第2章
「もう忘れ物はないか?」
「おう、これで大丈夫のハズだ。」
親父は朝からホースを出してきて鼻歌を歌いながら車を洗っていてご機嫌だ。家族で旅行なんて久しぶりだから、完全に浮かれてる。
って違うか、それは皆んな同じだった。
土曜昼過ぎ、今日は良く晴れていて気持ちがいい。ちょっと寒いけどまぁいい旅行日和だろう。
「おーい忘れ者でござる~~~!!」
「ん!?沙織?」
玄関に駆け足で現れたのはリュックを背負った沙織と、黒猫だった。
「はぁ・・はぁ・・もう少し待ってくれてもいいじゃない、女の子はいろいろ準備が多いのよ」
「いやいやお前らがウチの車で一緒に行くとか聞いてねーんだけど」
「あれ?そうでしたか?すみません伝達にミスがあったみたいですな」
と言いつつ桐乃は知ってたみたいだ。
「まぁいいじゃないですか、皆で行った方が旅行も楽しいでござるよ」
「ちょっとまて、一緒に行くのはいいが、ウチの車四人乗りだぞ。
詰めたとしても5人までだ」
親父、おふくろ、俺、桐乃、沙織、黒猫
どう考えても一人余る。
「ならば黒猫氏が京介の膝の上に乗ればいいんじゃないですか?」
沙織は当然だろ?とあたりまえのことを言うように答えた。
待て待て。
「いやそんなの無理だろ」
「はぁ?そんなの聞いてないんですけど!?」
くい気味で桐乃が割り込んで来た。
「クスクス・・あら?嫌なのかしら?私が兄さんの上に乗るのは」
「い、嫌っていうかそんなことしたらコイツに何かセクハラされるに決まってんじゃん!そんなのみせられると気持ち悪くて
旅行が楽しめないっつーの!!」
「んなことしねーよ!!」
その後喧嘩を数分やった後、これ以上口論続けたら俺がトランクに乗せられかねなかったので強引に出発することになった。
結局最初に沙織が提案したように、黒猫が俺の膝の上に乗っている。
高坂家を出発し、広い道路を進んでいく。
膝の上には柔らかい感触が乗っている
「う・・」
「・・・・・・」
後部座席には左から桐乃、沙織、俺の順だ。
コイツ予想はしてたがやっぱり軽い。
ちゃんと飯食ってんのか。
どういうわけか黒猫は俺と密着しているのをあまり気にしていないようだ、その証拠に背中と頭を俺の胸にのしかけてくる。
腕は当然黒猫に触れるわけにもいかず右頭上のとってを握っていた。
「すー・・・すー・・・」
というかいきなり寝息を立て出しやがった。楽しみで昨日眠れなかったとかそんなところだろうか。こんな大勢で出かけるのも久しぶりだしな。
黒猫からは、石鹸のいい匂いがする。膝の上に柔らかいお尻の感触が・・・そして少し暖かくて心地がいい。
ぐは・・・・女の子の体ってこんなにいいものだったのか・・・うふおぅ!ふぉぅひっ!
っていかんいかん。俺にはあやせと言う大事な恋人がいるのだ。落ち着け俺!!ここはあやせルートだぞ!!
「ちょっと兄貴がニヤニヤしてキモイんですけど」
「う、うるせーなニヤニヤしてねーよ」
俺は桐乃の文句にため息をはきつつ、少し気を落ち着かせて、隣りの沙織に小声で話かけた。
「おい、これはどういうことだ」
「はて、どういうことだと申しますと?」
「この温泉旅行の事だよ、何企んでるって聞いてるんだ、あんな変な企画書作ってなにかあるに決まってるだろ、宿費ってお前が出したのか?」
この旅でまず最初に聞いておかなければならないと思っていたことだ。
「なにをおっしゃる、温泉旅館の券はたまたま頂いたのは事実ですし、今日は京介氏に楽しんでもらう為に企画したので、大船に乗ったつもりで楽しみにしていてくだされ」
それが一番信用できねーんだよっ!
