~オルタータ火山~
『うわぁ……砂漠の時より……最悪じゃない……』
イリアが、入ってから数秒で弱音を吐いた。
その言葉には、エドの同感であったが、
この火山には、2回ほど以来で来ているので、ある程度の心の準備はしていた。
その為、1回目よりは快適に行動することが出来た。
『……ったくよぉ。なんでこんなに暑いってのか……。セルシウス連れてくれば良かったんじゃねぇか?』
スパーダがそう愚痴を言うと、エドがすぐに返した
『いや、多分駄目だと思うぜ。ここには、仲悪い火の精霊って奴が居る……って言ったからよ。』
エドの言葉に、スパーダは少しだけ考える仕草をする
そして、思い出すようにエドに話を持ちかけた
『火の精霊って……あのエドが言ってた滅茶苦茶格好良い精霊の事か!』
『ああそうだ!!角が飛び出てて、かなりでかくて、攻撃的なデザイン……。セルシウスなんか目じゃねぇってんだ!!』
『おい!ちょっと寄り道してその精霊見ようぜ!!俺も一度目にしてみてぇもんだからよ!!』
テンションの高い二人に、イリアとルカは少し引いた表情をしていた。
『………スパーダ、エドワード。なんだかとても元気だね……。』
『私はパス。この暑い中に火の精霊呼び出すって、どんな拷問よ!!』
その返事に、スパーダは不満を言った
『おいおい、なんだよエドが言うにはすんげぇ格好良いってんだぜ?一目くらい見させても良いんじゃねぇのか?』
そう不満を言ったスパーダに、ルカは少しだけ苦々しく答えた。
『……スパーダ。ここはジルディアの一部に毒されたんだよ……?だから多分、イフリートも居なくなってるんじゃないかな…。』
『……そうか。だったら余計に行くしか無えだろうな』
スパーダの顔が、不気味ににやける。
そして、ルカの襟首を掴みながら移動をした。
『ちょっと……!スパーダ………苦しい……!!』
その状況に、イリアは少しだけ楽しそうな顔をしていた。
エドは、辺りを見渡し、前に来た時の異常を見比べていた。
『さて……精霊の間ってのはどこだったかな……。そして呼び出す方法はなんだっけか……』
スパーダが、ブツブツと呟いていた。
そして、次の言葉は分かりやすく聞こえるように答えた
『生贄 だっけかぁ?』
その言葉で、ルカの身体が急に青ざめた
『うわぁああ!!ごめん!多分イフリートは居るかもしれないから!このジルディアに侵食されている異変に関して動いてるかもしれないから!今は黙っていようよ!』
『ほう……。そんなにも会いたくねえってのか……ふぅーん……』
スパーダの顔が、より一層恐ろしい顔になった。
そして、未だにルカの襟首を掴みながら、また聞こえるようにブツブツと呟く
『さぁて……。人間を溶けた岩に流し込むと、どうなるかなぁ……。一度見てみたかったんだよなぁ……』
それは、最早真剣なのか冗談なのか分からなかった
関して、ルカの顔がさらに青ざめていった
『もう……本当に勘弁してよ……』
三人がそんな話をしている頃、エドは前に来た時と、今のこの火山と比べていた。
変だ、何かが変なのだ。
熱さに慣れた、と言っていたが、それは多分間違いだと感じた。
この火山の中は、前よりも確実に温度が下がっているのだ。
この温度低下の現象は、嫌な予感を感じた。
『……よし、イフリートに会いに行こう』
エドが振り向いて三人にそう言った瞬間、
スパーダだけが歓喜したポーズを取っていた。
『ええ!?……ちょっとあんた本気なの!?』
『本気も何も……。この火山には何か異変が起こっている。見に行く価値は十分にあるんじゃねえのか』
エドの言葉に、イリアとルカは反対的な表情を取っていた。
『でも……エドワード、この状態でイフリートに出会ったら……。僕達、その精霊に殺されちゃうんじゃ……ないの?』
ルカのその弱気な表情に、エドは溜息混じりで答えた
『それはあり得ねぇ。俺はそいつと一度面を合わせている上に、この状況をなんとかしようと考えている事なら、イフリートは断る動機が無い。』
『うぅ………』
ルカは、その精霊にはあまり会いたく無さそうな表情をしていた。
その表情に、スパーダは笑顔で答えた
『断ろうとしても駄目だぜ。この異変なる状況下なら、精霊の様子を見に行かざるを得ないんだからよぉ!』
その嬉しそうな表情に、ルカとイリアはガクリと首を下げた。
この暑い火山の中で、さらに暑苦しい精霊に出会うこと等、本来は全く信じられない物なのだ。
それを、簡単に”行く”と言ったこの二人には、脱帽するくらいだ。
そして顔を上げようとしたイリアの向こう側に、一匹の魔物が居た
『あ、ちょっとエドどいて』
イリアがそう言うと、エドはすぐには理解が出来なかった。
なので、そのまま突っ立っていた
すると、目の前のイリアが銃を抜き取り、エドに向けた
『うわぁあああああああああああ!!!』
驚いたエドは、そのまま横にずれて、その銃から避けた。
そして、イリアは発砲して魔物に発射した。
カンッ
『!?』
だが、その弾は貫通しなかった
『エド!スパーダ!!』
イリアの声で、初めてエドとスパーダは後ろを向いた。
二人が振り向いて、見た魔物は
