No.298019

「HITOKATATI」~ラサのお話~ 第三話「旅立ち」

よっちむさん

「HITOKATATI」~ラサのお話~ の第三話です。
老夫婦との別れから、次第に心を閉ざすラサ。
親戚という男が屋敷に新しい主として踏み込まれるが、何もできないラサ。そんな中で見つけた新しい命という希望。
時間をかなり置きましたが、HPでも公開していなかった3話目のお話。

2011-09-11 19:11:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:528   閲覧ユーザー数:528

第3話 「旅立ち」

 

1

 

その日は曇っていた。

時間はお昼だというのに、ドンヨリとしていて気分が暗くなるような日でした。

街から少し離れた郊外の小さな墓地に、小さな人だかりが出来ていた。

一つの小さなお墓には2つの名前が掘られていた。

その周りには黒い衣装をまとっている葬儀をするためだけのひとかたちの姿が

ほとんどであった。

すすり泣きしているもの、仁王立ちしているもの、掘った土で遊び始める子供、

様々だった。

ただ一人、漆黒のメイド服に黒いツバひろの帽子を被り黒いショールで顔を

隠した女性は唯一の肉親として参列していました。

ラサというヒトカタチでした。

彼女はジッと棺桶を見つめていました。

少しざわついていた中、牧師がお墓の前に立ち、ゆっくり落ち着いた太目の声で

別れの言葉を読み始めました。

ざわつきは静まり返り牧師の声が、小さな墓地に小さく響いていた。

しばらくして一人一人に小さなおんなのこが献花を配り始めた。

そして、ラサの前に来た女の子はにこにこしながら献花をラサの前に差し出す。

ラサはしゃがみこんで女の子から献花を受け取る。

「おねーちゃん、泣いてる」

少しだけショールをあげてラサは女の子に向かってブンブンと頭を振ったが涙は

飛び散って女の子の顔に当たった。

「おねーちゃん元気出して」

ラサはそんな女の子の言葉が嬉しくなり少し微笑みながらコクコクと頭を上下に

振って見せた。

そして、一人ずつお墓の前の穴の中にある棺桶に、献花を捧げていった。

牧師が聖書の一文を読みおえ、一礼すると皆、黙祷を始めた。

ラサにはその目をつぶっている時間が今までおばあさんやおじいさんと暮らした

時間くらいに思えた。

最初に私を見つけてくれたおばあさんの顔。

馬鹿なことをいっていつも笑わせてくれるおじいさんの顔。

3人で飲んだ紅茶の香り いつもいつも一緒だったのに....

 

ザッ!ザッ!

 

棺桶に土をかぶせ始めた。

少しずつ棺桶に土が被されたいく様を見て、ラサは胸がいっぱいになり始めて

いった。 そして ラサはよろよろとお墓に向かっていった。

「!!!」

ラサの心が叫んでいた。

(おばあさんおじいさん。最後だけわがままをお許しください。)

ラサはそのまま墓穴の棺桶に向かって飛び降りました。

周りに居たひとかたちはどよめきました。

ラサは二つの棺桶の泥を少し払いのけて、小さな窓に見えるおばあさん、

おじいさんの顔にキスをしました。

そして棺桶を抱きしめていました。

泥だらけで棺桶を抱きしめているラサを見て、周囲のヒトカタチは再び黙祷を

始めました。

(約束、おばあさんの最後の約束、絶対に忘れない。)

ラサは、人々に引き上げられるまで棺桶を抱き続けました。

 

 