俺はこの後起こるであろう事を超絶不安になりながらも、自分の海綿体、通称“リバイアサン”に静まれ~静まれ~と心の中で悪戦苦闘する。
そりゃ女の子が俺の上に乗ってることを思うと、やっぱり反応するところは反応するわけで、この状況は意外にも拷問だったりした。
車を出して約2時間ほどしただろうか。
都会と言えど、ちょっと車を走らせれば山もあるし川もある。周りは森に囲まれて、空気が気持ちいい。
俺達は数時間高速道路の上を車で走らせ、目的の温泉旅館に着いた。
周りは爺さんや婆さん、親子連れなんかでワイワイしている。宿に入ると温泉宿独特の硫黄が混じった臭いがあり、独特の懐かしい雰囲気がある。
近くにはアスレチックや牧場やらがあるあそび場があるらしい、明日にでも行ってみよう。
駐車場に車を止め、車から降りようとしたその時、
「お待ちしておりました」
そこには、あやせがいた。
「あ、あやせ!?なんでここに!?」
「丁度スケジュールが開いたんで温泉旅行に参加させてもらえることになったんです。加奈子も一緒に来てますよ?」
「なんか久しぶりだなぁ・・・」
「そうですね・・連絡の一つもよこさないで・・・」
「う・・・」
なんか言葉にトゲがあるような・・
あやせはにっこりとした笑顔浮かべている
「なんだろう、怒ってるように見えるんだけど」
「そりゃそうですね、だって怒ってるんですから」
「ひぃ!!」
怖い!怖いよあやせ!笑ってるのが逆に怖えーよ!!
「へぇ・・・それで甲斐性なしの京介さんの上に座っているのは新しい彼女ですか?可愛いですね」
「違うんだあやせ」
俺は黒猫をそっとどかして車から降りた。
この状況はヤバイ、絶対に誤解をしている!!
「冷静に聞いてくれあやせさん!これは車に全員乗り切らないから仕方なくこうなったんだよ、なぁ、皆んなそうだよな?」
助けを求めて皆に目線を送る。
おふくろは「最低ね」と言い親父は「最低だな」と言った。
おふくろ、その年で最低ねはないと思うぞ。
沙織は無言、黒猫は寝てるし、桐乃を見ると
「ぷぷぷ」と笑っていた。
イラッ
「バカあああああああああああああーっ!!!」
ズガーンッ!!
このときあやせの上半身が左に45℃回転し、一瞬の溜めがあった後、体全身を頭からつま先までひねり、
遠心力と体重と体をひねったバネの力が、すべて脚に集中し、そこで放たれた膝蹴りが見事にみぞおちにヒットした。
「ガハッ!!!」一瞬中を浮いた俺の目は地面と空中を交互に写した後、地面に叩きつけられた。
「だいたい京介さんが遅いからたちの悪いナンパを追い払うの大変だったんですからね!!」
こんな所でもナンパされるあやせの可愛さは揺るぎないらしい。
「げホッ!?・・今のは効いたぞ・・・・ごふっ・・・は・・話を聞いてくれ・・・あやせ・・」
「この!甲斐性なしの!」
ガスッ!ガシッ!!ドカ!
