No.297041

真・恋姫✝無双外伝 ~~受け継ぐ者たち~~ 第五話 『天下無双の四女』

jesさん

前回からかなり空いてしまって申しわけないです 汗

さて、今回の主役は恋の娘、心です。
ちなみに、字の方は自分で勝手に考えましたww
ではでは、読んでやってくださいノシ

2011-09-10 10:56:19 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:3149   閲覧ユーザー数:2670

オリジナルキャラクターファイル No,3

 

 

 

第5話 ~~天下無双の四女~~

 

 

 「ん~~~っ」

 

青い空。

白い雲。

そこから覗く太陽の下で大きく伸びをする俺。

 

実に気持ちのいいシチュエーションだ。

 

俺は今、城の中にある東屋の様な場所でひとときの休憩中。

 

・・・・・・・違うぞ。

別に仕事がきついから現実逃避で逃げて来たわけじゃないんだ。

 

この世界に帰ってきて数日。

俺の仕事と言えば、もっぱら桜香の手伝いやら書類の整理。

 

もちろん、俺だって10歳まではこの世界に住んでたんだから、文字の読み書きには別段問題はない。

だけど、なにぶん俺は数日前までただの高校生として日々を過ごしてきたんだ。

いきなり一国を治める政治の補佐をしろと言われても、いまいち勝手がつかめない。

 

桜香や麗々の補助を受けながらなんとかこなしているものの、今のところは手伝いどころか二人の足手まといにしかなっていない訳で。

 

そんな苛立ちもあってギブアップ寸前の俺の様子を心配した桜香が、『今日はもう休んだら?』と笑顔で言ってくれたのは正直言ってかなりの救いだった。

 

そんなこんなで今は特にすることもなく、こうして青空の下で休憩中。

 

うーん・・・・まさかこの年でニートになるとは思わなかった。

 

 「兵の調練とかならできると思うんだけどな~」

 

長年平和な世界で生活をしていたとはいえ、俺はそれなりに腕は立つ。

一兵卒に剣術を指導するくらいなら問題ないと思うんだけど、それは愛梨に反対された。

 

 『兄上は人柄が良すぎますから、調練には向きませんよ』

 

だって。

 

そりゃあ、あんまり人に対して怒鳴ったりとかはした事無いけど。

 

 「こんなことなら子供のころにちゃんと勉強しとくんだったな・・・・・・」

 

今思えば、俺がまだ十歳のころ。

ひと月に数回行われていた諸葛亮様の勉強会にもっと真面目に参加しておくんだったと今更ながらに後悔する。

 

現代の学校じゃ、政治の仕組みは教えてくれてもやり方までは教えてくれないもんな。

 

 「はぁ~・・・・・。」

 

せっかく八年ぶりに戻ってきたのに、妹たちに迷惑をかけてばかりな気がする。

なんだか自分で自分が情けなくて、吐くため息も少し大きくなる。

 

 「あらあら。 こんな天気の良い日にため息ですか? 章刀様」

 

 「?」

 

突然かけられた声に、だらしなくうなだれていた頭を上げる。

 

 

 「ああ、璃々姉さん」

 

振りかえったそこにいたのは、紫色の長髪の美人の女性。

 

俺がこの世界に返ってきた次の日、中庭で俺の首飾りを結んでくれたあのお姉さんだ。

 

この人は黄叙(こうじょ)。

真名は璃々(りり)といって、父さんの仲間の一人、黄忠様の一人娘だ。

 

彼女は黄忠様とその叔父との間に生まれた娘なので、俺たち兄妹とは直接血のつながりはない。

だけど昔から兄妹同然に育ったので、俺たちにとっては良いお姉さん的存在だ。

 

年上とはいっても、昔は俺とたいして変わらない子供だと思っていたのに、八年ぶりに会ってみたらすっかり美人のお姉さんになっていたので驚いたのなんの。

 

 「その様子だと、随分と苦労されているみたいですね」

 