街から少し離れたところにある少し大きめの邸宅。

一応、洋風のがっしりとした門があり正面玄関まで10mほど小道が続いて、

玄関より少し離れた所のバルコニーに小道はつながっています。

そのバルコニーで一人のメイドが、主人の居ない家の掃除をしていました。

ラサである。

だが、今までの明るい彼女ではなかった。

掃除を掃除をしていても何かうわの空で空をあおいでいた。

茶碗を洗いながら泣いていたり、 夜になるとおばあさんのベッドに朝まで

しがみついていた。

ラサの気持ちは今、どうすればいいのかわからないままでいたのでした。

あの葬儀から、何週間か経過したある日、この家の呼鈴が鳴った。

少しボッーとした感じでラサは玄関に向かった。

おそるおそるドアを開けるとそこには、30代くらいの男性と若い女性が

数人立っていた。

「ふーん、内装はまあまあじゃないの」

男はあいさつもなしにどかどかと中に上がりこんで来ました。

ラサはあっけにとられてキョトンとしていましたが、男はラサの方に向き

直りこう告げた。

「君がおじいさんとおばあさんを面倒見てくれたヒトカタチか。おれは

二人の息子だ。ここはおれが相続した、なのでこれからは俺が主人だ。よろしくたのむ」

たたみかけるようにラサにことを告げた男だが、彼は少し顔を覆うように

話がすんだラサっとその場を離れていった。

意味が分からなかったラサは追うように廊下に出てみたが愕然とした。

「古臭い物は捨ててしまおう!お、ここはまあまあだな、お前はこの部屋にしろ!」

さも、自分の物のように男は家の物を物色していたのだ。

だが、ラサにはどうすることも出来ない。 おばあさんとおじいさんの

子供とは到底思えないこの男の行動はいつか許せないものへと変貌していくのでした。

 

3

 

次の日。

げらげらと笑いながら食事をする男。

周りには数人のヒトカタチの女性がそれを見て笑っている。

ラサは一人、厨房に立ち、料理をし、あとかたずけを黙々と行っていた。

男はこの家の主となったことを自慢して笑いながらお金を見せびらかしていた。

実に考えられないことだ。

ラサが面識もないこの男を受け入れているわけではないのだが、

今のラサの心情では半ばやけくそに近い気持ちだった。

もう、おじいさんもおばあさんもいない。

自分がいる理由なんて考えることも出来ないのである。

 

「飲み物をもってきてくれ!」

男が叫ぶとラサはしぶしぶ用意し持っていく。

グラス数個とワインの入ったサーバーをテーブルに並べて、

食べ終わった食器をトレイに乗せていました。

その時々、らさは必ず一度だけ目を合わすようにしていた。

食器を片づけながらしばし男を眺めるように見ていました。

自分の意思を伝えるために。

この家の主人として認めない為に。

だが、男はその考えを気にもしない様子で、いつもこう尋ねてくる。

「いつも、おじいさんたちはこんな食事をとっていたのか?」

とか、

「いつも、買い物はどこにいってたのか?」 など、

気を使って聞くそぶりが見え見えで、

彼にとってはどうでも良いことなのだが、

唯一おじいさんとおばあさんの最後を知るラサは、

彼にとって遺産を相続するため、じゃけに出来ない存在であった。

食事が終わって、男と共に女性たちも一緒に外出し 、

静かになった屋敷で一人黙々と家事をするラサ。

家事が終わり、移動した屋根裏の自室に戻ると、

ベットに横たわると自然と涙があふれて止まらなかった。

どうしても認めたくない。

溢れる気持ちに逆らうことなくラサは泣いていました。

これからどうすればいいのか、わからないままで。

 

 

ラサは午後から庭に出て、気分転換も兼ねて洗濯物を干していると、

遠くから声が聞こえた。

そっちの方を見ると、洗濯物が満載のかごを三つ抱えて、

叫びながらこちらに向かってくる女性が見えました。

「これも一緒に干しますぅ!」

どたっ!

勢いよくその女性はコケて洗濯物を地面にぶちまけてしまいました。

「あぁ!もう!こんなことなら前のとこにいればよかったよぉ 」

と、ぶつぶつ文句を言いながら女性は洗濯物を拾い上げていると、

一緒にラサも洗濯物を拾っていました。

「あ、ありがとう!あなたがラサさんね。」

女性はにっこりと笑いながらラサに声をかけました。

ラサはコクコクとうなずきました。

「今日からここのメイドに雇われた「ミヤ」って言います。

よろしくお願いします。あ、ラサさんって、

前のご主人様から引き継いでココにいるって聞いてるから、

何でもラサさんに聞けって言われたんだけど....」

ラサはコクコクうなずいて、

ジェスチャーでしゃべることが出来ないと告げたが.....

