No.287060

真・恋姫無双~君を忘れない~ 四十六話

マスターさん

第四十六話の投稿です。
新しく益州に入った桃香たち。その優秀な人材に負けまいと必死に頑張る少女の姿があった。
これはひどい……。本当に投稿して良いのか、と思うほどの駄作。前回以上の惨事です。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

続きを表示

2011-08-28 18:08:21 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:11361   閲覧ユーザー数:6980

詠視点

 

「ふぅ……」

 

 その日の政務が一段落をして、ボクは少し身体を伸ばしながら一休みをした。でも休んでばかりはいられないというイラつきがあり、出るのは溜息ばかりだった。

 

 最近のボクは焦っている。それは自分でも分かっているのだけれど、それを自分の中で上手く消化出来ずにいる。イライラしたって能率よく仕事出来るわけでも、画期的な法案が浮かぶわけでもないのだけれど。

 

 その理由は分かっていた。桃香と一緒に益州に入った、伏竜と称される朱里、そして鳳雛と称される雛里――本人に会うまでは、ボクだって負けていないって思っていた。だけど、あれは――あいつらはまるで化物じゃない。

 

 朱里の視野の広さは異常――局地戦の時にさえ、常に大陸全体の情勢を照らし合わせて、敗北でさえ、最終的に自軍の勝利を導いている。これまで劉備軍が勝ち戦に恵まれず、弱小勢力という立場に身を置きつつも、最終局面では敗れなかった。

 

 それは偏に桃香の人望だけが原因ではなく、朱里が常に大局的に戦況を見ていたから。恐らく彼女は、益州を拠点にして本気で桃香を大陸の王にしようとしていた。そして、その可能性は決して低くなかった。

 

 そして雛里――彼女の戦術観は卓越している。軍師とは他人より先の戦局を見通す目が大切だけど、あの娘はどれくらい先まで見えているのだろう。ボクだって下手な軍師かぶれなどより、数手先まで見えているけど、あの娘はボクよりも上をいく。

 

 性格的に、戦に積極的に献策することが少ないみたいだけれど、もしもあの娘が文字通り雛から大空を羽ばたく鳳凰になれば、その目は確実に未来を見通せるだけのものになる。

 

 ボクは負けたわけではない。机上と実戦は天と地ほどの差があるし、おそらく経験で言えばボクの方が上になると思う。伊達にこれまで董卓軍を率いて蛮賊と争っていただけではないわ。

 

 それでも彼女たちの才能を目の当たりにすると、羨望を覚えざるを得ない。あれは正しく天賦の才――血が滲むほど努力を重ねてきたボクにはないものね。分かっていても、嫉妬してしまう。

 

 そういう部分では麗羽を見習わなくてはいけないわね。最近になって頭角を現してきた――以前は、兵士の命を大事にするような、思い切りに欠けた戦い方しか出来なかったが、この間の模擬戦では大胆な戦いに踏み切った。

 

 元々麗羽は冷静な思考の持ち主だった。冷静――というよりも、自分の感情を戦に持ち込まない。それを自らの体内に抑え込んでいるのだ。それはおそらく麗羽がかつての戦の責任を背負い込んでいるからだろう。

 

 しかし、その感情を無くした冷静な思考は、軍師という生き物にとっては大きな武器になる。人間は容易に感情を殺すことなど出来ず、それに支配された精神では戦場を曇りなき眼で見ることは出来ない。

 

 これもまたボクにはないものね。まぁ、自分にないものを羨むよりも、自分にあるもの――自分にのみ備わる長所を活かした方が良いのだろうけれど、上手く自分の感情制御できない自分が歯がゆい。

 

「詠ちゃん、少し休んだら?」

 

 気付いたときには月がお茶を机の上に置いてくれた。ここ数日、寝る暇も惜しんで、新たな政策などを立案や、各地に飛ばした文官からの報告を纏めて、益州全体の状況を確認している。

 

「ありがとう、月。でも、休んでばかりもいられないのよ。あの娘たちばかりが益州の軍師じゃない。ボクもいるってことを知らしめなくちゃ」

 

 例え、ボクがもう賈駆という名を使うことがなくても、ボクの誇りに賭けてあの娘たちには負けられない。

 

「でも、詠ちゃん。それは勝負とかそういうのじゃないと思うよ」

 

「それはそうだけど……」

 

 月がボクを心配してくれるのはとても嬉しいのだけれど、それでもあの娘たちに負けたくないっていう意志は変わらなかった。それにこれは功名心ではなく、ボクたちの立場にも大きく関わる。

 