恐らく情けない表情をしているであろう俺の顔を見ながら、璃々姉さんは口元に手を当てて可笑しそうに笑う。

 

 「まぁね。 八年ぶりに帰ってきた我が家がこんなに厳しいとは思わなかったよ」

 

 「ふふ。 頑張ってください。 私も含めて愛梨ちゃんも桜香様も皆、章刀様に期待しているんのですから」

 

 「はは。 まぁ、期待を裏切らないように努力はするよ」

 

 「そうして下さい。 では、私は仕事がありますのでこれで」

 

 「ああ。 頑張って」

 

 「ああ、それから・・・・・・・」

 

 「ん?」

 

軽い会釈をしてその場を去ろうとした璃々姉さんだったが、ふと思い出したように足を止めた。

 

 「章刀様、今日はもうお暇なのでしょう?」

 

 「ああ、桜香が気を遣ってくれたからね。 もし何か手伝える事があったらやるけど?」

 

休みはもらったが、何をしようかと時間を持て余していたところだ。

この際倉庫の整理でも部屋の掃除でも、仕事があるなら喜んで任されよう。

 

・・・・・と一人意気込んでいたんだけど、璃々姉さんは笑顔で首を横に振った。

 

 「いいえ、私の方は手が足りていますので。 それよりも、お暇ならあの子のお相手をしていただけませんか?」

 

 「?」

 

そう言いながら、璃々姉さんはスッと中庭の方を指差した。

俺もその指先を追うようにして視線を向けると・・・・・

 

 「・・・・・・・・・・・」

 

良く知った一人の少女が、中庭の花壇の傍にしゃがみ込んでいた。

 

 「心(こころ)・・・・・・?」

 

 「心ちゃんも、今日は仕事が無くて暇そうにしているんです。 章刀様が遊び相手になってあげれば、きっと喜びますよ」

 

 「それはお安い御用だけど、皆が仕事中なのに俺だけ遊んでていいのかな?」

 

 「もちろんです。 それに妹の面倒を見るのも、兄としての大切なお仕事ですよ」

 

 「璃々姉さん・・・・・・ありがとう」

 

 「いえいえ。 それでは心ちゃんの事は任せましたよ」

 

もう一度会釈をして、璃々姉さんは廊下の向こうへと歩いて行った。

 

 「さて・・・・・・」

 

せっかくできた自由な時間だ。

 

璃々姉さんの言うとおり、兄としての仕事をまっとうさせてもらうことにしよう。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 「・・・・・・・・・・」

 

俺が歩いて近づくまで、少女は変わらない様子で花壇そばにしゃがみ込んでいた。

特に表情の変化もなく、静かに花壇の花をじ~っと見つめている。

 

 「心」

 

 「?・・・・・・」

 

近づいても気づかないようなので声をかけると、俺の声にピクッと反応して静かに顔が上がった。

 

 「あ・・・。 兄・・・・・」

 

俺と目が合うとゆっくりと立ち上がり、トテトテと走り寄ってきた。

まるで主人を見つけた小動物の様な反応だ。

 

この子の名前は、呂玲綺(りょれいき)。

真名はさっきから言っているが、心(こころ)という。

 

彼女も俺や愛梨とは母親の違う妹で、俺の四番目の妹に当たる子だ。

 

 「よう。 暇してるのか?」

 

 「・・・・そうでも、ない」

 

俺の問いかけに、フルフルと頭を振る。

どう見ても暇そうに花壇を見つめていたようにしか見えなかったけど、本人はそのつもりはないらしい。

 

う~ん・・・・このつかみどころのないマイペースな性格は昔から変わらない。

 

 「じゃあ、何してたんだ?」

 

 「・・・・かくれんぼ」

 

 「ひとりでか?」

 

 「・・・・ひとりでは、できない」

 

バカにするなと言った様子で、またフルフルと首を振る。

でも、この子なら本当に一人でかくれんぼとかしかねないからなぁ・・・・・

 

 「一人じゃないって、じゃあ誰と・・・・・・」

 

