No.299704 瑞希と妄想と遊園地デート2011-09-13 23:59:38 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:4531 閲覧ユーザー数:3081 |
瑞希と妄想と遊園地デート
はじめましての方も二度目ましての方もみなさんこんにちは。
私、文月学園2年生の姫路瑞希と申します。
その、私は顔の辺りが少しふっくらしているように見えるかもしれません。
でもそれは今日お弁当をたくさん食べ過ぎてしまったせいなんです。
いつもはもっとすっきりしてるんです。
ほ、本当ですよっ!
明久くんと一緒に食べようと思ってお母さんにお弁当をたくさん作ってもらったのですが、結局全部一人で食べちゃったせいなんです。
……前回のお話で私は想い人である吉井明久くんにもっと積極的な行動を取ることを決意しました。
でも、現実はままなりません。
私と明久くんの距離は1週間前と比べて全然縮まった気がしません。
お弁当を渡すこともできなければ一緒に登下校することもできません。
それどころか男友達に大人気の明久くんに近づくことさえままならない状態です。
このままじゃあ、おばあちゃんになっても明久くんともっと親密になれません。
そこで私は一念発起しました。
日常の延長で仲良くなれないなら、非日常のイベントを起こして仲良くなるしかないんです。
非日常のイベント。
そう。
今回私は勇気を出して明久くんを遊園地デートに誘っちゃおうと思いますっ!
みなさんも、私のことを応援してくださいね♪
私が一念発起してから1週間が過ぎました。
……まだ、明久くんをデートに誘えていません。
声を掛けようと何度もしているのですが、結局誘えずじまいです。
人間、思い立ってもなかなか変われないものですよね。はぁ~。
でも、今日は金曜日。
週末に遊びに行くなら今日中に声を掛けないといけません。
加えて、4名様までご招待の(元)如月ハイランドパークのチケットは明後日の日曜日までが有効期限です。
だから絶対に今日中に明久くんを誘わないといけないのです。
今日は私、不退転の覚悟で頑張っちゃおうと思います!
「あの、明久くん、ちょっと良いですか?」
放課後となり、勉強に疲れてちゃぶ台にグッタリしている明久くんに声を掛けました。
「んっ?」
明久くんは居眠りしていたのか、ダルそうに目を擦りながら頭を左右に振っています。
声を掛けたのが私だと気づいてないみたいです。
だから明久くんにもう1歩近づいて私の存在をアピールしようとしたその時でした。
「吉井くん、ちょっといいかな?」
「どうしたの、久保くん?」
私と明久くんの間にメガネの久保くんが割って入ってきちゃいました。
明久くんは久保くんが声を掛けたものと思い、首をそっちに向けてしまいました。
「西村先生から吉井くんが今度のテストを前にして苦戦していると聞いてね。明日の土曜日、僕が勉強を見てあげようか?」
「えっ? 本当? 助かるよ。今度のテストで赤点だと、留年だって鉄人に脅されていてさ」
あっ。私が声を掛け損ねている間に土曜日の予定を入れられてしまいましたぁ。
勉強の予定、しかも進級が掛かった大切な用事なので邪魔するわけにもいきません。
遊園地は日曜日にするしかないみたいですね。
「でも、久保くんにただお世話になるのも悪い気がするよ」
「別に僕は見返りは求めていないのだけど、吉井くんがそこまで言うのなら等価交換にしようか」
等価交換?
明久くんは今月も生活苦に喘いでいます。
家庭教師のお礼を支払う金銭的な余裕はない筈です。
じゃあ、一体どうやって等価交換するのでしょうか?
ま、まさかっ!?
