、一応雪蓮様たちを襲った賊を捜索したのですが、発見することはできませんでした。また、建業付近で一刀様の捜索及び情報収集も行ったのですがこれも特に情報はありませんでした・・・」
亞莎は少し伏せ目がちにしながら、残りの報告をしていった。
雪蓮と祭が村へと急行している間にも、建業周辺で一刀捜索の隊を出してはいたのだが、思うような結果は得られなかった。
雪蓮「呉の捜索は以上ね。残念だけど、一刀に関する有力な情報は得られず、ただただ問題をもって帰ってきただけになっちゃったわ」
詠「そう・・・、分かったわ。それじゃあ、次は魏の捜索隊報告を聞かせて」
華琳「稟、あなたに任せていいかしら?」
稟「御意、では、報告させてもらいます」
亞莎が着席した後、次は稟が立ち上がり手元の資料を見やすいように整理していく。
稟「まずは洛陽までの道のりに関しましては呉の報告と同じく、残念ですが“有力な情報はなし”としか言いようがありません」
蓮華「やっぱり・・・」
有力情報はなし
この報告を聞くたびに、会議参加者の気持ちは重くなっていく。
稟「春蘭様、秋蘭様もいろいろな村に聞き込みをしてくれたのですが、いい成果はあげられませんでした」
詠「そう・・・、洛陽に着いてからはどうなの?」
稟「はい、先ほど桂花からの報告書が届いたのですが、こちらも残念ながら・・・、それと気になる動きが出てきているようです」
詠「何なの?」
稟「私達が洛陽に到着する以前から問題になっていたのですが、天の御遣いが居なくなったという噂がかなりの速度で広まり、不安が高まっています。それが原因で変な宗教や賊の横行が増加傾向にあります」
蓮華「洛陽ぐらいの大きな町になるとそういった情報伝達の速度はやはり速いのだな」
大きな都市にはより多くの人が集まるというのは当たり前である。
人が集まる所に行商人などが集まるといったこともまた当然である。
その行商人が各地を旅し、得た情報を客や仲間に伝える。
そして、その情報はまた、別の人へと伝えられる
こうした過程で大都市にはより多くの情報が集まり、発信されるのである。
稟「その速度が私達の予測をはるかに凌ぐ勢いで広まっています。賊や害ある宗教と判断したものは見つけ次第、捕縛などの処置は取っていますが根本的な解決にはなっていません」
蓮華「呉地方は大陸の中心から少し離れているからそういった動きはまだ起きていないのね」
冥琳「そうです、蓮華様。しかし、それを“良い”ととらえるのか、“悪い”ととらえるのかは別ですが・・・」
やはり、建業も大きい町とはいえ、洛陽や白帝城といった三国の中心からは少し離れている。
なので、洛陽と建業とでは情報通達の速度に少しのラグが生じてしまう。
そのため、新しい文化や流行といったことは伝わりにくい。
今回は情報伝達速度が遅いと言うのが良い方向に転じたものの、国の発展という面からはあまりいい事とは言えない。
稟「これらの処置は風達に任せております。また、現在の洛陽周辺の捜索に関しても任せているのですが特に進展はないそうです」
詠「分かったわ。それ以降の捜索については?」
稟「白帝城で決定した通りに捜索を進めようと思っていたのですが、その矢先に青洲での村襲撃の報告を受けました。賊自体はどこにでもいるゴロツキだったのですが、思っていた以上に鎮圧するのに時間は掛かってしまいました」
詠「その理由が定期連絡にもあったカラクリのせいなのかしら」
詠は魏の報告書を整理した資料を取り出して、机の上に置く。
その報告書には村に設置されていた弩砲(どほう)の絵が描かれていた。
稟「その通りです。まぁ、カラクリを使用していたのがただのゴロツキだったというのが救いですね。少しでもちゃんとした軍師が一人でもいれば、状況は変わっていたでしょう」
ただのゴロツキが使うだけで、訓練された精兵達の足止めができた。
もしこのカラクリをもっと頭のきれる者が使用していたなら、いくら魏の精兵といえどもゴロツキを鎮圧するのにもっと時間がかかったことだろう。
詠「それで、賊はどうなったの?」
稟「村を襲撃した賊共は数人捕縛することができました。村人も監禁はされていましたが、皆さん無事でした」
蓮華「ということは、話を聞けたの?」
稟「はい、賊は何者かに雇われたらしく、その依頼者に言われるまま村を襲撃したそうです。カラクリもその依頼者から設計図をもらったり、現物をもらったりしたらしいですね。あと、村の倉庫に大量にカラクリが保管されていました。その一つがこれです」