「?どうしたの?風邪でも引いて声でないの?」

ラサはきょとんとした様子で聞いてくるので、

仕方なくラサは懐からメモを取り出してサラサラと書いてみやに見せた。

「あ、そうなんだ!ごめん、話せないのかぁ」

コクコクとラサはうなずいた。

「うんと....それじゃあこんな感じにメモ書いて話をするんですね。

わかりました!色々教えてくださいです。」

ぺコリと頭を下げるミヤさん。

ラサはフルフルと頭を振って、メモを書きミヤに見せた。

『かしこまらなくてもいいですよ。』

すると、みやさんは笑いながら、

「さっきみたいに私、ドジばっかりだから、

またラサさんに迷惑かけちゃうかなっておもったから....」

ラサはそれを聞いてぷっ、と吹き出して笑いました。

ミヤも、その笑顔に釣られて一緒に笑っていました。

おじいさんとおばあさんがいなくなってから、

笑ったのはこれが初めてで、

それに気がついた時ラサは涙ぐみながら二人で笑いあっていました。

 

 

夜、ふたりは屋根裏の部屋にいました。

一通り仕事が終わって、のんびりとした時間。

ミヤは話好きで、食事の素材の見極め方とか、

前にいたご主人の愚痴などラサに話していました。

もちろん、ラサはしゃべることは出来ないので笑ったり、

コクコクを相槌をうったり飽きることがありませんでした。

「ねぇ、ラサは恋したことある?」

唐突にミヤは、そんなことを口にした。

ラサは何の事かわかっていなかったので メモ書きで聞いてみた。

『コイってなあに?』

ミヤはちょっと驚いた様子でラサに話始めた。

「恋って胸がきゅうんとするんだよ。

異性を好きになってしまうとそうなっちゃうんだって、

でねぇ、すごく幸せな気持ちになるんだ。」

ラサはその話を聞いてぽかぁ~んとしてしまいました。

「あと、その異性の近くにいるだけでドキドキしちゃうんだってよ」

ラサは何か遠い世界の話を聞いているような気持ちになり、

ミヤにメモを書いて見せました。

『なんか、よく分からないけど、楽しそうなことだね。

ミヤはコイしたことあるの?』

ミヤはそれを読むとニンマリ薄ら笑いを浮かべて、

以前恋した人の事をベラベラと話始めました。

話しながらコロコロ変わるミヤの表情がラサにはうらやましく思えました。

最後にミヤはラサに聞きました。

「ラサは、ここのメイドをずっとやっていくの?

なんか見ていて辛そうに見えるよ。」

答えを待つミヤの顔を少しうつろな目で眺めるラサ。

「あっはは♪変なこと聞いちゃったかなぁ。」

すぐにフォローに入るミヤだが、

ラサはメモに向かいカリカリ書き始めました。

「あ、別に無理して書かなくてもいいよぉ」

ミヤが気を使い始めた時、ラサは書き終わってそっとメモをミヤに渡しました。

『あの男を認めたくない。

だからメイドしてるのは嫌だけどここは、

おじいさんとおばあさんのいた所だから、

自分が気が住むまでここにいてみようと思っています。』

ふうんとミヤはうなずき、

「そうだね、ラサは前のご主人様気に入ってるもんね。

でもあいつはヤバそうだよ。

どうみてもこの家の持ち主の事知らないし、

あぶなくなったら逃げ出した方がいいかも。」

ミヤもあの男を不信に思っているようでした。

「今日はもう寝よう。なんかつかれちゃった。」

コクコクとラサもうなずくと二人とも電気を消して布団に入った。

目をつぶるラサ。

ミヤのおかげで少しだけ元気になれた気がしました。

その日、ラサは微笑みながら眠りにつきました。

 

 

次の日の朝。

銃声の鳴り響く音で二人は目が覚めました。

ねぼけまなこのミヤはおずおずと窓の外を覗くと、あの男が猟銃をもって木にたくさん

留まっているカラスを撃ち落としていました。

「くそ!うっと惜しいぞ!カラス!」

男はわめきながら銃を撃っていたが、ひょいひょいと位置を変えているのでなかなか

当たりませんが、木の下には数匹のカラスの死骸が転がったいました。

「あぁ、またやってる~」

ミヤがぼやきました。

最近、なぜかカラスが異常発生していて街でも駆除に四苦八苦しているさなかでしたが、

男が来てからこの家にもカラスが庭の樹木に巣くうようになり、男はたまに外に出ては

猟銃を持ち出してカラスを撃ち落とすようになっていたんでした。

しばらくして、猟銃の音がやんで男も家に戻ってきました。

 

「なんか、気晴らしに撃ってるみたいでヤダなぁ」

ミヤは、ぽつりと言ってみた。

ラサも寝ぼけまなこでコクコクとうなずいていました。

 

その日は、街に食材を買いに行く日でした。

ミヤがやたら元気な日でもあります。

味見用の食材をぱくついたり、お茶の時間に

いつもでは食べられないデザートを頼んだりと

楽しいひとときを満喫できる時間なのでした。

「あ、これおいしそう~♪これ買おうよぉ~」

猫なで声でかたっぱしから欲しがるミヤに、ラサは…

 

フルフル!