 「ワン! ワンワン!」

 

 「?」

 

辺りを見まわしていると、どこからともなく聞き覚えのある鳴き声が聞こえて来た。

この元気な声は間違いなくアイツだろう。

 

 「ワン! ワン!」

 

 「お・・・・・」

 

間もなく茂みの中から現れたソイツは、心の姿を見るなり真っ直ぐに彼女の方へダッシュし、胸元へと飛び込んだ。

 

心は驚く様子もなく、その小さな体を受け止める。

 

 「ワン!」

 

 「・・・・見つかった」

 

 「見つかったって・・・・・もしかしてセキトとかくれんぼしてたのか?」

 

 「・・・・・“コクリ”」

 

セキトをだっこしながら、一度だけ頷く。

 

なるほど。

どうやらさっきのは花壇を見ていたわけではなく、花壇の影にしゃがんで隠れていたらしい。

 

 

 「・・・・兄のせいで、見つかった」

 

表情は変えないまま、少し上目遣いの不満アピール。

これは一応俺が悪いのか?

 

 「あはは、ごめんごめん。 まさかセキトとかくれんぼしてるなんて思わなくてさ」

 

笑って、あやすように心の赤い髪を撫でてやれば・・・・・

 

 「♪・・・・・許してあげても、いい」

 

ほら、すぐに機嫌も直った。

 

心は、表情こそあまり変化しないから愛想の無い様に誤解される事が多いが、多分妹たちの中でも一番素直だ。

まぁ、一番子供っぽいとも言えなくはないけど。

 

 「ワン!」

 

 「あぅ・・・・セキト、くすぐったい・・・・・」

 

心の腕に抱かれていた愛犬のセキトが、僕もかまってくれとでも言うように心の頬をペロッと舐めた。

心はくすぐったそうに首をすくめるけど、その顔はどこか嬉しそうだ。

 

 「あはは。 二人は本当に仲がいいな」

 

全く・・・・この光景を見ていると本当に疑いたくなる

こののんびりした女の子が、戦場では誰も叶わない天下無双の武人だもんなぁ・・・・・

 

 

兄としては恥ずかしい話だけど、多分心の実力は俺より上だ。

この世界に帰って来てから実際に手合わせしたわけじゃないけど、本気の勝負ならまず勝てないだろう。

 

これは言い訳になるが、多分それは純粋に血筋のせいだと思う。

 

なんたって心の母親は、名前を知らない人はいないであろうあの天下の飛将軍、呂布奉先。

乱世の武神といわれた俺の母さん、関羽ですら勝てなかったという最強の武人だ。

そんな母親の才能をバッチリ受け継いでいる心だから、まず間違いなく俺たち兄妹の中でも最強だと思う。

 

 「・・・・・兄?」

 

 「え?・・・・ああ、ごめんごめん」

 

ひとりで考えごとをしていたせいか、心が呼んでいる事に気付かなかったらしい。

気が付けば、心がひょこっと俺の顔を覗き込んでいた。

 

 「兄は、暇・・・・・・?」

 

 「ああ。 桜香から休みをもらったんだ。 せっかくだから心と遊ぼうかと思ってさ」

 

 「♪・・・・・・遊ぶ」

 

お・・・・大分ご機嫌になった。

表情にはあまり出ないけど、なんとなく雰囲気でわかるから不思議だ。

 

 「何して遊ぶ?」

 

 「ん~、そうだな・・・・・・」

 

あらためてそう訊かれると、これといって案があるわけでもない。

もともとこの暇な時間自体、ふって湧いた様なもんだしな。

 

それでもせっかく一緒に過ごす以上、心に詰まらない想いをさせるわけにはいかない。

俺は無い頭脳をできるだけフル回転させて、良いアイデアを模索した。

 

 「そうだ。 一緒に市にでも行ってみないか?」

 

頭脳をフル回転させた結果がそれか!

