第三十話 成長
つれていかないでください。
おとーさんとフェイトおかーさんにアサおかーさん、それにエリオくんがいればいいっておもってた……。
けどいまはそれじゃあイヤだ。
リンおにーさんがいないのも、カエデさんがいないのも、サクラさんがいないのも……。
そしてなによりりむおねーちゃんがいないのも……イヤ。
だから――
「目標確保、これより撤退する」
――りむおねーちゃんをかえしてっ!!
先に言っておくと神獣たちに落ち度がなかったとは言えない。事実、実際なら一番近くにいたはずの生やアルトは汗をかいている子供たちのために飲み物を買いに行っていた。もちろん他の神獣たちを信用しての行動だ、普通ならそれでも問題なかっただろう、だがこの時ばかりはランやスターチスへの信頼が裏目に出た。
「迂闊だな。魔道生命体3号」
プリムラは一瞬の出来事に反応すら出来ずに意識を刈り取られ、男の腕に収まる。それもしょうがないことだろう……なぜならこのなかで一番、戦闘というものに慣れているはずのランとスターチスが全く反応できていなかったのだから。
ランとスターチスも警戒していないわけではなかった、男の姿は視界に入れていたしいつでも反応できる距離に身をひそめていたはずだった。
ただの一般人、それが2体の神獣がはじき出した答えだった、魔力…ミジンコ並… 筋力…一般成人男性より少し下…また武道や戦闘訓練を受けているような隙の無い動きというわけでもなく、むしろ隙だらけな体捌き、どれをとっても警戒に値する要素など皆無だった。
『『りむさまっ!』』
一瞬固まった2体だがすぐに硬直から抜け出すと、すぐに動き出す。まずはスターチスがいくつかの炎の飛礫を子供たちを護るように男との間に放つ。
それをみて男は後ろに飛び退くとスターチスをみて驚いた表情を見せた。
「なんだあれは?見たことのない鳥だ……人間の言葉を話す。希少種か変位種かどのみちろくなもんじゃない」
『リム様を返しなさいっ!』
そのすきをついたランの攻撃もたやすく回避される。
「……次から次に。……(目的は果たした。これ以上の長居は危険か?二兎を追うもの一兎を得ず、ってもいうからな)動くな動けばこの子を殺す」
とりあえず当面の方針を決めた男は、彼ら(?)にとって大事な存在であるように見えるプリムラ(今回のターゲット)を盾にする。
『『くっ!?』』
「よしそれでいい。目標確保、これより撤退する」
ランもスターチスも動かない、否、動けない。いままで護る戦いというものから縁遠かった彼女達はこういうときの対処法を知らないのだ。
だからこの時動いたのは彼らではなく……
このちからはわたしがさむくてつらくてこわくて……そんなおもいをすることになったきっかけだった。
そんなこわくていちどはいらないとおもってたものだけど……おねがいフリード、わたしにちからをかしてね。
「キュルク~」
うん、がんばろうねフリード。
瞬間、キャロの横にいたフリードが光に包まれる。光が治まるとともに聞こえるのは飛龍の咆哮
「―――!!」
その咆哮に思わずその場にいる者たちの動きが一瞬止まる。威圧感、大きさともに充分に併せ持った竜がそこにはいた。
『白銀の飛竜』フリードリヒ
その真の姿は10メートルほどの大きさの飛龍であり、キャロのより制御されたその力は敵にのみ向けられる。
だがこの咆哮の影響を全く受けていない人物がいた……エリオである。
エリオは影響を受ける受けない以前にフリードのことにさえ気がついていなかった。それどころではなかったのだ。
だって自分とキャロのねえさんが連れて行かれそうなのだ。
あんなにいっぱいいっぱい槍術の練習も魔法の練習もやったのに全然大切な人を守れないなんて嫌なのだ。
大切な人と離れ離れなんて嫌だ。
だからエリオは――エリオ自身はその感情の名前は知らなかったけれど――憎くて憎くてたまらない男のことを見ていた……周りの音さえ耳に入らず、映像は男とプリムラだけを写して、だ。
隙を見せたらすぐにプリムラを救いだせるように全神経を集中していた。
さっきの遊びで体は万全の状態に暖まっていて、魔力も万全、必要となる魔術式はもう後は起動するだけの状態。
そんな状態で男が何故か隙を見せたのだ、いまのエリオがその隙を逃すはずもなく……
「リムねえさんをかえせぇ!!」 「sonic move」
