No.302370 博麗の終 その5shuyaさん 2011-09-18 03:04:24 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:441 閲覧ユーザー数:434 |
【紅い館が蠢く日】
「……………」
座には紅く、暗く。
ここは、紅魔館で唯一の公的来訪を迎え入れるための間だ。
紅魔館には部屋に名称を付ける習慣はないのだが、おそらくは『謁見の間』と表現するべきなのだろう。
なぜなら。
元気な門番には外で会えばよく、病弱な魔法使いには図書館で会えばよい。
瀟洒な従者には訪れるものは無く、かの吸血鬼の妹君に会おうとする不届き者はいない。
つまり特殊な場所が必要なのは主と会う場合のみで、それはつまり王にお目通りを願うということなのだ。
作りも西洋の城にありがちな玉座の間に似ている。華麗な装飾のある座があり、段を以って訪れる者との差を示している。
ごく自然に、『格が違う』ことを前提として設計されている。
もしこの『謁見の間』に文句があるのならば、実力でその差を埋めるといいだろう。誰も怒りなどはしない。主などは嬉々として挑戦を受け入れるだろう。興が乗れば、主が自ら相手をしてくれることすらあるのかもしれない。
もちろん代償はその者の命で、明日を迎えることはないのだが。
先日のこと、あまり使われないこの間が開かれた。
八雲藍が八雲紫の使者として正式な来訪を求めてきたからだ。
レミリア・スカーレットは何かを感じ取ったのか、紅魔館の主として迎え入れることを従者に伝えた。『謁見の間』は一秒の時間を使われることもなく清掃され、使者を迎え入れる準備も万事整えられた。
そして使者である八雲藍を迎え入れ、定型の挨拶から始まり、
――内容が全て伝えられた瞬間、従者が退出を命じた。
公的な場で、従者が主を差し置いて発言するなど、あってはならないのに。
レミリア・スカーレットはそれから、一言も発さず微塵たりとも動いていない。
瞬きすらせず、従者でさえ近寄ることができない空気の中に、ただ居る。
肘掛けに肘を突いたままの姿勢で、一切の表情を失ったままで。
溢れ出す濃密な暗紅色の力だけが、間の至る所で音をたてている。
従者は『返答は後日』と伝えて使者を帰らせた後、別室で主のお言葉がかかる時を待っている。
魔法使いは友人として、その思いに応えようと準備に入っている。
門番は、いつもより入念に過酷な鍛錬をし始めている。
きっと皆、内に闘志を漲らせているのだろう。
誰もがわかっている。
大きな戦いになるだろう。
地下からは、笑い声。
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場面転換:紅魔館(事件直後・現在)