この作品は恋姫無双の二次創作です。
三国志の二次創作である恋姫無双に、さらに作者が創作を加えたものであるため
人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので
その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。
上記をご理解の上、興味をお持ちの方は 次へ をクリックし、先にお進みください。
「一刀殿というか……舞流のことなのですが、その……連れていくことは可能でしょうか。私達が」
愛紗の突然の頼みに驚いたものの、一刀はそれを表情には出さず、腕を組み、顔を下にむけた。
突然話のネタにされ、舞流も困惑していたがそれも一瞬のこと。
真面目な話と悟ったのか、舞流としては珍しく静かに目を閉じる。
舞流なりに思案を巡らせているのだろう。
そして一刀はゆっくりと顔を上げる。
一刀の中でどのような考えが巡っていたのか定かではないが、驚くほど冷静な瞳で舞流を見、愛紗に視線を戻した。
「……それはうちの勢力が人材不足だって知った上での頼みだよな」
「……はい」
一刀の淡々とした台詞に動揺しながらも、しっかりと頷く。
そんなやりとりが数秒。
一刀は諦めたように首を振って両手を上げた。
「意思は固いようだから俺は何にも言わない。もし、そうなったら俺が白蓮と燕璃に話を通すよ。だから、あとは舞流次第だ」
その一刀の言葉に桃香と愛紗の二人はとりあえずホッと一息つき、再び真面目な顔で舞流を見据えた。
舞流は眼を閉じたまま。
寝ているのではと錯覚させるほどに彼女と、彼女の周りの空気は静かだった。
そして、沈黙に耐えきれなくなった桃香が、口を開こうとした時
「もし」
舞流が眼を閉じたまま口を開いた。
その愛紗に似ている凛とした声が東屋に響き渡る。
昼間の陽気に囀る鳥も鳴かず、万物全ての呼吸が止まったのではと思ってしまうほどに。
「もし、最初に出会ったのが関羽殿であったならば、おそらく某は貴方に仕えていた」
「それは……」
「忠臣二君仕不」
静かに眼を開いた舞流は
愛紗の言葉を遮り、言葉を続ける。
「某の主は殿ただ一人。これから先何があろうと、某は死する時まで殿に着いて行く。それが某の答えでござる。劉備殿、関羽殿、申し訳ござらん」
そう言って舞流は愛紗に深々と頭を下げた。
「……そうか。残念だ。一刀殿も、すみませんでした。私にしては珍しく欲を掻いてしまった」
愛紗も深々と頭を下げて、謝罪を口にした。
今のは、愛紗なりの我儘だったのだろうか?
この一カ月足らずの邂逅では分かるはずもないが、なんとなく一刀はその感覚を珍しいと感じていた。
「あ、あの。じゃあ…一刀さんは……駄目ですか?」
そしてこの局面で最も場に不釣り合いな質問が桃香の口から発せられる。
さすがに愛紗も驚きの表情で桃香を見た。
「……誘ってくれるのは嬉しいんだけどね。俺は白蓮に恩があるし、立てた決意もある。桃香も、白蓮が客将に取り立ててくれたことを恩に思っているんだったら、なにも言わないでくれ。それになにより、断られる方もそうかもだけど、断る方も案外キツイからさ」
前半は真面目に。後半は少し茶化すようにして一刀は苦笑いを浮かべながら言った。
その後、二人と別れ、東屋に残る一刀と舞流。
さっき見せた凛々しい面影はどこへ行ったのか。たまたま通りがかった白蓮から貰った甘味を嬉々として頬張る舞流を見ながら、本当は頭いいんじゃないか?という考えと共に、先ほどのやり取りを思い返して、一刀は深いため息を吐いた。
そしてその日の昼過ぎ。
城の前に主だった面々が集まる。無論、桃香、愛紗、鈴々の見送りの為に他ならない。
「桃香、気を付けてな」
「うん。白蓮ちゃんも元気でね」
親友二人は、どちらもぎこちなく笑い、互いの無事を祈る。
乱れに乱れているこの時代。いつ死ぬとも知れない時代なら尚更だろう。
「舞流。次に会うときは私を打ち負かすぐらいに強くなっていてくれ。そうでなければ私も張り合いが無い」
「関羽殿を打ち負かすぐらいでござるか!?うむむむ……ど、努力はするでござる」
師弟のような姉妹のような二人の間柄。
容姿に限定せず、二人はとてもよく似ていた。
東屋で漂っていた若干の気まずい空気も今や払拭されている。
やはり関羽と周倉。この二人はどこかで繋がっているのかもしれない。
「う~……星にも来てほしかったのだ」
「ははは、ここは居心地が良いからな。なに、そう拗ねるな鈴々。私の生き様は猫の如く。気侭に生きるのが私だ。雲が良ければ、そのうちまた肩を並べて戦うこともあるさ」