・・・と自分で突っ込みを入れたくなるような安直な答えしか浮かばなかった。

 

 「市・・・・・♪」

 

それでも、心の表情は間違いなく明るくなったのは見てとれる。

 

本当の事を言えば、行き先を考えるまでもない。

心は一緒にどこかへ散歩に行くだけでも、たとえ庭で一緒に昼寝するだけでもたいていはこうして喜んでくれるんだ。

 

 「ちょうどそろそろお昼だし、市に行って何か食べよう」

 

 「・・・・“コクリ”」

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

さて。

そんなこんなで、心と一緒に市に来てみたわけだけど・・・・・・・

 

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 

市に着いてから既に数十分。

俺たち二人(ちなみにセキトは城でお留守番)の足はほとんど進んでいなかった。

 

  「・・・・・・・・・・・・」

 

これで何件目だろう。

 

店先に立ち止まって、並べられている食べ物をじ~っと見つめる心の姿は既に数回見ている。

 

ちなみに今回は肉まんのお店。

店の中からホカホカと立ち上る湯気がなんともおいしそうだ。

 

 「あの、お譲ちゃん・・・・・?」

 

既に数分間微動だにしない心の様子を見て、店のおっちゃんも少し困惑気味だ。

そりゃあ店の前でこんな風に立ってられちゃ困るよな。

 

あ、心の口からよだれが・・・・

心の様子を見てるのは個人的にかなり楽しいんだけど、そろそろ声をかけた方がよさそうだ。

 

 「お~い、心~」

 

 「・・・・・?」

 

横から声をかけると、心は顔だけをこちらに向けた。

 

 「肉まん食べたいのか?」

 

 「・・・・・コクコク」

 

少しの間の後、素直に頷いた。

 

 「そっか。 まぁ買ってあげたいのは山々なんだけど・・・・・」

 

ちなみに俺は、愛梨からお小遣い制である程度のお金はもらっている。(もちろん政務をしている分の給料として)

 

だから別に金銭的に余裕がないわけじゃない。

 

可愛い妹が肉まんを食べたいと言っているのだから、快く買ってあげたいんだけど・・・・・ 

 

 「だけどな心。 さすがにもう持てないんじゃないか?」

 

そう言って、改めて心の姿を見直す。

その両腕には、既に溢れんばかりの紙袋が抱えられていた。

 

さっきも言った通り、こんな風に店の前でのやりとりは既に数回目だ。

その前の数回ももちろんというか当然のごとく食べ物屋な訳で。

その全ての店で、心はもれなくたくさんの食べ物を買い込んでいた。

 

既に紙袋で心の小柄な体はほとんど見えなくなっているほどだ。

 

 「まだまだ、いける」

 

紙袋の向こうで、心は余裕そうにそう言った。

 

 「でもそんなに買ったって食べられないだろ?」

 

 「・・・・・よゆう」

 

 「ああ、そう・・・・・・」

 

だよなー。

恐らく心にかかれば、これほどの量の食糧でさえものの十分足らずで姿を消すだろう。

 

この子は、食欲も母親ゆずりなのだ。

 

 「兄・・・・・・だめ?」

 

 「う゛・・・・・・」

 

その見つめ方は反則だ。

上目づかいに首をかしげるまるで小動物の様な心の愛らしさに、俺は心の中で白旗を振った。

 

 「おっちゃん、これちょうだい」

 

 「まいどありー!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 「♪・・・・・・・」

 

通りを歩く俺の隣を、心は上機嫌でついてくる。

上機嫌と言っても、山の様な紙袋のせいで横顔すらほとんど見えなくなってるけど。

 

結局、あの肉まん屋あの後にも更に三件の点心とお菓子の店に立ち寄り、同じ様な量の商品を購入した。

さすがに心だけでは持ち切れなくなったので、今は俺の手にも紙袋が抱えられている。

 

思えば、選んだ道が悪かった。

 

この成都の街は大きくいくつかの通りに分かれていて、それぞれ衣類、食品、日用品などの店の種類ごとにある程度集約されている。

ちなみにこれは、昔父さんが現代の知識をもとに実行した事だ。

 

