【aster】
「なんだ、随分と機嫌がいいな」
「え、そうかな?」
にこにこ、と嬉しそうに笑う紫苑に声をかけると自覚していなかったのか紫苑が何度か瞬く。
確認するかのように両手で頬を撫でる紫苑の顔は、やっぱりだらしなく緩み切っている。
天然でぼやぼやしている紫苑のことだから、きっと何か些細なことが嬉しいのだろう。それでも、気になってつい口が開く。
「何かあったのか?」
「えーと、ネズミと会った」
「は?」
問うてみると、意味不明な言葉が返ってきてぽかんと口を開ける。
何があったと聞いたのに「ネズミと会った」というのは返事としてはおかしいのではないだろうか。
理解できなかった自分が、言葉を聞き取れなかったとでも思ったのだろう。
紫苑は、また言葉を続ける。
「えっと、だからネズミと会えて嬉しいなって思ってた」
にこにこ。
まさにそんな表現が似合う笑顔で告げられて、胸の奥がむず痒くなる。
こんな感情は知らない。恥ずかしいような、嬉しいような、それでいてどこか苛立ちをもたらす。
「何だそれ、相変わらずオメデタイ頭だな」
「へへへ」
いつもはこう言うと何かしら反論や押し問答が始まるのに、それもなく、紫苑は笑う。
それは幸せそうに。
その笑顔がどうにも眩しくて、まっすぐに見られずに視線を逸らす。
その日が、紫苑の誕生日だったと自分が知ったのは1週間後だった。
そして「ネズミに会った」の意味を理解して赤面するのも。
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ネズ紫のような紫ネズのような、どちらとでも取れる話。
(書いている人は、割とどっちでもいいなーという雑食です)