『では家庭教師代として吉井くんには裸エプロンで食事を作ってもらおうかな。僕の家の台所で』
『えぇ~っ!? そんなの恥ずかしいよ。家族の人にでも見られたりしたら……』
『フフッ。その恥ずかしがる顔もご馳走の一部さ。一番のご馳走は吉井くん自身だけどね』
久保くんは時々明久くんを見ながらメガネを怪しく曇らせます。
何か後ろめたいことを考えているに違いありません。
そして、高校生の後ろめたいことと言えばエッチなことに決まっています。
……なんて、そんな訳ありませんよね。
そんな風に2人の関係を疑ったら、明久くんにも久保くんにも悪いですよね。
みんな私の大切なお友達なのに変な目で見ちゃダメですね。
「では家庭教師代として吉井くんには裸エプロンで食事を作ってもらおうかな。僕の家の台所で」
「えぇ~っ!? そんなの恥ずかしいよ。家族の人にでも見られたりしたら……」
「フフッ。その恥ずかしがる顔もご馳走の一部さ。一番のご馳走は吉井くん自身だけどね」
私も明久くんの家庭教師をして一緒に過ごしたいです。
そしてお礼に裸エプロンでなくて良いのでお料理を作ってもらえたらなあと思います。
明久くんの顔を見ながら食べる彼の手料理はきっとどんな料理よりも美味しいと思います。
だって、愛情という最高の調味料を私は味わうことができるのですから♪
久保くんが教室を出ていったのを確認してから明久くんに声を掛けます。
「あの、明久くん」
「どうしたの、姫路さん?」
今度はちゃんと話し掛けることができました。
「実は明日、明久くんと一緒にですね……あの、その、ですね」
「僕と一緒に?」
遊園地に行って欲しいですという一言がどうしても言えません。
自宅でのリハーサルではスムーズに誘うことが出来たのにです。
明久くんを目の前にしてしばらく唸っていると、横からすっとポニーテールの髪を大きなリボンでまとめた女の子が入って来ました。
「明日、ウチらと一緒に遊園地に行かない?」
女の子、島田美波ちゃんは私が手に持っている招待チケットを横目で見ながら話を切り出しました。
「へっ? 美波と姫路さんと一緒に遊園地?」
美波ちゃんのおかげで明久くんはようやく私が切り出そうとした話を理解してくれました。良かったです。
でも、美波ちゃんが話を切り出した為に別の問題が生じてしまいました。
(美波ちゃん、話を切り出して頂いてありがとうございます)
(ウチと瑞希は友達なんだから助け合うのは当然のことよ)
(でも、明日美波ちゃんも遊園地に来るんですよね?)
(ウチと瑞希は恋のライバルなんだから当然ことよ)
そうなんです。
美波ちゃんが一緒に来ると明久くんと2人きりのお出かけではなくなってしまいます。
デートではなく友達同士のお出かけになってしまうのです。
うう。それだと吉井くんと親密になるという最初の目標を達成できるか微妙になってしまいます。
「えっと、日曜日には色々と予定が……その、秀吉と……」
「可愛い女の子がこうして誘ってあげてるんだから、も・ち・ろ・ん一緒に行くわよね?」
「ひょぇ~っ!? 美波、僕の背中が有り得ない方向に曲がっちゃうよぉ~っ!」
「じゃあ、一緒に行くわよね?」
「行くよっ! 喜んで行かせてもらいますぅっ!」
でも、美波ちゃんのおかげで明久くんにお出かけの約束を取り付けることができました。
明久くんにアプローチするには美波ちゃんの様な積極性がないとダメなのかもしれません。
明久くんにはやっぱり私なんかじゃなくて、美波ちゃんみたいにグイグイ引っ張ってくれる女の子がお似合いなんでしょうか?
自信、なくなっちゃいます……。
「あっ、このチケット4名まで行けるのね」
「じゃあ、秀吉を誘おう。どうせならFクラスの華のみんなと出かけたい」
明久くんは立ち上がって帰り支度をしている木下くんの所へと向かいます。
「秀吉~♪ 明日僕と姫路さん、美波と一緒に遊園地に行こうよぉ~♪」
「突然じゃな」
吉井くん、とっても嬉しそうです。
まるで恋人を誘っているみたいです。
木下くんは戸籍上は男の子だと言うのにです。
まっ、まさか、2人の関係はっ!?
『映画館でのデートが美波たちの誘いで出来そうにないから、代わりに遊園地で秀吉を精一杯楽しませてあげるよ』
『デートを反故された上に、女連れで遊園地に誘って来るとはのぉ。明久にはワシをないがしろにした罰を体で払ってもらわないといけないようじゃな。オバケ屋敷では覚悟しておくが良い』
『ケダモノと化した秀吉はオバケより怖いからなぁ。無事に出て来られないかも……』
木下くんはいつもニコニコ爽やかな笑顔を見せてくれます。
でも怒るととても怖いし意外と頑固だって優子ちゃんは言っていました。
木下くんは元々明久くんと出かける予定だったみたいだし、怒っているかもしれません。
そして、その怒りを明久くんに下劣な欲望という形でぶつけるかもしれません!