そして俺たちが今歩いてきたのは、城の門から真っ直ぐに続いている大通り。

この街の中でも、とりわけ飲食店が立ち並ぶ場所だ。

 

そんな所を心と一緒に歩けばどうなるかくらい予想できたはずなのに、と今になって少し後悔。

まさか少し街に出ただけでこんな大荷物を抱えることになるとは・・・・・・

 

ああ、肉まんがずっしりと重いぜ。

 

だけど、まぁ・・・・・・

 

 「♪・・・・・・・・」

 

心の嬉しそうな顔が見れたから、これくらいは良しとしよう。

 

 「あ・・・・・・・」

 

 「ん? どうした心」

 

上機嫌で隣を歩いていた心が、急に足を止めた。

そして何かを思い出したように少しうつむいて・・・・・・・

 

ぐぅ~~~・・・・・・・

 

随分と自己主張の強い音が心のお腹から聞こえて来た。

 

 「歩いてたら、お腹減った・・・・・・・」

 

 「あははは。 そりゃ、買ってばっかりでまだ何にも食べてなかったもんな。 よし、どこかその辺に座って食べようか」

 

 「“コクコク”」

 

そんなわけで、俺たちは近くの店へと立ち寄ることにした。

 

 

 

 

 

少し歩いて見つかったのは、店の前に何席かのテーブルがある現代風に言うところのカフェテラス方式のお店。

俺が子供の頃にはこんなしゃれた店は無かったはずなのに、この街も随分と変わったものだと一人勝手にしみじみと思ってみたり。

 

 「モグモグ・・・・・・」

 

そんな事を考えている俺の前では、既に心が忙しく口を動かしていた。

 

木造りのテーブルの上に広げられた大量の食糧を前に、ハムスターの様に口をパンパンにしている。

初めて見る人なら「大丈夫か?」と心配するような光景だろう。

実際、周りに座っている他のお客さんからは心の方に視線が集中している。

 

だけど俺としてはもう慣れたもの。

心自身も、特に周りの視線を気にすることなくどんどん箸をすすめて行く。

 

 

 「美味しいか?」

 

 「モグモグ・・・・・・コク」

 

俺の問いかけに、口をせわしなく動かしながら無言の頷き。

どうやら心の意識はほとんど口の中と目の前の食べ物に向けられているらしい。

 

う~ん・・・・今心の頭の中では俺と食べ物のどちらが優先されているのだろう。

もし食べ物だったら、なんて考えると少し悲しくなるから聞くのはやめておこう。

 

 「モグモグ・・・・・・」

 

 「それにしても、相変わらず良く食べるな~」

 

あれだけあった食糧は、気付けば既に半分以下の量に減っていた。

それでも心の手が休まる事はなく、皿の上の料理は次々と心の口の中へと消えて行く。

 

この子の食欲は昔から知ってるけど、あのころよりも格段にすごくなっていると思う。

 

なんたって昔、恋様と心の二人だけで肉まんの屋台をまるごと一軒潰しそうになった事があるくらいだ。

あの時一緒にいた父さんと店のおっちゃんの顔と言ったら、八年たった今でも忘れないぜ。

 

 「・・・・・兄?」

 

 「ん?」

 

しみじみと昔を思い出していると、向かいに座っている心が声をかけて来た。

 

 「どうした心。 もう食べ終わっちゃったのか?」

 

 「“フルフル”・・・・」

 

俺の問いかけに心は静かに首を振った。

テーブルを見ると、確かにまだ数個の肉まんが皿の上に残っていた。

 

 「もしかして、お腹一杯になっちゃたか?」

 

 「“フルフル”・・・・・・・」

 

 「違うの? じゃあなんで・・・・」

 

 「・・・・兄の分」

 

 「へ?」

 

 「兄の分・・・・・残しておいた」

 

 「心・・・・」

 

くぅ~、なんて優しい妹なんだ。

こんな妹をもって兄ちゃん幸せだぞ。

 

