0.森
ボクはとある森に迷い込んだ
そこでおばあさんが木に寄りかかって倒れていた
-そこの少年。何か飲むものは無いか?
聞き取りにくくしゃがれた声で
おばあさんはボクに話しかけてきた
とっさにボクが家から持ってきた水筒を手渡すと
おばあさんはぐびぐびと音を立てて中身を飲み干した
-ぐっ・・・
おばあさんがむせたのでボクは軽く背中を叩いてあげた
-ありがとう少年、お礼といっては何だがこれをやろう
と、おばあさんが手渡してきたのは
赤い文字のキーホルダであった。
-それは良い意味でも悪い意味でも
おぬしの命を守ってくれる。
もしいらないのなら、それはそれでかまわんのじゃが
『それはそれでかまわない』
その言葉は場合によって強制的な力を発動することがあった
その言葉に揺られ
ボクはキーホルダを受け取った
その刹那、おばあさんは笑い声を上げた。
-ついにやったわ・・・
ウフフフ。
その声を聞く限り以前のしゃがれた声では無く
若々しい声であった
-おばあさん?
ボクは心配して覗き込むと
おばあさん?は立ち上がり全力で森のほうへ消えていったのだった。
1.自殺
数年のとき日が経った
就職氷河期と呼ばれた平成初期
僕はしばらくの間流通関係のお仕事をしていた。
作業が遅い!
動きが無駄!
かえってくるのが遅い!
謝って来い!
などと自らのミスが積み重なるのにも加え
人間関係も同期の方とも避けられる用になり
そして現場においても配達トラックに落書きされたり
お客様から遅いといわれお届けものを投げられることもあった。
そして家庭においても
妻が海外へ行ってかえってこなくなり
捨てられたのかな?とも思うようになった。
会社にも相談室のようなものがあったが
相談相手がいつも厳しい上司であり
思い切って相談すると
お前のような者が来るようなトコじゃないといわれ
追い返されるのであった
そして高層マンションの配達のときであった
15Fから周りを見ると
いろんなものが見えた
この景色と一緒になれればなと思い
僕はひょいっと柵を飛び越えた。
当たり前のことだが柵を越えると
空気抵抗さえ考えなければ重力に逆らわない限り下へ向かって
等加速度直線運動のごとくどんどんと速い速度になり落下していく
そしてあっという間に下へと到達するはずだったが
昔のキーホルダが光りだした。
(-それは良い意味でも悪い意味でも
おぬしの命を守ってくれる。)
とその言葉が頭に思い浮かんだ
そしてそこで意識は途切れた
2.針と糸
朝6:00八本木のマンション
私はいつものように
体操をして、秘書に食事を作らせ
新聞を読んでいた。
七日運輸の従業員がマンション15Fから落ちるが無事生還。
すごいこともあるものだと感心した。
そのときであった、強烈な頭痛が私の中に走ったのであった
すぐに秘書が駆けつけ寝室に運んでくれたが
そのときには痛みは無くなった
痛い振りをして秘書に抱きついてみたが
嘘がばれ頬を叩かれた。
さて、今日は大事な株主総会だ。
いままで大きくしてきた会社の為に
気合を入れていかないとな。
ということで
私がマンションから出ようとしたときであった
「北蔵会長!偽装の件は貴方が命令したのですか?」
(偽装?なんだそれ聞いてないぞ!)
「ちょっと待ってくれ、私は何も知らないんだ。」
そう、正直にそういっただけであったが
それは間違えであったのだ。
つい先日買収したニルスアイスのコーンの部分にダンボールが使われていたとか
そう、ライバルのR社から極秘に聞き出した買収情報を手に入れたのは
R社による我が社への罠であったのだ。
もともと監査が来ても問題の無いような体質のはずであったが
買収した会社が問題をかかえそれを擦り付けられる形となってしまった
そして何日かの間どんどん出てくる子会社の黒い話・・・
私に相談もなしにこんなことまで進められていただなんて・・・
報告とチェックを潜り抜けてよくもまぁといった感じであった。
と私の心の中に見えない針が飛んできていて逃げ場をなくしていた
その数日後であった。
ニュースで話題になった七日運輸の従業員が私を訪ねてきた。
胡散臭い赤いキーホルダを渡しに・・・
3.その後(北蔵会長)
どんどんわが社の株価が落ち行く中
七日運輸の従業員から受け取ったキーホルダがふと青く光ったように見えた
その光を見ると何とかなるかもしれないと思い
ふと私はわが社の株価を最後の資産で買い支え下落を防ごうとした。
そして次の日のことであった
R社が我が社に送っていた人物が
我が社が白でR社が黒であることを告白し
事態は急変した。
我が社の潔白が証明され
見事我が社は復活したのであった。
4.その後(七日運輸社員)
僕は15F飛び降り事件の後も何度か自殺を繰り返した。
そしてあるときの配達先が悪いニュースに踊らされている
北蔵会長の自宅であった。
そして偶然会長と会うことができ
そして僕は死ねない原因を作った
キーホルダを会長に渡した
そして次の日
僕は命を絶った。
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赤い文字が綴られたキーホルダ
それを手にしてしまった者のお話