「報告します!現在、許昌内に賊が侵入したとのこと!」
華琳、秋蘭が遠征に出ている今、魏の政の統括を任されていた桂花のもとに報告が入る。
「それぐらいお前たちで何とかしなさい!こちらは今手がいっぱいなのよ!」
桂花が、頭から湯気を立てて怒鳴る。
昨日、華琳、秋蘭の率いる部隊が臨戦態勢に入っていたとの報告があったのだ。
「街には、凪や沙和がいるでしょう!?あの子たちに頼みなさいよ!」
「は!しかし!」
報告に来た兵の顔は蒼白である。
「敵は奇妙な風体をしており尋常ではない強さです!于禁様、李典様は敗北!さらに楽進様はこの報告が城に来た時点でかなりの苦戦を強いられていた模様です!」
「は!?沙和と真桜が敗けた!?凪が苦戦!?どうなってるの、詳細を報告しなさい!」
今度は桂花の顔色が赤から青へと変わる。
沙和、真桜が負けるのはまだ理解は出来る。
しかし、凪が苦戦?彼女は、先の二人と比べて格段に強い。
その凪が敵に押されている!?
桂花の脳裏には蜀や呉の面々の顔が思い浮かぶ。
…そんなわけない、彼女らとは友好な関係を築けていたはずだ。
とすれば、最近不穏な動きを見せていた五湖の連中だろうか。
少なくともはっきりしていることは今脳内にある情報だけでは何も判断ができないという事だけである。
「それが、先ほども申した通り、敵は見たこともない恰好をしており、攻撃する際、さらに肉体が変化し、口より爆発物を発射していた模様です!」
「爆発物…?…とりあえず、季衣、流々を出撃させて様子を見ましょう」
「了解しました」
「それと、華琳様にもこの状況を伝える馬を出しておきなさい」
先日届いた報告の真偽を確かめるという狙いも桂花にあった。
「御意」
報告に来た兵が走り去った後、桂花は一人ため息をつく。
「私は国の政治で忙しいのよ、街の警備はあなたの役目でしょう…一刀」
「ぐ…」
凪は後退しながら目の前の敵を見据える。
通りには民間人は誰もいない。皆逃げ出したのだろう。
敵を挟んで向こう側には沙和と真桜、その他隊員が横たわっている。
「ぁぁああああ!」
凪は敵の胸に拳を叩きつけるものの、利いている様子はない。
距離を取って気弾をぶつけようとするものの、敵は口から黒い何かを吐きだし相殺している。
「ビガランボグゲビパ ゾンデギゾバ(貴様の攻撃はその程度か)」
敵は意味不明な言語をしゃべっているが、そんなことを気にしている余裕は今の凪にはどこにもない。
気付けば城まであと数十メートルのところまで来ている。
「く…城に侵入されるわけには…!」
凪は唇をかみしめる。一刀が残してくれた平和が自分の力不足で崩れる。
そんな最悪の出来事が起こるのはもうすぐそこに来ている。
一刀に心酔しきっている凪にそんなことが耐えられるはずもなかった。
しかし絶望した凪の目に一筋の光明が目に入った。
「あれは…!」
凪の目には
「凪~!助けに来たよ!」「大丈夫ですか!?凪さん!」
ひどく場違いな声のトーンで援護に来た季衣と流々が凪のもとへと駆け寄る。
「うわ!何あいつ!?あれ人じゃないんじゃ…」
「う~んなんか見た目は((烏賊|いか))に似ているような…」
「烏賊!?じゃあ、あれ食べれる!?」
季衣が目を輝かせながら流々に聞く。
「いや、多分おなか壊しちゃうよ…季衣」
一瞬にして場の空気の変化に取り残された凪は先ほどまでの緊張も忘れ、ただただ目を点にして季衣と流々のコントを呆然と見ていた。
ふと、敵に目を移すと、怒りに震えた姿が目に入った。
「ギブグギギ(死ぬがいい)」
敵がそうつぶやいた瞬間、今までよりも、大きく早い弾が発射された。
「危ない!」
凪はほぼノータイムで気弾を放つものの、威力は雲泥の差、消すことは出来ない。
「…くっ」
相殺しきれないものの弾の勢いは削がれ、2人が避けるには十分な時間となっていた。
間一髪ローリングをして敵の墨を避けた二人は
「ありがと、凪!」「ありがとうございます、凪さん!」
と礼を言い、自省しつつ敵に向き直る。
「ん…?なんだろ…?あれ」
敵に目を移した季衣は敵の体から白い煙が噴出しているのに気づく。
「ギボヂヂソギギダバ(命拾いしたな)」
そうつぶやいた瞬間、敵は砦の出口に向かって走り出す。
「逃がさないです!」
流々は持っていた伝磁葉々を敵に投げつけるも、敵の皮膚にあたったにもかかわらず奇妙な手ごたえが返ってきて、きいている様子はまるでない。
が、流々の狙いはそこにはない。
葉々のワイヤーで敵をがんじがらめにする。
「捕まえました!」
流々がしてやったりという顔でワイヤーを手繰り寄せようとする。
しかし、敵の表面には粘液のようなものが分泌されている。