……なんて、そんな訳ありませんよね。
そんな風に2人の関係を疑ったら、明久くんにも木下くんにも悪いですよね。
みんな私の大切なお友達なのに変な目で見ちゃダメですね。
「映画館でのデートが美波たちの誘いで出来そうにないから、代わりに遊園地で秀吉を精一杯楽しませてあげるよ」
「デートを反故された上に、女連れで遊園地に誘って来るとはのぉ。明久にはワシをないがしろにした罰を体で払ってもらわないといけないようじゃな。オバケ屋敷では覚悟しておくが良い」
「ケダモノと化した秀吉はオバケより怖いからなぁ。無事に出て来られないかも……」
何の気兼ねもなく週末を明久くんと一緒に過ごせる木下くんが羨ましいです。
私ももっともっと明久くんと親しくなって、ごく自然に週末を一緒に過ごせるようになればなあと思います。
その日が来るのを信じて、明日のお出かけを成功させたいと思います♪
そして日曜日になりました。
今日はとても良いお天気で絶好の遊園地日和です。
何だか今日は良いことが起きそうな予感がします♪
「アキ、遅いわね」
「雄二が昨夜明久の部屋に泊まったそうじゃからな。夜更かしして寝坊しておるのかもしれん」
明久くんだけがまだ姿を見せていないのがちょっと残念です。
約束の時間を10分過ぎましたが、まだ待ち合わせ場所のこの公園に来ていません。
携帯に電話を掛けても電源を切っているのか掛かりません。
一体、どうしちゃったのでしょうか?
「お~い、みんな~。待たせてごめんね~っ」
それからもう5分ほどが経ってようやく明久くんが姿を現しました。
「明久くん♪」
明久くんの姿を見れてようやく安心しました。
事故にでも遭ったんじゃないかと気が気でなかったです。
でも、やって来た明久くんはおかしな服装をしていました。
まだ9月の初めだというのに長袖のシャツを着て、首にはマフラーが巻かれています。
気温はまだ30度近いのに真冬の格好をしているんです。
明久くん、もしかすると風邪を引いて熱があるんじゃ?
「アキ、何なのよ。その暑苦しい格好は?」
「そうじゃ。9月に長袖とマフラーでは変質者扱いされてしまうぞ」
美波ちゃんと木下くんは明久くんのマフラーと長袖シャツを脱がせようとします。
けれど、明久くんはそれを嫌がります。
「ダメだって! 今日の僕はマフラーに長袖の我慢大会仕様なんだからっ!」
必死に抵抗する明久くん。
けれど、2人掛かりで攻められては抵抗もままなりません。
3分ほどの激闘の末に、マフラーも長袖シャツも取られてしまいました。
そして、私が見たものは──
「明久くん、何なんですか? その体中にできた黒いあざは?」
明久くんの首筋や両手には正体不明の黒いあざがたくさんできていました。
一体、何なんでしょうかこれ?
美波ちゃんも明久くんのあざを見て大層驚いています。
「アキ、アンタ変な病気にでも掛かったんじゃないの? バカにだけ発症するバカ病とか?」
「そんな変な病気じゃないってば!」
「じゃあ、一体何なのよ、それは?」
「これは……」
明久くんは回答を躊躇していましたが、やがて目をキッと見開くと私たちの顔を真剣な表情で見ました。
「これは、雄二と夕飯の分配を巡って争いになった際にできた名誉の負傷なんだ。熱々おでんで突付かれた痕なんだよっ!」
「何ですってぇ~っ!?」
MMRっぽい明久くんの説明にMMRっぽく驚いてみせる美波ちゃん。
美波ちゃんは明久くんの説明に納得したみたいですが、私はどうも腑に落ちません。
明久くんのあのわざとらしい説明の仕方、そしてあざを隠そうとした事実。
もっと別の真実があるような気がしてなりません。
首下にある黒いあざを隠そうとする行為は恋愛小説だと…………確かキスマークを隠す為の行為ですっ!