 

と、毎回のようにあきらめさせていました。

必要のないものを必要以上に買わないのが

ラサの買い物術なので、ミヤの希望はことごとく却下されていました。

その都度、ミヤは、

「あう~、つまんないぃ~」

とぼやくのでした。

でも、ラサもその辺は考えながらも、可愛い小物を見つけると、ガラス越しにニヤニヤとしたりすることもあり、

そんな時は、ミヤが、

「あう、可愛いけど却下ぁぁ!」

ということもありました。

ふたりは、なんとなくそんな時間を楽しんでいました。

帰り道、ミヤがこんなことを言いました。

「あの男さ、いつも街に女の子連れて行って帰って来ると全員家を出た時の子と違うの、

知ってた?」

唐突に聞いてきたのでちょっとラサは戸惑いましたがすぐに「フルフル」と首を振って

返事しました。

「やっぱり。いつも街で前の子を売り払って新しい子を買っているみたいなんだよ、

ちょっと私たちも注意した方がいいかも」

ラサは、気にもしてないことでしたが、でも何か起こる気はしていました。

 

家に戻ると案の定、食べ物が食べ散らかされていました。

「酷い.....」

ミヤはぽつりと言った矢先、

「そう思うなら、すぐに片づけて調理をして持って来い!」

男が背後からどなりつけました。

「買い物に時間がかかり過ぎだ!どこをほっつきあるいてたんだ!」

「で、でも私たち…」

と、ミヤが言いかけた時、

「お前たち、仲がいいから遊んでいたんだろ、今日からは部屋を別々にする。ミヤは

ラサに今後近づくんじゃない」

....!

ラサが、とっさに男を睨みつけていた。

それに気がついた男はラサに平手を打とうとした瞬間、

 

パシィ!

 

ミヤがとっさにラサをかばって顔に平手を食らった。

「ぐっ、まあ、いい。すぐに片づけて料理を持って来い!」

そう、言い放って男は自室に行ってしまった。

 

ミヤは悔しそうに泣いていた、ラサもなだめるように泣いていました。

 

その日の夜から、ラサは天井部屋で一人、ベットの上でぼ~っとしていました。

ミヤのおかげで少し元気が出ていたのですが、それももうふうぜんの灯火。

また、寂しさに打ちひしがれそうな気分でいっぱいになりました。

おばあさんの毛布にそのままくるまって泣きながらラサは寝てしまいました。

 

 

次の日の朝。

また、

「ターン!ターン!」

銃声が鳴り響いていました。

カラスは男を馬鹿にしながら、ひょいひょいと枝から枝にうつり銃弾をよけて

遊んでいる様子でした。

飛び立った一匹のカラスがこっちの方に向かってきましたが、それを男は狙い

撃ちし、命中しました。

「よし!」

カラスはそのままラサの部屋のガラスを割り落ちて来ました。

「ガチャ~ン!」

ラサはびっくりして尻餅をついてしまいました。

「おい!そこのカラスを片づけておけ!」

遠くから男はラサに言ったが、聞こえているか確認はしませんでした。

 

ラサは割れたガラス窓と、その下で苦しんでいるカラスを見て、すぐにカラスに

近づきました。

血だらけでもがいているカラス、ラサはどうしていいのか分からず、せめて落ち

着かせようと思って静かになった時、そっとカラスの頭を撫でてやりました。

苦しそうだけど落ち着いたのか、もうそれ以上もがくのをやめてカラスはおとなしく

なりましたが、そのまま目をつぶって動かなくなりました。

ラサは少し涙ぐんで、せめて土に埋めようと思いカラスの体をそっと持ち上げた時でした。

 

コロン

 

??

 

カラスの傍らには小さな卵が転がっていました。

ころがって血だらけになってしまいましたが、カラスを箱に入れた後、

すぐに卵を取ってきれいに拭いてやりました。

可哀想なカラスの小さな命。

卵を布団にくるんで、小さな箱に入れてやりました。

ラサは、この子を育てようと思い立ちました。

 

 

その日は一日、ミヤと話ができませんでした。

キッチンで一緒になれたのでラサは手を振って合図をしたのですが、

あの男がそれを見ていてラサに近づいて睨みました。

ミヤは申し訳なさそうな顔をしてしぶしぶキッチンで洗い物を続けていました。

ラサは、一通り仕事を終えると、部屋に戻り卵の様子をうかがっていました。

と言う感じに、ラサは卵が気になってしかたありませんでした

そして、そのことをミヤにも知らせたかったのでした。

 

そんな感じの日々が数日続いたある日の朝。

 

カサカサ

 

卵の中から音が聞こえました。

 

!!

