No.300582

異聞~真・恋姫†無双:二七

ですてにさん

前回のあらすじ:一部の恋姫たちは色々お疲れの様子。意識も色々まずい方向に向かっている者もちらほら。
そんな中シリアス路線担当の冥琳が明命と一緒に、避けては通れない命題を示してきた。

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237

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2011-09-15 15:08:53 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:8773   閲覧ユーザー数:6215

「一刀さま、お聞かせ頂きたい事があるのです。もし、かつてのように私が母親になったとして、

私が望めば周邵も一緒に天の世界に連れて行ってくださいますか?」

 

かつての俺と明命のように、もし、再び子を授かったとして、望んだ相手を我が子と共に、天の世界に連れて行くのか?

明命の問いに、俺は聞かれると予測していたことながらも、息を飲んでいた。心音が身体中に響くような錯覚が俺を包んでいく。

 

とっさに行ったのは、ざわめく心を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返し、

俺は自身の中で結論を出しつつあった答えを、もう一度まとめ直していく。

 

「今、聞いてもらえて、良かったよ。今の面子だと、俺か明命しか実感としては捉えにくい部分だろうしね」

 

子供を孕ませておいて、それでいて他の女の子に次々に手を出して、好き勝手やって、天の世界へおさらば。

明命の立ち位置に身を置いてみれば、結局はそういうこと。

 

自分から積極的に…ということはあまり無かったにせよ、受け入れ続けたのは変わらない事実。

まして、今回はこの世界に残らない、と公言している俺。

 

実質、華琳のことだけを考えて、半年間あがき続けて絶望しながら、やっと掴んだあの温もり。

涙を流しながら、俺のベッドで抱き合った時の心の震えを、今も鮮明に覚えている。

 

貂蝉の力で、皆との記憶を取り戻した後ですら、

『華琳と共に生きていく』…それが全く揺るがなかったのは、多分、俺自身の根っこから、彼女に恋い焦がれ続けたから。

覇王の衣の内に俺以外に完全に隠されていた、寂しがり屋の女の子を、ずっとずっと守っていきたいって願ったから。

 

だから、外道といわれようが、幻滅されようが、俺は華琳を幸せにする為に生きると決めている。

華琳の背負った罪を共に贖っていくと誓っている。

 

我らが願うは。

二人の願いで崩壊させてしまった、二人を引き合わせてくれた、この外史を。この大地を、住まう人々を。

もう一度安寧に導き、出来る限り継続できる世界を築くこと。

 

その為には、明命も、冥琳も、必要であれば、この世界に縛りつけていく。

共に生きると言ってくれる、愛紗も稟も風も星も、他の皆も、この世界に残ってもらう。

 

…華琳にはまだ話していないけど、そんな覚悟はもう出来ている。

 

「…もう、抱き合わない方がお互いに不幸にならないよな。天の世界の俺は、経済力皆無のただの書生だ。

華琳一人を食べさせていくのすらままならない状況で、他の女性や、

まして、子供を連れていくなんて、どうみても不幸になる結論しか見えない」

 

意識はしたものの、想像したより冷たい声色で、俺は明命への答えを示す。

恋慕の情など消してもらって、いっそドライな協力関係でも構わない。そんな、言外の意思を込めて。

 

それに、本当にもし───子供を授かることが出来たとして…、

この世界での将やら軍師という食うに困らない立場である彼女たちの元で、不自由なく育ってほしいという、

そんな見栄みたいなもんだってあって。

 

現代は悲しいかな、ある程度の経済力が無いと、高度な教育を受けることすら、なかなかままならない。

俺は幸い恵まれた環境で、爺ちゃん婆ちゃんが築いてくれた財に、それを堅実に運用出来る両親がいて。

だから、華琳が現世にやってきても、容易く暮らしていくことが出来た。

 

それでも、皆が望んでくれたとして、さらに子供たちも加わるとしたら、

さすがにそこまでの経済力は無いし、これ以上家族に負担をかけるわけにもいかなかった。

 

ある意味、華琳一人が俺の獣欲めいたものを受け止めてくれていた環境は、そう『都合が良かった』んだ。

俺の唯一の例外である、華琳と…もしかしたらその身に授かるかもしれない、俺と華琳の子供だけが帰るってことだったから。

 

「だから、周邵は連れていけない。まして、その母親となったなら、明命も。

単独で一緒に俺の世界に行くということすら、俺はずっと躊躇っているんだ」

 

愛紗は絶対に同行させると話す華琳は、既に俺や愛紗と暮らしていくぐらいの経済力を得られる見込みが立っているのかもしれない。

爺ちゃん辺りと裏でこそこそ動いているのは何となく勘づいていたから、小さな事業を立ち上げていてもおかしくないと思う。

 