『なっ!!……なんじゃこりゃ!!』
身体の所々がクリスタルへと変わっていた生物だった。
それは、まるでラザリスのように
『ひぃぃ!?こんな魔物……見たこと……』
ルカがそう怯えている間に、エドは手を合わせ、錬金術を使った。
魔物の下の床を盛り上げて、足場を悪くし、バランスを崩した。
その間を狙って、スパーダはその魔物を蹴り上げた
『おらぁぁああああああああああああ!!!』
そう言って、スパーダは魔物を蹴飛ばし、溶岩の中へと突き落とした。
その際の水しぶき、溶岩しぶきがエド達を襲い、それを避けるのに必死になっていた。
『熱ぢぢぢぢぢぢ!!!!!』
それを全て避けたエドとスパーダとイリア、
ルカだけが、安全地点にてダメージを受けなかった。
『も……もうちょっと考えてから蹴りを入れろよ……』
エドがそう突っ込むと、スパーダは自信満々に答えた
『ほざけ、このおかげで、あの変な魔物も倒せたんだろうが』
その自信に、エドは溜息交じりにも認めざるを得なかった。
『まぁ、それはそうだけどよぉ……』
だが、それは甘かったと思った。
『エドワード!スパーダ!!後ろ……!!』
ルカの声で、二人は再び後ろを振り向く。
その後ろには、先ほど溶岩に突き落とした魔物が、
生きたまま溶岩から這い上がってきていた
『……嘘だろおい……』
そして再び、魔物がエド達に襲い掛かるように飛びかかる
『うぉお!!』
エドが機械鎧の甲を刃にして、魔物にこうげきするが、
クリスタルの部分で無い場所の、肉の部分を攻撃しても、血どころか食い込みがしなかった。
『!?』
そして、そのままエドの腕力により横へと飛ばされる。
そのままピンピンとした姿で再びエド達に向かって襲い掛かってきた。
『ぐお!!』
今度はスパーダに襲い掛かり、スパーダは腰から短剣を二つ抜いて、魔物からの攻撃を防いだ
『うぉあら!!』
そして、そのまま後ろへ受け流し、ルカに流した
ルカは、一瞬慌てながらも、剣を引き抜き、魔物を斬りつける
『うりゃぁああ!!』
そう叫んで叩き斬ろうとしたものの、不毛だった。
やはり肉にも食い込まず、固いものがぶつかり合う音が聞こえる。
その瞬間、また魔物は吹き飛ばされ、溶岩に落ちた。
落ちた所から、また溶岩のしぶきが襲い掛かる。
それらを全て避けた後、また落ちた場所を見る。
やはり、溶岩に関しては全くのダメージが無い。平然とした顔で、岸まで向かって歩いてきた
『おい!!こっからどうすんだ!!』
スパーダがそう言った瞬間、エドは口元を緩ませ、強く答える
『んなもん……一つしか無えだろ……』
そう言った瞬間、エドは振り向き、魔物に背を向け、走り出した。
『逃げるぞぉ!!』
『ええ!?ちょっと待ってよぉ!!』
ルカと、イリアとスパーダがエドの後を付いて行く
『おい!!ほっといて良いのかよ!!あの化物!』
『どうせ今の状況では勝てねぇだろうが!!それに俺たちの目的は”討伐”じゃねぇ!”調査”だ!あんなもんに相手してられっか!!』
『調査の間に、あの化物が出てきたらどうするのよ!!』
『欠片削って持って帰れば良い!そして詳しい事はあの研究馬鹿共にやらせれば良いだろうがぁあああ!!』
エドの言葉に、イリアとスパーダは納得した。
『そうか!そりゃ名案だ!!』
『もう私たちは研究を投げだしゃぁ良いわけね!!そりゃぁ名案だわ!!』
『調査なんか面倒臭い事は、あの研究馬鹿女にやらせて、俺たちはただ原物徴収するだけよぉ!!ひゃっははっは!!』
ルカは、なんだかだんだん、このパーティが壊れ始めて来ている事に疑問を感じずにはいられなかった。
後ろを振り向くと、まだあの魔物が追いかけてきている。
このまま逃げ切れるのかも、疑問を感じていた。
走り続けると、ルカが一番心配に思っていた事が現実に起こった。
『いっ……行き止まり……。』
その場で、ルカがそう怖そうに呟いた。
『けっ!!こんな場面……幾度も経験してんだっつうの!!』
エドはそう言って、手を合わせ錬金術を使う。
そして地に手を置き、練成を起こした。
すると、溶岩が急激に冷えるように固まり、道がみるみると作られた。
その間、約3秒だった。
『おおお!エドすげぇ!!』
スパーダが、歓喜するような声を上げた。
『よしっ!!じゃぁ行くぞ!』
エドはそう言って、出来上がった道に一歩足を踏み入れた。
そして全員がこちら側に渡れた時、エドは再び手を叩いた
『ちょっとエド!?』
イリアがそう叫んだが、エドは聞く耳を持たなかった。
そして地に手を置いた瞬間、出来上がった道がまた発光した
『!!』
すると、出来上がった道は先ほどのように、溶岩の流れる川へと戻った。
これで、もうあの魔物は簡単にはこちらに来れない。
すると、向こうから先ほどの魔物が現れた。
『へっへ!ざまぁ見やがれ!!俺たちをおちょくったから、こんな結果が……』
スパーダが、調子に乗って発言をしたが、すぐに声が止まった。
向こう側から来た魔物は、一匹だけでは無かったのだ。
先ほどと同じ、身体の所々がクリスタルとなっている魔物が、一気に20匹になっていたのだ。