 

ラサは卵を凝視していました。

卵が勝手にコロコロころがりだして、ぴたっと止まった時、

 

バリ!

 

殻が割れて、片足が出て来ました。

ピンク色の可愛らしい足がじたばたともがいて、またぐるぐると卵が回り始めました。

ラサはくすくすと微笑みながらその様子を伺っていました。

足の出てる部分から、ひびが広がりようやく頭の部分が

出て来ました。

 

ピィ!

 

全身ピンク色のちいさなカラスの子供が卵の殻から殻をけっとばしながら出てきて、

ラサを見上げました。

ラサのことを母親と思い、ピィピィと泣き始めました。

ラサはそぉっと、その子を手のひらに乗せて頭を撫でてやりました。

カラスの子供は少し落ち着いたのか、トロンとしておとなしくラサを見つめていました。

ラサは、ハッっと気がついた時には遅く、手のひらに初めてのフンをしていました。

その日からラサは、寝ずにカラスの子供の世話と仕事に奮闘することになったのでした。

 

 

ミヤは、ぶすっとむくれていました。

もうラサと話が出来なくなって一週間。

というか、もうひとつ納得行かないこともあった。

調理をさせてもらえないのです。

ミヤは、いつもつまみ食いするのが楽しみで進んで調理係をやってたのに最近はラサを

指定してくるので、ちょっと面白くないことも重なってか、機嫌が悪いのです。

 

ミヤが洗濯しているとその横を疾風のごとくに通り過ぎるラサにびっくりして、

ミヤは尻餅をついてしまいました。

「ぬぁ!ちょ!ラサぁ~!どうしたのお!」

ラサの方を向くと、ラサは振り向いて舌をだした手を合わせて頭を前後にコクコクと

動かしていました。

どうやらあやまっているみたいでした。

最近、やたらラサが忙しくしている様子は知っていましたが、特に何かイベントでもある屋敷でもないしと、ミヤはちょっと心配になりました。

にしても、ちょっとあわただしすぎているので、ミヤはこっそりラサのあとをつけてみました。

すると、何か仕事を終えるたびに屋根裏の自室に戻っているので、部屋にいない間に中を覗いて見ました。

 

きぃ~

 

そっと扉を開くと、隅の箱からごそごそと物音がしました。

「え?なに?」

箱を覗くと、小さな白い生き物が上を向いていました。

「ピィピィ」

「可愛い~」

と、その直後、トントンと肩を叩かれてビクっとしました。

ミヤが振り向くと、ラサが笑顔でコクコクとうなずいていました。

「も、もしかしてラサが育ててるの?」

コクコクと答えるラサ。

そして、メモにさらさらと何か書いてミヤに渡しました。

 

ごめんね、話できなくて、この子の名前はBeeくんて言うの。

前に撃ち落とされて死んだカラスの子供だよ。

このこと、ずっとミヤに知らせたかったんだよ。

覗いてくれてありがと。

 

ぽか~んとするミヤ。

それもそうだが、この白いのがカラス?ということにも驚いた。

「で、でも、この子、白いよ!本当にカラスなの?」

コクコクとラサはうなずきました。

メモをさらさらとラサが書いて見せました。

 

でもカラスなんだよ。もうすぐ飛べそうなんだよ。この子。

 

ふむふむとうなずくミヤさん。

「でも、ラサ。あまり無理しちゃだめだよ。楽しそうだけど疲れがそのうち出るかもしれないし。」

コクコクうなずくラサ。

 

Beeくんはピイピイと嬉しそうに鳴いていました。

 

それからは、ミヤはこっそりラサのフォローをするようになった。

ラサが調理の下ごしらえをしたら、ミヤが調理してる間、ラサはBeeくんの様子を見たりと言った具合である。

 

それから数週間たつと白いカラスはりっぱなカラスに成長していました。

そしてよく外に遊びに行くようになりました。

ラサやミヤはそれを見かけるとこっそり手を振ったりしていました。

 