音速にせまる速度でせまり、かっさらう形で男からプリムラをひきはがした。
もちろん六歳児の力ではプリムラの体重を支えきれるはずもない。一、二メートル離れた場所でもつれるようにして倒れこむ。
そしてこれだけなら二人とももう一度人質にされて終わりだ。ランやスターチスは間に合わないし、キャロとフリードもエリオとプリムラを攻撃に巻き込んでしまうから攻撃ができない。
……そのはずだったのだ、本来ならば。
「……そこまでです。動くようなら斬ります」
男の背後から少女の声がする。男が背に伝う汗を認識しながら後ろの目をやると巫女服を着た十歳ほどの少女、その手には身の丈ほどもある大太刀が握られていた。
「キャロ様、よく頑張りましたね。えらいです、きっと主様が聞かれたらキャロ様のことを誇りに思うに違いありません」
「……イクさん?」
「はい、遅くなりましたキャロ様。怖い思いをさせて申し訳ございません、っと!!…キャロ様?」
少女――生(いく)――は男に向けた殺気や意識はそのままにキャロに視線を向け優しく声をかける。
すると感極まったのかキャロが背中から抱きついてくるのだがその間も男に殺気や意識は向けたままだ、ここでなにか動きがあれば斬り伏せるつもりだったのだが、こちらの予想以上にカンが優れているのかはたまたただのチキンなのか男はアクションを起こそうとはしなかった。
「こわかったです……。リムおねえちゃんはうごかないし、おとこのひとはリムおねえちゃんをつれていっちゃうっていうし、だから、わた、わたし、わたし……」
「大丈夫です。だから後は任せておいてくださいませ。それともわたしでは主様ほど信頼はできませんか?」
「そ、そんなことないですっ!!」
「じゃあ、いまはゆっくり休んでいてくださいな。お休みなさいませキャロ様」
生はそう言うと簡単に呪を唱える。すると、キャロが生にもたれかかるように眠りに着いた。するとそれに呼応するようにフリードも光に包まれちび龍の姿に戻る。
「スターチス、キャロ様をお願いいたします。あとフリードも」
生がそう言い、またなにか呪を唱えたかと思うとキャロのからだが浮かび上がりスターチスの背中に乗せられる。
それを確認すると全神経を男へと向けて男の後ろへと言う。
「さてどう料理したものでしょうか?あなたにお任せしますよアルト」
そしてエリオの後ろには十歳くらいの少年の姿があった。
「うん、えらいぞエリオ。よくがんばった」
「……アルトさん?」
「おう、アルトさんだぞー」
「こ、こわかった。リムねえさんはうごかないし、ヘンな男の人にかつがれてるし、どっかつれていかれそうだったし…………」
「よしよし、とりあえず今は休んどきなって。ほら後はまかせといて、ね?お休み~」
少年――アルト――が安心させるようにエリオの頭を人撫でして短くなにかを唱えるとエリオは糸が切れた人形のように動かなくなる。無論、眠っただけであるのだが。
そしてエリオとプリムラを近くに来ていたランの背中に二人を乗せると男の方に向き直る。
「さてどう料理したものでしょうか?あなたにお任せしますよアルト」
そんな生の言葉が聞こえてきたのでアルトはとりあえず言い放つ
「で、あんたなに?ボクのかわいい弟分や妹分にこわい思いさせて……。ことによっては殺さないであげるよ?……」
アルトはそこで言葉を切り底冷えするような視線とともに言葉を飛ばす。
「……代わりに死ぬよりも辛いことがあるってわからせてあげるから」
これが稟が家を出る数分前の出来事である。
あとがき
ノリと勢いだけで書きました。みなさんお久しぶりですグリムです。
久しぶりの投稿なのに短くてすいません。今回のテーマは題名どうり成長、まあ子供たちについてですね。
主役はエリオとキャロ、後半は主役が入れ替わって前回久しぶりに登場のアルトと生。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
こんかいはこれで失礼します。この作品を読んでくださった皆様に感謝を、いつも読んでるよーという皆様にそれ以上の感謝を、です。
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プリムラにせまる軍の兵士。プリムラはいったいどうなるのか!!