昨夜は坂本くんが明久くんの家に泊まったと言います。
つまり、明久くんは昨夜愛し合った坂本くんとのキスマークを隠そうとしたんじゃ!
『明久、お前、明日秀吉や姫路と遊園地でデートするそうだな?』
『元々は秀吉と映画館で過ごすつもりだったんだけど、成り行きで姫路さんと美波とも行動を共にすることになったんだ』
『チッ! 明久、お前が誰のモノなのか、その体にもう1度刻み付けてやるぜ!』
『や、やめてよ雄二っ! そんなに激しくキスしたら明日あざになってるてばぁっ!』
坂本くんは一見クールに人を遠ざけているように見えますが、寂しがり屋で独占欲も強いです。
明久くんが私たちとお出かけするなんてなったらきっと黙っていられないと思います。
明久くんに大量のキスマークを付けることで自分の所有物であることを私たちに見せ付けたかったんじゃないかと思います。
……なんて、そんな訳ありませんよね。
そんな風に2人の関係を疑ったら、明久くんにも坂本くんにも悪いですよね。
みんな私の大切なお友達なのに変な目で見ちゃダメですね。
「チッ! 雄二のヤツ、大量のキスマークで明久の所有権をワシらに見せ付けたつもりなのじゃな。じゃが、明久はワシのもんじゃ。雄二の独り占めには絶対にさせんっ!」
明久くんのお家にお泊りできる坂本くんが羨ましいです。
私も、もっと大人になったらいつか明久くんのお家に泊まれる日が来るでしょうか?
って、私ってば一体何を考えているのでしょうか?
ハレンチ過ぎます。
明久くんにエッチな女の子だって嫌われてしまいます。
でもいつか、明久くんと一緒に暮らせる未来が来たら良いなあと思います♪
明久くんと出会ってから30分が経ち、私たちは遊園地に到着しました。
「あれっ? ここって如月ハイランドパークって名前じゃなかったっけ?」
「最近客層を更に絞って新しい遊園地として生まれ変わったのじゃ」
「今はメンズ・パラダイスって名前らしいですね」
私たちの目の前にある遊園地は、かつて明久くんたちと行った懐かしの遊園地です。
でも、名前も変わり、雰囲気も変わったので全く新しい所に来た気分になります。
赤と黒いバラが激しく絡み合う様をモチーフにした入場門は以前とは異なる印象を与えます。
とても綺麗なのですが、何だかとってもいけない香りがします。
どうしてでしょうかね?
「…………お客さま。そこに突っ立っていられると邪魔」
「土屋? どうしてアンタがここにいるのよ? しかもここの職員の制服を着て」
「ムッツリーニはこの遊園地でアルバイトをしておるのか」
木下くんの問いに頭を縦に振って答える土屋くん。
「そうだった。ムッツリーニはここで働いていたんだった。すっかり忘れてた……」
明久くんは土屋くんを見ながら冷や汗を流しています。
「…………明久、また来た。毎回毎回違う男を連れて……」
えっ!?
土屋くんの説明に拠れば、明久くんは何度も何度もこの遊園地を利用していることになります。
そして、来る度に違う男の子を連れて来ていると。
これって、これって明久くんが複数の男の子に浮気しているってことなんじゃっ!?
