「もう身体も動くようになったし、仕返しに行こうよ!」
「まぁ待て・・・」
液体を拭い取った二人の身体は程なくして元に戻り始めていた。
急かす雪菜を制する真司。
「今闇雲に動いてもさっきの二の舞だ」
恐らく相手は階下に居る。
そしてこちらの動きを探っているのだろう。
「床に注意して移動すれば突き破ってくる瞬間に音で判断して避ける事も出来そうだが・・・」
「闇雲に探し回っていれば流石に危なそうだね」
真司と恵理佳は今後の対策を練り始める。
「なら、相手が何処にいるか分かればいいんでしょ?」
「・・・そりゃそうだが・・・」
少しでも早く借りを返したいのか、何時に無くやる気十分の雪菜。
「出来れば使いたく無かったけど・・・サクッと探し出してあげる」
「・・・?」
あの雪菜が使用を躊躇うほどの術など想像も出来なかった。
「よし、いくわよ」
「「・・・・・・」」
滅多に見せることのない真剣な面持ちで意識を集中させる雪菜。
真司と恵理佳はただ黙って様子を見ている。
そして・・・
パァッ
周辺が瞬間、青い光に満たされる。
そして徐々に元の薄暗い視界になると、そこには・・・
『雪菜様~!お久しぶりで御座いますッ!!』
「何百年ぶりね」
掌サイズの雪だるまが何個か浮いていた。
しかもそのうちのひとつは言語を解している。
「・・・雪・・・だるま・・・?」
思わず呆気に取られながらも思ったことが口に出る真司。
その刹那。
パリィ・・・ッ
「うぉっ・・・!?髪が!?」
額に冷気を感じたと思った瞬間、前髪の一部が凍った。
『そこの!私をを侮辱するとは良い度胸じゃない』
「・・・いや、だってどう見ても・・・」
「シンジぃ、コレでも私の使い魔だし、気をつけてね~?」
こちらを睨んで(?)いる雪だるまの後ろから雪菜が笑顔で注意を促してくる。
(使い魔・・・?コレがか・・・?)
真司の想像の中での使い魔は虎や鬼、悪魔などの厳ついイメージだった。
どう見てもこんなファンシーな見た目の雪だるまが使い魔だとは信じがたい。
だが・・・
(さっきのは・・・雪菜の術・・・の劣化版か・・・?)
凍っている前髪を触ってみる。
夏の夜には程よく、ひんやりと冷たい。
雪菜が得意とする術と似ていた。
もしも雪菜のように人一人も氷付けに出来る力があるのだとすれば見た目に反して恐ろしい存在だ。
『それにしても雪菜様!何故もっと早く私たちのことをお呼びになってくださらなかったのですか!?』
「えぇと~・・・色々あってね・・・?」
笑顔で答える雪菜だが、明らかにはぐらかそうとしていた。
(・・・躊躇っていた理由はコレか・・・)
委員長に勝るとも劣らない口煩さだ。
各々の雪だるまにも個性があるようで、それぞれ見た目や性格が違うらしい。
だが、総じて基本的に五月蝿かった。
雪菜があれ程躊躇っていたと言うことは一度出してしまうと恐らくすぐに消すということは難しいのだろう。
「・・・アレが使い魔じゃ雪菜も大変だな・・・なぁ、恵理・・・」
「・・・可愛い・・・」
「・・・」
従兄弟の少女は隣で目の前のメルヘンな光景に悦に入っていた。
「もう!小言は後で聞くから、今は仕返ししたいヤツを探さなきゃいけないの!」
『なんと・・・!?そんな不埒な輩が・・・』
「そいつはこの建物の中に必ず居るはずだから、あんた達でスグに探し出してきなさい!」
雪菜は雪だるまたちに主らしく指令を出す。
『皆の者、聞いておったな!?各自散開し、主に仇名す者を発見せよ!!』
髭のようなものを生やした雪だるまが他の雪だるまたちに命令を出す。
雪だるまたちは掛け声を一斉に出し、気合を入れた。
『では・・・散れ!』
「頑張ってね~」
言うが早いか雪だるまたちは髭雪だるまを筆頭に各自散開していった。
各々が空を自由に浮遊、飛んでおり、その移動速度はとても機敏で早い。
あっという間に一人も視界に見えなくなってしまった。
「・・・なんと言うか・・・大変だな・・・」
「まぁ・・・ねぇ・・・でも、口煩いだけで優秀なのよ?」
「可愛いし・・・」
雪だるまたちが散って行った後、雪菜に二人で色々と使い魔について聞いていた。
そして・・・
「あっ・・・!」
「どうした・・・?」
不意に雪菜が何かに気がつく。
「居たって!!」
「マジか・・・?」
そう断言する雪菜を見ると髪の上部、アホ毛がせわしなく動いていた。
(・・・受信アンテナ・・・?)
そんな妖怪の七不思議はとりあえず置いておいて、場所を聞き出すことにした。
「場所は私にバッチリ伝わっているから、付いて来て!」
「よし、行くぞ、恵理佳」
「う、うん」
長らく張られていた結界を解除し、大急ぎで雪菜の案内の元、目標の居るであろう場所まで走り出す。
・・・・・・・・・
その後は仕返しと言って相手に抵抗の暇も与えず、一人で凍結から破壊までの連携をこなし、雪菜が大暴れしたのだった。
こうして無事に災忌を退治し、ことの経緯を簡単に携帯電話で中村さんに報告。
いつものように事後処理を任せ、三人は各々家路に着いた。
夏の夜風が頬を撫でる心地よい夜道を歩いて帰る真司だが、僅かに引っかかることがあった。
(・・・あの人間の作り物・・・とてもじゃないが情報だけで真似出来るとは思えないよな・・・)
あのまんまと騙された人間そっくりの餌のことである。
(そうなると実際にヤツが見たか、襲ったか・・・だが襲われたなんていう報告も捜索願も出ていない・・・)
人間の体つき、髪・・・何よりもあの制服が細部に至るまで完璧に再現されていた。
災忌を倒すとあの餌も同時に消えうせた。
それはつまり、あの災忌がそこまで細かく人間、服装について知識を得ていたことになる。
(・・・観察していただけなのか・・・?襲わずに・・・?)
次々と様々な疑問が沸いて来る。
「はぁー・・・さっさと帰って寝よう・・・」
頭の中が疲労と考えすぎで靄が掛かり始めていた。
さっさっと帰ってシャワーでも浴びて寝ることに決めたのだった。
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