ただ、それが大人数となれば、さすがに無理とあっさり結論が出る。

俺の家族の意向もあり、俺と華琳は大学への進学を決めており、センター試験が終わった直後にこっちに飛んできたという経緯がある。

つまり、後四年は収入を得られる手段が極めて限られるから、どうみても皆が食べていけない未来しか見えない。

 

「身勝手な言い分だと自覚してる。だけど、これが俺の答えだよ、明命」

 

 

一刀さまの答えは、確かに悲しいものでした。

けれど、冥琳さまと事前に予測した結論からも、そう外れていたわけではなく、

私はそれよりも無理やり一刀さまがあえて感情を殺した声を出しているのが気になってしょうがなかったのです。

 

「わかりました。だから、もういいんです、一刀さま。もうこれ以上仰らなくても」

 

私は一刀さまの頭を抱き抱えるように、そっと両腕で包みこみました。

今の一刀さまは蘭樹さま第一。その為にあえて非情になると決めておられるのでしょう。

だけど、一度妻として、母として、『旦那さま』と共に過ごした私には判ります。

 

優しいこの方は、そう決めていても、私達にそんな冷たい言葉を投げかける自体が苦痛なのです。

どうしたって情を殺せない、傷つき倒れる兵士たち一人一人に鎮魂を捧げるような人。

 

「明命…なんで。怒って殴り飛ばせばいいじゃないか。俺は、皆を置いていくって」

 

静かに首を横に振ります。

どこまでもお人好しのこの方は、帰る寸前の寸前まで悩み続けてしまいますし、

多分、強く押し切られてしまえば…というのが、私も想像がつくのです。

 

「そう言って、明らかに氣がどんより沈んでいるのが一刀さまです。

だから、決意をお伺い出来たのなら、ついていきたいと我がままを言う私たちで『決まり事』を据えます。

少なくとも、呉の皆には、私や冥琳さまが責任もって、守らせます」

 

「お前と繋がりたい、愛されたいというのも、我らの欲。

その結果、子供が出来たとして、北郷一人に決断を負わせる気など毛頭ない。

気付いたのは明命の手柄だが、他の皆に徹底させるのは、一人の男を愛する女たちの仕事だ。

お前以外の男に愛されたいなどと、欠片も考えられない連中の集まりなのだからな、ふふっ」

 

「でも、それじゃ…俺、皆の愛情に甘えてるだけになって」

 

一刀さまの言葉を冥琳さまは手を挙げて、あえて途中で遮ってみせます。愉快そうな笑顔を浮かべながら。

私は、一刀さまがいつもして下さるように、そっと頭を撫でて、少しでも一刀さまが安らぐようにと願って。

 

「そもそも。少なく見積もっても、十数人の女の愛情を真正面から受け止め、応えてみせる北郷が既に規格外。

そんな男を愛する女たちに、普通の『愛し方』を求めること自体がおかしいのだ。

甘えてるというが、その人数からして、既にそういう考え方を捨てるべきだな、お前も」

 

「…なんか納得いかないぞ」

 

「いかなくて構わん。受け入れてくれればいいのだよ。さて、私と明命が考えた草案を話そうか。

あとは華琳どのにも相談して、若干修正すればいい」

 

楽しそうな声色で、冥琳さまは一刀さまに草案の説明をなさいます。

 

一つ、一刀さまは求められれば、全力で応えて頂くこと。

 

一つ、その結果、子供を授かった者は、大陸の未来を担う為に、この地に残り、平和のために尽力すること。

かつ、子供を次代を担える者へと育て上げること。

 

一つ、同行する者も、必ず、自分の後継といえる者を育てること。

 

一つ、天の世界の知識、社会常識を貪欲に吸収し、早急な一人立ちが出来るように努めること。

 

愛されることを望む以上は、一緒に行けない可能性すら覚悟として受け取り、

この大陸の未来をちゃんと託せる者を育て、かつ、天の世界で一刀さまの一方的な負担にならない能力を身につける。

 

一刀さま以外の男性を選ぶつもりがない私たち。それならば、一刀さまと共に歩める努力を怠る者は妻になる資格もない。

かといって抱いてもらいたい、愛されたいと願う欲を我慢できないなら、代償を受け入れる。

これは私たちの身勝手。諦められない私たちが背負うべき責任なのです。

 

そのかわり、蘭樹さまが今は一番であろうと、正妻の座は諦めません!…ということなのです。

恥ずかしいので、私はとても口に出せないのですが。

 

「なんか、俺だけに都合良過ぎるじゃないか…」

 

「いいじゃない。私たちが学生でいる間、自分たちで何とか生き抜いてくれるというなら、その後は私と一刀で養えばいいだけよ。

また、四年間苦労させる代償として、それだけの能力も必ず身につけてみせる。それが心意気ってものじゃない?」

 