『…………明久は最近俺に構ってくれない』
『そんなことないって。僕にとってムッツリーニも大事な人だよ』
『…………なら、それを体で示せ』
『ここじゃあみんながいるから無理だって。って、ムッツリーニは僕をどこに連れて行くのさぁ~っ!?』
土屋くんがムッツリーニと呼ばれているのは、自分の心に湧き出る性的な欲求とどう向き合ったら良いのかまだ掴めていないことが原因だと思います。
性的な衝動に振り回されっ放しの土屋くんは、自分の欲望をストレートに明久くんにぶつけるしかできないんです。
土屋くんはとても不器用で、正直な男の子なんです。
……なんて、そんな訳ありませんよね。
そんな風に2人の関係を疑ったら、明久くんにも土屋くんにも悪いですよね。
みんな私の大切なお友達なのに変な目で見ちゃダメですね。
「…………明久は最近俺に構ってくれない」
「そんなことないって。僕にとってムッツリーニも大事な人だよ」
「…………なら、それを体で示せ」
「ここじゃあみんながいるから無理だって。って、ムッツリーニは僕をどこに連れて行くのさぁ~っ!?」
あっ、土屋くんが明久くんを小脇に抱えて走り去ってしまいました。
きっとおトイレですね♪
私もいつか、あんな風に明久くんに強く抱きしめられたいです。
私のこの気持ち、早く明久くんに届けられたらなあと思います♪
しばらくして明久くんはお尻を押さえながら戻って来ました。
気のせいか首筋のあざが増えているような気がします。
きっと、気のせいですね♪
気分を入れ直して4人で遊園地の中へと入ります。
中は、男性のお客さんでいっぱいです。
名前がメンズ・パラダイスというだけあって、男性のお客さんをメインターゲットにしているのでしょうかね?
前列に明久くんと木下くん、後列に美波ちゃんと私の順で4人で園内を回っています。
「こうして歩いておると、まるでダブルデートの最中のようじゃのぉ」
木下くんの何気ない感想に私と美波ちゃんがピクッと肩を震わせて歩みが止まります。
美波ちゃんと視線が合います。
その際、激しい火花が散りました。
ダブルデート、という表現を使ったということは私か美波ちゃんのどちらかが明久くんとデートしているように見えるということになります。
「ごめんね、瑞希。ウチがアキのことを独占しちゃってて」
「私こそ、ごめんなさいです。みんなでお出かけしているのに明久くんのことを独占しちゃってて」
美波ちゃんも私もここは退けません。
女の意地に掛けて明久くんとのデートを主張します。
だって、傍目からは私たちの姿がデート光景に見えるということ。
つまり、世間様の公認を得たのと同義なのですから。
「って、アキがいない?」
「ああっ、明久くんと木下くんはあんな前方の方を歩いていますよ」
私たちは長い間、立ち止まって視線を交わしていたので前方を歩く明久くんたちにおいて行かれてしまっていたのです。
慌てて前方の2人を追いかけます。
せっかくのダブルデートなのに、私たちが明久くんから離れてしまったのでは意味がありません。
「あー、君たち。休日とはいえ、不純交遊はいけませんよ。特にこういう遊園地では節度を守ってください」
私たちが追い付くと、明久くんたちは福原先生の指導を受けている最中でした。
文月学園の先生たちは生徒指導の為に人気スポットを見回っているに違いありません。
「なるほど。姫路さんも島田さんも一緒ですか。つまり、君たちはダブルデートをしていたわけですね」
福原先生にもダブルデートと言われてしまいました。
先生の目には私と美波ちゃんのどちらが明久くんのデート相手に映っているのでしょうか?
「先生は、ウチのデート相手は誰だと思いますか?」
美波ちゃんは先生にストレートに質問をぶつけます。
美波ちゃんのそういう積極的な所、とっても羨ましいです。
「この状況で島田さんのデート相手と言えば……姫路さんしかいないのではないでしょうか?」
「「へっ?」」
美波ちゃんと揃って変な声を出してしまいます。
福原先生が冗談を言う人だとは知りませんでした。
だって福原先生の言う通りなら、美波ちゃんのデート相手が私です。
すると、明久くんのデート相手は自動的に木下くんになってしまいます。
木下くんは可愛い女の子ですが、戸籍上は男の子です。
だから、明久くんとデートということはないと思います。
「とにかく、ダブルデートの首謀者とみえる吉井くんには私から特別な厳しい指導を行う必要があるようですね」
福原先生がメガネを鈍く光らせました。
清く正しく美しくをモットーとする文月学園で男女交際が推奨されないのは私も理解しています。
けれど、福原先生はちょっと厳し過ぎるんじゃないかと思います。
まるで、明久くんに対して個人的な含みがあるみたいです。
ま、まさかっ!?