 ボクや月は名前を捨てて、一時は北郷の侍女として仕えていた。月は今でも、北郷の侍女兼政務の補佐を務めている。ボクも一応は侍女という扱いだけど、本当は文官を統べている立場にある。

 

 それは元々益州には優秀な軍師がいなかったからなのだけど、今は朱里や雛里がいる。もしも――北郷がそんなことをするとは思えないけれど、ボクたちが不要な存在になってしまったら、居場所を失ってしまうのではないか。

 

 ボクはどうなったって構わない。でも月だけは守らなくちゃいけない。だから、ボクが皆に認められる存在になれば、必要だと思われる存在になれば、そんなことにもならずに済む。

 

 だから、ボクは負けられない。益州で確固たる地位を得て、必ず月を守ってみせるんだから。それまでは多少の苦労なんて苦ですらない。

 

月視点

 

 詠ちゃんの気持ちは分かっているのです。口では朱里ちゃんや雛里ちゃんに負けたくないと言いつつも、きっと本音では私を守ろうとしているのでしょう。付き合いが長いだけあって、詠ちゃんが何を考えているかくらいは分かります。

 

 だけど、そんな無理をしなくても御主人様を始め、益州の皆さんは詠ちゃんのことを認めているし、今のままでも十分に皆さんの役に立っていると思います。

 

 それに詠ちゃんは自分が思っている以上に、軍師として優秀だということは私が一番知っています。天水を治めているときから、ずっと詠ちゃん一人に任せていたのは申し訳なかったのですが、それ以上に、詠ちゃんになら任せられると思っていたからでもあるのです。

 

 朱里ちゃんや雛里ちゃんが軍師として秀逸なのは誰もが認めるところですが、詠ちゃんにも彼女たちに負けない点があります。

 

 それが絶対的な統率力と指導力です。これはおそらく朱里ちゃんや雛里ちゃんにはない力だと思います。天水の地を治められていたのは、その力が非常に大きく影響していました。

 

 文官を束ね、彼らの力をギリギリのところまで発揮させることは容易ではありません。朱里ちゃんや雛里ちゃんは性格的に、文官たちに強く出ることが出来ませんが、詠ちゃんは妥協や甘えを許しません。

 

 それに詠ちゃんは、ただ文官たちを力で従えているのではなく、彼らの声には真摯に対応もするし、下からの意見は出来るだけ実現出来るように努めてもいます。だから、文官たちの中には詠ちゃんを慕う声も根強いのです。

 

 今の文官たちはおそらく詠ちゃんの指示がなくてもある程度まで仕事をこなせるようになったでしょう。本来、文官は上からの指示がなくては動けないものなのですが、詠ちゃんの指導のおかげで自ら考え行動することが出来るようになったのです。

 

 詠ちゃんは自分が既に必要不可欠な存在であることに気付いていません。だから、こんな無理をして身体まで壊してしまったら、それこそ皆さんの迷惑になってしまいます。

 

 何度かそれを説明したのですが、詠ちゃんは認めようとしませんでした。詠ちゃんを止められない自分が情けなく思います。

 

 そとのときでした。扉がコンコンと『のっく』されたのです。それをするのは益州では一人しかいないので、誰何しなくても誰であるのか分かります。

 

「入るぞ」

 

 御主人様が部屋に入ってきました。

 

「詠、成都にいる焔耶から報告書が回ってきたんだけど……」

 

 書簡を持ちながら、部屋に入ってきた御主人様が詠ちゃんの部屋を見て目を丸くします。詠ちゃんの部屋は報告書やら書きかけの書簡が床に散らばり、机の上も同様で、お茶を置く場所すら確保するのが精一杯という状態なのですから。

 

「これは……」

 

「何よ? 忙しいんだから、用があるなら早く言って」

 

「いや、それよりも詠。お前、ちゃんと休んでいるのか?」

 

「平気よ。ぶっ倒れて迷惑かけるような馬鹿な真似をするつもりはないわ」

 

「そういう問題じゃないだろ? ほら、こっち向けよ」

 

「ちょ、ちょっと、邪魔しないでよ」

 

 強引に詠ちゃんの顔を覗き込む御主人様。

 

「ほら、目の下に酷い隈が出来ているじゃないか」

 

「う、うるさいわね! 放っておいてよ!」

 

「馬鹿なことを言うなよ。放っておけるわけないだろ。今は朱里や雛里だっているんだし、そっちに回してもらった方が良いんじゃないか?」

 

「……ッ!」

 

 朱里ちゃんと雛里ちゃんの名前が出た瞬間、詠ちゃんの顔が強張り、強く歯を噛み締めながら、御主人様を睨みつけました。止めようと、詠ちゃんに歩み寄りましたが、既に遅かったのです。