『お……おい…、さっきの魔物って……こんなに多かった……けか?』
そう発言をしている内に、魔物たちは溶岩の中へと入って行った。
そこが、まるで川であり、その川で行進をするように、徐々にエド達に向かって歩き続ける
『何やってんだ!!早く逃げるぞ!!』
幸い、溶岩の中に入った魔物の行動は遅かった。
粘りの強い溶岩だった為か、そんなにすぐにはこちら側には着かなかった、
だが、そのおかげで出てきたときには身体は溶岩まみれになっているだろう。
そうなれば、かなり面倒臭い事になってしまう。
『ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
その多くの魔物から逃げている最中、ルカがその場で転んでしまった。
『痛っ!』
『何やってんだ!!』
スパーダが、転んでしまったルカの元へと走って行った。
同時に、イリアも同じくルカの元へと走って行った。
それを見ていたエドは、同じくルカの元へと走った。
『ルカ、立てる!?』
イリアはそう言って、ルカの手を握る、そして無理やり起き上がらせる。
『あ……う……うん。』
ルカは、少しだけ動揺を見せたが、すぐに後ろの足音でそれは増して行く
『ぐずっとしてる暇があるなら動け!!』
そう言って、スパーダはルカの手を繋ぐ。
イリアも、繋いだまま全速力で走り続けた。
『今度は転ぶんじゃねぇぞ!!』
エドはそう言って、かなり先へと走った。
それを見たルカは、手を繋いでいる二人には迷惑を掛けたくない気持ちが一層増し、
ルカも、体力の限り走った。
『!!』
その場で、エドが立ち止まった。
どうしたのか、とスパーダもエドに追いついた瞬間止まった。
その時、とんでもない光景が目に入った。
先ほどの魔物が、より多くその場にうろちょろしていたのだ。
『嘘でしょ………』
イリアが、絶望するようにボソリと呟く
そして、そのクリスタルに侵食された魔物達が、エドの方を見つめた。
それを見たエドは、溜息を吐いた。
そしてその後、戦闘体制に入った
『んじゃ……やりますかぁ!!』
そう言って、エドはその魔物達の所へ突っ込んだ。
『無茶だエド!!これ程の数……勝てるわけが無えだろ!!』
『何言ってんだ!!てめぇはよぉ!!』
エドはそう言って、そのまま直進する
すると、四方から魔物がエドに向かって突進をしてくる
『邪魔だ邪魔ぁ!!!』
エドはそう言って、エドの周りに突起物を作る。
すると、魔物はその反動により、辺りへ吹っ飛ばされた。
刃の物で無理ならば、もう弾き飛ばすしかない。
『こっから先に、イフリートが居るんだ!!そいつにこの状況を協力してぶっ潰す!!』
『!!』
エドの言葉で、スパーダの表情が変わる。
そして、ルカを引っ張って走りだした
『成る程……。お前、会った事があるって言ってたからなぁ!!』
『信じるわよ!!チビ助!!』
そう言って、イリアとスパーダをルカを引っ張って走り続ける。
それに応じて、ルカも全速力で迷惑にならないように走り続けた。
だが、そこを通り抜けるのは簡単では無い。通ろうとするたび、魔物は容赦なく襲い掛かってきた
『オラァ!!掛かってきやがれ!!』
だが、スパーダはそれでも歯向かい、魔物を叩き飛ばした。
イリアの銃は、至近距離で撃てばそれ程の威力を出すことが出来た。
一発で、二匹くらいの魔物を端にまで吹き飛ばす事は可能だ。
だが、それではとても足りない。
『ぅ……うらぁ!!』
続いて、ルカが剣で魔物をぶっ飛ばした。
やはり、攻撃には至らない物の、ある程度の距離まで物理的に飛ばす事は可能だった。
『良くやった!ルカ!!』
スパーダがそう言って、またエドの後へと追いかける。
『これで進めそうだわ、行くわよ!!』
イリアも、ルカの手を繋いで走り続けた。
ルカは、この状況が少しだけ嬉しかった。
人から褒められる、特にこの二人からは、この戦闘に置いて褒められる。
その事が珍しいと感じ、嬉しいと感じていた。
『エド!!本当にこの先か!!』
スパーダがエドにそう問いかける。
『ああそうだ!!この先に間違いなくイフリートが居る!!そいつに頼んで、こいつらを一掃させるぞ!!』
エドがそう言って前に進んでいく。
その言葉で、スパーダとイリア、そしてルカは心から安堵した。
この魔物だらけの火山の中で、これ程の異常な強さの魔物と戦闘する事は、ほとんど自殺行為に近かった。
最早、調査どころではない。確実に異変が起こっているのは確実なのだから。
そして、イフリートの居る間にたどり着いた時
その希望は、消えた
~オルタータ火山 精霊の間~
その場は、もうすでに時は遅かった。
キバ…。その調査を任されていた。その依頼の目的が目の前にあったのだ。
イフリートが、丁度居たその場所の真ん中に
『……おい……嘘……だろ……』
そのキバは、明らかにこの世界には存在し得ない物だった。
生気を感じない物で出来た物体、そして床
その場に居るだけで、毒されそうな程、毒々しい部屋へと変わっていた。
『おい!!イフリート!!居るんだろ!!答えろ!!イフリート!!!』
エドがそう叫んでも、返事は無い