いともたやすくワイヤーの束縛を抜け出した敵はフン、と流々の攻撃を鼻で笑い、敵は出口へとひた走る。
「こっち、こっち!」
敵が上からした声に目を向けると、建物の天井に待ってましたと言わんばかりに季衣が岩打武反魔を構えて立っていた。
流々の攻撃を敵が受けてる隙に上に登ったのある。
「いっくよ~!それ!」
岩打武反魔を叩きつけようとするが、敵はかろうじてその一撃を避ける。
「あぁぁぁっっ!!」
敵がもう一度天井にいる季衣に構えなおした瞬間、その死角から飛び出した凪が敵の腹部に強烈な一撃を叩きこんだ。
「ググ、グ…」
いままで、どんなに攻撃をしてもきいている様子のなかった敵がうろたえる。
そんなチャンスを百戦錬磨の武将たちが見逃すはずはなかった。
「はぁぁぁぁぁ!」
凪がもう一発叩き込もうとするが、すんでのところで体制を立て直した敵は回避、このままでは分が悪いと悟り、地面に向かって渾身の墨を吐く。
耳をつんざくような爆発音とともに、現代のようなコンクリートや石畳などで舗装されていない道に土煙が上がる。
「ヅギン ボソギデジャス(次は殺してやる)」
「!?何を言っている? どこだ!」
1分ほど経ち土煙が晴れると、敵の姿はそこにはなかった。
「く…逃がしたか、次こそは必ず…」
凪は悔しさのあまり、握ったこぶしから血がにじんでいる。
「う~ん。凪ちゃん、終わったの~?」
「腹殴られて気持ち悪いわ。凪~大丈夫か~?」
戦闘開始早々気絶してしまっていた沙和と真桜が、今までの緊張の連続とは相いれない間延びした声を出しながら、見計らっていたかのようなタイミングで目を覚ます。
「ああ、大丈夫か?沙和、真桜」
先ほどまでの前回の殺気とは違う親しみのこもった眼を沙和に向ける。
「全然大丈夫じゃないの~。あのクソムシ野郎次見つけたら、ギッタギタにしてやるの~」
「いや…それはさすがに無理とちゃうか?多分次見つかったら殺されるで」
一瞬でやられてしまった沙和に対し、仲間が吹っ飛ぶ姿を目の当たりにした真桜は額に冷や汗を流しながら、沙和を諌める。
「ごめんなさい、凪さん。取り逃がしてしまいました」
とてとて、と流々が謝りながら凪のそばに寄ってくる。
「ぼくもごめんね~。もうちょっとだったんだけどな~」
頭をかきながら季衣も同様に近づいてくる。
「とんでもない!むしろ援護してくれたことに感謝しているよ」
いきなり謝罪されたことに凪はあわてて、否定して手を振る。
「にしても、なんやったんやろうなぁ…あれ。あんなん明らかに人やないやん」
「ああ…妖術かなんかだろうか?としても、あんな術は見たことがないぞ」
「妖術のことでしたら地和さんに聞いてみてはいかがでしょう?
彼女は確かそちらの方面に明るいそうですし」
「じゃあ、沙和が聞いてくるの~。この後地和ちゃんとお洋服見に行く予定があるの」
沙和がハイ、と手をあげて立候補する。
「わかった。じゃあ、沙和頼むぞ」
「あいあいなの~」
「…あいあい…?あぁ、あと明日の警羅は2倍にするからな」
「うう…でも、街の平和のためにはしょうがないの~」
「まぁ、しゃーないか。あのおっさんいつ来るのかわからへんし」
警邏の増量を聞き、一瞬うなだれるもすぐに気持ちを立て直し、沙和と真桜は笑顔で答える。
この3年で2人は精神的にも肉体的にも成長していた。
相変わらず、たまに警邏をサボるものの、明らかに仕事に対する態度が変わっていた。
戦闘能力も凪や季衣に稽古をつけてもらっていて大きく飛躍していた。
それだけに先の戦いで手も足も出なかったのは2人に大きなショックを与えた。
「じゃあ、私たちは一通り街を見て回ってくる。季衣と流々は風たちにこのことを報告してきてもらえるか?」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ああ」
凪たちは季衣たちと別れ、街の探索に向かった。
「楽進様、こちらへ…」
警備隊部隊長の一人が会話の途切れ目を見計らって凪に声をかける。
「なんだ?」
「先ほどの戦闘の際、敵が逃亡を図った場合取り押さえられるように砦の通用口全てに隊員を配置たのですが…」
「これは…」
案内された場所にたどりついた凪が目にしたものは、先ほどまで一緒に警羅をしていた隊員の無数の亡骸だった。
あるものは四肢が分断しており、あるものは消し炭なっており、あるものは腹に穴があいている。
「あかん、流石にこれは…」
「見てられないの…」
沙和と真桜は屍から目をそらす。
「く…あなたが遺していってくれた平和なのに…こんなに簡単に…」
凪はこぼれおちそうな涙を、ぐっとこらえる。