『吉井くんには大人のルールを教えないといけないようですね。親切丁寧に一から教えて差し上げますよ』
『福原先生の肉体指導はねちっこいから嫌ぁあああああぁっ!』
『さあ、私と一緒に人気のない場所に行きましょう』
『助けて、秀吉ぃいいいいいいぃっ!』
福原先生は明久くんに対しても親切丁寧な態度を取ることでよく知られています。
でも、その親切丁寧には裏があったとしたら?
明久くんからの見返りを求めての計算尽くの行動だとしたら?
……なんて、そんな訳ありませんよね。
そんな風に2人の関係を疑ったら、明久くんにも福原先生にも悪いですよね。
福原先生は立派な教育者なのに変な目で見ちゃいけませんよね。
「吉井くんには大人のルールを教えないといけないようですね。親切丁寧に一から教えて差し上げますよ」
「福原先生の肉体指導はねちっこいから嫌ぁあああああぁっ!」
「さあ、私と一緒に人気のない場所に行きましょう」
「助けて、秀吉ぃいいいいいいぃっ!」
あっ。福原先生が明久くんの手を引いてトイレの裏へと連れて行ってしまいました。
明久くんが怒られている所を他の人から見えないようにという配慮ですね。
私も、あんな風に明久くんを影からも支えられる大人になれたら良いなあと思います。
内助の功っていう言葉もありますし、明久くんの奥さんとして立派に夫を盛り立てられる大人になりたいです♪
それからも色々なことがありました。
お昼時、みんなでレストランに入って食事をしようとしたら見回りの西村先生にみつかってしまいました。
西村先生は明久くんを連れて行ってしまいました。
明久くんはしばらく帰って来ませんでした。
ちなみに西村先生はツヤツヤした顔で家へと帰っていきました。
お昼過ぎ、みんなでオバケ屋敷に入ったのですが、明久くんと木下くんとはぐれてしまいました。
明久くんはしばらく帰って来ませんでした。
ちなみに木下くんはツヤツヤした顔で家へと帰っていきました。
それからも明久くんはB組代表の根本くんと会っては消え、D組代表の平賀くんと会っては消えてしまいました。
そして戻って来る度に、上半身に付いている黒いあざは増え、明久くんはやつれていきます。
一体、明久くんの身に何が起きているのでしょうか?
でも、今はそんな些細なことよりも明久くんとの進展がない方が問題です。
明久くんはよく消えてしまう為になかなか一緒にいられません。
そして、一緒にいる時も美波ちゃんが隣にいるので2人きりでのおしゃべりのチャンスがありません。
良い雰囲気なんて夢のまた夢です。
私はまだ遊園地で明久くんとの中を縮めていません。
なのに陽は段々と弱まって来ています。
このままじゃ、ダメなんです!
でも、どうしたら良いでしょうか?
「瑞希、ここで勝負をしましょう」
「勝負、ですか?」
美波ちゃんは突然勝負という単語を切り出しました。
胸の大きさ勝負でもするのでしょうか?
「そんな不毛極まりない勝負をする筈がないじゃないっ!」
「えぅっ。心を読まれちゃいました」
「瑞希の目がウチのある部分をロックオンして離さなかったからよ!」
大きな胸も肩が凝ったり、走る時に邪魔になったり、サイズの関係上可愛いブラがなかったりと結構大変なんですけどね。
「そんな贅沢な悩み、一度で良いから体験してみたいわよっ!」
今日の美波ちゃんはほんと勘が良いですね。
「いつかウチだってCカップぐらいにはなってやるんだから。で、勝負の内容なんだけど」
「え~と、赤ちゃんが出来て胸が張ったらそういう未来もあるかもしれないので諦めないでくださいね。で、何の勝負ですか?」
おかしいですね。美波ちゃんがどんどん戦闘モードへと進化していきます。
鬼の目で私を見ています。何故でしょうか?