しばらく待てども、居ない。
もしや……と思うが、
このキバによって、イフリートは消滅をしてしまったのだろうか。
『…まさか……これが……』
ルカが、怯えた声でその物体を見つめている
そうだ、まさかこれが
目の前にあるはずなのに、何も達成感も、嬉しさも感じなかった。
目の前にある物が、余りにもおぞましく
その場所に精霊が居た場所というのなら、さらに嫌な予感がした……。
何より、そこに魔物が入ってこないのだ。
通って来た洞窟の向こうを見ても、魔物が一切こちらに近づいてこない。
ここから生まれたはずであるのに、何故かだ。
多分、元はこの世界の魔物が、この空間に来て異形の形へと変貌した
その恐怖から、逃げてきたのだろうか。
もしくは、この場所には、それ以上の恐ろしい魔物が居るか。だ
『エドワード………』
ルカがそう言うと、エドの目の前のキバを見た。
そのキバの中に、何かが居る
そう、直感でルカは感じていた
『…………マジかよ……』
エドがそう呟くと、エドは何かを感じた。
この空間から
すると、急に地震がエド達を襲った。
『!!』
すると、目の前のキバから、黒い穴が出現した。
『何だ!?あの穴!!』
さらに、その黒い穴からは黒い液体が流れ、
その中から、巨大な手が現れる。
そして、もう一つの巨大な身体が表に現れる。
『!!』
それは、形こそ変わっていたが、
間違いなく、前にエドに出会った事のある奴だった。
『嘘だろ……こんな………』
全身が現れたとき、まだ前進には黒い液体が流れ出ている。
その液体を浴びたそいつは、エドの方を見る、
その時のそいつの目は、殺意に満ち溢れていた
『こ……殺…す……。この世界を………殺……す………!!!!』
ドス黒い声が、辺りを響かせる
その声は、余りにも前の奴とは、変わってしまった
『イフリート……!!侵食されてやがった……!!!』
そして、黒いイフリートはエド達に拳を振り上げ
思い切り攻撃態勢に入り、拳を振り下ろした
『ぐおああああ!!』
その威力は、床のほとんどの地形を変えさせるほどの威力であった。
さらに、拳の周りは炎が溢れ、部屋に充満しようとした
『俺から離れるな!!』
エドはそう言って、パーティの全てを錬金術で囲むように壁を作り出し、拳から発射される炎から避けた。
その炎は、一気に溢れ、そして沈静化したが、
また、イフリートは殺意溢れる目でエド達を見つめていた
そして、また拳を振り上げる
『散れ!!』
そう言って、エドと三人達は、壁から脱出し、バラバラに行動した
そして、イフリートはエド達が居た場所に拳を振り下ろした。
今度は、炎こそ上がらなかった物の、また地形が変わった。
『大丈夫かー!!』
エドが安否確認をすると、全員から声が掛かる
『腰を打った!!』
『頭打ったわ!!』
『大丈夫です!!』
全ての声を聞いて安心したエドは、再びイフリートの方に振り向く
イフリートの全身は、一部一部は名残がある物の、
ほとんどがクリスタルに侵食をしていた。
このイフリートの後ろにあるキバのせいだと確信し、
エドは、再びキバの方を睨みつける
『………ラザリスの野郎……!!!』
そして、またイフリートはエド達の方を見つめた
『こ……殺す……。世界を……殺す……ルミナシア……殺す……』
『しっかりしろイフリート!!てめぇはルミナシアの精霊だろうがぁああ!!!』
エドが叫ぶと、イフリートはピタリと行動を止めた。
だが、それは一瞬だけで、
また、イフリートは拳を上に振り上げ、振り下ろす準備をする
『………!!!』
その光景を見たエドは、目を見開いた。
そして再び、イフリートはエドに向かって拳を振り下ろす
『ちっっっくしょぉぉおおおおおおお!!!』
エドは、そのイフリートの拳を交わし、その拳が着地する床を練成する。
その場には大きなトゲが出来上がり、収集の着かなくなった拳の早さは、その早さに従い、拳はトゲにめり込む
『ぐうぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
イフリートの断末魔が、辺りに響く
その光景を見て、スパーダは気づく
『こいつ……動きがほとんど制御出来ていねぇ!!』
その言葉に、エドはある確信をする
『……ジルディアの力に、反発してやがんだな……』
恐らく、イフリートの意思はまだあるのだろう。
そして、未だに自我を取り戻そうと、イフリートは動いている。
身体の中で
『エドワード!イフリートさん……どうにか出来ませんか!?』
ルカが、それに察したのか、
イフリートを助ける願望が出来上がっていた。
『言われなくても……やってやんよ!!』
そう言って、エドはイフリートに向かって駆けていく。
それと同時に、イフリートは再びエドの方を見つめる。
刺さっていたトゲを、引き抜きながら
『うらららららあああああああああああああああああああああああ!!!』
エドは、地を練成して階段を作った。
そして、イフリートの顔にまで届く程の高さまで走り続けた。
だが、
『エド!!』
イリアが叫んだ瞬間、イフリートは階段を拳で叩き壊した。