稟は椅子の後ろから、一つカラクリを取り出す。
詠「なに・・・これ?桔梗の使っているやつに似てるけど」
そのカラクリの見た目は大きな筒状の物で、桔梗が使う豪天砲のようなものだった。
稟「名前はよく分からないんですが、私もそう思います」
冥琳「こんなのがいっぱいあったのか?」
冥琳がスッと立ち上がり、そのカラクリを手で触ってみる。
その触り心地からも重厚感を感じることができた。
そして、このカラクリは人を殺すために作られた物なのだと改めて感じ取った。
華琳「私も春蘭と一緒に見たんだけど、かなりの量だったわ。大きさも小さな物から大きな物までかなりの種類はあったし、見た目だけじゃどんなカラクリかなんて想像もできなかったわ」
稟「幾つか持ち帰っていますので、あとで分解してもらって詳しいことを見てもらうつもりです」
魏には真桜をはじめ優秀な技術者(カラクリ技師)が大勢いる。
そのカラクリを分解して、構造を調べ、さらにそれを自軍でも取り入れようとするのが稟の考えだった。
亞莎「でも、何故わざわざカラクリの設計図なんかを渡したのでしょうか?全部完成したものを渡した方が早いと思うのですが・・・」
冥琳「カラクリの性能の検証と実証というのが一番考えやすい所だな」
蓮華「でも、賊に設計図を渡すだけで作れる物なのかしら?」
稟「もしそれで作れることができたなら、材料があれば誰でもカラクリを作れると言う事になりますね」
華琳「その実証もしたかったのかもね」
現時点のカラクリの多くは真桜のようなカラクリ技師が作っている。
しかし、その設計図があれば誰もが作れるようになってしまう。
一見、良いように見えるが危険なカラクリが紙一枚見るだけで作れてしまうと言うことになる。
字が読め、材料があるということが前提条件だが、大体そういうものに手を出すのはそこそこの教養、財力を持っている者達である。
これは非常に危険としか言いようがない。
稟「それとその倉庫の中から一つ軍旗が発見されているのですが、そこに描かれていたのがその矢羽の印と同じ物でした。そのことからおそらく、呉での村襲撃の犯人とこちらの依頼者とがなんらかでつながりがあることが考えられます」
冥琳「極論をいえば同一人物の可能性もあるわけだ・・・」
稟「村襲撃に関しての報告は大体以上です。幽州方面には秋蘭様が向かっていますので、その報告を待っているところです」
最後に稟の言葉で魏の報告の終了が告げられた。
詠「結局、魏地方でも有力情報はなしということね・・・」
詠「次は蜀の報告なんだけど、愛紗が戦後処理に出てるし、朱里も雛里もいないから僕が報告するわ。報告書に関しては愛紗や朱里からもらってるから大体は大丈夫よ」
月「詠ちゃん、がんばってね」
詠「がんばることでもないんだけど・・・、コホン、まずは成都までの道のりでの捜索情報は、他と一緒で特になしなんだけど、愛紗が成都付近の森で正体不明の女から『北郷一刀はこの世界にいる』と言う話を聞いたらしいの」
「えっ!?」「なんですって!?」
この言葉に一同の空気が一変する。
はじめの“特になし”と言う言葉に落胆の色が見えたのだが、愛紗の話になったとたん、皆の目に光が戻った。
蓮華「詳細はどうなの!!」
蓮華は勢いよく席から立ち上がって、詠の方へと近づいていく。
そして、詠の肩を掴んで前後に揺すった。
蓮華「一刀は蜀にいるの!?無事なの!?ねぇ!!どうなのよ!!」
詠「残念だけど、そういった情報は得られなかったみたい。詳しいことはまた愛紗に聞いたらいいと思う。とにかく今は落ち着いて」
取り乱している蓮華に対して、詠は冷静にゆっくりと話をしていく。
雪蓮「蓮華、落ち着きなさい。報告が聞けないでしょ」
蓮華「・・・・・・、ごめんなさい」
雪蓮の言葉の後、蓮華は一言謝って静かに席に着いた。
詠「続けるわよ。詳しい情報は聞けなかったけど、その女の言葉を信じるなら北郷一刀は“捜せば見つかる”ってことよ」
この愛紗の報告は最低の想定であった一刀天帰還の可能性を覆すとても有益な情報なだけに詠も“捜せば・・・”の部分を強調してみせる。
華琳「でも・・・本当に信じられるの?その女?」
冥琳「私もその報告については聞いたが、正直、五分五分と言ったところだな。いや・・・もっと低いかもしれない」
白帝城において、最初にこの報告に目を通したのが冥琳だった。
話だけを聞けば、かなり明るい報告である。
実際、その報告を冥琳から口頭で聞いた月と詠の顔は一刀がいなくなって以来、一番良い顔をしていた。