これはきっと俺>食べ物と言う事で良いんだろう。

心には悟られないように、俺は心の中でガッツボーズ。

 

 「ありがとう。 それじゃあ、せっかくだからいただくよ」

 

 「・・・・・“コク”♪」

 

俺がそう答えると、心も嬉しそうに頷いてくれる。

そんな妹の優しさに再び感動しつつ、俺は皿の上に残っている肉まんに手を伸ばした。

 

 「それじゃ、いただきまー・・・・・・」

 

ホカホカの肉まんを手に取り、今まさに口に運ぼうとしたその時・・・・・・

 

 “ガタン!”

 

 「ふざけんじゃねぇーーーっ!!!」

 

 「っ!?」

 

 

いきなり後ろから、何かが倒れるような音と共に男の怒鳴り声が響いてきた。

驚いて手から落ちそうになった肉まんを慌ててキャッチする。

 

 「な、なんだ・・・・?」

 

肉まんをキャッチしたことに安心しつつ、怒鳴り声のした方へと目を向ける。

すると後ろの席で、なにやら三人組の男が一人の女性店員を囲むようにして立っていた。

 

その中の一人が、自分の服を指さして・・・・

 

 「どうしてくれんだよてめぇ! 俺の服に茶なんざこぼしやがって!」

 

 「も、申しわけございません! すぐにお拭きいたしますので・・・・・」

 

 「拭きゃあいいってモンじゃねえんだよ!」

 

 「ひっ・・・・・」

 

男は店員の言葉など聞く耳もたないと言った様子で、すごい剣幕でどなり散らす。

対する店員の方は、男に怯えてそれ以上何も言えないようだった。

 

 「ああ、なるほどね」

 

その様子を見て、俺はひとしきりの状況を理解した。

確かにお茶をこぼしたのは店員の失敗だろうけど、だからってそれだけで男三人で囲むのはいただけないよな。

 

って言うか、いまどきこんな古い不良がいるのか。

いや、この時代ならむしろ新しいのか・・・・・・ってそんな事はどうでもいい。

 

 「はぁ、仕方ないな・・・・」

 

これ以上周りのお客に迷惑をかけられても困るし、何より一応この街を守らなきゃならない立場としては見過ごせない。

 

俺はその場を鎮めようと、席を立つ。

 

 「心、少しだけここで待って・・・・・・ってあれ? 心・・・・?」

 

席で待っているようにと言おうとしたのに、いつの間にか心の姿が消えていた。

 

 「あ~あ、こりゃ染みになっちまうな。 どうしてくれんだ?」

 

 「その、どうと言われましても・・・・・・」

 

 「まさか謝って済むなんて思ってねぇよな?」

 

 「そんな・・・・・・」

 

 「・・・・それくらいで、やめる」

 

 「あ?」

 

 「心っ!?」

 

どこに行ったのかと思えば、いつの間にやら心は店員と男たちの間に立っていた。

 

 「何だテメェは?」

 

 「お茶こぼしたの、確かに悪い・・・・けど謝ってる。 許してあげれば、いい」

 

 「だから、謝ってすむ事じゃねえんだよ!」

 

 「邪魔すんなら女でも容赦しねぇぞっ!!」

 

そう言うと、男の一人が心の胸ぐらをつかみ上げた。

・・・・・って、そりゃヤバいって。

 

 

 「・・・・・・・・・・・」

 

自分の胸ぐらをつかむ男の手を見ながら、心の視線が鋭くなるのが見えた。

 

 「心、ちょっと待っ・・・・・・・・!!」

 

 「・・・・・触るな」

 

 “ガッシャーン!!!”