「この間霧島さんたちが来た時のウェディング体験をウチらがやって、どっちがアキのお嫁さんに相応しいか雌雄を決するのよっ!」
美波ちゃんは思いもよらない勝負方法を提案して来ました。
「えっ? でも、どうやって勝負するんですか? 翔子ちゃんの時はプレミアムチケットがあったからウェディング体験できましたけれど、私たちは持ってませんよ」
「あれを見て」
美波ちゃんが指差す方向には1件の写真館が見えました。
写真館の入り口には大きく『ウェディング体験写真 撮ります』の文字が。
そして入り口には実際に何枚かの大きく引き伸ばされた写真が飾られています。
……ウェディングドレスを着ているのが全員男の人だというのが少し気になりますが。
「ウチらがアキとウェディング写真を撮ってもらい、どっちがアキのお嫁さんとして相応しいかここのお客さんたちに判断してもらうの」
「それじゃあ、負けた方は……」
「世間的にアキのお嫁さんに相応しくないという評価を下され、そして、遊園地の最後を飾る観覧車でアキと2人きりの権利を勝者に譲るのよ」
「なるほど。やはりそうですか」
美波ちゃんの提案はとても恐ろしいものでした。
でも、その勝負は私にとってとても魅力的なものでもあったのです。
明久くんとのウェディング体験、写真撮影、そして2人きりの観覧車……。
ムードが高まれば、明久くんとき、き、き、キスもできるかもしれません。
明久くんと一気に恋人同士にっ!
なんて展開も期待できるかもしれません。
どうせこのままだと明久くんと何の進展もありません。
せっかく遊園地に来たのだからここは思い切って勝負に出たいと思いますっ!
「明久くんっ! 私たちと一緒に写真を撮ってくださいっ!」
「アキっ! あの写真館でウェディング写真を撮るわよっ!」
「ええぇっ? どうしてそういう流れになったのぉっ?」
美波ちゃんと両脇を抱えながら明久くんを引っ張っていきます。
明久くんを引きずられる宇宙人みたいな格好をしたまま、写真館へと連れて行きました。
もう、妄想なんてしている場合じゃないんですっ!
「…………いらっしゃい」
中に入ると案の定というか、対応したのは土屋くんでした。
「明久くんとのウェディング体験写真を撮ってくださいっ!」
「…………でも、ここは」
「良いから撮りなさいよっ!」
「…………わかった」
土屋くんは何やら撮影を渋っていましたが、最終的には了承してくれました。
「…………今、お前らを着替えさせる」
「着替えさせるって、土屋、アンタ、ドサクサに紛れてウチらの体に触ったり覗いたりする気じゃないでしょうね?」
「…………俺は撮影のプロ。被写体に触れず一瞬で着替えさせることが可能だっ!」
言葉が終わった瞬間、土屋くんの姿が消えました。
そして、私たちは土屋くんの言う通りに着替え終わっていたのです。
「何でウチがタキシードなのよぉっ?」
「わ、私もタキシードですぅ」
「何で僕だけ真っ白いウェディングドレスなのさぁっ!?」
でも、着ているドレスが変でした。
女の子の私たちが新郎さんの服装で、男の子の明久くんが新婦さんの服装です。
土屋くんは着せる衣装を間違ってしまったのでしょうか?
明久くんのウェディングドレス姿、似合い過ぎて怖いぐらいですけれど。
「…………否。俺は間違っていない。俺はお前たちの男指数と総受け指数を計測した。その結果、島田と姫路は“漢”、明久は“総受け乙女”と出た。だから、その服装になった」
土屋くんは真剣な瞳でそう言い切りました。
土屋くんの表情と声からは冗談のニュアンスが微塵も感じられませんでした。
「…………明久のウェディングドレス姿はお前らが着るよりも遥かに似合う」
「ええぇっ? 確かに、明久くんのウェディングドレス姿は凄くよく似合っていますが、でも、やっぱりウェディングドレスは女の子が着るものかと」
「そうよそうよ。ウチらの方がもっと似合うに決まってるわよっ!」
「…………5秒後の光景を見ても同じことが言えるかな?」
土屋くんの言葉が終わるのと黒尽くめの集団が写真館の中へと雪崩こんで来るのはほぼ同時でした。
黒尽くめの集団、FFF団のみなさんはあっという間に明久くんを包囲してしまいました。
「吉井明久が女子とデートしていると聞いて来てみれば……アキちゃんお嫁さんバージョン降臨だなんてっ!」
「アキちゃんっ、今すぐ俺と結婚してくれっ!」
「いいや、俺だっ!」
「俺に決まってるだろっ!」
「何でそんな飢えた野獣みたいな目で迫って来るのぉっ!? 嫌ぁああああああぁっ!」
明久くんはFFF団のみなさんに一斉に襲い掛かられてしまいました。
FFF団が私や美波ちゃんと仲の良い明久くんを度々お仕置きしていたのは私もよく知っています。
でも、今回はそれとはちょっと違う気がします。
何ていうか、FFF団のみなさんがもっと良からぬ瞳で明久くんを見ている気がします。
ううん、完全に性犯罪者の瞳です。
これっても、もしかしてっ!