しかし、その報告書に目を通すと“本当に大丈夫だろうか”という疑惑が出てきてしまう。
詠「そうね・・・僕もそう思う。資料に目を通してもらったら分かるけど、極めて怪しい人物なのよ。だけど・・・信じたいわね・・・」
雪蓮「まぁ、いままでの報告の中で一番の明るい知らせといったところかしら?皆のやる気にも繋がるでしょう。ねぇ?華琳・・・ってどうしたの?」
雪蓮が華琳の方を見やると、顔を伏せがちにして手で顔を覆っていた。
華琳(よかった・・・。まだ・・・大丈夫・・・ほんとに・・・)
雪蓮「ねえ!!華琳!!!」
華琳「えっ!!!どうかしたかしら!?」
雪蓮「今の話、聞いてたの?ちょっとは希望が持てるって話をしてたのに」
華琳「え・・・ええ!!聞いてたわ!!!少し驚いていただけよ!!」
雪蓮「それだけにはみえないけど~~」
華琳「うるさいわね!!詠!!先に進めて!!!」
雪蓮が華琳をからかっていると、華琳の頬が少しずつ赤くなっていった。
華琳はそれを気取られまいと少し大きめの声で詠に続きを促した。
詠「えっ・・・うん、わかった」
詠は華琳の予想外の声の大きさに少し戸惑いながらも、次の報告所に手を伸ばした。
詠「成都に着いた後の会議で南蛮や涼州、成都辺りの報告があったけど情報は特になし。それで、その会議の途中で漢中の村が襲撃されたと言う報告が入ったわ」
蓮華「やはりどこの地方でも起こってるのね」
詠「漢中には愛紗と鈴々、雛里の三人が向かったんだけど、村の状況はさっきの呉の報告と同じ、生存者もいなければ死体もないというかんじ・・・、それで、あちこちに黒兜が落ちていたらしいわ」
冥琳「黒兜か・・・今回の敵もかぶってたな」
詠「そう・・・、だから、これも同一集団の仕業と見て間違いないと思う。あと、村捜索途中で愛紗が変な男二人と会ったみたいね」
雪蓮「また変なのが出てくんの?で、どんな奴?」
愛紗『それは私がお話しよう』
雪蓮が詠に訊ねたとき、その答えは扉のほうから聞こえてきた。
見ると扉がゆっくりと開いていき、愛紗が中へ入ってきた。
詠「戦後処理は終わったの?」
愛紗「大体は終わった。あとは星たちがやってくれるそうだ」
詠「そうなの、なら、お願いしようかしら」
愛紗「承知した」
愛紗は詠の隣の席に座り、漢中での話を始めていく。
愛紗「私が会ったのは白髪の男で、ツルギと名乗っていたな。少し手合わせをしたんだが、相当腕の立つ者だった。本気を出さねばこっちがやられてしまうほどにな」
華琳「へぇ~、愛紗にそこまで言わせるなんて相当の奴ね。もっと具体的に聞きたいわ」
華琳は体を少し机に寄りかからせて、興味津々に愛紗の話に耳を傾ける。
愛紗「武器は今まで見たことないぐらい薄い刃をした剣だった。あと、気を操る能力に長けているように思えたな。真っ赤になるまで気を纏わせた剣の威力はまさに絶句するほどだった」
雪蓮「春蘭並の実力者ということね」
愛紗「印象を言えば、戦闘での凪の良い所を春蘭に加えたと言う感じだな。性格はまさに春蘭と言う感じだが・・・」
華琳「ふ~ん、で、結果はどうなったの?」
愛紗「敵にもう一人黒布の男がいてな・・・。そやつに邪魔されて逃げられてしまった。その時に、やつらが軍旗を残していった。黒布の男は実際には話してないんだが、真桜や霞みたいな喋り方をするやつだったから、印象に残っている」
華琳「その軍旗にもこの印が描かれてたの?」
華琳は机の上に置かれた矢羽を指差す。
愛紗「いかにも、今は詠が持っている」
詠「その軍旗の話は今回の戦闘を振り返る時にもするから今は置いておくけど、大体蜀からの報告はこれで以上になるかな」
そして最後に、詠の言葉で蜀の報告は締めくくられた。
華琳「結果的に蜀の報告が一番一刀を捜す手がかりになるかしら」
稟「それ以外は“特になし”ばっかりだし・・・蜀の情報も信憑性は低そうですね」
亞莎「でも、捜せば見つかるかもしれないというのは、ちょっと希望が見えたような気がします!!」
冥琳「そうだな・・・、まぁ無駄にはならなかったということだ。それに、この捜索を通して今のこの国の異変にも気付くことができたのも大きな収穫だった」
詠「捜索隊からの報告はこれで以上にかしら?」
詠の言葉に一同がコクンと頷く。
詠「なら、次は今回の白帝城襲撃についての会議に移るわ。みんな手元の資料を見て」
詠は席から起立して、資料を一部取り出した。
皆も気持ちを切り替えて、予め配られていた報告書に目を通していく。