 

「あんたには関係ないでしょ! すっこんでなさいよ!」

 

「なっ! そんな言い方ないだろ! 俺は詠のことが――」

 

「うるさいっ! あんたなんかにボクの気持ちが分かるわけがないのよ!」

 

「なぁ? どうして、そんなに怒っているんだよ? 何か気に障ることを言ったんだったら、謝るからさ」

 

「うるさいって言っているでしょ! 出て行ってよ!」

 

「お、おい……」

 

「出て行け!」

 

「……分かった」

 

 詠ちゃんから強く拒絶されると、御主人様は悲しそうな表情を浮かべながら、部屋から去って行きました。

 

「詠ちゃん……」

 

「分かっているわよ……。あいつがボクのことを心配していることくらい」

 

「だったら、きちんと謝らなくちゃ駄目じゃない」

 

「う……」

 

 詠ちゃんだって本気であんな風に言ったわけではありません。きっと、疲れが溜まっていたから、つい八つ当たりをしてしまったんです。御主人様なら、謝ればきっと許して下さるでしょう。

 

「私も一緒に行こうか?」

 

「大丈夫よ。ボクが悪いんだから、月には迷惑かけられないわよ」

 

「うん。じゃあ、今日の政務は代わりにやっておくから、心配しなくてもいいからね」

 

「あうぅ、やっぱり月には迷惑欠けることになるのね……」

 

 渋々といった様子で詠ちゃんは御主人様の後を追って行きました。もう少し素直な性格になれば良いのにと思いますが、あんなところまで含めて、きっと御主人様は詠ちゃんだと思っているのでしょう。

 

一刀視点

 

「あー……」

 

 思わず溜息が漏れる。それは当たり前だ。ついさっき、詠の部屋に行って、成都からの報告書の相談をしようと思ったのだが、どういう訳か口論になってしまい、詠を怒らせてしまった。

 

 会話を思い返しても、俺の発言の何が詠を怒らせたのかはさっぱり分からなかった。詠が俺を好きじゃないことくらい普段の態度からそれとなくは察しているつもりだったけど、今日の詠は様子が違っていた。

 

 あんな風に感情を剥き出しにして理不尽ともとれるような怒り方を、今まで見たことがなかった。その理由も分からないのだから、俺としては、あの場からすぐに立ち去った方が得策だとは思ったのだけれど……。

 

 俺ってそこまで嫌われていたのかな?

 

 そう考えると、鬱々とした感情が胸中に渦巻いた。詠とは良い関係を築いていきたいなって思っていたから、予想以上に堪えるものがあった。

 

「ハァ……」

 

 口からは溜息しか漏れてこない。呼吸すら全て溜息になったような、そんな心地すら感じられる。

 

 今日はメンタル的にこれ以上政務をこなす自信がなかった。しなくてはいけないのは重々承知なのだけれど、机に向かったところで、集中なんて出来ないし、一向に仕事も減る様子もなかった。

 

 リフレッシュと称して、こうして東屋で暮れゆく夕日を眺めていても、ロマンチックな光景とは程遠い表情を浮かべながら、詠に何て謝ったら良いのかを思案し続けている。

 

 謝ろうにも、何が原因なのか皆目見当もつかないし、詠もただ頭を下げただけでは許してくれはしないのだろう。少なくとも、原因だけでも突き留めなければと頭を捻るも、結局分からずじまいのまま、ただ無為に時だけが過ぎていった。

 

「何よ、そんな辛気臭い顔して!」

 

 不意に後ろから声をかけられたと思えば、そこには詠がふん、と鼻を鳴らしながら俺の方へと歩いてきた。

 

「え、詠……」

 

 謝らなくてはと思いつつも、何を謝れば良いのか全く分からなかったのだから、俺は何も発することが出来ず、ただ気まずそうに名前を呼ぶことしか出来なかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 そして沈黙が続く中、どういう訳か俺は詠の膝の上に頭を乗せる状態になっていた。

 

「あ、あの……詠さん?」

 

「そ、その……悪かったわね!」

 

 この状態を理由を尋ねる前に、詠が顔を赤らめながら謝罪した。何故、詠が謝罪するのか分からなくて、詠が言葉を続けるのを待った。

 

「…………」

 

「…………」

 

「ちょっと! 何で黙っているのよ!」

 

「え!? いや、だってどうして詠が謝るのかと思って……」

 

「どうしてって、そりゃ……ボクが……その……」

 

 理由の話になると、詠は口籠ってしまった。

 

「あー! もう! ボクの機嫌が悪かっただけよ! あんたがボクの身体を気遣って、ああ言ってくれたのに、ボクは……」

 

