No.302370

博麗の終  その5

shuyaさん

場面転換:紅魔館(事件直後・現在)

2011-09-18 03:04:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:426   閲覧ユーザー数:420

【紅い館が蠢く日】

 

 

「……………」

 

 座には紅く、暗く。

 

 

 

 ここは、紅魔館で唯一の公的来訪を迎え入れるための間だ。

 

 紅魔館には部屋に名称を付ける習慣はないのだが、おそらくは『謁見の間』と表現するべきなのだろう。

 

 なぜなら。

 

 元気な門番には外で会えばよく、病弱な魔法使いには図書館で会えばよい。

 瀟洒な従者には訪れるものは無く、かの吸血鬼の妹君に会おうとする不届き者はいない。

 

 つまり特殊な場所が必要なのは主と会う場合のみで、それはつまり王にお目通りを願うということなのだ。

 

 作りも西洋の城にありがちな玉座の間に似ている。華麗な装飾のある座があり、段を以って訪れる者との差を示している。

 

 ごく自然に、『格が違う』ことを前提として設計されている。

 

 もしこの『謁見の間』に文句があるのならば、実力でその差を埋めるといいだろう。誰も怒りなどはしない。主などは嬉々として挑戦を受け入れるだろう。興が乗れば、主が自ら相手をしてくれることすらあるのかもしれない。

 

 もちろん代償はその者の命で、明日を迎えることはないのだが。

 

 

 

 先日のこと、あまり使われないこの間が開かれた。

 

 八雲藍が八雲紫の使者として正式な来訪を求めてきたからだ。

 

 レミリア・スカーレットは何かを感じ取ったのか、紅魔館の主として迎え入れることを従者に伝えた。『謁見の間』は一秒の時間を使われることもなく清掃され、使者を迎え入れる準備も万事整えられた。

 

 そして使者である八雲藍を迎え入れ、定型の挨拶から始まり、

 

 

 ――内容が全て伝えられた瞬間、従者が退出を命じた。

 

 

 公的な場で、従者が主を差し置いて発言するなど、あってはならないのに。

 

 

 レミリア・スカーレットはそれから、一言も発さず微塵たりとも動いていない。

 

 瞬きすらせず、従者でさえ近寄ることができない空気の中に、ただ居る。

 

 肘掛けに肘を突いたままの姿勢で、一切の表情を失ったままで。

 

 溢れ出す濃密な暗紅色の力だけが、間の至る所で音をたてている。

 

 

 従者は『返答は後日』と伝えて使者を帰らせた後、別室で主のお言葉がかかる時を待っている。

 

 魔法使いは友人として、その思いに応えようと準備に入っている。

 

 門番は、いつもより入念に過酷な鍛錬をし始めている。

 

 きっと皆、内に闘志を漲らせているのだろう。

 

 

 誰もがわかっている。

 

 

 大きな戦いになるだろう。

 

 

 

 地下からは、笑い声。

 

 


 
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