「うわっ!いて!いててて!!」
「変態へんたいへんたい!!鬼畜男ーーーーー!!」
「ぐハッ!!?」
何度も殴られた後、顔面にひざげりされ地面に突っ伏した。
「うわああああああああああああああああん!」
泣きながら走って行くあやせ
「あ・・」
振られた・・・
四つん這いになって右手をあやせの方に出して待ってくれのポーズを作った。なんだこの悲惨な状況は。
そんな惨劇を見ていた桐乃は、「チッ、仕方ないわね」と言って、あやせを奇跡的に説得してくれた。
大体こんなことなら最初から弁解手伝ってくれよってんだ。
荷物を持って旅館まで歩く。あやせからはがみがみ言われながらも、顔が見れて少しホッした。
正直いきなり別れるとか言われてもおかしくないと思っていた。今のところその気はないみたいだ。
旅館に入るとすぐ隣りで土産が売ってあり、帰りに親友の赤城に土産でも買っていくかと思った。
その時遠くの方にがらの悪そうな男達が数人群れていた。ちょっとおっかない。こんなところにもいるもんだな。暇な不良みたいなやつ。
まぁ人を外見で判断してはいけない。どんな外見でも話たらいい人だったなんてよくある話だ。俺は、今までの経験から外見で判断してはいけないと
教訓にしている事がある。おもにぐるぐるメガネをかけたこんな旅行にもいつもと同じ服をきてる女友達と、黒いフリフリの、こちらもいつもと変わらない変なコスプレを
一年中しているようなやつが、友達にいるからだ。一見変なやつらだが、話すとなんてことはない、ちょっと個性的ではあるが友達思いのいいやつらである。
それに比べればこちらの方がよっぽど異様な集団だろう。
旅館のパンフレットを見ると、ゲームセンターやら卓球場やら、いくつか遊べる所があるみたいだ。あとでみんなと行ってみよう。
部屋に着いたら荷物を下し、着替えを持った。
温泉旅館に何しに行くかと言えばやることは一つしかない。温泉に入りに行くに決まっているだろう。
「さて、そろそろ風呂にでも入りに行ってくるか」
桐乃達女性陣はどこに行ったのかはぐれてしまったが俺には関係ない。
着替えを持って親父や田村家の男性陣と一緒に温泉に向かった。
お風呂イベントと言えば、漫画やゲームだと女子との嬉し恥ずかしなイベントが起こる物だと思うが、
現実はそんなことあるわけがない。
混浴なんてないだろうし、女子風呂から話声なんてそうそう聞こえるもんじゃない。
なんせ場所が違うんだもん。
だがそんなものはどうだっていい、俺は温泉に入るという行為が、とんでもなく癒されるのだ。
少しはこの胃の痛さも紛れるかもしれない。
そう思い、『男』と書かれたのれんを潜ろうと手をかけたその時だった。
「お、京介氏!こんなところにいた!探しましたぞ」
「ん?沙織じゃねーか桐乃達と一緒にいたんじゃなかったのか?」
「うむそうなんですが、京介殿を連れて行こうと思いまして」
「そうか、すまん先に風呂に入りたいんだけどダメか?」
「それなら丁度いい、今から“お風呂イベント”を用意しましたので、私について来るでござる」
お風呂イベント!?なんだそりゃ?
沙織は俺の腕をひいて問答無用で移動させられる。
「お、おい!聞いてねーぞ、風呂って一箇所しかないだろ?」
「うむ、ここには家族風呂と言うものがありまして、そこを借りたので」
家族風呂だと!?一体何を考えているんだ。
嫌な予感しかしない・・・・・
「やっぱり俺・・・普通の男風呂に行きたいなー・・・なんて・・・」
作り笑いを浮かべて沙織に頼んでみる。こう見えて沙織は俺の知り合いの中では一番優しくしてくれる。
常に友達を傷つけまいと、全力で気遣ってくれるんだ、本人は否定してるようだが、俺は何度も助けられている。
だからちゃんと断ればきっと分かってくれるはず・・・
すると沙織は足を止め、引いた手を離してこちらを向いた。
「京介殿は最近いつもそんな顔をするんですね」
「そんな顔? 俺はいつもこんなんだけど」
「いえ、私には何かを悩んでいるというよりも何かを諦めたような・・・苦しんでいるようにしか見えませぬ」
「そんな顔を見ると、桐乃氏があなたを心配するのも納得が行くでござるよ」
「・・・・・・・・・・・・」
言葉が出なかった・・俺はそんな心配になるような顔をしているのだろうか。
風呂場に入ると個室の着替える場所があり、気は進まなかったのだが、とりあえず服を脱いでタオルを腰に巻き、風呂場へ向かった。
ガラララララララ・・・・
「ちょ・・・マジかよ!?」
家族風呂といっても結構広くて立派な露天風呂がある。なんてこと思ってる状況じゃない。
そこにはタオルを巻いた女性陣がずらりと並んでいた。
左から桐乃、あやせ、黒猫、麻奈美、そこから遅れて沙織が入ってきた
加奈子もいるが、一人で露天風呂に浸かって体を伸ばしていた。
な、なんだこのエロゲーみたいな状況は。
「うおっ!」
「あら?どうしました?」
沙織を見ると、いつものオタクっぽい感じがなくなって、お嬢様のような気品が感じられる。
というかタオルごしでも、ぼんっきゅっぼんとグラマラスな体型がまるわかりでエロイ!!