 

 「ぐはっ・・・・・・!!」

 

 「なっ・・・・・!?」

 

 「あ~あ・・・・・」

 

だから言わんこっちゃない。

 

止めようとした時にはすでに遅く、心の胸ぐらをつかんでいたはずの男は、激しく床にたたきつけられていた。

今の一瞬のうちに、心は男の腕を取って投げ飛ばしていたんだ。

恐らく投げられた本人は、早すぎて何が起きたのか理解してないだろう。

 

 「な、なんだこの女・・・・・・」

 

他の二人の男たちも、仲間が投げ飛ばされたのを見て心の事をただものじゃないと感じたらしい。

そりゃそうだ。

なんたってその子は、天下無双の飛日将軍・呂布奉先の一人娘だからな。

 

 「・・・・・・ここは、皆がご飯を食べて幸せになるところ。 それを邪魔するなら・・・・・許さない」

 

 “ギロッ”

 

 「ひぃ・・・・」

 

 「お、おい! 逃げるぞ!」

 

 「おい! 待ってくれよ~!」

 

心の圧力に恐れをなして、男たちは一目散に逃げ出した。

投げ飛ばされて倒れていた男も、まだ痛みの残る腰を押さえながら走り去って行く。

すぐに起きて走れるあたり、さすがに心も手加減はしていたらしい。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 「良くやったな、心」

 

 「あ。 兄・・・・・」

 

男たちが走り去ったのを見届けていた心の頭を、後ろからポンポンと撫でる。

 

 「もしかしたらあいつらの事ボコボコにしちゃうんじゃないかって、兄ちゃんヒヤヒヤしたぞ?」

 

 「てかげん・・・・知ってる」

 

 「そっか。 えらいえらい」

 

“ナデナデ”

 

 「♪・・・・・・」

 

実際、もしあの時心が本気でやっていたら、まず間違いなく三人ともただでは済まなかっただろう。

それも含めて、心は良くやってくれたと思う。

 

 「あ、あの・・・・」

 

 「ん?」

 

二人でそんなやりとりをしていると、横から恐る恐るさっきの女性店員が声をかけて来た。

 

 「助けていただいて、本当にありがとうございました!」

 

申し訳なさそうに、何度も頭を下げる。

 

 「気にしなくて、いい。 お茶・・・・・次からは、気を付ける」

 

 「はい。 それであの、せめてものお礼何ですが・・・・・・」

 

 「?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「♪・・・・・・・・」

 

城への帰り道。

夕焼け色の通りを歩く俺の横を、心が上機嫌でついてくる。

 

その両腕には、昼間と同じ様な大量の紙袋。

そして、それは俺も同様だ。

 

 「たくさんもらったな~」

 

あの後、せめてものお礼にと店の商品を大量に持たせてくれた。

それも店だけではなく、あの騒ぎを見ていた一般のお客さんも心の活躍を称賛してたくさんの食べ物をくれた。

 

・・・・・もしかしたら昼間より量が増えてるんじゃないか?

 

 「皆にお土産、できた」

 

 「そうだね。 でも、こんなにたべきれるかな?」

 

 「大丈夫・・・・。 心も、食べる」

 

 「あんなに食べたのにまだ食べるのか?」

 

 「全然・・・・・よゆう」

 

 「あはは、そっか」

 

全く・・・・・つくづくこの天下無双の四女にはかわないな

 

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―――――――――――――

 

 チュンチュン・・・・

 

 「ん・・・・・」

 

朝。

 

鳥の鳴く声と窓から差す日の光の眩しさに、少しだけ目を覚ます。

だけどまだ起きるには早い時間だ。

そう思って、布団を頭までかぶりなおす。

 

 「兄・・・・・起きる」

 

 「ん・・・・?」

 

おや?

