(さて・・・どうするかな・・・)
一日の授業も終わり、クラスメイトたちも今では教室に居るのは僅か数人と言ったところだ。
本来ならばこの後は学校の裏山でいつものように修行をつけてもらうのだが・・・
季節は夏本番。
まだまだ先のこととは言え、夏休みの課題や休み前の試験など、教師たちも忙しい。
郁も例外ではなく、まだ仕事が片付いておらず、しばらく待っていろとのメールが来たのだ。
(うぅむ・・・たいして眠くもないしなぁ・・・)
裏山での修行が待っているのにわざわざ家へ帰るのは面倒だった。
そうなると校内で過ごすのがベストなのだが・・・問題は時間を潰す場所だ。
教室では昼寝程度しかすることがない。
だが、眠くは無かった。
そして真司が考えた結果思いついた行き先は・・・
-PM04:21 図書室内-
(涼しい・・・)
程よく空調が効いており、室内は静かで快適。
暇つぶしの本もあり、まさに夏の暑い日に時間を潰すには持ってこいだった。
(適当に何か読んでるかぁ・・・)
読書とは無縁の生活を送っている真司だったが、とりあえずずらっと並べられた本棚の間をぶらぶらと歩いていく。
適当に目を通していき、気になったタイトルがあれば流し読みをしてみる。
そんなまさに暇つぶしというべき行動をしていた。
だが・・・
(・・・飽きたな・・・)
図書室に来て十数分で既に飽きていた。
周りを見回せば真面目に勉強をしているもの、読書に励んでいるもの、寝ているもの様々だ。
(・・・ん・・・?)
そんな中、図書室の奥、図書カードなどが置いてあるカウンターの窓越しに見知った顔が見えた。
図書室は二つに区切られており、一般の生徒が自由に読書などが出来る場所とその奥にもうひとつ、本の在庫や管理票などが置いてある一般の生徒は入ることの出来ない小部屋がある。
真司はカウンター近くまで行くが先ほどの人影は部屋の奥へと行ってしまったのか見えない。
仕方ないのでこちら側と向こう側を繋ぐ唯一の扉を軽くノックした。
しばらく待っているとゆっくりと扉が開き、中から見知った顔が出てきた。
「よ、お久しぶり」
「・・・どうも」
恵理佳の友達の霧月だ。
「何か御用ですか?」
「いや、特別用事があったわけじゃないんだが、ちょっと待ち時間を潰そうと思ってここ来たんだけどさ」
「・・・はぁ、まぁ・・・どうぞ」
「いいのか?」
相変わらず淡々と答える霧月だが、こちらの事情をすんなり理解してくれたのか、今まで入ったことのない小部屋へあっさりと通される。
中は本が所狭しと積み重ねられ、更に本棚も幾つもあり、やはりぎっしりと本が並べられていた。
カウンターから少しだけ見えた内部の様子よりもだいぶ広い。
部屋の間取り自体は広い・・・が・・・本のおかげで自由に動ける範囲そのものは狭かった。
部屋に入った時点で見えるものは本棚と小さなテーブルに対に置かれている椅子。
カーテンの閉められた窓くらいのものだった。
霧月は扉を閉めるとさっさっとテーブルに置かれていた本を手に取り、本棚へと入れて行く。
とりあえずは目に入ったので、椅子に腰掛けることにした真司。
「そういえば霧月ちゃんは図書委員なんだっけか?」
「はい、良く覚えてましたね」
「まぁ、それぐらいはな」
図書委員の仕事らしきことを黙々とこなす霧月を眺めながら適当に思いついたことを話しかけて行く。
霧月の反応は相も変わらずドライなものだ。
「今は霧月ちゃん一人で仕事してるのか?」
「はい、大勢でやる仕事でもないですし」
感情の起伏が非常に少ない霧月の口調は今の会話が楽しいのかつまらないのかが非常に判断しにくい。
探り探りで話す真司も話題探しに一苦労だった。
入った当初はテーブルに山積みにされていた本も徐々に減って行く。
それほどまでに霧月は仕事を確実にこなして行った。
「でも一人じゃ結構大変じゃないか?」
「いえ、そうでもないです」
(・・・うぅむ・・・会話が続かないぜ・・・)
霧月の返答は明らかにそれ以上会話を続けようと言う意思が無い返答だ。
話しかける側としてはいちいち話題を切り替えなくてはならず、とても辛かった。
だからと言ってここでお互い無口になってしまっても気まずいだけだ。
「・・・大丈夫か?」
「はい」
ふと気がついたことがある。
当初は本棚の下の方から本を入れていた霧月。
だが、今ではどの本棚も真ん中から下はぎっしりと詰まっており、上部しか空いていない。
おかげで霧月は少し背伸びをし、爪先立ちで何とか本を仕舞っている状態になっていた。
周りには脚立らしきものもない。
小柄な霧月では苦労しそうだった。
「・・・手伝うぞ?」
「いえ・・・」
いい加減にただ座って傍観も出来なくなった真司は席を立つ。
そんな真司に気がついてか、仕舞おうとしていた手を中断させ、振り向く。
その時。
ぐらっ
「っと・・・!」
バランスを崩した霧月は後ろへ倒れそうになったが、間一髪のところで後ろから支えることに成功する。
「危なかったな・・・大丈夫か?」
「・・・はい、その、ありがとうございました・・・」
こうして接近してみるとその小柄さがより際立つ。
中学生と言われても違和感は無いほどだ。
両手で触れている両肩も小さく華奢な体型と言うことが良く分かる。
「・・・霧月ちゃんは細いよなぁ・・・」
「・・・そ、そんなこと・・・ないです」
パッと真司の傍から離れ、いそいそと床に落ちた本を拾う。
そしてまた本棚の上部へと手を伸ばす。
「・・・ここで良いのか?」
後ろから見ていた真司は入れるべきおおよその場所は見当が付いたので霧月の伸ばしていた手から本をさっと奪い取ると本棚へと入れた。
真司からすれば背伸びをすることもなくすんなりと届く位置だ。
「・・・ど、どうも・・・」
「んで、それは・・・?」
まだ霧月の手には本が二冊ほど残っている。
その二冊も霧月に言われた場所へと入れていく。
全く持って苦でも何でもないことだったが、霧月は何故か申し訳無さそうな顔をしていた。
「・・・目の前で危なっかしいことされても困るしな。そこにある本も上なんだろ?」
テーブルに未だに残っていた数冊の本を指差す。
「はい、そうですけど・・・もう私が・・・」
「どうせ暇だし。良いから霧月ちゃんは持ってきて指示してくれれば俺が入れるよ」
言いつつ片手で持ってきてと合図する。
「・・・すいません」
「気にするなって」
こうして真司は霧月と協力して本棚へと本を次々と入れていった。
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