なんだこの美人!?
瞬く間に顔を真っ赤に紅葉して見とれてしまった。
沙織に見とれていると、後から何か殺意の眼差しが背中に刺さっている
「ふ、ふーんやっぱり京介さんは綺麗なお姉さんが好きなんですね」
「違うんだあやせ!!これは、普段と沙織が違うからつい・・・」
「つい見とれてたんですか、へーそうですかやっぱり京介さんはそういう人がが好きなんですね・・最っっ低!!」
「桐乃!黒猫!」
冷たい目線を送っていたあやせが怖くて2人に助けを求めたのだが。
「ちょ、こっち見ないでくれる!?変態!!」
「そ、そそそそうよ、やっぱりこういうのは、いけないと思うわ」
黒猫は、桐乃の後ろに隠れて異常に恥ずかしがっている。顔が真っ赤だ。さっきは体を密着させてて平気だったのに、バスタオル姿を見られるのは
嫌らしい・・よくわからん。
そしてその更に後に麻奈美が隠れている・・・・・
「つーかお前ら見られたくないんだったら来んなよ!大体なんなんだよこれは!そんなことされなくても男湯に行くっつーの」
どうせ言い返されるだろうと思ったのだが、意外にも言葉に詰まっているようだ。
「それは・・その・・・」
桐乃がずいと前に出てきた。
「あ、あんたねぇ私たちにここまでさせといてなんか言う事ないの!?」
ええええええええーっ!?なんなんだ!?無理矢理連れてきといて御礼でも言えって言うのか!?
「え・・えっと・・みんな鎖骨がエロくて色っぽいぞ」
バシーンッ!!
「ッ・・・!?」
桐乃に頬を叩かれた。なんだ?・・思ったことを言ったんだが・・・
「こ・・・この・・」と桐乃は拳を握って迫ってくる
「桐乃さん!!」
殴った桐乃を沙織が止めにいる
「ぐっ・・・しょ、しょうがないわね・・・とにかくそこに座りなさい、背中流してあげるから」
「だが断る!」
これ以上ここにいたらヤバイ。俺の身が持たないと、危険を察知したので脱衣所まで駆け出した。
「あ、逃げた」
へっ、そうさ、ここにいたらどうせオチは見えてるんだ、ここはさっさと逃げた方が後々ダメージは少ないはず。
しかし、その時俺も動揺して焦ったのだろう、床の石鹸に気付かなかった。
「うわっ!!」
見事にふんづけて体のバランスを崩し、近くにいた沙織のタオルをつかんだが勢いは止まらず、
体は後ろに飛ばされた。
「ひゃっ!」「きゃっ」「ひゃう」「はわわっ!」
どしゃーーーーーーーーん!!