横から、拳を入れるように、階段は上下二つに分かれた。
エドは、丁度上に差し掛かっていた所に居た
『あっ……ぶねぇな!!』
エドは、そのまま上へと向かい
最上の段数まで登った後、落ちてくる瓦礫の方へと飛び乗った。
『うるぉおおおおおおおお!!!』
さらに、上の瓦礫に、そしてまた上の瓦礫へと飛び乗っていく。
さらに上の瓦礫に行こうとした瞬間、今度はイフリートのもう一つの手が現れる。
『うぉおおおおお!!』
驚いたエドは、すぐさまにもう一つ上の瓦礫へと飛び乗る。
だが、ここではまた当たってしまう。
さらに上に上った瞬間、拳がこちらへと向かって来る
『!!』
これでは、確実に拳にぶつかってしまう。
エドは、残りの力振り絞って、もう一つの瓦礫へと登った
『大おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
その瞬間、エドの下に拳が振り下ろされた。
その拳は壁にめり込み、大きな振動が部屋を襲った。
『おお……危ねぇ……』
エドはそう呟き、イフリートの腕の上へと飛び乗った。
そして、イフリートの上を走り出す
『イフリートォォォオオオオオオオオ!!!』
エドは叫び、イフリートの顔へと走り出す
そして、顔へとたどり着いた瞬間、そこで立ち止まった。
すると案の定、拳はエドの方へと向かって来る。
その瞬間、エドは拳から逃げるように別の場所へと移動する。
すると必然的に、イフリートの顔には拳がぶつかった。
それは、見れば間抜けな光景だが、
むしろこれが、イフリートの望んだ光景なのかもしれない。
そのおかげで、イフリートには膨大なダメージが残った
『こっちだ!!』
エドがそう言って、肩の方からちょこまかと動き出す。
すると、もう一つの手がまたエドの所へと襲った。
必然的に、拳はイフリートのアゴへとぶつかる。
その瞬間、イフリートの動きが止まった。
『………止まった……』
そう呟いた瞬間、イフリートの拳はだらんと下に下がった。
そして、イフリートは眠るように前へと倒れこんだ
『エド――――!!!』
『スパーダ!!イリア!!危ない!!』
スパーダとイリアは、エドの安否を心配するようにエドの元へと走った。
ルカも、エドとそれを追いかけるスパーダとイリアの安否を心配し、エドの元へと走った。
巨大な物音と、瓦礫と砂埃と共に、
イフリートは、その場で倒れこんだ。
これで、当分は動かないだろう。
エドは、イフリートの壁に乗っていたため、
潰れずにはすんだ。その上
ルカとイリアの身体の上に着地したおかげで、衝撃にも耐えられた。
その代わりに、二人には巨大なダメージを負ったが
その光景を見ていたスパーダは、フッと笑った。
『ハッハッハッハ!何やってんだよお前ら』
スパーダがそう笑い出すと、イリアが思い切り立ち上がる
『あ――!!重い!!重かった!!ったく、アンタも結構無茶するわね!』
イリアが、文句を言うようにエドにそう問いかけた。
すると、エドが反発するように答えた
『るっせ!これくらいしねぇと、イフリートは大人しくならなかっただろうが!!』
エドがそう言うと、ルカはイフリートの方を見つめた。
イフリートは、その場で蹲っていた。
気絶をしていて、しばらくは立ち上がりそうになり。
その光景を見ていると、なんだか笑みがこぼれ始めた。
そして、愉快そうにルカは笑い出した。
『は……はははは……ははは。』
その笑いに、最初はイリアとスパーダは理解できなかった。
だが、エドはすぐに理解し、一緒に笑った
『はは、……やっちまったなぁ。はははははは!』
そして、イリアとスパーダも、この光景がなんだか可笑しくなり、
エドとルカと一緒に、笑い出した
『ははははははははははははははは!!』
この笑いが、この楽しい空間が、ずっと続くと感じた。
あのでかい、どうにもならなそうな奴を倒せたのだ。
後は、このキバの一部を持って帰れば良い。
そう思えば、不思議と笑みがこぼれて来たのである。
だが、イフリートはまだ、元の姿に戻っていない。
いずれ、絶対に元に戻すつもりだ。
『待ってろ、イフリート』
そう言って、エド達はキバの方へと向かった
さすがに、これは錬金術では分解も、分離も出来そうにない。
『えっと……スパーダ、剣貸して』
エドがそう言うと、スパーダは素直に剣を差し出した。
そして、剣でキバの一部を刺し、削った
『………意外と柔らかいんだな。これ』
そう言って、そのキバの一部をビンの中に入れ
そこで、エド達の依頼は終了した
エドがルカ達に振り向くと、笑顔で言葉を出した
『さ、とっとと帰ろうぜ』
そう言って、エドは先頭を切って歩き出した。
そして考えた。この先はどうするか
この先に待っている、この火山を元に戻す方法
イフリート、そして魔物を元に戻す方法を
そう考え、歩き続け、入り口に差し掛かったとき、音がした
『!』
身体がはじけ飛ぶ、肉の音が
後ろを振り向くと、イフリートの身体が弾け飛んで、
内臓、主に腸や心臓が露出していた。
赤い液体が、部屋全体に飛び散っていた。
その光景を見て、一番怯えだしたのは、ルカだった
