-土野市内・某所/AM1:10-
「眠い・・・修行、バイト疲れが・・・明日が休みだったからまだ良かったものを・・・」
寝る子も黙る丑三つ時近く、真司は暗闇の中に薄っすらと建つ空き家の前で愚痴っていた。
「こんな時間だし、何か出そうだよね~」
真司の横にぴたりとくっ付いている雪菜が真司とは対照的に楽しそうに呟く。
「・・・出てくれなきゃ困るし、お前が言うな・・・」
・・・数時間前
「幽霊の除霊・・・?」
「そう、場所はそんなに遠くないわ」
いつもの場所でいつもの修行・・・その休憩中。
突然郁から仕事の依頼を受ける。
真司達、対魔征伐係の仕事は災忌退治だけではなく、土野市内における様々な怪奇現象の解決だ。
その中には妖怪退治、幽霊の除霊、駆除なども当然含まれていた。
が、災忌に比べて他の魑魅魍魎の危険度はそれほど高くないので普通は係の者ではなく、高嶺の遣いが片付けてしまうケースが多い。
真司も幽霊の除霊はまだ片手で数えるほどしかこなしていなかった。
「何でまた俺に・・・?」
「先生からの頼みなのよ。真司に行って欲しいってね」
「先生・・・あのじいさんか・・・」
少し前の雪菜に出会うことになったあの寺の住職を思い出す。
「・・・別に俺なんかが行かなくても師匠で十分なんじゃ・・・?」
むしろ、郁の方が確実性は高い。
そう考えると自分が指名されることは不思議で仕方が無かった。
「ま、行けば分かるわ。場所は後で地図をメールするから、よろしくね」
「・・・まぁ、仕事だし。いいけどさ」
郁やあの住職には雪菜の一件で世話になっていた為、無下に断ることも出来ず承諾するしかなかった。
「・・・ま、入ってみるか・・・」
「はーい」
人が居なくなってから随分と経つのか、荒れ放題の庭を抜け、玄関先まで歩いていく。
家は木造だったり、特別古い平屋だったりするわけではなく、平凡なコンクリート製の二階建て住居だ。
だが、今の時間と荒れ放題の惨状の所為で一般人ならば好んで入ろうとは思わない雰囲気を醸し出していた。
がちゃ・・・ギッ・・・
事前に郁から預かっていた合鍵で玄関を開け、屋内へと入っていく。
当然のように中は薄暗く、電気も通っていないので、月明かりだけが頼りだった。
「・・・何処に居るやら・・・」
「ねぇシンジぃ、出てきたらやっつけちゃっていいの?」
「・・・いや、流石にいきなりは不味いな」
この家の何処かに居るであろう幽霊を探して屋内を探索する二人。
「災忌と違って妖怪や幽霊は話が通じる場合もあるからな・・・なるべくならば穏便に済ませたい」
「・・・?今の奴等って変わったの?」
「ん・・・?どういうことだ?」
「あいつ等も私が封印される前は話が通じたって聞いてるけど・・・」
「・・・マジか?」
雪菜の言うあいつ等。とは災忌のことだ。
今の今まで何体も災忌は退治してきた真司。
だが、言葉を聞いたことなど一度も無い。
それ以前に、対話を試みようと思ったことなど無かった。
「うぅん・・・私も仲間から聞いただけだし・・・もう随分昔だしね~。変わっちゃったのかも」
「・・・まぁ、覚えておくか・・・」
気になる話だったが、今はその話は頭の隅に置いておき、目的を達することに専念する。
「・・・ここが怪しいな」
「だね~、誰か居るよ」
一階を全て探索し、二階へと上がる。
二階の廊下の突き当たりにある部屋・・・その部屋の扉の前で二人の意見は一致した。
ギィ・・・
錆び付いているのか、立て付けが悪くなっているのか、軋むような音をたて、扉を開けて行く。
「・・・お前か、ここに住み着いてる幽霊ってのは」
「・・・誰?」
中は子供部屋のようだった。
ベッドや机、その他にも色々な雑貨が乱雑に部屋の中に置かれていた。
そんな部屋の中央に一人の少女が立って・・・はおらず、浮いていた。
一目で人間ではないことが分かった。
「お前を除霊するように言われてきた者だ」