カラスのBeeくんはとっても頭が良くて、小さなボールを投げると

取りに行ってくわえて帰ってきたりします。

そうするとラサが優しく背中を撫でるのが気に入っているようでもありました。

 

しかし、ある朝、そのカラスがラサの部屋から出て行くのを、男は見つめていました。

 

 

男は、物凄い勢いで家に入り、自室にある銃を手に取った。

ミヤがその姿を見て少し不思議に思ったが、今はラサがBeeくんにえさを与えてる時間なのでそのまま朝食の調理を続けていた。

 

ラサは、えさの用意を済ませて、下に行ってミヤの手伝いをするつもりで部屋を出て階段を降りている途中のことでした。

 

ドドドドドドッ

 

物凄い勢いで近づいて来るだれかに気がつきました。

 

!!

 

とっさに階段をふさぐようにラサは立ち止まりました。

 

その前に銃を構えたあの男が物凄い剣幕でラサの前に姿を現しました。

 

「ラサぁ!どけ!あのカラスがお前?部屋に入った!」

 

ラサはキッ!っと大きな瞳で男を睨みつけて手を広げて左右の廊下の壁を押さえ大の字ようなポーズを取って男が部屋まで続く階段に行かせないように体で防いでいました。

 

「ラサ!どけと言ってるのがわからないのか!」

 

ラサは全身全霊を持って頭をブンブンブンブンを振り続けました。

Beeくんを守らなければならない。

ラサが育てたハジメテの子。

この男にだけは絶対に渡さない。

もはや主人といえどラサにはこれだけは渡せない気持ちだった。

 

男はラサの右肩を掴み、無理やりどかそうとするが、ラサはそれを振りほどくように階段を一段ずつ上り、これを回避したが抵抗も虚しく、あと3段でドアの前と言うところまで来てしまった。

 

「なんでカラスの肩を持つんだ!ははぁ、カラスを飼っているってことか。なるほどね。」

今度はラサの胸ぐらを掴んでちょっと持ち上げた状態で残りの3段を飛び越してラサを体ごとドアに叩きつけた。

 

!!

 

ラサは苦しそうにケホケホをせきこんだが、すぐに顔を持ち上げて男を睨んだ。

男はそれを見てつかんだ胸ぐらごとラサの体を10cmほど持ち上げた。

ラサは苦しそうにしながら睨む瞳は男の顔をとらえてまっすぐに見つめていました。

男はそれを見て取り、すぐ横に唾を吐き捨てて言った。

「その目だ?。いつも俺を見下している」

そう言い放った瞬間、男はラサごとドアを突き破る勢いで押し投げました。

 

がしゃん!!

 

ドアは外れて部屋に向かってラサごと倒れました。

ドアの小さな窓もその拍子で割れました。

そのまま、ドアの上でラサはうずくまっていましたがすぐに右の壁の方を見ました。

食事を終えたBeeくんが丁寧に巻き取られて立てかけられている絨毯の上で驚いた様子で羽をわさわさしていました。

男は中にゆっくりと入ってきてラサのおなかに馬乗りになりこう言いました。

「そうだ!その目だよ!いつ?いつも見つめるその目だ!前の主人のメイドでこの家の事や前の家主を知っているから、おまえには出来るだけ利用スルつもりだったが、その眼だけは気に入らない!」

 

そして男は左手でラサの顔を押さえつけて、右手の指2本をラサの両目に突き刺した!

 

!!!!!!っっ!!

 

その瞬間、声にならないラサの叫び声がうめき声となり部屋の中に鳴り響いた。

その瞬間、白いカラスは、物凄い大きな鳴き声を発しました。

 

かああああああああ!!

 

男はその鳴き声でふっと右の壁のカラスを見つけ銃を向けようとしたが、それはあまりに遅すぎた行動だった。

次の瞬間、

物凄い数のカラスが天窓のガラスを破って男めがけて飛び込んできました。

 

ガシャンガシャンガシャンガシャン!!

 

「なっ!」

 

男は逃げる暇もなく、体じゅうにカラスがへばりついてくちばしでつつき始めました。

 

「や、やめろ!いた!ぐぁぁ!」

 

男はそのままヨロヨロと歩くが、足をつついているカラスが足の健を引きちぎったためガクンと倒れこんだ。

 

ラサも両目を押さえグッタリと横たわった

 

「なに?!いったいどうしたの!?」

ガラスの割れる音を聞いてミヤがその場に駆け付けましたが....