『これからアキちゃんを観覧車に乗せて1人ずつ順番にお楽しみと行こうぜ!』
『こんな大人数を相手にするなんて無理だよぉっ!』
『今日はアキちゃん花嫁バージョンをFFF団全員でお楽しみだぜぇっ!』
『嫌ぁあああああぁっ! 変態人攫いぃいいいいぃっ!』
FFF団は男女交際を禁止しています。
けれど、女装した男の子と親しくなることは禁止していません。
女の子とあまり縁のないFFF団のみなさんが明久くんに日ごろ溜まった性的欲求を際限なくぶつけるとしたら?
……なんて、そんな訳ありませんよね。
そんな風に疑ったら、明久くんにもFFF団のみなさんにも悪いですよね。
みんな大切なクラスメイトなのに変な目で見ちゃいけませんよね。
「これからアキちゃんを観覧車に乗せて1人ずつ順番にお楽しみと行こうぜ!」
「こんな大人数を相手にするなんて無理だよぉっ!」
「今日はアキちゃん花嫁バージョンをFFF団全員でお楽しみだぜぇっ!」
「嫌ぁあああああぁっ! 変態人攫いぃいいいいぃっ!」
あっ。明久くんがFFF団のみなさんに観覧車へと連れて行かれてしまいました。
明久くんと2人で乗れるように1周するまでみんな順番に並んでいます。
「FFF団のみなさんも明久くんと遊びたかったんですね」
「アキも観覧車の中であんなに激しく動いてはしゃいじゃって。こんな美少女が2人もいるのに男同士ではしゃぐ方が楽しいなんて本当にガキよね」
美波ちゃんと2人、大きな溜め息を吐きます。
明久くんは結局、閉園になるまでFFF団のみなさんと観覧車に乗り続けました。
明久くんと観覧車に乗れなくてちょっと残念です。
「結局今日も明久くんと親密になれませんでした」
「アキってば常に男たちとばっかり遊んでたもんね」
遊園地からの帰り道、私と美波ちゃんは溜め息を吐きながら歩いていました。
ちなみに明久くんはFFF団のみなさんが夜道で襲われたら大変だと言って小脇に抱えて送っていきました。
そんな状態だったので明久くんとはまともにさよならの挨拶もできませんでした。
明久くんは全身黒いあざだらけになって精根尽き果てた表情をしていたのが印象的でした。
遊ぶのに全エネルギーを使ってしまったのだと思います。
「でも、ウチはこんなことぐらいでアキを諦めたりしないんだからね!」
「私だってそうです!」
明久くんが女の子の気持ちに鈍感だってことは小学校の時からよくわかっています。
だから、今日程度の失敗で明久くんを諦めたりなんかしません。
「次こそアキに女の子の良さ、ウチの良さを認識させて虜にしてみせるんだからっ!」
「私だって明久くんを虜にしてみせますっ!」
美波ちゃんと視線を交錯させます。
激しい、とても激しい火花が散ります。
「次こそ決戦ね」
「ええ。私と美波ちゃん。どっちが明久くんのハートを射止められるか最終決戦ですね」
明久くんとお友達という関係も悪くありません。
明久くんの横にいられるだけで幸せな気分になれます。
でも、やっぱりもう一歩新しい関係に足を踏み入れたいです。
明久くんと恋人同士になりたいんですっ!
「勝負よ、瑞希。ウチは絶対に負けないからね」
「私も絶対に負けませんからね」
美波ちゃんとの恋のバトルにも終止符をつける時が迫ってきていたのでした。
了
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バカテス、ピンクの人の物語第二段です。
瑞希と美波の恋の真剣バトルですね。
ええ、勝者は明らかに他のところにいそうですが。
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