大きな音を立ててすっ転び、ゴツンと鈍い音がした。
京介の体の上に5人分の体重がのしかかっていうる。
「う・・・あ・・・」ガクッ
「いたた・・って・・・な!!」
「ひゃわわっ!!どうしてこんなことに!?」
「あ、あんたねぇ・・・いい加減に」
「待ってくださいませ!桐乃さん!様子がおかしいですわ!!」
「へ?」
京介は虚ろな目をして動かない。
「もしかして、頭を打ったんじゃ・・」
「京介さん!京介さん!!聞こえますか!?京介さん!!」
その時俺の意識は途切れて行った。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
次に意識が戻ると、木製の天井から光が指していた。窓の外を見ると空は暗くなっていた。
「うーん・・・」
「あ、目覚ましたんじゃない!?」
「先輩!!」「京介さん!!」
周りを確認すると、沙織と麻奈美は心配そうに見つめている。桐乃や黒猫、あやせは今にも泣き出しそうだ。
頭に包帯が巻かれてる。たんこぶが出来てるみたいだ。後頭部が凄くヅキヅキする。
ヒドイ災難だ。ただでさえ元気がないってのに、無理矢理こんなことされて、なんて迷惑な奴らだ。やっぱこんなところ来るんじゃなかった。
・・・・・・なんてな・・そう・・だよな・・はは・・・わかってるよ
お前ら俺を元気づけようとしたんだろ?
あまりにも落ち込んでるから・・・・・見てられなかったんだろ?なぁ桐乃。あやせ。
ごめんなダメな兄貴で・・ダメな彼氏で・・・ごめんな
ぐっ~っと腹が鳴った。
「なぁ、腹減ったんだけど晩飯はあるのか?」
「ああ、もう乾杯の準備は出来ておりますぞ」
そこには料亭の豪華な料理が並んでいた。
腹の虫に救われたかもしれない。
せっかく旅行に来んだ、俺がこんなところで空気を悪くするのはやぶさかじゃない。俺は無理矢理にも元気を出して、なんてことないんだと
振舞った。
「とにかく腹ごしらえしなくては戦は出来ません、みんなで乾杯しましょう」
「そうね」
親父達は、となりの部屋で盛り上がっているらしい。こっちはこっちで仲良くやったほうが都合がいい。
そんなわけで、みんなで乾杯して晩御飯を食べることになった。
料理を口に入れると、「う、美味い」こりゃ旅行に来たかいがあったってもんだ。こんなに美味いものが食えるなんて。
海鮮料理がメインで、小さい鍋が一つづつ付いている。 油の乗った鰻の肝や蒲焼が食欲をそそる。
食べると、大分精気が戻った気がした。
今冷静になってみると、気を失った俺って裸だったよな・・・一体誰が着替えさせたんだ?
夕食にありついたあと、みんなが集まって何かをはじめようとしていた。
しかし、この状況、俺一人男で周りはみんな女の子ばかり、桐乃、あやせ、麻奈美、黒猫、沙織、加奈子の6人。田村家のロックは親父達と一緒みたいでここにはいない。
もしかしたら見ようによってはうらやまし状況なんじゃないだろうか、
でも男一人で女たくさんってのは、結構居心地悪かったりするもんなんだよ。
まぁとは言っても、実は意外と楽しかったりする。なんだかんだで嫌いなやつは一人もいないし、みんな大好きな友達だったからだ。
若干の疎外感はあるが。
どうもこの旅行に関しては、なにか俺一人のけ者にしてなにか企んでいるような気がする。
こんなときはなぜか困った状況になるような予感がするんだよ。俺の経験値がそれをもの物語っていた。
「お前ら、何もやることないんならさぁ、どっか出かけないか?
この辺いろいろ遊ぶ所もあるみたいだしさ、俺卓球とかやってみたいんだけど」
こいつらに任せることに不安になった俺は、あえて自分から名乗り出た。
「あんた馬鹿じゃないの?、ここに来て卓球なんてするわけないでしょ?」
それきた。なんだ?エロゲの鑑賞会か?それとも黒猫の書いた漫画でも見るのか?
