いまだ残暑が続く晩夏の最中。
森の一角に小さな妖精と妖怪が4体、車座になって何かを話していた。
「今度こそ本当に見つけたんだってば!」
氷の妖精、チルノはそう言って大きく両手を振り上げた。
まるで見つけたものの大きさを示すように手を一杯にのばしている。
「また勘違いじゃないの?」
怪訝な表情で自らの触覚をいじりながらリグルは言った。
その言葉にチルノはリグルを一睨みする。
「違うよ!あれは確かにだいだらぼっちだった!それもたくさん!」
「たくさん?」
夜雀の妖怪、ミスティアもその言葉に眉をひそめた。
だいだらぼっちと言えば以前、チルノが見つけて手懐けようとした巨体の妖怪である。
その大きさは山も見下ろすとも言われる程である。
「たくさんなんて言うほどいるなら、他にも見た人間や妖怪がいるんじゃないかしら。ルーミアは実際に見たことや、見たと言ってる人は知ってる?」
「んーん。知んない」
短く切りそろえた金髪を揺らしてルーミアは首を振った。
リグルはいじっていた触覚をぴっと跳ね上げるとチルノに聞いた。
「そのだいだらぼっちって、どんな姿をしてたの。大きさは?姿は?」
「んーっとね、山よりは小さかったかな。でもすっごく大きいの。で、白い体や黒い体をしたのがいっぱいいた。頭はなんかとんがってた気がする」
「白いのや黒いのねぇ……」
「頭がとんがってる?」
「おいしーのかー?」
それぞれが思い思いに想像する。
しばらくの沈黙の後、チルノは何かを思い出したかのように「あー!」と叫ぶと、腕をぐるぐると回し始めた。
「ど、どうしたのチルノちゃん」
「思い出した。なんかね、みんなでこんな風に腕をぐるぐる回してた」
「腕を?なんで」
「さあ。でも見つけたときはみんなしてこんなふうに腕を回してたよ」
「そーなのかー」
ルーミアもチルノを真似て腕を回し始めた。
「ほら、リグルとみすちーも」
「え?」
「な、なんで僕たちまで」
「なにかわかるかもしれないじゃん。ほら、腕をこう、ぐるぐるーっと」
「ぐるぐるー」
「ん……わ、わかったよ」
「こう?」
チルノの言葉にリグルとミスティアも腕を回し始めた。4体の妖怪と妖精が集まって黙々とぐるぐると腕を回す。
途中、だれかが通りかかったのか「さくやーなにあれ?」「さあ、なんでしょう」という声が届いたが、それでも腕をぐるぐる回し続けていた。
そのまま数分が経ち、いい加減腕が疲れてきたところでリグルは腕を止めた。
「ねえ、チルノ」
「なに、リグル」
「なにかわかった?」
「なにが?」
「なにがって……そのだいだらぼっちが腕を回してることについて」
「あ」
「あ?」
ふとチルノは回している腕を止めて固まってしまった。
それからうーん、と唸るようにあごを押されると、快活な笑みを浮かべて、こう答えた。
「さっぱり!」
「……つまり疲れただけか。ミスティ……」
「ぐるぐる飛んで飛んでぐるぐる飛んで飛んで回って回って落ちー……」
「ちょ、ちょっとミスティア、ここで歌わないで!」
「むぐ……」
腕を回しながら歌いだしたミスティアの口をリグルは覆いかぶさるようにして塞いだ。
ミスティアの歌には聞いた者を狂気に陥れる効果がある。こんなところでそれを発動されたらリグルたちにとってもたまったものではない。
しばらくじたばたともがいていたミスティアだが、なんとかリグルを払いのけることに成功して、二人は互いに距離をとった。
「ちょっとー、気持ちよく歌いたいんだから邪魔しないでよ」
「邪魔するさ。自分の歌がどういうものかちゃんと自覚をもってよ」
「どういうものってどういうものよ」
「ふ、ふたりとも喧嘩はやめるのだー」
「そうだよ、そんなことよりもだいだらぼっちを手懐けないと!」
リグルとミスティアの間に入るようにチルノとルーミアは二人を止めに入った。
しばし睨み合う状態が続いたが、やがて落ち着きを取り戻して元の車座の状態に戻ったのだった。
「で、だいだらぼっちを見つけたというのはいいとして、どうやって手懐けようとする気?」
「どうって、ばこーんとやっつけてあたいがさいきょうだってことを見せ付ければいいんじゃない」
「でもたくさんいるんでしょう?チルノちゃん勝てるの?」
「さいきょうのあたいなら大丈夫!」
「根拠になってないのだー」
「そうだね。多勢に無勢っていうこともあるし、ちゃんと考えて行動しないと」
「えーメンドクサイ」
「や、あのねぇ……」
「とにかく一度見に行ってみようよチルノちゃん。だいだらぼっちってどの辺で見つけたの?」
「んっとねぇ、森をずーっと北に行ったところ」
「北に……というとあの山のあたりかしら」
「でも、まだいるのかー?」
「そうだよねぇ。もうとっくに別の場所に行ってるかもしれないし……」
「とにかく、行ってみようよ。こうしてる間にもいなくなっちゃったら困る!」
「わかったよ。じゃあ行こう。ミスティアとルーミアもそれでいい?」
「ええ、いいわよ」
「大丈夫なのだー」
「よし。じゃあだいだらぼっちを手懐けに、れっつごー!」
「おー!」
立ち上がって拳を振り上げた4人はその後、元気よく山々が連なる北へと歩みを進めて行ったのだった。
†
「よう、霖之助。邪魔するぜ」
魔理沙が戸を開けるとともに乾いた木が擦れるかららん、という音が響いた。
奥にはこの家――香霖堂の主人、森近霖之助が安楽椅子に座って本を読んでいる。
「やあ魔理沙、いらっしゃい。ミニ八卦炉のメンテは終わってるよ」
「さんきゅー」
霖之助からミニ八卦炉を受け取るとポケットに入れる。
そして勝手知ったる他人の家とでもいう風にたんすの中から茶葉と急須を取ると、そばのポットからお湯を使ってお茶を淹れた。
湯飲みを二つ用意し、一つは自分用に、もう一つは霖之助のそばに置いた。
「ありがとう。やっぱり暑い夏は熱いお茶に限る」
それを聞いて魔理沙は自分の湯飲みに息を吹きかけながら「じじ臭いなぁ」とからからと笑い声を挙げた。
「ところでお前は外に出ようとかは思わないのか?」
「店があるからね。それに外に出てもとくにやることもない」
「それなら今度、紫主催で百物語やるんだってさ。お前も来ればいいぜ。怖い話の一つや二つ知ってるんじゃないのか」
「や、怖い話は知ってるけど、僕自身怖いのは苦手なんだ。残念だけど遠慮させてもらうよ」
「そうか。それは残念だぜ」
「すまないね。おわびに最近入荷したこれを見せてあげよう」
そう言って霖之助は今の今まで読んでいた本を魔理沙に渡した。
「ん?なんだいそりゃぁ」
「本だよ。『ドン・キホーテ』というんだ」
「へえ。どういう話なんだ」
「それはね……」
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今回もPIXIVの東方企画用に作った二次作品です。自分的には多人数による会話シーンの練習も兼ねてますが、うまくキャラクターの特徴で誰がしゃべっているのかがわかる状態になっていれば幸いです。
来週は仕事が忙しくなるので投稿はおやすみします。
【9/16】体調崩した……ので今週もおやすみです。ぐぬぬ……