凛と通る声と共に部屋に入ってきたのは、蘭樹さま。

あの自信に満ちた笑みを浮かべながら、冥琳さまの草案を一刀さまに当然のように突き付けておられるのです。

 

「私は言ったはずよ。望まれれば、皆を愛してみせなさい。その上で、私を第一に置きなさい、と。

私が認める将や軍師たちがつまらない男に抱かれるなんて、苦痛以外のなにものでもないし、この私が認めないわ、一刀」

 

「相変わらず無茶苦茶言うよなぁ、華琳」

 

「出来る男と信じているもの。

それに慣れない冷血な男を演じてみせても、あっさり見抜かれる程度の大根役者なんだから、はじめから止めておくことね。

その都度悩みながらも、少しずつ着地点を探るやり方を提案する方がよっぽど貴方らしい」

 

歯にきせぬ物言いで、一刀さまを強引に説き伏せていく蘭樹さま。

けれども、このままだと思考の海に沈んでいきそうな一刀さまの状況を見抜いて、

あえて『私が言うんだから従いなさい』というやり方を取っているというのも何となくわかりますので、

私も冥琳さまも口を挟むことはしませんでした。

 

「…それと、子供については少し調べていることがあるから、その条件はひとまず保留しておいてちょうだい。

疑問に思っていたのよ。これだけ一刀と身体を重ねている私が懐妊しない理由を。

華佗に診てもらったものの、生殖機能に二人とも問題無いという診断だし。

結論が出たら、また報告するわ。それまで二番目の条件は保留しておいてもらえるかしら?」

 

「わかった、蘭樹どの。では、それ以外の三条件は早速周知に入るとしよう。

天の世界についての教育は引き受けてもらえるということでいいのだな?」

 

「ここまで聞いておいて否定も何もないでしょう」

 

「…華琳、あえて突っ込むぞ。愛紗に聞いた話といろいろ違うんだが。連れていく人数は最小限とか言ってたんだよな、確か」

 

一刀さまの言葉に、額に手を抑え、明らかにため息をつく蘭樹さま。

ころころ表情が変わるこの方は、私の知る魏の覇王とどうにも一致しません。親しみやすさすら覚えるのです。

ここまで感情豊かになられたのは、やはり一刀さまの影響なのでしょうか。

 

「はぁっ、愛紗もおしゃべりね…。その後で貂蝉を通じて、お爺様に近況報告を兼ねた相談をしたのよ。連れて帰る人数が増えそうです、って」

 

「ほぅ、北郷のお爺様…桃香どのの御先祖様にも当たるという」

 

「なんというか、豪快な方よ。それでいて、すごく懐の深い方。

まぁ、始皇帝たる一刀のお婆様を相手にする男だから、傑物で無ければ務まらないのだけど」

 

そこで、華琳さまはあの少し意地悪げで、それでいてすごく楽しそうな…すごく悪い笑みを浮かべたのです。

冥琳さまも時々なされる、あの独特の笑顔です…。

 

「…あぁ、それでね、お爺様の回答がまた豪快なのよ。

『十人でも二十人でも、ひ孫もまとめて面倒見る。とりあえず近くの手頃な敷地を買って、屋敷をもう一つ建てておく。

気にするなら出世払いで返すなりしてくれりゃいいが、その前に本妻の座を守れるように頑張れ』ですって。

特にひ孫なんて一言も言ってないのよ…? 悩んでた私が阿呆らしくなったわ」

 

「あ~の~くそじじぃぃいいいい!!!!!」

 

今度は一刀さまが頭を抱える番でした。

私たちにとっては僥倖と言えますが、当事者の一刀さまは万歳とはいかないのでしょうか。

と、とにかく、励ますべきなのか、謝るべきなのか、どうしたらいいのか判らなくなってしまいます。

 

「はぅぅ…一刀さま…」

 

「くくくっ…ははははは…! これはなんと愉快な方か。うむ、これは是非お会いしなければな…」

 

対照的に冥琳さまは本当に上機嫌です。

 

「北郷や私達の覚悟とか心配とか、そういうものを一手で全てひっくり返されたというのに、なんとも清々しい気分か。

雪蓮や祭どの辺りがとても気に入りそうな御仁だな…」

 

「お酒も強い方よ。少なくとも一刀より」

 

「…ああ、二度目の生が本当に楽しいものになりそうだ。雪蓮ならずとも、これは是が日にも、天の世界に同行する為に全力を尽くさねばな…!」

 

楽しそうな会話をしている冥琳さまと蘭樹さまはさておき、

地面に両手をついて、落ち込んでしまった一刀さまを前に、私はただただオロオロするしかありませんでした…。


 
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