ここで問題なのは、それがどんなことでも俺はこの状況から避けられないという事だ。どうしたもんか。
「うむ、京介氏、準備はできましたぞ!」
沙織の手を見ると、なにやら割り箸が筒に入った物を手に持っていた。
それを掲げるやいなや
『桐乃様ゲームを始めたいと思います!!』
わああああああーっ
パチパチパチパチ
と、その場が盛り上がる。俺を覗いて。
どこから突っ込んでやろうかと思ったが、俺が問いかける暇もなく説明が始まった。
「ルールは簡単、この番号が振ってある割り箸を各自一人一本づつ抜いて入って、〝桐乃様"と書かれた割り箸を引いたものが
桐乃様になり、一度だけなんでも言うことを聞くという簡単なゲームでござる」
つまり、王様ゲームってことね。しかしなぜ桐乃様なんだよ。そんなに偉いのかうちの妹は。嫌味なだけだぞ。まぁその面で言うなら
王様としては合うのかもしれない。
「ちなみに聞いとくけど、これはなんでも命令していいのか?」
「とりあえず倫理に反する事以外ならなんでもやっていいでござるよ」
「軍資金として、売店で何か必要なアイテムが買えるように5千円をここに置いて置きますぞ」
「おいおい早く始めようぜ~♪」加奈子はノリノリである。
王様ゲームってはたから見ると嬉し恥ずかしのワクワクイベントのイメージだったのだが、いざ自分がその立場に
なってみると、これほど居心地の悪い状況はないと思う。
どう転んでも俺にとって損はあっても得なことがない気がする。『百害あって一利なし』だ。
正直な話もう帰りたい!!今すぐここから逃げ出したい!!一体何を命令されるのやら、考えただけでも恐ろしいぞ。
そんな懸念も虚しく、一人ずつ割り箸を引いていく。
桐乃、あやせ、麻奈美、黒猫、沙織、加奈子それと俺京介を入れて全部で7人
番号は1~6番と桐乃様のどれかを引くわけだ。
俺は【5】と書かれた割り箸を引いた。
「おお!いきなり私桐乃様じゃん!うひひひひ!!」
加奈子がニヤリと悪い顔をしている。
いきなり引いちゃいけないやつに渡ったんじゃないか?
「じゃぁ1番と5番がポッキーゲームね♪まぁとりあえずこんなとこっしょ」
と言いながら手に持っていたポッキーを出す。ポッキーゲームか。まぁそんぐらいなら・・・・
「って俺じゃん」
男は俺一人で他全員女の子だからキモイ状況にはならない。
む、これはもしかしてラッキー!?
この中で困るのは桐乃ぐらいじゃないだろうか
そんな中放心状態になっている女の子が一人いた。
「ない・・・ないから・・・ないない!!それは絶対死んでも無理だから!!」
桐乃だった。
うげ・・よりにもよって相手は桐乃かよ。
桐乃は顔を真っ赤にし、悲痛の叫びを上げながら訴えかけるが、誰も相手にしてくれない。
どうやら逃げる事は出来ないらしい。
「ふ、ふん!こんなのすぐ負けを認めればいいんでしょ?」
桐乃はハナっからこのゲーム楽しむ気はないらしい、俺としては、全くの同意見で、こんなのさっさと終わらせてしまいたい。
妹とポッキーゲームなんて想像しただけでも鳥肌が出る。
「桐乃氏、そんなこと言って今回の主旨をお忘れですかな?」
「なっ!・・・・・くっ・・・・わかってるわよ」
桐乃は口内で苦虫を噛み潰したような顔をして、深呼吸を数回繰り返し、正気を取り戻した。
沙織の言葉でどういうわけか桐乃はまともにこのゲームをする気になったみたいだ
弱みでも握られてんのかあいつは。
「それでは2人とも真ん中に出てこのポッキーを加えてくだされ」
ぐ・・マジでするのか・・・
俺は恐る恐る手を出して加奈子が持ってる箱からポッキーを一本取り出し、
口にくわえた。
【つづく】
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一章から長くなってしまいました。 俺妹9巻の発売日に合わせて上げてみた。