 

「ひぃ!」

目の前の参上を見てへなへなと腰を落としました。

ミヤが駆け付けた時にはうごめくほどいたカラスたちはもうあらかたいなくなっていましたが、男は見るも無残な姿になり死んでいました。

 

「ラ、ラサぁ、どこにいるの?」

恐る恐るみやは立ち上がり見渡すと白いカラスが心配そうにラサの周りをぴょんぴょんと跳ねて見守っていました。

ミヤはラサの傍らに行きました。

「ぁ、ラサ!大丈夫?なんて、こんな酷いことを....」

ミヤはハンカチで血だらけになったラサの瞳をぬぐいました。

その拍子でラサが気がつきましたが、必至になって手で何かを探ろうとしました。

「ど、どうしたのラサ?」

ミヤはその行動を静止させようとしましたが、すぐ横にいた

Beeくんはそれに反応してすぐラサの元へ向かいました。

ラサはBeeくんの背中さわると、すぐにぎゅっと抱きしめました。

ミヤは気がつきました。

「ラサがBeeくんを守って、Beeくんがラサを助けたのね」

そう思うとミヤは自然に涙が出ていました。

「ふたりともすごいね。ほんとうにすごいね」

そう言ってミヤもラサを抱きしめました。が....

おもむろにミヤは立ちあがって懐からコンロに火をつけるためのマッチを出してラサにこう言いました。

「らさ!とりあえず逃げよ!このままだとあなたは人殺しで捕まっちゃうよ」

「わたしがラサの眼の代わりになってあげるよ、だから急ごう!」

Beeくんもかぁかぁとラサに唱えるとそのまま外へ飛び出して行きました。

ミヤは、マッチをすって巻いてある絨毯に火を付けました。火はあっという間に絨毯を炎で包み込んだしまいました。

ミヤはラサの腕を肩で担いで、その場からゆっくり離れていきます。

「ラサぁ、あの男ももういないけど、こんなことって酷過ぎるよね。あと、ごめんね、私、家に火をつけちゃった。あいつの亡骸が残るのが許せなくて....」

ラサは力なくフルフルと頭を振った。

ミヤがよろよろと階段を降りきって廊下に出ると何事もなかったようにあの男の愛玩具となっていた女性のヒトカタチ何人かがぺちゃくちゃと談笑していた。

あれだけ大きな音がしているにもかかわらず気にも止めていない様子だ。

ヒトカタチの本来の姿なのかもしれないがあまりに対象的なラサたちとの違いにミヤもそれを見てあきれてしまいました。

「あっははっは~」

ヒトカタチたちの高笑いが響く中、みやとラサは玄関から外に出た。

 

ゆっくりだが少しでも早く屋敷から離れる為に、ミヤは懸命に歩いていた。

幸い、すれ違う人々もいないが車が通る度、並木の木に身を隠しながら二人は歩いていた。

そして、しばらくすると消防車のサイレンが聞こえ始めた。

二人は屋敷から1キロくらいは離れたと思う。

屋敷が都市の郊外にあったこともあり、人気のない森の方に向かったことで誰にも見つからずに済んだ。

「ラサ、ここまで来れば大丈夫だよ」

めいいっぱいにこやかにミヤはラサにそう告げたが、ラサの消耗は限界まで来ていた為、その声に安心したかのようにラサはミヤの懐に倒れこんだ。

「!!」

ミヤはしっかりそれを抱きしめた。

息をしてるかどうか、それも疑問に思えるほど衰弱しきっているラサをきゅうっを抱きしめてミヤはそのままずっとラサの頭を撫でていました。

「がんばったね、ラサはすっごくがんばったね」

今のミヤにはそうすることが精一杯だった。

「かぁぁ!」

Beeくんが鳴いた。

心配そうに二人の上を飛んでいる。

そして静かな風が流れてくる。

 

さぁぁぁーー

 

そこは道路から少し離れた所。

広い草原と木々の塊が無数に広がっていてその木々の塊の一つの大きな木の下。

もうそろそろ夕方になりかけていた。

空は紺と橙のグラデーションで染まり始め紺色は上空に向かうほど濃くなっている。

ミヤは風で瞳にかかる髪の毛を払いながらラサを撫でつずけていた。

「風が気持ちいいよね、ラサ」

そしてミヤもさすがに疲れたのか、そのまま眠りについた。

 

 

 


 
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