始点
流星が、“一人”の少女と出会う。
そこから紡がれる物語は、果たして真か虚か。
『外史』
三国志より生まれし、夢現の物語。
これから貴方が見るのは、とある夢の欠片。
愛し愛され共に歩んだある奇特な外史の物語。
変わり者と揶揄された女は男の為に武を奮い、心を閉ざした男は女の為に智を奮った。
そんな、一組の男女の物語。
さあ、扉は開かれました。
旅立ちましょう。光の先にある、外史の発端へ。
瞬く流星と共に──
花の都の遥か千里の彼方。
北方の地の果て、并州太原郡に俺は二度目の生を受けたらしい。
らしい、という推測の言葉が付くのは俺が生まれた環境が最底辺だった故、
何も分からなかったのだ。
周囲も、時代も、世界も、場所も。
両親はどちらも東洋系で、文字は漢字と象形文字を二で割ったようなモノだけだったから、
何となく中国辺りかなと見通しが付いてはいたが。
それでも中国4000年の歴史、という長い長い間の中でどの辺りかと問われれば、
文化や生活水準は少なくとも21世紀じゃ無いな程度にしか分からなかった。
漢文は嫌いだったから、起きた出来事を聞いても知ってるものは無かったし。
二度目の両親は、現代風に言うところの見境なしのDVオヤジに、
オヤジからの暴力に耐え、それを俺にぶつける娼婦のおふくろだった。
そんな所にまともな資料も文学も地図もある訳がない。
結果として俺は若干1歳3カ月で文字を覚える練習をする羽目になり、
それが両親の目に止まり仇となり2歳で働かされ始めた。
(どうやら文字が読めるというのは、大変なスキルになるらしい。
識字率は見た所精々3割だった)
その労働の収穫と言えば、ここには人権と言う言葉は無いらしいと言うことと、
人間は使い捨ての労働力扱いだ、ってこと位だった。
あと少し同年代よりは体も丈夫になった。
この、二度目の故郷が并州太原郡、というらしい情報も又聞きと、
看板と値札と知ってた漢字の組み合わせでなんとか覚えた文字から断片的に得た情報でしかない。
因みに地図はとても貴重な品らしく、少なくとも市場では扱ってなかった。
并州太原郡が何処にあるのかはさっぱり分からない。
精々冬が早いから北にあるんだな、程度の認識だ。
さて、物心ついた頃から働かされている雀の涙程の俺の稼ぎはオヤジの酒代に消え、
怒声と罵声と悲鳴と拳が飛び交う六畳一間な我が家であるが。
こんな最低な環境でも、俺はこの両親の元を離れなかった。
典型的なスラム街である引き戸一枚向こうの世界よりは、
死ぬこと無く体を休ませられる保障があったからだ。
それに、俺は弱かった。知識だけが先走っているが、体は精々6,7歳だ。
外に放り出されたら、とても生き抜けない自信があった。
心は機械文明の恩恵に肩までどっぷりつかった日本の高校生だったから、というのもあると思う。
だから、とにかく俺は親父とおふくろに縋り続けた。
どこかに俺を思う気持ちがあるのだと信じて。
俺を自分達の子だと思い、何処かに愛があるのだと信じて。
俺は、別にトラックにはねられた訳でもなければ、
神様的なものにあってチートを授けられた訳でもない。
朝起きて、8時半だやべぇと家を出て、ドアを開けたらパァっと光に包まれて
気付いたら俺は怒鳴られ殴られる日々に晒された1歳の男の子だった。
前世ではそれなりに普通の高校生として生きてきただけだった俺に、
二度目の生は端的に言って衝撃だった。
常識は常識では無く、文明の恩恵を受けられることの幸運を思い知った。
如何に普通が恵まれているか。
教育を受けられたことがどれだけ幸福なことなのか。
毎日の食に困らないことがどれほどの奇跡なのか。
俺は初めて知った。
前の世の産みの親にいくら感謝してもし切れない程の恩を感じ、
涙したことも一度や二度では無い。
そして、愛をまるで注がない今の両親に、
殺意をも覚えるまでに負の感情がすくすくと育つのにも大して時間はかからなった。
それでも俺は親父とお袋に縋り続けた。まだ俺を思う気持ちが欠片程でもあるのだと信じて。
率直に言って、というか言うまでも無いが今の産みの親(?)は最低だ。
誰かれ構わず殴り散らす暴力癖のオヤジに、
やり場の無い感情を一人息子に遠慮なくぶつけ発散し続けるおふくろだ。
そして、当然最も弱い俺は誰にもぶつける事無く全てをため込み続けた。
曲解された最底な儒教社会らしいこの二度目の世では、歳の多さこそがモノをいう世界だった。
つまり子供の俺は何よりも弱かった。力でも、立ち場でも、生き物としても。
そしてこんな概念もまかり通っていた。
「額に汗して働いた収穫を、『徳』を以て手に入れる。」
意訳すれば、
「額に汗して働いた者の収穫を自らの手に入れることは、その人に徳があるから」
となる。
そしてその主張は、弱い俺に暴力となって降りかかった。
得られない弱い俺は、徳が無いから得られないのだ、
搾取されるのは徳が無いから奪われるのだ、
という事になっていい様に稼ぎを搾取され続けた。
まるで何かから逃げるようにそう呟き続けるオヤジとおふくろを、
俺は何処か憐みを込めた目で何度か見つめた。
もちろんその直後に徹底的に殴られたので、しなくなったが。
まぁ、当然だがだからといって殴られなくなったわけでは無い。
でも、俺はオヤジとおふくろを求めた。庇護者として、唯一の血縁として。
でも、終わりだ。
今日で全てが終わる。
これまでの六年間の記憶が溢れ出てきたが、それも終わりだ。