『イフリート!!!!』
エドがそう叫んだ瞬間、イフリートの身体の中から何かが動いた。
そこから、血まみれの少女が顔を出した。
『は~あ~い?』
その血まみれの少女は、笑顔でエドの方を見ていた。
その少女を、エドとルカは見たことがある
『………………!!!!』
『おい………カノン……ノ……?』
スパーダとイリアが、動揺していた。
それもそのはずだ、目の前に居るのは、以前出会った
もう一人のカノンノ、ディセンダーである白いカノンノだったからだ。
『おい!!!逃げるぞ!!!!!』
エドがそう言った瞬間、イフリートの身体の中に居た少女が、すぐさまに消えた
そして、甲高い笑い声が聞こえた
『ギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!』
その瞬間、スパーダの右腕が切り落とされた。
右腕の付け根から、大量の血が溢れ、
切り落とされた右腕は、壁に叩きつけられた
『あ………うわぁああああああああああああ!!!』
『イリア!!』
イリアは、その光景を見て、冷静さを失ってしまった。
そして、所構わず、デタラメに銃を撃ちつけた。
どこにあの少女が居るのか分からない。
『イリア!!止めろ!!』
エドが叫んでも、イリアは撃つのを止めなかった。
そして、イリアの目の前に、少女が姿を現した。
そして、少女が剣を振り下ろそうとした、その瞬間、
固いものがぶつかり合う音が聞こえた
『イリア!!』
ルカが、剣を剣で受け止めていたのだ。
『あ。』
白いカノンノがそう呟くと、ルカとイリアから離れた。
それを見たルカは、すぐさまスパーダの元へと走り出した
『スパーダ!!……酷い怪我…!!』
ルカが、本気で心配した声でそう言っていた。
だが、スパーダは強がって笑顔で答えた
『……へっ!こんなもん……カスリ傷にもならねぇ!!』
そう言って、片手で剣を握り締める。
エドは、白いカノンノの方を見て、ある質問をした。
白いカノンノは、今はボーっと立ち止まっている。今がチャンスだ。
『………お前、ディセンダーなんだってな……』
『えー?ディセンダー?………分かんない』
白いカノンノは、”分かんない”という言葉は流暢に答えた。
だが、エドは質問をする姿勢を崩さす、押し付けるように質問を続けた
『分からねぇが何がよぉ……!そのディセンダーが何で人を殺してんだ!!人を救う存在じゃ無かったのか!!』
エドは、死体となっているイフリートの方を見つめる
『………精霊まで殺して、何を望んでやがる!!』
その言葉に、カノンノは笑顔で答えた
『んーん。私はね、お母さんの為にやってるんだよ?』
お母さん
その言葉は、一瞬だけエドの心情を揺らいだが、すぐに元に戻した
『………お母さん……?』
『うん!お母さんがね、目的の為にちゃんと言う通りにしなさいって。そうすれば、いっぱい褒めてくれるって言ってくれたんだよ。』
その言葉に、イリアが怒りの言葉をぶつける
『ふざけた事言ってんじゃ無いわよ!!ディセンダーっていうのは……人を助ける存在じゃ無かったの!?人を殺しても良いって言うの!?』
その言葉に、白いカノンノは首を傾げた
『………?どうして人を殺しちゃいけないの?』
その言葉で、イリアの目が大きく見開いた。
『あああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
そして、一発の銃声が響いた。
その瞬間には、もう白いカノンノの姿は無かった。
『ギャギャギャギャギャギャギャ!!!!』
また、甲高い笑い声が聞こえる。
そして、今度はイリアは後ろを振り向いた。
入り口の洞窟の上に、重力を無視するように壁に立っている白いカノンノが居た
それに向かって、イリアは銃を向けて発砲した。
その瞬間、また白いカノンノの姿が無くなった。
すると、今度はエドの目の前に現れた
『!!』
『また会ったね。お兄ちゃん。遊ぼ?』
そう言って、白いカノンノはエドに向かって剣を振り下ろす。
上から落ちてきた剣を、エドは右腕で防いだ。だがそれが仇となった。
瞬間、白いカノンノはエドの腹に大きな蹴りを一発お見舞いした
『………!!!』
その衝撃は、想像以上であり
エドは壁に叩きつけられた。
『うあぁああああああああ!!!』
ルカは、白いカノンノに突進するように突っ込んだ。
その瞬間、白いカノンノは目を見開き、そんまま笑顔になり
ルカの剣にも蹴りを入れた。
瞬間、剣がバラバラに崩れた
『…………!!』
その状況に、ショックを受けたと同時に、
白いカノンノの裏拳が、ルカを襲った
ルカも同じく、殴られた方向の壁へと叩きつけられた
『ルカァアアアア!!!』
スパーダが叫ぶと、白いカノンノはこちらを向く、
スパーダは立ち、剣を白いカノンノへと向けていた。
だが、白いカノンノの表情は、もう興味の無い物へと変わっていた
『貴方はもう、つまんない』
そう言って、イリアの方へと向いた
『ひっ………!!!』
イリアの目が、限界にまで見開かれる。
白いカノンノの顔が、楽しそうに笑う顔へと変わる。