<一方その頃…>
村から
『北郷!北西20kmにグロンギ出現だ!』
「おお!?一条さん?」
ビートチェイサーから聞こえた懐かしい声に俺は一瞬耳を疑う。
なんで?と思ったところで、この世界に来た時に貂蝉と話したことを思い出す。
『南東67kmにグロンギ発生!ご主人様、急行しましょう~!』
「…なにこれ?」
俺は目を丸くしながら傍らにいる挑戦に尋ねる。
「うふ、簡単に言うとグロンギサーチャーってやつね。ただしこれは敵が変身しているときにしか反応しないの。霊石の力に反応するようにしてあるから」
「…それは、ありがとう。感謝する。だけどこの音声は何とかできないかな?」
「あらあら?ご主人様恥ずかしがらなくていいのよ。いくらでもこの貂蝉をネタにしても…」
「うるせー!こんなもん毎回戦闘の前にきかされてみろ!テンションダダ下がりだよ!」
「ひどい!そこまで言わなくても!…もう、恥ずかしがり屋なんだから…だったらいいわ、あっちの世界でご主人さまを助けていた警察の…」
「一条さん?」
「そうそう、その子の声に設定しておくわ。実を言うとご主人様がノスタルジーを感じないようになんだけど…」
「…大丈夫。あっちのあっちの世界で未練はあるけど、こっちの世界でやらなくちゃいけないことがあるから。それにグロンギに反応するってことは、全部終わった後はきくことはないんだろ?だったら、大丈夫!それに、あっちの世界はもう俺がいなくても、もう大丈夫だから」
俺はお決まりとなっているサムズアップを貂蝉に見せる。
「そうね。ご主人様だったら大丈夫よね。……できたわ」
「ありがと、貂蝉…じゃあ、いってくる」
「気をつけて…」
と、まあこの後華琳一行が14号に襲われているのを発見して撃退した…、と。
「…と?…一刀?」
「ひゃ、ひゃい!」
華琳が大きな眼をこちらに向けて覗き込んできている。
貂蝉とのことを思い出していた俺は、びくっとしてつい裏声が出てしまう。
「どうしたの?素っ頓狂な声をあげて?」
「あ、ああ、華琳か…なんとなく今回想が必要な気がしてね…」
「ふぅん?よくわからないけど。それよりさっきの北西20『きろ』って…どれくらい?」
「この世界でいうと…大体5里くらい…だ…ね」
「やっぱり、思った通りね」
俺たちの顔が一瞬にして青白くなる。
北西とは、俺たちが今歩いていた方角、それは魏の拠点、曹操の本拠地、華琳の家。
「…許昌だ」
とりあえず、敵がどんな能力できているかわからない以上、許昌にいる現状の戦力だけで対応しきれるかは分からない。
また、空を飛ばれたら今度こそ打つ手はないしね。
そこで俺が先行して帰還することになったんだけど…
「一刀、この『ばいく』は許昌までどれくらいで帰れるの?」
「全開で1/3刻ほどで」
「は?いまは冗談言ってる場合じゃないのよ?…で?本当は?」
「いやだから1/3刻だってば」
「ホントに?」
「ホントに」
「…」
「…」
「行きましょう!許昌に」
華琳がBTCSにまたがる。…400km/hって人体は耐えられるんだろうか。
(ご主人様、ご主人様。そのバイクに限ってはかなり融通が聞くみたいだから、周りにシールド張っておいたわ)
…オカマの声が聞こえた気がした。気のせい…にしたらだめだな今の内容は。
近いし、我々は大丈夫だから行って来い、という秋蘭のだめ押しと、万が一何かあっても5分で来れるということで俺たち二人は一足先に許昌に戻ることになった。
どうもです。
やっとこさ終わりました。
3体目の敵はイカ魔人です。
こいつを出すにあたって、水辺が近くにあるらしい呉にしようかとも思ったのですが、ほかの候補のキノコ魔人は弱いから凪がボッコボコにしそうだし、ヤドカリ野郎はどう使えばいいかわかんないし、トラ怪人も多分クウガ見た人でも8割…いや、9割方はおぼえてないし、オリジナルは練るにはもうちょい時間が必要という事で、一番ましな彼の登場です。
カマキリ姉さんの出番は別にあります。ズの野郎どもの出番はそのうちです。
このまま\アッカリ~ン/しないように次回を早めに出せる…といいなぁ…
では、また次回!
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真・恋姫無双の魏√で消えてしまった一刀君...
もし彼が仮面ライダークウガの世界に巻き込まれたら、全て終わったときどうするかという設定のお話です。
とはいってもクウガになるまでの一刀はあのフランチェスカとかの設定に準拠したいと思います。
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