拗ねたように口を尖らせる背の小さい猛将、鈴々と、風のようにそれを受け流す気侭な星。
普段はふざけたような軽い調子が目立つ星ではあったが、何か思う所が有るようで、いつものように茶化したりはせず、優しい眼で鈴々を見ていた。
これが数時間後には酒を飲みながら城壁の上で寝転がっているなどどは想像したくないなぁ……なんて思いつつ、隣で静かにその光景を見ている燕璃に眼をむけてみる一刀。
「……なんですか?」
その視線に気付いていたのか、燕璃は一刀に視線を合わせることもせずに、問う。
すこしばかり驚いたものの、一刀も燕璃と同じように、お互いとの別れを惜しんでいる面々に視線を向けた。
「いや、燕璃は別れとか言わないでいいのかなーってさ」
「特に問題は無いでしょう。特別親しくなったわけでもありませんから」
「……そういうもんか」
「それに――」
いつもとは違う。珍しく多少の憂いを帯びた声色に一刀は燕璃を見るが、その唇は声を発することは無く。ただ、なにかを呟いて閉じられた。
手を振って去っていく桃香、愛紗、鈴々に気付き慌てて手を振って見送り、小さく
「……死ぬなよ」
と呟く一刀だったが、その隣では同じく燕璃も呟いていた。
先ほど呟いた言葉を、もう一度。
「……私の嫌な勘は、よく当たってしまうんですよ」
三人が見えなくなって、そこに居た面々も各々の仕事に戻るため動き始める。
そんな中、真っ先にその場を歩き去ろうとしていた星に近付き、隣に並ぶ一刀。
「星は行かなかったんだな」
「おや?まるで行ってほしかったかのような言い草ですな」
「そういうことじゃなくて。残ってくれたのは素直に嬉しいんだけどさ……昨日の夜、誘われたんだろ?」
一刀の言葉に一瞬、星は眼を細める。
が、すぐさまいつもの飄々とした表情を作り、一刀に相対した。
「見ていたとは、趣味が悪い」
「見てない。昨日の夜、たまたま厠に起きたら星の部屋の方から戻ってくる愛紗を見ただけだ」
「……ふむ。これが誘導尋問というやつですかな?」
「いや、そんな大層なもんじゃないだろ」
星の微妙に的を射ていない言葉に苦笑しつつ、無言で話を聞く態勢を取る。
それを星も察したのか一刀の顔を見、唇を軽く上げて笑みを作ると軽い調子でその口を開いた。
「なに、ここは居心地が良い。まだ発つ時ではないと思ったに過ぎませぬ」
「まだ?」
「えぇ。まだ」
『まだ』
一刀はその単語の意味をゆっくりと理解し、反芻し、咀嚼し、一つ息を吐いた。
「そっか。まぁ……なんだ。これからもよろしくな」
「えぇ。その時が来るまで」
星はそう言い、笑いながら去って行った。一刀はそれを微妙な表情で見送る。
星の在り方は気侭な猫の如く。もしそれを留めて置けるとするならば、それは――
「ほう……?本当にこの世界は不思議ですね。趙雲殿が蜀陣営に着いて行かないとは……いやはや。これが外史ならではの面白さといったところですか」
『于吉くん?その、ぶつぶつ言ってないで手を動かしてもらえませんか?』
「あ、すいません。左慈」
【あとがき】
真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-16
【 一時の別れ 星の真意と燕璃の勘 】
更新させていただきました。
さて、今回で黄巾党編は終了です。
黄巾党は失礼かもしれませんが前座的な扱いなのでこの先ちょいちょいは出てきますが、端役です。
今回の更新が終わり、改めて見返してみると
「黄巾党編短っ!?」
「桃香達出番少なっ!?」
「今回は白蓮も出番少なっ!?」
と、書いている本人にも関わらずツッコミを入れてしまいました。
書いていてなんなのですが、白蓮の出番を作れないと作者自身のテンションが落ちると言いますか、モチベーションが下がるというか。
いやまったく、見事なまでに悪循環です。
とりあえず一段落したということで(作者の中では、ですが)次は気持ちを切り替えて頑張ろうと思います。
……自分でキャラを設定して置いて、舞流のギャップが半端ないと思いました。
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真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-16
更新させていただきます。
いや、ほんとに物語を書くって大変ですね。
いつかは作者も、読者を引き込めるような物語を作ってみたいものです。