詠「相手に関する詳細は不明。目的や首謀者といったこともまるで分かってない。だけど、今までの報告にあったように各地の村を襲撃している黒い集団と同一なのは間違いないと思う」
皆の顔を見回しながら、資料に目を通していく。
会議参加者は配られた資料に目を通しながら、詠の話に耳を傾ける。
詠「今回の戦闘は敵兵数およそ5万が荊州方面から白帝城へ進撃してきたわ。白帝城の被害はほとんどなし。一応撃退できたけど、後退させただけだからまだ襲撃してくる可能性があるってのは忘れないで。それと今までの報告で何回かこの旗の印が出てきてるけど、敵はこの旗の下に集まってるみたい」
詠は椅子の後ろに置いてあった旗を一枚取り出す。
そして、机の上にその灰色の軍旗を広げて見せた。
詠「この旗はさっきの話のとおり、愛紗が持ってきてくれたものよ」
華琳「捜索隊の報告からずっと気になってるのだけど、この文字がなんて読むのか分かる者はいるの?」
華琳の言葉に皆が一斉に首を横に振る。
雪蓮「冥琳もわかんないの?」
冥琳「調べては見たのだが・・・、すまない」
冥琳も雪蓮と敵が森で戦った際に残していったという矢の矢羽を、明命から受け取った時から調べてはいたのだが、結局見つけることはできなかった。
詠「でしょうね。この文字・・・・・・天の国の文字の可能性があるの」
華琳「なんですって・・・」
一同は予想していなかった言葉に少しだけざわめきが起きた。
詠「これを見て」
詠はまた椅子の後ろから竹簡を一つ取り出した。
この竹簡は愛紗が漢中から白帝城へ向かう際に、軍旗と一緒に持ってきた報告書だった。
皆がその竹簡の中身を確認しようとすると、決まって報告者の名前のところで目線が止まる。
華琳「一刀の報告書・・・」
詠「そう、それで一番見てもらいたいのはこの部分なの」
詠はその竹簡の末端を指差した。
そこには確かに「*」の文字があり、雛里の見慣れた文字で「補足」と書かれている。
詠「雛里が一刀から聞いた話だと、この文字自体に大した意味はなくて一般的には注釈や補足をしたい時に使う“記号”みたいな物らしいわ。もちろん私達の文化ではこんな文字は使わない」
冥琳「天界の文字か・・・通りで探しても見つからんわけだ」
冥琳や稟はその文字を興味深そうにまじまじと見つめる。
雪蓮「と言うことは、首謀者の名前とはまったく関係がなさそうね。でも、なんで敵が天の文字なんか知ってるのよ」
詠「そう、問題はそれなのよ。どこで、どうやってこの文字を知ったのか・・・」
詠のこの言葉に皆が一斉に考え込む。
一刀の報告書が外部に流出したというのは考えにくいし、そもそもどこぞの普通の人間がこの記号を見ても首を傾げるだけだろう。
詠「それにわざわざ旗にするぐらいなんだから、何かしらの意味があると思うのよ。それも何なのか分からない・・・・・・」
冥琳「ふむ・・・あまり考えたくはないが、敵に天の国の人間が居るかもしれないな」
詠「うん・・・雛里も同じことを考えてたみたい」
この記号は少なくとも三国の人間なら誰が見ても分からないだろう。
なら、その意味を知っていて、さらに理解している可能性があるのは天の国の人間だけということになる。
華琳「それはそれで脅威ね・・・」
冥琳「そうだな。北郷が天の知識を私達に教えてくれたように、敵も同じことをしているかもしれない」
稟「こっちが思いも寄らない方法を取ってくるかもしれないですね」
亞莎「魏の報告にもあったカラクリの件にも何か絡んでそうですね」
詠「とりあえず、敵がこの旗の下に集まってるってことと、敵にそういう奴がいるかもしれないってことだけは覚えておいて」
詠「旗に関して現時点で分かることはこれぐらいかしら・・・。次は具体的に今回の戦の話に移るわ」
話は軍旗の話から今回の白帝城襲撃の話へと移る。
詠「いろいろと分からないことが多すぎるの。まずはなぜ別の主要な城を攻めずに、すぐに今の三国の中心である白帝城を攻めてきたのか」
戦の鉄則といえばまず、自軍が優位になるように、補給地点や重要地点と言ったところを確保することからはじまる。
特に他国を侵略するときには中継地点や補給地点などになりえるため、よりその重要性が増してくる。
しかし、今回はそのようなことはせず、まっすぐに白帝城に向かってきたらしい。
確かに途中にある幾つかの砦は落としてはいたようだが、すぐにそこを破棄して白帝城へ向かっている。
詠「それに“なぜ今攻めてきたのか”ってところも分からないわね」
亞莎「急ぐ理由があったとか、今が攻め時と思ったとかそんな感じでしょうか?」