『ねぇ、父様は、母様は俺を必要としてるの?』
きっかけはこんな質問だった。
ふと、何を思ったか口からこぼれた質問。しかし、六歳がするには重すぎる質問。
俺は、やはり縋りたかったらしい。助けが欲しかったらしい。
半端に自我がある分、自分の存在を認めて欲しかったんだ。
いつもなら殴られるから絶対しないだろう質問。
でも、その日の両親は何故だか機嫌が良かった。
だから俺もどこか甘えがあったんだろう。ぽろり、と口からその質問はこぼれた。
だが、帰ってきた答えは俺の心を殺した。
『殴れば金を運んでくるんだ、死なれるにゃ惜しいから必要だ。
なぁ、“一刀”』
俺は、俺が壊れるのを感じた。
ため込んだ感情のダムが決壊した、やり場の無い負の想いが俺の心を埋め尽くした。
両親ですらこうだ。シンライナンテ、ソンナノハウソダ。
イヤダ、ソンナセカイデイキタクナイ。
その晩、俺は両親の前から姿を消した。
「なーなー、アンタなにしとるん?」
「……」
不意に掛けられた、女の声。
クソ溜めの中ですら最下層の群れを組まない孤児。俺は傍から見ればそう見える。
そんなのに声をかける女なんて、どんなモノ好きか狂人か。
俺は精々そいつから飯のタネでも得ようと思い振り返った。
──それが、全ての始まりだった。
五年間、俺は生き抜いた。
飛び出した最初の一年は文字通り泥水を啜り、残飯を漁り、何度も高熱と下痢と暴力で死にかけながら。
空腹の余り、人の死肉すら喰らおうと思った事も一度や二度ではない。
でも、その一線だけは超えなかった。
あの死体を喰らう野良犬と同等になりたくないから、何より両親の様に、畜生の様な生き様を晒したくなかった、という無駄な我儘の産物だ。
それでも五年間、今まで生き抜いた。
十歳、三年目だ。
泥を啜った二年でさらにやせ細った体躯。前の俺に何処となく似てきた顔。
但し目だけは比べ物にならない位に、暗く鋭くなっていた。
纏う衣服はゴミから拾い集めた、比較的きれいな布で作ったボロ服が一枚。
なんとか人間らしく見られる為に、日銭や飯を得る為に身なりだけは低水準を維持するようにしていた。
スラムの一番奥、ほぼ全裸で横たわるだけの連中の様になっては、モノを喰うことすら覚束なくなる。
そういうことも俺は学んだ。世界に絶望しても、人間を止めたくは無かったからだ。
だから、少しづつ出来る事をし、人間らしく見られるようにだけはした。
そうやって、俺は四年目になる頃、何度も不条理に奪われながら学び続け、俺は生き抜く術を得た。
人の流れを窺うことと、人の欠陥を見つける事だ。
前者は、如何に生き延びるか。それに大きく関わる。
端的に言えば、空気が読めない奴は死ぬ。そういうことだ。
二つ目は、如何に飯のタネを稼ぐか。これに大きな影響を与える。
言ってしまえば、スリと強請のネタだ。
欠陥、言うなれば隙を見つけられるか否かだ。隙さえされば懐に手を忍ばせられるし、目をかいくぐり有利に立つ事も出来る。
そして、人間の後ろ暗い部分という意の欠陥、コレを握り巧く立ち振る舞えばやはり飯のタネを得られる。
情報で脅し、強請り、時には恩を売る。こうして俺は身の安全を守ってきた。これには前者の流れも影響してる。
そして五年目、十二歳。
自分で生き抜く術を得、立場も安全も金も食事も、全て手に入れた頃。
俺は、そいつと出会った。
「なーなー、アンタなにしとるん?」
──俺は、霞と出会った。
あとがき、という名の言い訳
こんばんは、もしくはこんにちは。あるいはおはようございます。
甘露です。
HDDの中身が全部吹き飛んで、ディスクレスで出来るゲーム達が
いっぱいお亡くなりになっても私は元気です。
嘘です。3時間ほど巨神兵でも召喚できないかと魔法陣書いてました。
至って本気で。
さて、前口上はこんなものにしておきましょう。
以下言い訳↓
この作品は、霞√を復活させた場合のパターン2プロローグ、となっております。
因みにパターン1は改訂前、つまり以前の霞√です。
そこで、アンケートをとりたいと思います。
Q,貴方は1、以前の一刀(名家生まれ、支える為に沢山学んだ秀才型軍師。フラグビンビン)と
2、今回の一刀(平民、最下層生まれ。生きる為に学んだ才能型軍師。フラグ建築なう)
どっちがいいですか?
ちなみにどちらでも霞フラグが立つことは代わりません。
基本構成も流れも出来る限り以前のままにしようと思ってます。
プロット消失で限界があるかもしれませんが。
でも、あくまでも霞√ですから(笑
あと具体的な違いは、戦略面に出るくらいでしょうか。
前者は、良くも悪くもあの時代の武人さんです。誇りも理解出来れば正々堂々に括る事もあります。
後者は、現代人+貧民層っちゅうことで、腹の膨れないプライドなんぞ犬に食わせろです。
僕の鳥頭じゃあ有能になって且つ性格に違いが出せる方法なんぞ
生い立ちを変えるくらいしか思いつかなかったんだい!(´;ω;`)ブワッ
どっちか趣味に合う方を、前者の場合は1を、後者の場合は2、と一言コメントの最後にでも入れて頂けると狂喜します。
あ、興味無いっす、サーセンwwwって方は3とでも入れといてください(え
では。
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改訂版になります。
まだ正規決定はして無いですが、仮に連載再会の場合には
コレor改訂前 のどちらかに成ります
最後にアンケがありますのでよろしければ答えてやってください。