その顔は、最早皆には恐怖しか生まなかった
『ひ……ひひ……!!!』
イリアは、余りの恐怖に目を見開かせ、涙を流す。
そして、白いカノンノの方に、銃口を向ける。
徐々に、徐々にゆっくりと歩いてくる白いカノンノ
それは、今まで生きてきた中で、一番恐怖を生んでいた
『ああああああああああああああああああああああああああ!!!』
そして、最後の一発を放った。
瞬間、白いカノンノは飛び上がった。
着地するときには、イリアの目の前だ。
ああ、もう分かっていたんだ。
もういいや。
悔いは……まぁあるわね。
もう少し、ルカを苛めたかった。
もう少しだけでいいから、皆と一緒に居たかった。
私は、ルカの方を見る。
相変わらず、無様な泣き顔ね。笑えてきちゃう
そう思うと、なんだか微笑みが毀れた。
死ぬ間際が、笑顔ってのも悪くないや
そう思って、私はそのまま目をつぶった
さようなら
そう、呟いて
イリアの目の前に、血しぶきが起こる。
身体は、……痛くない
刺された感覚も無い。
ただ、生暖かい血が、全身に掛かったのだけ分かったのだ。
目を開けると、そこには、
思いもよらなかった。人が写っていた
『………スパーダ』
スパーダの身体の真ん中に、大きな剣が一つ刺さっていた。
この刺し傷は、もう所々の内臓を潰しているのだろう。
死……
もう、スパーダは助からない
『……………』
白いカノンンは、その状況を見て、
すぐに剣を引き抜いた。
『ぐっ』
スパーダの声が、少しだけ漏れる
そして、スパーダが倒れこむ前に、
白いカノンノは地に沈むように、消えて行き
そして、全身が地に全て入った時、完全に居なくなった。
スパーダが、派手に地へと落ちて言った。
『スパーダァァア!!』
エドが叫ぶと、イリアはそこでだた呆然としていた。
仲の良かった友達が死んだ
その状況を思い出したくなかったのだろう。
ただ、そのままスパーダを上から見下ろす事しか出来なかった。
『嘘だろ……おい……ふざけんなよ………!!』
エドが、俯きながら呟くように、悲しい声でそう言っていた。
『ふざけんなよ!!畜生ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
エドのその叫びと共に、イリアは正気を取り戻した。
すると、自然に眼から涙が流れ出した。
『あ…………』
ようやく、”死”を受け止めた
『そんな………そんな…………』
大切な友が一人、居なくなってしまった。
死んでしまった
『嘘……嘘よ嘘………。こんなの……!!』
イリアは、ひたすらこの状況を否定していた。
だが、まだひたすらと自然に涙が流れ落ちた。
受け止めたくない。その思いが、ただずっと流れ落ちていた。
『スパーダ……!!』
揺さぶっても、返事が無い。
血が、スパーダの下から血が幾度も無く流れ落ちていく
それが、より一層、この状況の現実を際立たせた
『うわああああああああああああああああああああああああああ!!!ああああ!!ああああああああああああ!!!』
イリアが泣き叫んでいる時、ルカは立ち上がった。
立ち上がって、スパーダの右腕を拾った。
その右腕を持って、スパーダの元へと歩いていく。
その光景がエドはまともに見れなかった。
その時のルカの眼は、まるで生きている人間には見えなくて
ただ、そのまま俯いてしまった。
『………!!!』
顔を合わせられない。
このままの状態で、とても………。
どう、ギルドに顔向けすれば良い。
どうすれば良い。
ルカが、スパーダの首筋を触った。
しばらくして、何かを計るように。
しばらくすると、ルカは嬉しそうに微笑んだ
『………良かった。まだ生きてる……。』
その言葉で、イリアは顔を上げる。
そして、ルカの方を見た
『ルカ………それは本当なの……?』
『うん……。でもこのままじゃ……死んでしまう』
それを聞いて、イリアはまた表情が崩れ、俯いて泣いてしまった
『それじゃぁ……死ぬと同じじゃない!!』
『うん……でもね、今は厳密に言うと生きている。だから微塵に少なくても、可能性があるんだよ』
ルカは、自分の手に、血である物を書いていた。
エドは、最初、それが分からなかった。
『………おい、何をする気だ……』
しばらくして、ルカが書き終えたとき、ようやくそれが分かった
すると、ルカは笑顔になった。
『僕は、医者になりたかったんだ。』
イリアと、エドに向かってルカはそう告げた。
そして手を、スパーダの右手と共に添えて、スパーダの背に置いた。
『止めろルカ!!てめぇがしようとしてる事は……何か分かってんのか!!!』
『エド……錬金術は死んで者はどうしても生き返らないんだよね……。』
その言葉で、イリアは気づいた。
だが、止めようにも、身体が震えて止まらなかった。
ルカの眼が、完全に生きている者の目では無くて
『エステルの持っていた錬金術の本……。それに書いてあった。』
『だからなんだってんだ!!つまりはお前も初心者じゃねえか!!だったら……失敗したらてめぇまで死ぬんだぞ!!!』
エドがそう言うと、ルカは笑顔になった。