今日はどうやら、鳥でも朝日でもないものが起こしに来てくれたらしい。

 

 「ん・・・・ああ、心。 おはよう」

 

 「・・・・おはよう」

 

うっすらと目を開けると、やっぱりそこには心がいた。

俺の身体にまたがるようにして、顔を覗き込んでいる。

 

 「こんなに早いのに珍しいな。 何か用かい?」

 

 「・・・・・桜香が、呼んでる」

 

 「桜香が・・・・?」

 

 

 

 

 

心に起こされた俺は、少し急いでいつもの服に着替えて玉座の間へと向かった。

するとそこには、桜香だけではなく愛梨、煌々、麗々までが集まってなにやら既に話し合いをしていた。

 

 「あ、おはようお兄ちゃん。」

 

 「ん。 おはよう皆」

 

まだ眠い目をこすりながら、先に集まっていた皆に挨拶をする。

 

 「心ちゃん、起こしてきてくれてありがとね」

 

 「・・・・・“コク”」

 

 「それで桜香。 こんなに早くから一体どうしたんだ?」

 

 「うん、それがね・・・・・うーちゃん、説明してくれる?」

 

 「あ、はい!」

 

桜香に促されて、麗々が背筋をのばして“コホン”と咳払いをする。

 

 「実はですね、最近この辺りで急に勢力を伸ばしている野党の群れがあるんです」

 

 「野党?」

 

 「はい。 自らを紅蓮隊(ぐれんたい)と名のる一団です。 まだそれほど大きくな規模にはなっていませんが、最近の拡大の仕方を考えると無視はできません」

 

 「奴らは自分たちの仲間である証として、全員が身体の一部に赤い布を身につけているようなのです。 兄上、何かひっかかりませんか?」

 

表情を険しくして、愛梨が言う。

彼女が何を言いたいのか、俺にもすぐにわかった。

 

 「赤い布、か・・・・・・。 似てるな、黄巾党に」

 

 

黄巾の乱・・・・・・・

 

俺たちがまだ生まれる前の話だが、この戦いの話しは諸葛亮様に嫌と言うほど聞かされた。

 

二十年ほど前、この大陸全土を混乱に陥れた反乱分子の集団、黄巾党。

それと戦い、激闘の末にその黄巾の乱を鎮めたのが、当時天下に名乗りを上げたばかりの俺の父さんや、桜香の母親である劉備さまだ。

 

結局その戦いは、最終的に曹操が黄巾党の首領である張角ら三人を討つ事で幕を閉じ、長きにわたった黄巾党との戦いは終わりをつげた。

 

そしてその黄巾党の象徴ともいえるのが、党の全員が身に着けていた黄色い布。

 

そして今回現れた紅蓮隊という野党の群れも、全員が赤い布を身につけている。

・・・・・偶然とは思えない。

 

 「その紅蓮隊とか言う奴ら、明らかに黄巾党のまねごとをしているとしか思えない。」

 

 「しかしそうだとしても、奴らが本当に黄巾党の様な規模にまで膨れ上がるとは考えにくいのではないですか? なぁ麗々」

 

 「はい。 私もそうは思いますが、用心に越した事はありません。 とにかく、そう急に手を打って不安の芽は摘んでおくのが得策と考えます。」

 

 「“コクコク”」

 

麗々の横で、煌々も頷く。

 

 「うん、私もそう思うな」

 

 「フム・・・・。 それには私も賛成だが、現時点で紅蓮隊の規模はどの程度だ?」

 

 「今確認できているだけでも、相当の数に昇ります。 今我が軍で隊の指揮を取れるのは愛梨お姉さま、心お姉さま、そしてお兄様の三人ですが・・・・・・今城にいる兵の数を考えても、正直言って勝つのは難しいかと思われます」

 

 「それほどか・・・・・・」

 

予想以上の敵の強大さを実感し、愛梨が表情を曇らせる。

 

俺も、正直言って不安だった。

もし紅蓮隊が昔の黄巾党のような大勢力になったら、俺たちだけでは到底太刀打ちできなくなる。

それだけはなんとしても避けなくちゃならない。

 

 「どうしようか、愛梨ちゃん?」

 

 「どうするもなにも、手勢が足りないのならば増やすしかないだろう?」

 

 「それじゃあ・・・・・」

 

 「俺もその意見に賛成かな。 何より、早く皆に会いたいしね」

 

 「はい。 呼び戻しましょう・・・・・・・妹たちを」―――――――――――――――――――――

 

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