詠「それは、華琳とか流琉で話し合った時にも出たんだけど、一旦あいつら城の前で停止して一晩過ごしてるでしょ?それに次に攻めてきたのは昼前・・・急いでいるのなら到着しだい襲ってくるだろうし、攻め時と思ってるならなおさら考えにくいわ」
冥琳「しかし、敵は何かしらを考えて襲撃しているわけだ。絶対何かあるはずだ」
雪蓮「案外何も考えてないのかもよ?兵の練度もあんな感じだし・・・ただ白帝城に来るまでに疲れていただけとか・・・」
蓮華「いや・・・姉様、さすがにそれはないと思いますが・・・」
雪蓮は“そう?”と言った様子で蓮華の顔を、少し首をかしげながら見る。
その様子をみて蓮華と冥琳は小さくため息をつく。
月「でも・・・・・・、今が攻め時かもって思う気持ちは分からないでもないんですよね・・・」
詠「どういうこと?月?」
月「うん・・・素人考えだと思うんだけど、今このお城って捜索隊とかで多くの兵士さんが外に出てるでしょ?だから、この城は今は手薄なのかもって思うのも分からなくもないなって思ったの」
詠「まぁ・・・分かるけど・・・・・・なら何ですぐに攻めてこなかったのかしら?」
亞莎「攻め込む準備でもしてたのでしょうか?」
月と詠の会話に亞莎が割ってはいる。
冥琳「いや、それなら万全の体勢で攻め込んだ方が効率がいい。考えにくいな」
亞莎「なら、準備ではなく、何かを待ってたのではないでしょうか?」
亞莎の隣にいる冥琳がその考えを否定すると、亞莎はすぐさま次の可能性を提示する。
稟「指示、命令をですか?」
亞莎「そうです。5万となれば連絡体系を構築するのも一苦労でしょう。敵の錬度も低かったようですし、そういうものがうまく構築できていなかったから戸惑ったのではないでしょうか?」
詠「まぁ、戦いの素人で訓練もろくに受けてないなら、連絡体系の混乱も考えられるわね」
冥琳「だが、本当にそれだけだろうか?」
冥琳は手元にある資料から何かを探している
そして、それを見つけると、そのまま話し始めた。
冥琳「これは第一陣からの報告なのだが、敵前衛は何も行動をせずジッとしていたそうだ。何度か細作も放ったらしいが特に慌しい動きもない。普通に酒盛りをしていたらしい。少なくとも白帝城に到着した晩は戦おうとする意欲が見受けられない」
華琳「もし連絡体系が崩れていたならもう少しは慌てていてもいいのではないかってこと?」
冥琳「そうだ。それに敵はこちら側から反撃してこないということをまるで知っているかのようだ。晩に酒盛りをするくらいだからな。警戒心がなさ過ぎる」
今回の作戦は三国側の準備が整うまで、城に近づけさせないように陣営を敷き、防備に専念するというものだった。
実際、前衛もその作戦通りに動いて敵が動くまで待機していた。
蓮華「つまりはどういうこと?」
冥琳「あくまでも推測の域ですが、敵は自分たちの準備の完了を待っていたのではなく、私達の準備が整うのを待っていたのではないかと言うことです」
蓮華「そんなバカな!?それこそ、そんなことをする意味が分からないわ」
冥琳「蓮華様、あくまでも推測です」
亞莎「でも、そうだとしてもですね。なぜ、こちらの準備を待つ必要があるのでしょうか?」
冥琳の言葉に亞莎が疑問を投げかける。
冥琳「それこそ敵の一人は二人を捕らえて話を聞くしかあるまい」
華琳「なら、敵はどういう基準でこちらの準備が完了したと判断するのかしら?」
亞莎に続いて、次は華琳が別の疑問を冥琳に投げかける。
冥琳「考えられるのはこちらの援軍の到着だな。襲撃してきた時は待機していたのに、魏軍が援軍として到着した次の日に交戦が始まっていることからも推測できる」
敵軍が白帝城を襲撃した直後は目立った動きはなかった。
しかし、その日の夕方に華琳たちの援軍は到着し、その翌日の昼ごろから第一陣の交戦報告が入った。
そして、その交戦した日の夜ごろに蓮華たちの率いる呉の援軍が到着している。
詠「でも、華琳たちが援軍に来る前でも、白帝城近くの城から援軍が来てたじゃない」
冥琳「援軍なら何でもいいと考えたのではなく、三国の主要人物が援軍として駆けつけたときを準備完了とするならどうだ?」
詠「主要人物が来たっていうそんな正確な情報をどうやって敵が得るのよ?」
冥琳「それなら、安易に思いつく手が一つあるではないか」
冥琳は口元を緩ませ、フッと小さく笑った。
この話がしたかったのだと言わんばかりに・・・
詠「敵の細作や暗部ってこと?そんなバカな!?この城の警備は万全よ。それに三国の王に関する情報なんか最重要機密みたいなものよ?そう安々と得られる情報じゃないわ!!」