「・・・無駄よ。私は願いが叶うまでは絶対に成仏なんかしないんだからね!」
少女の口ぶりからすると今までも何人かは除霊をしに来たようだ。
そして全員敗れ去った。
余程の未練があるようだった。
「・・・まぁ、その願いってやつを聞かせてくれないか?」
「・・・良いわよ。聞かせてあげる・・・私はね・・・」
少女は目を瞑り、一息つき・・・
「初体験も出来ないままじゃ死んでも死に切れないのよッ!!!」
「「・・・」」
幽霊とは思えないほどに素晴らしい声量(一般人には聞こえないが)で胸を張って断言する少女。
あまりの予想の斜め上を行く返答に固まる二人。
「こんな成人する前に病気で亡くなって・・・結婚も出来ずに・・・」
「・・・いや、まぁ、確かにそれは同情するが・・・」
話だけ聞けば確かに可愛そうな話だ。
だが、少女の口調がそう感じさせない。
「そんなこと言っているなら適当な人間に憑依して男でも襲っちゃえばいいじゃない」
雪菜が横槍でとんでもないことを提案する。
「憑依なんて、出来れば苦労しないわよ!」
「・・・今の幽霊は駄目駄目ね・・・」
幽霊が今と昔で差があるかどうかは謎だったが、どうやらこの少女は憑依などは出来ないらしい。
「・・・それじゃあ、触れられない以上はどうやってもその夢は叶わないと思うんだが・・・」
「・・・五月蝿いわね!そんなこと言われなくても分かっているわよ!」
幽霊は基本的に現世のモノには触れる事は出来ない。
霊的な仲介を得るなどすれば例外ではあるが。
少女はまた願いが叶えられないと思ったのか思い切り不機嫌だ。
「あぁー・・・ちょっと待ってろ・・・」
携帯を取り出し、リダイヤルをする。
『そろそろ掛かってくる頃だと思ってたわよ』
数回の呼び出し音の後、待ってましたと郁の声が聞こえた。
「何で俺か分かったといえば分かったけど・・・コレ、どうしようもないんじゃないか・・・?」
『策があるから真司を向かわせたのよ。今日の修行終わりに札渡したでしょ?』
言われて郁から見たことのない札を数枚預かったのを思い出す。
「あぁ、良くわからないやつな・・・アレ、何なんだ?」
『あの札と結界術を組み合わせて不可視のモノを見えるようにしたり、精神体に触れるようにしたりすることが出来る空間を生成出来るのよ』
「マジで!?」
そんなことが出来る札なんて聞いたことがない。
『大マジよ。札は私が直々に書いたヤツだから真司の結界でもちゃんと効力は発揮してくれる筈よ』
「・・・イマイチ癇に障る物言いだが、まぁいいとして・・・じゃあコレでこの幽霊にも触れられると?」
『えぇ、詳しい印の組み方なんかはメールするわ』
「頼んだ」
札は家にある。
とりあえずは一端帰らないことにはどうにもならない。
「・・・良かったな。どうにかできそうだぞ」
「えッ!?本当に!!?」
少女の表情が不機嫌なものからぱぁっと明るくなっていく。
「あぁ、それで・・・お相手は誰か決まってるんだろ?好きなクラスの男子でも、バイト先の男でも」
そう、触れることが出来るとは言え、相手が居なくてはどうしようもない。
事情さえ話せば、相手の男も承諾してくれるかもしれない。
むしろ、させなくてはいけないのだが。
「うぅん・・・同年代だった男子はみんなして今頃中年よねぇ・・・」
「・・・」
すっかり幽霊だということを失念していた真司。
彼女が死んだ時点での同級生は今ではいったいどれほどの年齢になっているのか。
雪菜も他人事ではないと思っているのか、いつもと違い、静かだった。
「他にいい知り合いも居ないし・・・アンタでいいわよ?」
少女はほんのりと頬を染め恥ずかしそうに真司の方をチラッと見た。
「「・・・・・・」」
「何だとーッ!!?」「何ですってぇーッ!!?」
寝る子も黙る丑三つ時。
夜の廃屋から男女の叫び声が木霊した。
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