『エドワード……医者はね、目の前の人間を救えなかったら……もうそれは医者じゃないんだよ。』
ルカは、両手に血で刻んだ刻印を重ねた。
『僕は………医者になりたいから。だから……目の前の人間を救うだけ』
そして、スパーダの身体に手を置いた。
その瞬間、スパーダとルカの身体が発光した。
『止めろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
エドが叫ぶ、だがもう遅い
ルカの身体がだんだんと消えていく
その光景を見て、イリアは顔が引きつった。
ルカが何をしようとしたか、ようたく確信が持てたからだ。
だが、それがもう遅いことだと、感じた
『………イリア』
ルカが、光の中でイリアに微笑をかけた。
『きっと、スパーダは元気になってくれるから。』
ルカの眼には、大粒の涙が流れていた
『大好きだったよ。スパーダと……仲良くね』
その瞬間、ルカは光に包まれて消えていった
~???~
白い空間に、一つの大きな扉
その真ん中には、一人の透明人間のような姿の、ヒトが居た
『………後悔は、してないか?』
ヒトは、僕に尋ねるようにそう答えた。
僕は、首を横に振った
『大切な友達を……救えるなら。それ以上の幸せは無いよ』
そう答えると、そのヒトは笑顔になる。
歯茎と、歯が分かった。
『そうか。じゃぁ、今までの思い出に懺悔しとけ』
すると、大きな扉が徐々に大きな音を立てながら開いていった。
開いた扉の向こうには、巨大な闇
そして、所々に存在する、大きな眼と腕が生えていた。
この向こうは、いわゆる地獄なのだろう。
だが、ルカの顔は後悔はなかった。
むしろ、清清しい顔をしていた。
『……スパーダ、イリア……』
ただ、一つだけ心残りがあった。
もう少しだけ、二人と一緒に遊びたかった。
苛められても良い。だからもう少しだけ、もう少しだけでも良い。
もっと仲良くなれた。この依頼でもっと仲良くなれたのだから
一緒に、楽しく笑いあって、
面白い話をしたりして、そしてもう少し大人になってから
医者になった時、また一緒に笑い会いたかった。
皆と、まだ一緒に、人生を歩いていきたかった。
前へ、前へと歩いていく。
闇の腕が、ルカを包んでいるのが分かる。
そして、無数の腕が包み、完全に包まれたとき、最後の一言を呟いた
『さようなら』
そして、無数の腕に引っ張られ、
ルカは扉の向こうへと連れて行かれた。
連れて行かれた瞬間、大きな音を立てて扉は完全に閉まった。
~オルタータ火山 精霊の間~
スパーダが目を覚ますと、目の前には深くうな垂れたイリアが居た。
呆然と、俯いているエドも居た。
目を覚ました時、何か違和感があった。
刺されたはずだ。俺はあの大きな剣で
それに、右腕の感覚があった。
上に上げると、そこにはちゃんと右腕があった
『………スパーダ』
寂しい声で、エドは俺に話しかけた。
その言葉は、どこか不安にさせた。
俺は……どうなったんだ?
辺りを見渡すと、ルカの姿が無い。
嫌な予感を感じたスパーダは、すぐさま起き上がった
『おい…!!ルカ!!ルカはどこに居るんだ!!』
スパーダがそう言うと、イリアが指を指した。
その指を指した方向には、
目を瞑ったまま、まるで眠っているような姿のルカが居た
『…………!』
スパーダの目が見開かれる。
そして、ゆっくりと、ルカの元へと歩み寄った。
じりじりと、
まるで、現実を見たくないが為、逃げ出そうとしているかのように。
そして、ついに辿りついた時、
その場で立ち止まり、ルカの頬を撫でた。
そこで、顔が引きつった。
『おい………なんだよこれは………!!』
そして、エドの方に振り向き、大声で叫んだ
『こいつ……冷たいじゃねえかよぉおおおお!!!!』
その言葉は、大きくも。空しく部屋に響いた。
そして、スパーダはワナワナと震え、ルカの襟首を掴んだ
『おい起きろ!!馬鹿ルカ!!本当は寝てんだろ!!とっとと起きろよ!!ほらぁ!!!』
揺さぶっても、ビンタしてもまったく目を開けなかった。
それどころか、またみるみると身体が冷たくなっていった。
『おい……!!起きろ………!!起きろって言ってんだろぉおおがぁあああ!!!』
スパーダが叫んでも、ルカは微塵も起きない。
その様子を見て、スパーダの動きが止まった
そして、その場で膝から崩れ落ちた
『嘘だろ……?……………おい』
手を離すと、重力に従うように、ルカの身体が地に落ちた。
それが、余りにも切なく、そして怒りがスパーダを襲った。
こんな理不尽な事が、起こってたまるか
スパーダは、認めないかのように帽子を強く両手で握り締めていた
『畜生……!!畜生ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
スパーダの悲痛の叫びが、部屋に響いた。
そして、その叫びは、次第に小さくなり
消えた
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すみません。四十一話を更新するのを忘れていました。これからはこんな事は無いよう、心がけていきます。真に申し訳ございませんでした。