詠は机をバンッと叩いて声を荒げる。
皆が捜索隊として出発した時から、今この時までの白帝城の守備を任せられているのは詠なのだ。
自分の仕事に落ち度があると言われたみたいに詠は聞こえてしまった。
冥琳「だが、それしか考えられまい。それに考えても見ろ。今回敵が襲撃してきた時、むやみに戦闘せずに守備を重視すると言う話をしただろう?その作戦内容を詳しく知っているのは軍師と将軍達だけだ」
今回の白帝城襲撃は突然起こった戦闘だった為、民達の避難などができていなかった。
だから、冥琳と詠は白帝城に近づけさせないため、篭城は選択せず、あえて野戦を選択した。
そして、作戦の基本方針は味方の援軍が来るまでは防衛に徹することとなっていた。
また、民に余計な不安を与えるのも避けたかったので、各国の主要軍師、将軍達にしかこの連絡は行っていない。
つまり、襲撃当初はこちらから攻めることはしないと言うのは中枢に近い将軍達にしか伝わっていないのである。
詠「でも!!普通の細作ごときに盗まれるような情報管理なんか、僕はしてないわ!!」
冥琳「ああ、それは私も知っている。詠の管理するこの城の情報管理は万全と言っても良い。普通の細作なら無理だろう。・・・・・・・・・普通ならな・・・」
その冥琳の最後の言葉に詠はハッとした驚きの表情を浮かべる。
その後も詠は机に手をつきながら、ジッと冥琳の顔を見つめている。
その間は会議の場に少しの静寂に包まれた。
華琳「それはつまり・・・・・・冥琳は私達の中に裏切り者がいる可能性があるって考えてるのかしら?」
そして、静寂を破った華琳のこの一言に場の空気が一瞬で凍りついた。
蓮華「な・・・何を言ってるのよ・・・。ね・・・ねぇ、冥琳、そんなこと考えてないわよね」
蓮華が確認するように顔を覗き込みながら冥琳に話しかける。
しかし、冥琳は蓮華の顔を見ようともせず、目の前をまっすぐ見据えたまま
冥琳「華琳殿の言うとおりだ。しかも・・・相当我ら中枢に近づいている者だ」
と再び断言する。
冥琳「それにそう考える理由はもう一つある」
華琳「何?」
冥琳「私と蓮華様たちが昨晩何者かの奇襲を受けたという話はしただろう?あれは白帝城に限りなく近づいた時だ。もちろん城外には警備兵も居ただろうし、防備も万全だったはずだ。なのに、襲われている。内通者がそこまで敵を誘導したと考えるべきだ」
冥琳が淡々と述べる言葉に会議参加者はただただ呆然とするしかなかった。
ある二人を除いて・・・
冥琳「それに、この可能性を考えているのは私だけではないはずだ。なぁ、稟よ」
冥琳から急に名指しで呼ばれたため、稟は少しピクリと反応してしまう。
しかし、稟は少しだけだが話を振られるのではないかと予想はしていた。
稟「そうですね・・・。ずっと・・・考えていました。それに、私や冥琳殿だけでなく朱里も同じことを考えていたようです」
詠「ええ・・・、その話は聞いてるわ」
稟の答えの後すぐに、それに同調するように詠も話し始める。
すると、蓮華は稟のある言葉に引っかかりをおぼえた。
蓮華「ちょっと待って、稟。『ずっと』ってどういうこと?」
稟「つまり・・・内通者の存在はこの襲撃戦から仕込まれたわけでなく、ずっと前から・・・一刀殿行方不明の時から仕込まれていた可能性があると言うことですよ」
蓮華「そんな・・・・・・私達の仲間にそんなことする人がいるわけがないでしょう!?それに、一刀がいなくなった時もみんなあんなに心配してたじゃない!!それなのに・・・」
蓮華は席から立ち上がり、信じられないと言わんばかりに声を荒げる。
月「詠ちゃん・・・、ホントなの?」
詠「うん・・・、朱里の報告書見るまで僕も分からなかったんだけど・・・、やっぱりこの城から誰にも気づかれず、アイツを連れ出すのは相当中枢に近づいている人間じゃないと考えられないわ」
冥琳「その者が情報を敵側に流していたなら、今の白帝城の守備の状況や、いつ、誰が援軍に到着したかなんて情報は筒抜けと思わないか?それに北郷誘拐に関しても、これほど強力な協力者はいないだろう」
蓮華「じゃあ!!いったい誰がそんなことしてるのよ!!!」
冥琳「その人物に関しては・・・大体見当がついてる・・・」
その冥琳の言葉にさらに会議の場がまたざわつき始めた。
そのうち、稟が静かに確認していく。
稟「一回目の一刀殿捜索三国会議の時のその人物の何気ない発言・・・ですね・・・」
華琳「一回目の会議って・・・まさか!!」