「え……」

 

「朱里や雛里が優秀だから、あんたがボクのことを不要だって思われるのが怖くて……」

 

「ぷっ……はははは!」

 

「ちょっと! 何が可笑しいのよ!」

 

「だって、てっきり俺は、俺が何か詠の気分を害することを言ったんじゃないかって。詠に嫌われたんじゃないかって思ってさ」

 

「な! そ、そんなわけないじゃない……」

 

「だから、そうじゃないって分かった瞬間、急に可笑しくなっちゃってさ。それにしても、詠も馬鹿なことを思ったんだな」

 

「な、何よ……。馬鹿とか言わなくてもいいじゃない」

 

「だってさ、俺が詠のことを要らないなんて思うわけないじゃないか。詠が誰にも負けないくらい益州のために頑張ってくれているのはよく知っているし、それに俺は詠のことを尊敬しているんだぞ?」

 

「うぅ……」

 

「詠にはまだまだ教えてもらわなくちゃいけないことがたくさんがあるんだから、これからも俺の側にいてもらわないと困るよ」

 

「そ、側に……って馬鹿ね! あんたが嫌がっても、ここに居座ってやるんだから!」

 

 そう言うと、俺から顔を背けてしまう詠。とりあえず、詠から嫌われているんじゃないかって疑惑が晴れて良かった。

 

「それはそうと、詠さん?」

 

「何よ?」

 

「詠が俺に謝る理由は分かったのだけど、どうして、こんな体勢なんだ?」

 

「何言っているのよ? これが天の国の謝るときの姿勢なんじゃないの?」

 

「……それは一体誰から?」

 

「桔梗よ」

 

 あの人は、どうしてこういつもいつも他人を誑かすのだろうか。あぁ、桔梗さんがニヤニヤしている顔が容易に思い浮かんでしまう。

 

「……詠、それは残念ながら桔梗さんの嘘だ。天の国でも謝るときはこんなことはしない」

 

「え! そうなの!?」

 

「ああ。だから無理してこんなことしなくても――」

 

「あ、あんたは――」

 

「ん?」

 

「あんたは……そ、その……この姿勢は嬉しいの?」

 

「うーん、勿論、詠みたいな可愛い女の子に膝枕されるのは、男だったら誰しもが喜ぶことだと思うけど」

 

「じゃ、じゃあ……もう少しだけこのままでいてあげてもいいわよ」

 

「え?」

 

「い、いや! だから、あんたが喜ぶんなら……今回はボクが全面的に悪いわけだし……。あの……もう少しこのままでも……」

 

 詠はこれ以上ないほど顔を赤くしながら、必死に俺の目を見まいと顔を背けながらもそう言った。

 

「そうか、じゃあもう少しこのままで……」

 

 詠がせっかく懇意でそう言ってくれているのなら、と俺はもう少しだけ詠に膝枕をしてもらうことにした。

 

 もじもじと両膝を動かしてくるのが、詠の初々しい感じがして、何やら微笑ましいとすら思えた。

 

「詠?」

 

「……何よ? ニヤニヤしちゃって気持ち悪い」

 

「いやー、こういう詠を見るのって初めてだからさ、つい可愛いなって」

 

「な! なななな何言ってんのよ! 馬鹿じゃないの!」

 

「ははは……、ごめんごめん」

 

 そんな会話をしながら、しばらく膝枕の状態をしていると、どこで嗅ぎつけたのか、桔梗さんが酒を持参しながら、やって来た。

 

 俺と詠の姿を肴に、嫌らしい笑みを浮かべながら酒を飲み始めてしまったものだから、俺たちも膝枕を止めざるを得なくなってしまった。

 

 それは少し残念であったのだけれど、詠と上手く仲直りできただけでも良しとするか。

 

あとがき

 

 第四十六話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 作者は前回言いました。ツンデレは苦手であると。無理なものは無理でしたね。前回の麗羽回よりも酷いことになってしまいました。

 

 反省はしています。しかし、後悔もしています。

 

 日常編はなかなか書くのが難しいですね。第五十話を目前にして、日常会話の難しさが嫌というほど身に沁みました。

 

 そういうわけで日常編は早々に切り上げて、さっさと本編を進めようかと思います。他にもいくつかリクエストは受け付けていたのですが、今回はここまでとさせて頂きたいと思います。

 

 今回はもはや何も言いません。もう少し精進します。

 

 次回は、とうとう皆さんの大好きなあの人の登場です。皆さんに喜ばれるように頑張って書きたいと思いますので、どうか未熟な作者を見捨てないで頂けると助かります。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
74
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択