稟「はい、華琳様も違和感を持っておられたでしょう?その人物です」
華琳は自分が倒れるまでの会議の内容を鮮明に思い出していた。
確かに自分も気になった点が一つだけあったと・・・
冥琳「それに内通者は複数いると考えている」
稟「ええ・・・私もそう思います・・・。正しければですが・・・」
蓮華「そんな!!」
次々と話される内容に会議参加者のほとんどがついていけていない状況にある。
冥琳「稟もそう思うか?」
稟「はい、ですが・・・、決定的な証拠がないんです」
華琳「その者が内通者であるという証拠・・・かしら?」
稟「はい、それに一刀殿誘拐に関わったという証拠です」
冥琳「誘拐に関する証拠になりうるものなら・・・一つだけある」
稟「ホントですか!?」
華琳「それはなんなの?」
その場にいる者の視線が一気に冥琳に集中する。
冥琳「今から見せる。明命!!いるな!!」
明命「はい!ここに!!」
冥琳が明命をハッキリとしたとおる声で呼ぶと、冥琳の左後ろ側からシュバッと明命が姿を現した。
冥琳「例のものを・・・」
明命「はっ・・・、こちらになります・・・」
明命は腰にぶら下げていた袋の中からある物を取り出した。
明命の手には白い布が一枚、手に取られていた。
その白い布はところどころ汚れており、布の片側は真っ黒に黒ずんでいる。
明命「これがその者の荷物に付着していました」
明命はそう言って、机の上にその布を置く。
冥琳「明命とその部下には第一回の三国会議からその人物の監視をさせていたのだ。そして、この布を発見した」
冥琳はその布を手に取り、ヒラヒラと振ってみせた。
冥琳「しかし、これだけなら言い逃れされてしまうかもしれない。他に何かないと・・・な」
そして、掴んでいた布を机の中心へ軽くポンと放り投げた。
放り上げた布はヒラヒラと宙を舞い、机のちょうど中心辺りに落ちた。
華琳「ふふっ・・・」
すると突然、華琳が小さく笑みをこぼした。
長い付き合いの稟はその顔は何かを企んでいる時の顔だとすぐさま分かった。
稟「いかがしました?華琳様」
華琳「ならば・・・その人物から直接話を聞いたらいいじゃない・・・・・・ねぇ・・・」
その顔からは冷徹な・・・昔の覇王曹操を思い起こさせた。
それから約一刻が経過した・・・
華琳と蓮華、詠は現在白帝城にいる三国の有力武将すべてを王座の間へ緊急招集した。
翠「なぁ、星、急に召集なんていったいどうしたんだろうな?」
星「そうだな・・・警備指揮の私まで呼ばれるとは・・・会議で何かあったんじゃないか?」
翠「ご主人様に関することか!?」
桔梗「そんなの今まで一緒にいたワシらが知るはずなかろう。落ち着いて待っておれ」
星や翠、桔梗は今晩の見張り役を務めるはずだった。
しかし、急に愛紗からの伝令が入り、すぐさま帰還するようと伝えられたのだ。
そして、その後ろ側には同じく警備担当の任につくはずだった思春も控えている。
春蘭「うっ・・・、目がチカチカする・・・」
季衣「どうしたんですか?」
春蘭「やはり、慣れんことはするものではないな・・・。書類に目を通すのは秋蘭の役目なのに・・・」
季衣「ちょっとは慣れましょうよ・・・春蘭様・・・」
春蘭は額に手を当てながら、う~う~と唸っていた。
今回は秋蘭がいないため、慣れない戦後処理を自分でしないといけなかったのだ。
しかし、この頃秋蘭の雑務を手伝っていたこともあり、前よりも断然早くできるようになっていた。
流琉「こんなに皆さんが集まるなら何かお夜食でもお作りしたのに・・・どうしたんだろう?」
季衣と流琉は見張り役に出す夜食を作っている時に、招集がかかったのだ。
沙和「ふぁ~~あぁ、ねぇねぇ、凪ちゃん。眠くない?沙和はもう疲れすぎて、立ちながら眠れそうなの~」
凪「沙和・・・しっかりしろ!みなだって同じなんだ。我慢しろ」
真桜「なんや、もう眠たいんかいな。それやったらこれを使い―――」
沙和「真桜ちゃんの発明は何か怖いの~」
真桜「ヒドッ!!この頃、まともなもんしか作ってへんのに・・・」
凪はビシッと姿勢良く立っているのに対して、沙和は今にも倒れそうなほど左右にフラフラしている。
真桜は沙和に言われたことがショックだったのか、ヨヨヨッと地面に座り込んで泣きまねをしている。
そうしている間に、今まで会議に参加していた面子も王座の間に入ってきた。
華琳や蓮華、冥琳などが入ってきたことにより、先ほどまでの軽い空気が一瞬で吹き飛んでいった。
華琳「みんな集まったわね」
春蘭「一体どうなされたのですか?華琳様?こんな夜遅くに・・・」
春蘭は目を擦りながら、華琳に声をかける。
華琳「会議の報告を早くしておきたいと思ってね。あとは・・・重要なことを一つ、皆に伝えないといけないわ」
華琳の言葉により、場に緊張感が漂い始める。
詠「まずは、今回の白帝城の襲撃に関する会議の内容を伝えるわ」
そして、詠は会議で話された内容を順に伝えていった。
内容は会議で話しあわれたことを分かりやすくしたものだ。
詠「まとめると、全国規模で起こっている村襲撃の集団と今回の敵は同一集団であるということが高いということね」
桔梗「まぁ・・・大体は予想ついておったが、それだけを伝えるためにわざわざ呼び出したわけではあるまい。早く本題を話したらどうだ?」
詠「そうね・・・、ここからが一番聞いて欲しい内容なのだけど、いろいろ話し合って考えた結果、こちらの情報が向こうに漏れている可能性があるの」
翠「つまり、細作がこの城に紛れ込んでいるということか?」
翠がビシッと手をあげて、自分の思ったことを述べていく。
冥琳「そうだ。その内通者が今回の戦の作戦内容まで漏らしている可能性がある」
その翠の問いかけに関して、冥琳が一歩前に出て答える。
翠「でも、この城にそんなやつが忍び込める隙なんてあるか?」
冥琳「そう、この厳重な城の警備の中、普通の細作が忍び込み、重要機密を盗むのは不可能に近いだろう。“普通の”ならな・・・」
流琉「??あの・・・何が言いたいのかいまいちよく分からないのですが?」
情報が漏れていると言うことは、細作がこの城に紛れ込んでいるのかもしれないというのが普通の発想ではあるが、それを冥琳は簡単に否定した。
星「なら“普通じゃない”細作が混じっていると言いたいのか?」
星の言葉に冥琳は静かに首を縦に振る。
冥琳「それにそいつは、北郷失踪にも関わっている可能性がある」
「「「えっ!!」」」
北郷と言う言葉に、招集された者達が一斉に反応する。
星「本当なのか!?」
冥琳「こちらはあくまでも可能性・・・だがな」
翠「なら、こんな話し合いしてる間にも見つけられるだろう!!早く捜して、とっつかまえようぜ!!」
翠や星、春蘭はすぐさま武器を構えて、王座の間から出て行こうとする。
冥琳「いいや、捜しに行く必要はない」
しかしその行動を冥琳は制止する。
その言葉に翠と春蘭は勢いを殺され、前のめりになってこけそうになってしまう。
翠「どういう意味だよ!!早くしないと逃げ出しちまうかもしれないぜ!!」
春蘭「そうです!!華琳様!!すぐさま出撃許可を!!!」
華琳「あなた達・・・少しは落ち着きなさい・・・」
愛紗「ったく・・・お前らは・・・」
華琳と愛紗は相変わらずの行動にため息をつく。
星「それで・・・、それはどういう意味ですかな?」
星が改めて、冥琳の言葉の真意を確かめる。
稟「つまりですね・・・」
稟は言葉を発した後、次の言葉を紡ぐために胸いっぱいにゆっくりと空気を吸い込んだ。
その間、その場にはかなり重たい静寂が立ち込めた。
そして、息をゆっくり吐き出し終わった後、稟は正面を向き、次の言葉を紡いだ。
稟「今、この王座の間にいる者の中に、裏切り者がいるということですよ」
あとがき
どうもです。
いかがだったでしょうか?
ちょっと長めです。
やっと一部のクライマックスといった所です・・・?
次の話はこの黒天編の第一部のクライマックス?的な部分であり、第一部のネタバレ要素がふんだんにありますので、お気に入り登録者だけ閲覧可にしようかなと思ってたりします。
・・・ダメですか?(もしかしたらしないかもしれませんが)
また、仕事も落ち着いてまいりましたので、更新頻度も徐々に戻していけそうです。(まだまだ不定期になっちゃいますが)
なにせストックがありませんので・・・
あと、この物語は二部構成を言う風に考えていたのですが
忙しい仕事の最中に自分の妄想が爆発いたしまして、急遽三部構成にすることにしました。
もう少し経ったらその予告をあげたいと思っています。
では、最後にタイトルだけの予告を・・・
次回 真・恋姫無双 黒天編 第9章 後編「第2回三国会議」 裏切り者
では、これで失礼します。
あと一言だけ・・・
続ける気はありますので、その辺はよろしくお願いします。
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どうもお久しぶりです。
ホントに久しぶりですいません。第9章 前編になります。
今回から誰が話しているか分かりやすいようにしてみました。